説明

光ルミネセンスを用いて痕跡量の爆発物を検出するための方法

爆発物残渣を含有すると考えられるサンプルを入手すること、並びに試料および試料を含有する担体コンテナを試薬と接触させることを含む痕跡量の爆発物を検出するための方法。試料と担体は、光を通さない箱中に含まれる間中、適切なレーザーまたは他の光源により照射される。試料と担体は、痕跡量の爆発物を含有するという指標として、試料の光ルミネセンスを測定するために消失する間観測される。試薬は、アルカリ性含有物質、ランタニド錯体、増感配位子若しくはナノ結晶を含有するランタニド錯体であり得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2003年5月27日に提出された米国仮出願第60/473,434号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、痕跡量の爆発物の検出に関し、より特には、レーザーまたは他の光源により誘起される光ルミネセンスを用いる、痕跡量の爆発物の現場で使用して測定するための方法に関する。
【0003】
発明の背景
テロリストによる爆発物の使用が増加したことは、警察機関、警備職員および空港機関に対して重大な問題を提起している。郵便配達を通じて、手紙爆弾、小包爆弾または手荷物爆弾のような爆発物装置を送ること、および一般市民と軍隊の双方に対する爆発物装置の使用が世界中で増加している。
【0004】
少量の爆発物が市販の爆発物と接触する間に手に移ること、あるいは、少量の爆発物が、爆発物装置の作製中に手紙爆弾および小包の外面に堆積し得ることが知られている。さらに、少量の爆発物が、爆弾または他の爆発物装置を組み立てる際に用いられるテーブル、ベンチまたは他の支持物の表面にも堆積し得る。このような装置の作製において用いられる大抵の爆発物は、表面に痕跡量のこれら爆発物が拡散するに十分な、周囲条件における蒸気圧を有する。空港ターミナル、政府ビルディング、大使官邸、航空機および輸送手段における爆発物の検出は、痕跡量の爆発物残渣の存在の迅速且つ明白な確認を与えることができる、簡単な携帯できるおよび経済的な装置を必要とする。
【0005】
この分野における関心の結果、非常に多くの方法および装置が、当該材料の存在を検出し、その使用を妨げることにより一般市民に対する危険を減ずるために開発されている。従来用いられている手法は、X線検出並びに熱中性子分析および核共鳴吸収のような核手法を含む。これら手法は、手荷物または他のコンテナ中に見出される、隠された、エネルギーを持つ物質の感知において適用できることが見出されている。しかしながら、ヒトにより運ばれる場合に、爆発物のような危険な化学物質の存在を検出することは非常に困難である。健康上の危険、およびX線および核手法にヒトをさらすために、当局は、手荷物または他のコンテナに対して出来るほど徹底的に、同じやり方でヒトを調べることができない。
【0006】
結果として、大気中の対象化合物蒸気の存在を検出する目的にかなう他の従来技術の方法が、現に存在する。従来技術の中で、用いられる蒸気感知手法は、大まかなクロマトグラフィー/化学ルミネセンス、四重極質量分析法、イオン移動度スペクトル測定、並びに探知犬のような動物である。
【0007】
これら手法は興味深く思えるが、これらは大気中の蒸気分析を可能とするが、その適用は限られる。例えば、ガスの感知方法であるクロマトグラフィー/化学ルミネセンスを用いる場合に、結果が得られる前の応答時間は非常に長く、一方、四重極質量分析法は、非選択的なイオン化を被るという点で制限され、すなわち、イオン化領域に導入される全ての種がイオン化され、質量分析計へと送られる。さらなる手法であるイオン移動度スペクトル測定は、極めて感度が高く、比較的短い応答時間を有する。しかしながら、この方法は、濃度に対するシグナル依存性が非直線的であるために、他の方法と同じほど量的に正確ではない。さらに、水との対象分子のクラスター形成、および低い質量分析分解能は、頻繁に直面する問題である。
【0008】
