説明

光モジュール

【課題】送信光ビームをレンズで狭く絞り通信を行う場合に、光モジュール同士が近接した際にも、通信機器同士の送信部と受信部との対向位置関係によらずに高速光無線通信することができ、かつ、小型で光軸調整の必要がない光モジュール等を提供する。
【解決手段】他の光モジュール200との間で近距離無線通信を行う一の光モジュール100であって、送信光ビームを放射する1個の光送信部120と、受信光ビームを受信する1個の光受信部130とを備える。光送信部120は、送信すべき情報に基づいた光信号を放射する1個の発光素子121と、発光素子から放射された光信号を集光して放射する発光素子用レンズ122とを含む。送信光ビームは、発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲127を有するメインビームと、メインビームの有効範囲外129に光強度分布の中心を有するサブビームとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間に光ビームを放射して相手端末との間で情報を送受信する光モジュールに関し、より特定的には、モバイル機器において高速に通信を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等のモバイル機器において、高精細の静止画像や動画像を撮影できる機種が増えており、利用者は、この様なモバイル機器により撮影した静止画像や動画像のデータを、他のモバイル機器へ送信して他のユーザと共有したり、パソコンへ転送してバックアップするような用途が増えている。また、自身の所有するパソコンや販売サイトから、動画コンテンツや楽曲コンテンツなどのデータをモバイル機器に転送し、移動中や外出先等で再生するようなことも頻繁に行われている。
ここでモバイル機器間や、モバイル機器とパソコンとの間のデータの転送には、これらを直接ケーブルで接続する方法、メモリカードを差し替える方法、近距離無線通信による方法等があり、特に近距離無線通信による方法はその手軽さゆえに、最も頻繁に利用されるものと期待される。
【0003】
モバイル機器における近距離無線通信には、例えば、IrDA(Infrared Data Association:赤外線通信協会、もしくは同協会によって定められた赤外線通信規格)に代表される赤外線通信モジュールが多用されており、携帯電話、パソコン、プリンタ等の様々な電子機器において広く利用されている。
【0004】
しかしながら、従来型の赤外線通信モジュールによる近距離無線通信は、電話番号やアドレスの交換には頻繁に利用されているものの、高精細の静止画像や動画像等の大量のデータを転送するために利用するには通信速度が遅く適さない。
よって、手軽に大量のデータを転送できるよう、赤外線通信モジュールによる近距離無線通信の高速化が望まれている。
【0005】
一方、上記赤外線通信モジュールのような光モジュールは、一般に光を放射するための発光ダイオードや、光を受信するためのフォトダイオードを備えており、さらに発光ダイオードにより生成された光ビームを所望の伝送範囲に集光して放射するための送信レンズや、空間に放射され拡散した送信光を集光しフォトダイオードに結合させるための受信レンズ等を備えている。
【0006】
また光モジュールを用いた無線通信は、電波を用いた無線通信に比べ、低コスト、低消費電力、デバイスの小型化が可能といった長所があるが、通信の高速化を行うためには、受信部で十分なSN比を保って信号処理を行う必要がある。したがって、大きな受光照度を得なければならず、そのためには、送信光ビームをレンズで狭く絞り通信を行う必要がある。
例えば、1cm以上の距離を伝送させる条件で、1Gbps程度の高速通信を行う場合には、指向角を5°〜10°程度にする必要がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
また上記光モジュールを用いた無線通信は双方向通信なので、両方の光モジュールが送信側と受信側とを備え、これらは通常横に並べて設置される。従って、送信光ビームを狭く絞った場合に、一方の光モジュールの送信側の正面に他方の光モジュールの受信側が位置し、一方の光モジュールの受信側の正面に他方の光モジュールの送信側とが位置するような状態で通信が行われた場合には何ら問題はないのであるが、これとは逆に、一方の光モジュールの送信側の正面に他方の光モジュールの送信側が位置し、一方の光モジュールの受信側の正面に他方の光モジュールの受信側とが位置するような状態で通信が行われた場合には、1cm以下程度の近距離において通信が行えなくなるという問題がある。
【0008】
