説明

光フリップフロップ

【課題】 セット・パルス入力時やリセット・パルス入力時における状態変化の高速化と、状態保持時間の自由な設定を可能にすることと、状態保持用の動作条件の最適化を可能にすることを兼ね備える光フリップフロップを提供する。
【解決手段】 非線形導波路1および2を両アームに配置した対称マッハ・ツェンダー型光スイッチ(SMZ)101では、セット光パルスSが非線形導波路1に入力され非線形屈折率変化が励起されると、出力光Qは“0”状態から“1”状態へ変化する。出力光の一部A1はAND型光スイッチ102に入力されており、入力光A1が“0”状態から“1”状態へ変化すると、出力光A3も“0”状態から“1”状態へ変化する。出力光A3はSMZスイッチ101の非線形導波路1にフィードバック入力され、これにより出力光Qの“1”状態が保持される。リセット光パルスRが非線形導波路2に入力され非線形屈折率変化が励起されると、出力光Qは“1”状態から“0”状態へ戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光論理回路の実現に必要な光フリップフロップに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにおいては、通常、伝送には光信号が用いられ、信号処理には電気信号が用いられる。しかし、信号の高速化に伴い、信号処理の一部を光信号で行うことが期待されている。
【0003】
デジタル信号処理を行う論理回路は、一般に、AND回路、OR回路、反転回路を基本要素とする。また、論理回路の重要な構成要素として、フリップフロップがある。
【0004】
図6に、フリップフロップの回路図および特性表を示す。図6のフリップフロップは、セット入力と称される第一の入力(S)が“0”、かつリセット入力と称される第二の入力(R)が“0”の状態から、第一の入力(S)が“1”になると、出力(Q)が“1”になり、その後、入力Sが“0”になっても出力Qは“1”を保持し続ける。次に、第二の入力Rが“1”になると、出力Qが“0”になり、その後入力Rが“0”になっても出力Qは“0”を保持し続ける。なお、入力Sおよび入力Rが共に“1”のときの動作は保証されておらず、このような入力状態は禁止されている。
【0005】
電気信号で動作する論理回路においては、“1”と“0”を電圧レベルにより決定するのが一般的であり、しきい値電圧Vtを基準として、電圧がVtより高い場合を“1”、低い場合を“0”とする。電気信号で動作するフリップフロップは、実際に、プロセッサやメモリの中に使用されている。
【0006】
これに対して、光信号で動作するフリップフロップは、従来、実用的な方式は実現されていない。セット入力やリセット入力の際の状態変化の高速性と、状態保持時間の自由な設定とを両立することが困難であったためである。
【0007】
例えば、図7に示す光スイッチ101を用いた従来の光フリップフロップは、セット入力からリセット入力までの状態保持時間を限定した場合にのみ光フリップフロップとして動作する。光スイッチ101は、非線形導波路1および2がマッハ・ツェンダー光回路の両アームに配置され、第一の入力光(S)を入力するポート5、第二の入力光(R)を入力するポート6、第三の入力光(B)を入力するポート7、出力光(Q)を出力するポート8が備えられており、対称マッハ・ツェンダー型(SMZ)光スイッチと称される構成となっている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
光スイッチ101では、第一の入力光Sが非線形導波路1における非線形光学効果を励起し、第二の入力光Rが非線形導波路2における非線形光学効果を励起する。第三の入力光BとしてはCW光またはクロック光パルスが用いられる。この入力光Bは、ポート7から入力され、分岐部3を経由して一旦分岐され、非線形導波路1あるいは2を通過して非線形位相シフトを与えられた後、合波部4を経由して合波され干渉し、干渉の際の位相差に応じた強度を持つ出力光Qとしてポート8から出力される。干渉の際の位相差が0であれば、出力光Qは高強度状態、すなわち“1”状態となる。逆に、干渉の際の位相差がπであれば、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となる。
【0009】
この光スイッチ101によるフリップフロップ動作を、図8に示した波形図を用いて説明する。光信号に対して動作する論理回路では、“1”と“0”を光強度により決定するのが一般的である。第一の入力光S(セット・パルス)は、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔100psのパルス列、第二の入力光R(リセット・パルス)は、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔100psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は50psに設定されている。また、入力光BはCW光とする。
【0010】
