説明

光反応性サッカリン誘導体

【課題】
光反応性基を導入した新規サッカリン誘導体を合成し、これを光アフィニティラベル化法やバイオセンサに利用することで、サッカリンの生理活性作用機序を解析するための新たな手段を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)で示される、ジアジリン基を有するサッカリン誘導体と、前記サッカリン誘導体を利用したアレイ、バイオセンサ。


(但し、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれ、
Rは、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれる)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反応性基を有するサッカリン誘導体と、これを利用したアレイ、バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
サッカリンは人工甘味料として広く知られている化合物である。これまで、サッカリンやその誘導体には、セロトニン(5-HT)1a拮抗剤やα1a, α1cアドレナリン作用性レセプター拮抗剤、ヒトマスト細胞トリプターゼ阻害剤、ヒト白血球エステラーゼ阻害剤など様々な生理活性を持つことが知られている(特許文献1など)。さらに、殺菌剤や農薬として利用することを目的に、多くの誘導体が合成され、その評価も行なわれている(特許文献2など)。
【0003】
しかしながらサッカリンの甘味発現や上述した生理活性発現のメカニズムはほとんど解明されていない。そのため、サッカリンと標的タンパク質との結合(サッカリン誘導体−標的タンパク質複合体)解析や、そのための簡便な手段が望まれている。
【0004】
一方、光エネルギーで容易に分解する光反応性基を目的分子に導入することで、当該分子の標的タンパク質の同定やその結合部位の解析を行う手段として、光アフィニティラベル化法が知られている。光反応性基としては、現在アジド、ジアジリン、カルボニル基等が知られており、目的に応じて適宜選択して用いられている。なかでも、ジアジリン誘導体は、種々の有機合成条件下で安定であり、固相ペプチド合成反応においても無保護で利用することができるため、タンパク質間の結合解析に汎用されている(特許文献3および特許文献4など)。
【0005】
これらの光反応性基を分子に導入する手法も報告されてはいる(非特許文献1および非特許文献2)。しかし、これらの手法が目的とする分子に適用できるかどうかはわからない。実際、サッカリンに関しては、これまで光反応性基を有する誘導体の作成例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−345771号公報
【特許文献2】特表平10−505589号公報
【特許文献3】特開2000−319262号公報
【特許文献4】特開2008−113654号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nassal, Michael. 4-(1-Azi-2,2,2-trifluoroethyl)benzoic acid, a highly photolabile carbene generating label readily fixable to biochemical agents. Liebigs Annalen der Chemie (1983), (9), p1510-23
【非特許文献2】Blencowe, Anton; Caiulo, Nick; Cosstick, Kevin; Fagour, William; Heath, Peter; Hayes, Wayne. Synthesis of hyperbranched poly(aryl ether)s via carbene insertion processes. Macromolecules (2007), 40(4), 939-949.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、光反応性基を導入した新規サッカリン誘導体を合成し、これを光アフィニティラベル化法やバイオセンサに利用することで、サッカリンの生理活性作用機序を解析するための新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決するために、光反応性サッカリン誘導体の合成を試みた。その結果、トリフルオロメチルフェニルジアジリン誘導体を出発物質として新規な光反応性サッカリン誘導体の合成に成功した。
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で示される、ジアジリン基を有するサッカリン誘導体に関する。
【0010】
【化1】

(但し、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれ、
Rは、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれる)
【0011】
