説明

光リフレクトメトリ測定方法および装置

【課題】C−OFDRによる測定を高い距離分解能で実施することの可能な光リフレクトメトリ測定方法および光リフレクトメトリ測定装置を提供すること。
【解決手段】コヒーレント光源1の周波数掃引の非直線性をモニタするモニタリング部12を設け、そのモニタの結果に基づいて測定部11における測定結果を補正するようにしている。すなわち、モニタリング部12において自己遅延ホモダイン検波により光源出力光のモニタリングビート信号を生じさせ、サンプリング部16によりその波形をサンプリングする。その波形を示す連続関数R(t)を解析し、ゼロクロス点を求める。また測定部11における干渉ビート信号をサンプリングして得た連続関数にR(t)のゼロクロス点を代入し、得られた数列にFFT処理を施して測定結果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光回路などの被測定回路における、反射率の伝播方向に対する分布を測定するリフレクトメトリ測定方法と、この方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光回路などの伝送損失の測定や故障箇所の診断に用いられる光反射測定方法の一つとして、コヒーレント光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(C−OFDR)が知られている(例えば非特許文献1を参照)。この方法は、周波数掃引コヒーレント光源からの出力光を2分岐し、測定対象からの反射光と一方の分岐光との干渉により生じる干渉ビート信号を解析することにより、測定対象における後方散乱光強度の光伝播方向に対する分布を測定するものである。
【0003】
すなわちC−OFDRは、光周波数を掃引されたコヒーレント光源からの出力光を2分岐し、そのうちの一方を測定光として被測定光回路に入射し、他方を局発光として後方散乱光(測定光が被測定光回路の伝搬距離に応じた各位置で反射されて発生する反射光)と合波させる。これにより生じる干渉ビート信号を検出し、そのスペクトラムを分析して、被測定光回路の伝搬距離に応じた各位置の反射率をスペクトラムの周波数成分の強度として測定するものである。
【非特許文献1】「Optical frequency domain reflectometry in single-mode fiber」, W.Eickhoff and R.Ulrich, Applied Physics Letters 39(9), pp.693-695.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら既存の技術においては、周波数掃引コヒーレント光源の出力光の光周波数を、良好な直線性で掃引することが困難である。この周波数掃引速度の非直線性により干渉ビート信号のスペクトル幅が広がることから、既知のC−OFDRにおいては高い距離分解能による測定が難しいという課題がある。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、C−OFDRによる測定を高い距離分解能で実施することの可能な光リフレクトメトリ測定方法および光リフレクトメトリ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、測定対象における反射率の伝播方向に対する分布をコヒーレント光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(C−OFDR)により測定する光リフレクトメトリ測定装置において、光周波数を掃引されるコヒーレント光源と、このコヒーレント光源の出力光の特性をモニタするモニタ部と、前記出力光と前記測定対象からの後方散乱光との干渉ビート信号を検出する測定部と、前記光周波数掃引の非直線性を前記モニタした特性に基づき補正して前記干渉ビート信号に基づく測定結果を得る解析部とを具備することを特徴とする光リフレクトメトリ測定装置が提供される。
このような手段を講じることにより、コヒーレント光源の光周波数掃引の非直線性を補正した測定結果が得られる。従ってC−OFDRによる測定を高い距離分解能で実施することが可能になる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、C−OFDRによる測定を高い距離分解能で実施することの可能な光リフレクトメトリ測定方法および光リフレクトメトリ測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して詳しい説明を行う。まず、この発明の実施の形態の説明の前に、既存の技術につき詳しく述べる。
図1は、C−OFDRによる光リフレクトメトリ測定装置の基本構成の一例を示す図である。図1において、周波数掃引コヒーレント光源1からの出力光は光方向性結合器Aにより分岐され、一方は参照光3として用いられ、他方は光被測定光回路4に入射される。被測定光回路4の内部で後方散乱された信号光5は光方向性結合器Aにより取り出され、光方向性結合器Bにより参照光3と合波されたのち受信器6により検波される。このとき、2光波の干渉により生じる干渉ビート信号をサンプリング装置7によりサンプリングし、測定したデータを周波数解析装置8にて解析することにより、被測定光回路4内の各位置からの後方散乱光強度分布が測定される。
【0008】
ここで、周波数掃引コヒーレント光源1からの出力光2の周波数を時間T、最大光周波数掃引幅ΔFで時間に対して直線的に掃引するとき、被測定光回路4内のある点Xで後方散乱された信号光により生じるビート信号の周波数Fbは、参照光と点Xで後方散乱された信号光との光路長差ΔL、光周波数掃引速度γ、光の屈折率n、および光速Cを用いて次式(1)により与えられる。
【数1】

