説明

光子ロジックゲート

単一または多数の量子スイッチが暗共鳴相互作用に用いられる量子スイッチに基づく光子ロジックゲートシステム、方法及び装置であって、波長が異なる三つの光が非縮退4光波混合法によって三つの基底状態及び一つ以上の励起状態からなる4段または5段非線形光媒質と相互作用する。この光子ロジックメカニズムは、共通の励起状態を介しての光学遷移による三つの密接に離隔した基底状態の間で単一または多数の暗共鳴由来の2光子コヒーレンススワッピングの組合せに基づく。基底状態で引き起こされた2光子コヒーレンスは非縮退4光波混合法によって光学的に検出される。非縮退4光波混合発生は、暗共振または電磁気による透明化によって強化される。本発明の光子ロジックゲート法のゲートタイム及び帯域幅は緩和時間またはキャリアの寿命によって制限されなく、位相減衰時間によって制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子スイッチを使用する光子ロジックゲート方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロジックゲートは、単一出力を生成するために、一つ以上の論理入力を使用するデータ処理における論理演算に使用される。通常に、この論理は、NOT、OR、NOR、XOR、XNOR、AND及びNANDなどのブール論理(Boolean logic)といわれる。電子中央演算処理装置において、ロジックゲートは演算作業を実行するための基本単位として作用する。ムーアの法則(Moore’s law)によれば、より速い情報処理が要求されることによって、CPUは、1970年代中盤以来、2006年現在3.7GHzまで指数関数的に発展されてきた。しかし、ゲート幅に依存するスイッチング時間及び電磁波干渉制限操作の帯域幅のような方法の電子トランジスタに本質的限界であった。このような本質的限界を克服するため、最近の数十年間光ロジックゲートが研究されてきた。一方、電子キャリアの対応部として、光信号は、電磁波干渉及び大きさによる速度制限がない。また、並行処理は固有の利点である。最近、半導体光増幅器(semiconductor−optical−amplifier;SOA)及びエルビウム添加繊維増幅(EDFA)を使用して、多様なブール(Boolean)代数NOT、OR、NOR、AND、XOR及びNAND用高速全光ロジックゲートが立証された。しかし、コンピュータ装置は、消費電力の低減、装置サイズの小型化、及び高速化などの特定の実用性条件を満たさなければならない。1980年以来、数種のブール代数に基づく光ロジックゲートが提案されて証明された。ミラー及びビームスプリッタなどの線形光学を利用する大きな光ロジックゲートが適用された。もちろん、光ゲートに基づくこの線形光学は、大きなサイズのために効率が低下する。
【0003】
最近、非線形光学による光ロジックゲートが集中的に研究されている。この分野で、SOAは光ロジックゲートを形成するための最も有用な要素である。SOAを光ロジックゲートに導入することにより、装置のサイズ及び消費電力が非常に削減された。SOAによる光ロジックゲートの物理的過程は電流によって発生する屈折率変化を用いることである。従来の光スイッチング法において、屈折率変化に必要な時間はスイッチング時間に絶対的に制限される。ここで、屈折率変化はキャリアの再分配時間によって制限される。よって、従来の光スイッチング時間は根本的にキャリアの寿命によって制限され、この時間は数ns以下である。SOAが〜100mWの比較的低い電力を消耗すると言っても(Optics Letters,Vol.23,pp.1271−3(1997))、ただ100万個のSOAからなる可能な光学CPUに対する評価された総電力及びサイズはそれぞれ数kW〜100kW及び数平方メートルに至るが、これは決して現実的でない。ここで、最新の電子CPUはクロック速度3.7GHzに至り、およそ3億個のトランジスタを含み、約100Wの消費電力が必要である(www.intel.com/research/silicon/micron.htm)。
【非特許文献1】Optics Letters,Vol.23,pp.1271−3(1997)
【0004】
一方、物質の三つのエネルギー状態に二つの異なる波長の光を作用することで、物質に量子干渉で急激な屈折率が変化する非線形量子現像、即ち電磁波誘導透過化(electromagnetically induced transparency:(EIT))を用いることにより、光スイッチング効果を得ることができる(ハリス(Harris)のPhysics Today,Vol.50,p.36(1995))。共鳴する光媒質のエネルギー準位構造は、二つの密接に離隔した基底状態と一つの励起状態、二つの密接に離隔した励起状態と一つの基底状態、または任意に離隔した階段式システムを満たす。量子干渉による屈折率変化は密接に離隔した状態での強いスピンコヒーレンス励起及び吸収消失を引き起こす。急な吸収スペクトルの変化のために、共鳴周波数での急激な分散勾配によって遅い光現像が引き起こされる(トゥルキンら(Turukhin et al.)のPhysical Review Letters,Vol.88,p023602(2002))。