前記サッカリン誘導体において、Xの具体例としては、水素、ハロゲン、トリハロメチル、またはトリハロエチル基を挙げることができ、好適な例としては、トリフルオロメチルまたはトリフルオロエチル基を挙げることができる。
【0012】
前記サッカリン誘導体において、Rの具体例としては、Hまたは第3級ブチルを挙げることができる。
【0013】
本発明のサッカリン誘導体の、好適な一例として、下記式で示される、サッカリン誘導体を挙げることができる。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明はまた、上記したサッカリン誘導体を固定化した固相支持体(チップ、アレイ等)も提供する。
【0016】
さらに本発明は、上記サッカリン誘導体を固定化した固相支持体と、サッカリン誘導体を介した分子間相互作用を検出する手段とを有するバイオセンサも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のサッカリン誘導体は、サッカリンの生理活性発現メカニズムを解明するための新たなツールとして利用できる。これにより、サッカリンの甘味発現のメカニズムや他の生理活性作用を解明することができる。
最近、生理活性を有する多くのサッカリン誘導体が発見されており、本発明は、新たな機能を有する新規サッカリン誘導体の開発にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、サッカリンのさまざまな作用を示す。
【図2】図2は、本発明の光反応性サッカリン誘導体の合成スキームを示す。
【図3】図3は、10a,10bのHPLCによる精製を示す。
【図4】図4は、10a,10bの光分解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明のサッカリン誘導体
1.1 サッカリン
サッカリンは人工甘味料として古くから知られている化合物で、下記の構造を有する。サッカリンは通常トルエンから合成され、水に難溶性であるため、ナトリウム塩等の形で用いられる。
【0020】
【化3】

C7H5NO3S 分子量:183.19、CAS登録番号[81-07-2]
【0021】
サッカリンやその誘導体は、セロトニン(5-HT)1a拮抗剤やα1a, α1cアドレナリン作用性レセプター拮抗剤、ヒトマスト細胞トリプターゼ阻害剤、ヒト白血球エステラーゼ阻害剤など様々な生理活性を持つことも知られている。セロトニン(5-HT)1a拮抗剤やα1a, α1cアドレナリン作用性レセプター拮抗剤は、中枢神経や交感神経といった神経系のレセプターに対して作用し、ヒトマスト細胞トリプターゼ阻害剤、ヒト白血球エステラーゼ阻害剤は炎症性の症状を抑制する作用を示す。このほか、殺菌剤や農薬として利用されているサッカリン誘導体もある。
【0022】
1.2 光反応性サッカリン誘導体
本発明のサッカリン誘導体は、下記一般式(I)で示される、光反応性基であるジアジリン基を有する新規なサッカリン誘導体である。
【0023】
【化4】

ここで、ジアジリン基中のXは、ジアジリン基のサッカリン誘導体への導入を妨げず、サッカリン誘導体(I)のフェニルジアジリン部分の光反応性を妨げない限り、特に限定されず、たとえば、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれる。
【0024】
サッカリン骨格中のアミノ基部分のRも、ジアジリン基のサッカリン誘導体への導入を妨げず、サッカリン誘導体(I)のフェニルジアジリン部分の光反応性を妨げない限り、特に限定されず、たとえば、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれる。
【0025】
後述する実施例では、一例として、Xがトリフルオロメチル(CF)、Rが水素(H)である下記式で示されるサッカリン誘導体の合成例を記載した。
【0026】
【化5】

【0027】
しかしながら、この実施例にしたがって、上述した様々なサッカリン誘導体が合成可能であることは、当業者には自明である。
【0028】
1.3 光反応性サッカリン誘導体の合成方法
本発明のサッカリン誘導体は、たとえば、以下のようにして合成できる。
パラあるいはメタ位をMgBr等のマグネシウムハライドに置換したトルエンを出発物質として、既報(Nassal, Michael. Liebigs Annalen der Chemie (1983), (9), p1510-23;Blencowe, Anton et al., Macromolecules (2007), 40(4), 939-949.)にしたがい、芳香環上にメチル基を有するトリフルオロメチルフェニルジアジリンを合成する。次いで、この芳香環上にメチル基を有するトリフルオロメチルフェニルジアジリンから、直接合成法(Xu, Liang et al., Tetrahedron (2006), 62(33), 7902-7910.)によりサッカリン骨格を合成する。サッカリンの5−もしくは6−トリフルオロアセチル誘導体よりジアジリン誘導体への変換も考えられるが、スルフォンアミド基の存在により、副生成物の形成に留意する必要がある。
【0029】
1.4 サッカリン誘導体の光分解
