説明

光収集装置

この光収集装置(20)は、少なくとも1つの光収集素子(30)、及び前記光収集素子(30)に関連して、前記装置に光が入射する側に位置する散乱層(2)を具備する。この散乱層(2)は、透明な繊維構造体(3)及び前記繊維構造体の繊維をカプセル化するための透明媒体(4)を有し、前記繊維構造体の繊維の屈折率と、前記カプセル化媒体の屈折率との差の絶対値は、0.05以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光収集装置、例えば光起電モジュールに関する。また、本発明は光収集素子用のカバー、例えば光起電セル用のカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、光収集素子として光起電モジュールは、光エネルギーを電気的エネルギーに変換することができる少なくとも1つの光起電セルを具備する。光起電セルは、エネルギー変換できる材料、及びその材料のいずれかの面の2つの導電接点又は電極を通常は具備する。
【0003】
セルに光が入射する側に位置することを意図されている光起電セルの前面電極は、特に透明伝導性酸化物(又はTCO)層、又は透明金属コーティング(透明伝導性コーティング又はTCC)に基づいて形成される。通常、この前面電極は、光起電モジュールの前面基材、又はグレージング機能(glazing function)を有する基材と組み合わされる。これは、光起電セルへの良好な光透過性を可能としながら、光起電セルの機械的保護を確実にする。
【0004】
光起電モジュールのエネルギー変換効率は、各光起電セルのエネルギー変換材料に到達する光の量に直接的に影響される。それゆえ、この効率を向上させるために、エネルギー変換材料に到達するモジュールへの入射光の量を最大化することが必要である。このために、公知の第一の方策は、その少なくとも前面をテクスチャ化することによって空気/前面基材界面でのモジュールへの入射光の反射を制限して、前面基材の透過特性を向上させることにある。ここで、この前面は、光起電モジュールに光が入射する側に位置することが意図されている面である。公知の他の1つの方策は、前面の電極がTCOに基づいて形成される光起電セルをモジュールが具備する場合に、TCO層の前面基材とは反対側の表面に微細テクスチャを与えることにある。この微細テクスチャ化の結果、TCO層は、入射光を捕捉し、それによりセルのエネルギー変換材料による光の吸収確率を向上させる。しかし、そのようなテクスチャ化した前面基材又は微細テクスチャ化したTCO層を組み込んだ光起電モジュールの効率は、限定的なものに留まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来技術の装置よりも良好なエネルギー変換効率を有する光収集装置、特に光起電モジュールを与えることによって、これらの欠点を特に改良することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明に1つの主題は、少なくとも1つの光収集素子を具備する光収集装置であって、上記光収集素子に関して、上記装置に光が入射する側に位置する散乱層をさらに具備し、この散乱層は、透明な繊維構造体、及びその繊維構造体の繊維をカプセル化するための透明媒体を有し、かつその繊維構造体の繊維の屈折率と、カプセル化媒体の屈折率との差の絶対値が0.05以上であることを特徴とする、光収集装置である。
【0007】
この明細書を通じて、屈折率の数値は、550nmで測定されたものである。
【0008】
本発明の文脈において、用語「透明」は、少なくともその装置の光収集素子に用いる波長の範囲において、透明であることをいう。例を挙げると、多結晶シリコン系の光起電セルを有する光起電モジュールの場合、各透明構造体又は媒体は、このタイプのセルで用いられる波長である400nm〜1200nmの間の波長範囲で有利には透明である。
【0009】
また、表現「繊維構造体の繊維をカプセル化する」によって、繊維構造体の繊維の少なくとも一部がコーティングされているということが理解されるべきである。それゆえ、散乱層においては、繊維の材料とカプセル化媒体の材料との間に界面が存在している。
【0010】
散乱層は、上記収集素子に関して、装置に光が入射する側に、すなわち上記収集素子の前に位置する。通常は、本発明の文脈において、光収集装置の背面−前面方向は、その装置によって収集することを意図した光の伝搬方向とは反対である。
【0011】
本発明による光起電モジュールに関して、光収集素子は、光起電セルであり、かつ散乱層は、このセルの前に位置する。繊維構造体の繊維の屈折率とカプセル化媒体の屈折率との比較的大きな差によって、散乱層は、セルのエネルギー変換材料による光の吸収確率を向上させる光捕捉効果と、大きい角度の入射光の透過率を向上させる角度ヘイズ効果(angle haze effect)とによって、光起電セルのエネルギー変換材料に光を導く様式を改良することができる。
