説明

光変調器

【課題】単一の光学素子として構成でき、部品点数が少ない上、信頼性が高く、製造コストも比較的安価な直交偏波合成を利用した光変調器を提供する。
【解決手段】電気光学効果を有する基板1と、光導波路2と、変調電極61,62とを有する光変調器において、該光導波路2は入力導波路21と、分岐導波路23,24,27,28と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路30とを有し、該変調電極の少なくとも一部が配置され、該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段25,26と、該分岐導波路を結合するまでの光導波路の一部に配置され、該変調手段で変調される光波の偏波面を制御する偏波面選択手段4と、該偏波面選択手段から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置され、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器に関し、特に、直交偏波合成を利用した光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信分野では長距離大容量伝送を実現するために、波長が異なる複数の信号光を1本の光ファイバに多重して送信する、いわゆる波長多重伝送が主流となっている。これにより既設の伝送路に対して、容易に伝送容量拡大が可能となる。
【0003】
しかしながら、海底中継器のように、限られた増幅帯域内で多数の信号光を多重するためには信号光の波長間隔を密にせざるを得ない。この場合、隣接波長信号からの漏れ光と信号光自身との間でコヒーレント・クロストークと呼ばれる干渉が生じ、信号劣化が引き起こされる。
【0004】
これらの問題を解決するため、特許文献1などでは、波長多重時に隣接信号光の偏光状態を互いに直交させる、いわゆる直交偏波多重方式が提案されている。
一例として、波長が異なる複数の信号光の奇数信号光を合成してランダム偏光である多重光Aを生成する奇数チャンネル合波器と、偶数信号光を合成してランダム偏光である多重光Bを生成する偶数チャンネル合波器とを設け、各チャンネル合波器から出力される多重光A及びBを、多チャンネル偏波制御器により垂直方向及び水平方向の直線偏光多重光に変換し、さらに、偏波合成器で垂直偏波多重光と水平偏波多重光とを合成し、直交偏波多重光を生成している。
【特許文献1】特開2004−253931号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1にも記載されているように、これらの直交偏波多重方式においては、各光学部品を組み立てた装置として機能を発現するよう設計されており、光学部品の位置合せや調整が煩雑となる上、多くの光学部品を空間光学系を用いて結合されているため、温度安定性、長期安定性などの信頼性の点で問題があった。また、装置が大型であるため、波長多重なのでチャンネル数が増加すると、伝送装置内に収納できない場合もあり、装置自体の使用場所も限定されることとなる。
【0006】
さらに、使用される部品も、偏光ビームスプリッタ(PBS;Polarization Beam Splitter)、インターリーバー、アレイ導波路回折格子(AWG;Arrayed Waveguide Grating)、電圧可変式アッテネータ(VOA;Variable Optical Attenuator)などのように高価な部品を必要としており、装置の製造コストが極めて高いものとなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、単一の光学素子として構成でき、部品点数が少ない上、信頼性が高く、製造コストも比較的安価な直交偏波合成を利用した光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する材料で構成された基板と、該基板に形成された光導波路と、該基板に形成され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極とを有する光変調器において、該光導波路は、該光変調器に入力された光波を導く入力導波路と、該入力導波路から分岐する分岐導波路と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路とを少なくとも有し、該分岐導波路の一部に設けられ、該変調電極の少なくとも一部が配置されると共に、該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段と、該分岐導波路を結合するまでの光導波路の一部に配置され、該変調手段で変調される光波の偏波面を制御する偏波面選択手段と、該偏波面選択手段から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置され、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段とを有することを特徴とする。
