説明

光子放射の周辺線量当量を測定するための局所線量計および読取方法

本発明は、散乱体と、好ましくはLiFチップである少なくとも1つの検出素子ペアを備えた検出カードとを具備する、光子放射の周辺線量当量(H(10))を測定するための局所線量計に関し、その際、両方の検出素子のうち第1の検出素子は、光子放射をスペクトル的にフィルタ処理するために2つのフィルタフィルムの間に位置決めされており、両方の検出素子のうち第2の検出素子は、第1の検出素子のようにそのようなフィルタフィルムの間に配置されてはおらず、したがって第2の検出素子上に当たる光子放射は、第1の検出素子上に当たるスペクトル的にフィルタ処理された光子放射とは異なるスペクトル分布を有する。特に30keV未満の範囲内、場合によっては1.3MeV超の範囲内で最適化された応答挙動を達成するために、両方の測定値が加重して加算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子放射の周辺線量当量を測定するための局所線量計およびそのような局所線量計の読取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性体質を取り扱う際、ならびに加速器、X線設備、および迷放射線源を稼働する際には、人を防護するために、それぞれ特定の防護規定が適用される放射線防護領域を設けなければならない。これには監視、すなわち放射の連続測定が必要である。これにはいわゆる線量計が用いられる。
【0003】
特に加速器における放射線防護監視には、中性子放射線レベルの測定だけでなく、光子放射の測定も必要である。新しい放射線防護令およびX線令の施行に伴い、局所線量/個人線量に関して新たな測定量を使用しなければならない。これまで使用していた線量値「光子線量当量Hx」は、透過性放射に関する線量値「周辺線量当量H(10)」で置き替えられる。
【0004】
これまで使用されていた線量値は、放射によって自由空気で生じる線量に基づくものである。新しい線量値は、同じ放射により、正規化された被検体の深さ10mmで生じる線量によって定義される(ICRU球;ICRU=国際放射線単位測定委員会)。この定義は以下のようであり、すなわち実際の放射場内の関心点における周辺線量当量H(10)は、所属する位置合わせされ拡張された放射場内で、放射線入射方向に対向する半径ベクトル上のICRU球内の深さ10mmで生じるであろう線量当量である。
【0005】
能動型すなわち電子式の局所線量計と受動型局所線量計とが存在する。能動型モニタとしては、例えばシンチレーション式線量計、ガイガー・ミュラー計数管、比例計数管、および電離箱が知られている。
【0006】
DE69711199T2から、とりわけ周辺線量当量Hを測定することができる、低エネルギーのX線放射およびガンマ放射用の線量計が知られている。この線量計は、ケイ素をベースとする光ダイオードおよびダイヤモンドをベースとする第2の検出器を使用し、それらの測定信号を、電流プリアンプおよびアナログ・デジタル変換器によって電子的に処理する。
【0007】
例えばGesellschaft fuer Schwerionenforschung mbHの実験ホールEH内およびシンクロトロンの実験領域内では、例えばFHZ600A型の能動型モニタ(販売:Thermo Electron、Erlangen)によって、生成されたガンマ放射レベルを捕捉している。能動型モニタの欠点は、複雑で、高価で、かつ電気的接続または定期的なバッテリ交換を必要とすることである。さらにこの能動型モニタは、特に加速器のパルス運転の際に発生し得る短くて強い放射パルスの場合に過変調する可能性があり、その結果、監視結果をゆがめる恐れがある。したがってパルス状のX線放射およびガンマ放射の測定には、受動型線量計を用いることが好ましい。
【0008】
DE1489922から、基本的に45keV未満の放射の線量測定方法が知られている。この場合、差の形成によってエネルギー非依存性の測定を得るために、2つのリン酸ガラス測定素子が異なるケーシングを備えている。さらに40から80keVの間の放射は考慮されないことになる。なぜならこれらの測定値は差を形成する際に相殺されるからである。
【0009】
受動型局所線量計は典型的には、入射する放射を、物理的プロセスに基づき、電流を必要とせずに受け取り記憶する受動型検出素子を備えている。これの典型的な例は、熱ルミネセンス検出器(TLD)である。熱ルミネセンス検出器は、例えば同位体LiFまたはLiFのフッ化リチウム結晶を含んでおり、LiFとLiFは中性子放射に対する応答挙動に違いがあるが、光子放射に対しては同じ応答挙動を有する。このような熱ルミネセンス検出器は、例えばThermo Electron GmbH社から入手可能である。熱ルミネセンス検出カード上に、例えば4つのLiF結晶が取り付けられている。照射された検出カードは、自動装置内で評価される。そのために、加熱方法において、TLDから放出された光が光電子増倍器によって検出され、いわゆるグロー曲線が記録される。この測定されたグロー曲線を介して線量が決定される。
【0010】
DE3903113A1から、上述のフッ化リチウム結晶を含む線量測定カードを具備する線量計が知られている。ただしこれは局所線量計ではなく、個人線量計であり、とりわけ検出カードの形態である。検出カードは、結晶の間隔を広げるために正方形に形成すべきである。
【0011】
Seibersdorf Research社のH(10)局所線量計が知られており、この局所線量計は、4つのフッ化リチウムチップを備えたアルミニウムの線量測定カードを具備している。この線量測定カードは、汚れから保護するためにプラスチック複合フィルム内に密閉され、プラスチックシリンダの開いた隙間内に上から嵌め込まれる。
【0012】
続いてこの線量計は、測定場所に立てるまたは懸架するため、および3か月の測定期間中ずっと測定するために、粉末コーティングされたアルミニウムの保護キャップで密封される。
【0013】
これらの局所線量計の欠点は、まず熱ルミネセンス検出器の応答能力が、強いエネルギー依存性を有することである。周辺線量当量測定器で測定すべき測定量が、法規、例えばドイツ放射線防護令(2001年7月20日付け電離性放射線による障害からの防護に関する政令(放射線防護令−StrlSchV)を参照)により、上述した測定量H(10)によって予め定められている。
【0014】
しかし純粋な熱ルミネセンス結晶の場合、エネルギー依存性は、約100keV〜1MeVのエネルギー範囲内でしか測定量H(10)のエネルギー依存性に近似していない。Seibersdorf Research社のH(10)局所線量計も、プラスチックシリンダにもかかわらず、30keV〜1.3MeVのエネルギーの使用範囲しか提示されていない。多くの適用分野で特に問題なのは、10keVから30keVの間の範囲内での精度が不十分なことである。一般的には、10keV〜3MeV、より良くはさらに10MeVまでの測定範囲が望ましいであろう。
【0015】
いずれにせよ、これらの局所線量計が360°の角度範囲全体にわたって十分な測定精度を有しているかどうかは疑わしい。つまり例えば、0°では特定のエネルギー範囲にわたって十分な測定精度を有する局所線量計が、例えば75°でも十分な測定精度を有するとは限らない。
