説明

光回路

【課題】 平面光回路の光導波路から光を射出し、入射する垂直光路変換ミラー回路においては、45°傾斜ミラーのミラー角度ずれによって、製造歩留まりが低下する問題があった。
【解決手段】 垂直光路変換ミラーを保護するために設けられたミラー保護板の出射側表面を、平面回路に対して所定の傾斜角度となる構造としたことにより、ミラー角度ずれを補正することが可能となり、出射角度の精度が高い垂直光路変換ミラーを実現できる。傾斜溝を形成することにより従来の製造設備を用いて簡便な角度補正ができ、また角度補正板により簡便で作業性の良い角度補正が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信や光情報処理の分野で用いられる光回路に関し、特に光導波路中を伝播する光信号を回路構成面に垂直に取り出したり逆に回路構成面に垂直な伝播方向の光を導波路内に導入したりする垂直光路変換ミラー回路に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の光情報を高速、低コストに伝送、処理するためには、光デバイスの集積化が必要不可欠である。平面光導波路回路は、基板表面に屈折率の高い部分を作り光導波路としたものであり光集積回路の基本技術としてさまざまなデバイスを構成することが出来る。さらに、低コスト、高信頼性、開発期間の短縮化の要請から、光平面回路と光半導体デバイスとの機能複合化も盛んに検討されている。(例えば、非特許文献1を参照。)
従来、光導波路回路との間で導波光を垂直に入出力するために、垂直光路変換ミラー回路が使用されている。一般に、平面光導波回路(PLC:Planer Lightwave Circuit)は、石英ガラス系の基板上に、屈折率が高い部分を作り光導波路としたものであり、いわゆるプレーナ構造を有している。したがって、光導波路などの光回路は、基板に平行な面の上に平面状に構成される。本明細書では、これを回路構成面とする。垂直光路変換ミラー回路は、例えば、特許文献1や非特許文献1に記載されているように形成することが出来る。
図11は、垂直光路変換ミラー回路の断面図を示した図である。垂直光路変換ミラー回路においては、平坦な光回路1中に光導波路2が形成されており、光導波路2の端部には、ミラー溝3が設けられている。ミラー溝3内の光導波路2の端面と対向する壁面には、樹脂で形成された45°斜面を反射面とする垂直光路変換ミラー4が形成されている。使用に際してゴミ等によって垂直光路変換ミラー4の反射面表面が汚染されて機能が低下するのを避けるため、垂直光路変換ミラー4の上部には、透明な第一の樹脂層5を介して透明な平行平板状のミラー保護板6が設置されている。光導波路2中を伝播してきた導波光は、垂直光路変換ミラー4によって光回路1の構成面に垂直に出射し、あるいは光回路1の構成面に垂直に入射した光が垂直光路変換ミラー4によって光導波路2内に結合するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特許第3405065号公報「光導波回路及びその製造方法」
【非特許文献1】小川育生、他3名、「C-3-111 汎用光半導体部品を用いた複合機能PLCの検討」、電子情報通信学会大会講演論文集VOL.2004 エレクトロニクス1 ページ285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来構造の垂直光路変換ミラー回路では、以下に述べるような問題があった。
【0005】
垂直光路変換のためには、垂直光路変換ミラー4のミラー角度は正確に45°である必要があるが、現実には僅かにずれている。例えば図11に示すように、ミラー角度が45°よりΔθだけ小さく、鋭角側にずれている場合を考える。するとミラー反射角度はΔθの2倍、すなわち図11に示すθ(=2Δθ)だけ光回路面垂直(図11のy方向)方向から鈍角側にずれることになる。反射光はスネル則に従って第一の樹脂層5、ミラー保護板6を通って空気層に出射する。ミラー保護板6からの出射光の出射角度ずれ(回路面垂直方向となす角度)θROはスネル則によって、
n sinθ= sinθRO (1)
から与えられる。ここで通常は第一の樹脂層5とミラー保護板6の屈折率差は空気との間の屈折率差に比較して十分小さいので、屈折率はともにnとする。ミラー反射光の垂直方向(図11のy方向)からの角度ずれθが数度以下と小さい場合、式(1)は
nθ=θRO (2)
と近似できる。
【0006】