【0009】
ただし、γ=ΔF/Tである。また、距離分解能Δzは受信ビート信号のスペクトル幅ΔAを用いて式(2)により与えられる。
【数2】

【0010】
ただし以上の条件は理想的な場合であり、現状のC−OFDRにおいては光周波数を良好な直線性で掃引することが困難である。
【0011】
図2は、周波数掃引コヒーレント光源1の光周波数の非直線性を示す図である。一定値F[Hz]を基準変調周波数として、光周波数は時間TのときにF+γT[Hz]なる値に掃引される。ここで、非直線性のある周波数掃引速度はγで表される。この周波数掃引速度の非直線性により干渉ビート信号のスペクトル幅は広がり、距離分解能の精度が低下する。
【0012】
図3は、この発明に係わる光リフレクトメトリ測定装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。この光リフレクトメトリ測定装置は、被測定回路における反射率の伝播方向に対する分布をC−OFDR測定する。図3において、光周波数掃引されたコヒーレント光源1からの出力光9は光方向性結合器Cにより分岐され、一方は測定光2として測定部11に入射し、他方はモニタリング光10としてモニタリング部12に入射する。測定部11による測定の結果とモニタリング部12によるモニタの結果とを解析部13に入力し、演算処理により被測定回路(測定手段11内)における後方散乱光強度分布を得る。
【0013】
測定部11はコヒーレント光源1の出力光と被測定回路からの後方散乱光との干渉ビート信号を検出する。モニタリング部12は例えば自己遅延ホモダイン検波により出力光の特性をモニタする。そのモニタ結果に基づいて解析部13は、コヒーレント光源1の光周波数掃引の非直線性を補正して干渉ビート信号に基づく測定結果を得る。
【0014】
図4は、図3の光リフレクトメトリ測定装置をより詳細に示す機能ブロック図である。モニタリング部12に入射されたモニタリング光は方向性結合器Dにより2分岐され、一方の光のみが遅延部14により遅延されたのち互いに方向性結合器Eで合波される。合波された光は受信器15により検波され、モニタリングビート信号が生成されてサンプリング装置16に入力される。サンプリング装置16は、解析部13に備わるクロック17のクロックに同期するタイミングでモニタリングビート信号の波形をサンプリングし、サンプリングデータを解析部13の周波数解析装置8に入力する。
【0015】
測定部11に入射された測定光11は図1と同様の処理を施され、干渉ビート信号がサンプリング装置7に入力される。サンプリング装置7はクロック17のクロックに同期するタイミングで、すなわちサンプリング装置16と互いに同期する間隔で干渉ビート信号の波形をサンプリングする。これにより得られたサンプリングデータは周波数解析装置8に入力される。
【0016】
次に数式を用いて定量的に説明する。コヒーレント光源1の出力光の光周波数を、一定値F[Hz]を基準変調周波数として時間TのときにF+γT[Hz]に掃引されるとする。周波数掃引速度の非直線性はγをパラメータとして表される。図4の遅延部14を長さ2Lの光ファイバとすると、方向性結合器Eにて合波された両光波の周波数差は2nLγ/cとなる。よって受信器15により検波されるモニタリングビート信号は次式(3)で与えられる。
【数3】

【0017】
このモニタリングビート信号の最大周波数Wは、W=2nLγmax/cとなる。ただしγmaxは、コヒーレント光源1の最大周波数掃引速度である。
【0018】
標本化定理によれば、R(t)を時間tの関数であるとし、これが0〜Wの範囲の周波数成分を持ち、W以上の周波数成分を含まないとすると、関数全体が一つに決まる。すなわちR(t)は次式(4)で与えられる。
【数4】

【0019】
ただし、Rnは1/(2W)秒間隔でサンプリングしたデータである。
【0020】
図5は、受信器15からの出力R(t)を1/(2W)秒間隔でサンプリングしたデータRnと、そのゼロクロス点ZNとを示す図である。図5(a)に示されるようには、
離散的なデータRnに式(4)を用いて連続関数R(t)を決める。図5(b)に示すR(t)のゼロクロス点ZNは次式(5)で与えられる。
【数5】