【0012】
こうして、本発明による光起電モジュールに関して、本発明により規定される散乱層を具備しない従来技術のモジュールと比較すると、同じ厚みのエネルギー変換材料に対して、モジュールのエネルギー変換効率を向上させることができるか、エネルギー変換材料の厚みを減らしても、すなわちモジュールのコストを低下させても、同じエネルギー変換効率を維持することができる。
【0013】
本発明の有利な特徴によると、繊維構造体の繊維をカプセル化するための媒体は、ポリマー材料である。特に、カプセル化媒体を、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)、ポリウレタン、アイオノマー又はポリオレフィン系接着剤に基づくポリマー積層中間層(polymeric lamination interlayer)によって形成することができる。変化形として、カプセル化媒体を、上記収集装置の熱可塑性ポリマー製の前面基材によって形成することができる。適切な透明熱可塑性ポリマーの例としては、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリイミド、フルオロポリマー、例えばエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。
【0014】
織物構造又は不織構造のいずれかを有する繊維構造体の繊維は、カプセル化媒体を機械的に補強する役割を担う。特に、カプセル化媒体が、積層中間層又は上記収集装置の前面基材である場合、結果としてこの中間層又は基材の剛性は向上する。それゆえ、本発明の光起電モジュールは、向上した機械的特性を有し、特に許容荷重の点で向上した機械的特性を有する。これは、厳格な機械的試験、例えば風や雪の荷重に対するモジュールの抵抗性を評価するIEC標準によって与えられる機械的試験に合格させることを可能とする。カプセル化媒体を、ガラス基材を前面に置くことを意図したモジュールの積層中間層にする場合、繊維構造体による機械的補強に起因する中間層の向上した剛性は、中間層の前面で比較的薄いガラスを用いることを可能とし、それゆえモジュールの厚み及び重量を小さくすることができる。
【0015】
本発明の有利な特徴によると、繊維構造体は、ガラス繊維及び/又はポリマー繊維を有する。ガラス繊維の場合、繊維を構成するガラスは、任意の種類の繊維化可能なガラス、特にE−ガラスとなることができる。ポリマー繊維の場合、これらは特にポリエステル繊維、又はポリオレフィンの繊維、例えばポリエチレン若しくはポリプロピレンの繊維となることができる。有利には、繊維構造体は、10〜500m/g、好ましくは10〜100m/gの単位面積当り質量を有し、かつ1〜20マイクロメートル、好ましくは5〜15マイクロメートルの直径の繊維を有することができる。好ましくは、繊維構造体は、10マイクロメートル〜1ミリメートルの厚みを有する。
【0016】
実際には、散乱層のヘイズ及び光透過特性を、繊維構造体の単位面積当り質量、繊維構造体の繊維の直径、繊維構造体の繊維の組成、カプセル化媒体の組成から特に、1以上のパラメーターを変えることによって調節することができる。本発明に従って、繊維構造体の繊維の組成を、繊維構造体の繊維の屈折率とカプセル化媒体の屈折率との差が0.05以上になるように、適合させる。本発明の1つの有利な特徴によると、散乱層は、全光線透過率が80%以上を有し、かつヘイズの値が40%以上を有する。この明細書においては、直接光の透過率と拡散光の透過率を含む、素子の全光線透過率は、ISO9050:2003標準に従って測定される。さらに、素子のヘイズ値は、パーセントで表され、光を屈折させるこの要素の能力を表わす値を意味すると理解される。この明細書において、ヘイズ値は、ASTM D1003標準に従ったヘイズ計を用いて測定される。
【0017】
繊維構造体は、不織構造体又は織物構造体であってよい。不織構造体に関しては、繊維を通常入り混じらせるが、織物構造体に関しては、繊維を縦糸と横糸の方向で整列させる。これら両方の場合で、繊維構造体は、カプセル化媒体に機械的補強を与える役割を担う。繊維構造体が織物状の場合、機械的補強は、横糸及び縦糸方向で特に実質的である。有利な実施態様では、繊維構造体は、ベール(veil)であり、散乱層内で繊維のランダムな分布を確保する。通常は、用語「ベール」は、完全に分散したフィラメントから形成した不織物を意味すると理解される。このようなベールを用いると、散乱層の特性は、特にヘイズ及び光透過性において、実質的に均質となる。
【0018】
