説明

光互変的な緩和反応速度法

【解決手段】 本発明は、少なくとも1種類の化学種が少なくとも1種類の蛍光団を含有しているという前提で、試料中の多数の化学種間の化学反応の特徴的な反応速度を測定する、以下の方法段階を含む:1.化学反応の非平衡状態を試料に光を当てることによって生じさせ;2.および−関係する種の濃度の緩和を、少なくとも1つの区分を少なくとも1種類の蛍光団の蛍光信号によって、時間分けして観察する方法において、少なくとも1種類の調べようとする化学反応生成物が、FRET−ドナーおよびFRET−アクセプターよりなるFRET−対のパートナーをそれぞれ含有する2つの種の結合を有し、その際に・FRET−アクセプターが、吸収スペクトルが適当な波長の光を当てることによって変化しうる光互変体であり、・FRET−ドナーが、発光スペクトルがFRET−アクセプターの吸収スペクトルとオーバーラップ領域を有している蛍光団であり、該オーバーラップ領域の大きさがFRET−アクセプターの光互変状態に依存しており、そして
・化学反応の非平衡状態を生じさせるために使用される光がFRET−アクセプターの光互変状態につなげる波長を有することを特徴とする、上記測定方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類の化学種が少なくとも1種類の蛍光団を含有しているという前提で、試料中の多数の化学種間の化学反応の特徴的な反応速度の大きさを測定する、以下の方法段階を含む:
− 化学反応の非平衡状態を試料に光を当てることによって生じさせ、そして
− 関係する種の濃度の緩和を、少なくとも1つの区分を少なくとも1種類の蛍光団の蛍光信号によって、時間分けして観察する
方法に関する。
【0002】
この種の方法、例えばいわゆる閃光分解 (Flash-Photolysis) 法は蛍光検出を用いる緩和分光分析法として一般に知られた方法である。例えばEigen M.; DeMaeyer L.の“Theoretical basis of relaxation kinetics(緩和反応速度の理論的基礎)” “Investigations of rates and mechanisms of reactions(反応速度および反応機構の研究)”、第III部,3、第3版 (G. Hammes, Hsg)、 Techniques of Chem.、 第6巻、第63〜148b(1974)に記載されている如き古典的な緩和反応速度法は、正反応あるいは逆反応およびそれに伴う化学(部分)反応の平衡状態についての速度定数 kf および krは、強い熱力学的値、特に温度Tおよび/または圧力Pの関数であるという知見に基づいている。特許文献における相応する開示内容はドイツ特許出願公開第2,408,646号明細書にみられる。それ故に強い熱力学的値の急な変化によって化学反応の平衡状態は、関係する種の濃度が瞬時に追従できずに、急激にずれる。勿論、関係する種の濃度は新しい平衡状態に時間的に遅れて緩和される。緩和プロセスの形態および速度は全体の反応の複雑さ並びに反応あるいはそれの個々の部分的反応の反応定数 kf および krの具体的値に左右される。それ故に緩和プロセスの適当な分光分析的観察によって、調べる化学反応の反応速度が推断される。特別に使用される技術次第で、P−ジャンプ法(P-Sprung-Verfahren)、T−ジャンプ法、閃光法等と称する。
【0003】
適当な観察法として時間分けした蛍光分光分析が実証されている。即ち、検査しようとする反応に関係する少なくとも1つの種が、該種の結合状態次第で蛍光が変化する蛍光団を有する(即ち該種自体に蛍光があるかあるいは適当な蛍光団で該種がマーキングされている)場合には、適当に励起させた場合に緩和過程が蛍光によって非常に正確に観察できる。
【0004】
この公知の方法の場合には、その都度の強い熱力学的値が変更されなければならないという欠点がある。これは一方においては比較的に多大な技術的経費を伴いそしてもう一方では化学種にあるいは負荷が掛ある。特に過敏な生物学的物質はその際に簡単に害され得る。関連のある強い熱力学的値の小さな変化がノイズの少ない信号を形成するために何度も繰り返される繰返法が確かに公知である。しかしながら、関係する種への負荷はそれによって確かに、一度に強く励起させるのに比べて減らすことができ、特に過敏な物質にとって、中でも生きた細胞等を調べる場合には、この減った負荷でも既に大き過ぎ得る。更に繰返法は一般に全ての励起作業の前に平衡状態を重ねて作り上げることが必要である。