【0016】
したがって要するに、既知の局所線量計に対する改善要求が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】DE69711199T2
【特許文献2】DE1489922
【特許文献3】DE3903113A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の一般的課題は、周辺線量当量の正確な測定をパルス状の光子放射でも可能にする局所線量計および読取方法を提供することである。
【0019】
本発明の具体的な課題は、できるだけ大きな線量測定すべきスペクトル範囲にわたって、相対線量表示値に対する予め定義された標準関数にできるだけ正確に対応する、光子放射に対するスペクトル応答挙動を表現することのできる、局所線量計および読取方法を提供することである。
【0020】
本発明の具体的なもう1つの課題は、100keV未満、特に10keVから30keVの間のエネルギー範囲内、ただし場合によってはさらに1.3MeV〜約3MeVにわたって、それどころか最高10MeVまでのエネルギー範囲内でも周辺線量当量の正確な測定を可能にする、H(10)局所線量計を提供することである。
【0021】
本発明のもう1つの課題は、所望のエネルギー範囲内で、できるだけ角度に依存しない測定精度を可能にする、H(10)局所線量計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の課題は、独立請求項の対象によって解決される。本発明の有利な変形形態は従属請求項において定義されている。
【0023】
本発明によれば、光子放射の周辺線量当量H(10)を測定するための受動型で非電子式の局所線量計が提供される。周辺線量当量は、360°の角度または場合によってはそれどころか4πの立体角にわたって、できるだけ方向非依存的に測定される。この局所線量計の使用範囲は、好ましくは少なくとも10keV〜1MeV超、特に好ましくは最高3MeV、それどころか最高で10MeVまでの範囲内のX線放射およびガンマ放射を含んでいる。
【0024】
この局所線量計は、光子放射のための散乱体と、光子放射感受性の受動型検出素子、特に2つの熱ルミネセンス検出チップ、例えば2つのフッ化リチウムチップ(LiFチップ)の少なくとも1つの第1のペアを備えた検出カードとを具備している。ただし別の熱ルミネセンス材料を用いることもできる。両方の検出素子自体は、測定すべき光子放射に対して同じ応答挙動を有する。両方の検出素子は同一であることが好ましい。ただしLiFチップとLiFチップは測定すべき光子放射に対して同じ応答挙動を有するので、1つのLiFチップおよび1つのLiFチップを使用することも考えられる。
【0025】
好ましくは、LiFチップの形の検出素子はそれぞれ、薄いプラスチックフィルム上に貼り付けられており、このプラスチックフィルムによって、検出カードのアルミニウム枠内の窓内に懸架されている。ただしLiFチップは、検出カードのメーカーに応じて2つのプラスチックフィルムの間に挟持されていてもよい。LiFチップは例えば、約3mm×3mmのサイズおよび約0.5mmの厚さを有する。このような検出カードは市場で入手可能であり、例えばThermo Electron GmbH社から入手可能である。検出カードはしたがってカード平面を定義しており、両方の検出素子はこのカード平面内で、検出カード上に並んでまたは上下に配置されており、より詳しくは検出カードの窓内で挟持されている。散乱体および検出素子から成る構成体は、カード平面に関して基本的に鏡面対称に構成されており、したがって両方の検出素子は、光子放射に対しカード平面の両側で同様の感受性を有し、これによりほぼ360°の角度範囲で光子放射をできるだけ方向非依存的に測定することが達成される。特に、検出カードに対して前方および後方から検出素子に当たる放射に対する応答挙動は、できるだけ同じであるべきである。カード平面の法線に対する入射角度に関連するある程度の方向依存性、例えばカード平面に垂直な入射角度を法線に対して75°の角度と比較したときの方向依存性は、原則的には望ましくないが、不可避である。ただしこの方向依存性は、本発明によって低く保つことができる。
【0026】
本発明によれば、両方の検出素子のうち第1の検出素子は2つのフィルタフィルムの間に位置決めされており、したがって第1の検出素子上に当たる光子放射は、光子放射が第1の検出素子上に前方から当たるかまたは後方から当たるかに応じて、一方(前方)のフィルタフィルムまたはもう一方(後方)のフィルタフィルムによってフィルタ処理され、その際、両方のフィルタフィルムはそのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されており、これにより前方および後方からの光子放射に対する同じスペクトルフィルタ作用を達成する。本発明において、スペクトルフィルタ作用とは、フィルタ作用がエネルギーの関数であり、つまりエネルギーに依存して異なるフィルタ処理がなされることと理解される。このスペクトルフィルタフィルムは、30keV未満のエネルギー範囲内の光子放射を、特に100keVから1MeVの間の比較的高いエネルギーに比べて抑制するのに特に有効であり、つまり線量測定すべき測定範囲内の光子放射に対する有意で意図的なスペクトルフィルタ作用を所望の測定範囲内で有しており、LiFチップのための標準的な懸架フィルムと混同してはならない。つまりフィルタフィルムは、30keV未満の低エネルギーに負荷が掛かるように、狙い通りに光子スペクトルを変化させる。他方でフィルタフィルムは、それでもなお測定に十分な強度で光子放射を通過させるために、吸収性を強く選択しすぎてはならない。
【0027】
重要なのは、両方の検出素子の一方しか前述のフィルタフィルムの間に存在しないことである。すなわち両方の検出素子のうち第2の検出素子は、第1の検出素子のようにそのようなフィルタフィルムの間に存在してはおらず、したがって第2の検出素子上に当たる光子放射は、第1の検出素子上に当たる光子放射とは異なるスペクトル分布を有する。特に、第1の検出素子上に当たる光子放射のスペクトル分布では、10keVから30keVの間のエネルギー範囲が、より高いエネルギーに比べて減少しており、ただし好ましくはなお測定可能に存在している。
【0028】
両方の検出素子で異なるフィルタフィルムを備えることによっても、本発明が実現できるであろうことは明らかであり、したがってこのことを排除するべきではない。重要なのは、第1の検出素子上に当たる光子放射が、第2の検出素子上に当たる光子放射とは異なるフィルタ処理を受けることであり、ただしその際に、それぞれ、放射が検出素子上に前方から当たるかまたは後方から当たるかには依存しない。したがって最も簡単な場合、第2の検出素子にフィルタフィルムは設けられず(懸架フィルムと混同しないこと)、したがって第2の検出素子上に当たる光子放射は、散乱体の内部ではフィルタ処理されないままである。
【0029】
