説明

光制御装置及びその製造方法

【課題】 電極の抵抗値が安定し、信頼性良く作製可能な光制御装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 入射光の光学特性、特に屈折率を変化させ、この変化した光学特性の光を出射する非線形電気光学膜4と、光学特性を変化させるために非線形電気光学膜4に電界を作用させる対向電極2及び3とを有し、非線形電気光学膜4と下部電極3との間に拡散防止膜5が設けられ、電気光学膜4の焼成時にその成分が下部電極3へ拡散して下部電極3の抵抗値を上昇させることを防止した光制御装置6。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表示装置に好適な光制御装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビジョン受像機や情報端末機器等の表示装置については、薄型化、軽量化、大画面化及び高精細表示化の要求に応えるために、重量や厚みに限界のあるブラウン管(CRT)型表示装置からフラットパネル表示装置へ移行する開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、情報端末機器としてのフラットパネル表示装置としては、例えば、液晶ディスプレイが広く普及しており、この液晶ディスプレイの高輝度化及び大型化について、昨今、研究及び開発が行われている。
【0004】
しかし、液晶ディスプレイは様々な利点を有する一方、応答速度が遅く、視野角が狭く、コントラスト比が低く、消費電力が大きい等、表示原理に起因する技術課題が存在する。
【0005】
これらの問題については、液晶材料の低粘度化、液晶層厚の低減、表示駆動波形をオーバーシュートさせる工夫(オーバードライブ)、表示駆動波形に応じた表示フレーム間への黒表示の挿入及びバックライトの明滅等の対策が採られている。しかしながら、応答速度の向上は若干見られるものの、根本的な特性の改善には至っていない。
【0006】
これに対して、新しい光制御装置の提案も行われており、所謂オパール3D構造を有するフォトニック結晶を用いた高速光制御装置の提案が行われている。しかしながら、この構造では、3D構造を基板上に形成する必要があり、そのプロセスは非常に複雑である。
【0007】
他方、基板上に、特定波長の光透過率(光吸収)を制御できる層を設けた光制御装置が提起されており、例えば、フォトニック結晶に電圧を印加することでその構成要素の屈折率を変化させ、フォトニックバンド波長を変化させることによって特定波長の光透過率(光吸収)の制御が達成される。
【0008】
このような非線形光学材料を用いた外部光変調器は、高速であることから、光通信にはなくてはならない素子である。KDP(potassium dihydrogen phosphate)等のバルク型の外部光変調器は既に使用されているが、光回路に装着する素子として、薄膜型の光変調器が望まれている。
【0009】
薄膜構成の光変調器は、その作用を利用することによって、光量を高速に変化させる光シャッタ又は光スイッチに適用することが可能である。
【0010】
例えば、電気光学薄膜の面と垂直方向に電場を印加して誘電率を変化させ、電気光学薄膜の面と垂直方向に光を入射させて光の位相変化を得ることのできる縦型光変調器を薄膜で構成しようとする場合には、少なくとも2つの透明薄膜電極の間に電気光学薄膜を形成する必要がある。
【0011】
この電気光学効果は、有機材料又は無機材料を問わず、種々の材料によって得られるが、焼成によって結晶化された無機系の材料は電気光学効果が大きい。
【0012】
この種の材料には、例えば、PLZT(PbLaZrTiO3)やPZT(PbZrO3−PbTiO3)がある。それぞれの組成は、例えば、PLZTが、Pb0.92La0.08Zr0.65Ti0.35xであり、PZTがPb1.00Zr0.65Ti0.35xである。
【0013】
これらの材料は、通常、スパッタ法、CVD(化学的気相成長)法、蒸着法又はゾルゲル法等によって成膜され、その後、およそ700℃の空気雰囲気中で焼成されて結晶化される。
【0014】
また、透明電極の材質には種々のものがあるが、例えば、インジウムスズ酸化物であるITO(indium-tin-oxide)膜が広く使用されている。
【0015】
図5に、こうした従来の光制御装置(縦型光変調器)56の構成例を示す(後記の非特許文献1参照)。
【0016】
図5(A)及び図5(B)に示すように、例えば、石英基板51の上に、厚さ200nmの下部電極(ITO薄膜)53がストライプ状に形成され、この上に、厚さ100nmの非線形電気光学膜54が常法のスパッタ法で形成され、700℃、空気雰囲気中で焼成される。
【0017】