【0021】
ただしNは整数である。
【0022】
次に、図4においてコヒーレント光源1から反射点までの距離をl1、l2、…、lm(l1、l2、…、lm≦L)とし、各点での反射率をr1、r2、…、rmとする。ここで被測定光回路4の長さはLより短くなくてはならない。そうすると受信器6で検波される信号は次式(6)で与えられる。
【数6】

【0023】
すなわち、受信器15からのモニタリングビート信号と同じように最大周波数WはW=2nLγmax/Cとなる。
【0024】
図6は、受信器6からの出力(干渉ビート信号)X(t)を1/(2W)秒間隔でサンプリングしたデータXnと、t=ZNにおけるX(t)の値とを示す図である。干渉ビート信号X(t)はW以上の周波数成分を含まないので、連続関数X(t)は図6(a)のXnを用いて次式(7)で与えられる。
【数7】

【0025】
図6(b)はt=ZN(ゼロクロス点)におけるX(t)の値を示す図である。t=ZNでのX(t)は、式(6)のtを式(5)のZNで置き換えて次式(8)となる。
【数8】

【0026】
式(8)から明らかなようにSinの引数からγが消え、この式は正弦波を等間隔にサンプリングしたデータと同じ格好になる。従って、距離lmからのビート信号が周波数lm/Lのスペクトル成分に対応することになり、このことを用いてコヒーレント光源1のレーザ光周波数掃引の非直線性を補正することができる。
【0027】
式(8)の離散点(数列)を用いて高速フーリエ変換(FFT)を行うことで、伝搬距離lmとこの伝搬距離に応じた各位置の反射率rmを簡単に算出できる。上述のように式(8)の離散点は正弦波を等間隔にサンプリングしたデータと同じであるので、FFTのスペクトルの広がりを避けることができ、これにより掃引非直線性の影響なく高い距離分解能を実現できる。
【0028】
図7は、図4の光リフレクトメトリ測定装置における処理手順を示すフローチャートである。ステップS20でコヒーレント光源1の光周波数は掃引される。モニタリング部12は、受信器15から出力されるモニタリングビート信号を1/(2W)秒間隔でサンプリングし、サンプリングデータRnを内部メモリ(図示せず)などに記録する(ステップS23)。周波数解析装置8はこのサンプリングデータRnに式(4)を用いることにより連続関数R(t)を求め(ステップS25)、その値に0を代入してR(t)のゼロクロス点t=ZNを求める(ステップS27)。
【0029】
一方、測定部11は、受信器6から出力される干渉ビート信号を1/(2W)秒間隔でサンプリングし、サンプリングデータXnを内部メモリ(図示せず)などに記録する(ステップS24)。周波数解析装置8はこのサンプリングデータXnに式(7)を用いることにより連続関数X(t)を求める(ステップS25)。
【0030】
さらに周波数解析装置8は、モニタリング部12から受け取ったゼロクロス点のtの値を連続関数X(t)に代入し、X(ZN)を数列として求める(ステップS28)。そして周波数解析装置8は、X(ZN)に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行って、伝播距離に応じた各位置(反射点)の反射率rmを算出する(ステップS29)。
【0031】
以上説明したようにこの実施形態では、コヒーレント光源1の周波数掃引の非直線性をモニタするモニタリング部12を設け、そのモニタの結果に基づいて測定部11における測定結果を補正するようにしている。すなわち、モニタリング部12において自己遅延ホモダイン検波により光源出力光のモニタリングビート信号を生じさせ、サンプリング部16によりその波形をサンプリングする。その波形を示す連続関数R(t)を解析し、ゼロクロス点を求める。また測定部11における干渉ビート信号をサンプリングして得た連続関数にR(t)のゼロクロス点を代入し、得られた数列にFFT処理を施して測定結果を得るようにしている。
【0032】
このようにすることで、コヒーレント光源1の光周波数掃引に非直線性がある場合でもFFTのスペクトルの広がりを防ぐことができる。従って光周波数掃引の非直線性に制限されることなく、C−OFDRによる測定を高い距離分解能で実施することの可能な光リフレクトメトリ測定方法および光リフレクトメトリ測定装置を提供することが可能となる。
【0033】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】C−OFDRによる光リフレクトメトリ測定装置の基本構成の一例を示す図。
【図2】周波数掃引コヒーレント光源1の光周波数の非直線性を示す図。
【図3】この発明に係わる光リフレクトメトリ測定装置の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図4】図3の光リフレクトメトリ測定装置をより詳細に示す機能ブロック図。