【0005】
蛍光分光分析の全く別の分野から、いわゆる蛍光−共鳴−エネルギー移動(略してFRETと言う)現象が知られている。この場合、FRET−対の一方の相手、即ちいわゆるFRET−ドナーからもう一方の相手、即ちいわゆるFRET−アクセプターへの有効範囲の長い双極子−双極子−相互作用により、照射なしでのエネルギー移動が重要である。二つの蛍光団は、FRET−ドナーの放出スペクトルがFRET−アクセプターの励起スペクトルとのオーバーラップ域を有する時にFRET−対を形成することができる。FRETはFRET−ドナーとFRET−アクセプターとの間の距離、即ちRがFRET−対の相手相互の間の距離であるR−6に非常に強く依存している。FRETの理論的基礎については、例えば Forster T.の“Naturwissenschaften”、第6巻、第166-175 頁、(1946);Stryer L.の“Fluorescence energy transfer as a spectroscopic ruler”、Ann. Rev. Biochem. 1978、47. 819-846参照。FRET−実験は、その強い距離依存性のために生物学的構造への特定の物質の蓄積を調べる場合に使用される。その際に調べようとする構造の特定の範囲並びに蓄積物質はそれぞれFRET−対の相手の種を包含する。FRET−ドナーがその時に適当な波長の光で励起された場合には、それの励起エネルギーの少なくとも一部は照射なしでFRET−アクセプターに移すことができる。かゝる移動の確率は、上述の通り、相互作用分子の距離に強く依存している。FRET−アクセプターを含有する物質の励起前後のドナーの蛍光を比較することが蓄積の程度を推断することを可能とする。顕微鏡での像形成性FRET−法並びに非像形成性法は公知である。例えば生物分子の構造分析またはDNA−ハイブリッド化実験の場合には、FRET−法は例えば隣位測定または距離測定のために多面的に使用される。ヨーロッパ特許出願公開第0,668,498号明細書(A2)はFRETの測定に適する装置および相応する測定法を開示している。特定の分子を検出するためにFRETを用いることは例えば、FRETをベースとするバイオセンサーが開示されているドイツ特許出願公開第3,938,598号明細書(A2)並びにFRETをベースとする検出法が開示されているヨーロッパ特許出願公開第1,271,133号明細書(A1)から公知である。
【0006】
有機/合成化学の分野からは、接続可能なFRET−アクセプターとして使用できる光互変性分子が最近公知になっている。これについては例えばGiordano, Jovin, Irie und Jares-Erijman の“Diheteroarylethenes as Thermally Stable Photoswitchable Acceptors in Photochromic Fluorescence Resonance Energy Transfer (pcFRET)”、J.AM.CHEM.SOC. 2002, 124, 7481-7489参照。そこには、適当な光の作用のもとで開いた環構造と閉じた環構造との間で可逆的構造変化を示すジヘテロアリールエテンの同属からの種々の分子が開示されている。この構造変化で分子の励起スペクトルに著しい変化がもたらされる。この種の蛍光団は接続可能な(つなぐことが可能な)FRET−アクセプターとして使用できる。即ち、発光スペクトルが蛍光団の種々の構造の励起スペクトルと非常に色々にオーバーラップする適当なFRET−ドナーが存在する場合には、FRET−性能が構造変更用光の照射によって変更され得る。上述の刊行物に開示された分子の場合には、試料に色々な波長の光、特に紫外線および可視光線を照射することによって2つの光互変状態の間で任意に遮断および接続がされる。FRETの接続および遮断についてはおおざっぱにしか論じられておらず、この場合には接続状態はFRET−ドナーの発光スペクトルとFRET−アクセプターの励起スペクトルとのオーバラップ領域が比較的に大きいこと(従って比較的に大きなFRET性能)に相当しそして遮断(オフ)状態は比較的に小さなオーバーラップ領域(従って比較的に小さなFRET−性能)に相当する。光互変性分子は一般に発光性でないにもかかわらず、若干の光互変性蛍光団も知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、公知の緩和反応速度法から出発して、同種の方法を更に、反応に関係する種への負荷を減らしながら緩和反応速度を測定することを可能とするようにすることである。
