説明

光周波数領域反射測定方法及び装置

【課題】本発明の課題は、参照干渉計の遅延ファイバが受ける外乱による光波の位相揺らぎを抑庄して、測定距離の長い対象であっても高分解能な測定を行うことが可能な光周波数領域反射測定方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、参照干渉計15では光源11からの出力光と出力光を遅延ファイバ19で遅延させた光とのモニタビート信号を検出し、測定干渉計13では光源11からの出力光と出力光を測定対象14に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出し、前記測定ビート信号を前記モニタビート信号に基づいて補正し、測定対象における光波伝播方向の反射率を測定する光周波数領域反射測定方法(OFDR)において、参照干渉計15の遅延ファイバ19が受ける外乱による光波の位相揺らぎを抑庄する防音機構20を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光部品や光伝送路において反射光や後方散乱光を高空間分解能で測定することができる光周波数領域反射測定方法とこの方法を用いた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高空間分解能にて光部品や光伝送路からの反射光および後方散乱光を測定する事が可能な手法として、非特許文献1に示すようなコヒーレント光を用いた光周波数領域反射測定方法(C−OFDR)がある。光周波数領域反射測定方法は、測定対象に周波数掃引されたコヒーレント光を入射し、測定対象からの反射光および後方散乱光と、あらかじめ分岐された参照光をコヒーレント検波し、得られた測定ビート信号を周波数解析することで、測定対象内の任意の位置での反射光および後方散乱光強度を得て、測定対象の損失分布や故障点の特定を可能にする技術である。
【0003】
さらに、非特許文献2に示すように、参照干渉計を用いて光源のコヒーレンス特性をモニタして測定ビート信号を補正することで、レーザコヒーレンス長を越える領域においても、光源の位相揺らぎ(光源位相雑音)による反射スペクトルの広がりを補償し高精度な測定結果を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.Eickhoff and R.Ulrich,Applied physics Letters,vol.39,no9,pp.693-695,1981
【非特許文献2】X.Fan,Y.Koshikiya and F.Ito,Optics Letters,vol.32.no.22,pp.3227-3229,2007
【非特許文献3】“小型防音ボックス”、[online]、[2008年11月28日検索]、インターネット<URL:http://www.soundenvironment.jp/soundproof-box.htm>
【非特許文献4】“遮音シート”、[online]、[2008年11月28日検索]、インターネット<URL:http://www.nittobo.co.jp/kw/juuken/syaon.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、既存の技術においては参照干渉計に音、振動、温度変化等の外乱が加わることで光源位相雑音とは別の位相揺らぎ(外乱による位相雑音)が重畳され、このような外乱が重畳されたモニタビート信号では測定ビート信号を正しく補正できないという問題があった。
【0006】
特に参照干渉計に用いられる遅延長が長い場合は外乱を受ける区間が長くなるため、外乱による位相雑音が大きくなる。これにより測定ビート信号を十分補正できず反射スペクトルが広がり、高精度な測定が不可能となる。このように、外乱の影響によって参照干渉計による補正の効果が小さくなってしまうため、外乱による位相揺らぎは光周波数領域反射測定方法(OFDR)を測定距離の長い対象物へ適用する際の大きな障害となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するために本発明は、光周波数を時間に対して掃引する光源からの出力光を二分岐して参照干渉計及び測定干渉計にそれぞれ入射し、前記参照干渉計では前記光源からの出力光と該出力光を遅延ファイバで遅延させた光とのモニタビート信号を検出し、前記測定干渉計では前記光源からの出力光と該出力光を測定対象に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出し、前記測定ビート信号を前記モニタビート信号に基づいて補正し、測定対象における光波伝播方向の反射率を測定する光周波数領域反射測定方法(OFDR)において、前記参照干渉計の遅延ファイバが受ける外乱による光波の位相揺らぎを抑庄する措置、例えば防音措置を施すことを特徴とする。
【0008】