式(2)から明らかなように、ミラー保護板6を通って空気層へ出射する光の垂直方向からのずれは反射角度ずれθのn倍となる。通常屈折率値nは1.5程度であると想定されるので、ミラー保護板6から空気層への出射角度ずれθROは反射角度ずれθの1.5倍と大きくなってしまう。垂直光路変換ミラー4の保護に必須である第一の樹脂層5およびミラー保護板6を設けることによって、かえって出射角度ずれはより大きくなってしまう。したがって、垂直光路変換ミラー4のミラー角度の制御に高精度を要するとともに、結果として、垂直光路変換ミラー回路の製造歩留まり低下をまねくという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、垂直光路変換ミラー回路の製造工程で必然的に発生する反射光の角度ずれを補正する構造を提案し、より高性能で高い角度精度の垂直光路変換ミラー回路を歩留まりよく安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するため、請求項1に記載の発明は、光導波路端に設けられた光導波路コアより深いミラー溝と、前記ミラー溝内の前記導波路端の対向部に設けられた垂直光路変換ミラーを備える平面状に構成された光回路において、前記ミラー溝の出射光進行方向側に渡り設けられたミラー保護部を備え、前記ミラー保護部の前記出射光が出射する側の表面と前記光回路の構成面が一定の傾斜角を有していることを特徴とする。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、前記傾斜角θは、前記垂直光路変換ミラーにおける反射光と前記光回路の構成面の垂直法線がなす角度θと、前記光回路からの出射光と前記光回路の構成面の垂直法線がなす角度θとが、θ= tan−1{(n sinθ-sinθ)/(n cosθ-cosθ)}により関係付けられていることを特徴とする。
【0010】
また請求項3に記載の発明は、前記ミラー保護部は、前記出射光が出射する側の表面に、前記光回路の構成面と一定の傾斜角をなす底面を有する傾斜溝を備えたことを特徴とする。
【0011】
また請求項4に記載の発明は、前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と前記第一の樹脂層の上部に配置した角度補正板とを備え、前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面に、前記光回路の構成面と一定の傾斜角をなす底面を有する傾斜溝を備えたことを特徴とする。
【0012】
また請求項5に記載の発明は、前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と前記第一の樹脂層の上部であって、前記ミラー溝の前記出射光進行方向側に配置した楔形角度補正板とを備え、前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面は、前記光回路の構成面と一定の傾斜角を有することを特徴とする。
【0013】
また請求項6に記載の発明は、前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と前記第一の樹脂層の上部に配置された平板状のミラー保護板と前記ミラー保護板の上部に配置された第二の樹脂層と、前記第二の樹脂層の上部であって、前記ミラー溝の前記出射光進行方向側に配置した楔形角度補正板とを備え、前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面は、前記光回路の構成面と一定の傾斜角を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明によれば、反射角度の垂直方向からのずれが補正可能となり、±0.5°という高い垂直光路変換精度が実現できるため、垂直光路変換光回路の歩留まり向上に大きく寄与できる。光を垂直入射させる場合は、反射入射光を導波モードに結合させる必要があり、入射光の波面歪みや散乱が発生しない高性能な光路変換機能が要求されるが、以下説明する各実施例から本発明がこれに応え得ることも明らかである。あらかじめ準備すべき後述の角度補正板は、何ら特殊な装置は必要無く、汎用のダイシング装置で十分に作製が可能であり、斜め研磨のようなコストのかかる作業も不要である。本発明では垂直反射の場合のみを扱ったが、垂直反射以外の斜め方向特定角度の精度の高い光信号の入出力も同じ原理で実現可能である。
【0015】
以上より、本発明の新規モジュール開発に資するところは明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の光回路の断面図である。平坦な光回路1中に光導波路2が形成されており、光導波路2の端部には、光導波路2のコアより深いミラー溝3が設けられている。ミラー溝3内の光導波路2の端面と対向する壁面には、樹脂で形成された45°斜面を反射面とする垂直光路変換ミラー4が形成されている。ミラー溝3内から垂直光路変換ミラー4の上部に渡っては、後述するように透明な樹脂やガラスから成るミラー保護層7が形成されている。ミラー保護層7により、ゴミ等によって垂直光路変換ミラー4の表面が汚染され、反射機能が損なわれるのを防止している。さらにミラー保護層7の表面は、光回路1の構成面と角度θをなし、本発明の特徴となる傾斜角度がつけられている。