【0008】
この課題は請求項1の上位概念の構成要件と関連して、少なくとも1種類の調べようとする化学反応生成物が、FRET−ドナーおよびFRET−アクセプターよりなるFRET−対のパートナーをそれぞれ含有する2つの種の結合を有し、その際に
− FRET−アクセプターが、吸収スペクトルが適当な波長の光を当てることによって変化しうる光互変体であり、
− FRET−ドナーが、発光スペクトルがFRET−アクセプターの吸収スペクトルとオーバーラップ領域を有している蛍光団であり、該オーバーラップ領域の大きさがFRET−アクセプターの光互変状態に依存しており、そして
− 化学反応の非平衡状態を生じさせるために使用される光がFRET−アクセプターの光互変状態につなげる波長を有する
ことによって解決される。
【0009】
これは、伝統的な緩和反応速度測定の使用原理を逆転する思想に基づいている。上述の通り、この場合には強い熱力学的値を変更することによって反応の平衡状態が変えられそして新しい平衡状態への濃度緩和が観察される。本発明の場合には、これに対して、関係する種の相対的濃度が突然に変更されそして(熱力学的に不変の)平衡状態へ戻るのを観察する。関連する濃度を変えるために、例えば滴定実験物質の場合に必要とされる様な、物質の添加がこの場合には行われないことに着目すべきである。濃度変化は光互変性FRET−アクセプターの第一の光互変状態から第二の光互変状態へ接続することによって行われる。この接続工程によってFRET−アクセプターを含有する種は遊離リガンドとしても並びに結合した状態でも関係している。以下に例によって詳細に説明する通り、結合状態において、FRETをもたらすが遊離リガンドに対してはもたらさない励起用チャンネルを使用するので、非平衡状態が生じる。それ故に接続過程の終わりには、遊離リガンドに比較して僅か過ぎる割合の結合状態のものがFRET−アクセプターと一緒に、変更された光互変状態で存在する。それの平衡状態への系の回復は、結合状態においての光互変状態が種々のFRET−性能によって互いに相違し得るので、色々なやり方で時間分けして蛍光測定することによって行うことができる。
【0010】
多くの用途の場合、反応に関係する沢山の種同士の相互作用を調べようとするのであるが(これらの種は、FRET−ドナーまたはFRET−アクセプターとして作用する蛍光団あるいは光互変体でマーキングされている)、本発明は蛍光団あるいは光互変体自体が反応成分として関与する場合をも包含する。“遊離のリガンド”とは、本明細書において、FRET−相手相互の距離が,言うに値するFRETが生じ得るためには大き過ぎるあらゆる状態を包含する。即ち、これに対して、FRET相手が互いに十分に近くに配置されているあらゆる状態は“結合した状態”または“錯体”を意味している。特にこれらの言葉の概念は特定の化学的結合状態と理解するべきでない。
【0011】
更に理解を深めるように、以下において実施例で特に簡単な反応を説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、単に本発明を実証するために役立てる。
【0012】
第一の種はFRET−ドナーを含み、一般にDと記載する。第二の種は本発明に従って光互変性FRET−アクセプターを含み、一般的にAと記載する。強い紫外線パルスを短期間照射することによって光互変性アクセプターの構造変化を発生させ、光互変性アクセプターが“接続”される。DおよびAのスペクトルは、DがAと“接続された”状態(A)で効率的なFRET−対を形成し、他方“遮断”された状態(A)ではDとAとの間に最小限度のFRETしか可能でないように互い調和させる。興味の持てる化学反応には、錯塩DAとする種DおよびAの錯塩形成が包含され、その際にDAおよびDAは結合した状態におけるそれぞれFRET−アクセプターの接続あるいは遮断状態を示している。以下に、系全体がAの光互変状態に接続する波長(例えば紫外線領域の波長)を照射する場合について実証する反応式を示す。
【0013】
【化1】

【0014】
(1)

