説明

光ファイバ用巻取りボビン

【課題】石英ガラス製の巻取り胴部の熱膨張差による破損を防止できる光ファイバ用巻取りボビンを得る。
【解決手段】軸穴部品13の両端に鍔15が固定され、一対の鍔15の間には筒状に形成された石英ガラス製の巻取り胴部17が軸穴部品13と同軸で挟まれて固定される光ファイバ用巻取りボビン11であって、前記軸穴部品13と前記鍔15は前記巻取り胴部17と異なる熱膨張係数の素材からなり、前記巻取り胴部17と前記軸穴部品13及び前記鍔15との熱による膨張差を吸収する緩衝材37を、前記巻取り胴部17と前記軸穴部品13及び前記鍔15との間に介装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバのマイクロベンドロスを測定するに際し、光ファイバが巻かれる光ファイバ用巻取りボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの伝送損失にマイクロベンドによる損失があるが、これは被覆樹脂などに起因する微少なファイバ曲げにより発生する。この損失を測定するために従来は、光ファイバ用巻取りボビンの表面に細かいメッシュの金網を貼り付けて、その上に光ファイバを巻いて測定したり、あるいは、温度変化によるマイクロベンド特性を見るのに熱膨張の少ない石英製の巻取り胴部に大きなピッチで重ね巻きして恒温槽にて低温から高温まで変化させ、重なり部の曲げによるロスを温度変化と共に測定したりする方法(非特許文献1など参照)が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Steven R.Schmid et al, “Development and Characterization of a Superior Class of Microbend Resistant Coating for Today’s Networks”,Proceeding of the 58th International Wire & Cable Symposium, pp.72-77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように光ファイバのマイクロベンドロスを測定する際、石英ガラス製の巻取り胴部に光ファイバを巻き付け、温度特性を測定する方法が採られている。このように巻取り胴部の素材に石英を用いるのは、熱膨張が少なく、正確にマイクロベンドロスが測定できるためである。図3に示すように、石英ガラス製巻取り胴部501に光ファイバを巻き付けるには、巻取機503の巻取り軸505に巻取り胴部501を装着して回転させる必要がある。この時、巻取り胴部501を保持し、回転力を伝えるために、金属製又は樹脂製の軸穴部品507と鍔509を取り付けて、軸穴部品507又は鍔509に巻取り胴部501を保持固定させ、回転力は巻取り軸505側のケレピン511と鍔509に設けたケレピン穴513の組み合わせで伝達していた。
そのため、温度特性の測定を行う際に、石英ガラス製巻取り胴部501に軸穴部品507と鍔509を取り付けたまま恒温槽に入れて温度変化させると、石英ガラス製巻取り胴部501に比べて熱膨張係数の大きい金属製又は樹脂製の軸穴部品507や鍔509で巻取り胴部を保持する場合、石英ガラス製巻取り胴部501を高温または低温にする際の熱膨張差で破損してしまう虞があった。この破損を避けるために、石英ガラス製巻取り胴部501を軸穴部品507や鍔509から外して恒温槽に入れることもできるが、その際には、光ファイバを床に接触させないように石英ガラス製巻取り胴部501の内径を受ける専用治具が必要であり、測定の準備作業が煩雑となり測定作業時間全体が長くなった。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、石英ガラス製巻取り胴部の、他の部材との熱膨張差による破損を防止できる光ファイバ用巻取りボビンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 軸穴部品の両端に一対の鍔が固定され、前記一対の鍔の間には筒状に形成された石英ガラス製の巻取り胴部が前記軸穴部品と同軸となって挟まれて固定される光ファイバ用巻取りボビンであって、
前記軸穴部品及び前記鍔は前記巻取り胴部と異なる熱膨張係数の素材からなり、
前記巻取り胴部と前記軸穴部品及び前記鍔との熱による膨張差を吸収する緩衝材が前記巻取り胴部と前記軸穴部品及び前記鍔との間に介装されていることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【0007】
この光ファイバ用巻取りボビンによれば、熱による膨張差を吸収する緩衝材が石英ガラス製巻取り胴部を保持する部分に介装され、軸穴部品の半径方向外側への膨張、及び鍔の軸方向への膨脹、鍔間隔の収縮、などにより石英ガラス製巻取り胴部に作用する応力を緩和することができる。例えば軸穴部品が半径方向外側に膨張しても、緩衝材にてその変位が吸収され、石英ガラス製巻取り胴部の内径を拡径させる方向の応力が格段に小さくなる。また、従来、当接していた石英製巻取り胴部の端面と鍔との間に緩衝材が挟入されることとなり、鍔が軸方向へ膨張しても、緩衝材にてその変位が吸収される。これにより、光ファイバ用巻取りボビンを、そのまま恒温槽に入れても、破損することなくマイクロベンドロスを測定できる。