まず、初期状態においては、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となっている。すなわち、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差はπとなっている。
【0011】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、入力光Bが非線形導波路1を通過する際には非線形位相シフトを受ける。通常、この非線形位相シフトはπに近い値が望ましい。その場合、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は0となり、出力光Qは“1”状態へ変化する。
【0012】
非線形導波路1で生じた非線形光学効果の緩和時間は100ps程度であり、非線形位相シフトは時間の経過とともに0に戻る。すなわち、緩和時間程度の間だけ出力光Qを“1”状態に保持することが可能である。
【0013】
ここでは、セット・パルスが入力されてから50ps後、リセット・パルスがポート6から入力される。すると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起され、入力光Bが非線形導波路2を通過する際にも非線形位相シフトを受ける。この結果、入力光Bは非線形導波路1と2の両方において非線形位相シフトを受けるため、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は初期状態と同じ値のπに戻り、出力光Qは“0”状態へ戻る。
【0014】
また、図9に示す他の光フリップフロップは、状態保持時間を長く設定し得るように光スイッチ101と方向性結合器14とから構成されている。光スイッチ101は、非線形導波路1および2がマッハ・ツェンダー光回路の両アームに配置され、第一の入力光(S)を入力するポート5、第二の入力光(R)を入力するポート6、第三の入力光(B)を入力するポート7、出力光(Q)を出力するポート8が備えられており、対称マッハ・ツェンダー型(SMZ)光スイッチと称される構成となっている。また、出力光は方向性結合器14を経由することにより一部がポート5へ入力され、非線形導波路1にフィードバックされる(例えば、非特許文献2参照。)。
【0015】
図9の光フリップフロップにおいて、第一の入力光S(セット・パルス)は、例えば、パルス幅25ps、パルス繰返し間隔20nsのパルス列であり、非線形導波路1における非線形光学効果を励起する。第二の入力光R(リセット・パルス)は、例えば、パルス幅25ps、パルス繰返し間隔20nsのパルス列であり、非線形導波路2における非線形光学効果を励起する。第三の入力光BとしてはCW光が用いられる。
【0016】
まず、初期状態においては、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となっている。すなわち、入力光Bが分岐部3で一旦分岐され合波部4で干渉する際の位相差はπとなっている。
【0017】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、入力光Bが非線形導波路1を通過する際に非線形位相シフトを受ける。通常、この非線形位相シフトはπに近い値が望ましい。その場合、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は0となり、出力光Qは“1”状態へ変化する。ここで、出力光の一部は非線形導波路1へフィードバック入力されるため、非線形光学効果を励起し続ける。したがって、出力光Qを“1”状態に保持し続ける。
【0018】
セット・パルスが入力されてから10ns後、リセット・パルスがポート6から入力される。非線形導波路2において非線形光学効果が励起され、入力光Bが非線形導波路2を通過する際にも非線形位相シフトを受ける。その結果、入力光Bは非線形導波路1と2の両方において非線形位相シフトを受けるため、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は初期状態と同じ値のπに戻り、出力光Qは“0”状態へ戻る。
【0019】
【非特許文献1】Tajima著「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」誌(Japanese Journal of Applied Physics)、第32巻、第L1746頁〜第L1749頁、1993年
【非特許文献2】Clavero他著「アイ・イー・イー・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ」誌(IEEE Photonics Technology Letters)、第17巻、第843頁〜第845頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
図7に示す光スイッチ101を用いたフリップフロップ動作では、セット・パルス入力時の出力光の“0”状態から“1”状態への変化やリセット・パルス入力時の出力光の“1”状態から“0”状態への変化において極めて高速の動作が可能であるが、“1”状態の保持時間は非線形導波路で生じる非線形光学効果の緩和時間である100ps程度より短い時間に限定されてしまう。