加えて、レーザー手法の使用が、痕跡量の大気中のニトロ化合物の検出のために用いられている。疑わしい化合物を含む大気の試料は、対象の構成単位をNOとその対ラジカルに光分解するために、226nmで、またはその付近で動作するレーザーに供され、その後、共鳴多光子イオン化および/またはレーザー誘起蛍光により特有のフラグメントNOを検出する。この手法も興味深く思えるが、これは、分析チャンバ中に導入される所望されるガス量を達成するために、パルスノズルを利用できる設備の使用を必要とし、従って、高価であり、装置を操作するに困難であることを余儀なくさせる。
【0009】
痕跡量の爆発物を検出するための、さらなる爆発物検出キットおよび方法は、疑わしい源から試料を提供し、および爆発物材料に関する特徴的な発色を引き起こす目的で、試料を多くの試薬と次々と接触させる手法を用いる。この方法は、空港、越境、バス発着所およびバスにおけるガードマン、警察官、および兵士のような当業者でない人物による、爆発物の単純且つ迅速な検出のための操作により適している。
【0010】
テロリストによる爆発物の使用は、世界中で常に増大する問題となっているために、非当業者により、痕跡量の爆発物の非常に鋭敏な検知を提供し得る装置を正確に操作されることができる方法および装置を得ることは非常に有利であり、その必要性があることが、広く認識されている。
【0011】
発明の概要
痕跡量の爆発物を検出するための方法は、適切な源から試料を単離すること、試料に適切な試薬を適用すること、光源を用いて試料を照らすこと(励起)、および試料の光ルミネセンスを観察することを含む。光ルミネセンスは、放射光線の波長よりも短い波長の光の先の吸収により生じる蛍光またはリン光のいずれかの光の放射を指す。
【0012】
発明の詳細な記載
重要なほぼ全ての爆発物は、4つの以下の化学カテゴリーの1つに属する。
【0013】
1. 2,4,6−トリニトロトルエン(TNT)、2,4−ジニトロトルエン(DNT)、ピクリン酸およびその誘導体のようなポリニトロ芳香族化合物、
2. ニトロセルロース(HMXおよび無煙火薬)、ニトログリセリン(NG)、シクロトリメチレントリニトロアミン(RDX)、
3. 黒色火薬またはANFO(硝酸アンモニウムおよび燃料油(ammonium nitrate and fuel oil)の混合物)のような無機硝酸塩、
4. 無機塩素酸塩または無機臭素酸塩。
【0014】
これらのタイプの爆発物の比色爆発物検出は、爆発物に適用された際に、大抵の場合に赤みを帯びた色を生じるアルカリを基とする試薬の使用を通じて成し遂げられる。カテゴリー4の爆発物は、大抵、青色を生ずる。
【0015】
本発明者等は、既知の分野に存在する典型的な試薬を用いて処理されたこのような爆発物を、レーザーまたは他の光源による照射に供した際に、驚くべき量で、感度において10ゲイン(three factors of 10 gain)まで、ルミネセンスを伴わないものからの感度ゲインファクターを増加させるルミネセンスを結果として生じることを発見した。
【0016】
市販の試験キットは、今日市場で入手することができ、本発明の使用による検出の対象となる、テロリストにとって典型的に入手できる爆発物の種類と反応する、直ちに利用できる試薬を含む。このような直ちに利用できる試験キットの1つが、爆発物を検出するための方法およびキット(Method and Kit for Detecting Explosives)と表題をつけた、イエール・マーガリット(Yair Margalit)に対して1994年3月22日に発行された米国特許第5,296,380号に十分に開示されており、この特許を、その全てを本明細書の一部として本願に援用する。
【0017】
そこに開示されているように、4つの異なる試薬、A、B、CおよびDが、ろ紙または疑わしい痕跡量の爆発物の同様の担体に適用するために用いられる。試薬のそれぞれは、特定の爆発物と結合する能力を有し、これが起こると、爆発物を示す呈色を生じる。爆発物と試薬の結果物は、レーザーまたは同様の光源による照射に供された際には、光ルミネセンスを生じ、痕跡量の爆発物の存在の非常に明白な確認を可能にする高められた感度を提供する。
【0018】
試薬A
(ニトロ芳香族化合物用)