ジアジリン基は紫外線領域、特に360nm付近の光を吸収し、反応性の高い中間体カルベンを生じる。したがって、本発明のサッカリン誘導体は、波長360nm付近、強度15W程度の光を照射することにより、容易にジアジリン基部分が分解し、反応性の高いカルベンを含む中間体となる。分解したカルベンを含むサッカリン誘導体は、極めて不安定であるため、近傍の分子と容易に共有結合をつくって安定化する。この性質を生かして、光反応性基を有する分子は、後述する光アフィニティラベル化法に利用される。
【0030】
2.光アフィニティラベル化法
光アフィニティラベル化法とは、光照射によりプローブ分子と標的タンパク質とを化学的に安定な共有結合でクロスリンクさせ、多くのタンパク質が混在する系から、簡便に標的とするタンパク質を特定する手法である。
【0031】
具体的に説明すると、プローブ分子中の光反応性基は、光照射で容易に分解して、反応性の高い(不安定な)中間体を生じる。本発明にかかるサッカリン誘導体でいえば、サッカリン誘導体のジアジリン基部分が分解して、反応性の高いカルベンを含む中間体が生じる。この中間体は、最寄の分子、例えばプローブ分子(サッカリン誘導体)が特異的に結合している標的タンパク質と共有結合を形成して、安定化する。共有結合は容易に分解しないため、標的タンパク質の同定に利用できる。
【0032】
この手法では、標的タンパク質上の結合部位の解析も可能であり、プローブ分子と標的タンパク質とが分子レベルでどのように相互作用しているのかを推定することが可能である。
【0033】
光反応性ジアジリン基を有する、本発明のサッカリン誘導体は、上記した光アフィニティラベル化法のプローブ分子として利用できる。すなわち、本発明のサッカリン誘導体をプローブとして、サッカリン誘導体に特異的に結合する標的タンパク質の同定や、その結合部位の解析が可能となる。
【0034】
3.本発明のサッカリン誘導体固定化支持体(アレイ、チップ、ナノ粒子)
本発明のサッカリン誘導体は、光反応性(ジアジリン)基の特性を利用して、簡便に固相支持体上に固定化できる。本発明は、そのようなサッカリン誘導体を固定した固相支持体も提供する。
【0035】
具体的には、支持体が有機材質の場合、支持体上へのサッカリン誘導体の固定は、光照射だけで簡便に行うことができる。支持体が無機材質の場合は、支持体を適当な材料で表面処理し、光照射によりサッカリン誘導体を固定化する。
【0036】
支持体の形状は特に限定されず、基板状(アレイ、チップ等)、粒子状(ナノ粒子等)、多孔体状、突起状、繊維状、筒状、網目状など目的に応じて適宜選択される。支持体は、その表面の少なくとも一部に本発明のサッカリン誘導体が配置されうるものであればいかなる材質ものでもよく、金属、金属酸化物、無機半導体、有機半導体、ガラス類、セラミクス、天然高分子、合成高分子、プラスチックから選ばれる何れか1以上或いはその複合体を含んでなる材質で、所望により適当な表面処理がなされていてもよい。
【0037】
3.1 サッカリン誘導体固定化アレイ・チップ
本発明のサッカリン誘導体を固相基板上に固定化したアレイ・チップは、サッカリンの標的タンパク質の同定や解析、新規サッカリン誘導体の開発等に有用である。
【0038】
固相基板の材質は、本発明のサッカリン誘導体が固定可能である限り、特に限定されず、金属、ガラス、シリコン等、当該分野で汎用されている基板を適宜用いることができる。
【0039】
3.2 ナノ粒子/マイクロ粒子
本発明のサッカリン誘導体を固定化した粒子(ナノサイズ,マイクロサイズ)は、サッカリンの標的タンパク質の分離、精製、同定等の様々な分析に応用できる。特にナノ粒子はその表面積を生かしてマイクロ流路内における高感度分析に有用である。ナトリウム塩は親水性が高いことにより分散性に優れている。
【0040】
4.バイオセンサ
本発明はまた、本発明のサッカリン誘導体を固定した固相支持体と、前記サッカリン誘導体を介した分子間相互作用を検出する手段を有するバイオセンサを提供する。ここで、サッカリン誘導体を介した分子間相互作用とは、サッカリン誘導体−標的タンパク質の相互作用に限定されず、サッカリン誘導体あるいは標的タンパク質を介した第2の分子との相互作用など、サッカリン誘導体を介したアナライトとの結合・解離のすべてを含む。検出手段は、表面プラズモン共鳴のような光学的検出手段、FETのような電気的検出手段など、周知の検出手段のいずれであってもよい。以下、代表的な実施態様について記載する。
【0041】
本発明のバイオセンサは、サッカリンの生理活性作用機序の解析や、新たなサッカリン誘導体の開発に利用できる。
【0042】
4.1 表面プラズモン共鳴法を利用したバイオセンサ