このような問題を解決する光無線システムが特許文献1に開示されている。特許文献1には、親機が狭指向角の送信光を2次元的に走査し、子機が受信素子アレイやMEMS(Micro Electro-Mechanical System)素子を用いて、受信素子アレイ上の受信光の位置から送信光の方向を検出して、検出した方向へ親機に向けて送信光を返すことにより送信方向を検出することができるので、狭指向角の光ビームでも通信できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2005−64993号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Infrared Data Association(登録商標)発行、Serial Infrared Physical Layer Specification Giga-IR addition version 1.0 p.20(インフラレッド データ アソシエーション 発行、シリアル インフラレッド フィジカル レイヤー スペシフィケーション ギガ アイアール アディション バージョン 1.0 ページ20)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の光無線システムでは、受光素子アレイやMEMS素子を用いなければならないためにシステムが大きくなり、またモバイル機器間で通信を行う前に光軸調整を行わなければならないので、その分時間が余計にかかるという問題がある。
【0012】
それ故に、本発明は、高速に通信を行う等のために送信光ビームをレンズで狭く絞り通信を行う場合に、光モジュール同士が近接した際にも、通信機器同士の送信部と受信部との対向位置関係によらずに高速光無線通信することができ、かつ、小型で光軸調整の必要がない光モジュール、及び光無線システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、光モジュール、及び光無線システムに向けられている。そして上記課題を解決するために、本発明の光モジュールは、他の光モジュールとの間で近距離無線通信を行う一の光モジュールであって、1個の光送信部、及び1個の光受信部を備える。光送信部は、他の光モジュールへ向けて送信光ビームを放射する。光受信部は、他の光モジュールから受信光ビームを受信する。光送信部は、1個の発光素子、及び発光素子用レンズを含む。発光素子は、送信すべき情報に基づいた光信号を放射する。発光素子用レンズは、発光素子から放射された光信号を集光して放射する。
ここで送信光ビームは、メインビーム、及びサブビームとを含む。メインビームは、発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有する。サブビームは、メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有する。
【0014】
好ましくは、発光素子は、上面、及び側面から光信号を放射し、メインビームの主成分は、発光素子の上面から放射された光信号が、発光素子用レンズにより集光されたものであり、サブビームの主成分は、発光素子の側面から放射された光信号が、発光素子用レンズにより集光されたものであるとよい。
【0015】
好ましくは、発光素子用レンズは、メイン集光面、及びサブ集光面を有し、メイン集光面は、発光素子から放射された光信号の中心部を集光してメインビームを放射し、サブ集光面は、発光素子から放射された光信号の中心部を除く部分を集光してサブビームを放射するとよい。
【0016】
好ましくは、他の光モジュールが備える光送信部と他の光モジュールが備える光受信部との距離をD、記発光素子用レンズの半径をRt、他の光モジュールが備える光受信部に含まれる受光素子用レンズの半径をRr、正常に通信すべき最接近時における発光素子用レンズの端と、他の光モジュールが備える光送信部に含まれる発光素子用レンズの端との距離をL、正常に通信すべき最接近時における、発光素子と他の光モジュールが備える光送信部に含まれる発光素子との距離をLeとするとき、サブビームの照射角度θは、tan-1[(D-Rt-Rr)/Le]≦θ≦tan-1(D/L)であるとよい。
【0017】
好ましくは、一の光モジュールは、さらに、実装基板、第1反射部、及び第2反射部を備え、実装基板には、発光素子と受光素子とが実装されており、第1反射部は、発光素子と受光素子との間の実装基板に対向する場所において、発光素子用レンズから放射されたビームの一部を反射し、第2反射部は、実装基板上の、発光素子と受光素子との間において、第1反射部により反射されたビームをさらに反射して、サブビームとして放射するとよい。
好ましくは、一の光モジュールは、さらに、実装基板、第1反射部、及び第2反射部を備え、実装基板には、発光素子と受光素子とが実装されており、第1反射部は、実装基板に対向する場所においてサブビームを反射し、第2反射部は、実装基板上の、発光素子と受光素子との間において、第1反射部により反射されたサブビームを、さらに反射するとよい。