【図5】受信器15からの出力R(t)を1/(2W)秒間隔でサンプリングしたデータRnと、そのゼロクロス点ZNとを示す図。
【図6】受信器6からの出力X(t)を1/(2W)秒間隔でサンプリングしたデータXnと、t=ZNにおけるX(t)の値とを示す図。
【図7】図4の光リフレクトメトリ測定装置における処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0035】
1…周波数掃引コヒーレント光源、2…測定光、3…参照光、4…被測定光回路、5…信号光、6…受信器、7…サンプリング装置、8…周波数解析装置、9…光源からの出力光、10…モニタリング光、11…測定部、12…モニタリング部、13…解析部、14…遅延部、15…受信器、16…サンプリング装置、17…クロック、A,B,C,D,E…光方向性結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光周波数を掃引されるコヒーレント光源からの出力光を測定対象に入射してこの測定対象における反射率の伝播方向に対する分布を測定するコヒーレント光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(C−OFDR)である光リフレクトメトリ測定方法において、
前記出力光の特性をモニタし、
前記出力光と前記測定対象からの後方散乱光との干渉ビート信号を検出し、
前記光周波数掃引の非直線性を前記モニタした特性に基づき補正して前記干渉ビート信号に基づく測定結果を得ることを特徴とする光リフレクトメトリ測定方法。
【請求項2】
前記コヒーレント光源からの出力光を分岐して得たモニタリング光を自己遅延ホモダイン検波してモニタリングビート信号を生成し、このモニタリングビート信号により前記出力光の特性をモニタすることを特徴とする請求項1に記載の光リフレクトメトリ測定方法。
【請求項3】
前記モニタリングビート信号の波形と前記干渉ビート信号の波形とを互いに同期する間隔でサンプリングし、
前記モニタリングビート信号の波形のサンプリングデータからこのモニタリングビート信号の波形のゼロクロス点を求め、
前記干渉ビート信号の波形のサンプリングデータからこの干渉ビート信号の前記ゼロクロス点における値を数列として求め、
前記数列に対するフーリエ変換処理により前記測定結果を得ることを特徴とする請求項2に記載の光リフレクトメトリ測定方法。
【請求項4】
測定対象における反射率の伝播方向に対する分布をコヒーレント光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(C−OFDR)により測定する光リフレクトメトリ測定装置において、
光周波数を掃引されるコヒーレント光源と、
このコヒーレント光源の出力光の特性をモニタするモニタ部と、
前記出力光と前記測定対象からの後方散乱光との干渉ビート信号を検出する測定部と、
前記光周波数掃引の非直線性を前記モニタした特性に基づき補正して前記干渉ビート信号に基づく測定結果を得る解析部とを具備することを特徴とする光リフレクトメトリ測定装置。
【請求項5】
前記出力光を2分岐して一方をモニタリング光として前記モニタ部に入射する分岐手段を具備し、
前記モニタ部は、
前記モニタリング光を2分岐する分配部と、
この分配手段により分岐された一方の光を遅延する遅延部と、
前記分配手段により分岐された他方の光と前記遅延手段により遅延された光とを合波してモニタリングビート信号を生成する方向性結合器と、
前記モニタリングビート信号の波形をサンプリングしたサンプリングデータを前記解析部に入力するサンプリング手段とを備えることを特徴とする請求項4に記載の光リフレクトメトリ測定装置。
【請求項6】
前記測定部は、
前記干渉ビート信号の波形を前記サンプリング手段と互いに同期する間隔でサンプリングするサンプル手段を備え、
前記解析部は、
前記モニタリングビート信号の波形のサンプリングデータからこのモニタリングビート信号の波形のゼロクロス点を求め、
前記干渉ビート信号の波形のサンプリングデータからこの干渉ビート信号の前記ゼロクロス点における値を数列として求め、
前記数列に対するフーリエ変換処理により前記測定結果を得ることを特徴とする請求項5に記載の光リフレクトメトリ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64503(P2008−64503A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240498(P2006−240498)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】