【0008】
(2) (1)の光ファイバ用巻取りボビンであって、前記緩衝材が弾性体であることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【0009】
この光ファイバ用巻取りボビンによれば、温度変化により、軸穴部品及び鍔と、石英ガラス製巻取り胴部との生じる変位を、弾性体の弾性変形により繰り返し吸収することができる。
【0010】
(3) (2)の光ファイバ用巻取りボビンであって、前記弾性体がシリコンゴムであることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【0011】
この光ファイバ用巻取りボビンによれば、弾性体として、恒温槽で設定する温度範囲に耐えられるシリコンゴムが選定される。温度特性の測定は、通常温度範囲が−60°Cから+80°Cであるので、ブタジエンゴムなどの他のゴムに比べ、低温耐性、耐付着性、弾力回復性などの面で、シリコンゴムが最も適している。
【0012】
(4) (1)〜(3)のいずれか1つの光ファイバ用巻取りボビンであって、前記緩衝材は、前記巻取り胴部の円周方向に複数配置されていることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【0013】
この光ファイバ用巻取りボビンによれば、緩衝材が巻取り胴部の円周方向にバランス良く分散配置されることで、円周方向均等に、熱膨張差による石英ガラス製巻取り胴部に作用する応力を緩和することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光ファイバ用巻取りボビンによれば、緩衝材を、石英ガラス製巻取り胴部と鍔及び軸穴部品との間に介装することにより、高温時に鍔や軸穴部品が熱膨張したときや、低温時に鍔間隔が収縮することによる熱膨張差を吸収でき、巻取り胴部の熱膨張差による破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る光ファイバ用巻取りボビンの断面図である。
【図2】図1のA−A断面矢視図である。
【図3】従来の光ファイバ用巻取りボビンとその巻取りに使用される巻取機とを概念的に表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る光ファイバ用巻取りボビンの断面図、図2は図1のA−A断面矢視図である。
本実施の形態による光ファイバ用巻取りボビン11は、図3に示した従来と同様の巻取機503の巻取り軸505に装着して回転される。
【0017】
光ファイバ用巻取りボビン11は、上記巻取り軸505が挿入される軸穴部品13と、この軸穴部品13の両端の鍔15と、光ファイバが外周に巻かれる石英ガラス製の巻取り胴部17と、を有する。軸穴部品13は、軸部19と、その両端に溶接等によって固定される小径フランジ21とを有する。この小径フランジ21には鍔15が固定される。
【0018】
軸部19、小径フランジ21、及び鍔15は、金属製又は樹脂製となる。すなわち、軸穴部品13と鍔15は、巻取り胴部17と異なる熱膨張係数の素材からなっている。
【0019】
軸穴部品13に固定される鍔15は、軸部19の端に固定される小径フランジ21に、六角穴付ネジ27によって固定される。六角穴付ネジ27は、鍔15の外側から挿入されて、小径フランジ21に形成される雌ネジ部29に螺合される。
なお、巻取り機に取り付けるために、左右いずれか、もしくは両方の鍔15に、上記ケレピン511に係合するケレピン穴を形成しても良い。また、ボビン外側に、上記ケレピン511に係合するようなケレピン穴を開けた別の取付機構を設けても良い。
【0020】
一対の鍔15の間には、筒状に形成される上記した石英ガラス製の巻取り胴部17が、軸穴部品13と同軸となって挟まれて固定される。従来構造では、巻取り胴部17は直接鍔及び軸穴部品に当接して挟まれていたが、本実施の形態による光ファイバ用巻取りボビン11では、その間に緩衝材37が介装される。巻取り胴部17は、緩衝材37を介して鍔15に挟まれることで、軸線方向の動きが緩和される。また、この緩衝材37は、巻取り胴部17の半径方向の動きも緩和している。なお、介装とは部材の間に位置させ、目的の形にすることを言う。本実施の形態では、鍔15及び軸穴部品13と巻取り胴部17との間に位置させている。
【0021】
左右の鍔15の内側対向面39には、小径フランジ21の外周に沿って図1に示す環状凹部41が形成される。また、小径フランジ21の外周部は歯車状になっていて、挟持壁43が半径方向外側に突出するように形成されている。この挟持壁43は、円周方向に所定間隔(角度60°間隔)で複数(本例では6つ)形成される。それぞれの挟持壁43には緩衝材37が保持される。すなわち、本実施の形態では、巻取り胴部17と鍔15及び軸穴部品13の熱による膨張差を吸収する緩衝材37が、巻取り胴部17と鍔15及び軸穴部品13との間において、円周方向で複数個介装されている。
【0022】
緩衝材37は、図1に示すように、鍔の半径方向の寸法の略中央部で、半径方向内側が厚肉部45、外側が薄肉部47となる。厚肉部45と薄肉部47の間には段部49が形成される。つまり、緩衝材37はL字型となる。この段部49は、巻取り胴部17の内周面51に当接する。すなわち、緩衝材37は、半径方向の一端が挟持壁43に当接し、段部49が巻取り胴部17の内周面51及び巻取り胴部17の端面53に当接する。これにより、巻取り胴部17は、半径方向の動きが厚肉部45によって緩和され、軸線方向の動きが薄肉部47によって緩和されている。