【0018】
また上記課題を解決するために、本発明の光無線システムは、第1光モジュールと第2光モジュールとの間で近距離無線通信を行う。
第1光モジュールは、1個の第1光送信部、及び1個の第1光受信部を備える。第1光送信部は、第2光モジュールへ向けて、第1送信光ビームを放射する。第1光受信部は、第2光モジュールから受信光ビームを受信する。第1光送信部は、1個の第1発光素子、及び第1発光素子用レンズを含む。第1発光素子は、送信すべき情報に基づいた光信号を放射する。第1発光素子用レンズは、第1発光素子から放射された光信号を集光して放射する。
ここで第1送信光ビームは、第1メインビーム、及び第1サブビームを含む。第1メインビームは、第1発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有する。第1サブビームは、第1メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有する。
第2光モジュールは、1個の第2光送信部、及び1個の第2光受信部を備える。第2光送信部は、第1光モジュールへ向けて第2送信光ビームを放射する。第2光受信部は、第1光モジュールから受信光ビームを受信する。第2光送信部は、第2発光素子、及び第2発光素子用レンズを含む。第2発光素子は、送信すべき情報に基づいた光信号を放射する。第2発光素子用レンズは、第2発光素子から放射された光信号を集光して放射する。
ここで第2送信光ビームは、第2メインビーム、及び第2サブビームを含む。第2メインビームは、第2発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有する。第2サブビームは、第2メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有する。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明においては、メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有するサブビームを、メインビームとともに放射することができる。
このような構成によれば、光モジュール同士が近接し光送信部同士及び光受信部同士が対向するような厳しい状況において、従来よりも受信可能範囲を広げることができ、特に近距離において良好に通信ができるので、大変有用である。
よって、本発明によれば、送信光ビームをレンズで狭く絞り通信を行う場合に、光モジュール同士が近接した際にも、通信機器同士の送信部と受信部との対向位置関係によらずに高速光無線通信を行うことができ、また、小型で光軸調整の必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1における光無線システムを用いたモバイル機器間の近距離通信時の様子を示す図
【図2】実施の形態1における光無線システム10の概略を示す図
【図3】(a)は、従来の光送信部920の断面の概略を示す図、(b)は、実施の形態1における光送信部120の断面の概略を示す図
【図4】光モジュール100と光モジュール200とが、ある程度の距離だけ離れた状態における光無線システム10の概略を示す図
【図5】実施の形態1における光モジュール100の放射角度と放射強度の関係を示す図
【図6】(a)、(b)は、シミュレーションによる実施の形態1の光無線システム10における、光モジュール間の距離と受光照度及び最小受光照度との関係を示す図
【図7】近距離通信時の光無線システム10の概略を示す図
【図8】実施の形態2における光無線システム10の概略を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態1]
<構成>
図1は、実施の形態1における光無線システムを用いたモバイル機器間の近距離通信時の様子を示す図である。モバイル機器1、2は、例えば携帯電話であり、図1に示すように、それぞれ光モジュール100及び光モジュール200を備えており、光モジュール100と光モジュール200とを突き合わせて近距離無線通信を行う。
【0022】
図2は、実施の形態1における光無線システム10の概略を示す図である。
図2において、光モジュール100、及び光モジュール200は、互いに光ビームを空間に放射し、データ通信を行う近距離無線通信用のユニットである。
図2においては光モジュール100と光モジュール200とが4mm程度の距離まで近接しており、かつ光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態となっている。
【0023】
光モジュール100と光モジュール200との実質的な構成、及び動作は同じである。