表面プラズモン共鳴センサは、表面プラズモン共鳴を利用し、センサーチップ上で分子間相互作用をリアルタイムで解析できるバイオセンサである。既に、市販の表面プラズモン共鳴センサ(例えば、BIAcore社のSPR測定用金膜センサーチップSensor Chip Au等)は容易に入手可能である。センサーチップ上に360nmの光照射を行うことによりことにより、本発明のサッカリン誘導体は高い結合性で安定に吸着される。こうして、サッカリン誘導体を結合させたセンサーチップ上にマイクロ流路を設け、ここにアナライト(抗原)を含むサンプルを一定の流速で送液する。抗体とサンプル中のサッカリン誘導体とアナライトが相互作用をすれば、表面プラズモン現象により、結合と解離が光学的に検出され、センサグラムとしてリアルタイムでモニターできる。表面プラズモン共鳴センサは、微量サンプルを高感度に検出できるとともに、相互作用のキネティクスをリアルタイムで解析できるという利点がある。したがって、本発明のサッカリン誘導体を結合させた表面プラズモン共鳴センサは、サッカリン誘導体−標的タンパク質間相互作用解析のバイオセンサとして有用である。さらに、本発明のサッカリン誘導体は2次元表面プラズモン共鳴(SPR)に応用することも可能である。
【0043】
4.2 FET技術を利用したバイオセンサ
電解効果トランジスタ(Field-Effect Transistor, FET)は、電気的検出を利用したバイオセンサに汎用されている技術である。原理は、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流を、第三の電極であるゲート電極で制御し、そのゲート電極表面でサッカリン誘導体−標的タンパク質間相互作用を起こさせるとゲート電極の電荷が変化するため、電流的応答が変化する(Anal. Chim. Acta 136, 93 (1982))。このゲート電極にサッカリン誘導体を固定化することで、FET技術を用いたサッカリン誘導体−標的タンパク質間相互作用が測定できる。すなわち、バイオセンサとして利用できる。
【0044】
サッカリン誘導体−標的タンパク質間相互作用をFETによって検出するためには、その反応ができるだけゲート電極表面に近い場所で起こる必要がある。光反応性基を介したサッカリン誘導体の固定化は、ゲート電極近くにサッカリン誘導体を固定化できるため、従来よりも高感度なFET、これを利用したバイオセンサに有用である。
その他、本発明のサッカリン誘導体は、赤外線などの電磁波の透過光・反射光・近接場光・水晶発振子マイクロバランスを利用したバイオセンサにも応用可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
図2に示すよう、1aおよび1bを出発原料として、芳香環上にMethyl基を持つtrifluoromethyl diazirine化合物を既法(1a:Nassal, Michael. 4-(1-Azi-2,2,2-trifluoroethyl)benzoic acid, a highly photolabile carbene generating label readily fixable to biochemical agents. Liebigs Annalen der Chemie (1983), (9), 1510-23., 1b:Blencowe, Anton; Caiulo, Nick; Cosstick, Kevin; Fagour, William; Heath, Peter; Hayes, Wayne. Synthesis of hyperbranched poly(aryl ether)s via carbene insertion processes. Macromolecules (2007), 40(4), 939-949.)にしたがって合成した(上記合成経路および図2)。
【0047】
さらに、既に報告されているSaccharin直接合成法(下記参照:Xu, Liang; Shu, Hong; Liu, Ying; Zhang, Suhong; Trudell, Mark L. Tetrahedron (2006), 62(33), 7902-7910.)にしたがい、芳香環上にtrifluoromethyl diazirine基を有する新規Saccharin誘導体(10a,b)をそれぞれ合成した。
【0048】
【化6】

【0049】
N-tert-butyl-6-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)-1,2-benzisothiazole-3-one-1,1-dioxide(9a)
クロロスルホン酸(2.8ml, 10eq)をあらかじめ冷却し、-20〜-15℃としておく。ここに6a(843mg, 4.212mmol)を少量ずつ加えていき、冷却したまま1時間攪拌した。その後1時間以上かけてゆっくりと室温にし、さらに室温で4時間攪拌した。反応後、ether/ice waterに滴下してクエンチし、ether層をsat.aq.NaHCO3で洗った後に無水MgSO4で脱水して混合物の状態で2-methyl-5-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)benzene-1-sulfonyl chloride 7a(996.5mg)を得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H-NMR(CDCl3)δ: 7.80(1H, d, J = 1.7 Hz), 7.53(2H, dd, J = 8.0, 1.1 Hz), 7.50(2H, d, J = 8.0 Hz), 2.80(3H, s)ppm.