ガラス繊維の不織ベールは、通常バインダーを有し、これは繊維を結着し、そしてそのベールに容易に取り扱うことを可能にするための十分な剛性を与える。このバインダーは、繊維を結着することができる少なくとも1種のポリマーを通常含み、透明であるものが選択され、そして当業者に知られたあらゆる適切な種類であってよい。ベール中のバインダーの存在は、ベールの取扱い性を向上させることによって、本発明による光収集装置の産業的生産において有利とすることができる。しかし、散乱層を通過する光が、繊維とカプセル化媒体との間の界面に効果的にあたるように、このバインダーは、ベールのガラス繊維の限られた表面のみを被覆する必要がある。本発明の的確な実施のために、バインダーは、好ましくはガラス繊維ベールの約5〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%となる。
【0019】
本発明の有利な特徴によると、散乱層は、光収集素子の前面電極に面して位置する。この装置の光収集素子は、光起電セルとなることができる。
【0020】
本発明による光収集装置の有利な実施態様では、この装置は、第一の吸収スペクトルを有する吸収材料を含む第一の光起電セル、上記第一の吸収スペクトルに対して少なくとも部分的に別個である第二の吸収スペクトルを有する吸収材料を含む第二の光起電セル、上記第一の光起電セルと上記第二の光起電セルとの間に挿入されている散乱層を具備する。
【0021】
また、本発明の他の1つの主題は、光収集素子用のカバー、特に光起電セル用のカバーであり、このカバーは透明基材及び散乱層を具備し、この散乱層は、透明な繊維構造体及び繊維構造体の繊維をカプセル化するための透明媒体を有し、その繊維構造体の繊維の屈折率とそのカプセル化媒体の屈折率との差の絶対値は0.05以上である。
【0022】
このカバーの散乱層は、基材の1つの表面に面して位置する。変化形として、基材が熱可塑性ポリマーで作られている場合、このカバーの散乱層を、基材に組み込むことができ、この場合、その基材の少なくとも一部は、繊維構造体の繊維をカプセル化するための媒体を形成している。
【0023】
本発明の特徴及び利点は、本発明による光収集装置の以下の三つの実施態様の記載から明らかとなるであろう。これは、添付の図面を参照して単に例として与える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施態様による光起電ソーラーモジュールの概略的な断面図である。
【図2】本発明の第二の実施態様による光起電ソーラーモジュールに関する、図1に類似する断面図である。
【図3】本発明の第三の実施態様による光起電ソーラーモジュールに関する、図1に類似する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示す光起電ソーラーモジュール20は、p−n接合を形成している多結晶シリコンウェハーからなる光起電セル30を具備する。また、図1から分かるように、このモジュール20は、グレージング機能を有する前面基材1及び支持機能を有する背面基材8を具備する。モジュール20に太陽光が入射する側に位置することが意図されている前面基材1は、非常に低い含有量の酸化鉄を有する特に透明なガラス、又は透明な熱可塑性ポリマーで特に作製することができる。
【0026】
背面基材8は、透明か不透明かいずれかの任意の適切な材料で作製され、モジュール20の内側に向いた表面に、すなわち、太陽光がモジュールに入射する側に、光起電セル30の背面電極を形成する導電性層7を保持する。例を挙げると、層7は、金属層であり、特に銀又はアルミニウムで作製される。
【0027】
背面電極を形成する層7上には、通常の場合、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換することができる多結晶シリコンウェハー6が配置されている。ウェハー6上には、セル30の前面電極を形成する透明導電性層5が配置されている。そうして光起電セル30は、層5、6及び7の積層によって形成される。この例では、セル30の前面電極を形成する層5は、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)に基づく層である。変化形として、層5を、他のドープ透明伝導酸化物(TCO)に基づく層、又は透明金属コーティング(TCC)、例えば銀に基づく積層体とすることができる。
【0028】
散乱層2は、前面電極を形成する層5と前面基材1との間に位置することができる。この散乱層2は、屈折率nが約1.57であるE−ガラス繊維の透明なベール3、及び屈折率nが約1.48であるPBV製の透明マトリクス4を有することができ、このマトリックスは、ベール3をカプセル化する。そして、ベール3の繊維とマトリックス4との屈折率の差は、約0.09である。ベール3に用いることができるガラス繊維ベールの例は、Saint−Gobain Technical Fabricsにより販売されているU50型のベールであり、これは50g/mの坪量(grammage)又は単位面積当り質量を有する。