【0021】
また、図9に示す光スイッチ201を用いたフリップフロップ動作では、出力光の一部をフィードバック入力することにより、状態保持時間を長くとることが可能となるが、非線形位相シフトを受けた光がそのまま同一の非線形導波路において非線形位相シフトを励起する光として用いられている。一般に、非線形位相シフトを受ける光の強度は低く設定され、非線形位相シフトを励起する光の強度は高く設定されるため、これらを同一の非線形導波路中で同一の光を用いて行おうとすると、強度や波長を最適に設定することは困難となる。
【0022】
本発明の目的は、セット・パルス入力時やリセット・パルス入力時における高速の状態変化と、状態保持時間の長さの自由な設定を可能とし、さらに、状態保持用の動作条件の最適化を可能にする光フリップフロップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明による光フリップフロップは、両アームにそれぞれ第一及び第二の非線形導波路を配置したマッハ・ツェンダー型光回路と、前記第一の非線形導波路に第一の入力光を入力する手段と、前記第二の非線形導波路に第二の入力光を入力する手段と、前記マッハ・ツェンダー型光回路で一旦分岐され前記第一及び第二の非線形導波路を通過し再び合波干渉する第三の光を入力及び出力する手段と、前記出力光の強度に応じて第四の光を強度変調する手段と、強度変調が印加された前記第四の光を前記第一の非線形導波路にフィードバック入力する手段を有し、前記第一の入力光が前記第一の非線形導波路に入力されてから前記第四の光が前記第一の非線形導波路にフィードバック入力されるまでの時間が前記第一の非線形導波路における非線形光学効果の緩和時間より短く、前記第一の入力光が前記第一の非線形導波路に入力されてから前記第二の入力光が前記第二の非線形導波路に入力されるまで前記第三の光の出力強度が保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明による光フリップフロップでは、状態の変化に要する時間はほぼセット光パルスおよびリセット光パルスのパルス幅によって定まり、また、状態を保持する時間は出力の一部をフィードバック入力することにより任意の長さに設定することが可能となる。出力光は第一の非線形導波路で非線形位相シフトを受けた光から生成されるが、この出力光の一部は強度変調器を構成する別の非線形導波路を励起し、この別の非線形導波路を通過して強度変調を印加された光が、フィードバックされて第一の非線形導波路を励起する。すなわち、同一の光が同一の非線形導波路において、非線形位相シフトを励起する役割と非線形位相シフトを受ける役割の両方を担うことはない。これにより、動作条件の最適化が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
本発明による第一実施形態の光フリップフロップの構成を図1に示す。図示の光フリップフロップは、対称マッハ・ツェンダー型光スイッチ(SMZ)101とAND型光スイッチ102とを備える。
【0027】
対称マッハ・ツェンダー型光スイッチ(SMZ)101では、非線形導波路1および2がマッハ・ツェンダー光回路の両アームに配置されており、第一の入力光(S)を入力するポート5、第二の入力光(R)を入力するポート6、第三の入力光(B)を入力するポート7、出力光(Q)を出力するポート8が備えられている。
【0028】
AND型光スイッチ102では、ポート8からの出力の一部を分岐部9経由で第一の入力光(A1)として入力するポート10、第二の入力光(A2)を入力するポート11、出力光(A3)を出力するポート12が備えられている。さらに、ANDスイッチ102からの出力光A3を合波部13経由でSMZスイッチ101の非線形導波路1にフィードバックさせる構造を有している。
【0029】
SMZスイッチ101では、第一の入力光Sが非線形導波路1における非線形光学効果を励起し、第二の入力光Rが非線形導波路2における非線形光学効果を励起する。
【0030】
第三の入力光BとしてはCW光またはクロック光パルスが用いられる。この入力光Bは、ポート7から入力され、分岐部3を経由して一旦分岐され、非線形導波路1あるいは2を通過して非線形位相シフトを与えられた後、合波部4を経由して合波され干渉し、干渉の際の位相差に応じた強度を持つ出力光Qとしてポート8から出力される。干渉の際の位相差が0であれば、出力光Qは高強度状態、すなわち“1”状態となる。逆に、干渉の際の位相差がπであれば、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となる。
【0031】
ANDスイッチ102では、入力光A1がスイッチの状態を変化させる励起光として用いられる。また、入力光A2としてはCW光またはクロック光パルスが用いられる。入力光A1が低強度状態の時には入力光A2を透過させない状態となっており、入力光A1が高強度状態となった時に入力光A2を透過させる状態が励起される。すなわち、ポート10からの入力光の状態が“1”、かつ、ポート11からの入力光の状態が“1”となった場合に、ポート12からの出力光の状態は“1”となるAND動作を示す。