スルファニルアミド(20g)を、DMSO(700ml)および40:60のメタノール/イソプロピルアルコール(300ml)中の5%KOHの磁気的に攪拌された混合物中に溶解する。少量の残渣が残る場合には、貯蔵に移しアンプルに詰める前に、液相をデカントまたはろ過しても良い。この試薬は、TNT、DNT、TNBまたはテトリルのようなニトロ芳香族化合物とは、ピンク〜赤、または青紫〜赤の呈色を与え(約5×10−4mgの感度)、およびピクリン酸またはその塩とは、黄色の呈色を与える(10−3mgの感度)。
【0019】
試薬B
(硝酸の有機エステルおよびニトロアミン用)
N−(1−ナフチル)エチレンジアミン(3g)を、85%のリン酸(100ml)と2回蒸留水(900ml)の磁気的に攪拌された混合物に加え、続いて、ヒドラジン硫酸塩(5g)およびチオ硫酸ナトリウム5水和物(0.5g)を加える(メタ重亜硫酸塩またはアスコルビン酸を、追加として、あるいは硝酸塩から亜硝酸イオンへの還元剤として用いることができることが現在考えられる)。活性炭(1g)を加え、攪拌をさらに15分間続け、その後、貯蔵に移しアンプルに詰める前に、混合物をろ過する。この試薬は、硝酸エステル、またはダイナマイト、HMX、無煙火薬、ニトログリセリン、PETN、RDS、C4およびセムテックスのようなニトロアミン爆発物とは、青紫〜赤の呈色を与える。この試験の感度は、10−4〜10−5mgの範囲内である。
【0020】
試薬C
(無機硝酸塩用)
磁気的に攪拌されたDMSO(600ml)とイソピロピルアルコール(400ml)の混合物に、予め乳鉢中で細かく磨り潰された亜鉛粉末(20g)を加える。攪拌を10分後に停止する。さらに10分間放置した後、濁った灰色液体である所望の上澄みを、粗い亜鉛粒子の残渣からデカントし、アンプルに詰めるために用いる前に、貯蔵容器に注ぐ。このように調製した亜鉛を含むエマルジョンは、光に対して、および通常の条件下で非常に安定であり、アンプルは、着色される必要がない。この試薬は、硝酸塩とは、青紫〜赤、または赤の呈色を与え、10−5mgくらい少量の硝酸塩を感知することができる。
【0021】
試薬D
(塩素酸塩または臭素酸塩用)
DMSO(90ml)、エタノール(100ml)および水(500ml)の混合物に、95%の硫酸(400ml)を注意深く加えることにより、液体混合物をまず調製する。その後、アニリン硫酸塩(23g)を、均質な溶液が得られるまで液体混合物を攪拌しながら加える。このように調製された試薬を、アンプルに詰めるために用いる前に、貯蔵容器中に注ぐ。これは、光に対して、および通常の条件下で非常に安定であり、アンプルは着色される必要がない。この試薬は、10〜20秒で、硝酸塩とは、強い青色の呈色を与え、これは放置すると褪色する。これは、2×10−2mgくらい少量の塩素酸塩を感知することができる。青みを帯びたピンク色が、臭素酸塩の存在下では得られ、過塩素酸塩は、陽性反応を与えない。
【0022】
感度研究を行うために、目的の材料の試料を得た。ろ紙に、問題の爆発物の試料をスポットする。その後、上記したタイプの試薬を、爆発物のスポットに加えた。同時に、対照を与えるために、爆発物の試料が存在する部分から離して、試薬の滴を加えた。その後、試薬に関して上記した通りの所望する色を呈するかどうか決定するために、試料を観察した。その後、試料と対照を、適切なレーザーが取り付けられたコンパクトで軽いタイプの箱の中に入れた。この箱は、反射レーザー光を遮断し、問題となる蛍光の透過を可能にする適切なフィルタを備えた覗き口を含んだ。その後、レーザーを試料と対照に照射し、結果を観察した。レーザー(130mW)は、532nmで操作された。感度は、通常の比色感度と比較して、少なくとも2桁分だけ向上したことが観察された。光ルミネセンス検出モードは、光ルミネセンスは、試薬Bを加えれば生ずるために、カテゴリー1とカテゴリー2を区別しない。カテゴリー4の爆発物の光ルミネセンス検出のために、通常の比色手順とは異なり、試薬Dの次に試薬Bを加える。これは、生成物の色を、青色からオレンジ色へと変化させる。このオレンジ色の生成物は、さらに、緑色励起下で光ルミネセンスを示す。
【0023】