【0018】
上記の構成において、光導波路2を伝播してきた光は、垂直光路変換ミラー4によって光回路1の構成面にほぼ垂直方向に反射する。しかし、現実には垂直光路変換ミラー4のミラー角度は45°から僅かにずれているため、反射光の方向は垂直方向から僅かにずれている。ここではミラー角度が45°からΔθだけ鋭角側にずれているとする。この場合、反射光は垂直方向(図1のy方向)から鈍角側に2Δθだけずれることになり、これを反射角度ずれθとする。ミラー保護層7の屈折率をnとすると、図1に示すようにミラー保護層7と空気中を進む反射光の角度の間にはスネル則によって
n sin(θ−θ)=sinθ (3)
が成り立つ。式(3)において、θは傾斜のついたミラー保護層7の表面垂線とミラー保護層7表面からの出射光とのなす角度である。式(3)より光回路1の構成面に垂直な方向からの出射角度ずれθは、
θ=θ−θ
=θ− sin−1{n sin(θ−θ)} (4)
となる。
【0019】
図2は、出射角度ずれθの傾斜角度θ依存性のグラフを示す図である。ここでは、ミラー角度の45°からのずれΔθが鋭角側へ1.5°、従って反射角度ずれθが3°で、ミラー保護層7の屈折率nが1.5の場合を示している。傾斜角度θが零の場合は、図11に示す従来技術例における出射角度ずれθROに一致し、出射光の垂直方向からの出射角度ずれθは4.5°となる。θの増加につれてθはほぼ直線状に単調減少し、θが9°では零となる。すなわち、ミラー保護層7の表面に、図1の例では右に傾くような傾斜をつけることによって出射角度ずれθを小さくすることができ、傾斜角度θを9°と設定すれば出射角度ずれθは零になる。したがって、ミラー反射光は光回路1の構成面に垂直方向に出射するように補正できることが判る。
【0020】
図1に示す本発明の実際の適用形態は以下のようになる。まず、図11の従来技術例に示した光回路1の構成面に平行なミラー保護板6を形成した状態でミラー保護層6表面における出射角度ずれθROを測定するか、またはミラー保護層7を形成する前の状態での反射角度ずれθを測定し、上記いずれかの測定値により垂直出射状態に補正するのに適切な傾斜角度θの値を求める。次に、後に詳細に説明する工程によってミラー保護層表面に傾斜角度θを呈するような修正加工を施すか、または傾斜角度θを有する補正板をミラー上部に装荷する。上述の角度補正を実現するためには、反射角度ずれθ、または光回路1面に平行な保護層の場合の補正前出射角度ずれθROと、所望の補正後出射角度ずれθのもとでの傾斜角度θの関係を求めればよい。式(1)より
θ= sin−1{(1/n)sin θRO} (5)
であり、式(4)を変形すると
θ= tan−1{(n sinθ-sinθ)/(n cosθ-cosθ)} (6)
が得られる。
【0021】
図3は、(5)および(6)式から、反射角度ずれθおよび補正前出射角度ずれθROとミラー保護層7の傾斜角度θとの関係を、θをパラメータとして(補正後出射角度ずれθが−1°〜+1°の範囲)グラフ化した図である。ここで、屈折率nは実際に想定される値である1.5とした。図3のグラフにおいて上側横軸は反射角度ずれθ、下側横軸は補正前出射角度ずれθROであり、網点部分は補正後出射角度ずれθが±0.5°以内となる領域である。
【0022】
例えば傾斜角度θを5°と設定すると、反射角度ずれθが1.3〜2.0°、あるいは補正前出射角度ずれθROが2.0〜3.0°の範囲の場合に、出射角度ずれθを±0.5°以内となるように補正することができる。さらに、θが1.7°、もしくはθROが2.5°の場合には丁度垂直方向になるように出射角度を補正できることが判る。補正後の出射角度ずれθの許容角度範囲を緩和すれば、反射角度ずれθが1〜2.3°、あるいは補正前出射角度ずれθROが1.5〜3.5°の範囲の場合に、出射角度ずれθを±1°以内となるように補正することができる。
【0023】
尚、上記の説明ではミラー角度が45°より鋭角側に、すなわち反射角度が鈍角側にずれた場合を想定したが、それぞれ逆側にずれた場合は、図1におけるミラー保護層7の表面を右上がりの傾斜とすることにより、同様な出射角度の補正が出来る。以下に、図1において示した本発明の光回路の構造をさらに具体的に実現した実施例について述べる。
【0024】
[実施例1]