kfおよびkr は錯塩形成の正反応あるいは逆反応の速度定数である。これらは、本発明の基本思想にとって必須ではないにも係わらず、簡単にするためにAの接続および遮断状態につい同じと考えられる。k-+ は、アクセプターの遮断状態(A)からアクセプターの接続状態(A)への光互変移動のための速度定数であり、他方 k+- はアクセプターの接続状態から遮断状態への光互変移動のための速度定数である。図1および2による各論的説明で詳細に説明する通り、遊離のリガンドAの光互変的遮断工程のための速度定数(k+-)および錯体DAのためのそれ(k‘+-)は区別されている。その理由は、錯体DAのための接続工程が遊離のリガンドAのためのそれよりも有効である (k´+- > k+-)という結果とさせる、FRETをもたらす励起用チャンネルにある。
【0015】
これによって、熱力学的平衡状態と一致していない濃度状態が生じる。 生じたこの非均衡から出発して、濃度平衡が、即ち現存する簡単な場合には、古典的な緩和法で熟知される緩和時間 τ = 1/( kf [D] + kr)で緩和がもたらされる。複雑な反応の場合には、同様に関係する速度定数を用いる公知の反応式で示される多重指数の緩和挙動が予想できる。この緩和工程は関係する蛍光団の少なくとも一つの蛍光によって観察することができる。
【0016】
本発明の方法は、濃度が非常に穏やかに振幅運動するという既に説明した長所の他に、慣用の緩和法に比較して、非平衡状態に調整するために適当な波長の制御可能な光源だけを使用する必要があるので、技術的に非常に簡単に実現できるという長所を有している。その構成を簡単にすることによって本方法は、例えば反応速度に影響を及ぼす特別な物質を見つけ出す場合にも、その場で迅速に測定するための持ち運び可能な装置で使用するのにも適している。
【0017】
更に照射閃光が迅速に使用可能であることが温度変化または圧力変化に比較して測定しようとする反応速度をより良好に時間的分けすることを可能とする。
【0018】
更に、この方法は非常に僅かの容積で使用するのに適しておりそしてそれ故に例えば顕微鏡においての発生反応速度を測定するために使用することもでき、その際には試料として中でも生きた細胞にも使用できる。
【0019】
しかしながら勿論、溶液等の検査も行うことができ、その場合には上述の長所によって、多い試料流量での縮小型スクリーニング法の分野においても使用することが可能である[ミクロ(ナノ)−ウエル分析(Mikro- (Nano-) well-assays)、ミクロ(ナノ)−アレイ−分析(Mikro- (Nano-) array-assays)等]。
【0020】
緩和を観察するためにFRET−ドナーの蛍光を測定することができる。場合によっては、緩和を観察するためにFRET−アクセプターの蛍光を測定することも可能である。ただしこの場合には蛍光光互変体が該当する。 勿論、種々の測定チャンネルによって2種類の蛍光を捕捉することも可能である。
【0021】
本発明の方法の別の一つの実施態様の場合には、調べようとする生成物が、別のFRET−アクセプターがFRET−ドナーである別の蛍光団を包含する。この追加的FRET−アクセプターは、例えば第一の光互変性FRET−アクセプターも含有する同じ分子に存在していてもよい。勿論、反応に関係する第三の分子の別のFRET−アクセプターも含まれていてもよい。この別のFRET−アクセプターは蛍光団を必要としない。これらの実験状況から出発して、緩和を観察するためにFRET−ドナーを孤立して励起させそして別のFRET−アクセプターの蛍光を測定することができる。この別のFRET−アクセプターはFRET−ドナーのエネルギー移動に関して第一の光互変性アクセプターと競合状態にある。それ故にそれの蛍光は、一方においてはFRET−ドナーに対しての空間的状況におよびもう一方においては第一のFRET−アクセプターの光互変状態に依存している。従って必要な反応速度情報は別のFRET−アクセプターからも得られる。例えば第一の光互変性FRET−アクセプター自体に蛍光がなくそして調べようとする反応、例えばDNA−ハイブリッド化の際に別の蛍光性FRET−アクセプターによりもFRET−ドナーに実質的に近くに蓄えられている場合には、光互変性FRET−アクセプターの接続および遮断で別の蛍光性FRET−アクセプターへのエネルギー移動およびそれ故のそれの蛍光が遮断されたりあるいは接続されたりする。それ故に別の蛍光FRET−アクセプターの蛍光だけの観察には特別な過敏測定法がある。何故ならばこの場合には、緩和が孤立的に観察できる錯塩だけが遮断状態で検出されるからである。
【0022】
