説明

光ファイバの製造方法

【課題】動疲労係数Ndが25以上で、線引き後に早期に所定の動疲労係数の値になるような光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ母10からガラスファイバ13を線引きした後、該ガラスファイバの表面にシランカップリング剤が添加された紫外線硬化型の被覆樹脂を塗布する光ファイバの製造方法であって、ダイス15により被覆樹脂16を塗布する直前のガラスファイバ13の表面に、pH4.0〜5.5の水分を含有するガス17を供給する。また、この場合の水分の含有量は、0.004kg/m〜0.008kg/mであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材からガラスファイバを線引きし、該ガラスファイバの表面を被覆樹脂で被覆する光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、光ファイバ母材を加熱溶融して外径125μm程度のガラスファイバを線引きし、線引きされたガラスファイバ(裸ファイバともいう)の外面に外径250μm程度の紫外線硬化型樹脂の被覆層を施して形成される。このガラスファイバの外面に被覆層を1層または2層を施した状態のものは、光ファイバ素線とも言われている。この光ファイバ素線にさらに補強層が施され、若しくは、ファイバ識別用の着色層を施したものを光ファイバ心線と称している。
【0003】
上述の光ファイバは、長期にわたって比較的に小さい応力が連続して加わることがある。このような比較的に小さい応力でも、この応力負荷状態のままある時間経過すると、突然破断したりすることがある。このような光ファイバの破断を回避し、破断寿命を確保するためには、動疲労係数(Nd)を改善すればよいことが知られている。なお、Ndは、ガラスファイバ表面の傷の成長速度を表す指標として使用されているもので、Ndが大きければガラス表面の傷の成長が遅く、光ファイバは長期間破断しにくくなるとされている。
【0004】
この光ファイバのNdを大きくするには、例えば、ガラスファイバと上記の被覆層との密着力を高める方法が知られている。ガラスファイバと被覆層との密着性は、被覆層を形成する樹脂中のシランカップリング剤とその反応過程で決まる。被覆層の樹脂に添加されたシランカップリング剤は、まず樹脂中の水分と加水分解反応を起こし、その後ガラスファイバと結合するための脱水縮合反応を経て、ガラスファイバと被覆層とが密着される。これには、被覆層の樹脂中に加水分解するための水分を含んでいることが必要である。
【0005】
しかし、硬化前の樹脂に予め水分を添加すると、樹脂の保存中に上記の加水分解反応が生じて変質するという問題がある。また、光ファイバの線引き速度が1500m/min以上の高速になると、光ファイバに被覆樹脂が塗布された後、大気に曝される時間が極めて短く、被覆樹脂が硬化される前に樹脂内に水分を取り込むことが難しかった。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1には、ガラスファイバに被覆用の樹脂を塗布する直前に、ガラスファイバ表面に水分0.008kg/m以上を含有するガスを供給し、ガラスファイバと被覆樹脂層との密着性を向上させることが開示されている。
また、特許文献2には、光ファイバのガラスファイバ表面と接する被覆樹脂層(1次被覆層)のpHを4.5以下とすることにより、動疲労係数(Nd)を18以上とすることが開示されている。また、特許文献3にも、光ファイバ素線の被覆層全体としてのpHを5.5以下とすることにより、動疲労係数(Nd)を18以上とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−34137号公報
【特許文献2】特開2003−4993号公報
【特許文献3】特開2005−55779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の光ファイバは、その用途拡大から、小径に曲げた状態での使用が増加しており、このような状態での機械的な破断寿命を保証するために、上記のNdを向上させることが要望されている。従来、Ndは、18〜20程度が世界的な規格とされてきたが、近年では25〜30程度のNd値が求められる場合が出てきている。Ndは、ガラスファイバ表面のクラックの状態と被覆樹脂層との密着力が影響する。この密着力は、光ファイバの線引き後(製造後)に徐々に増加するが、シランカップリング剤が反応する期間は40日程度であるので、できるだけ早期(40日以内)に所定値に達することも必要とされる。
【0009】
上記の特許文献1には、被覆樹脂でコーティングする前に、ガラスファイバ表面に水分0.008kg/m以上を含有するガスを供給することで、ガラスファイバと被覆樹脂層との密着力を高めることが開示されているが、これによりNdがどの程度となるかの開示がない。また、ガラスファイバの表面に直接水分が付着するとクラックが発生するため、あまり多くの水分を含有させていると、破断強度が低下する虞もある。
【0010】