したがって第2の検出素子が第1の検出素子のようにそのようなフィルタフィルムの間に配置されていないということは、第2の検出素子が、i)フィルタフィルムの間に配置されていないこと、またはii)測定すべき光子放射に対して第1の検出素子とは有意に異なるスペクトルフィルタ作用をもつフィルタフィルムの間に配置されていることを意味する。
【0030】
これにより、有利には、非常に単純な構造の受動型局所線量計を用い、両方の検出素子の両方の測定値の加重和を形成することにより、スペクトル応答挙動を狙い通りに変えることができる。これは可能である。なぜなら第1および第2の検出素子が、異なるフィルタ処理に基づき、異なるスペクトル分布をもつ放射線量を測定するからである。したがって、測定量H(10)の測定のエネルギー依存性を、できるだけ広いエネルギー範囲にわたってできるだけ正確に表現することができる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態によれば、局所線量計は、光子放射感受性検出素子の第2のペアを備えている。この第2のペアは、好ましくは第1のペアと同一に形成されており、第1のペアの場合と同様に、両方の検出素子の一方の周りに前方および後方のフィルタフィルムを有している。すなわち第2のペアの両方の検出素子のうち第1の検出素子は2つのフィルタフィルムの間に位置決めされており、したがって第2のペアの第1の検出素子上に当たる光子放射は、光子放射が第2のペアの第1の検出素子上に前方から当たるかまたは後方から当たるかに応じて、一方のフィルタフィルムまたはもう一方のフィルタフィルムによってフィルタ処理され、その際、第2のペアの第1の検出素子の両方のフィルタフィルムはそのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されており、これにより前方および後方からの光子放射に対して同じスペクトルフィルタ作用を達成する。そのうえ、第2のペアの第1の検出素子のフィルタフィルムと第1のペアの第1の検出素子のフィルタフィルムも同様に、そのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されている。さらに第2のペアの両方の検出素子のうち第2の検出素子は、第2のペアの第1の検出素子のようにそのようなフィルタフィルムの間に配置されてはおらず、したがって第2のペアの第2の検出素子上に当たる光子放射は別のスペクトル分布を有しており、つまりフィルタ処理されず、または場合によっては第2のペアの第1の検出素子上に当たるスペクトル的にフィルタ処理された光子放射とは異なるフィルタ処理をされる。
【0032】
この重複設計の利点は、同一に形成された2つの検出器ペアの場合、両方のペアのそれぞれ第1の検出素子の線量測定値の平均を求めることも、両方のペアのそれぞれ第2の検出素子の線量測定値の平均を求めることもできることに基づくものであり、その後、平均化された両方の測定値から加重和が形成される。一見するとこれは単純に思われるかもしれないが、普通に使用される検出カードの場合、測定の方向非依存性に関する特別な利点を有している。すなわち4つの検出素子が、好ましくは四角形の配置で、つまり第1のペアの第1の検出素子と第2のペアの第2の検出素子が対角線上で向かい合うように、カード上に配置されている。言い換えると、検出カード上で両方のペアが平行に並んで存在しており、かつ各ペアの両方の検出素子がそれぞれ上下に存在している。さらに散乱体は、好ましくは全体として円筒対称性であり、かつ散乱体の回転対称軸が、両方のペアの間に、つまり両方の第1の検出素子の間にも、両方の第2の検出素子の間にも延びている。したがって両方のペアは、それぞれ対称軸の脇に(鏡面対称に)存在している。検出カードはその平面的な形状のゆえに必然的に線量計の円筒対称性を損ない、したがってこのシステムに、原則的には望ましくない方向依存性をもたらす。しかしこれによって引き起こされた方向依存性は、この実施形態の場合、実験で証明できるように、対称軸のこちら側と向こう側で同一に形成された両方のペアの間の平均化によって低くすることができる。そのために、特に、斜めに入射する放射に対してペアが対称軸のこちら側と向こう側に配置されているので、光子放射がカード法線に対して斜めの角度で散乱体を通って両方のペアへと進む距離が異なるという状況を利用することができる。
【0033】
4つの検出素子は、同じ熱ルミネセンス検出素子、例えばLiF結晶またはLiF結晶を備えたフッ化リチウム熱ルミネセンス検出素子として形成することが好ましい。ただし上述したようにLiF結晶またはLiF結晶の組合せも可能である。
【0034】
散乱体は、低い原子番号Z、好ましくはZ=6以下、つまり炭素の原子番号を超えない元素で構成された材料から成ることが好ましい。そうでない場合には、吸収断面積が場合によっては大きくなりすぎる。したがって専ら炭素原子および水素原子から成るポリマー、またはせいぜいのところ、より大きな番号の元素を僅かな割合で有するポリマーが好ましい。したがって、(非ハロゲン化)ポリオレフィン、特にポリエチレンが考慮される。
【0035】
散乱体は、カード平面を横切る少なくとも1つの平面において回転対称性の形状を有することが好ましい。特に好ましいのは円筒であり、その真ん中に、回転対称軸に関して対称に検出カードが配置され、その際、両方のペアは、軸に関して鏡面対称に配置される。ただし別の形状、特にもっと高い対称性を有する形状、例えば球または縁を丸めた円筒も考えられる。円筒の直径は50mm±5mmであることが好ましくは、これは、散乱体の散乱挙動と吸収挙動の間の優れた妥協点である。
【0036】
特に好ましい一実施形態によれば、散乱体は、検出カード平面に沿って分離された2つの半体に分割され、つまり円筒の場合には対称軸に沿って分割されることが好ましい。両方の半体の少なくとも一方、好ましくは両方が、座繰りされた凹部を有しており、この凹部内に検出カードが埋設され、これにより稼働状態では完全に散乱素子に包囲されるようになる。検出カードの嵌込みおよび取り出しが容易にできるように、両方の円筒半体は、開いた状態と閉じた稼働状態の間で互いに相対的に移動可能である。閉じた稼働状態では、両方の半体が取外し可能に相互に結合され、例えばネジ留めされ、したがって座繰りされた凹部は、内部が全面的に閉じた空洞を形成し、その中に検出カードが埋設される。特に好ましくは、両方の半体が、カード平面に垂直な軸の周りで、つまり両方の半体の間の切断面に沿って、互いに相対的に回転可能に結合しており、これにより稼働状態では検出カードが散乱体の全面的に閉じた空洞内に閉じ込められ、開いた状態では検出カードを嵌め込みおよび取り出しできるようになる。望むなら、稼働状態の両方の半体をさらに、両方の半体の間の隙間に水または汚体が侵入することを阻止する保護ケーシングで取り囲むことが可能である。保護ケーシングは、同様に基本的に小さなZの元素だけで構成されたプラスチックから、例えば同様にポリオレフィン、特にポリエチレンから成ることが望ましく、測定をできるだけ妨げないためにできるだけ薄いか、または対応する窓を有するべきであろう。特に、散乱体の周りに金属スリーブまたはアルミニウムスリーブを設けないのが有利である。というのは、これらのスリーブは、その光子放射に対する吸収特性によって結果を妨げる恐れがあるからである。
【0037】