光互変性FRET−アクセプターを有利に選択した場合には、第一の方向への光互変状態の変更が第一の波長の光を試料に当てることによって可能であるが、他方、第二の方向への光互変状態の変更は第二の波長の光を当てることによって行われる。この挙動は、照射波長を特別に選択することによって接続方向が、即ち“接続(オン)”から“遮断(オフ)”によってあるいは“オフ”から“オン”によって決められるので、特に有利である。勿論、原則として光互変分子を異なる波長で接続可能である2つの光互変状態よりも多く吸収することも可能である。
【0023】
例えばジヘテロアリールエテンの同属の場合のように、FRET−アクセプターの光互変状態の変更を紫外線光の照射によって少なくとも一つの方向で行う場合に特に有利である。この光は、殆どの蛍光団が紫外線スペクトル範囲で励起できるので、同時にFRET−ドナーを励起させるのにも使用できる。対峙する接続はジヘテロアリールエテン類の場合も同様に、例えば可視光線で励起させることができる。
【0024】
有利にもFRET−ドナーは可視領域でも追加的に励起させることができる。これは、例えば接続方向に無関係にFRET−アクセプターの光互変的接続と一緒にドナーを同時に励起させることを可能とする。更にそれによって、同時に光互変性アクセプターの紫外線調整した接続することなく、FRET−ドナーの意図的励起が可能である。最後に、特に有利な一つの実施態様における様に、FRET−アクセプターの光互変状態を変更するための光の強度が観察しようとする蛍光を発生させるための光強度よりも実質的に強い場合が特に可能である。この種の実験状況は、蛍光を励起させるための慣用の蛍光団の場合に慣用の光互変体の接続のためによりも実質的に小さい光強度を必要とするので、一般に可能である。
【0025】
本発明の方法の特に有利な別の態様の場合には、FRET−アクセプターの光互変状態を変更するために試料を時間的に調節照射することである。これは時間的に変化する照射強度を意味する。その時には接続は繰返の“強制作用(forcing function)”に従って行うのが好ましい。検出されたこの信号は本来の緩和信号で強制作用を複雑にする。
【0026】
調節された照射の一つの例外的事例は、二つの異なる波長の光によって光互変性FRET−アクセプターの接続および遮断を行う場合に使用することができる。即ち、FRET−アクセプターの光互変状態を変更するために場合によっては第一の波長および第二の波長の光を照射して行うことができる。特別な用途分野次第で例えば任意の接続モデルを実現することができる。照射モデルのその都度の有利な選択はその他の実験状況並びに実験目的に一致させて行われる。照射モデルの特別な選択は、例えば光互変状態の色々な安定性を示す使用される光互変体の性質に左右される。その結果積極的戻し接続なしでも熱的励起をベースとする戻りを光互変状態の一つにおいて行うことができる。
【0027】
上述の方法を実施するための装置を作製するためには、原則として、試料収容手段、試料収容手段中に存在する試料に時間的におよびスペクトル的に制御して照射するための少なくとも一つの制御可能光源、時間を別けて測定するのに適する、照射の結果として試料から発光される蛍光を捕捉するための少なくとも一つの光検出器、および一般にプログラミング技術で本発明の方法に従って少なくとも一つの光源および少なくとも一つの光検出器を制御するために配置されている制御装置しか必要ない。自動的に評価するためには好ましくは相応するプログラミングされた評価装置を装備するのが好ましい。慣用の緩和法に対して本発明の方法からもたらされる合理性によって、特に有利な実施態様においては例えば移動可能状態で使用するためにあらゆる装置要素を持ち運び可能なハウジング中に統一することができる。
【0028】
本発明の更なる詳細を、以下の詳細な説明および本発明の原理を例示的に実証する添付図面から明らかにする。
【0029】
図面中、
図1は遊離リガンドとしての光互変性FRET−アクセプターの接続概略図を示している。
図2はFRET−ドナーと結合した状態の光互変性FRET−アクセプターの接続概略図を示している。
図3は本発明の方法の結果としての三つの模擬濃度曲線である。
図4は二つのFRET−アクセプターを有する錯塩形成反応の概略図である。
【0030】