【非特許文献2】Physics Today,Vol.50,p.36(1995)
【非特許文献3】Physical Review Letters,Vol.88,p023602(2002)
【0005】
EITの場合、屈折率変化に必要な時間はキャリアの寿命または緩和時間によって制限されずに位相減衰時間によって決まる。ここで、位相減衰時間は普段は固体での緩和時間よりずっと短い。具体的には、位相減衰時間は、Pr3+添加YSiOなどのほとんどのイオン添加結晶におけるキャリアの寿命より数百倍早いので、超高速の光学的処理が得られる:量子スイッチング(ハム(Ham)の Applied Physics Letters,Vol.85,pp.893−5(2004))。密接に離隔した基底状態間の2光子励起は、非縮退4光波混合(nondegenerate four−wave mixing process)の方法を用いて光学的に検出される。その結果として、非縮退4光波混合信号の強度は元の入力信号の強度より強くなることができる
【非特許文献4】Applied Physi(ヘンメルら(Hemmer et al.のOptics Letters,Vol.20,pp.982−4(1995))。cs Letters,Vol.85,pp.893−5(2004)
【非特許文献5】Optics Letters,Vol.20,pp.982−4(1995)
【0006】
二つの密接に離隔した基底状態が三つの密接に離隔した状態と切り替えられるとともに波長が異なる三つの光が当時に励起状態に共鳴印加される場合、量子スイッチング現像が得られる(ハム(Ham)Physical Review Letters,Vol.84,pp.4080−3(2000))。量子スイッチの物理的過程は光学的に制御可能なスピンコヒーレンススワッピングであり、光スイッチング時間は、従来の屈折率に基づく光スイッチよりずっと早い。この事実は、100倍増加した光スイッチング時間に対してPr3+添加YSiO(Pr:YSO)を使用して実験的に証明された(ハム(Ham)のApplied Physics Letters,Vol.85,pp.893−5(2004))。
【非特許文献6】Physical Review Letters,Vol.84,pp.4080−3(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主目的は、量子スイッチング現像に基づく光子ロジックゲート方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、単一または多数の量子スイッチを使用する光子ロジックゲート方法であって、前記量子スイッチの非線形光学媒質は三つの密接に離隔した基底状態|1>、|2>及び|3>と励起状態|4>及び|5>とからなり、前記基底状態|1>、|2>及び|3>は基底状態間での遷移が双極子禁制(dipole forbidden)であるような基底状態であり、前記励起状態|4>及び|5>は励起状態|4>(及び前記|5>が実際エネルギー状態の場合は、前記励起状態|5>)を介しての前記基底状態|1>と|3>、|2>と|3>、|1>と|2>間の2光子遷移が許されるような励起状態であり、前記方法はつぎの段階を含むことを特徴とする方法。
a)前記基底状態|1>と前記励起状態|4>間の第1遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して入力ビーム(A)として第1レーザービームを前記非線形光学媒質に印加する段階;
b)前記基底状態|2>と前記励起状態|4>間の第2遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第2レーザービーム(C)を印加する段階;
c)前記基底状態|3>と前記励起状態|4>間の第3遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第3レーザービーム(S)を印加する段階;
d)前記基底状態|3>と前記励起状態|5>間の第4遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第4レーザービーム(R)を印加する段階;
e)前記第1レーザービーム(A)、前記第2レーザービーム(C)、前記第3レーザービーム(S)及び前記第4レーザービーム(R)の強度を調整し、それぞれ2光子コヒーレンス誘導[Reρ23または[Reρ13に対応する周波数ωQ1またはωQ2での非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)を生成する段階;
f)前記非縮退4光波混合信号(Q1)及び(Q2)を物理的に分離された光導波路に連結する段階;
g)前記(S)を共有する方式で二つ量子スイッチを連結し、光導波路または自由空間を介して前記非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)をそれぞれ互いに結合する段階;