そこで、以下に、光モジュール100から光モジュール200へデータを送信する場面について、主に詳細に説明する。
光モジュール100は、実装基板110と、光送信部120と、光受信部130とを備える。
光モジュール200は、実装基板210と、光送信部220と、光受信部230とを備える。
【0024】
実装基板110は、ガラスエポキシ等の絶縁物からなる平板であり、光送信部120と、光受信部130とを所定の間隔だけ離して並べて実装する。ここで所定の間隔は、5mm程度である。
光送信部120は、発光素子121と、樹脂レンズ122とを備えている。
発光素子121は、LED(Light Emitting Diode)やVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)などの半導体デバイスであり、主に上面123(光モジュール200に対向する面であり、図2では右側の一面)から送信すべき情報に基づいた光信号を放射する。特にLEDの場合には、上面123から光を放射するだけでなく、側面124(実装基板110と上面との間の面であり、図2では上、下、手前、奥側の計四面)にも発光分布があるので、上面123と側面124との両方から、送信すべき情報に基づいた光信号を放射する。従来の光モジュールを用いた近距離無線通信では、側面124から放射される光信号は通信に寄与することはなかったが、実施の形態1においては、この光信号を通信に用いることができる。
樹脂レンズ122は、直径が2〜5mm程度のエポキシ系等、仕様光源の波長に対して透明性の高い樹脂からなる発光素子用レンズであり、発光素子用の第1集光面125、及び発光素子用の第2集光面126を有している。
【0025】
ここで、発光素子121から放射された光信号のうち、主に上面から、あるいは上面の中央部分から放射された光信号は、第1集光面125によって光照射範囲127(図2中の細かい点線の範囲)に集光されて、樹脂レンズ122の略中心位置128(図2中の1点鎖線)を光強度分布の中心とする所定の有効範囲(光照射範囲127)を有するメインビームとして放射される。
一方、発光素子121から放射された光信号のうち、主に側面から、あるいは上面の周辺部分から放射された光信号は、第2集光面126によって光照射範囲129(図2中の荒い点線間の範囲)に集光されて、メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有するサブビームとして放射される。
【0026】
図3(a)は、従来の光送信部920の断面の概略を示す図であり、図3(b)は、実施の形態1における光送信部120の断面の概略を示す図である。ここで光送信部920の構成のうち光送信部120と同様の構成には同じ参照番号を付す。また光送信部920は、光送信部120の樹脂レンズ122の代わりに樹脂レンズ922を備え、樹脂レンズ922は、第2集光面126を有していない。
図3(a)に示すように、従来の光送信部920では、発光素子121から放射される光信号のうち、発光素子121の上面123から、あるいは上面123の中央部分から放射される光信号は、第1集光面125によってモジュールの正面方向の光照射範囲127へ放射されるが、発光素子121から放射される光信号のうち、側面124から、あるいは上面123の周辺部分から放射される光信号は、レンズ端面926に集光作用がないので拡散光929となって出力される。
【0027】
一方、図3(b)に示すように、光送信部120では、発光素子121から放射される光信号のうち、発光素子121の上面123から、あるいは上面123の中央部分から放射される光信号は、従来の光送信部920と同様に、第1集光面125によってモジュールの正面方向の光照射範囲127へメインビームとして放射されるが、発光素子121から放射される光信号のうち、側面124から、あるいは上面123の周辺部分から放射される光信号は、レンズ端面を凸状に湾曲させることにより第2集光面126としているので、第2集光面126によってメインビームの周辺の光照射範囲129へサブビームとして放射される。
【0028】
光受信部130は、光モジュール200の光受信部230と同様の構成であり、受光素子131と、樹脂レンズ132とを備えている。
実装基板210は、実装基板110と同様の構成であり、光送信部220と、光受信部230とを所定の間隔だけ離して、並べて実装する。
光送信部220は、光送信部120と同様の構成であり、発光素子221と、樹脂レンズ222とを備えている。
光モジュール100の光送信部120から放射された送信光ビームは、光モジュール200の光受信部230により受信されなければならない。
光受信部230は、受光素子231と、樹脂レンズ232とを備えている。
受光素子231は、上面233(光モジュール100に対向する面であり、図2では左側の一面)で、光信号を受信する。