特許文献2には、ガラスファイバと接する1次被覆層を酸性とすることによりNdを18以上とすることが開示され、また、特許文献3には、1次および2次被覆層全体を含めた被覆層を酸性にすることにより、Ndを18または20以上とすることが開示されているが、その具体的なデータについての開示がなく、また、新たな被覆樹脂材料を開発するには、相当の開発コストが必要である。
【0011】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、動疲労係数Ndが25以上で、線引き後に早期に所定の動疲労係数の値になるような光ファイバの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材からガラスファイバを線引きした後、該ガラスファイバの表面にシランカップリング剤が添加された紫外線硬化型の被覆樹脂を塗布する光ファイバの製造方法であって、ダイスにより被覆樹脂を塗布する直前のガラスファイバの表面に、pH4.0〜5.5の水分を含有するガスを供給することを特徴とする。
また、水分の含有量は、0.004kg/m〜0.008kg/mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光ファイバの被覆樹脂が塗布される前に、ガラスファイバ表面に被覆樹脂中のシランカップリング剤の加水分解を促進させる水分を、破断強度を低下させることなく効果的に供給することができると共に、動疲労係数Ndを25以上に、且つ線引き後早期に所定の動疲労係数の値になるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による光ファイバの製造方法の概略を説明する図である。
【図2】本発明における水分のpH及び水分の含有量を変えた場合の経過日数と動疲労係数(Nd)との関係を示す図である。
【図3】本発明における水分のpHを変えた場合の、水分の含有量と破断強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1により本発明の実施の形態を説明する。図において、10は光ファイバ母材、11は線引き炉、12は加熱ヒータ、13はガラスファイバ、13aは被覆樹脂が硬化された光ファイバ(光ファイバ素線)、14は冷却装置、15は被覆樹脂塗布用のダイス、16は被覆樹脂、16aは未硬化の被覆樹脂層、16bは硬化した被覆樹脂層、17はpH4.0〜5.5の水分を含有するガス、18は噴霧ノズル、19は紫外線照射装置を示す。
【0016】
本発明における光ファイバの製造方法の基本構成自体は、図1に示すように、従来とほぼ同じである。すなわち、光ファイバ母材10が線引き炉11内にセットされた後、加熱ヒータ12により順次加熱溶融されて、ガラスファイバ13が線引きされる。光ファイバ母材10は、製造される光ファイバの光伝送特性が得られるように、例えば、GeOが添加されたコア部と、コア部の外周に設けられた高純度の石英ガラスからなるクラッド部とを有している。そして、ガラスファイバ13は、通常、標準外径125μmとなるように線引きされる。
【0017】
次いで、線引き直後のガラスファイバ13は、冷却装置14により所定の温度まで冷却される。この後、ガラスファイバ13がダイス15を通ることにより、ガラスファイバ13の表面に被覆樹脂16が塗布される。ガラスファイバ13を保護する被覆樹脂16には、例えば、シランカップリング剤が添加された紫外線硬化型のウレタンアクリレート樹脂等が用いられ、その硬化後の被覆樹脂層16bの外径が250±15μm程度となるように塗布成形される。また、被覆樹脂層16bは、1層または2層で形成され、2層で形成の場合は、内側の層を軟質にしてクッション性を持たせ、外側の層を硬質にして外力等に対する耐性を持たせるようにされる。
【0018】
本発明は、ガラスファイバ13の外周に紫外線硬化型の被覆樹脂16が塗布される直前、すなわち冷却装置14とダイス15との間で、ガラスファイバ13の表面にpH4.0〜5.5の酸性の水分を含有するガスを供給するようにしている。ガスに含まれる水分のpHを4.0〜5.5にするためには、炭酸ガス(CO)などを用いるのが適当である。
【0019】
ガラスファイバ13に水分含有のガスを供給する形態は、ガラスファイバ13が霧状に水滴が浮遊する高湿度の環境下(ミスト状態の)に曝すようにすればよい。例えば、図1に示すように、ガラスファイバ13に噴霧ノズル18から水分含有ガス17を噴霧させたり、若しくは、特許文献1に開示のように、ガラスファイバ13を水分含有ガスが充満するチャンバー内を通すようにしてもよい。
【0020】
次いで、表面に水分が付与されたガラスファイバ13は、ダイス15を通すことにより外面に紫外線硬化型の被覆樹脂16が塗布される。ガラスファイバ13の表面に付与された水分は、塗布形成された未硬化の被覆樹脂層16a内に取り込まれる。この後、未硬化の被覆樹脂層16aは、紫外線照射装置20により硬化されて、ガラスファイバ13を保護する被覆樹脂層16bとされる。硬化された被覆樹脂層16bで被覆された光ファイバ13aは、光ファイバ素線としてガイドローラ、キャプスタン、ダンサローラ等を経て巻取り装置(図示省略)で巻き取られる。
【0021】