h)一量子スイッチからの非縮退4光波混合信号(Q1)及び他の非縮退4光波混合信号(Q2)を結合する方式で二つの量子スイッチを連結する段階;
i)前記第1量子スイッチの前記非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)を光導波路または自由空間を介して第2量子スイッチの前記第3レーザービーム(S)に連結する段階;及び
j)前記第1量子スイッチの非縮退4光波混合信号(Q1)及び(Q2)のそれぞれを光導波路または自由空間を介して前記第2及び第3量子スイッチの前記第3レーザービーム(S)にそれぞれ連結する段階。
【発明の効果】
【0009】
この光子ロジックゲートは、動作速度及びサイズにおいて従来の光ロジックゲートの限界を克服すべきである。光子ロジックゲートの主な特徴は、光導波路または自由空間を介して非線形光学媒質と相互作用する波長が異なる三つ及び四つのレーザービームからなる単一の物理的ゲートで多重ゲート機能のために量子スイッチ及びEITの量子光学を用いることである。量子スイッチ(ハム(Ham)の米合衆国特許第6628453号)に示されているように、本光子ロジックゲートの動作帯域幅は緩和時間またはキャリア寿命に制限されない。本発明の主な利点は、すべての光デジタル処理だけでなく量子コンピュータからなる量子ネットワークでの量子インターフェースにも適用可能なことである。略述すれば、本発明の光子ロジックゲートのシステムは、非線形光学媒質及び少なくとも四つのコヒーレントレーザービームからなる単一または多重に連結された量子スイッチによって提供される。量子スイッチの非線形光学媒質は少なくとも4エネルギー準位でできている。このエネルギー準位のうち、三つのエネルギー準位は基底状態に密接に離隔しており、最終のエネルギー準位は励起状態でなければならない。A、C及びSのレーザービームの周波数はそれぞれ非線形光学媒質の三つの基底状態|1>、|2>及び|3>から励起状態|4>への遷移に共鳴する(図1及び図2参照)。レーザービーム(R)は出力(Q1)または(Q2)を発生するための非縮退4光波混合のプローブとして使用される。非縮退4光波混合出力(Q1)及び/または(Q2)は光子ロジックゲートを構成するために第2/第3非線形媒質に対する入力として使用可能である。出力(Q1)及び(Q2)の出力方向は物理的に分離されるので、量子スイッチは光学ルータとして作用する(ハム(Ham)のApplied Physics Letters Vol.85,pp.893−895(2004))。各レーザービームは、ヘテロ構造の量子井戸、光子バンドギャップ結晶、絶縁体上のシリコン、または表面プラズモンでできている光導波路によって案内できる。光導波路は本発明の部分ではない。二つの量子スイッチを直列でまたは並列で連結することにより、ブール論理、つまりNOT、NAND、AND、OR、XOR及びNORを実行する。光ロジックゲートは光導波路によって拡張の目的で延長可能であり、二つの光子ロジックゲート間の移動時間は無視してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、単一または多数の量子スイッチが暗共鳴(dark resonance)相互作用に用いられる量子スイッチに基づく光子ロジックゲートシステム、方法及び装置であって、波長が異なる三つの光が非縮退4光波混合法によって三つの基底状態及び一つ以上の励起状態からなる4段または5段非線形光媒質と相互作用する。この光子ロジックメカニズムは、共通の励起状態を介しての光学遷移による三つの密接に離隔した基底状態の間で単一または多数の暗共鳴由来の2光子コヒーレンススワッピングの組合せに基づく。基底状態で引き起こされた2光子コヒーレンスは非縮退4光波混合法によって光学的に検出される。非縮退4光波混合発生は、暗共振または電磁気による透明化によって強化される。本発明の光子ロジックゲート法のゲートタイム及び帯域幅は緩和時間またはキャリアの寿命によって制限されなく、位相減衰時間によって制限される。ここで、位相減衰時間は一般に固体または半導体での減衰時間より非常に早い。
【実施例】
【0011】
添付図面は本発明のいくつかの実施例を例証するもので、詳細な説明とともに本発明の原理を説明するに役立つ。添付図面は本発明の好ましい実施例を例証するばかりで、本発明を限定するものと解釈されてはいけない。
【0012】
さらなる理解を得るために、本発明の好ましい実施例を図解する図面を参照する。図1は、単一量子スイッチを使用する光子ロジックゲートを説明する。文字R、S、C、A、Q1及びQ2はそれぞれω、ω、ω、ω、ωQ1及びωQ2を意味する。符号101ないし106はレーザービーム及びこのレーザービーム用光導波路を意味する。符号107は非線形光学媒質を意味する。量子論(Physical Review Letters.Vol.84,pp.4080−4083(2000),and Applied Physics Letters,Vol.78,pp.3382−3384(2001);Applied Physics Letters,Vol.85,pp.893−895(2004);米合衆国特許第6628453号(2003))によれば、論理入力ビーム(A)102がONに切り替えられるときは、出力(Q1)104がいつでもOFFであり、その逆の場合も同じである。ここで、離調(detuning)Δが0でなければ、レーザービームC、Rは連続的であることが分かる(離調Δは図2に示す)。離調Δが0であれば、レーザービーム(C)103及び(R)106が連続的でなく、パルス化して制御ビーム(C)(102)に同期化しなければならない。表1は、図1の結果としてのブール代数を表す。