偏波面選択手段の配置場所は、本発明からも明らかなように、変調手段の前の段階でも後の段階でも、いずれであっても良い。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光変調器において、該偏波面選択手段が、該光導波路の入力端面、または該入力端面から該分岐導波路を結合するまで間の光導波路の一部に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光変調器において、該偏波面選択手段と該偏波面調整手段とは光波の進行方向に対して近接して配置されていることを特徴とする。より好ましくは、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを連続して配置する。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、光波の進行方向に対して該分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置されることを特徴とする。より好ましくは、変調手段から分岐導波路を結合する部分までの間に、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを配置すると共に、上述のように偏波面調整手段を分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置する。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路は偏光保持機能を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面選択手段は、該光導波路上に形成された金属装荷型偏光子、あるいは該光導波路の入力端面または該光導波路中に配置された薄板偏光子であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、少なくとも一つの分岐導波路中に配置された波長板であることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の光変調器において、該波長板は、該光導波路を伝搬する光波の波長λに対し略λ/2となるように設定された波長板であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、該光導波路を伝搬する光波の偏波面を45°回転させるものであり、該偏波面調整手段を異なる方向に偏波面が回転するように各分岐導波路に配置したことを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項7又は8に記載の光変調器において、該波長板が配置されていない分岐導波路には、該波長板と略等しい損失を有する損失付与手段を設置することを特徴とする。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項10に記載の光変調器において、該損失付与手段は、該光導波路を横切って配置される石英、ガラス、接着剤、ポリマー、金属薄膜、若しくはこれらの複合材であることを特徴とする。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項6乃至11のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路中に該薄板偏光子、該波長板、又は該損失付与手段のいずれかを配置する際には、これらの各種部材の光導波路を横切る面は、該光導波路中の光波の進行方向に対し垂直となる面から傾けた状態で配置されること特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する材料で構成された基板と、該基板に形成された光導波路と、該基板に形成され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極とを有する光変調器において、該光導波路は、該光変調器に入力された光波を導く入力導波路と、該入力導波路から分岐する分岐導波路と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路とを少なくとも有し、該分岐導波路の一部に設けられ、該変調電極の少なくとも一部が配置されると共に、該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段と、該分岐導波路を結合するまでの光導波路の一部に配置され、該変調手段で変調される光波の偏波面を制御する偏波面選択手段と、該偏波面選択手段から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置され、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段とを有するため、直交偏波合成を利用した光変調器を単一の光学素子として構成でき、部品点数が少ない上、信頼性が高く、製造コストも比較的安価な光変調器を提供することが可能となる。
【0021】
請求項2に係る発明により、偏波面選択手段が、光導波路の入力端面、または該入力端面から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置されているため、変調手段で変調された光波の偏波面を制御する偏波面選択手段を単一の光学素子の中に容易に組み込むことが可能となる。
【0022】
請求項3に係る発明により、偏波面選択手段と偏波面調整手段とは光波の進行方向に対して近接して配置されているため、偏波面選択手段で制御された偏波面が、偏波面調整手段に到達するまでの間に偏波状態が変化するのを抑制でき、より適正に偏波面を制御・調整することが可能となる。特に、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを連続して配置することで、両者間での偏波状態の変化を排除することが可能となる。
【0023】
請求項4に係る発明により、偏波面調整手段は、光波の進行方向に対して分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置されるため、偏波面調整手段で調整された偏波面が、分岐導波路の結合部に到達するまでの間に偏波状態が変化するのを抑制でき、適正な状態で直交偏波合成を行うことが可能となる。特に、変調手段から分岐導波路を結合する部分までの間に、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを配置すると共に、上述のように偏波面調整手段を分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置することで、変調手段による偏波状態の変化や光導波路中を伝搬する際の偏波状態の変化などを避けることができ、より適正な状態の直交偏波合成を得ることができる。