【0029】
図1に概略的に示されるように、ポリマーマトリックス4は、ベール3をカプセル化し、ベールと実質的に同じ厚みを有する。しかし、ポリマーマトリックス4は、ベール3の厚みより大きな厚みを有してもよく、ベール3は、ポリマーマトリックス4の一部のみでカプセル化されてもよい。ベール3は、PVBマトリックス4を機械的に補強し、それによって散乱層2は、散乱層2と同じ厚みを有し、かつPVBのみで作製された層よりも高い剛性を有する。
【0030】
ベール3の繊維とカプセル化マトリックス4との屈折率の差が比較的大きいと、ベールの繊維とマトリックスとの界面で光が強く散乱され、これは散乱層2の高いヘイズ値をもたらす。したがって、散乱層2は、40%超の高いヘイズ値と、80%超の高い全光線透過率との両方を有する。実際には、散乱層2のヘイズ及び光線透過率の特性を特に、ベール3の単位面積当たり質量、ベール3の繊維の直径、ベール3の繊維の組成、ポリマーマトリックス4の組成のうちの、1以上のパラメーターを変えることによって調節することができ、そうしてヘイズと光線透過との間の有利な折衷を与える散乱層2を得るようにする。
【0031】
光起電セル30の前面に位置する散乱層2の高いヘイズは、主に2つの効果によって、モジュールに入射する高い割合の光を、エネルギー変換材料6で吸収することを促進する。
【0032】
第一の効果は、散乱層2による、光捕捉効果又は光線捕捉効果である。特に、ベール3の繊維と層4との間の界面での強い散乱に起因して、層2及び下層5、6での光の光路が長くなり、それにより層2の背面に位置するウェハー6の光起電半導体材料による光の吸収確率が高くなる。それゆえ、散乱層2は、光がエネルギー変換材料6によって吸収されるまで、光をモジュール20内に維持しかつ向けるある程度の誘導材として機能する。
【0033】
第二の効果、又は「角度ヘイズ」効果は、散乱層2と、第一の実施態様においては前面電極5であるモジュールの下層との間の界面で、光線の大きい入射角に関して、反射が低下することに対応する。ベール3の繊維とマトリックス4との間の界面での散乱に起因して、モジュール20への大きい入射角を有する光線は、散乱層2内で「まっすぐにされ(straighten up)」て、それにより光線は、比較的小さい入射角でモジュールの下層5に入る。90度に近い大きい入射角の範囲は、散乱層2と下層5との界面での反射を促進するので、層2での散乱によって光線をまっすぐにすることは、反射のかなりの低減をもたらす。それゆえ、比較的幅広い範囲の角度の入射光を、エネルギー変換材料6に輸送し、それによってエネルギー変換材料6によって吸収されるモジュール20への入射光の量を増やす。
【0034】
散乱層の高い全光線透過率と組み合わせて、これらの2つの効果は、散乱層を有さない従来技術の同様の光起電モジュールと比較して、光起電モジュール20のエネルギー変換効率を高める役割を果たす。
【0035】
図2に示す第二の実施態様では、第一の実施態様のものと類似の要素は、同じ参照番号を有するが、100を足している。この第二の実施態様の光起電ソーラーモジュール120は、多結晶シリコンウェハーを具備するセルの代わりに、薄膜光起電セル130を具備する点で、モジュール20とは異なっており、その吸収層は、銅、インジウム及びセレンを含有する黄銅鉱(chalcopyrite)化合物に基づいていており、CIS吸収層と呼ばれる。随意に、ガリウムをそのようなCIS吸収層に添加して、CIGS吸収層とすることができ、又他には、アルミニウム若しくは硫黄をそこに添加することもできる。
【0036】
第二の実施態様によるモジュール120は、グレージング機能を有する前面基材101及び支持機能を有する背面基材108を具備する。背面基材108は、モジュール120の内側に向いた表面に、モジュールの光起電セル130の背面電極を形成する導電性層107を保持する。例を挙げると、層107は、モリブデンに基づく。背面基材108がガラス製で、背面電極107がモリブデン製の場合、層(図示せず)、特に窒化ケイ素Siに基づく層は、アルカリバリアを形成するために、有利には背面基材108と層107との間に位置する。
【0037】