【0013】
【表1】

【0014】
ここで、励起されたエネルギー状態|5>は仮想または実際のものである。離調Δが0でない|5>の実際状態に対しては、パルス化非縮退(pulsed nondegenerate)4光波混合を立証した(ハム(Ham)のOptics Letters,Vol.24,pp.86−88(1999))
【0015】
図2は、図1の非線形光学媒質のエネルギー準位図を示す。一般に、この種のエネルギー準位構造は、YSiO(YSO)添加Pr3+などの希土類イオン添加結晶に典型的である。ここで、下側の三つのエネルギー準位は、希土類イオン添加結晶での超微細分裂に起因するものである。また、図2のエネルギー準位構造は、半導体量子井戸または量子ドットを多重に結合させることにより、人工的に得ることができる。図1の非線形光学媒質107は、四つのエネルギー状態、|1>、|2>、|3>及び|4>または五つのエネルギー状態、|1>、|2>、|3>、|4>及び|5>を有する。図2の状態|4>はエネルギーが|1>、|2>及び|3>より高い。実際に、図1の非線形光学媒質は五つのエネルギー準位を有することができるが、図2に示す前述したエネルギー準位のみが本発明の光子ロジック機構に貢献する。図2の離調(detuning)Δは、状態|3>から|4>までの共鳴周波数からωでのレーザービームRのオフセット量である(すなわち、Δ=ω43−ω、ここでω43=ω−ω)。周波数ωQ1でのレーザービームQ1は非縮退4光波混合によって発生する。ここで、C、S及びRの三つのレーザー相互作用はそれぞれ周波数ω、ω及びωで非線形光学媒質と関係する。同様に、周波数ωQ2でのレーザー出力Q2はそれぞれω、ω及びωでのA、S及びRの三つの相互作用を伴う非縮退4光波混合によって発生する。図2の非縮退4光波混合信号Q1及びQ2の伝播方向kQ1及びkQ2はそれぞれ位相整合条件:kQ2=k−k+k;kQ1=k−k+kによって決められる。ここで、非縮退4光波混合発生は暗共鳴(dark resonance)またはEITによって強く強化される。このような4光波混合の強化を理解するために、より詳細な説明を以下に提示する。
【0016】
非縮退4光波混合はハリス(Harris)が提案し(Physical Review Letters,Vol.64,pp.1107−1110(1991))、ジェーンらが原子ガス内で実験的に立証し(Optics Letters Vol.18,pp.98−101(1993))、ハム(Ham)らがイオン添加された固体内で実験的に立証した(Optics Letters, Vol.22,pp.1138−1140(1997))。また、非縮退4光波混合法に対する信号増幅及び高変換効率もヘンメル(Hemmer)らが実験的に立証し(Optics Letters,Vol.20,pp.982−984(1995))、ジェーンらが実験的に立証した(Physical Review Letters,Vol.77,pp.4326−4329(1996))。また、非縮退4光波混合法の高変換効率もハム(Ham)らがイオン添加された固体内で実験的に立証した(Physical Review A, Vol.59,pp.R2583−2586(1999))。非縮退4光波混合法の強化は、破壊的及び建設的量子干渉によって1次線形感受率が減少し3次非線形感受率が向上することに基づく。
【0017】
レーザー入力と非縮退4光波混合出力信号間のより詳細な関係を表すために、コヒーレンススワッピング(coherence swapping)を理解しなければならない。図2において、コヒーレンススワッピングを調べるために、密度行列ρを検討すべきである。密度行列はシステムの巨視的なアンサンブルであった(quantum optics,cambridge university press,new york,n.y.(1997),スカリー(scully)及びズバイリ(zubairy)編集)。図2において、二つのレーザービームC及びSは励起状態|4>を介して遷移|2>−|3>に2光子コヒーレンスρ23を引き起こす。同様に、二つのレーザービームA及びSも励起状態|4>を介して基底状態遷移|1>−|3>に2光子コヒーレンスρ13を引き起こす。特に、暗共鳴(dark resonance)またはEITを伴う場合、2光子コヒーレンスが強く促進される。ここで、暗共鳴(dark resonance)またはEITは同じ物理的現像であるが、EITという用語は吸収消失に起因するので、共鳴電磁界は何の吸収も経験せずに光学的に厚い媒質を通過することができる。
【0018】