【0024】
請求項5に係る発明により、光導波路は偏光保持機能を有しているため、光波の偏波面を制御あるいは調整した後で、光波が光導波路を伝搬する際に、制御や調整が行われた偏波面の状態を維持することが可能となる。これにより、確実に直交偏波合成を行うことができ、さらには、直交偏波合成した状態を維持した光波を光変調器から出力することができる。
【0025】
請求項6に係る発明により、偏波面選択手段は、光導波路上に形成された金属装荷型偏光子、あるいは該光導波路の入力端面または該光導波路中に配置された薄板偏光子であるため、光波の偏波面を制御する偏波面選択手段を単一の光学素子の中に容易に組み込むことが可能となる。また、金属装荷型偏光子や入力端面に配置される薄板偏光子である場合には、基板に溝を形成するなどの切削工程やエッチング工程が不要であり、製造工程が複雑化せず、生産性の低下やコストの増加を抑制することが可能となる。
【0026】
請求項7に係る発明により、偏波面調整手段は、少なくとも一つの分岐導波路中に配置された波長板であるため、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段を、単一の光学素子の中に容易に組み込むことが可能となる。
【0027】
請求項8に係る発明により、波長板は、光導波路を伝搬する光波の波長λに対し略λ/2となるように設定された波長板であるため、光波の偏波面を90°回転させることができ、各分岐導波路を同じ偏波面で伝搬している光波を、偏波面が直交した状態に、容易に調整することが可能となる。
【0028】
請求項9に係る発明により、該偏波面調整手段は、該光導波路を伝搬する光波の偏波面を45°回転させるものであり、該偏波面調整手段を異なる方向に偏波面が回転するように各分岐導波路に配置しているため、各分岐導波路を伝搬する光波の状態を直交状態に調整するだけでなく、各分岐導波路における波長板による光波の損失(光強度の劣化)を揃えることができる。しかも、90°回転させる場合と比較し回転角が少ないため、偏波面調整手段の光軸方向(光波の伝搬方向)の厚みを薄くできる。このため、偏波面調整手段による光波の損失及び偏波回転のバラツキを低減でき、さらには、偏波面調整手段を設置する際に基板に形成する溝の幅も狭く形成でき、基板に与える機械的負荷も軽減できる。
【0029】
請求項10に係る発明により、波長板が配置されていない分岐導波路には、該波長板と略等しい損失を有する損失付与手段を設置するため、各分岐導波路を伝搬する光波を合成した際に、合成される各光波の光強度のバラツキを抑制することが可能となる。
【0030】
請求項11に係る発明により、損失付与手段は、光導波路を横切って配置される石英、ガラス、接着剤、ポリマー、金属薄膜、若しくはこれらの複合材であるため、損失付与手段を単一の光学素子の中に容易に組み込むことが可能となる。
【0031】
請求項12に係る発明により、光導波路中に薄板偏光子、波長板、又は損失付与手段のいずれかを配置する際には、これらの各種部材の光導波路を横切る面は、該光導波路中の光波の進行方向に対し垂直となる面から傾けた状態で配置されるため、光波が該面で反射された場合でも、光導波路を逆方向に伝搬する戻り光となることが抑制される。このため、戻り光による信号間干渉や信号レベルの低下などが防止され、光変調器の動作が安定化すると共に、戻り光が半導体レーザーなど光源に入射し、光源の動作を不安定化させることも抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の光変調器の第1の実施例を示す図である。
本発明の光変調器は、電気光学効果を有する材料で構成された基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該基板に形成され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極61,62とを有する光変調器において、該光導波路2は、該光変調器に入力された光波を導く入力導波路21と、該入力導波路から分岐する分岐導波路23,24,27,28と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路30とを少なくとも有し、該分岐導波路の一部に設けられ、該変調電極の少なくとも一部が配置されると共に、該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段25,26と、該分岐導波路を結合するまでの光導波路の一部に配置され、該変調手段で変調される光波の偏波面を制御する偏波面選択手段4と、該偏波面選択手段から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置され、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段5とを有することを特徴とする。光変調器の入力側には入力用光ファイバー7が、出力側には出力用光ファイバー8が、各々接続されている。なお、矢印A,Bは光波の伝搬方向を示す。
【0033】
電気光学効果を有する基板1としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)結晶が好適に利用される。
【0034】
光導波路の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、特許文献2のように基板1の表面に光導波路の形状に合わせてリッジを形成し、光導波路を構成することも可能である。