光ルミネセンスを達成するために用いられる光源は、問題となる材料により吸収される適切な色を発する必要がある。光源は、電池式であり、この分野で訓練を受けていない人にも容易に用いられることが望まれる。532nmで緑色光を発し、電池式の懐中電灯サイズであり、懐中電灯の容易さで操作される周波数2倍CW(パルスとは反対に)Nd:YAG(またはND:YVO)レーザーのような、市販の光源が存在する。また、安価な手持ちサイズの紫外線ランプも存在する。これらは、近紫外(300nmよりも大きい波長、または300nmスペクトル範囲よりも小さい深紫外波長のいずれかで動作し得る。355nmで動作し、電池により動力を供給され得る、簡便なUVレーザーが存在する。最終的には、発光ダイオードおよびフラッシュランプの使用が想定される。爆発物の比色検出に目下用いられる化学物質は、大抵、特許第5,296,380号に記載される種々の試薬の検討において上に示されたような青、ピンク〜赤、赤、または赤〜青紫の試験スポットを生じる。これらの着色された生成物が光ルミネセンスを示した場合、これらは、青色生成物の場合には、オレンジ赤励起を必要とし、赤みがかった生成物の場合には、青色−緑色励起を必要とする。UV励起に反応する爆発物検出化学物質が、本出願においても適している。緑色励起またはUV励起に反応する光ルミネセンス法に重きが置かれる。以下の表は、本発明の光ルミネセンス法を用いた場合に、種々の爆発物について得られる典型的な感度ゲインを示す。
【表1】

【0024】
背景色または背景蛍光の中での痕跡量の爆発物の検出を含む一定の状況下では、爆発物の検出を覆い隠されることがある。そこで、背景を抑えるために、時間分解(time-resolved)光ルミネセンス手法により爆発物を検出することが、興味の対象となる。爆発物をランタニド元素で標識し、その後時間分解検出装置を用いることにより、これが達成されることが見出された。
【0025】
ランタニド元素は、化合物中に、三価の状態で典型的に存在する。これらのいくつか、最も良く知られるユーロピウムおよびテリウム、Eu3+およびTb3+は、高い量子効率でルミネセンスを示す。ユーロピウムイオンの最も激しいルミネセンスは、約615nm(赤色)において生じ、これは、上位の状態から下位の状態への遷移に由来する。テルビウムについては、対応する状態は、それぞれ、であり、545nmで緑色のルミネセンスを伴う。ルミネセンス効率は高いが、基底状態(ユーロピウムについては、テルビウムイオンについては)からの遷移が、パリティー禁止およびスピン禁止であるために、ランタニドモル吸光係数(光を吸収するイオンの能力に比例する)が非常に低いので、ルミネセンス強度は一般的にかなり低い。さらに、多くのランタニド化合物は、水和水を含み、これらは、分子振動が電子状態に結びついて、良く知られる内部転換および項間交差メカニズムを介して分子蛍光を消光するものとほぼ同じ方法で、0−H振動倍音のランタニド電子状態との結びつきを介して、ランタニド光ルミネセンスを消光する。消光の度合いは、化合物中の水和水の数に比例する。非常に激しいルミネセンスを示すランタニド化合物は、ランタニドイオンに、(a)ランタニドイオンの全ての結合部位を占め、よって水和水を排除し、(b)十分に光を吸収し、フォースター(Forster)のエネルギー移動プロセスを介して、この励起エネルギーを、(ランタニドイオンそれ自身による直接的な吸収よりもずっとより効率的に)ランタニドイオンに移行させる有機化合物を結合することにより調製され得る。典型的に、ランタニド(ユーロピウムまたはテルビウムのどちらも)錯体の励起は、紫外部である(配位子に吸収され、ここから、フォースタープロセスを介してより高いランタニド状態に移され、ランタニドイオンのより低い放射ランタニド励起状態への無放射減衰が続き、ランタニドルミネセンスが続く)。放射状態(ユーロピウムについては579nm、テルビウムについては488nm)への励起の直接的なエネルギー移動に相当する配位子による作用は、この(低い)励起状態は、満足に配位子状態(パリティー基底状態)に結びつかないために、効果的でなく、従って、配位子−ランタニドエネルギー移動に容易に従わない。励起エネルギーをランタニドイオンに移行させる吸収配位子(absorbing ligand)は、しばしば、増感配位子(sensitizing ligand)を指す。このようなものの1例を以下に示す。