図4は、実施例1にかかる垂直光路変換ミラー回路の断面図を示す。以下述べる本発明の各実施例に共通の光回路1として、Si基板上にSiOを主成分とするガラスから成る石英系光導波路回路を、火炎直接堆積法及びドライエッチング法にて形成したものを用いた。コア−クラッド間の比屈折率差は0.5%、下部クラッドの厚みは20μm、導波路コアは7μm角、上下両クラッドを含む全厚みは40μmである。光回路1中の光導波路2の端に図4に示すような樹脂供給溝を備えたコの字状のミラー溝3を形成した。ミラー溝3は、深さ40μmでSi基板まで達し、ドライエッチングによって形成した。ミラー溝3を形成した後、特許文献1に記述されているように、エポキシ樹脂の濡れ性制御によって光導波路2の端面の対向部に45°樹脂斜面と金蒸着膜から成る垂直光路変換ミラー4を形成した。この垂直光路変換ミラー4が形成された光回路1を用いて下記の実施例を実現した。
【0025】
図5は、実施例1にかかる垂直光路変換ミラー回路の斜視図を示す。図1において示したミラー保護層7は、本実施例においては透明な第一の樹脂層5と透明な傾斜溝型角度補正板9から成っている。
【0026】
ここで、傾斜溝型角度補正板9の構成方法について説明する。本実施例では、図5に示すように、垂直光路変換ミラー4が250μm間隔でアレイ状に作り込まれた光回路1のミラー上部に、屈折率nが1.5のアクリレート系UV硬化樹脂を第一の樹脂層5として用い、さらに、厚さ1mmで屈折率nが1.5のBK7ガラス平板を貼り付けた。ガラス平板を貼り付けただけの状態では、図11に示した従来技術例と同様の形態であるが、本発明では後述するようにガラス平板を加工して、傾斜溝型角度補正板9を形成する。傾斜溝型角度補正板9によって、出射光の角度の補正がなされる。
【0027】
まず、ガラス平板を貼り付けた状態で補正前の出射角度ずれθROを測定する。すなわち、光導波路2に可視光He−Neレーザ光(波長0.6328μm)を導波させ、垂直光路変換ミラー4からの出射光をスクリーンに投影して補正前の出射角度ずれθRO測定する。
【0028】
例えば、8アレイの補正前の出射角度ずれθROが鈍角側に3〜5°の範囲に分布している場合について述べる。この場合、図3に示したグラフの関係から、上記出射角度ずれθRO分布の中央値4°において垂直出射光(θ=0)となるのは、ミラー保護層表面の傾斜角度θが8°の場合である。そこで図4および図5に示すように、貼り付けたガラス平板の光出射部位に、ダイシングソーを用い加工をして傾斜溝型角度補正板9を形成する。すなわち、ダイシングソーの刃厚2mmの回転刃8と光回路1の構成面とのなす角度θを8°として、溝方向は光回路1の構成面に平行で且つ光導波路2に垂直であって、溝底面が傾斜角度θだけ光回路1の構成面に対して傾いている傾斜溝を加工し、傾斜溝型角度補正板9を形成する。しかる後に8アレイの出射光角度をHe−Neレーザ光を導波させて測定した結果、垂直方向からの出射角度ずれθは図3から得られる結果のとおり−1°〜+1°の範囲に収まるように補正ができる。
【0029】
上記実施例の光回路は、傾斜角度θを補正前の出射角度ずれ分布の中央値から求めて、アレイ状に配置された複数の垂直光路変換ミラー4を一括して補正するのに適しており、反射光の角度精度を向上させた垂直光路変換ミラー回路を、汎用のダイシングソーなどの従来設備を使用して構成することが出来る。従って、角度精度の向上により、垂直光路変換回路の歩留まりも向上させることが出来る。本実施例では、第一の樹脂層5によって接着されたガラス平板を加工して傾斜溝型角度補正板9を形成したが、反射面の表面のキズや化学的安定性が危惧されない用途では、第一の樹脂層5を厚めにコーティングしてこれに直接ダイシング加工やエンボス加工を施して傾斜溝型角度補正板9を形成してもよい。
反射光の角度精度がさらに求められる場合は、次に述べる個別補正が可能な方法が適している。
【0030】
[実施例2]
図6は、実施例2にかかる垂直光路変換ミラー回路の断面図である。光回路1の垂直光路変換ミラー4上部に、屈折率nが1.5のアクリレート系UV硬化樹脂を第一の樹脂層5として用いて、傾斜角度θで屈折率nが1.5のBK7ガラスでできた楔型角度補正板10が貼り付けられている。図1において示したミラー保護層7は、本実施例においては透明な第一の樹脂層5と同じく透明な楔型角度補正板10から成っている。
【0031】