【0023】
緩衝材37は弾性体であることが好ましい。また、弾性体はシリコンゴムであることがより好ましい。
【0024】
次に、上記構成を有する光ファイバ用巻取りボビン11の作用を説明する。
光ファイバ用巻取りボビン11では、熱による膨張差を吸収する緩衝材37が巻取り胴部17を保持する部分に介装され、軸穴部品13や鍔15の熱による膨張や収縮により巻取り胴部17に作用する応力が緩和される。例えば軸穴部品13が半径方向外側に膨張しても、緩衝材37にてその変位が吸収され、巻取り胴部17の内径を拡径させる方向の応力が厚肉部45によって吸収され格段に小さくなる。
【0025】
また、従来、当接していた巻取り胴部17の端面53と鍔15との間に緩衝材37の薄肉部47が挟入されることとなり、鍔15が軸方向に膨張・収縮しても、薄肉部47にてその変位が吸収され、巻取り胴部17の端部に掛かる応力が緩和される。これにより、光ファイバ用巻取りボビン11を、そのまま恒温槽に入れても、破損することなくマイクロベンドロスを測定することが可能となる。
【0026】
温度変化により、軸穴部品13や鍔15と、巻取り胴部17との間に生じる変位は、緩衝材37の弾性変形により繰り返し吸収することができる。この種の弾性体としては、恒温槽で設定する温度範囲に耐えられるゴムなどが選定される。実際には温度範囲が−60°Cから+80°Cであるので、低温耐性では、ブタジエンゴムとシリコンゴムなどが適当な材料として挙げられるが、耐付着性や弾力回復性で勝るシリコンゴムがより好適となる。
【0027】
また、光ファイバ用巻取りボビン11では、緩衝材37が巻取り胴部17の円周方向にバランス良く分散配置されることで、円周方向均等に、熱膨張差による石英ガラス製巻取り胴部に作用する応力を緩和することができる。
【0028】
したがって、本実施の形態に係る光ファイバ用巻取りボビン11によれば、緩衝材37を、巻取り胴部17と鍔15及び軸穴部品13の間に介装することにより、高温または低温とした時の熱膨張差を吸収でき、巻取り胴部17の熱膨張差による破損を防止することができる。
【実施例】
【0029】
上記した実施の形態と同様の構成で光ファイバ用巻取りボビンを作成し、それに光ファイバを巻き、恒温槽にて低温から高温まで変化させてマイクロベンドロスを測定し、その際のボビンの破損の有無を調べた。
なお、緩衝材にはゴム硬度45度のシリコンゴムを用いた。
光ファイバを巻取り胴部に2500m巻き、光ファイバを巻装した光ファイバ用巻取りボビンを、恒温槽に120時間収容し、低温から高温まで変化させた。変化させた温度範囲は−60°Cから+80°Cとし、この温度の変化を1サイクルとして、20時間に1回の割合で6回繰り返した。
このようなマイクロベンドロスの測定を何回か繰り返したが、石英ガラス製巻取り胴部が破損することは無かった。
なお、恒温槽から取り出した光ファイバ用巻取りボビンのシリコンゴムの潰れを実測したが、径方向では、巻取り胴部の直径φ100に対し、ゴム厚さ15.5mmにおいて3.2%の潰れ、長さ方向では、巻取り胴部の管長さ220mmに対し、ゴム厚さ5.5mmにおいて9%の潰れが確認された。このことから、緩衝材を巻取り胴部と鍔及び軸穴部品との間に介装することにより、温度差により生じる部材間の膨張差が緩衝材によって吸収されているため、巻取り胴部に破損の生じないことが知見できた。
【符号の説明】
【0030】
11 光ファイバ用巻取りボビン
13 軸穴部品
15 鍔
17 巻取り胴部
37 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸穴部品の両端に一対の鍔が固定され、前記一対の鍔の間には筒状に形成された石英ガラス製の巻取り胴部が前記軸穴部品と同軸となって挟まれて固定される光ファイバ用巻取りボビンであって、
前記軸穴部品及び前記鍔は前記巻取り胴部と異なる熱膨張係数の素材からなり、
前記巻取り胴部と前記軸穴部品及び前記鍔との熱による膨張差を吸収する緩衝材が前記巻取り胴部と前記軸穴部品及び前記鍔との間に介装されていることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバ用巻取りボビンであって、
前記緩衝材が弾性体であることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【請求項3】
請求項2記載の光ファイバ用巻取りボビンであって、
前記弾性体がシリコンゴムであることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバ用巻取りボビンであって、
前記緩衝材は、前記巻取り胴部の円周方向に複数配置されていることを特徴とする光ファイバ用巻取りボビン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62138(P2012−62138A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205769(P2010−205769)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】