図1は遊離リガンドとして光互変性FRET−アクセプターAの接続概略図を更に上で説明した広く包括した意味で図示している。例えば光互変性アクセプターAでマーキングされておりそして調べようとする反応の範囲内に他の生物的構造を蓄える大きな生物学的分子も包含される。Aは遮断された基本状態におけるFRET−アクセプターを示している。Aは遮断されたエネルギー的に励起された状態における光互変性FRET−アクセプターを表している。Aは接続された基本状態のFRET−アクセプターを示している。Aは光で励起された接続された状態におけるFRET−アクセプターを示している。
【0031】
FRET−アクセプターを遮断状態から接続状態への移行を生じさせる立場にある光、例えば紫外線スペクトル域の光を試料に照射した場合には、種Aの成分は状態Aから状態Aに移行される。これは速度定数 kexA- で行われる。励起された状態Aから速度定数kA−で基本状態への一部分の回帰が行われる。他の部分は速度定数kで、接続された状態Aに移行する。
【0032】
状態Aで存在する分子も照射される光によってエネルギー的に励起することができる。それ故に平行して状態Aへの励起が、しかも速度定数 kexA+で行われる。上述した場合と同様に、速度定数 kdA+ で状態Aの分子の一部が基礎状態Aに回帰し、他方、吸収された励起エネルギーの他の部分は遮断された状態Aへの移行のために利用される。全体として、単一指数的反応速度および接続および遮断過程のための速度定数 k-+2 および k+-2 を有する簡単な反応としての接続概略図を示している。
【0033】
図2は、図1と同じ接続概略図を示しているが、光互変性FRET−アクセプターがFRET−ドナーと結合した状態で存在する場合についてである。上述の意味での“結合した”の意味はここでは広義に解釈すべきである。例えばDNA−ハイブリッド化(Hypretisierung)の反応相手を相応する蛍光団でマーキングすることができる。“結合した”状態は一般に錯塩DAとして表される。接続概略図の内側の環は図1に示したものに相当する。勿論、ここでは追加的なチャンネルが明らかにされている。一つは照射によってFRET−ドナーの励起が行われ、その結果、状態Dがもたらされる。これは速度定数 kexD で生じる。こうして励起された分子の大部分は基本状態DAに、しかも速度定数 kdDで回帰する。これは中でも蛍光発光を包含する。状態Dの分子の他の部分はFRETによって状態DAに移行する。しかしながらFRET−アクセプターは遮断状態(A)で存在しているので、この移行の効率は非常に小さい。
【0034】
上述の励起ルートと同様に状態DAの分子も速度定数 kexD での照射によってエネルギー的に励起された状態Dに移動する。ここでも基本状態DAに速度定数 kdDで一部回帰する。 状態Dの分子の他の部分はFRETによって状態DAにエネルギー移行する。ここではFRET−アクセプター(A)の接続された状態のために高いFRET−効率がもたらされるので、結合したFRET−対の状態DAが遊離のFRET−アクセプターの状態Aの占有数に比較して不足した占有数をもたらす全体系の不斉をもたらす。
【0035】
この不斉は反応式(1)との関係で上述した速度定数 k+- および k´+-の非平衡、即ち例示反応の反応式の左側および右側に異なる照射影響をもたらす。これによって、熱力学的に不変の反応平衡状態のもとで濃度平衡を生じさせることが明らかである。
【0036】
図3は本発明の方法の結果として三つの模擬濃度曲線を図示している。この場合、図3aは結合したFRET−対の全体濃度を任意の単位で示している。グラフの左領域の急上昇10が紫外線パルス照射の間の挙動を表している。それに続く右領域12(第3b図において拡大して示されている)は平衡状態における緩和を示している。上述の不斉によって状態DAは不足した占有数である。それ故にこの状態に有利である緩和が行われる。
【0037】
これに対して図3cは、遮断状態におけるドナーおよびFRET−対の濃度を示している。これは上述の曲線に正確に対峙するものである。
【0038】
図示した濃度曲線は、ここで使用される励起用の光に左右される実際に検出された蛍光信号と一致していない濃度曲線であることに注意を要する。
【0039】
例えば典型的な実験の場合には、光互変体を接続するのに適する照射の次に実質的に強度を弱めた励起用照射を試料に対して実施する。この検出用照射光の波長は一般に、FRET−ドナーをエネルギー的に励起させるが、光互変性FRET−アクセプターの言うに値する接続がそれと同時に生ずることがないように選択される。
【0040】