樹脂レンズ232は、直径が2〜5mm程度のエポキシ系等、仕様光源の波長に対して透明性の高い樹脂であり、受光素子用の第1集光面234及び受光素子用の第2集光面235を有している。
【0029】
図2に示すように、光モジュール100と光モジュール200とが近接しており、かつ光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態となっている場合には、光モジュール100から送信される送信光ビームのうちの、第2集光面126によって光照射範囲129に集光されたサブビームが有効である。
図2においては、光モジュール100より放射されたサブビームが第2集光面235による集光範囲237に入っているので、サブビームは樹脂レンズ232の第2集光面235によって集光されて受光素子231に照射され、光信号が受信される。
【0030】
一方、光モジュール100から送信される送信光ビームのうちの、第1集光面125によって光照射範囲127に集光されたメインビームは、光送信部120の正面に光受信部230が在る状態や、光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合っていても、さほど近接していない状態において有効である。
図4は、光モジュール100と光モジュール200とが、ある程度の距離だけ離れた状態における光無線システム10の概略を示す図である。
図4においては、光モジュール100と光モジュール200とが12〜15mm程度の距離まで離れており、かつ光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態となっている。
【0031】
図4に示すように、光モジュール100と光モジュール200とがある程度離れている場合には、光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態となっているか、光送信部と光受信部が向かい合った状態となっているかに関わらず、光モジュール100から送信される送信光ビームのうちの、第1集光面125によって光照射範囲127に集光されたメインビームにより通信が行われる。
図4においては、光モジュール100より放射されたメインビームが第1集光面234による集光範囲236に入っているので、メインビームは樹脂レンズ232の第1集光面234によって集光されて受光素子231に照射され、光信号が受信される。
【0032】
図5は、実施の形態1における光モジュール100の放射角度と放射強度の関係を示す図である。ここで図5中の1点鎖線は樹脂レンズ122の略中心位置128であり、かつメインビームの光強度分布の中心である。また図5中の2点鎖線302はサブビームの光強度分布の中心である。
図5に示すように、第1集光面125により正面方向の光照射範囲127へ放射されるメインビームは放射角度が浅いので、長距離においてはこのメインビームのみが通信に寄与することになるため、メインビームの放射強度300(図5中の真ん中の高い山)がある程度強くなるように設計して、比較的長距離であっても通信が可能なようにすることが好ましい。一方、第2集光面126によりメインビームの周辺の光照射範囲129へ放射されるサブビームは放射角度が深く、光モジュール200の光受信部230が正面方向から外れ、かつ近距離においてのみ通信に寄与することになるため、サブビームの放射強度301(図5中の両端の低い山)を必要以上に強くする必要がなく、放射強度はメインビームよりも弱くてよい。
なお、図2、及び図4において、光モジュール200の光送信部と光受信部の位置が入れ替わり、光モジュール100の光送信部の正面に、光モジュール200の光受信部がある場合には、距離に関係なくメインビームにより通信が行われる。
【0033】
<効果の検証>
図6(a)、(b)は、シミュレーションによる実施の形態1の光無線システム10における、光モジュール間の距離と受光照度及び最小受光照度との関係を示す図である。
図6(a)、(b)は、いずれも光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態において、モバイル機器間の距離を変化させたときの受光照度及び最小受光照度の変化の様子を示している。
ここで図6(a)のシミュレーション条件は、第2集光面126、235を有しない従来の光無線システムを用い、レンズ直径が5mm、光送信部の放射指向角が±10°、光受信部の受信許容角が±10°である。
【0034】
また図6(b)のシミュレーション条件は、第2集光面126、235を有する実施の形態1の光無線システム10を用い、第2集光面126による光軸が30°、その他の条件は図6(a)と同様である。
図6(a)によれば、従来の光無線システムにおける、受光照度が最小受光照度を越えている受信可能範囲は、9.8〜50.0mmである。