図7は、本実施例における楔形角度補正板10の作成方法を説明する図である。まず、BK7ガラスでできた厚み1mmの両面研磨ガラス板を、2mm角の賽の目状にダイシングソーで切り出して、ガラスブロック11を形成する。次に、2mm角のガラスブロック11を図7に示すように研磨面が重なるように並べ、補助板12で挟んでダイシング基板13にワックスで固定する。図7において、破線で示した想定切断面とガラスブロック11の研磨面が所望の傾斜角度θを成すようにダイシングし、傾斜角度θの楔型角度補正板10を作成することが出来る。上記のように作製した楔形角度補正板10は、図6に示すように第一の樹脂層5上に配置することにより、楔形角度補正板10の上面は研磨面、下面は研削面となる。すなわち、上面を空気への出射側、下面を第一の樹脂層5の側として使用することにより、研磨面より表面の粗い研削面での散乱の影響を抑えることが出来る。
【0032】
上記のような作成方法によって、あらかじめ種々の傾斜角度θの楔型角度補正板10のチップを準備しておけば、個々の垂直光路変換ミラーに対して、実施例1で説明したように可視光を導波、反射させる方法によって、反射角度ずれθを測定して、測定値から得られる最適な傾斜角度θの角度補正板10を選択することにより、精度よく角度補正を施すことができる。
【0033】
図8は、楔型角度補正板10を使用して反射出射光の垂直性を合わることにより角度補正を行う方法を説明する図である。まず、垂直光路変換ミラー4の上部に第一の樹脂層5を滴下して第一の樹脂層5上に空気泡が入らないようにして最適な傾斜角度θの楔型角度補正板10を載せる。次に、垂直光路変換ミラー4の上方に、図8に示すようにスクリーン14のマーカー中心がミラー反射点に一致するようにスクリーン14を設置し、導波路2に光ファイバ15を通して可視光He−Ne光を導波させて反射光をスクリーン14上に投影する。反射光は、垂直光路変換ミラー4表面の歪みの影響等で想定反射面からずれている場合があるため、図8のように楔型角度補正板10を回転させてスクリーン14上の出射光輝点がマーカー中央に最も近づくように調整する。調整の後にUV光を照射して第一の樹脂層5を硬化させる。かようにすることで、反射角度ずれθが0〜3.3°の場合に対して、図3のグラフから想定されるとおり、楔形角度補正板10の傾斜角度θが1°,3°,5°,7°、および9°と、2°おきの5種類の楔型角度補正板10を準備することで、補正後出射角度ずれθを±0.5°以内にすることができる。
【0034】
ここまでは、垂直光路変換ミラー4によって導波光を光導波路2から垂直方向に出射させる場合について述べたが、逆に垂直入射光を光導波路2に結合させることも可能である。
【0035】
図9は、垂直光路変換ミラーを介した半導体レーザと光導波路の結合を示す図である。実施例3で説明した垂直光路変換導波路に、球レンズ Cap付半導体レーザモジュール16を光の出射方向を光回路1の構成面に垂直になるよう配置し、垂直光路変換ミラー4を介して光導波路2に結合させる。レンズ径は2mm、波長は1.3μmである。球レンズ Cap付半導体レーザモジュール16のレーザ光を単一モード光ファイバ15に直接結合させた場合と、図9に示した配置のように単一モード光ファイバ15から取り出した場合との結合損を比較した。その結果、単一モードファイバとの直接結合損が7.5dBであったのに対して、10個の反射ミラー付導波路を介した場合での結合損は8.2〜8.9dBの範囲に分布している。すなわち、垂直光路変換ミラー14を介したことによる損失増加は0.7〜1.4dBに過ぎず、単なる反射性能は勿論のこと、結合損失も少なく、高い反射の角度精度を示す良好なミラー性能が確認できている。
【0036】
[実施例3]
図10は、実施例3にかかる垂直光路変換ミラー回路断面図である。図1において示したミラー保護層7は、本実施例においては第一の樹脂層5、ミラー保護板6、第二の樹脂層17、および楔型角度補正板10から成っている。図11で示した従来技術例に、第二の樹脂層17を介して楔型角度補正板10を貼り付けた構造となっている。
【0037】
本構成は、複数個の垂直光路変換ミラー4を有する光回路1において、個々の垂直光路変換ミラー4の反射光の出射角度を補正する際に、補正作業中の垂直光路変換ミラー4の反射面表面の汚染を防止する点で有効である。あらかじめミラー上部がミラー保護板6で保護されているので、角度補正作業中にミラーの反射面表面を汚染する懸念が無い。また、第二の樹脂層17の硬化前であれば角度補正板10の交換も可能である。誤って第二の樹脂層17の中に空気泡が混入しても、硬化前ならば第二の樹脂層17をふき取って、再度、角度補正板10貼り付けることも可能であり、角度補正作業のやり直しが可能である。
【0038】
ミラー保護板6の厚みは薄い方が望ましいが、本実施例では厚さ0.2mmのBK7ガラスによりミラー保護板6を作製できる。PD(フォトダイオード)やレンズ付LD(レーザーダイオード)と光ファイバを結合させるときの両者間の距離は、通常数100μm〜2mm程度であることを考慮すれば、上記ミラー保護板6のガラスの厚みは十分許容できるものである。ミラー性能も実施例2と同様の性能が得られている。