検出される蛍光波長を選択するためには色々な方法が可能である。例えばFRET−ドナーの蛍光自体を測定してもよい。これは、FRET性能を全体として増加させそしてそれ故にドナー蛍光が増大する競合チャンネルを生じさせるので、接続された状態での結合したFRET−対の濃度増加と共に減少する。他方、蛍光が蛍光光互変体のものである限り、FRET−アクセプターの蛍光を測定してもよい。これはドナー蛍光と正確に逆の挙動を示す。更に、結合したFRET−対を含有しそして別の、光互変性でないが蛍光のあるFRET−アクセプターを特別に選択されたFRET−ドナーに作用させる第三の蛍光団の蛍光を測定することも可能である。この追加的なFRET−アクセプターは、ドナーの蛍光および第一のFRET−アクセプターの蛍光に対して競合状態にある励起用チャンネルである。相応する例示の錯塩形成反応、例えば2つのFRET−アクセプターでのDNA−ハイブリッド化の概略図を第4図に示す。この場合、“D”はFRET−ドナーを示しており、“pc”は第一の光互変性FRET−アクセプターをそして“A”は別の光互変性でない蛍光FRET−アクセプターを示している。結合した状態ではDおよびpcは密にぴったりくっいて配置されている。AはDに対して大きく離れて配置される。それ故にpcの接続された状態ではDとpcとの間に高いFRET−性能が結果として生じ、それはDとAとの間のそれより明らかに優れており、それ故に実質的にエネルギーがDからAに移動することができない。それ故にDを特別に励起させる場合にはAの蛍光は観察できない。これに対してpcが適当な光パルスによって接続される場合には、DとAとの間のFRETが優勢であり、その結果Aの蛍光を孤立的に観察する場合には錯塩がpcの接続状態において選択的に観察できる。このことがその緩和を非常に敏感に測定せしめる。
【0041】
勿論、ここに説明しそして図面に示した例は本発明の方法の特に有利な実施態様を示すものであり、これは開示した教示の範囲において多様に変更することができる。特に使用される種、光互変体を接続しおよび/またはFRET−ドナーを励起するために使用される光の波長および強度を個々に選択することは広い範囲において変更することができる。例えば、本発明の方法は実質的に可逆的方法だけに関係しているので、信号/ノイズ−挙動を改善するために繰り返す変法も本発明の方法である。(例えば顕微鏡において)試料、および/または励起性光線を運動させることによって空間的に蛇行させ励起させることも具体的実験目的次第で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】は遊離リガンドとしての光互変性FRET−アクセプターの接続概略図を示している。
【図2】はFRET−ドナーと結合した状態の光互変性FRET−アクセプターの接続概略図を示している。
【図3】は本発明の方法の結果としての三つの模擬濃度曲線である。
【図4】は二つのFRET−アクセプターを有する錯塩形成反応の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の化学種が少なくとも1種類の蛍光団を含有しているという前提で、試料中の多数の化学種間の化学反応の特徴的な反応速度を測定する、以下の方法段階を含む:
− 化学反応の非平衡状態を試料に光を当てることによって生じさせ、
− 関係する種の濃度の緩和を、少なくとも1つの区分を少なくとも1種類の蛍光団の蛍光信号によって、時間分けして観察する
方法において、少なくとも1種類の調べようとする化学反応生成物が、FRET−ドナーおよびFRET−アクセプターよりなるFRET−対のパートナーをそれぞれ含有する2つの種の結合を有し、その際に
− FRET−アクセプターが、吸収スペクトルが適当な波長の光を当てることによって変化しうる光互変体であり、
− FRET−ドナーが、発光スペクトルがFRET−アクセプターの吸収スペクトルとオーバーラップ領域を有している蛍光団であり、該オーバーラップ領域の大きさがFRET−アクセプターの光互変状態に依存しており、そして
− 化学反応の非平衡状態を生じさせるために使用される光がFRET−アクセプターの光互変状態につなげる波長を有する
ことを特徴とする、上記測定方法。
【請求項2】
緩和を観察するためにFRET−ドナーの蛍光を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光互変性FRET−アクセプターが蛍光団でありそして緩和を観察するために光互変性FRET−アクセプターの蛍光を測定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