一方、図6(b)によれば、実施の形態1の光無線システム10における受光照度が最小受光照度を越えている受信可能範囲は、4.1〜50.0mm超である。
図6(b)が図6(a)に較べて、近距離における受光照度が上がっているのは、第2集光面126によって放射されたサブビームによるものであると思われる。
【0035】
また図6(a)において、モバイル機器間の距離が接近するほど最小受光照度が上がっているのは、光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態において、モバイル機器間の距離が接近すると、光受信部により受信されるビームの照射角が大きくなるためであると思われる。
受光素子は一般に照射角が小さい程結合効率が高くなりやすい傾向があるため、光受光部が何の対策も講じていない従来の構造であれば、モバイル機器間の距離が接近すると結合効率が極端に下がるので、反対に最小受光照度は急激に大きくなってしまうのである。
【0036】
一方図6(b)において、モバイル機器間の距離が接近しても、さほど最小受光照度が上がっていないのは、実施の形態1の光無線システム10は光受信部に第2集光面235を有するため、本来の受信許容角(例えば±10°)よりも大きな角度から照射される光も受光素子に集光することができるからであると思われる。
なお、受光素子の照射角による結合効率の変動特性は受光素子によって異なり、上記シミュレーションでは実測した値を用いたわけではないので、上記の効果はあくまで予測の一例に過ぎない。
【0037】
以上のように、実施の形態1の光無線システム10によれば、光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態において、従来よりも受信可能範囲を広げることができ、特に近距離において良好に通信ができるので、高速に通信を行う等のために送信光ビームをレンズで狭く絞り通信を行う場合に、光モジュール同士が近接した際にも、光モジュールの位置関係に係わらず通信することができ、また、小型で光軸調整の必要がないという優れた効果が得られる。
【0038】
<サブビームの照射角度の求め方>
以下に、サブビームの照射角度θの最大値と最小値とを決める方法を説明する。
図7は、近距離通信時の光無線システム10の概略を示す図である。ここで、図2と同様の構成要素については同一の符号を用い、その説明を省略する。
図7において、サブビームがどこから放射したとしても、少なくとも送受信間のレンズの頂点を結んだ角度θMAXを超えないことから、サブビームの光軸の最大照射角度の値は、図7より、
θMAX =tan-1(D/L) ・・・式1
となる。
【0039】
ここで“D”は発光素子221と受光素子231との距離、“L”は正常に通信すべき最接近時における樹脂レンズ122の端と樹脂レンズ232の端との距離である。
一方、最も照射角度が小さくなるときのサブビームの光軸は、送受間のレンズの側面(側面の曲率を無視できる場合)を結んだ線となり、この線の角度θMINより狭放射角で放射すると、光が対向する受光器に照射されないことから、サブビームの光軸の最小照射角度の値は、図7より、
θMIN= tan-1[(D-Rt-Rr)/Le] ・・・式2
となる。
【0040】
ここで、“D”は発光素子221と受光素子231との距離、“Rt”は樹脂レンズ122のレンズ半径、“Rr”は樹脂レンズ232のレンズ半径、“Le”は正常に通信すべき最接近時における発光素子121と受光素子231との距離である。また“D-(Rt+Rr) ”は、樹脂レンズ122と樹脂レンズ232との内側の距離となる。
上記式1、式2より、サブビームの照射角度θは、
tan-1[(D-Rt-Rr)/Le]≦θ≦tan-1(D/L) ] ・・・式3
となる。
式3を満たすように光送信部120の第2集光面126を設計することにより、光モジュール同士が近接し光送信部同士及び光受信部同士が対向した場合であっても、効率よく第2集光面126により集光されたサブビームが光受信部230へ照射される。
【0041】
[実施の形態2]
図8は、実施の形態2における光無線システム20の概略を示す図である。
図8において、光モジュール400、及び光モジュール500は、互いに光ビームを空間に放射し、データ通信を行う近距離無線通信用のユニットである。
図8においては光モジュール400と光モジュール500とが4〜5mm程度の距離まで近接しており、かつ光送信部同士、及び光受信部同士が向かい合った状態となっている。ここで、図2、及び図3と同様の構成要素については同一の符号を用い、その説明を省略する。
【0042】
実施の形態2では、光モジュール400と光モジュール500の間の実装基板110に対向する場所に第1反射部401が備えられ、実装基板110上の光モジュール400と光モジュール500の間に、第2反射部402が備えられている。