また本発明の光周波数領域反射測定装置は、光周波数を時間に対して掃引する光源と、前記光源からの出力光が入射され、入射された出力光と出力光を遅延ファイバで遅延させた光とのモニタビート信号を検出する参照干渉計と、前記光源からの出力光が入射され、入射された出力光と出力光を測定対象に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出する測定干渉計と、前記モニタビート信号及び前記測定ビート信号を受信してサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部でサンプリングされた測定ビート信号をモニタビート信号に基づいて補正し、測定対象における光波伝播方向の反射率を測定する解析部と、前記参照干渉計の遅延ファイバに設けられた外乱による光波の位相揺らぎを抑圧する機構、例えば防音機構とを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光周波数領域反射測定方法は、参照干渉計の遅延ファイバが受ける例えば音によって生じる光波の位相揺らぎ等の外乱による光波の位相揺らぎを抑庄することができ、測定距離の長い対象であっても高分解能な測定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る光周波数領域反射測定装置を示す構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光周波数領域反射測定方法で測定された反射点のスペクトルを示す図で、(a)は参照干渉計の遅延ファイバを防音箱に入れない場合、(b)は参照干渉計の遅延ファイバを防音箱に入れた場合である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1において、11は周波数掃引光源、12,18,21,22,23は光方向性結合器、13は測定干渉計、14は測定対象、15は参照干渉計、16はサンプリング部、17は解析部、19は遅延ファイバ、20は防音機構、24,26は光受信器、25,27はサンプリング装置、28はクロック発生器、29は演算処理装置、30は出力光、31は測定光、32はモニタリング光、33は信号光、34は局発光である。
【0012】
本発明の実施形態に係る光周波数領域反射測定装置は、図1に示すように、光周波数を時間に対して掃引する周波数掃引光源11から出力された出力光30が光方向性結合器12により分岐され、一方は測定光31として測定干渉計13および測定対象14に入射し、他方は出力光30のコヒーレンス特性をモニタするモニタリング光32として参照干渉計15に入射する。
【0013】
参照干渉計15は光方向性結合器18,21及び遅延ファイバ19より構成され、入射されたモニタリング光32(出力光30)とモニタリング光32を遅延ファイバ19で遅延させた光とのモニタビート信号を検出する。参照干渉計15の遅延ファイバ19には外乱による光波の位相揺らぎを抑圧する機構、例えば音が外乱として作用することによって生じる光波の位相揺らぎを抑圧する防音機構20が設けられる。
【0014】
測定干渉計13は光方向性結合器22,23より構成され、信号光33(出力光30,測定光31)と測定光31(出力光30)を測定対象14に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光の局発光34との測定ビート信号を検出する。
【0015】
参照干渉計15で検出されたモニタビート信号はサンプリング部16の光受信器24で受信してサンプリング装置25でサンプリングする。測定干渉計13で検出された測定ビート信号はサンプリング部16の光受信器26で受信してサンプリング装置27でサンプリングする。サンプリング装置25,27には解析部17のクロック発生器28からクロックパルスが入力される。
【0016】
サンプリング装置25でサンプリングされたモニタビート信号及びサンプリング装置27でサンプリングされた測定ビート信号は解析部17の演算処理装置29に入力され、演算処理装置29は演算処理によってサンプリングされた測定ビート信号をモニタビート信号のコヒーレンス特性に基づいて補正し、測定対象14における反射光および後方散乱光の強度分布を得、測定対象14における光波伝播方向の反射率を測定する。
【0017】
サンプリング装置25は光受信器24から入力されるモニタビート信号をサンプリングし、サンプリングデータXnを内部メモリなどに記録する。演算処理装置29は前記サンプリングデータXnの位相を求める上で、連続関数X(t)を計算する。一方、サンプリング装置27は、光受信器26から入力される測定ビート信号を同じ間隔でサンプリングし、サンプリングデータYnを内部メモリなどに記録する。
【0018】
さらに演算処理装置29は、サンプリング装置25から受け取った関数X(t)とサンプリング装置27から受け取ったデータYnとを利用して、サンプリング処理とFFT(高速フーリエ変換)処理とを含むデータ処理を、N回にわたり繰り返す。これにより得たデータFFTは、記録される。そして演算処理装置29は、データFFT、FFT、…、FFTを利用して測定結果を計算する。
【0019】
このように、光源11のコヒーレンス特性をモニタする参照干渉計15を設け、そのモニタの結果に基づいて測定干渉計13における測定結果を補正するようにしている。参照干渉計15において自己遅延ホモダイン検波により光源11の出力光のモニタビート信号を生じさせ、そのビート信号の参照信号を作り出し、その作り出した参照信号に基づき測定干渉計13のビート信号をサンプリングして、得られた数列にFFT処理を施して測定結果を得るようにしている。
【0020】
すなわち、光周波数を時間に対して掃引する周波数掃引光源11からの出力光を二分岐して参照干渉計15及び測定干渉計13にそれぞれ入射し、前記参照干渉計15では前記光源11からの出力光と該出力光を遅延ファイバで遅延させた光とのモニタビート信号を検出し、前記測定干渉計13では前記光源11からの出力光と該出力光を測定対象14に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出し、前記測定ビート信号を前記モニタビート信号に基づいて補正し、測定対象14における光波伝播方向の反射率を測定する光周波数領域反射測定方法(OFDR)において、前記参照干渉計15の遅延ファイバ19が受ける外乱による光波の位相揺らぎを抑庄する措置、例えば防音措置を施すことを特徴とする。