フィルタフィルムを散乱体の半体の内側に固定すること、それも稼働状態において検出カードが両方の半体の間の空洞内に埋設されているときに両方のペアの両方の第1の検出素子がその間にくる位置に固定することが特に好ましい。熱ルミネセンス検出チップを読み取るためには、フィルタフィルムを検出チップから遠ざけなければならないので、検出カードを取り出す際にフィルタフィルムが散乱体に固定されたままであると有利である。
【0038】
フィルタフィルムは、12以上の原子番号をもつ材料から成ることが好ましい。十分なスペクトルフィルタ機能を保証するために、少なくとも散乱体のZより大きなZが必要である。特に適しているのは銅フィルム(Z=29)であることが分かっているが、例えば別の金属または材料も使用可能である。
【0039】
銅フィルムを使用する場合、その好ましい厚さは、好ましくは10μm〜1000μmの範囲内、特に好ましくは25μmから100μmの間である。この範囲内では、スペクトルフィルタ作用および吸収の割合が最適とみなされる。
【0040】
別の材料を使用する場合、その厚さは下記の式に従って計算することができる。
【0041】
【数1】

【0042】
上式で、ZCuは銅の原子番号であり、Zはフィルム材料の(場合によっては平均の)原子番号であり、dCuは10μmから1000μmの間、特に好ましくは25μmから100μmの間である。
【0043】
本発明はさらに、本発明による局所線量計によって、10keV〜10MeVのエネルギー範囲内の光子放射の周辺線量当量H(10)を測定するための、下記のステップを含む方法に関する。すなわち、
放射レベルが高い規定の場所に局所線量計を準備するステップを含み、その際、局所線量計の回転角度は重要でない、
ある程度の期間、典型的には数日、数週間、または数か月の期間にわたって、線量測定すべき10keV〜10MeVのエネルギー範囲内の光子放射により、規定の場所において局所線量計を照射するステップを含み、つまり時間分解せず記憶しながら測定を実施し、その際、検出素子が光子放射をその期間にわたって蓄積する。この場合、まず光子放射が全ての検出素子について、周りを囲む散乱体によって散乱され、その後、1つの第1の検出素子または両方のペアの第1の検出素子上に当たる光子放射が、1つの第1の検出素子または両方の第1の検出素子の直前および直後に配置されたフィルタフィルムによって追加的にフィルタ処理される。
【0044】
測定期間の終了後、検出カードを散乱体から取り出し、別々の読取り装置で読み取る。その際、第1および第2の検出素子が別々に読み取られ、第1の検出素子上の放射線量に関する第1の測定値および第2の検出素子上の放射線量に関する第2の測定値が決定される。
【0045】
続いて第1および第2の測定値から、予め定義された加重係数を用いて加重和が形成され、加重係数はフィルタフィルムの厚さおよび材料に応じて予め定義された定数である。加重和ΣGWは下記の式に従って計算することが好ましい。
【0046】
ΣGW=f・MWPE+Cu+f・MWPE (2)
【0047】
上式で、MWPE+Cuは第1の測定値、つまり(銅)フィルタフィルムの間の第1の検出素子の測定値であり、MWPEは第2の測定値、つまりフィルタフィルムなしの第2の検出素子の測定値であり、fは第1の測定値のための加重係数であり、fは第2の測定値のための加重係数である。さらに、正規化を維持するためにf+f=1である。
【0048】
上式を用いて計算した加重和が、最終的に周辺線量当量H(10)に対する測定値として使用される。
【0049】
2つの検出器ペアを備えた検出カードが設計される場合、同様に全ての4つの検出素子を別々に読み取り、第1および第2のペアの両方の第1の検出素子の両方の測定値の平均を求める。さらに第1および第2のペアの両方の第2の検出素子の両方の測定値の平均を求める。この場合、平均化された測定値を加重和の形成に使用する。この方法は、局所線量計の方向非依存性の改善をもたらすことができる。
【0050】
全て網羅するものではないが、本発明による局所線量計の適用分野は、線形加速器(例えば出願人のところのUNILAC)、イオン源、超短レーザパルスによるレーザ(例えば出願人のところのPhelix)、ならびにイオン治療設備におけるガンマ放射およびX線放射の測定である。
【0051】
以下、例示的実施形態に基づき、図を参照して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】4つの検出素子を備えた熱ルミネセンス検出カードの概略正面図である。
【図2】TLD7777型の検出カードを備えており、円筒半体が分離された、つまり完全に開いた状態での、本発明によるH(10)周辺線量当量測定器の透視図である。
【図3】局所線量計のカード平面を横切る断面の概略図である。
【図4】検出カードなしでの、両方の分離された円筒半体の内側の概略正面図である。
【図5】検出カードなしでの、回転させて開いた位置における両方の円筒半体の概略図である。
【図6】1つのペアの第1および第2の測定素子の、フィルタ処理されない照射およびフィルタ処理された照射を可視化した局所線量計モデルの概略断面図である。
【図7】散乱体なしのTLDチップに対するシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【図8】散乱体を備えているがフィルタフィルムはなしのTLDチップに対するシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【図9】検出器法線に対して0°の角度でのプログラムFLUKAによるシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【図10】検出器法線に対して75°の角度でのプログラムFLUKAによるシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【図11】0°および75°での加重和に関する、図9および図10のプログラムFLUKAによるシミュレーション計算の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1を参照するとし、熱ルミネセンス検出カード(TLDカード)2は、基本的に長方形の細長い形状を有しており、以下の寸法、すなわち4.3cm×3.1cm×0.1cm(長さ×幅×高さ)である。検出カード2は、マグネシウムおよびチタンでドープした4つのフッ化リチウム7チップ(LiF)12、14、22、24を検出素子として備えている。この例では、別々の検出素子がそれぞれPTFEフィルム16(Teflon(登録商標)、DuPontの商標名)内に密閉されており、かつアルミニウム枠内のそれぞれの窓18内に固定されている。ただし検出素子の片面が、対応する懸架フィルム16に貼り付けられていてもよい。さらに、別々の検出素子12、14、22、24が2つの離隔した平行なペア10、20にグループ分け、各ペア10、20の両方の離隔した検出素子は、それぞれ上下に配置され、この例では検出カード2の長辺に沿って上下に配置されている。正確な識別のために、各TLDカード2は代表的なバーコード4(図2を参照)を備えている。面取りされた角6は、評価装置(いわゆる「リーダ」、図示せず)のマガジン内での正しい方向付けに役立ち、この評価装置内で、検出素子が別々に読み取られる。ここではThermo Electron GmbH社の7777型のTLDカードを使用した。