【0032】
次に、第一実施形態の光フリップフロップの動作を、図2に示した波形図を用いて説明する。第一の入力光S(セット・パルス)は、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、第二の入力光R(リセット・パルス)は、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。また、SMZスイッチ101への入力光BはCW光、ANDスイッチ102への入力光A2もCW光が用いられている。
【0033】
まず、初期状態においては、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となっている。すなわち、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差はπとなっている。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態であるので、出力光A3も“0”状態である。
【0034】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、入力光Bが非線形導波路1を通過する際には非線形位相シフトを受ける。通常、この非線形位相シフトはπに近い値が望ましい。その場合、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は0となり、出力光Qは“1”状態へ変化する。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“1”状態へ変化し、出力光A3も“1”状態へ変化する。したがって、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“1”状態に保ち続ける。フィードバック開始までに要する時間、すなわち、ポート5にセット・パルスが入力されてからANDスイッチ出力光A3が入力され始めるまでの時間は10psとなっている。この時間は、フィードバックされる光A3の形成に用いられる部分の光路長で定まる。
【0035】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。入力光Bが非線形導波路2を通過する際にも非線形位相シフトを受けることにより、入力光Bが合波部4で干渉する際の位相差は初期状態と同じ値のπに戻り、出力光Qは“0”状態へ戻る。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態となり、出力光A3も“0”状態に戻る。
【0036】
第一実施形態の光フリップフロップは、入力光Bまたは入力光A2にクロック光パルスを用いて動作させることもできる。入力光A2にクロック光パルスを用いた場合の動作を、図3に示した波形図を用いて説明する。セット・パルスSは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、リセット・パルスRは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。SMZスイッチ101への入力光BはCW光である。ANDスイッチ102への入力光A2は、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔25psのクロック・パルスである。
【0037】
まず、初期状態においては、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となっている。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態であるので、出力光A3も“0”状態である。
【0038】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、これにより、出力光Qは“1”状態へ変化する。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“1”状態へ変化し、これによりクロック・パルスが透過するようになる。透過したクロック・パルスA3は、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“1”状態に保ち続ける。
【0039】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。これにより、非線形導波路1と2の両方とも非線形光学効果が励起されるため、出力光Qは“0”状態へ戻る。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態となり、出力光A3も“0”状態に戻る。
【0040】
本発明による第二実施形態の光フリップフロップの構成を図4に示す。ここでは、第一のSMZスイッチに加え、ANDスイッチの機能を第二のSMZスイッチ103を用いて実現することによって、光フリップフロップを構成している。