第1反射部401は、樹脂レンズ922から放射されたビームの一部を反射する。
第2反射部402は、第1反射部401により反射されたビームをさらに反射してサブビーム404として放射する。また第1反射部401で反射されなかった残りのビームがメインビームとなる。
【0043】
ここで、赤外線により通信を行う場合には、必須ではないが、通常可視光による悪影響を軽減するために、可視光を除去する可視光カットフィルターを備えることが多い。可視光カットフィルターを備える場合には、図8に示したように、第1反射部401を、可視光カットフィルター403の一部に設けることができ、その際には第1反射部401が光受光部の受光範囲にできるだけ重ならないようにすることが望ましい。なお、第1反射部401はアルミ等の金属を可視光カットフィルター403上の必要な部分に蒸着するなどにより作成することができ、同様に、第2反射部402はアルミ等の金属を実装基板110上の必要な部分に蒸着するなどにより作成することができる。
【0044】
このように、樹脂レンズ922から放射されたビームの一部が第1反射部401により一旦反射され、光モジュール200に対し、逆方向へ向かった後に、第2反射部402によって再び光モジュール200の方向へ放射されることにより、ビームの一部を平行移動させることができる。
よって、光モジュール同士が近接し、光送信部同士及び光受信部同士が対向した場合に、本来受光素子へ届かない送信光ビームを受光素子へ届けることができる。
【0045】
なお、ここでは、第1集光面125により放射されるビームの一部を反射させて、サブビームとして放射しているが、実施の形態1で示した第2集光面126により放射されるサブビームを反射させてもよい。
第2集光面126により放射されるサブビームを反射させる場合には、第1集光面125による光照射範囲127に第1反射部401ができるだけ重ならないように設置するとよく、この場合には照射角が大きくなるので、光送信部と光受信部との間隔が比較的大きい場合により好ましい。
【0046】
また第1集光面125により放射されるビームの一部を反射させる場合には、第1集光面125による光照射範囲127の一部に第1反射部401が重なるように設置し、光送信部同士、及び光受信部が向かい合いあった状態のときに光照射範囲127が236と重ならなくなる距離において受信が可能な程度の照度となるように、第1反射部401の面積を定めるとよく、この場合には照射角がさほど大きくはならないので、光送信部と光受信部との間隔が比較的小さい場合により好ましい。さらに、受光素子は一般に照射角が小さい程結合効率が高くなりやすい傾向があるため、ビームの一部を反射させる場合には光モジュール500における結合効率が高くなりやすいので、何の対策も講じていない従来と同様の構造の光モジュール500の光受光部であっても、光モジュール同士が近接し光送信部同士及び光受信部同士が対向するような厳しい状況において、遜色なくサブビームを受信することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の光モジュール、及び光無線システムは、携帯電話、パソコン、プリンタ等の様々な電子機器に利用可能であり、光モジュール同士が近接し光送信部同士及び光受信部同士が対向するような厳しい状況において、従来よりも受信可能範囲を広げることができ、特に近距離において良好に通信ができるので、大変有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 モバイル機器
2 モバイル機器
10 光無線システム
100 光モジュール
110 実装基板
120 光送信部
121 発光素子
122 樹脂レンズ
125 第1集光面
126 第2集光面
130 光受信部
131 受光素子
132 樹脂レンズ
200 光モジュール
210 実装基板
220 光送信部
221 発光素子
222 樹脂レンズ
230 光受信部
231 受光素子
232 樹脂レンズ
234 第1集光面
235 第2集光面
400 光モジュール
401 第1反射部
402 第2反射部
403 可視光カットフィルター
500 光モジュール
922 樹脂レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の光モジュールとの間で近距離無線通信を行う一の光モジュールであって、
前記他の光モジュールへ向けて、送信光ビームを放射する1個の光送信部と、
前記他の光モジュールから、受信光ビームを受信する1個の光受信部とを備え、
前記光送信部は、
送信すべき情報に基づいた光信号を放射する1個の発光素子と、
前記発光素子から放射された光信号を集光して放射する発光素子用レンズとを含み、
前記送信光ビームは、
発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有するメインビームと、