【0050】
CH2Cl2にt-BuNH2を溶かし、0℃に保っておく。ここに原料7a(996.5mg;mixture)のCH2Cl2溶液を滴下して加えた。0℃で2時間攪拌後、室温でさらに22時間攪拌した。反応系を0.1N HCl、sat.aq.NaHCO3で洗い、有機層を無水MgSO4で脱水して混合物の状態でN-tert-butyl-2-methyl-5-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)benzenesulfonamide(8a)(793mg)を得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H-NMR(CDCl3)δ: 7.84(1H, d, J = 2.3 Hz), 7.35(1H, d, J = 8.0Hz), 7.29(1H, dd, J = 8.3, 2.6 Hz), 4.45(1H, s), 2.67(3H, s), 1.23(9H, s)ppm.
【0051】
CH3CN(10ml)中にオルト過ヨウ素酸(512.8mg, 2.250mmol, 7eq)を加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に、CrO3(3.2mg, 10mol%)と続いて無水酢酸を加えた。ここに、少量のCH3CNに溶かした8a(108.2mg;mixture)を加え、0℃で30分、続いて室温まで戻して2日間攪拌した。溶媒を留去し、残渣をEtOAcに溶かし、sat.aq.NaHCO3、sat.aq.Na2S2O3、brineでそれぞれ洗い、無水MgSO4で脱水した。溶媒留去後、silicagel column(hexane/CH2Cl2=3:1)で単離し、9aを35.6mg, 0.323mmol、diazirine 6aから3段階で収率28%で得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H-NMR(CDCl3)δ: 8.03(1H, d, J = 8.0 Hz), 7.64(1H, s), 7.59(1H, d, J = 8.0 Hz), 1.77(9H, s)ppm. 13C -NMR(CDCl3) δ: 158.81, 138.72 , 136.25 , 131.92, 128.22, 125.27, 121.41(q, 1JCF = 275.5 Hz), 118.42, 61.83, 28.44(q, 2JCF = 41.6 Hz), 27.77ppm. 19F -NMR(CDCl3)δ: -64.7ppm.
【0052】
N-tert-butyl-5-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)-1,2-benzisothiazole-3-one-1,1-dioxide(9b)
上記7aと同様の方法で、6b(500mg, 2.498mmol)から2-methyl-4-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)benzene-1-sulfonyl chloride 7b(560.5mg;mixture)を得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H -NMR(CDCl3) δ: 8.10(1H, d, J = 8.6 Hz), 7.24(1H, d, J = 8.6 Hz), 7.16(1H, s), 2.80(3H, s)ppm.
【0053】
上記8aと同様の方法で、7b(151.8mg;mixture)から混合物の状態で N-tert-butyl-2-methyl-4-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)benzenesulfonamide 8b(148.3mg)を得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H -NMR(CDCl3(δ: 8.05(1H, d, J = 8.6 Hz), 7.12(1H, d, J= 8.6 Hz), 7.04(1H, s), 4.44(1H, s), 2.66(3H, s), 1.22(9H, s)ppm.
【0054】
上記9aと同様の方法で、8b(148.3mg;mixture)から9bを80.2g, 0.231mmol、diazirine 6bから3段階で収率33%で得た。これ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H -NMR(CDCl3) δ: 7.87(1H, d, J= 8.0 Hz), 7.80(1H, s), 7.61(1H, d, J = 8.0 Hz), 1.75(9H, s)ppm. 13C -NMR(CDCl3) δ:158.7, 138.5, 135.8, 132.2, 128.3, 122.8, 121.4(q, 1JCF=281.1Hz), 120.9, 61.7, 28.3(2JCF=38.8), 27.7ppm. 19F -NMR(CDCl3) δ: -64.8ppm.