本発明の光変調器においては、光導波路は偏光保持機能を有しているのが好ましい。これは、後述するように光波の偏波面を制御あるいは調整した後で、光波が光導波路を伝搬する際に、制御や調整が行われた偏波面の状態を維持することが可能となり、確実に直交偏波合成を行うことができ、さらには、直交偏波合成した状態を維持した光波を光変調器から出力することができるためである。
【特許文献2】特開平6−289341号公報
【0035】
変調手段を構成する変調電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより、基板の表面又は裏面などに形成することが可能である。変調電極は、変調信号を伝搬する信号電極と該信号電極の周囲に配置される接地電極から構成される。図1においては、一例として信号電極61,62のみを図示している。当然、信号電極及び接地電極の形状や配置は、変調手段25,26でどのような変調を行うか、また使用する基板の種類(Xカット板又はZカット板)などに応じて適宜設定できる。
【0036】
また、特に図示してないが、基板1と該基板上に形成された変調電極との間にはバッファ層を形成することもできる。これによって、光導波路を伝搬する光波が、変調電極により吸収又は散乱されることを効果的に防止することができる。また、前記変調電極から印加される変調信号と、前記光導波路内を導波する光波との速度整合をも向上させることができる。
【0037】
光導波路の形状としては、種々のものが採用できるが、本発明の光変調器として重要な構成は、光変調器に入力された光波を導く入力導波路21と、該入力導波路から分岐する分岐導波路23,24,27,28と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路30とを有すると共に、該分岐導波路の一部に該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段25,26が形成されていることである。
変調手段としては、図1に示すようにマッハツェンダー型光導波路25,26を用いる方法や、図2の第2の実施例に示すように、SSB変調器などで利用されるネスト型光導波路31,32を用いる方法など、種々の変調方式が採用可能である。当然、分岐導波路毎に異なる変調方式を採用することも可能である。
【0038】
本発明の光変調器は、変調された各光波の偏波面を制御し、各光波を直交偏波合成するため、光波の偏波面を制御する偏波面選択手段4と、各光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段5とを有している。
【0039】
偏波面選択手段4としては、光導波路上に形成された金属装荷型偏光子、あるいは該光導波路の入力端面または該光導波路中に配置された薄板偏光子などが利用可能である。
金属装荷型偏光子とは、光導波路の上にアルミニウムなどの金属膜を配置し、該金属膜に垂直な偏波面(TEモード光)を吸収し、該金属膜に平行な偏波面(TMモード光)に制御するものである。また、光導波路に沿ってリッジを形成し、該リッジの側面に金属膜を装荷させることも可能である。この場合は、TMモード光が吸収されTEモード光に偏波面が制御されることとなる。
【0040】
偏波面選択手段4の配置場所としては、図1又は図2に示すように変調手段(25,26,31,32)から合波部29までの間の分岐導波路27,28の一部に形成する方法や、図3の第3の実施例に示すように、変調手段25,26より光波の入力側の任意の場所に、偏波面選択手段41,42,43のいずれかを設けても良い。具体的には、基板1の入力端面11に薄板偏光子41を貼付ける方法や、入力導波路21又は分岐導波路23,24に金属装荷型偏光子又は光導波路を横切る溝を形成し、該溝中に薄板偏光子を配置する方法などがある。
【0041】
図3の偏波面選択手段(薄板偏光子)41に示すように、光波の伝搬方向を横切って偏波面選択手段を配置する場合には、横切る面は光波の伝搬方向に対し垂直となる面から傾けた状態で配置する。これは、偏波面選択手段で光波が反射され逆方向に光が伝搬する、所謂、戻り光が発生するのを避けるためである。戻り光は、信号間干渉や信号レベルの低下を引き起こし、また半導体レーザーなど光源に入射し、光源の動作を不安定化させるなど、種々の問題を発生される原因ともなる。また、後述する偏波面調整手段や損失付与手段についても同様な対策を講じることが望ましい。
【0042】
図4は、本発明の光変調器の第4の実施例を示す図である。
図4では、偏波面選択手段が明記されていないが、図1乃至3のように偏波面選択手段を基板1内に適宜配置することが可能である。また、光変調器に入力される光波Aを、予め偏波面をTEモード光又はTMモード光のいずれかに制御している場合には、光変調器の素子内部に偏波面選択手段を別途配置する必要はない。本発明は、このように偏波面選択手段を素子外に配置するものも含むものである。
【0043】
次に、偏波面調整手段5,52について説明する。
偏波面調整手段は、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように、各分岐導波路を伝搬する少なくとも一つの光波の偏波面を回転させ、各光波の偏波面の角度を調整するものである。
具体的には、波長板が利用可能であり、特に、光波の偏波面を90°回転させるため、光導波路を伝搬する光波の波長λに対し略λ/2となる波長板が好適に利用可能である。
波長板としては、水晶、ブチル、ガーネットなどの複屈折を有する材料が利用可能である。
【0044】