【0054】
高温の窒素流または加熱フィンガなどによって加熱すると、熱ルミネセンス結晶のトラップ内にある自由電子が新たに励起され、それによって電子は価電子帯に落ちる。その際に自由電子が光子を放出し、この光子がリーダ内の二次電子増倍器(光電子増倍器)によって検出される。その場合、トラップが様々な深さにあるので、放出される光子の頻度は温度に依存する。温度に対して光子強度をプロットすることによっていわゆるグロー曲線が得られ、このグロー曲線を用いて、線量測定された光子放射を算出することができる。
【0055】
メーカーHarshawおよびその後継会社Harshaw−Bicronの8800型または6600型の2つのリーダを使用した。基本的に、両方のリーダの機能方式は同じである。リーダは、TLDカード装入用のマガジンおよび既に読み取ったカード用のマガジンを1つずつ備えている。両方のシステムは、それぞれ1つずつ別々のコンピュータ、プリンタ、およびTLDカードを識別するための内蔵バーコードスキャナを備えている。
【0056】
TLD検出カードの使用および評価については、当業者に原理が知られているので、ここでさらに掘り下げる必要はない。
【0057】
LiFチップ12、14、22、24を備えたTLDカード2は、測定量H(10)に対して較正したとき、100keV〜1MeVのエネルギー範囲内での測定に適している。ただしこの範囲は、100keV未満の所望の低エネルギー範囲をカバーしていない。この低エネルギー範囲は、実際に、まさにこの低エネルギーの光子放射が生じ得る、例えば加速器におけるイオン源にとって重要である。
【0058】
最初に、ポリエチレン(PE)から成る散乱体30を使用し、この散乱体内に検出カード2を埋設する。散乱体30は必要な散乱寄与をもたらし、したがって線量計1は、H(10)周辺線量当量測定器として低エネルギー範囲にも用いることができる。しかしながらPE散乱体30を使用するだけでは、特に10keV〜30keVの範囲内で、所望の精度を達成するのにまだ十分でないことが分かった。
【0059】
図2を参照すると、本発明による局所線量計1が、完全に開いた形で示されている。本発明ではまず、真ん中で切り開かれ、したがって2つの同じ円筒半体32a、32bに切り分けられた円筒形のPE散乱体30を使用する。PE円筒30は、5cmの直径および6cmの高さを有している。両方の半体32a、32bの中央の座繰り部36a、36bは、TLDカード2用の必要なスペースをもたらし、これによって生じる凹部内にTLDカードが嵌め込まれる。穴42aおよびネジ溝42bに渡された2本のプラスチックネジによって、両方の円筒半体32a、32bを取外し可能に相互に結合することができ、両方の凹部によって形成された空洞を一時的に封鎖することができる。あるいは、PE円筒30は、脇からの挿入用の縦穴を備えることもでき、この挿入用縦穴内に、TLDカード2が押し込まれる。局所線量計はさらに、PE散乱体30に付属した懸架保持具を備えることができ、この懸架保持具は、空中での開放的な測定を可能にする。
【0060】
両方の円筒半体32a、32bの凹部36a、36b内には、50μm厚の銅フィルム52a、52b、62a、62bが、TLDカード2の上側の両方の熱ルミネセンスチップ12、22の高さに貼り付けられている。こうして、両方のTLDチップペア10、20の加重測定値から、本発明による改善された応答能力を達成することができる。
【0061】
左に示した円筒半体32aでも同様に2つの50μm厚の銅フィルムが貼り付けられているが、これらの銅フィルムは図2の図ではTLDカード2によって覆い隠されている。
【0062】
図3を参照すると、検出カード2が中央の空洞37内に埋設されており、外から入射する光子放射は、カード法線Nに対する角度に応じて、PE散乱体を有意の長さにわたって、例えば20mmから34mmの間で横断しなければならない。
【0063】
図4を参照すると、フィルタフィルム52a、52b、62a、62bはそれぞれ、両方の散乱体半体32a、32bのそれぞれの内側38a、38bで、それも検出カード用のそれぞれの凹部36a、36b内に固定されている。フィルタフィルム52a、52b、62a、62bは散乱体の内部で、散乱体30の対称軸Sに関して対称に、上半分内に配置されている。したがって両方の上側の第1のTLDチップ12、22はそれぞれ、組み立てた状態では2つの銅フィルタフィルム52a、52bまたは62a、62bの間にサンドイッチ状に挟まれており、その際、銅フィルタフィルム52a、52b、62a、62bは両方の第1のTLDチップ12、22を完全に両面で覆っている。両方の下側の第2のTLDチップ14、24はフィルタフィルムの間には配置されていない。断面38a、38bおよび検出カード2は対称平面を形成しており、この対称平面内に検出カード2が存在しており、つまり対称平面はカード平面Eと重なっている。フィルタフィルム52a、52b、62a、62bは、両方の円筒半体32a、32b上で、それぞれ対称軸の左と右に、特に対称軸に関して対称に配置されている。
【0064】
図5は、検出カード2の嵌込みおよび取出しのために、回転軸の周りで稼働状態に対して180°回転させた両方の散乱体半体32a、32bを示している。
【0065】
図6は、閉じた局所線量計1のモデルの両方のペアのうち一方の、フィルタ処理される第1のTLDチップ12およびフィルタ処理されない第2のTLDチップ14を、カード平面Eに垂直に、かつ対称軸Sに平行に切断した図で(原寸に比例せず概略的に)示している。線量測定すべき光子放射Pは、まずどちらのTLDチップ12、14についても、共通のPE散乱体30を横断する。この放射は、次いで(PE散乱体による以外は)フィルタ処理されずに第2のTLDチップ14(左)に当たり、前方の銅フィルタフィルム52aによってフィルタ処理されて、この図では横に配置された第1のTLDチップ12(右)に当たる。
【0066】
シミュレーションプログラムEGS4により、まず線量応答能力に関してシミュレーション計算を実施した。
【0067】
簡略化の理由から最初は円筒形のモデルを作成した。線量計の中央に、PE散乱体30に取り囲まれた光子放射感受性検出素子がある。TLDチップ12、14が、この例では8.55mmの検出体積でモデル化されている。光子Pの輸送は、開始エネルギー(10keV〜10MeV)から下に5keVのエネルギーまで行う。電子の輸送は12keVの運動エネルギーまで追跡する。電子輸送を放棄しないのは、電子が検出器の有効体積から外へ輸送可能だからである。これは、検出体積の外から中へ電子を輸送することで部分的に補償することができる。ただし、散乱体30および検出素子12、14が様々な材料から成るので、とりわけ比較的高い光子エネルギーによる照射の場合には、これは正確に計算しなければならない。信号は、KERMA(=kinetic energy released in matter)として計算される。この計算では、気体中での加熱プロセス、光放出、および光電子増倍器による光収集を含む評価手順全体を個々には考慮しない。蓄積されるエネルギーだけを、記録された信号の尺度として用いる。放射輸送中に、一次光子ごとにTLD素子内に蓄積されるエネルギーを計算し、棒グラフにする。この棒グラフから、入射光子ごとの蓄積される全エネルギーを計算する。