【0041】
まず、第二のSMZスイッチ103におけるAND動作について説明する。SMZスイッチ103では、非線形導波路21および22がマッハ・ツェンダー光回路の両アームに配置されている。第一のSMZスイッチ101からの出力光の一部A1がポート10を通過し分岐部27で分岐された後、時間差及び強度差をつけられ、一方はポート25へ入力され非線形導波路21に導かれ、他方はポート26へ入力され非線形導波路22に導かれる。ポート10からの入力光A1が低強度状態の場合には、ポート11からの入力光A2はマッハ・ツェンダー光回路を通過して合波部24で干渉する際に弱めあい、ポート12からは出力されない。ポート10からの入力光A1が高強度状態の場合には、ポート11からの入力光A2はマッハ・ツェンダー光回路を通過して合波部24で干渉する際に強めあい、出力光A3としてポート12より出力される。すなわち、ポート10からの入力光の状態が“1”、かつ、ポート11からの入力光の状態が“1”となった場合に、ポート12からの出力光の状態は“1”となるAND動作を示す。入力光A2の強度変化に対する出力光A3の強度変化は、非線形導波路21および22の励起に時間差および強度差が設定されていることによって、非線形光学効果の緩和時間の影響を受けにくくなり高速動作が可能になる。
【0042】
AND動作を行う第二のSMZスイッチ103と、第一のSMZスイッチ101とを基に光フリップフロップ動作が実現される。セット・パルスSは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、リセット・パルスRは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。また、SMZスイッチ101への入力光BはCW光、SMZスイッチ103への入力光A2もCW光が用いられている。
【0043】
まず、初期状態においては、出力光Qは低強度状態、すなわち、“0”状態となっている。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“0”状態であるので、出力光A3も“0”状態である。
【0044】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、出力光Qは“1”状態へ変化する。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“1”状態へ変化し、出力光A3も“1”状態へ変化する。したがって、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“1”状態に保ち続ける。フィードバック開始までに要する時間は10psとなっている。
【0045】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。これにより、出力光Qは“0”状態へ戻り、SMZスイッチ103においても入力光A1が“0”状態となることで出力光A3も“0”状態に戻る。
【0046】
なお、図4に示したように第一のSMZスイッチ101と第二のSMZスイッチ103を基に光フリップフロップ動作を実現する場合、第二のSMZスイッチにおいて入力光A1に対して論理反転した出力光A3を得るように設定することによって、論理反転した光フリップフロップ出力を得ることができる。
【0047】
その場合、第二のSMZスイッチ103では、非線形導波路21および22がマッハ・ツェンダー光回路の両アームに配置されている。第一のSMZスイッチ101からの出力光の一部A1がポート10を通過し分岐部27で分岐された後、時間差及び強度差をつけられ、一方はポート25へ入力され非線形導波路21に導かれ、他方はポート26へ入力され非線形導波路22に導かれる。ポート10からの入力光A1が低強度状態の場合には、ポート11からの入力光A2はマッハ・ツェンダー光回路を通過して合波部24で干渉する際に強めあい、出力光A3としてポート12より出力される。逆にポート10からの入力光A1が高強度状態の場合には、ポート11からの入力光A2はマッハ・ツェンダー光回路を通過して合波部24で干渉する際に弱めあい、ポート12から出力されない。
【0048】
論理反転した光フリップフロップ出力を得る場合の動作について、図5に示した波形図を用いて説明する。セット・パルスSは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、リセット・パルスRは、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。また、SMZスイッチ101への入力光BはCW光、SMZスイッチ103への入力光A2もCW光が用いられている。
【0049】
まず、初期状態においては、出力光Qは高強度状態、すなわち、“1”状態となっている。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1は“1”状態、出力光A3は“0”状態である。