層107上には、黄銅鉱化合物、特にCIS又はCIGSに基づく吸収材の層106が配置されている。これは太陽エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。吸収層106上には、硫化カドミウムCdSの層(図示せず)が配置されており、これはドープしていない真性酸化亜鉛(ZnO)の層(これも図示せず)と随意に組み合わされる。そしてセル130の前面電極を形成する透明導電性層105が配置されている。モジュール120の光起電セル130は、こうして層105、106及び107の積層体により形成される。この例では、セル130の前面電極を形成する層105は、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)に基づく層である。変化形として、層5は、他の1つのドープした透明伝導性酸化物(TCO)又は透明金属コーティング(TCC)、例えば銀に基づく積層体となることができる。
【0038】
第一の実施態様に同様に、散乱層102は、前面電極を形成する層105と前面基材101との間に位置することができる。この散乱層102は、第一の実施態様の散乱層2と同様に、E−ガラス繊維で作製された透明なベール103、及びPVBで作製されたカプセル化マトリックス104を有することができる。PVBカプセル化マトリックス、又は他の任意のポリマー積層中間層で作製された層を用いることは、前面基材101と背面基材108との間の位置にモジュール120の機能層を保持するために有利である。
【0039】
上述したように、光起電セル130の前面に位置する散乱層102の高いヘイズ値のために、モジュール120のエネルギー変換効率は、散乱層を具備しない同様のモジュールの効率と比較して向上している。これは、上述の2つの効果、すなわち光線捕捉及び角度ヘイズによる。
【0040】
図3に示す第三の実施態様において、第一の実施態様のものと類似の要素は、同じ参照番号を有するが、200を足している。この第三の実施態様の光起電ソーラーモジュール220は、2つの光起電セル230及び240の重ね合せによって形成される「4端子直列セル」(four−wire tandem cell)を具備する点で、上述のモジュールとは異なっている。
【0041】
図3から分かるように、モジュール220は、グレージング機能を有する前面基材201及び支持機能を有する背面基材208を具備し、これらの間に、モジュールの機能層の積層体が位置する。モジュール220の前面に位置するセル240は、薄膜セルであり、その吸収層216は、アモルファスシリコンに基づいており、約300nm〜600nmの間の波長範囲にある太陽スペクトルの高エネルギーフォトンを吸収する。モジュール220の背面に位置するセル230は、薄膜セルであり、その吸収層206は、CIGS吸収層であり、これは約500nm〜1000nmの間の波長範囲で吸収する。前面セル240及び背面セル230の吸収スペクトルは、少なくとも部分的に別個であるため、前面セル240によってエネルギー変換に使われない部分のスペクトルは、背面セル230が使うことができる。この直列セルは、こうしてモジュール220による太陽光線の使用を最適化する。
【0042】
モジュール220の前面で、前面基材201は、前面セル240を被覆する。これは、前面基材201から始めて連続して、セル240の前面電極を形成する透明導電性層215、アモルファスシリコンに基づく吸収層216、及びセル240の背面電極を形成する他の1つの透明導電性層217を具備する。例を挙げると、前面セル240の電極を形成する層215及び217のそれぞれが、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)に基づく層である。変化形として、215又は217の各層は、他の1つのドープ透明伝導性酸化物(TCO)又は透明金属コーティング(TCC)、例えば銀に基づく積層体となってもよい。
【0043】
モジュール220の背面で、背面基材208は背面セル230を保持し、これは、背面基材208から始めて連続して、セル230の背面電極を形成する導電性層207、約500nm〜4000nmの厚みを有するCIGS吸収層206、ドープしていない真性酸化亜鉛ZnOの層(図示せず)を随意に組み合わせた硫化カドミウムの層(図示せず)、及びセル230の前面電極を形成する透明導電性層205を具備する。例を挙げると、背面電極を形成する層207は、モリブデンに基づいており、かつ前面電極を形成する層205は、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)に基づく層である。変化形として、層205を、他の1つのドープ透明伝導性酸化物(TCO)又は透明金属コーティング(TCC)、例えば銀に基づく積層体とすることができる。
【0044】
この実施態様において、本発明に従って、散乱層202は、背面セル230の前面電極を形成する層205と前面セル240の背面電極を形成する層217との間で、背面セル230の前面に位置する。散乱層202は、第一の実施態様の散乱層2と同様に、E−ガラス繊維のベール203及びPVB製のカプセル化マトリックス204を有する。