偏波面調整手段としては、光導波路を伝搬する光波の偏波面を45°回転させるものでもよい。この場合は、偏波面調整手段を2つ用意し、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が異なる方向に45°ずつ回転するように、各分岐導波路に配置する。このように構成することで、各分岐導波路を伝搬する光波の状態を互いに直交状態に調整するだけでなく、各分岐導波路における波長板による光強度の劣化など、光波の損失を同じにすることも可能となる。しかも、λ/2の波長板と比較し回転角が少ないため、偏波面調整手段の光軸方向(光波の伝搬方向)の厚みを薄くできる。このため、偏波面調整手段による光波の損失及び偏波回転のバラツキを低減でき、さらには、偏波面調整手段を設置する際に基板に形成する溝の幅も狭く形成でき、基板に与える機械的負荷も軽減できる。
このような偏波面調整手段としては、水晶、ブチル、ガーネットなどの複屈折を有する材料を利用し、光波の進行方向の厚みを適宜調整したものが利用可能である。
【0045】
偏波面調整手段は、図1乃至3に示すように分岐導波路の一方に、光導波路を横切る溝を形成し、その中に波長板を挿入配置する方法や、分岐導波路間は数100μmと極めて近接しているため、複数の分岐導波路に跨る溝51を図4のように形成し、該溝内に波長板52を配置するよう構成することも可能である。
【0046】
偏波面調整手段の配置場所としては、基本的には、少なくとも一つの分岐導波路中に配置されれば良い。分岐導波路中に偏波面選択手段を配置する場合には、偏波面選択手段の後段で合波部29までの間に配置することが好ましい。
【0047】
また、偏波面選択手段と偏波面調整手段とは、光波の進行方向に対して可能な限り近接して配置するのが好ましい。これは、偏波面選択手段で制御された偏波面が、偏波面調整手段に到達するまでの間に偏波状態が変化するのを抑制するためである。特に、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを連続して配置するが好ましい。
【0048】
さらに、偏波面調整手段は、光波の進行方向に対して分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置することが好ましい。これは、偏波面調整手段で調整された偏波面が、分岐導波路の結合部に到達するまでの間に偏波状態が変化するのを抑制するためである。なお、変調手段から分岐導波路を結合する部分までの間に、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを配置すると共に、上述のように偏波面調整手段を分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置することで、変調手段による偏波状態の変化や光導波路中を伝搬する際の偏波状態の変化などを避けることができ、より適正な状態の直交偏波合成を得ることができる。
【0049】
さらに、偏波面調整手段を配置することにより、伝搬する光波の光強度が低下したり、位相が異なるなどの不具合も発生する。このため、図5の第5の実施例や図6の第6の実施例で示すように、偏波面調整手段を配置していない分岐導波路に、偏波面調整手段(波長板)と略等しい損失および/または略等しい位相差を発生させる損失付与手段53,54を設置している。
【0050】
なお、上述したように、偏波面を45°回転させる偏波面調整手段を利用する場合には、例えば、図5の偏波面調整手段5を一方向に45°回転させる偏波面調整手段とし、損失付与手段53の代わりに他方向に45°回転させる偏波面調整手段を配置することも可能である。また、図6の偏波面調整手段52を一方向に45°回転させる偏波面調整手段とし、損失付与手段54の代わりに他方向に45°回転させる偏波面調整手段を配置しても良い。
【0051】
損失付与手段としては、光導波路を横切って配置される石英、ガラス、接着剤、ポリマー、金属薄膜、若しくはこれらの複合材が利用可能である。
図7乃至9は、損失付与手段の配置状態の例を示すものであり、図7では、基板1に光導波路2を横切るように溝90を形成し、該溝内に石英やガラスなど板状部材91を配置するものである。図8は、該溝90に接着剤やポリマーなどの充填材92に充填するものである。また、図9は、溝90の一側面にポリマー又は金属薄膜などの膜体93を形成するものである。
【0052】
損失付与手段を配置するために基板に形成する溝は、図5のように、形成する分岐導波路のみに形成する方法に限定されるものではなく、図6のように、偏波面調整手段のための溝51と兼用することも可能である。
【0053】
さらに、本発明の光変調器は上述したものに限定されず、例えば、偏波面選択手段と偏波面調整手段とを兼用させ、例えば、光導波路を横切る溝に薄板偏光子と波長板とを重ねて配置することも可能である。また、分岐導波路の一方にはTMモード光を選択する偏光子を配置し、他方の分岐導波路にはTEモード光を選択する偏光子を配置することも可能である。
【0054】
また、光導波路内を伝搬する光波を、大幅に減衰させない範囲で、必要に応じて金属装荷型偏光子や薄板偏光子などを分岐導波路中に複数配置し、偏波面を常に適正に維持することも可能である。
【0055】
上述した光変調器の動作について、図1を用いて説明する。
入力用光ファイバー7から入射した光波は、入力導波路21を伝搬し、分岐部22で2つに分けられ、分岐導波路23,24を伝搬する。分岐する数は2つに限らず、必要な変調チャンネル数に応じて変更可能である。
【0056】