図3はPr3+を用いる量子スイッチング(ルーティング)の理論データ及び実験データを示す:離調(detuning)Δ=0に対し、図2に基づくYSO:Δは遷移|1>=|4>の共鳴周波数からのレーザービームの離調(detuning)を意味する。図3に見られるように、2光子コヒーレンスReρ13及びReρ23の強度はAのレーザー作用によって互いにスワップされる:2光子コヒーレンスはレーザービームRを使用して光学的に検出することができ、結果として非縮退4光波混合信号Q1またはQ2が発生する。図3a及び図3bの非縮退4光波混合信号の実験データは、理論的に計算された2光子コヒーレンス強度[Reρ12]とよく一致している(ハムら(Ham et al)のPhysical Review A,Vol.59,R2583−R2586(1999),Physical Review Letters.Vol.84,pp. 4080−4083(2000),and Applied Physics Letters,Vol.78,pp.3382−3384(2001);Applied Physics Letters,Vol.85,pp.893−895(2004);米合衆国特許第6628453号(2003))。
【0019】
図4は二つの量子スイッチが直列で連結された光子ロジックゲートNORを説明する。ここで、左側(第1)量子スイッチ(QS1)412の出力(Q1)410は入力として右側(第2)量子スイッチ(QS2)413に供給される(図1のS参照)。QS1からの論理的入力レーザービーム(A)402及びQS2からの論理的入力レーザービーム(B)404は光学的論理入力を実行し、結果として出力(X)406でブール代数NORとなる。前述したように、Δ≠0であると、各量子スイッチに印加されるレーザービーム(R)408、411は連続波となり得る。Δ=0であると、Rがパルス化し入力ロジックレーザー(A)402と同期化しなければならない。入力レーザービーム(A)402及び(B)404の両者も同期化しなければならない。表2は二つの論理入力(A)402及び(B)404の組合せによって出力(X)406となるNORのブール代数を表す。
【0020】
【表2】

【0021】
図5は直列で連結された二つの量子スイッチからなる光子ロジックゲートANDを示す。ここで、左側量子スイッチ(QS1)512の出力(Q2)509は入力(S)として右側量子スイッチ(QS2)513に供給される(図1のS参照)。QS1からの論理入力ビーム(A)502及びQS2からの(B)504の組合せによって、出力(Y)507にブール代数ANDが作られる。前述したように、Δ≠0であると、各量子スイッチに印加されるレーザービーム(R)511、508は連続波となり得る。しかし、Δ=0であると、Rがパルス化し入力ロジックレーザー(A)502と同期化しなければならない。入力レーザービーム(A)502及び(B)504の両者も同期化しなければならない。表3は二つの論理入力(A)502及び(B)504によって出力(Y)507で現れる結果としてのブール代数ANDを表す。
【0022】
【表3】

【0023】
図6は光子ロジックゲート、NAND/ORを示す。このシステムは、直列で連結された二つの量子スイッチからなり、ソースレーザー(S)601を共有している。上側量子スイッチ(QS1)613からの出力Q1及び下側量子スイッチ(QS2)614からの出力Q3が互いに結合して論理出力(Y)605となる。読み取られたレーザービーム(R)609、606は、離調(detuning)Δが0でなければ、アイドラーとして連続波であり、あるいは離調(detuning)Δが0であれば、パルスとして論理入力レーザービーム(A)602及び(B)607に同期化する。ソースレーザービーム(S)601はYブランチまたはビームスプリッタなどの光スプリッタ/コンバイナ610、611、612を通じて二つの成分に分割される。二つの入力(A)602及び(B)607の作用下で、出力ロジックレーザービーム(X)604及び(Y)605はそれぞれブールロジック演算NANDまたはORを実行する(表4参照)。
【0024】
【表4】

【0025】
図7は光子ロジックゲート、NOR/XOR/ANDを示す。このシステムは三つの量子スイッチからなるが、このうち二つは最終のものに連結されている。量子スイッチ(QS1)716の各出力(Q1)712及び(Q2)710はそれぞれ量子スイッチ(QS2)718及び(QS3)717に対する入力として使用される。出力(P1)706は論理出力Xとして使用される。出力(P2)及び(P3)は互いに結合し(719)、論理出力(Z)707となる。出力(P4)708は論理出力(Y)として使用される。二つの論理入力(A)702及び(B)704、715が与えられ、ここで、AはQS1に対するものであり、BはQS2及びQS3に対するものである。(R)711、713、197及び(C)703、705、714の機能は前述したようである。表5に見られるように、二つの論理入力(A)及び(B)は、出力(X)でブール代数NORを、出力(Z)でブール代数XORを、出力(Y)でブール代数ANDを同時に実行する。
