説明

光変色性マイクロカプセル、光変色性マイクロカプセルを用いたインキ組成物及び光変色性マイクロカプセルの製造方法

【課題】ホトクロミック化合物を用いることのない、新たな原理に基づく光変色性マイクロカプセル、光変色性マイクロカプセルを用いたインキ組成物及び光変色性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】準備工程として以下の(1)〜(3)の溶液を用意する。(1)ブロモクレゾールグリーン0.005wt%と光酸発生剤0.01wt%のジエチレングリコール溶液。(2)PMMAの10wt%トルエン溶液。(3)PVAの4wt%水溶液。次に、混合工程としてジエチレングリコール溶液(1)とPMMAのトルエン溶液(2)とを撹拌し混合溶液(4)とする。さらに揮発工程として、PVA水溶液(3)の中に混合溶液(4)を滴下し、2日間撹拌を継続し、トルエンを揮発させる。こうしてPMMA薄膜に光酸発生剤及びブロモクレゾールグリーンを溶解するジエチレングリコール溶液が内包された光変色性マイクロカプセルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射することによって色が変化する光変色性マイクロカプセル、それを用いたインキ組成物、及び光変色性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光を照射することによって色が変化する光変色性マイクロカプセルが知られている。例えば特許文献1には、ホトクロミック化合物溶液を内包するマイクロカプセルについて記載されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平2−110174号公報
【0003】
このマイクロカプセルに光を照射すれば、内包されているホトクロミック化合物の分子構造が変化し、色が変化する。また、ホトクロミック化合物は、マイクロカプセルによって外界から遮断されているため、外界の影響を受け難く、長期安定性に優れている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ホトクロミック化合物を用いることのない、新たな原理に基づく光変色性マイクロカプセル、光変色性マイクロカプセルを用いたインキ組成物及び光変色性マイクロカプセルの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明の光変色性マイクロカプセルは、光の照射によって酸が発生する光酸発生剤及び/又は光の照射によって塩基が発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とが溶媒に溶解している色素溶液が高分子薄膜に内包されていることを特徴とする。
【0006】
本発明の光変色性マイクロカプセルに紫外線や可視光線を照射すると、カプセル内部で酸や塩基が発生し、これにより変色性色素の色が変化する。また、マイクロカプセルの内部は高分子薄膜によって外界と遮断されているため、光酸素発生剤や変色性色素は外界の影響を受け難く、安定性に優れている。
【0007】
光酸発生剤としては特に限定はなく、各種公知のものが使用できる。例えば、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、P−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、P−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジスルフェニルジスルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオルアンチモネート、ビス[4−ジフェニル−スルフォニオ]フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−ジフェニル−スルフォニオ]フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート等を挙げることができる。また、特開2004−255564号公報に記載されているオニウム性光酸発生剤、ヒドロキシ基含有芳香族スルホン酸のジフェニルヨードニウム塩類のイオン性光酸発生剤、DNQ(diazonaphthoquinone)類の光酸発生剤、ニトロベンジルスルホン酸類の非イオン性光酸発生剤を用いることもできる。
【0008】
また、光塩基発生剤についても、何ら制限なく各種公知のものが使用できる。例えば、[(O−ニトロベンジル)オキシ]カルボニルシクロヘキシルアミン等のニトロベンジルカルバメート化合物類(ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカルソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.),Vol.113,No.11,4305,1991参照)、N−[[1−(3,5−ジメトキシフェニル)−1−メチル−エトキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミンN−[[1−(3,5−ジメトキシフェニル)−1−メチル−エトキシ]カルボニル]ピリジン等の光官能性ウレタン化合物類(ザ・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.),Vol.55,No.23,5919,1990参照)等を使用することができる。
【0009】
さらに変色性色素としては、光酸発生剤との組み合わせで使用する場合には、酸性域で色が変化する化合物であればよく、光塩基発生剤とともに使用する場合には、アルカリ域で色が変化する化合物であればよい。具体的には、ブロモクレゾールグリーン、メチルバイオレット、チモールブルー、メチルイエロー、ブロモフェノールブルー、メチルオレンジ、メチルレッド、リトマス、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、アリザリンイエローR、クレゾールレッド、クレゾールパープル、ブロモクレゾールパープル、アゾブルー等が挙げられる。
【0010】