【0068】
計算効率を改善するために、モデル化したTLDチップの有効体積は、現実のTLDチップ12、14の有効体積(0.39mm〜0.91mm)より大きな体積(6.7mmまたは8.55mm)で計算する。しかしこの簡略化により、線量計1の応答能力の原理的なエネルギー依存性が計算において誤って現れることはない。この計算は、137Cs源のガンマ放射(661keV)に対する応答に対して正規化されている。
【0069】
最初に参照基準として、散乱体30なしのTLD素子12、14による場合を計算した。この結果は図7を見ると分かる。
【0070】
すなわち図7は、線量応答能力に関するシミュレーション計算の結果を示している。実線72は標準であるH(10)−ICRU57を示しており、点74はTLDチップだけ、つまり散乱体30なし、フィルタフィルム52a、52b、62a、62bなしでシミュレートした結果値を示している。測定量H(10)について計算した応答能力74が、15keV〜10MeVのエネルギー範囲内で示されている。シミュレーション値74が、100keV未満および1MeV超で、標準曲線72H(10)から大きく逸脱していることが認められる。特に、エネルギーが100keV未満の場合、線量の最高2桁までの過大評価が生じ、一方、エネルギーが1MeV超の場合は、エネルギーが増えるにつれて線量が過小評価されている。
【0071】
図8は、TLDチップ14の周りに半径24.0mmのPE散乱体30(0.92g/cm)を備えたTLDチップ14に関するシミュレーション計算の結果を示している。このシミュレーション値は76で示されている。10keV〜約2MeVのエネルギー範囲の応答能力に関しては既に、72で示した、H(10)に関する相対的な線量変換関数の推移と比較的よく一致している。
【0072】
ただし、依然として約20keV〜40keVのエネルギー範囲内で線量が過大評価されていることに留意すべきである。約3MeV以降は線量表示値の過小評価が生じている。それでも散乱体なしのTLDチップの場合よりは少ない。図8では二重対数表示されているので逸脱が比較的小さい印象を与えているが、依然として満足できない測定精度を意味していることに留意すべきである。この逸脱は、本発明によって改善することができる。
【0073】
さらなるシミュレーションのために、プログラムFLUKAを用い、改善したシミュレーション計算を実施し、実験によるテスト測定によって正しさを証明した。このシミュレーション計算の結果は図9〜図11に示されている。
【0074】
図9は、0°での、つまり検出カード2の法線Nに平行な、FLUKA計算の結果84、88を示している。Y軸にはCs137について正規化された相対的な応答能力が、光子放射エネルギー(X軸)の関数として示されている。計算は、PE散乱体30内のTLDチップについて、1回は銅フィルタフィルム(50μm)52a、52b、62a、62bありで、一回はなしで、それぞれ実施した。この場合も、フィルタフィルムなしの曲線84では、約40keV未満のエネルギー範囲内で過剰上昇が認められ、この過剰上昇は最大で、約20keVでの1.6倍超である。これとは異なり、銅フィルタフィルムを備えた場合の曲線88は、40keV未満のエネルギー範囲内で明らかな過小評価を示している。つまりフィルタフィルムは、低い光子エネルギー範囲内での相対的な応答能力を、より高い光子エネルギーの場合に比べて抑制しており、この抑制は光子の「境界エネルギー」Exから始まる。境界エネルギーExは、15keVから100keVの間にあるはずである。この例では、例えばEx=30keVである。したがってフィルタフィルムは、フィルタ処理されるTLDチップ12の相対的な応答能力が、境界エネルギーExから少なくともCs137標準値までの間の範囲内では比較的平坦に推移し、境界エネルギーEx未満では著しく低下するように選択される。
【0075】
図10は、図9に対応しているが、検出カードの法線に対して75°の角度での結果を示している。この場合も、銅フィルタフィルムなしの値94については、40keV未満で明らかな過剰上昇が認められ、しかもこの過剰上昇は10keVでほぼ100%である。銅フィルタフィルムを備えた場合の値98は、0°の場合より少し平坦な推移を示している。
【0076】
ここで、本発明によれば、銅フィルタフィルムを備えた場合のシミュレーション計算の値88または98(MWPE+Cu)と銅フィルタフィルムのない場合のシミュレーション計算の値84または94(MWPE)を、下記の方程式に従って加重して加算する。
【0077】
ΣGW=0.45・MWPE+Cu+0.55・MWPE (3)
【0078】
つまり加重係数はf=0.45およびf=0.55である。
【0079】
図11は、方程式(3)に従って計算した、図9および図10のテスト結果の加重和によって得られる曲線を示しており、つまり法線Nに対して0°の角度に関する曲線(符号:104)も、法線Nに対して75°の角度に関する曲線(符号:108)も示している。この加重和を、本発明による局所線量計の「加重応答能力」と呼ぶこともできる。すなわちY軸には、Cs137について正規化された相対的な加重応答能力、0°に関し104、および75°に関し108 が、光子放射エネルギー(X軸)の関数として示されている。
【0080】
0°における加重応答能力104は、10keVから約3MeVの間のエネルギー範囲全体における逸脱が最大で標準から約25%であり、特に30keV未満のエネルギー範囲内では、図9でのPE散乱体を備えているがフィルタフィルムはなしの曲線84より逸脱が明らかに少ないことが認められる。
【0081】
75°における結果108についてはさらに良い精度は認められる。75°における逸脱は、20keVから40keVの間で10%未満であり、10keVから20keVの間で20%未満である。
【0082】
したがってフィルタフィルムのスペクトルフィルタ作用の選択は、ペア10の両方の検出素子12、14の、正規化され(相応に適応させた加重係数で)加重された応答能力が、少なくとも10keV〜30keVの範囲内では、フィルタフィルム52a、52bなしの、つまり散乱体30だけを備えた第2の検出素子14の相対的な応答能力より1に近くなる(好ましくは、特定の角度、例えば0°および/または75°において30%未満の逸脱で)ように行われる。
【0083】
測定が、このようなテスト実験の場合にしか角度選択的に実施されないことは明らかである。現実の稼働では、全ての角度が同時に測定され、区別されず、したがって局所線量計1は0°〜360°の可能な全て角度でできるだけ正確な測定を可能にするべきである。テスト結果は、本発明が、PE散乱体30だけを備えた限定された測定に比べてその点で有利であることを証明している。
【0084】