【0021】
参照干渉計15の遅延ファイバ19における防音機構20としては、例えば非特許文献3に示すような小型防音ボックスや非特許文献4に示すような遮音シート等を貼り付けた密閉性の高い箱の内部に参照干渉計15を設置することで実現可能である。
【0022】
また、光波は測定装置において極めて長い光路長を有する遅延ファイバ19中を伝播する際に最も外乱の影響を受けるため、防音を施す範囲は少なくとも参照干渉計15に用いている遅延ファイバ19部分でなければならない。従って、遅延ファイバ19が防音機構20の内部にあれば、その防音機構20に収容する範囲は装置全体に及んでも同様の効果が得られる。但し、防音機構20の内部に音源が存在してはならない。
【0023】
図2は遮音シートを内部に貼り付けた木製の防音箱内に参照干渉計15の遅延ファイバ(5km)19を収容した際に得られるモニタビート信号を用いて測定ビート信号を補正した場合(b)と、遅延ファイバ19を防音箱に収容しなかった際に得られるモニタビート信号を用いて測定ビート信号を補正した場合(a)に得られるOFDR測定の結果(40km地点近傍の波形)を示している。
【0024】
測定対象14は長さ40kmのシングルモードファイバであり、遠端はAdPC研磨されたSCコネクタの開放端とした。参照干渉計15を防音箱に収容することによって、反射点におけるスペクトルの分解能である半値全幅が110cmから10cmに狭窄化されており、分解能が向上していることが分かる。このように、参照干渉計15に防音機構20を施すことで音による光波の位相揺らぎを抑圧し、周波数掃引光源11のコヒーレント特性を正確にモニタしたモニタビート信号を得ることができ、測定ビート信号を正しく補正できる。
【0025】
上記は参照干渉計15に加わる外乱が音の場合について述べたが、温度変化、振動が外乱として参照干渉計15に作用し、光波の位相揺らぎを生じさせる場合においても、それぞれ温調機構および防振機構を参照干渉計15に施すことで正確に光源コヒーレント特性をモニタすることができ、分解能向上が実現されることは明らかである。
【0026】
以上のように、本発明の実施形態に係る光周波数領域反射測定方法を用いることにより、参照干渉計によって得られる光源コヒーレンシ特性のモニタが正しく行われるため、参照干渉計による測定ビート信号に対する最大の補正効果が得られ、反射スペクトルの広がりを抑えて高精度な光周波数領域反射測定方法を長距離に渡って提供することが可能になる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0028】
11…周波数掃引光源、12,18,21,22,23…光方向性結合器、13…測定干渉計、14…測定対象、15…参照干渉計、16…サンプリング部、17…解析部、19…遅延ファイバ、20…防音機構、24,26…光受信器、25,27…サンプリング装置、28…クロック発生器、29…演算処理装置、30…出力光、31…測定光、32…モニタリング光、33…信号光、34…局発光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光周波数を時間に対して掃引する光源からの出力光を二分岐して参照干渉計及び測定干渉計にそれぞれ入射し、前記参照干渉計では前記光源からの出力光と該出力光を遅延ファイバで遅延させた光とのモニタビート信号を検出し、前記測定干渉計では前記光源からの出力光と該出力光を測定対象に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出し、前記測定ビート信号を前記モニタビート信号に基づいて補正し、測定対象における光波伝播方向の反射率を測定する光周波数領域反射測定方法において、
前記参照干渉計の遅延ファイバが受ける外乱による光波の位相揺らぎを抑庄する措置を施すことを特徴とする光周波数領域反射測定方法。
【請求項2】
外乱による光波の位相揺らぎを抑圧するために参照干渉計の遅延ファイバに防音措置を施すことを特徴とする請求項1に記載の光周波数領域反射測定方法。
【請求項3】
光周波数を時間に対して掃引する光源と、
前記光源からの出力光が入射され、入射された出力光と出力光を遅延ファイバで遅延させた光とのモニタビート信号を検出する参照干渉計と、
前記光源からの出力光が入射され、入射された出力光と出力光を測定対象に入射させることにより得られる後方散乱光及び反射光との測定ビート信号を検出する測定干渉計と、
前記モニタビート信号及び前記測定ビート信号を受信してサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部でサンプリングされた測定ビート信号をモニタビート信号に基づいて補正し、測定対象における光波伝播方向の反射率を測定する解析部と、
前記参照干渉計の遅延ファイバに設けられた外乱による光波の位相揺らぎを抑圧する機構と
を具備することを特徴とする光周波数領域反射測定装置。
【請求項4】
前記参照干渉計の遅延ファイバに、音による光波の位相揺らぎを抑圧するために防音機構を設けることを特徴とする請求項3に記載の光周波数領域反射測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185842(P2010−185842A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31687(P2009−31687)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】