【化1】

【0026】
比色検出計画において、光の適切な性質(吸収/反射を介する)は、色と強度である。光ルミネセンス計画において、放射光の適切な性質は、同じく色と強度であるが、ここには利用できる第3の性質、すなわち、ルミネセンス寿命が存在し、ひとたび励起(照射)が停止した際のルミネセンスの減衰の時間である。典型的な分子蛍光の寿命は、ナノ秒単位である。光ルミネセンスは、ずっとより長い寿命を有する。ランタニドルミネセンスを、ミリ秒単位のその長い寿命のため、および発光プロセスに含まれる2つの状態が、異なるスピン多重度を有するために、光ルミネセンスとして正確に分類することができる。長いランタニドルミネセンス寿命は、強い背景蛍光の存在下、時間分解手法による検出を可能にし、従って法科学関連においてだけでなく、多くの他の分野においても同じように非常に興味深い。
【0027】
ランタニドは、9の総配位を有する。これは、一般的なランタニド塩が、LX 6HOの形態であることを言及することにより容易に確かめられる。式中、Lは、三価のランタニドカチオン(例えば、Eu3+またはTb3+)、Xは、一価のアニオン(大抵は、クロライドまたは硝酸塩)であり、6つの水分子により配位が完成する。水の酸素端を介するランタニドイオンへの水の結合は、イオン性でもなく、様々な有機分子のような典型的な共有結合のいずれでもない。これは、いくつかの静電性質、すなわち、水素結合を連想させる、荷電物体と電気双極子の間の引力を有し、およびいくつかの共有結合特性もまた有する。高いルミネセンスを示すランタニド錯体を形成するために有用である有機配位子の多くは、二座である(2つの配位部位を占める)。従って、このような配位子の4つが、ランタニドに結合することができ、配位子が大きい場合には、占有されずに残り得る1つの空いた配位部位を残し、立体障害が、この最後の部位への水または他の種類の配位子の接近を除外し、あるいは、この部位は、単座配位子により占められる。ここで最も問題となるのは水であり、良く知られるランタニドルミネセンス消光剤である。1つの水和水は、まだ容認でき得るが、多数の水和水は、ランタニドルミネセンスを非常に重大に低下させ、消光は、水和水の数に比例する。ランタニドが配位錯体を形成する場合に、これらは、例えば、水においては酸素に対する結合の優先性を示す。この優先性は、広範に分布するNO官能性によって大抵の爆発物において示されるように、酸素がまるで負に荷電した物質であるかのように働く場合に、さらに高まり得る。水についてのランタニドの傾向は、高いルミネセンスを示す多くのランタニド錯体は、水が増感配位子を置換するために、水の存在下にひとたび置かれると消光されるというものである。
【0028】
Eu(TTFA)、Eu(OP)および対応するテルビウム錯体を、市販のランタニドクロライド六水和物塩と、TTFAまたはOPをメタノール中で混合することにより非常に簡単に調製した。1:4のランタニド:配位子の化学量論比率を超える、5倍過剰の配位子を用いた。生じた錯体の濃度は、約3×10−4Mであった。その後、爆発物をスポットしたクロマトグラフィー紙を、ランタニド錯体のメタノール溶液中に1秒か2秒間浸すか、または、ランタニド錯体溶液をスポットした。OPおよび無煙火薬の場合に、この紙を1分か2分間乾燥するために放置する間ずっと、OPに適切な深UV励起下においた。爆発物が位置する激しいルミネセンスを示す(赤色)領域の周りに、明るい青色ルミネセンスを示すハローが観測され、これは、メタノール溶媒を介する爆発物スポットからの残渣水の置換から、またはランタニド錯体の配合において用いた過剰のOPの移動から生ずる。ハロー領域において、水は、さらに、未反応の錯体の配位子を置換し、ルミネセンスを消光し得、および/または過剰のOPが、ハロー領域のルミネセンスを支配し得る。従って、ハロー領域において、観察されるルミネセンスは、遊離OP(明るい青色)のものであった。