要約すると、測定量H(10)72に対して較正したとき、通常の線量計LiFチップカード2が、100keV〜1MeVのエネルギー範囲内の放射を正しく測定するのに適していることが確認できる。しかし線量計1をX線放射の放射源で使用する場合は、たいていは、全線量のうちのかなりの部分が、30keV未満のエネルギーの光子によって生じると推測できる。これに対してはPE散乱体を使用してもなお所望の精度はもたらされない。それだけでなく加速器では、しばしば1.3MeV超のエネルギーのガンマ放射がある。本発明による局所線量計1は、このエネルギー範囲内でもX線放射およびガンマ放射を改善された精度で測定することができる。このために、散乱体に加えてスペクトルフィルタフィルム52a、52b、62a、62bを第1のTLDチップ12、22の前方および後方に取り付ける。散乱体30はポリエチレンから成り、散乱体の層厚(円筒半径)は、TLDチップ上で少なくとも24mmである。フィルタフィルム52a、52b、62a、62bは、例えば50μm厚の銅フィルムとして形成され、各TLDチップペア10、20のそれぞれ一方のTLDチップ12、22上にだけ取り付けられ、これによりこのTLDチップ12、22は、とりわけ低い光子エネルギーで比較的小さな応答能力を有するようになる。その際、各ペアの両方のTLDチップ12、14または22、24の測定値の加重和が、最適化された応答能力をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子放射(P)のための散乱体(30)と、
測定すべき光子放射(P)に対して同じ応答挙動を有する光子放射感受性検出素子(12、14)の少なくとも1つの第1のペア(10)を備えた検出カード(2)と
を具備する、光子放射(P)の周辺線量当量(H(10))を測定するための局所線量計(1)であって、
前記検出カード(2)がカード平面(E)を定義しており、前記両方の検出素子(12、14)が前記検出カード(2)上のカード平面(E)内で並んでまたは上下に配置されており、散乱体(30)および検出素子(12、14)から成る構成体が、カード平面(E)に関して基本的に鏡面対称に組み立てられており、したがって前記両方の検出素子(12、14)が、光子放射に対しカード平面(E)の両側で同様の感受性を有し、これによりほぼ360°の角度範囲での光子放射(P)の測定を達成し、
前記両方の検出素子のうち第1の検出素子(12)が2つのフィルタフィルム(52a、52b)の間に位置決めされており、したがって前記第1の検出素子(12)上に当たる光子放射(P)は、光子放射(P)が前記第1の検出素子(12)上に前方から当たるかまたは後方から当たるかに応じて、前記一方のフィルタフィルム(52a)または前記もう一方のフィルタフィルム(52b)によってフィルタ処理され、前記両方のフィルタフィルム(52a、52b)がそのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されており、これにより前方および後方からの光子放射(P)に対して同じスペクトルフィルタ作用を達成し、
前記両方の検出素子のうち第2の検出素子(14)が、前記第1の検出素子(12)のように前記フィルタフィルム(52a、52b)の間に配置されてはおらず、したがって前記第2の検出素子(14)上に当たる光子放射(P)が、前記第1の検出素子(12)上に当たるスペクトル的にフィルタ処理された光子放射(P)とは異なるスペクトル分布を有する、局所線量計(1)。
【請求項2】
前記検出カード(2)が、前記第1のペア(10)と同一の、光子放射感受性検出素子(22、24)の第2のペア(20)を備えており、
前記第2のペア(20)の前記両方の検出素子のうち第1の検出素子(22)が2つのフィルタフィルム(62a、62b)の間に位置決めされており、したがって前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)上に当たる光子放射(P)は、光子放射(P)が前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)上に前方から当たるかまたは後方から当たるかに応じて、前記一方のフィルタフィルム(62a)または前記もう一方のフィルタフィルム(62b)によってフィルタ処理され、前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)の前記両方のフィルタフィルム(62a、62b)がそのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されており、これにより前方および後方からの光子放射(P)に対して同じスペクトルフィルタ作用を達成し、前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)の前記フィルタフィルム(62a、62b)と前記第1のペア(10)の前記第1の検出素子(12)の前記フィルタフィルム(52a、52b)が、そのスペクトルフィルタ作用に関して同一に形成されており、
前記第2のペア(20)の前記両方の検出素子のうち第2の検出素子(24)が、前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)のように前記フィルタフィルム(62a、62b)の間に配置されてはおらず、したがって前記第2のペア(20)の前記第2の検出素子(24)上に当たる光子放射(P)が、前記第2のペア(20)の前記第1の検出素子(22)上に当たるスペクトル的にフィルタ処理された光子放射(P)とは異なるスペクトル分布を有する、請求項1に記載の局所線量計(1)。
【請求項3】
前記検出素子(12、14、22、24)が熱ルミネセンス検出素子である、請求項1または2に記載の局所線量計(1)。
【請求項4】
前記検出素子(12、14、22、24)がフッ化リチウム結晶の熱ルミネセンス検出素子である、請求項3に記載の局所線量計(1)。
【請求項5】
前記散乱体(30)が、基本的に炭素原子および水素原子だけから成るプラスチックから作製されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項6】
前記散乱体(30)がポリオレフィンから作製されている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項7】
前記散乱体(30)が、カード平面(E)を横切る少なくとも1つの平面において回転対称である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項8】
前記第1および第2のペア(10、20)、検出素子(12、14、22、24)が、円筒軸(S)に関して鏡面対称に配置されている、請求項2および7に記載の局所線量計(1)。
【請求項9】
前記散乱体(30)が50mm±5mmの直径を有する、請求項7または8に記載の局所線量計(1)。
【請求項10】
前記散乱体(30)が、カード平面(E)に沿って2つの半体(32a、32b)に分かれており、前記両方の半体(32a、32b)が、開いた状態と閉じた稼働状態の間で互いに相対的に移動可能であり、前記両方の半体(32a、32b)が、閉じた稼働状態では、取外し可能に相互に結合され、かつ前記検出カード(2)を埋設する内部の空洞を形成し、開いた状態では前記検出カード(2)を嵌め込みおよび取り出すことができる、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項11】