【0050】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、出力光Qは“0”状態へ変化する。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“0”状態へ変化し、出力光A3は“1”状態へ変化する。したがって、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“0”状態に保ち続ける。フィードバック開始までに要する時間は10psとなっている。
【0051】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。これにより、出力光Qは“1”状態へ戻り、SMZスイッチ103においても入力光A1が“1”状態となることで出力光A3も“0”状態に戻る。
【0052】
第一実施形態や第二実施形態におけるSMZスイッチにおいて、非線形導波路としては、半導体光アンプ(SOA)を用いることができる。第二実施形態において、非線形導波路として波長1550nm帯を利得帯域とするSOAを用いる場合の動作について説明する。セット・パルスSは、波長1545nm、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、リセット・パルスRは、波長1545nm、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。SMZスイッチ101への入力光Bは波長1555nmのCW光である。SMZスイッチ103への入力光A2は、波長1545nmのCW光である。
【0053】
まず、初期状態においては、出力光Qは“0”状態となっている。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“0”状態であるので、出力光A3も“0”状態である。
【0054】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、これにより、波長1555nmの出力光Qは“1”状態へ変化する。SOAでは、光入力によりキャリア密度が減少することによって非線形屈折率変化が生じる。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“1”状態へ変化するため、波長1545nmの出力光A3も“1”状態へ変化する。この出力光A3は、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“1”状態に保ち続ける。
【0055】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。これにより、非線形導波路1と2の両方とも非線形光学効果が励起されるため、出力光Qは“0”状態へ戻る。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態となり、出力光A3も“0”状態に戻る。
【0056】
また、第一実施形態や第二実施形態におけるSMZスイッチにおいて、非線形導波路としては、活性層を量子ドット(QD)で構成した導波路を用いることができる。第二実施形態において、非線形導波路として波長1300nm帯を吸収帯域とするQD導波路を用いる場合の動作について説明する。セット・パルスSは、波長1280nm、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列、リセット・パルスRは、波長1280nm、パルス幅5ps、パルス繰返し間隔400psのパルス列であり、セット・パルスとリセット・パルスの間隔は200psに設定されている。SMZスイッチ101への入力光Bは波長1300nmのCW光である。SMZスイッチ103への入力光A2は、波長1280nmのCW光である。
【0057】
まず、初期状態においては、出力光Qは“0”状態となっている。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“0”状態であるので、出力光A3も“0”状態である。
【0058】
初期状態において、セット・パルスがポート5から入力されると、非線形導波路1において非線形光学効果が励起され、これにより、波長1300nmの出力光Qは“1”状態へ変化する。SMZスイッチ101を構成するQD導波路1および2では、吸収ピーク波長は1280nmであり、波長1280nmの光が吸収されることによりキャリア密度が増加し、波長1300nmの光に対する非線形位相シフトが生じる。このとき、SMZスイッチ103において、入力光A1が“1”状態へ変化するため、出力光A3も“1”状態へ変化する。SMZスイッチ103を構成するQD導波路21および22では、吸収ピーク波長は1300nmであり、波長1300nmの光が吸収されることによりキャリア密度が増加し、波長1280nmの光に対する非線形位相シフトが生じる。この出力光A3は、非線形導波路1に対する励起光としてフィードバックされ、出力光Qを“1”状態に保ち続ける。
【0059】