ハロー領域のさらに外では、ランタニド錯体の配合における過剰のOPのための遊離OPの明るい青色ルミネセンスと共に、未反応のランタニド錯体に由来する激しい(赤色)ルミネセンスが見受けられる。この領域における全体的な結果は、ピンクがかった赤色の観測であった。試料を、ユーロピウム発光に対して調整された帯域フィルタ(ウエッジフィルタ)を介して調べた際に、ハロー領域および爆発物スポット領域からはルミネセンスが見受けられず、未反応の錯体の領域は、少なくとも視覚的に認識され得るレベルに応じる同様の強度を示した。ひとたび、試料を、2秒間、流水道水中で続いてすすぐと(あるいは、単に、水に短時間浸すと)、結果、未反応錯体から見受けられたルミネセンスがなくなる。観察前に紙を乾燥させる必要はなく、または、上述のメタノールスポット後または浸漬後に、いかなる長さの時間の間、紙を乾燥させる必要のいずれもない。従って、本手法は極めて速い。照射は、深UVにおいて動作する手持ちサイズのUVランプ(モデルUVGL−58、ミネラライト(Mineralite)(商標登録)ランプ、UVP、アップランド、カリフォルニア)を用いた。同様の結果が、RDXを用いて、および双方の爆発物試料についての対応する緑色発光テルビウム錯体を用いて得られた。結果は、対応するTTFA錯体と同様であった。量子ドットとも呼ばれる、光ルミネセンスを示す半導体ナノ結晶の出現によって、ナノ粒子またはナノ複合体の直接的な増感が可能である。この直接的な増感は、ふつうは量子ドット(Qdot)と呼ばれる、CdSナノ結晶およびCdSeナノ結晶によりユーロピウムについて達成される。これらQdotは、発光ユーロピウム状態との不可欠なスペクトルの重なりに必要とされるオレンジにおいて発光する。Qdotは、ランタニドに結合することにより用いられ得る。しかしながら、供与体−受容体エネルギー移動は、実際は、化学結合に依存していない。これは、供与体と受容体が、密に近接することで足りる。エネルギー移動効率は、R−6に依存し、ここで、Rは、供与体と受容体との間の距離である。勿論、化学結合が、小さいRを確実にするために理想的である。ユーロピウム錯体、すなわち、Eu−TTFA(テノイルトリフルオロアセトン)およびEu−OP(オルト−フェナントロリン)を、メタノール溶液中、3ミリモルの濃度で調製した。配位子は、増感剤として働くというよりもむしろ、ルミネセンスを消光する水を除外するためのみにそこにある。この錯体を、適切な担体上に(1滴)スポットした。Qdot(商標登録)585 ストレプトアビジン接合体を、クワンタムドット社(Quantum Dot Corp.)から入手した。これは、Qdotの水懸濁物であり、受け取られるものとして用いられ、緩衝液溶液を伴わなかった。これを、TLC板上のEuスポット上に、1滴量直接的にスポットした。対照EuスポットとQdotスポットを単独で、対照として加えた。
【0029】
Qdotは、UVおよび緑色励起の双方に反応する。UV励起下では、ルミネセンス(対照および他のスポット)は、驚くほどに激しく、対照Euスポットのものよりも非常により激しかった。532nm緑色励起下では、Eu対照スポットが、予測される通りに全くルミネセンスを示さないのに対して、Qdotは、非常に激しい発光を示し続ける。Qdotルミネセンスは、32.5nmの半波高全幅値で、590nmで頂点に達した。579nmにおける供与体−受容体の重なりに関しては、Qdotは、なお、最大の供与体ルミネセンス強度の70%にある。しかしながら、Eu発光波長である約615nmにおいて、Qdotは、なお、最大Qdotルミネセンスの30%にあり、これは、エネルギー移動により生じるEu発光を探す場合に、非常に大きな背景発光強度を示す。従って、本発明者等は、予測される非常に弱いEuルミネセンスを背景の下から見つけ出す目的で、この背景を抑えるために、時間分解分光法を用いる必要があることを予測した。標準ルミネセンス分光法において、532nm励起下で、右側の波長(約615nm)および右側の幅(約5nm)における明らかに特徴付けられる肩部が、重なったスポットにおいては見受けられ、Qdot対照スポットにおいては見受けられなかった(Eu対照スポットは、全くルミネセンスを示さなかった)。