調べようとする生成物が、FRET−ドナーに対して別のFRET−アクセプターである別の蛍光団を含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
別のFRET−アクセプターが光互変体でない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
緩和を観察するために別のFRET−アクセプターの蛍光を測定する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
第一の方向におけるFRET−アクセプターの光互変状態の変化を、試料に第一の波長の光を照射することによって行いそして第二の方向におけるFRET−アクセプターの光互変状態の変化を、第二の波長の光を照射することによって行う、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも一つの方向におけるFRET−アクセプターの光互変状態の変化を、紫外線を照射することによって行なう、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも一つの方向におけるFRET−アクセプターの光互変状態の変化を可視光線を照射することによって行なう、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
観察しようとする蛍光を発生させるためにFRET−ドナーの励起を可視光線で行なう、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
FRET−アクセプターの光互変状態を変化させるための照射強度が、観察しようとする蛍光を発生させるための照射強度よりも実質的に強い、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
FRET−アクセプターの光互変状態を変化させるために試料に経時的に調節照射する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
FRET−アクセプターの光互変状態を変化させるために試料に、第一の波長の光および第二の波長の光を交互に照射する、請求項7〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1種類の化学種が少なくとも1つの蛍光団を含有している前提で、試料中の多数の化学種間の化学反応の特徴的な反応速度を測定する装置において、試料収容手段、該試料収容手段中に存在する試料に時間的におよびスペクトル的に制御して照射するための制御可能な少なくとも1つの光源、照射のために試料から発光される蛍光を捕捉するための時間分けして測定するための少なくとも1つの適当な光検出器および少なくとも1つの光源および少なくとも一つの光検出器を請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法に従って制御するために適切に配置されている制御装置を包含する、上記装置。
【請求項15】
特徴的な反応速度を計算するために、捕捉された蛍光データを自動的に評価するための評価装置を更に装備する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
全ての装置成分が持ち運び可能な容器中に統合されている、請求項14または15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−501936(P2007−501936A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522955(P2006−522955)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008729
【国際公開番号】WO2005/017527
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(599176012)マックス プランク ゲゼルシャフト ツール フェルデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー. (2)
【Fターム(参考)】