説明

光ファイバ線引き装置及び線引き炉のシール方法

【課題】 光ファイバの線引き工程において、加熱炉内に供給されるプリフォームの外径が変化した場合でも、炉上部のプリフォーム供給口とプリフォームとの間に生じる間隙を効果的にシールする手段を有する光ファイバ線引き装置及び線引き炉のシール方法を提供する。
【課題手段】
本発明は、光ファイバプリフォーム1を加熱炉2に供給し、その一端から加熱溶融して光ファイバ6を線引きする線引き装置において、加熱炉2のプリフォーム供給口近傍にドーナツ円盤状ブラシ9が配置され、該ブラシ9の内側に耐熱性毛材が密に植毛されていることを特徴とする光ファイバ線引き装置であり、なお、加熱炉2のプリフォーム供給口近傍に、ドーナツ円盤状ブラシ9をプリフォーム1に沿って複数配置し、該ブラシ間に不活性ガス供給機構を設けるとよく、耐熱性毛材は、カーボン製ファイバとするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバプリフォームを加熱溶融して線引きする際に、加熱炉とプリフォームとの間隙をシールして線引きする光ファイバ線引き装置及び線引き炉のシール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、加熱炉中で、光ファイバプリフォームと呼ばれる石英ガラスロッドをその一端から溶融し、これを引き取ることで製造される。このときの加熱炉の温度は2000℃前後と極めて高温である。ヒーターの材質には通常カーボンが用いられているが、カーボンは、高温の酸素含有雰囲気中では酸化消耗してしまうため、加熱炉内は、ArやHe等の不活性ガス雰囲気に保たれている。
【0003】
従来の線引き方法を、図1を用いて説明する。
プリフォーム1が加熱炉2内に垂下される。本図では、加熱方式として誘導加熱方式を用いており、コイル3に高周波電流を流し、カーボン製の炉芯管4を誘導加熱してヒーターとしている。コイル3と炉芯管4の間には断熱材5が配置されている。プリフォーム1は、炉芯管4の輻射熱を受けて加熱溶融され、ファイバ6として下方へ引き取られる。ファイバ6は、図示していない樹脂コーティング装置によって樹脂被覆され、図示していない巻き取り装置によってボビンに巻き取られる。
【0004】
加熱炉上部のプリフォーム供給口において、プリフォーム1との間に生じる空隙は、プリフォーム1の外径よりも僅かに大きな内径を有する穴あき円盤7によってシールされ、加熱炉下部においてファイバ6との間に生じる空隙は、内径を調整することのできるアイリス8によってシールされる。
線引きされるファイバ6の外径は通常125±1μmに制御されており、ファイバ6とアイリス8との空隙は線引き中ほぼ一定であるが、プリフォーム1と穴あき円盤7との空隙は、プリフォーム1の外径変動によって大きく変化する。
【0005】
空隙の大きさが変動すると、加熱炉2の内部に供給されているAr, He等のガス流が変化してファイバ6の外径が変動し、外径制御が困難になる。さらに、空隙がある大きさを超えると外気が炉内に侵入し、高温状態にある炉芯管4等のカーボン部材が浸食(酸化消耗)され、カーボン部材の寿命が短くなる。加えて、浸食部分から発塵し、これがプリフォーム1の溶融部分に付着すると、ファイバ6の局所的な外径変動や脆化を引き起こす。このような事態を防ぐために、使用するプリフォーム1の外径は、極めて均一に調整しておく必要があった。
【0006】
しかしながら、VAD法やOVD法で多孔質ガラスを製造し、これを焼結して得られる光ファイバプリフォームは、焼結時に多孔質ガラスに作用する重力と収縮力のバランスが長手方向で異なるため、一般に長手方向に外径のばらつきが生じる。これに対する対策として、特許文献1が提案しているように、焼結中プリフォームの伸縮量をモニタして、焼結条件をコントロールする方法がある。
【特許文献1】特開2005-8452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、プリフォームの製造に用いられるコアロッドを、予めその伸縮を考慮して長手方向に外径を変化させておく必要がある。さらに、コアロッド周囲へのスート付けも、コアロッド径に従って長手方向にスート付け量を調整する必要があり、非常に手間のかかる煩雑な工程となっている。
【0008】
また、このようにして製造された外径変動のあるプリフォームを一旦延伸して、細径化したプリフォームを使用して線引きする場合であっても、プリフォームの延伸時において、特に延伸の開始および終了付近では、仕上がり外径に大きな変動が生じる場合があり、このような部分は線引きに供することができず、廃棄せざるを得ないという問題があった。
【0009】
本発明は、光ファイバの線引き工程において、加熱炉内に供給されるプリフォームの外径が変化した場合でも、炉上部のプリフォーム供給口とプリフォームとの間に生じる間隙を効果的にシールする手段を有する光ファイバ線引き装置及び線引き炉のシール方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光ファイバ線引き装置は、光ファイバプリフォームを加熱炉に供給し、その一端から加熱溶融して光ファイバを線引きする線引き装置において、加熱炉のプリフォーム供給口近傍にドーナツ円盤状ブラシが配置され、該ブラシの内側に耐熱性毛材が密に植毛されていることを特徴としている。