これは、Qdot−Euエネルギー移動により得られる、最大Qdot発光強度の4%と算出されるEu発光の強度を示した。本発明者らは、これを、印象的なエネルギー移動として解釈し、QdotとEuとの間の上記したR近接が、化学結合により得られるのでなく、単に多孔性の支持体上に、互いに重ねて滴を単に置くことにより得られるものであった。ストレプトアビジン接合は、大きい部位であり(おおよそ60kDa)、従って、ユーロピウムイオンと量子ドットとの間の近接は、それ自身苦しい。単純な機械的光チョッパーを基とする装置を用いると、特徴的な赤色のユーロピウム発光の目による直接的な時間分解可視化が、それでもなお、532nm励起下で達成された。ユーロピウムルミネセンスは、クロライド、OPおよびTTFAユーロピウム化合物を用いる532nmの励起下では観察されなかった。レーザー(15mW)によるUV励起(355nm)下では、典型的な例としてのRDXが、Eu/TTFAで標識された際に、比色感度を超える1桁の感度ゲインが達成された(上に記載したものにおいては、非時間分解モードを用いる対応する第1世代の分野の装置を示す)。レーザーは、実際は、6kHzで動作するパルスレーザーであった。約0.4ミリ秒の長いユーロピウムルミネセンス寿命を与えるが、しかしながら、レーザーは、単純な標準または機械的光チョッパーを基とする時間分解可視化を可能にするCWであったかのように働く。結果は、近紫外励起下での対応するTTFA錯体と同様であった。
【0030】
実地の検出の筋書きにおいて、(通常の実地試験手順におけるように)化学処理した後、光源のための、および目視用フィルタ装備接眼レンズのための口を有する(小さい)光を通さない箱中に、痕跡量の爆発物を採取した綿棒を配置する。装置は、組み立てるに容易であり、小型で、高価ではない(光源を除く)。試薬を用いる我々の結果では、先に述べた電池式のレーザーが、実際に実行できる。痕跡量の爆発物の実地検出は、その場で行われる(綿棒で採取する(swabbing)ことよりむしろ)という場面を想像するであろう。ここで、ランタニドアプローチは、時間分解可視化が、(光学フィルタリングの効果がない場合に)背景色または背景蛍光の除去を可能にするという点で価値がある。ランタニドの長いルミネセンス寿命が得られるので、これは達成するに困難ではない。単純な光チョッパー装置が、これを達成した。チョッパーは、適切なトリガーを引き起こすことを、上記の光を通さない箱の接眼レンズ位置に置かれる近接結像マイクロチャネルプレートイメージインテンシファイア(proximity-focused microchannel plate image intensifier)に提供するように容易に設計され得、目による可視化の感度よりもより高い感度が所望される場合に、時間分解画像は、イメージインテンシファイアの蛍光スクリーン上で見られる。あるいは、増感OCDカメラを用いることができる。光チョッパーブレードは、2組の開口を有し得、1つは励起光を遮断するためのものであり、他方は、適切なゲート遅れとゲート幅を、イメージインテンシファイアに、当該技術分野において良く知られた関連電子工学による光センサーの組み合わせである発光ダイオード(LED)を介して提供するためのものである。上記のルーチン型の装置と比較して、さらなるチョッパーの費用、および所望するならばインテンシファイアの費用を有していても、時間分解型が、ルーチン型と同じくらい広範に展開される必要があり得るということはないであろう。
【0031】
光ルミネセンスを示すナノ結晶とナノ複合体の出現は、爆発物界におけるさらなる見通しを提供する。ここで、爆発物に結合する接合配位子を用いて化学的に官能性を持たせたこのようなナノ粒子で標識された、爆発物の痕跡量の直接的な光ルミネセンス検出を予知することができる。上記のルーチン実施において、または機械的な光チョッパーが電気工学変調器により置き換えられ得る、若しくはレーザー/光チョッパーの組み合わせが、355nmで動作する周波数3倍のNd:YVO4レーザーのようなパルスレーザーで置き換えられ得る適切な時間分解様式において、ランタニド法に類似したナノ粒子法を用いることができる。