また、高分子薄膜を構成する高分子についても、何ら制限なく各種公知のものが使用できる。例えば、各種のアクリル系ポリマーや各種のウレタン等を用いることができる。
【0011】
また、溶媒としては、例えばジエチレングリコール、エチレングリコール、ポリオール等の多価アルコールや水等を挙げることができる。多価アルコールは水より揮発し難いため、光変色性マイクロカプセルの長期間の保存が可能となり好適である。
【0012】
また、第2発明の光変色性マイクロカプセルは、所定の波長の光の照射によって酸が発生する光酸発生剤及び該光酸発生剤とは別の波長の光の照射によって塩基が発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とが溶媒に溶解している色素溶液が高分子薄膜に内包されていることを特徴とする。
【0013】
第2発明の光変色性マイクロカプセルでは、カプセル内に光酸発生剤及び光塩基発生剤の両方が存在しており、それらは、異なる波長において酸や塩基を発生させる。このため、光の波長を変えることによって、カプセル内部に酸を発生させたり、塩基を発生させたりすることができる。このため、照射する光の波長を変えることによって、カプセルの色を変化させることができる。
【0014】
上記の光変色性マイクロカプセルは、以下のようにして製造することが可能である。すなわち、第1発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法は、光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶媒に溶解した色素溶液と、該溶媒より揮発しやすい揮発性有機溶媒に高分子を溶解させた高分子溶液とを用意する準備工程と、 該色素溶液と該高分子溶液とを混合して混合液とする混合工程と、該混合液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら該揮発性有機溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤及び/又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する溶液が高分子薄膜に内包されたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
第1発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法では、色素溶液の溶媒と高分子溶液を溶解している揮発性有機溶媒とが互いに溶解しない場合には、混合工程において色素溶液の液滴が高分子溶液に包み込まれた状態となる。そして、揮発工程において高分子溶液中の揮発性有機溶媒が揮発して、色素溶液の液滴の周りに高分子薄膜が形成される。こうして、光酸発生剤及び/又は光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する溶液が高分子薄膜に内包されたマイクロカプセルが形成される。また、発明者は、色素溶液の溶媒と高分子溶液を溶解している揮発性有機溶媒とが互いに溶解する場合においても、同様のマイクロカプセルが形成されることを確認している。この場合のマイクロカプセルの生成機構については、必ずしも明らかではないが、混合工程において色素溶液と高分子溶液とが混合されて単一相となり、その単一相が揮発工程において、増粘剤含有水溶液中で液滴となり、揮発性溶媒が揮発する際に溶けきれなくなった高分子を液滴周囲に析出させることによって、マイクロカプセルが形成されるものと推測される。
【0016】
なお、第1発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法では、揮発工程における増粘剤含有水溶液に乳化剤を添加することもできる。こうであれば、揮発工程におけるマイクロカプセルの前進となる液滴の大きさをそろえたり、細かくしたりすることが可能となり、ひいては、生成したマイクロカプセルの大きさをそろえたり、細かくしたりするといった制御が可能となる。
【0017】
また、高分子薄膜がポリウレタンからなる本発明の光変色性マイクロカプセルは、次のようにして製造することができる。すなわち、第2発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法は、光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶解し、イソシアネート基どうしを架橋可能な架橋性有機溶媒溶液と、該架橋性有機溶媒に溶解しない溶媒である不溶性溶媒にポリイソシアネートを溶解させたイソシアネート溶液とを用意する準備工程と、該架橋性有機溶媒溶液と該イソシアネート溶液とを撹拌混合し、該ポリイソシアネートと架橋性有機溶媒とを界面で反応させてポリウレタンとするウレタン工程と、該ウレタン工程を経た反応液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら不溶性溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤及び/又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する溶液がポリウレタン薄膜に内包されたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
第2発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法では、不溶性溶媒が架橋性有機溶媒に溶解しないため、ウレタン工程において架橋性有機溶媒溶液とイソシアネート溶液とは互いに交じり合わず、架橋性有機溶媒溶液の液滴がイソシアネート溶液に包み込まれた状態となる。そして、その状態において架橋性有機溶媒溶液とイソシアネート溶液との界面においてポリイソシアネートと架橋性有機溶媒とが反応してポリウレタンの薄膜が形成される。そして、揮発工程において、不溶性溶媒が揮発する。こうして、光酸発生剤及び/又は光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する架橋性有機溶媒がポリウレタン薄膜に内包されたマイクロカプセルが形成される。第2発明において架橋性有機溶媒は、ポリイソシアネートと反応する量よりも過剰に存在させることが好ましい。こうであれば、たとえポリイソシアネートの全量が架橋性有機溶媒と反応したとしても、なお余剰の架橋性有機溶媒がポリウレタンの薄膜に内包されたマイクロカプセルとすることができる。