【0045】
上述したように、光線捕捉及び角度ヘイズの2つの効果を通じて、背面セル230の前面に位置する散乱層202は、モジュール220に入射する光線の、背面セルの吸収層206への誘導を改善する。そうして、散乱層202は、吸収層206に吸収されるモジュール202に入射する光の量を増やし、それによりモジュール220のエネルギー変換効率を向上させる。
【0046】
4端子直列セルを構成する2つのセルの間に散乱層が位置することは、モジュール220のエネルギー変換効率を向上させるために、より重要である。これは、モジュールの前方部分での光の喪失によってモジュールの中央領域に達することができる入射光の量が限定されているからである。これらの条件下では、モジュールの中央領域に到達する光の一部を、背面セル230の吸収層206に最適に導き、そうしてモジュール220による太陽光の利用の最適化を効果的にすることが重要である。
【0047】
本発明による4端子直列セルの変化形(図示せず)は、黄銅鉱化合物に基づく背面セル230が、約600nm〜1000nmの波長範囲での近赤外域で吸収する微結晶シリコンに基づくセルと置き換わる点のみ、上述のモジュール220と異なる。微結晶シリコンに基づくこのようなセルは、モジュールの背面セルから始めて連続して、背面電極を形成する導電性層、微結晶シリコンに基づく吸収層及び前面電極を形成する透明導電性層を具備する。例を挙げると、背面電極を形成する層は、金属層、特に銀又はアルミニウムの層であり、前面電極を形成する層は、ドープ透明伝導性酸化物(TCO)又は透明金属コーティング(TCC)に基づく層である。
【0048】
上述したように、アモルファスシリコンに基づく前面セルの吸収スペクトルと、微結晶シリコンに基づく背面セルの吸収スペクトルとは、別個であり、前面セルでエネルギー変換に使われないスペクトルの部分を、背面セルで使うことができる。モジュール220を使用する場合に、前面セルと背面セルとの間に挿入される散乱層は、この直列モジュールによって太陽光を最適に利用するために、かつ散乱層を具備しない従来技術の同様のモジュールと比べてこのモジュールのエネルギー変換効率の改良を保証するために、重要である。
【0049】
本発明は、少なくとも1つの光収集素子の前面に位置する上述の散乱層を組み込んだ光収集装置のみに向けられるのではなく、基材及び上述の散乱層を具備する光収集素子用のカバーにも向けられる。散乱層での機械的補強材として機能する繊維構造体のために、本発明のカバーは、繊維構造体を具備しない従来技術の基材より、高い剛性を有する。
【0050】
上記の例は、高いヘイズと高い光透過との両方を備えた、少なくとも1つの光収集素子の前面に位置することが意図された複合散乱層を具備する、本発明による装置及びカバーの利点を示す。上述したように、光収集素子の前面に位置する散乱層の高いヘイズは、この装置への入射光のこの素子による大きな吸収を保証し、それによってこの素子を組み込んだ装置のエネルギー変換効率を高める。
【0051】
それゆえ、本発明は、散乱層を具備しない従来技術の同様の装置と比較して、同じ厚みのエネルギー変換材料に対して装置のエネルギー変換効率を向上させるか、同じエネルギー変換効率に対してエネルギー変換材料の厚みを減らしてそして装置のコストを低減させるかのいずれかを、本発明の装置又は本発明のカバーを組み込んだ装置に関して、可能にする。
【0052】
E−ガラス繊維のベール及びPVBカプセル化マトリックスを有する上述の散乱層を具備する本発明の光起電モジュール20、120又は220を製造する方法は、散乱層の一部をなすベールの形成、続いて散乱層の形成及びモジュールの構造体へのその挿入を含む。
【0053】
ガラス繊維ベールは、「ドライ」プロセスを用いて形成されてもよく、又は「ウェット」プロセスを用いて形成されてもよい。ガラス繊維ベールを製造するためのこのようなプロセスは、当業者によく知られているので、本明細書では詳細には記載しない。調製したら、そのベールを、PVB層に対して押し込むことによって埋め込む。そして、PVB層及びPVB層に埋め込まれたベールを含む複合体を、通常の積層中間層に対する方法と同じ方法で、モジュールの積層構造中に置く。そして、この積層された構造体を、オーブン中で加熱して、モジュールの様々な構成層間に良好な接着を与える。
【0054】
知られているように、本発明による光起電モジュールを、スーパーストレート(superstrate)モードで作製することができ、すなわち前面基材から始めてデバイスの構成層を連続的に堆積することによって作製することができる。これは、特にシリコン又はテルル化カドミウムに基づく吸収体を有する薄膜光起電モジュールの場合に当てはまる。または、本発明による光起電モジュールは、サブストレート(substrate)モードで作製することができ、すなわち背面基材にセルの構成層を連続的に堆積することよって作製することができる。これは、特に黄銅鉱化合物に基づく吸収体を有する薄膜光起電モジュールの場合に当てはまる。