【0026】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、すべての光デジタル処理だけでなく量子コンピュータからなる量子ネットワークでの量子インターフェースにも適用可能なことである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の光子ロジックゲートNOTのブロック図を示す。図1は量子スイッチ(米合衆国特許第6628453号)と非常に類似している。
【図2】図1の非線形光学媒質107のエネルギー準位図を示すもので、基底状態間の周波数差は基底状態と励起状態間の遷移周波数よりずっと小さい。励起エネルギー状態|5>は周波数離調(frequency detuning)Δの値によって仮想、実際あるいは状態|4>と同一であることができる。文字R、S、C、A、Q1及びQ2は、それぞれω、ω、ω、ω、ωQ1及びωQ2の周波数でのレーザービームを意味する。
【図3】図2の実験データ(a、b)及び理論データ(c、d)を示す(量子スイッチング(ルーティング))。出力ビーム(Q1)及び(Q2)の空間方向はレーザービームの移相整合条件によって決まり、空間方向は互いに同一であるか異なる。
【図4】本発明の光子ロジックゲートNORの概略図を示す。文字QSは図1のレーザービームR、S、C、A、Q1(またはX)、及びQ2(またはY)に使用される光導波路によって連結される非線形光学媒質107からなる量子スイッチを意味し、図2を満たす。
【図5】本発明の光子ロジックゲートANDの概略図を示す。文字QSは図1のレーザービームR、S、C、A、Q1(またはX)、及びQ2(またはY)に使用される光導波路によって連結される非線形光学媒質107からなる量子スイッチを意味し、図2を満たす。
【図6】本発明の光子ロジックゲートNAND/ORの概略図を示す。文字QSは量子スイッチを意味するもので、レーザービームR、S、C、A、B、Q1、Q2、Q3、Q4、X及びYに使用される光導波路によって連結された非線形光学媒質からなる。
【図7】本発明の光子ロジックゲートNOR/XOR/ANDの概略図を示す。文字QSはレーザービームR、S、C、A、B、Q1、Q2、X、Y及びZに使用される光導波路によって連結された非線形光学媒質からなる量子スイッチを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一または多数の量子スイッチを使用する光子ロジックゲート方法であって、前記量子スイッチの非線形光学媒質は三つの密接に離隔した基底状態|1>、|2>及び|3>と励起状態|4>及び|5>とからなり、前記基底状態|1>、|2>及び|3>は基底状態間での遷移が双極子禁制(dipole forbidden)であるような基底状態であり、前記励起状態|4>及び|5>は励起状態|4>(及び前記|5>が実際エネルギー状態の場合は、前記励起状態|5>)を介しての前記基底状態|1>と|3>、|2>と|3>、|1>と|2>間の2光子遷移が許されるような励起状態であり、前記方法はつぎの段階を含むことを特徴とする方法。
a)前記基底状態|1>と前記励起状態|4>間の第1遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して入力ビーム(A)として第1レーザービームを前記非線形光学媒質に印加する段階;
b)前記基底状態|2>と前記励起状態|4>間の第2遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第2レーザービーム(C)を印加する段階;
c)前記基底状態|3>と前記励起状態|4>間の第3遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第3レーザービーム(S)を印加する段階;
d)前記基底状態|3>と前記励起状態|5>間の第4遷移に対応する周波数ωで光導波路または自由空間を介して第4レーザービーム(R)を印加する段階;
e)前記第1レーザービーム(A)、前記第2レーザービーム(C)、前記第3レーザービーム(S)及び前記第4レーザービーム(R)の強度を調整し、それぞれ2光子コヒーレンス誘導[Reρ23または[Reρ13に対応する周波数ωQ1またはωQ2での非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)を生成する段階;
f)前記非縮退4光波混合信号(Q1)及び(Q2)を物理的に分離された光導波路に連結する段階;
g)前記(S)を共有する方式で二つ量子スイッチを連結し、光導波路または自由空間を介して前記非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)をそれぞれ互いに結合する段階;
h)一量子スイッチからの非縮退4光波混合信号(Q1)及び他の非縮退4光波混合信号(Q2)を結合する方式で二つの量子スイッチを連結する段階;
i)前記第1量子スイッチの前記非縮退4光波混合信号(Q1)または(Q2)を光導波路または自由空間を介して第2量子スイッチの前記第3レーザービーム(S)に連結する段階;及び