被覆樹脂層内に取り込まれた水分は、被覆樹脂中に添加されているシランカップリング剤の加水分解反応を促進させ、次いで、ガラスファイバと結合するため脱水縮合反応を経て、ガラスファイバ13と被覆樹脂層16bとを強固に密着させる。この密着性が弱ければ光ファイバの動疲労係数(Nd)は小さく、密着性が強ければ大きくなる。
【0022】
なお本発明では、水分をpH4.0〜5.5の酸性にしているが、酸性とすることでシランカップリング材の反応を促進させることができる。上記したように、ガラスファイバの表面に直接水分が付着することでクラックが発生し、破断強度が低下する虞があるが、水分を酸性にすることにより同じ効果を得るための水分の量を減らすことができるため、破断強度を犠牲にすることなく、動疲労係数を増加させることができると考えられる。なお、水分を酸性にするためのガスとして炭酸ガスを例に挙げたが、炭酸ガスをダイス直上で吹き付けることは、ガラスファイバと被覆樹脂層との間に気泡が混入しないようにする効果も生じる。
【0023】
図2(A)は、ガラスファイバの表面に供給する水分含有ガスの水分量を一定(0.005kg/m)として、水分のpH(4.0,5.0,5.5)を変えたときの動疲労係数(Nd)の経過日数に対する変化を示す図である。なお、Ndの測定は、IEC(国際電気標準会議)が定めたIEC60793−1−33に規定された試験方法によって行った。
【0024】
試験したいずれのpHの水分でもNdは増加し、40日経過後は、Ndは「27」程度でほぼ一定となったが、pH5.5の水分の場合では、では所定のNdの値に到達するまでの時間が緩やかであった。一方、pH4.0の水分の場合は、比較的早期に所定のNdの値に到達した。この結果から、ガスに含まれる水分量が同じなら、最終的に一定となるNdの値はほぼ同じであっても、水分のpHが小さい方が所定のNdの値に到達する時間が早いことが判明した。
【0025】
なお、水分のpHが4.0未満では、水分含有ガスの酸性が強くなり、設備や装置類に腐食が生じやすくなるため、本発明においては、水分のpHは4.0以上とする。また、pH5.5を超えると、試験結果から明らかなように、所定のNdの値に到達する時間が長く、所定のNdに到達しない虞もあるので、本発明においては、水分のpHは5.5以下とする。
【0026】
図2(B)は、ガラスファイバの表面に供給する水分含有ガスの水分のpHを一定(5.5)として、水分量(0.005kg/m,0.008kg/m)を変えたときのNdの経過日数に対する変化を示す図である。なお、比較のため、水分無しでガスを供給した場合についても試験した。この結果、水分の供給無しでは、Ndの到達値は「20」程度で、これ以上にNdを高めることは難しいことが判明した。
【0027】
これに対し、ガラスファイバを水分含有ガスに曝すことにより、Ndを高めることができる。この場合、水分含有ガスの水分量が多い方が、所定のNdに到達する時間が早く、また、Ndの値も大きくなることが判明した。しかし、水分量を0.005kg/mから0.008kg/mに変えても、最終的に一定となるNdの値は「27」程度で大きな差がないことも判明した。
【0028】
図3は、光ファイバの破断強度と水分含有ガスの水分含有量との関係を試験した結果を示す図で、水分のpH(4.0,5.5,6.0,7.0)を異ならせて試験した。この結果、pH4.0とpH5.5ではその破断特性に大差はなく、pH6.0とpH7.0の間でも差はあまりないが、水分が酸性から弱酸性・中性に移るにしたがって、破断強度は多少低下する傾向がある。この結果からも、水分含有ガスのpHは4.0〜5.5の範囲が望ましいと言える。
【0029】
また、いずれのpHにおいても、水分量が0.009kg/m付近で、破断強度が急激に低下することが判明した。この結果から、水分含有ガスの水分量が0.008kg/m以下とするのが好ましい。また、水分量は、あまり低すぎると、光ファイバの潜熱などで蒸発もしくは弾かれて付着されず、Ndを増加させる効果が少なくなるため、0.004kg/m以上で特定するのが好ましい。
【符号の説明】
【0030】
10…光ファイバ母材、11…線引き炉、12…加熱ヒータ、13…ガラスファイバ、13a…被覆樹脂が硬化された光ファイバ(光ファイバ素線)、14…冷却装置、15…被覆樹脂塗布用のダイス、16…被覆樹脂、16a…未硬化の被覆樹脂層、16b…硬化された被覆樹脂層、17…pH4.0〜5.5の水分を含有するガス、18…噴霧ノズル、19…紫外線照射装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材からガラスファイバを線引きした後、該ガラスファイバの表面にシランカップリング剤が添加された紫外線硬化型の被覆樹脂を塗布する光ファイバの製造方法であって、
ダイスにより前記被覆樹脂を塗布する直前のガラスファイバの表面に、pH4.0〜5.5の水分を含有するガスを供給することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記水分の含有量は、0.004kg/m〜0.008kg/mであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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