分岐した光波は、各変調手段25,26により変調を受け、後段の分岐導波路27,28を変調光として伝搬することとなる。変調光の偏波面を制御・調整するため、まず、偏波面選択手段4により偏波面を一つに揃え、次に、一方の変調光の偏波面を偏波面調整手段5により90°回転させる。このように偏波面が互いに直交した関係となった変調光を、合波部29で合成し、出力導波路30を介して、光変調器に接続されれた出力用光ファイバー8に伝搬する。このように、単一の光変調器で簡単に直交偏波合成を達成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、単一の光学素子として構成でき、部品点数が少ない上、信頼性が高く、製造コストも比較的安価な直交偏波合成を利用した光変調器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の光変調器の第1の実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の光変調器の第2の実施例を示す概略図である。
【図3】本発明の光変調器の第3の実施例を示す概略図である。
【図4】本発明の光変調器の第4の実施例を示す概略図である。
【図5】本発明の光変調器の第5の実施例を示す概略図である。
【図6】本発明の光変調器の第6の実施例を示す概略図である。
【図7】損失付与手段(板状部材)の例を示す図である。
【図8】損失付与手段(充填材)の例を示す図である。
【図9】損失付与手段(膜体)の例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 光導波路
4,41,42,43 偏波面選択手段
5,52 偏波面調整手段
7 入力用光ファイバー
8 出力用光ファイバー
21 入力導波路
22 分岐部
23,24,27,28 分岐導波路
25,26,31,32 変調手段
29 合波部
30 出力導波路
51,90 溝
53,91,92,93 損失付与手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料で構成された基板と、
該基板に形成された光導波路と、
該基板に形成され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極とを有する光変調器において、
該光導波路は、該光変調器に入力された光波を導く入力導波路と、該入力導波路から分岐する分岐導波路と、該分岐導波路を結合すると共に該光変調器の外部に光波を導く出力導波路とを少なくとも有し、
該分岐導波路の一部に設けられ、該変調電極の少なくとも一部が配置されると共に、該分岐導波路を伝搬する光波を変調するための変調手段と、
該分岐導波路を結合するまでの光導波路の一部に配置され、該変調手段で変調される光波の偏波面を制御する偏波面選択手段と、
該偏波面選択手段から該分岐導波路を結合するまでの間の光導波路の一部に配置され、各分岐導波路を伝搬する光波の偏波面が直交する関係となるように偏波面を調整する偏波面調整手段とを有することを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、該偏波面選択手段が、該光導波路の入力端面、または該入力端面から該分岐導波路を結合するまで間の光導波路の一部に配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光変調器において、該偏波面選択手段と該偏波面調整手段とは光波の進行方向に対して近接して配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、光波の進行方向に対して該分岐導波路を結合する部分に近い位置に配置されることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路は偏光保持機能を有していることを特徴とする光変調器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面選択手段は、該光導波路上に形成された金属装荷型偏光子、あるいは該光導波路の入力端面または該光導波路中に配置された薄板偏光子であることを特徴とする光変調器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、少なくとも一つの分岐導波路中に配置された波長板であることを特徴とする光変調器。
【請求項8】
請求項7に記載の光変調器において、該波長板は、該光導波路を伝搬する光波の波長λに対し略λ/2となるように設定された波長板であることを特徴とする光変調器。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光変調器において、該偏波面調整手段は、該光導波路を伝搬する光波の偏波面を45°回転させるものであり、該偏波面調整手段を異なる方向に偏波面が回転するように各分岐導波路に配置したことを特徴とする光変調器。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の光変調器において、該波長板が配置されていない分岐導波路には、該波長板と略等しい損失を有する損失付与手段を設置することを特徴とする光変調器。
【請求項11】
請求項10に記載の光変調器において、該損失付与手段は、該光導波路を横切って配置される石英、ガラス、接着剤、ポリマー、金属薄膜、若しくはこれらの複合材であることを特徴とする光変調器。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路中に該薄板偏光子、該波長板、又は該損失付与手段のいずれかを配置する際には、これらの各種部材の光導波路を横切る面は、該光導波路中の光波の進行方向に対し垂直となる面から傾けた状態で配置されること特徴とする光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−162830(P2009−162830A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339519(P2007−339519)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】