このようなレーザーは、(10−8〜10−6秒のナノ粒子ルミネセンス寿命と釣り合う)適切な短いパルス幅、高い繰り返し数(数十kHz)を有し、100mW〜ワットにわたる平均パワーを提供し、および普通の家庭用電流で動作する。上記のランタニド戦略に関して、これらのレーザーは、長いランタニドルミネセンス寿命を与えるために、これらがまるでCWであるかのように働き、直接的に、または時間分解目的のための上記した簡単な機械的光チョッパーと共に用いられ得る。これらが提供するパワーは、上記した手持ちサイズのUVランプから得られるものよりも数桁分大きく、従って、爆発物検出感度を大いに高める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
痕跡量の爆発物を含む試料を単離すること、
前記試料を試薬と接触させること、
試料/試薬を、光を通さない閉鎖容器に入れること、
試料/試薬を、レーザーまたは他の光源で照らすこと、および
試料/試薬により放射される光ルミネセンスを観察すること
を包含する痕跡量の爆発物を検出するための方法。
【請求項2】
前記試薬が、アルカリ性を基とする試薬である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試薬が、増感(sensitizing)配位子を有するランタニド錯体である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザーが、近紫外で動作する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザーが、532nmで動作する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬が、ナノ結晶である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記光源が、緑色波長で動作するものである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザーが、532nmで動作する緑色レーザーである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
光ルミネセンスの観察は、時間分解可視化法を利用する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試薬が、増感配位子を有するランタニド錯体である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ランタニド錯体が、ユーロピウム錯体である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記増感配位子が、ナノ結晶により置き換えられる請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記増感配位子が、ナノ結晶により置き換えられる請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ結晶が、Cd Seである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ結晶が、Cd Seである請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記時間分解可視化法が、光チョッパーを用いて照射を中断することを含む請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2007−501416(P2007−501416A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533277(P2006−533277)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/015973
【国際公開番号】WO2004/106907
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505439772)
【Fターム(参考)】