【0019】
第2発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法において使用されるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定なく用いることができる。この中でも、1分子中に3つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を用いれば、三次元の網目構造を有するポリウレタンが形成され、マイクロカプセルの外壁が力学的特性に優れた強固なものとなるため、好適である。
【0020】
また、第2発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法において使用される架橋性有機溶媒としては、イソシアネート基どうしを架橋可能な架橋性有機溶媒であれば特に限定はない。そのような溶媒としては、例えばジエチレングリコール、エチレングリコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等、水酸基(OH)を2個以上含有するポリオールを挙げることができる。また、水酸基の代わりにカルボン酸、アミン等の活性水素を含有する化合物も用いることができる。さらには、それらの化合物を複数併用して用いることもできる
【0021】
また、高分子薄膜がポリウレタンからなる内層とアクリル系樹脂からなる外層の二重構造となっている本発明の光変色性マイクロカプセルは、次のような方法で製造することができる。すなわち、第3発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法は、光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶解し、イソシアネート基どうしを架橋可能な架橋性有機溶媒溶液と、該架橋性有機溶媒に溶解しない溶媒である不溶性溶媒にポリイソシアネートと高分子とを溶解させたイソシアネート−高分子溶液とを用意する準備工程と、該架橋性有機溶媒溶液と該イソシアネート−高分子溶液とを撹拌混合し、該ポリイソシアネートと該架橋性有機溶媒とを界面で反応させてポリウレタンとするウレタン工程と、該ウレタン工程を経た反応液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら該不溶性溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する架橋性有機溶媒がポリウレタン薄膜に内包され、さらにそのポリウレタン薄膜が高分子薄膜によって包まれたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
第3発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法におけるウレタン工程では、第2発明におけるウレタン工程と同様、架橋性有機溶媒溶液の液滴が高分子溶液に包み込まれた状態で、界面においてポリイソシアネートと架橋性有機溶媒とが反応してポリウレタンの薄膜が形成される。そして、揮発工程において、不溶性溶媒が揮発し、ポリウレタン薄膜の上にさらに高分子薄膜が形成される。こうして、光酸発生剤又は光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する架橋性有機溶媒溶液がポリウレタン薄膜に内包され、さらにそのポリウレタン薄膜が高分子によって内包されたマイクロカプセルとすることができる。こうして得られた光変色性マイクロカプセルは、ポリウレタン薄膜の周りを高分子薄膜がさらに包んでいるために、マイクロカプセルを形成する薄膜壁の強度を大きくすることができる。
【0023】
第1発明〜第3発明の光変色性マイクロカプセルの製造方法において用いられる増粘剤としては、特に限定はなく、各種の公知増粘剤を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、カラギーナン等を用いることができる。
【0024】
本発明の光変色性マイクロカプセルをインキの色料として用いれば、光の照射により色が変化するインクとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施例1〜3について図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(実施例1)
実施例1の光変色性マイクロカプセルは、外殻をなす高分子薄膜がポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」と略す)からなり、以下のように製造される。
【0027】
準備工程
準備工程として、以下に示すジエチレングリコール溶液、PMMAトルエン溶液及びポリビニルアルコール(以下「PVA」と略す)水溶液を用意する。ここで、ジエチレングリコール溶液が色素溶液であり、PMMAトルエン溶液が高分子溶液である。また、色素溶液とPMMA溶液とは互いに交じり合わない溶液である。
・ジエチレングリコール溶液(0.6g)
ブロモクレゾールグリーン・・・・・・・・・・・・・0.005wt%
光酸発生剤(旭電化工業株式会社製SP171)・・・・0.01wt%
・PMMAの10wt%トルエン溶液(3g)
・PVAの4wt%水溶液(5g)
【0028】
混合工程
次に、混合工程として上記ジエチレングリコール溶液とPMMAのトルエン溶液をサンプル瓶に入れて撹拌し、混合溶液とする。
【0029】
揮発工程
さらに、揮発工程として、上記PVA水溶液をサンプル瓶に入れ、マグネチックスターラで撹拌しながら上記混合溶液を滴下する。さらに、2日間撹拌を継続し、トルエンを揮発させる。こうして光変色性マイクロカプセルがPVA水溶液に分散された光変色性マイクロカプセル分散液を得た。