【0055】
特に有利には、モジュールをサブストレートモードで作製し、かつ散乱層のポリマーマトリクスがポリマー積層中間層である場合、その散乱層は、モジュール内の光の誘導を改良し、かつモジュールの機械的接着を確保することを可能とする。
【0056】
カプセル化媒体を透明熱可塑性ポリマーで形成し、かつ特に本発明によるモジュールのグレージング機能を与える前面基材の一部で形成する場合、モールドに繊維構造体を置き、そしてモールドに熱可塑性ポリマーを射出することによって、成形中に繊維構造体の繊維を熱可塑性基材中でカプセル化することができる。
【0057】
カプセル化媒体中に繊維構造体を入れるために選択する技術にかかわらず、例えば繊維構造体への埋め込みによるか、又は上述の射出成形によるかにかかわらず、織物構造であろうと不織構造であろうと繊維構造体を用いることは、取扱い性及び製造を比較的容易にする。不織構造の繊維は、カプセル化媒体への繊維構造体への組込みの前に、絡み合わせ(entanglement)によって、かつ/又はバインダーを用いて、共に結合される。
【0058】
本発明は、記載された例及び示された例に限定されない。散乱層による光捕捉及び角度ヘイズについての上述の利点は、高いヘイズ及び高い光透過の両方を示す適切な特性を有する、透明な繊維構造体及び透明カプセル化媒体を備える任意の層によって得ることができる。本発明に従って、高いヘイズを得るための1つの条件は、繊維構造体の繊維の屈折率とカプセル化媒体の屈折率との差の絶対値を0.05以上とすることに関する。
【0059】
カプセル化媒体が、ポリマーマトリクスであり、特にこれが積層中間層又は熱可塑性基材によって形成される場合、このポリマーマトリクスは、繊維構造体の厚み以上の厚みを有することができる。特に、ポリマーマトリクスが繊維構造体の厚みより大きな厚みを有する場合、このマトリクスは、繊維構造体の片面又は両面を越えて拡がることができる。
【0060】
上述したように、繊維構造体は、織物構造体又は不織構造体であってよい。繊維構造体を、散乱層の形成前に共に結合されていない繊維によって形成することができる。例えば、繊維構造体を、ポリマーマトリクス以外にバインダーを含まないベールのように絡み合わせながら、カプセル化媒体を形成するポリマーマトリクス中に堆積させ又は散布した繊維によって形成することができる。変化形では、カプセル化媒体を、ポリマーマトリクスの代りに、空気によって、又は適切な屈折率の液体によって形成することができる。
【0061】
さらに、本発明は、散乱層が光起電セルの前面電極に面して位置する例に基づいて記載されている。変化形として、散乱層は、光起電セルの前面であるが、透明な中間層によってこのセルの前面電極から離れて位置してもよい。
【0062】
第三の実施態様で示したように、本発明による装置は、複数の光収集素子を有することができる。この場合には、この装置は、この装置の収集素子の前面にそれぞれ位置している、透明な繊維構造体及び透明カプセル化媒体を有する散乱層を、複数組み込んでもよい。
【0063】
特に、第三の実施態様では、光起電モジュール220は、背面セル230と前面セル240の間に位置する散乱層202とは別に、前面電極215と前面基材201との間に前面セル240の前面に位置する第二の散乱層を、具備してもよい。2つの散乱層を有するこのような構成は、前面セルの吸収層216及び背面セルの吸収層206への光の誘導を改良し、これはこのモジュールのエネルギー変換効率をさらに向上することを可能とする。
【0064】
エネルギー変換効率を向上させる観点で、本発明による光収集装置は、1以上の散乱層に加えて、光の誘導を改良するための他の公知の手段、特にテクスチャ化した前面基材を組み込むこともでき、それにより空気と前面基材との界面における光の反射を制限することができる。
【0065】
最後に、本発明は、上述の装置に限定されることなく、光収集素子を具備するあらゆる種類の装置に関して実施することができる。アモルファスシリコンか微結晶シリコンかにかかわらずシリコンに基づく吸収層、黄銅鉱化合物に基づく吸収層、特にCIS又はCIGS型に基づく吸収層、又はテルル化カドミウムに基づく吸収層を有する薄膜光起電セルを具備する光起電モジュールに、特に本発明を適用することができる。p−n接合を形成している多結晶シリコンウェハー又は単結晶シリコンウェハーから形成される光起電セルを具備する光起電モジュールに、又は有機光起電セルを具備するモジュールに、本発明を適用することもできる。