更に、この非線形電気光学膜54上に、上部電極(ITO薄膜)52が厚さ200nmで成膜されることにより、2つの電極52及び53の間に非線形電気光学膜54を挟んだ構造の光制御装置(縦型の光変調器)56が作製される。
【0018】
【非特許文献1】「電気光学効果と逆圧電効果を利用した縦型光変調素子」成蹊大学工学研究報告,J. Fac. Eng., Seikei Univ. vol.41, No.1(2004), pp21-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところが、下部電極53上に、PLZT又はPZT等の、焼成により結晶化された非線形電気光学膜54を形成すると、焼成後に、電気光学膜54と接している下部電極53の抵抗値が非常に大きくなるという問題点がある。
【0020】
その結果、例えば、2つの電極52−53の間に電圧を印加しても電気光学膜54に電圧が印加されず、光変調器として動作しないことが判明した。
【0021】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、電極の抵抗値が安定し、信頼性良く作製可能な光制御装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
即ち、本発明は、入射光の光学特性を変化させ、この変化した光学特性の光を出射する光学機能層(例えば非線形電気光学膜:以下、同様)と、前記光学特性を変化させるために前記光学機能層に電界を作用させる対向電極(例えば一対のITO薄膜電極:以下、同様)とを有し、前記光学機能層と前記対向電極の一方の電極との間に拡散防止層が設けられている光制御装置に係わるものである。
【0023】
また、基板上に第1電極を形成する工程と、この第1電極上に拡散防止層を形成する工程と、この拡散防止層上に光学機能層を焼成処理によって形成する工程と、この光学機能層上に第2電極を形成する工程とを有する、光制御装置の製造方法にも係るものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光制御装置及びその製造方法によれば、前記一方の電極と前記光学機能層との間に前記拡散防止層を設けているので、前記光学機能層を焼成により形成する時に、前記光学機能層の成分が前記一方の電極内に侵入することを防止して前記一方の電極の抵抗値の上昇を防止することができ、電極の抵抗値が安定した光制御装置を提供でき、かつ前記光学機能層の焼成も十分に行える薄膜で微細構造の光制御装置を信頼性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明においては、前記光学機能層の成分が前記一方の電極内に侵入して前記一方の電極の抵抗値を上昇させないために、前記一方の電極と前記光学機能層とが重なり合う領域に前記拡散防止層が設けられているのが望ましい。
【0026】
また、前記光学機能層の成分が前記一方の電極内に侵入するのを十分に防止するために、前記拡散防止層の厚さが10nm以上であるのが望ましい。
【0027】
こうした拡散防止層の材質にSiO又はSiNを用いることができる。
【0028】
また、前記拡散防止層は、前記光学機能層の成分が前記一方の電極内に侵入するのを防止するためのいわばバッファ層として機能する。
【0029】
また、前記光学機能層と前記対向電極とが積層されてなる縦型構造とするのが望ましい。
【0030】
この場合、基板上に、第1電極と前記拡散防止層と前記光学機能層と第2電極とが積層されている構造とすることができる。
【0031】
また、前記光学機能層が、PLZT(PbLaZrTiO3)又はPZT(PbZrO3−PbTiO3)の焼成により結晶化された非線形光学材料からなるのが望ましい。
【0032】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に説明する。
【0033】
実施の形態
図1に、本実施の形態による光制御装置6の構造を示す。
【0034】
図1(A)及び図1(B)に示すように、例えば、石英基板1上に、ITOからなるストライプ状の下部電極(一方の電極又は第1電極)3と、PLZTからなるストライプ状の非線形電気光学膜(光学機能層)4とを積層し、これらの重なり合う領域において、下部電極3と電気光学膜4との間にこれらに接してSiOからなる拡散防止膜(拡散防止層又はバッファ層)5を形成する。更に、電気光学膜4上に、例えばITOからなる上部電極(第2電極)2を形成し、両電極3−2間に電源Vを接続して光制御装置6を作製する。
【0035】
本実施の形態によれば、拡散防止膜5を設けることによって、下部電極3と非線形電気光学膜4との間の重なり合う領域において、後述の焼成時に非線形電気光学膜4の成分が下部電極3に侵入することによる下部電極3の抵抗値の上昇を防止することができ、下部電極3の抵抗値が安定した光制御装置6を得ることができる。