【0030】
<評価>
上記のようにして得られた実施例1の光変色性マイクロカプセル分散液の光学顕微鏡写真を図1に示す。図1から、マイクロカプセル化した粒子が認められる。また、この分散液を白色の上質紙に塗布し、乾燥後、低圧水銀ランプによる紫外線照射を30秒間行い、照射前後の色の変化を目視によって判定した。その結果、図1に示すように、紫外線照射前では淡い緑色であったのが、照射後では脱色して白色となった。
【0031】
(実施例2)
実施例2の光変色性マイクロカプセルも、実施例1と同様外殻をなす高分子薄膜がポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」と略す)からなり、以下のように製造される。
【0032】
準備工程
準備工程として、以下に示すジエチレングリコール溶液、PMMAベンゼン溶液及びポリビニルアルコール(以下「PVA」と略す)水溶液を用意する。ここで、ジエチレングリコール溶液が色素溶液であり、PMMAベンゼン溶液が高分子溶液である。また、色素溶液とPMMA溶液とは互いに交じり合う溶液である。
・ジエチレングリコール溶液(0.6g)
ブロモクレゾールグリーン・・・・・・・・・・・・・0.005wt%
光酸発生剤(旭電化工業株式会社製SP171)・・・・0.01wt%
・PMMAの10wt%ベンゼン溶液(2g)
・PVAの4wt%水溶液(5g)
・ドデシル硫酸ナトリウム(0.005g)
【0033】
混合工程
次に、混合工程として上記ジエチレングリコール溶液とPMMAベンゼン溶液をサンプル瓶に入れて撹拌し、混合溶液とする。
【0034】
揮発工程
さらに、揮発工程として、上記PVA水溶液をサンプル瓶に入れ、マグネチックスターラで撹拌しながら上記混合溶液を滴下する。さらに、2日間撹拌を継続し、トルエンを揮発させる。こうして光変色性マイクロカプセルがPVA水溶液に分散された光変色性マイクロカプセル分散液を得た。
【0035】
<評価>
上記のようにして得られた実施例2の光変色性マイクロカプセル分散液を白色の上質紙に塗布し、実施例1と同様の紫外線照射を行った。その結果、実施例1と同様、紫外線照射前では淡い緑色であったのが、照射後では脱色して紙の色となった。
【0036】
(実施例3)
実施例3の光変色性マイクロカプセルは、外殻をなす高分子薄膜がポリウレタンからなり、以下のように製造された。
【0037】
準備工程
準備工程として、以下に示すジエチレングリコール溶液、デュラネート(1分子中に3つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物)のトルエン溶液及びPVA水溶液を用意する。ここで、ジエチレングリコール溶液が多価アルコール溶液であり、トルエン溶液が高分子溶液である。
・ジエチレングリコール溶液(2.5g)
ブロモクレゾールグリーン・・・・・・・・・・・・・0.005wt%
光酸発生剤(旭電化工業株式会社製SP171)・・・・0.01wt%
・デュラネートのトルエン溶液
トルエン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5g
デュラネート(旭化成株式会社製 製品記号TPA-100)・・・・2.5g
ジラウリル酸ジ−n−ブチルすず・・・・・・・・・・・・・0.04g
・PVAの4wt%水溶液(5g)
【0038】
ウレタン工程
次に、ウレタン工程として上記ジエチレングリコール溶液とデュラネートのトルエン溶液とをサンプル瓶に入れて3時間の撹拌を行う。これにより、デュラネートとジエチレングリコールとが界面で重合し、ウレタン薄膜内にジエチレングリコール溶液が内包された光変色性マイクロカプセルがトルエンに分散された分散液を得る。
【0039】
揮発工程
さらに、揮発工程として、上記光変色性マイクロカプセルのトルエン分散液をPVAの4wt%水溶液(5g)中に加え、2日間撹拌を継続し、トルエンを揮発させる。こうして光変色性マイクロカプセルがPVA水溶液に分散された光変色性マイクロカプセル分散液を得た。
【0040】
<評価>
上記のようにして得られた実施例2の光変色性マイクロカプセル分散液を白色の上質紙に塗布し、実施例1と同様の紫外線照射試験を行った。その結果、実施例1の場合と同様紫外線照射前では淡い緑色であったのが、照射後では脱色して紙の色となった。
【0041】
(実施例4)
実施例4の光変色性マイクロカプセルは、外殻をなす高分子薄膜がPMMAからなる外層とポリウレタンからなる内層の二重構造とされており、以下のように製造された。
【0042】
準備工程
準備工程として、以下に示す溶液及び試薬を用意する。ここで、ジエチレングリコール溶液が多価アルコール溶液であり、トルエン溶液がイソシアネート−高分子溶液である。
・ジエチレングリコール溶液(2.5g)
ブロモクレゾールグリーン・・・・・・・・・・・・・0.005wt%
光酸発生剤(旭電化工業株式会社製SP171)・・・・0.01wt%
・トルエン溶液
PMMAの10%トルエン溶液・・・・・・・・・・・・・・・・・5g
デュラネート(旭化成株式会社製 製品記号TPA-100)・・・・2.5g
ジラウリル酸ジ−n−ブチルすず・・・・・・・・・・・・・0.04g
・PVAの4wt%水溶液(5g)
【0043】
ウレタン工程
次に、ウレタン工程として上記ジエチレングリコール溶液と上記トルエン溶液とをサンプル瓶に入れて3時間の撹拌を行う。これにより、デュラネートとジエチレングリコールとが界面で重合し、ウレタン薄膜内にジエチレングリコール溶液が内包された光変色性マイクロカプセルがPMMAのトルエン溶液に分散され分散液となる。
【0044】
揮発工程
さらに、揮発工程として、上記光変色性マイクロカプセルの分散液のトルエン分散液をPVAの4wt%水溶液(5g)中に加え、2日間撹拌を継続し、トルエンを揮発させ、ウレタン薄膜の周りにPMMA薄膜を形成させる。こうして、PMMAからなる外層とポリウレタンからなる内層の二重構造を有する実施例3の光変色性マイクロカプセルがPVA水溶液に分散された光変色性マイクロカプセル分散液を得た。
【0045】
<評価>