また、本発明は、光起電セル以外の収集素子を含む光収集装置、例えば熱太陽モジュールにも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光収集素子(30;130;230;240)を具備する光収集装置(20;120;220)であって、前記光収集素子(30;130;230)に関連して、前記装置に光が入射する側に位置する散乱層(2;102;202)をさらに具備し、前記散乱層(2;102;202)は、透明な繊維構造体(3;103;203)及び前記繊維構造体の繊維をカプセル化するための透明媒体(4;104;204)を有し、前記繊維構造体の繊維の屈折率(n)と、前記カプセル化媒体の屈折率(n)との差の絶対値が0.05以上であることを特徴とする、光収集装置(20;120;220)。
【請求項2】
前記カプセル化媒体(4;104;204)が、ポリマー材料であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記カプセル化媒体(4;104;204)が、ポリマー積層中間層により形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記カプセル化媒体が、前記装置(20;120)の前面基材(1;101)により形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記繊維構造体(3;103;203)が、ガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記繊維構造体(3;103;203)が、ポリマー繊維を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記繊維構造体(3;103;203)が、10〜500g/m、好ましくは10〜100g/mの単位面積当り質量を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記繊維構造体(3;103;203)が、1〜20マイクロメートル、好ましくは5〜15マイクロメートルの直径を有する繊維を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記散乱層(2;102;202)は、80%以上の全光線透過率及び40%以上のヘイズ値を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記繊維構造体(3;103;203)が、不織ベールであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記散乱層(2;102;202)が、前記光収集素子(30;130;230)の前面電極(5;105;205)に面して位置していることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置の光収集素子が、光起電セル(30;130;230;240)であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
第一の吸収スペクトルを有する吸収材料を含む第一の光起電セル(230)、及び前記第一の吸収スペクトルと少なくとも部分的に別個である第二の吸収スペクトルを有する吸収材料を含む第二の光起電セル(240)を具備し、前記第一の光起電セル(230)と前記第二の光起電セル(240)との間に前記散乱層(202)が挿入されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
透明基材(1;101)を具備する光収集素子(30;130)用のカバー、特に光起電セル用のカバーであって、透明な繊維構造体(3;103)及び前記繊維構造体の繊維をカプセル化するための透明媒体(4;104)を有する散乱層(2;102;202)を具備し、前記繊維構造体の繊維の屈折率(n)と、前記カプセル化媒体の屈折率(n)との差の絶対値が0.05以上であることを特徴とする、光収集素子(30;130)用のカバー、特に光起電セル用のカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516778(P2013−516778A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547534(P2012−547534)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050030
【国際公開番号】WO2011/083282
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(507392897)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】