なお、加熱炉のプリフォーム供給口近傍に、ドーナツ円盤状ブラシをプリフォームに沿って複数配置し、該ブラシ間に不活性ガス供給機構を設けるとよい。耐熱性毛材は、カーボン製ファイバとするのが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバ線引き炉のシール方法は、光ファイバプリフォームを加熱炉に供給し、その一端から加熱溶融して光ファイバを線引きする線引き装置において、加熱炉のプリフォーム供給口近傍に、内側に耐熱性毛材が密に植毛されたドーナツ円盤状ブラシを配置し、該ブラシの先端をプリフォームの表面に接触させることで加熱炉内をシールすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱炉のプリフォーム供給口近傍にドーナツ円盤状ブラシを配置したことにより、プリフォームに比較的大きな外径変動があった場合でも、該ブラシに植毛された耐熱性毛材によりプリフォームに傷を付けることなく、炉上部でのプリフォームとその供給口との間隙を効果的にシールすることができる。これにより、光ファイバの外径制御が容易となり、長手方向に光学特性の安定した光ファイバが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光ファイバ線引き装置及び線引き方法について、図2,3を用いて詳細に説明する。
加熱炉2のコイル3に高周波電流を流すことで、カーボン製の炉芯管4が誘導加熱され、炉内に垂下されたプリフォーム1は、炉芯管4の輻射熱を受けて加熱溶融され、ファイバ6として下方へ引き取られる。その後、ファイバ6は、図示していない樹脂コーティング装置によって樹脂被覆され、巻き取り装置によってボビンに巻き取られる。
【0014】
加熱炉上部でのプリフォーム1と加熱炉2との空隙は、加熱炉2のプリフォーム供給口近傍に配設されたドーナツ円盤状ブラシ9によってシールされている。ドーナツ円盤状ブラシ9は、その内側に耐熱性毛材、例えばカーボン製ファイバがプリフォーム供給口の中心に向かって高密度に植毛されており、これをプリフォームに押し当てることによって、炉内外の雰囲気を効果的にシールすることができる。なお、耐熱性毛材には、他にステンレス細線などが挙げられる。
【0015】
図3は、図2とは異なる本発明の他の例を示す図であり、ドーナツ円盤状ブラシ9がプリフォーム1に沿って複数配置されている。
炉芯管4は2000℃以上に加熱されているため、ドーナツ円盤状ブラシ9は、炉内の高温雰囲気に曝され、プリフォーム供給口とプリフォーム1との空隙から侵入する外気中の酸素によって酸化され消耗する。図3の例はこの対策として、ドーナツ円盤状ブラシ9を上下2段に配置し、さらに両ブラシ間にAr,
Heなどの不活性ガスをガス導入口10から導入して外気を遮断することにより、下段側のドーナツ円盤状ブラシ9とともに、炉芯管4の酸化消耗を防止している。
【0016】
上段側のブラシは、下段側のブラシによって遮熱されるため、温度の上昇が抑えられ、酸化消耗が大きく抑制される。また、シールが2段になることで、より効果的に外気の侵入を防ぐことができる。ブラシをさらに多段に配置することで、より効果的に耐酸化消耗性及びシール性を向上することができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
図3の線引き装置に、長さ1000mm、平均外径64mmφ、外径変動±2mmのプリフォームをセットした。プリフォーム供給口の直近には、内径60mmφのドーナツ円盤状ブラシ9が50mmの間隔をおいて上下2段に配設され、ブラシ9には、カーボン製ファイバが毛長8mm、植毛密度300本/cm2で植毛されている。
炉内を2260℃に加熱し、ガス導入口10からArを3L/minで供給しつつ、プリフォームを加熱溶融し、光ファイバを1000m/minで線引きを行なった。
線引き終了後、炉芯管4の最上部の厚みを測定したところ、厚みの減少は無かった。光ファイバの外径変動は125±0.5μmであった。
【0018】
(比較例1)
図1の線引き装置に、長さ1000mm、平均外径64mmφ、外径変動±2mmのプリフォームをセットした。線引き装置のプリフォーム供給口には、内径66.5mmφの穴あき円盤7が取り付けられている。
炉内を2260℃に加熱してプリフォームを加熱溶融し、光ファイバを1000m/minで線引きを行なった。線引き終了後、炉芯管4の最上部の厚みを測定したところ、0.7mmの減少が確認された。光ファイバの外径変動は125±0.8μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
光学特性の安定した光ファイバーが低コストで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の光ファイバ線引き装置の概略を示す縦断面図である。
【図2】本発明の光ファイバ線引き装置の概略を示す縦断面図である。
【図3】実施例1で使用した本発明の光ファイバ線引き装置の概略を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 …… プリフォーム、
2 …… 加熱炉、
3 …… コイル、
4 …… 炉芯管、
5 …… 断熱材、
6 …… ファイバ、
7 …… 穴あき円盤、
8 …… アイリス、
9 …… ドーナツ円盤状ブラシ、
10 …… ガス導入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバプリフォームを加熱炉に供給し、その一端から加熱溶融して光ファイバを線引きする線引き装置において、加熱炉のプリフォーム供給口近傍にドーナツ円盤状ブラシが配置され、該ブラシの内側に耐熱性毛材が密に植毛されていることを特徴とする光ファイバ線引き装置。
【請求項2】
該加熱炉のプリフォーム供給口近傍に、ドーナツ円盤状ブラシをプリフォームに沿って複数配置し、該ブラシ間に不活性ガス供給機構を設けてなる請求項1に記載の光ファイバ線引き装置。
【請求項3】
該耐熱性毛材がカーボン製ファイバである請求項1に記載の光ファイバ線引き装置。
【請求項4】
光ファイバプリフォームを加熱炉に供給し、その一端から加熱溶融して光ファイバを線引きする線引き装置において、加熱炉のプリフォーム供給口近傍に、内側に耐熱性毛材が密に植毛されたドーナツ円盤状ブラシを配置し、該ブラシの先端をプリフォームの表面に接触させることで加熱炉内をシールすることを特徴とする光ファイバ線引き炉のシール方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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