上記のようにして得られた実施例3の光変色性マイクロカプセル分散液を白色の上質紙に塗布し、実施例1と同様の紫外線照射試験を行った。その結果、実施例1の場合と同様紫外線照射前では淡い緑色であったのが、照射後では脱色して紙の色となった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は光の照射によって色が変化するインキ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1の光変色性マイクロカプセル分散液の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の光変色性マイクロカプセル分散液を塗布した紙の紫外線照射前後における写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射によって酸が発生する光酸発生剤又は光の照射によって塩基が発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とが溶媒に溶解している色素溶液が高分子薄膜に内包されていることを特徴とする光変色性マイクロカプセル。
【請求項2】
所定の波長の光の照射によって酸が発生する光酸発生剤及び該光酸発生剤とは異なる波長の光の照射によって塩基が発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とが溶媒に溶解している色素溶液が高分子薄膜に内包されていることを特徴とする光変色性マイクロカプセル。
【請求項3】
溶媒はアルコールであることを特徴とする請求項1又は2記載の光変色性マイクロカプセル。
【請求項4】
高分子薄膜はアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光変色性マイクロカプセル。
【請求項5】
高分子薄膜はポリウレタンからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光変色性マイクロカプセル。
【請求項6】
高分子薄膜はポリウレタンからなる内層とアクリル系樹脂からなる外層の二重構造となっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光変色性マイクロカプセル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項の光変色性マイクロカプセルを色料として含有することを特徴とするインキ組成物。
【請求項8】
光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶媒に溶解した色素溶液と、該溶媒より揮発しやすい揮発性有機溶媒に高分子を溶解させた高分子溶液とを用意する準備工程と、
該色素溶液と該高分子溶液とを混合して混合液とする混合工程と、
該混合液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら該揮発性有機溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤及び/又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する溶液が高分子薄膜に内包されたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする光変色性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項9】
光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶解し、イソシアネート基どうしを架橋可能な架橋性有機溶媒溶液と、該架橋性有機溶媒に溶解しない溶媒である不溶性溶媒にポリイソシアネートを溶解させたイソシアネート溶液とを用意する準備工程と、
該架橋性有機溶媒溶液と該イソシアネート溶液とを撹拌混合し、該ポリイソシアネートと架橋性有機溶媒とを界面で反応させてポリウレタンとするウレタン工程と、
該ウレタン工程を経た反応液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら不溶性溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤及び/又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する溶液がポリウレタン薄膜に内包されたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする光変色性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項10】
光照射によって酸を発生する光酸発生剤及び/又は光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤と、該酸又は該塩基によって色が変化する色素である変色性色素とを溶解し、イソシアネート基どうしを架橋可能な架橋性有機溶媒溶液と、該架橋性有機溶媒に溶解しない溶媒である不溶性溶媒にポリイソシアネートと高分子とを溶解させたイソシアネート−高分子溶液とを用意する準備工程と、
該架橋性有機溶媒溶液と該イソシアネート−高分子溶液とを撹拌混合し、該ポリイソシアネートと該架橋性有機溶媒とを界面で反応させてポリウレタンとするウレタン工程と、
該ウレタン工程を経た反応液と増粘剤含有水溶液とを撹拌混合しながら該不溶性溶媒を揮発させることにより、該光酸発生剤及び/又は該光塩基発生剤と変色性色素とを溶解する架橋性有機溶媒がポリウレタン薄膜に内包され、さらにそのポリウレタン薄膜が高分子薄膜によって包まれたマイクロカプセルとする揮発工程とを備えることを特徴とする光変色性マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−212573(P2006−212573A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29344(P2005−29344)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】