j)前記第1量子スイッチの非縮退4光波混合信号(Q1)及び(Q2)のそれぞれを光導波路または自由空間を介して前記第2及び第3量子スイッチの前記第3レーザービーム(S)にそれぞれ連結する段階。
【請求項2】
前記励起状態|4>は、そのエネルギー準位が前記基底状態|1>、|2>及び|3>のエネルギー準位より高いように選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記励起状態|5>は、そのエネルギー準位が前記励起状態|4>から離調(detuning;Δ)だけ分離されるように選択され、前記離調(detuning;Δ)は0、または前記第4レーザービーム(R)または第1レーザービーム(A)の光ラビ(Rabi)周波数に近いことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1レーザービーム(A)のラビ周波数(Ω)は、前記第2レーザービーム(C)及び前記第3レーザービーム(S)のラビ周波数より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Δ=0の場合、前記第1レーザービーム(A)、前記第2レーザービーム(C)、前記第3レーザービーム(S)及び前記第4レーザービーム(R)は同期化し、前記レーザービーム(A)、(C)及び(S)が互いに時間的に重畳し、前記第4レーザービーム(R)は、前記三つの基底状態|1>、|2>及び|3>のうち、位相減衰時間(T)より短いτだけ時間遅延されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Δ≠0の場合、前記第2レーザービーム(C)及び前記第4レーザービーム(R)は常にONに切り替えられており、前記第1レーザービーム(A)及び前記第3レーザービーム(S)は時間的に同期化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記離調(Δ)、つまり前記エネルギー状態|4>と|5>間のエネルギー分離は、量子スイッチの光ルーターの適用の場合に、前記第1レーザー(A)のラビ周波数より高いかまたは同一であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ブール(Boolean)代数NOTに対し単一量子スイッチが使用され、前記第1レーザービームは前記第3レーザービーム(S)を制御し、そのビームを反転させて前記出力(Q1)に生成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ブール代数NORに対し連続している二つの量子スイッチが使用され、前記第1非線形媒質の前記出力(Q1)は前記第2非線形媒質に対して前記レーザービーム(S)として使用され、前記第1レーザービーム(A)と前記第2非線形媒質の前記出力(Q1)間の関係はブール代数NORを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ブール代数ANDに対し連続している二つの量子スイッチが使用され、前記第1非線形媒質の前記出力(Q2)は前記第2非線形媒質に対して前記レーザービーム(S)として使用され、前記第1レーザービーム(A)と前記第2非線形媒質の前記出力(Q2)間の関係はブール代数ANDを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ブール代数NAND/ORに対し平行な2量子スイッチが使用され、前記レーザービーム(S)は前記二つの非線形媒質が共有し、前記出力(Q1)及び(Q2)はそれぞれ結合されるので、前記各非線形媒質に印加される前記二つの第1レーザービーム(A)と前記各結合出力(Q1)及び(Q2)間の関係はそれぞれブール代数NAND及びORを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ブール代数NOR/XOR/ANDを満たすように、三つの量子スイッチが互いに連結され、前記第1量子スイッチの前記出力(Q1)及び(Q2)は平行な両量子スイッチとして使用され、前記平行な量子スイッチからの前記各出力(Q2)及び(Q1)はそれぞれ出力(Z)に結合されるので、前記各非線形媒質に印加される前記三つのレーザービームと前記出力(Q1)、(Q2)及び(Z)間の関係はそれぞれブール代数NOR、AND及びXORを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
単一または多数の非線形光学媒質を使用する光子ロジックゲート装置であって、前記非線形光学媒質は三つの基底状態|1>、|2>及び|3>と励起状態|4>とからなり、前記基底状態|1>、|2>及び|3>は基底状態|1>と|2>、|1>と|3>、|2>と|3>間での遷移が双極子禁制(dipole forbidden)であるような基底状態であり、前記励起状態|4>は励起状態|4>を介しての前記基底状態|1>と|2>、|1>と|3>、|2>と|3>間の2光子遷移が許されるような励起状態であり、前記装置はつぎの要素を含むことを特徴とする装置。