【0055】
6-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)-1,2-benzisothiazole-3-one-1,1-dioxide(10a)
9a(11.4mg, 39.1μmol)をTFA 2mlに溶かし、還流温度で24時間攪拌した。その後TFAを飛ばし、EtOAc溶液とした。これをsat.aq.NaHCO3で分液し、水層をさらに1N HCl/EtOAcで逆抽出した。有機層をbrineで洗い、無水MgSO4で脱水したのち溶媒を留去して10aを6.5mg, 22.3μmol, 収率57%で得た。
1H -NMR(CDCl3) δ: 8.10(1H, d, J = 8.0 Hz), 7.72(1H, s), 7.65(1H, d, J = 8.0 Hz)ppm. 19F -NMR(CDCl3) δ: -64.52 ppm.
【0056】
5-(3-(trifluoromethyl)-3H-diazirin-3-yl)-1,2-benzisothiazole-3-one-1,1-dioxide(10b)
9b(131.8mg, 0.380mmol)をTFA 6mlに溶かし、還流温度で24時間攪拌した。その後TFAを飛ばし、少量のEtOAcに溶かした。ここにhexaneを添加して行き、-20℃に冷却して結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過により得ることで、10bを65mg, 0.223mmol, 収率58%で得た。
1H -NMR(CDCl3) δ: 7.98(1H, d, J= 8.0 Hz), 7.86(1H, s), 7.71(1H, d, J = 8.0 Hz), 4.59(1H, br s)ppm. 13C -NMR(CDCl3) δ: 139.92 , 136.51 , 133.11 , 128.13 , 123.52 , 121.97 , 121.39( q, 1JCF = 275.1 Hz), 28.33(q, 2JCF = 41.6 Hz)ppm. 19F -NMR(CDCl3) δ: -64.66 ppm.
【0057】
10a,10bのHPLCによる精製
10a,bを水に懸濁し、1M 水酸化ナトリウム水溶液で塩基性とすることで、溶液状にした。これをTosoh TSKgel ODS-80Ts(4.6 x 250 mm)、30% MeOH-水, 1 mL/ min, 215 nm or 350nmで分析し、それぞれ9.2、10.5分に溶出されることを確認した(図3)。
【0058】
10a,10bの光分解
10a,bを1mMになるようにメタノールに溶解し、3cmの距離から15Wブラックライトを照射した。時間ごとに259nm〜400nmの波長スキャンを計測した。350nm付近の極大吸収の減少を計測し、半減期がそれぞれ76、101秒と算出された(図4)。
以上より、10a,10bは、光反応性サッカリン誘導体として利用可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、サッカリンの生理活性発現メカニズムを解明するための新たなツールとして、サッカリンの甘味発現のメカニズムや他の生理活性作用を解明や、新たな機能を有する新規サッカリン誘導体の開発に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される、ジアジリン基を有するサッカリン誘導体。
【化1】

(但し、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれ、
Rは、Xは水素、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよいC1〜3-アルキル、C2〜3-アルケニル、C2〜3-アルキニル、C1〜3-アジド、およびC1〜3-アシル、ハロゲンまたはC1〜3-アルキルで置換されていてもよいフェニルから選ばれる)
【請求項2】
Xが水素、ハロゲン、トリハロメチル、またはトリハロエチル基である、請求項1に記載のサッカリン誘導体。
【請求項3】
Xがトリフルオロメチルまたはトリフルオロエチル基である、請求項1または2に記載のサッカリン誘導体。
【請求項4】
RがHまたは第3級ブチルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のサッカリン誘導体。
【請求項5】
下記式で示される、サッカリン誘導体。
【化2】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のサッカリン誘導体を固定化した固相支持体。
【請求項7】
請求項6に記載のサッカリン誘導体を固定化した固相支持体と、サッカリン誘導体を介した分子間相互作用を検出する手段とを有するバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−241751(P2010−241751A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93632(P2009−93632)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本農芸化学会 刊行物名 2009年度(平成21年度)大会[福岡]大会講演要旨集(該当ページ:第23ページ) 発行年月日 平成21年3月5日
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】