【0036】
この光制御装置6は、焼成によって結晶化させた非線形薄膜を酸化物系の透明電極で挟んだ薄膜構成の縦型光変調器として作製することができる。即ち、電源Vによる電圧の印加で非線形電気光学膜4の屈折率を変化させ、膜面に入射する入射光を位相変換して出射させることができる。
【0037】
また、薄膜構成であるために、微細な構造を構築でき、光回路の機能素子として活用することができる。更には、薄型の光シャッタを構成でき、例えば、ディスプレイ及びイメージング機器の薄膜電子シャッタ等に応用することができる。
【0038】
次に、下部電極の抵抗値の変化について光制御装置の製造工程に沿って説明する。
【0039】
まず、比較のために、図5に示した従来の光制御装置(縦型光変調器)を作製する過程で、図3(A)に示すように、石英からなる基板1上に、例えば、幅5mm、長さ30mm、厚さ200nmのストライプ状の下部電極(ITO膜)3を常法のスパッタ法で成膜した。この下部電極3の両端面の抵抗値を測定すると、1kΩ以下であった。
【0040】
次に、図3(B)に示すように、下部電極3の上に、拡散防止膜5を設けないで、下部電極3と直交する方向に、例えば、幅5mm、長さ30mm、厚さ100nmのPLZTからなる非線形電気光学膜4を常法のスパッタ法で成膜し、その後、空気雰囲気中、700℃で焼成して結晶化させた。この焼成後に、下部電極3の両端面の抵抗値を測定すると、3メガΩ以上であった。
【0041】
このように、非線形電気光学膜4を下部電極3の上に直接成膜して焼成する場合、下部電極3の両端の抵抗値が大きくなる原因を調べるため、下部電極3と非線形電気光学膜4とが重なっている部分の二次イオン質量分析を行った。その結果、非線形電気光学膜4に接している下部電極3部分に、非線形電気光学膜4の成分であるPb及びTiが拡散していることが判明した。
【0042】
このことから、焼成後に下部電極3の抵抗値が増加した原因が、下部電極3中に非線形電気光学膜4の成分であるPb及びTiが拡散し、下部電極3の組成が変化するためであることが分った。
【0043】
なお、電気光学膜4上には、ITO薄膜を厚さ200nmで成膜し、図5に示したような、2つのITO薄膜電極の間に電気光学膜を挟んだ構造の従来の縦型光変調器を作製した。
【0044】
この従来の縦型光変調器56において、図5(B)に示すように、基板に対して45度の方向から、直交した二つの偏光面を持つHe−Neレーザ光(測定光)を照射して、二つの偏光面の位相差を測定した。このとき、上下のITO電極間に電圧30Vを印加した。その結果、二つの偏光面の位相差はほとんど0であり、光変調器としての動作が確認できなかった。
【0045】
このことから、図5に示した従来の光制御装置56の位相差が0であった原因が、下部電極3(又は53)と非線形電気光学膜4(又は54)とが重なっている部分での下部電極の抵抗値が非常に大きくなっているために、非線形電気光学膜4(又は54)に電圧が印加されないことによるものであることが判明した。
【0046】
これに対して、本実施形態によれば、まず、図2(A)に示すように、石英からなる基板上1に、例えば、幅5mm、長さ30mmのストライプ状で、厚さ200nmの下部電極(ITO膜)3を常法のスパッタ法で成膜した。このストライプ状の下部電極3の両端面の抵抗値を測定すると、図3(A)と同様、1kΩ以下であった。
【0047】
そして次に、図2(B)に示すように、ストライプ状の下部電極3上に、四角形状のSiOからなる拡散防止膜5を成膜し、この上に図3(B)で述べたと同様にして、下部電極3と直交したストライプ状の非線形電気光学膜4を設けた後に、下部電極3の抵抗値を測定したところ、下部電極3の抵抗値はITOのそれと同等であった。
【0048】
この結果から、拡散防止膜5の存在によって、下部電極3へのPb及びTiの拡散を防止できるために、非線形光学材料を焼成して電気光学膜4を形成しても下部電極3の抵抗値は上がらず、光制御装置として十分に機能することになる。これについて、以下に詳しく説明する。
【0049】
本実施の形態による光制御装置6の作製工程において、電気光学膜の焼成後に、下部電極3の両端間の抵抗値を拡散防止膜5の厚さを変えて測定した。
【0050】
その結果を図4に示すと、例えば、拡散防止膜5の膜厚が10nm若しくはそれ以上の場合に、下部電極3の抵抗値は、拡散防止膜5がない場合(抵抗値約103kΩ)に比べて急激に減少することが分る。更に、拡散防止膜5の膜厚が100nmになると、下部電極3がITO膜単体の抵抗値と同じ抵抗値になる。
【0051】