a)前記基底状態|1>と前記励起状態|4>間の第1遷移に対応する周波数ωで前記非線形光学媒質を前記第1レーザービーム(A)に印加するための第1レーザービーム;
b)前記基底状態|2>と前記励起状態|4>間の第2遷移に対応する周波数ωで第2レーザービーム(C)を前記非線形光学媒質に印加するための第2レーザービームソース;
c)前記基底状態|3>と前記励起状態|4>間の第3遷移に対応する周波数ωで第3ビーム(S)を前記非線形光学媒質に印加するための第3レーザービームソース;
d)前記基底状態|3>と前記励起状態|5>間の第4遷移に対応する周波数ωで第4ビーム(R)を前記非線形光学媒質に印加するための第4レーザービームソース;
e)前記基底状態|3>と前記励起状態|4>間の第3遷移に対応する周波数ωで前記各非線形光学媒質に印加するために、前記第3レーザービーム(S)を二つまたは多数のビームに分割するための手段;
f)多数の非線形光学媒質から非縮退4光波混合信号(Q1)及び(Q2)をそれぞれ対応光チャネルに結合するための手段;
g)前記第1ビーム、前記第2ビーム、前記第3ビーム及び前記第4ビームの強度及び周波数を調整して、前記基底状態|1>と|2>、|1>と|3>、及び|2>と|3>間のコヒーレント重畳を作るための手段;
h)第1レーザービーム(A)、第3レーザービーム(S)及び第4レーザービーム(R)を互いに同期化するか遅延させるための手段;及び
i)第1レーザービーム(A)、第2レーザービーム(C)、第3レーザービーム(S)及び第4レーザービーム(R)を非線形光学媒質内に空間的に重畳させるための手段。
【請求項14】
前記非線形光学媒質は固体であることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記非線形光学媒質は多重結合半導体であることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記三つの基底状態|1>、|2>及び|3>と、前記励起状態|4>及び|5>は、前記多重結合半導体の伝導帯内で選択されることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記非線形光学媒質は、光導波路、自由空間、またはプラズモン導波路を介して前記レーザービーム(A)、(C)、(S)、(R)、(Q1)及び/または(Q2)に連結されることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
前記第1レーザービーム(A)は、前記第3レーザービーム(S)に作用してブール代数NOTに対する前記出力(Q1)を作り出すことを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項19】
前記非線形媒質は、前記第1非線形媒質の前記出力(Q1)が前記第3レーザービーム(S)として前記第2非線形媒質に供給されるように連結され、前記各非線形媒質に印加される二つの第1レーザービーム(A)と前記第2非線形媒質の前記出力(Q1)間の関係はブール代数NORを満たすことを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項20】
前記非線形媒質は、前記第1非線形媒質の前記出力(Q2)が前記第3レーザービーム(S)として前記第2非線形媒質に供給されるように連結され、前記各非線形媒質に印加される二つの第1レーザービーム(A)と前記第2非線形媒質の前記出力(Q2)間の関係はブール代数ANDを満たすことを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項21】
前記第3レーザービーム(S)は二つの媒質が共有しており、前記各出力(Q1)及び(Q2)は互いに結合され、結果は各非線形媒質の前記二つの第1レーザービーム(A)に対してブール代数NAND及びORを満たすことを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項22】
三つの非線形媒質は、前記一つの非線形媒質からの両出力(Q1)及び(Q2)が前記残りの二つの非線形媒質の第3レーザー(S)に使用されるように連結され、前記出力(Q1)及び(Q2)は互いに結合されるので、三つの出力がそれぞれブール代数NOR、XOR及びANDを満たすことを特徴とする、請求項13に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−546043(P2008−546043A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541093(P2008−541093)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【国際出願番号】PCT/KR2007/001130
【国際公開番号】WO2008/050938
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(507383356)インハ−インダストリー パートナーシップ インスチチュート (2)
【Fターム(参考)】