【0039】
本実施例の発明によれば、角度補正作業中の垂直光路変換ミラー4の汚染を有効に防ぎ、補正作業のやり直しも可能となるため、作業性と歩留まりが向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の光回路の断面図である。
【図2】傾斜角度θと補正後出射角度ずれθの関係のグラフである。
【図3】反射角度ずれθおよび補正前出射角度ずれθROと傾斜角度θの関係のグラフである。
【図4】傾斜溝型角度補正板を用いた実施例1の断面図である。
【図5】傾斜溝型角度補正板の作製法を示す斜面図である。
【図6】楔型角度補正板を用いた実施例2の断面図である。
【図7】楔型角度補正板の作製法を示す図である。
【図8】楔型角度補正板による反射出射光の垂直性合わせの図である。
【図9】垂直光路変換ミラーを介した半導体レーザと光導波路の結合を示す図である。
【図10】実施例3の断面図である。
【図11】従来技術例の光回路の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 光回路
2 光導波路
3 ミラー溝
4 垂直光路変換ミラー
5 第一の樹脂層
6 ミラー保護板
7 ミラー保護層
8 ダイシングソーの刃
9 傾斜溝型角度補正板
10 楔型角度補正板
11 ガラスブロック
12 補助板
13 ダイシング基板
14 スクリーン
15 光ファイバ
16 半導体レーザ
17 第二の樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路端に設けられた光導波路コアより深いミラー溝と、前記ミラー溝内の前記導波路端の対向部に設けられた垂直光路変換ミラーを備える平面状に構成された光回路において、
前記ミラー溝の出射光進行方向側に渡り設けられたミラー保護部を備え、
前記ミラー保護部の前記出射光が出射する側の表面と前記光回路の構成面が一定の傾斜角を有していることを特徴とする光回路。
【請求項2】
前記傾斜角θは、前記垂直光路変換ミラーにおける反射光と前記光回路の構成面の垂直法線がなす角度θと、前記光回路からの出射光と前記光回路の構成面の垂直法線がなす角度θとが、
θ= tan−1{(n sinθ-sinθ)/(n cosθ-cosθ)}により関係付けられていることを特徴とする請求項1に記載の光回路。
【請求項3】
前記ミラー保護部は、前記出射光が出射する側の表面に、前記光回路の構成面と一定の傾斜角をなす底面を有する傾斜溝を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光回路。
【請求項4】
前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と
前記第一の樹脂層の上部に配置した角度補正板とを備え、
前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面に、前記光回路の構成面と一定の傾斜角をなす底面を有する傾斜溝を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光回路。
【請求項5】
前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と
前記第一の樹脂層の上部であって、前記ミラー溝の前記出射光進行方向側に配置した楔形角度補正板とを備え、
前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面は、前記光回路の構成面と一定の傾斜角を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光回路。
【請求項6】
前記ミラー保護部は、第一の樹脂層と
前記第一の樹脂層の上部に配置された平板状のミラー保護板と
前記ミラー保護板の上部に配置された第二の樹脂層と、
前記第二の樹脂層の上部であって、前記ミラー溝の前記出射光進行方向側に配置した楔形角度補正板とを備え、
前記角度補正板の前記出射光が出射する側の表面は、前記光回路の構成面と一定の傾斜角を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−201508(P2006−201508A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13286(P2005−13286)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)エヌティティエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】