次に、セット・パルスが入力されてから200ps後、リセット・パルスがポート6から入力されると、非線形導波路2において非線形光学効果が励起される。これにより、非線形導波路1と2の両方とも非線形光学効果が励起されるため、出力光Qは“0”状態へ戻る。このとき、ANDスイッチ102において、入力光A1が“0”状態となり、出力光A3も“0”状態に戻る。
【0060】
第一実施形態や第二実施形態において、光フリップフロップを構成する光導波路として、フォトニック結晶導波路あるいは高屈折率差導波路を用いることにより、曲がり導波路の曲率半径を小さくして光路長を短縮し、フィードバックに要する時間を短縮することができる。ここではフォトニック結晶導波路を用いる場合を述べることとし、まず基本構造を説明する。
【0061】
GaAs基板に犠牲層としてのAl0.15Ga0.85As層(厚み2μm)を介してGaAs層(厚み0.25μm)を成長し、電子ビームリソグラフィとドライエッチングによってGaAs面内に周期的な円孔配列構造を形成することにより、2次元フォトニック結晶(以下、2DPCと呼ぶ)が得られる。
【0062】
厚み方向への光の閉じ込めには、上記犠牲層を選択的に除去(湿式エッチング)してコア層のみを残すことにより、空気層との大きな屈折率コントラストを有するエアブリッジ型平面光導波路を得る。
【0063】
この光導波路基板に所望の光配線を形成するには、上記の周期的円孔配列中に、円孔が欠損した配列、いわゆる欠陥導波路を光配線に沿って形成する。本欠陥導波路の設計には、前記2DPCのバンドギャップ内に本導波路の固有伝搬モードを設定する。こうして光は面内周辺への漏洩が禁止され、面内への損失がなく導波路に沿って伝搬する。
【0064】
光通信波長帯での2DPCの格子定数(a)は0.3〜0.4μmであり、且つ10a〜1000aの光路長の範囲に大方のデバイスが収まるので、2DPCは数μ〜数100μの超小型光デバイスを提供する。
【0065】
また、作製過程で発生する構造の不完全性に由来する伝搬損失は、0.8dB/mm以下と十分小さいので、例えば〜5mmの素子サイズでも4dB以下の低伝搬損失光デバイスが構築可能である。
【0066】
次に、このような2DPCの基本構造を用いて図4に示した2個のSMZスイッチ101および103からなる光フリッププロップの構造を説明する。この場合、非線形導波路1,2,21および22には、あらかじめInAsから成る量子ドット(以下、QDと称す)が埋め込まれている。
【0067】
QDは1300〜1550nm近辺の任意の波長で鋭い吸収スペクトル・ピークを示す。このため、QDから成る前記非線形導波路はセット・リセットパルスにより非線形屈折率変化を誘起し、所望の非線形位相シフトを発生する。よって2DPCによるSMZスイッチでは、図4を参照して説明したSMZスイッチと同様の光フリップフロップ動作の原理が当てはまる。すなわち、第二のSMZスイッチ103では、2DPCおよびQDからなる非線形導波路21および22がSMZ光回路の両アームに配置されており、前述同様のAND動作を行う。つまり、第一のSMZスイッチ101からの出力光の一部A1はポート10を通過し分岐部27で分岐された後、時間差及び強度差をつけられ、一方はポート25へ入力され非線形導波路21に導かれ、他方はポート26へ入力され非線形導波路22に導かれる。この後、両光は合波部24で干渉して、出力ポート12から出力光A3として取り出され、セット・パルスSと合波されて第一のSMZスイッチ101の入力ポート5にフィードバックされる。
【0068】
ここで、2DPCで構成された両SMZスイッチは、前述のように数100μm以下の超小型化が可能である。一例として全長が50μmの素子を考える。このとき、出力光の一部A1が入力ポート5にフィードバックされるまでに要する時間は、フィードバックループの全光路長を100μmとすると、高々1psである。このことは、セット・パルスとリセット・パルスの間隔が数psまで短縮可能であり、光フリップフロップの繰返し速度が、数100Gb/sまで高速動作可能であることを意味する。すなわち、2DPCを用いると超小型の全光スイッチが実現するため、本発明のようにこれを2段用いた素子構成では極めて小さなフィードバック遅延時間が求められる超高速動作の光フリップフロップが実現可能であるという特長を有する。
【0069】
以上、光フリップフロップを構成する非線形導波路において、励起に用いられる光と非線形位相シフトを受ける光について同方向に伝搬する場合のみを説明したが、逆方向に伝搬させた場合にも同様の動作が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の光フリップフロップの第一実施形態の構成図である。
【図2】本発明の光フリップフロップの第一実施形態の動作を示す波形図である。
【図3】本発明の光フリップフロップの第一実施形態の動作を示す波形図である。
【図4】本発明の光フリップフロップの第二実施形態の構成図である。
【図5】本発明の光フリップフロップの第二実施形態の動作を示す波形図である。
【図6】フリップフロップの動作を説明する回路図および特性表である。
【図7】従来技術による光フリップフロップの構成図である。
【図8】従来技術による光フリップフロップの動作を示す波形図である。