このように、本実施の形態においては、拡散防止膜5を下部電極3と非線形電気光学膜4との間の重なり合う領域に挟み込むことによって、焼成時に非線形光学材料の一部分(PbやTi)が下部電極3に侵入するのを防止し、非線形光学材料を焼成した後に起こる下部電極3の抵抗値の上昇を抑制することができる。このため、非線形光学材料を十二分に焼成して結晶化することができ、その性能を良好に発揮させることができる。
【0052】
本実施の形態による光制御装置6に対し、図1(B)に示すように、基板1に対して45度の方向から、直交した2つの偏光面を持つHe−Neレーザ光(測定光)を照射し、2つの偏光面の位相差を測定した。この時、上下の電極間に30Vの電圧を印加した。その結果、2つの偏光面の位相差は8nm以上となった。
【0053】
従って、本実施の形態のように、拡散防止膜5を下部電極3と非線形電気光学膜4との間に配置することにより、電極の抵抗値が低くて安定し、薄膜構成の正常動作可能な縦型光変調器を信頼性良好に得ることができる。
【0054】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はその例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
例えば、電気光学膜の材質にPLZTを用い、透明薄膜電極の材質にITO膜を用い、バッファ層の材質にSiO膜を用いたが、これらの材質に限定される必要はない。即ち、非線形電気光学膜4の材質にPZTを用いたり、拡散防止膜5の材質にSiN等の拡散防止効果のある膜を用いることができる。また、各膜のパターン形状やサイズ、厚み等も変更してよい。
【0056】
また、上述した実施の形態による光制御装置6を1ドットの表示用画素としてディスプレイ装置等に適用することができるし、或いは各膜をベタ付けにした簡易な表示装置にも適用することができる。
【0057】
また、上述した実施の形態による構造を縦方向に複数個積層させてもよいが、これにより、光変調の範囲をより広げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光制御装置は例えば、光量を高速に変化させる光シャッタ、光スイッチに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態による光制御装置の平面図(A)及びX―X’線断面図(B)である。
【図2】同、下部電極の抵抗測定時の平面図(A)及び(B)である。
【図3】比較用の光制御装置における下部電極の抵抗測定時の平面図(A)及び(B)である。
【図4】本発明の実施の形態による光制御装置の下部電極の抵抗値と拡散防止膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図5】従来例による光制御装置の平面図(A)及びそのY―Y’線断面図(B)である。
【符号の説明】
【0060】
1…基板、2…上部電極、3…下部電極、4…非線形電気光学膜、5…拡散防止膜、
6…光制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光の光学特性を変化させ、この変化した光学特性の光を出射する光学機能層と、前記光学特性を変化させるために前記光学機能層に電界を作用させる対向電極とを有し、前記光学機能層と前記対向電極の一方の電極との間に拡散防止層が設けられている、光制御装置。
【請求項2】
前記一方の電極と前記光学機能層とが重なり合う領域に前記拡散防止層が設けられている、請求項1に記載した光制御装置。
【請求項3】
前記拡散防止層の厚さが10nm以上である、請求項1に記載した光制御装置。
【請求項4】
前記拡散防止層の材質にSiO又はSiNを用いる、請求項1に記載した光制御装置。
【請求項5】
前記拡散防止層が、前記光学機能層の成分が前記一方の電極内に侵入するのを防止するためのバッファ層として機能する、請求項1に記載した光制御装置。
【請求項6】
前記光学機能層と前記対向電極とが積層されてなる、請求項1に記載した光制御装置。
【請求項7】
基板上に、第1電極と前記拡散防止層と前記光学機能層と第2電極とが積層されている、請求項6に記載した光制御装置。
【請求項8】
前記光学機能層が、PLZT(PbLaZrTiO3)又はPZT(PbZrO3−PbTiO3)の焼成により結晶化された非線形光学材料からなる、請求項6に記載した光制御装置。
【請求項9】
基板上に第1電極を形成する工程と、この第1電極上に拡散防止層を形成する工程と、この拡散防止層上に光学機能層を焼成処理によって形成する工程と、この光学機能層上に第2電極を形成する工程とを有する、光制御装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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