前記両方の半体(32a、32b)が、カード平面(E)に垂直な軸の周りで回転可能に相互に結合されており、開いた状態と閉じた稼働状態の間で互いに相対的に回転可能であり、これにより稼働状態では前記検出カード(2)が前記散乱体(30)の全面的に閉じた空洞内に閉じ込められ、開いた状態では前記検出カード(2)を嵌め込みおよび取り出すことができる、請求項10に記載の局所線量計(1)。
【請求項12】
前記両方のフィルタフィルム(52a、52b)が、前記両方の半体(32a、32b)のそれぞれにおいて、稼働状態において前記第1の検出素子が前記両方の半体(32a、32b)の間の空洞内に埋設されているときに前記第1の検出素子(12)がくる位置に固定されている、請求項10または11に記載の局所線量計(1)。
【請求項13】
前記両方の半体(32a、32b)が、稼働状態では、基本的にはスペクトル的に効果のない保護ケーシングによって取り囲まれている、請求項10、11、または12に記載の局所線量計(1)。
【請求項14】
前記保護ケーシングがプラスチックから成る、請求項13に記載の局所線量計(1)。
【請求項15】
前記散乱体(30)が金属ハウジングには取り囲まれてない、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項16】
前記フィルタフィルム(52a、52b、62a、62b)が、原子番号12以上の材料から作製されている、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項17】
前記フィルタフィルム(52a、52b、62a、62b)が厚さdを有しており、前記厚さが、下記の式
【数1】

に従って計算され、式中、ZCuは銅の原子番号であり、Zはフィルム材料の原子番号であり、dCuは10μmから1000μmの間である、請求項16に記載の局所線量計(1)。
【請求項18】
前記フィルタフィルム(52a、52b、62a、62b)が金属フィルムである、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の局所線量計(1)。
【請求項19】
前記フィルタフィルム(52a、52b、62a、62b)が銅フィルムである、請求項18に記載の局所線量計(1)。
【請求項20】
前記銅フィルムが10μmから1000μmの間の厚さdを有する、請求項19に記載の局所線量計(1)。
【請求項21】
特に請求項1乃至20のいずれか1項に記載の局所線量計(1)によって、10keV〜10MeVのエネルギー範囲内の光子放射(P)の周辺線量当量(H(10))を測定するための方法であって、
放射に暴露された規定の場所に前記局所線量計(1)を準備し、その際、前記局所線量計(1)が、光子放射(P)のための散乱体(30)と、前記散乱体(30)の内部の、測定すべき光子放射(P)に対して同じ応答挙動を有する光子放射感受性検出素子(12、14)の少なくとも1つの第1のペア(10)を備えた検出カード(2)とを具備しており、前記両方の検出素子のうち第1の検出素子(12)が、2つのフィルタフィルム(52a、52b)の間に位置決めされており、
ある程度の期間にわたって、少なくとも10keV〜10MeVのエネルギー範囲内の光子放射(P)により、前記規定の場所での前記局所線量計(1)を照射し、その際、前記第1の検出素子(12)上に当たる光子放射(P)が、前記第1の検出素子(12)の前方および後方に配置された前記フィルタフィルム(52a、52b)によってフィルタ処理され、
照射期間後に前記局所線量計(1)を読み取り、その際、前記第1および第2の検出素子(12、14)が別々に読み取られ、前記第1の検出素子(12)上の放射線量に関する第1の測定値および前記第2の検出素子(14)上の放射線量に関する第2の測定値が決定され、
前記第1および第2の測定値から、前記フィルタフィルム(52a、52b)の厚さおよび材料に応じて予め定義された加重係数f、fを用いて加重和ΣGWを形成し、
前記加重和を周辺線量当量H(10)に関する測定値として使用する、方法。
【請求項22】
加重和ΣGWが下記の式に従って計算され、ΣGW=f・MWPE+Cu+f・MWPE、式中、MWPE+Cuは第1の測定値であり、MWPEは第2の測定値であり、fは第1の測定値のための加重係数であり、fは第2の測定値のための加重係数であり、f+f=1であり、加重係数fおよびfが前記フィルタフィルム(52a、52b)の厚さおよび材料に依存する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記検出カード(2)が、測定すべき光子放射(P)に対して同じ応答挙動を有する光子放射感受性検出素子(22、24)の第2のペア(20)を備えており、前記第2のペア(20)の前記両方の検出素子のうち第1の検出素子(22)が、2つのフィルタフィルム(62a、62b)の間に位置決めされており、
照射期間後に前記局所線量計(1)を読み取り、その際、前記第1のペア(10)の前記第1および第2の検出素子(12、14)ならびに前記第2のペア(20)の前記第1および第2の検出素子(22、24)がそれぞれ別々に読み取られ、かつ第1の測定値が、前記第1および第2のペア(10、20)のそれぞれ前記第1の検出素子(12、22)の両方の測定値の平均を求めることによって形成され、第2の測定値が、前記第1および第2のペア(10、20)のそれぞれ前記第2の検出素子(14、24)の両方の測定値の平均を求めることによって形成され、
前記加重和が、第1および第2の平均化された測定値から形成される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
加重和ΣGWが下記の式に従って計算され、ΣGW=f・MWPE+Cu+f・MWPE、式中、MWPE+Cuは第1の平均化された測定値であり、MWPEは第2の平均化された測定値であり、fは第1の平均化された測定値のための加重係数であり、fは第2の平均化された測定値のための加重係数であり、f+f=1であり、加重係数fおよびfが前記フィルタフィルムの厚さおよび材料に依存する、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−503590(P2011−503590A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533478(P2010−533478)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009416
【国際公開番号】WO2009/062639
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(508021624)ゲーエスイー ヘルムホルッツェントゥルム フュア シュヴェリオネンフォルシュンク ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】