【図9】従来技術による他の光フリップフロップの構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 非線形導波路
2 非線形導波路
3 光分岐部
4 光合波部
5 セット光入力ポート
6 リセット光入力ポート
7 光入力ポート
8 光出力ポート
9 光分岐部
10 光入力ポート
11 光入力ポート
12 光出力ポート
13 光合波部
14 方向性結合器
21 非線形導波路
22 非線形導波路
23 光分岐部
24 光合波部
25 光入力ポート
26 光入力ポート
27 光分岐部
101 SMZスイッチ
102 ANDスイッチ
103 SMZスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両アームにそれぞれ第一及び第二の非線形導波路を配置したマッハ・ツェンダー型光回路と、前記第一の非線形導波路に第一の入力光を入力する手段と、前記第二の非線形導波路に第二の入力光を入力する手段と、前記マッハ・ツェンダー型光回路で一旦分岐され前記第一及び第二の非線形導波路を通過し再び合波干渉する第三の光を入力及び出力する手段と、前記出力光の強度に応じて第四の光を強度変調する手段と、強度変調が印加された前記第四の光を前記第一の非線形導波路にフィードバック入力する手段を有し、前記第一の入力光が前記第一の非線形導波路に入力されてから前記第四の光が前記第一の非線形導波路にフィードバック入力されるまでの時間が前記第一の非線形導波路における非線形光学効果の緩和時間より短く、前記第一の入力光が前記第一の非線形導波路に入力されてから前記第二の入力光が前記第二の非線形導波路に入力されるまで前記第三の光の出力強度が保持されることを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項2】
請求項1に記載の光フリップフロップにおいて、前記マッハ・ツェンダー型光回路を通じて入力される第三の光の強度に応じて第四の光を強度変調する手段が、第三の光の強度が低い場合には第四の光を低強度で出力し、第三の光の強度が高い場合には第四の光を高強度で出力することを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項3】
請求項1に記載の光フリップフロップにおいて、前記マッハ・ツェンダー型光回路を通じて入力される第三の光の強度に応じて第四の光を強度変調する手段が、第三の光の強度が低い場合には第四の光を高強度で出力し、第三の光の強度が高い場合には第四の光を低強度で出力することを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項4】
請求項1に記載の光フリップフロップにおいて、前記第三の光および第四の光が連続光またはクロック光パルス列であり、前記クロック光パルス列の繰返し間隔が前記第一の非線形導波路の非線形光学効果の緩和時間より短いことを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項5】
請求項1に記載の光フリップフロップにおいて、前記第三の光と第四の光で異なる波長を用いることを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項6】
請求項1に記載の光フリップフロップにおいて、前記マッハ・ツェンダー型光回路を通じて入力される第三の光の強度に応じて第四の光を強度変調する手段が、両アームに各々非線形導波路を配置した第二のマッハ・ツェンダー型光回路と、前記各々の非線形導波路に第三の光を入力する手段と、前記第二の非線形導波路に第二の入力光を入力する手段と、前記第二のマッハ・ツェンダー型光回路で一旦分岐され前記第一及び第二の非線形導波路を通過し再び合波干渉する前記第四の光を入力及び出力する手段で構成されることを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項7】
請求項1または請求項6に記載の光フリップフロップにおいて、非線形導波路として半導体光アンプを用いたことを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項8】
請求項1または請求項6に記載の光フリップフロップにおいて、非線形導波路として活性層に量子ドットを用いた導波路を用いたことを特徴とする光フリップフロップ。
【請求項9】
請求項1または請求項6に記載の光フリップフロップにおいて、光回路を構成する光導波路にフォトニック結晶導波路を用いたことを特徴とする光フリップフロップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−46543(P2008−46543A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224165(P2006−224165)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/超低エネルギー超高速光蓄積デバイス技術の研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】