前記メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有するサブビームとを含むこと、を特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記発光素子は、
上面、及び側面から光信号を放射し、
前記メインビームの主成分は、
前記発光素子の上面から放射された光信号が、前記発光素子用レンズにより集光されたものであり、
前記サブビームの主成分は、
前記発光素子の側面から放射された光信号が、前記発光素子用レンズにより集光されたものであること、を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記発光素子用レンズは、
前記発光素子から放射された光信号の中心部を集光して前記メインビームを放射するメイン集光面と、
前記発光素子から放射された光信号の中心部を除く部分を集光して前記サブビームを放射するサブ集光面とを有すること、を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記他の光モジュールが備える光送信部と、前記他の光モジュールが備える光受信部との距離をD、
前記発光素子用レンズの半径をRt、
前記他の光モジュールが備える光受信部に含まれる受光素子用レンズの半径をRr、
正常に通信すべき最接近時における、前記発光素子用レンズの端と、前記他の光モジュールが備える光送信部に含まれる発光素子用レンズの端との距離をL、
正常に通信すべき最接近時における、前記発光素子と、前記他の光モジュールが備える光送信部に含まれる発光素子との距離をLeとするとき、
前記サブビームの照射角度θは、tan-1[(D-Rt-Rr)/Le]≦θ≦tan-1(D/L)であること、を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記一の光モジュールは、さらに、
前記発光素子と、前記受光素子とが実装されている実装基板と、
前記発光素子と前記受光素子との間の前記実装基板に対向する場所において、前記発光素子用レンズから放射されたビームの一部を反射する第1反射部と、
前記実装基板上の、前記発光素子と前記受光素子との間において、前記第1反射部により反射されたビームをさらに反射して、前記サブビームとして放射する第2反射部とを備えること、を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記一の光モジュールは、さらに、
前記発光素子と、前記受光素子とが実装されている実装基板と、
前記実装基板に対向する場所において、前記サブビームを反射する第1反射部と、
前記実装基板上の、前記発光素子と前記受光素子との間において、前記第1反射部により反射された前記サブビームを、さらに反射する第2反射部とを備えること、を特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項7】
第1光モジュールと第2光モジュールとの間で近距離無線通信を行う光無線システムであって、
前記第1光モジュールは、
前記第2光モジュールへ向けて、第1送信光ビームを放射する1個の第1光送信部と、
前記第2光モジュールから、受信光ビームを受信する1個の第1光受信部とを備え、
前記第1光送信部は、
送信すべき情報に基づいた光信号を放射する1個の第1発光素子と、
前記第1発光素子から放射された光信号を集光して放射する第1発光素子用レンズとを含み、
前記第1送信光ビームは、
前記第1発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有する第1メインビームと、
前記第1メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有する第1サブビームとを含み、
前記第2光モジュールは、
前記第1光モジュールへ向けて、第2送信光ビームを放射する1個の第2光送信部と、
前記第1光モジュールから、受信光ビームを受信する1個の第2光受信部とを備え、
前記第2光送信部は、
送信すべき情報に基づいた光信号を放射する1個の第2発光素子と、
前記第2発光素子から放射された光信号を集光して放射する第2発光素子用レンズとを含み、
前記第2送信光ビームは、
前記第2発光素子用レンズの略中心位置を光強度分布の中心とする所定の有効範囲を有する第2メインビームと、
前記第2メインビームの有効範囲外に光強度分布の中心を有する第2サブビームとを含むこと、を特徴とする光無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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