光学アクセラレータ及び汎用の光学渦巻
変調された光学渦巻を発生させる方法及び装置に関する。光学渦巻は制御されたトルクすなわち制御された力のパターンを、寸法が数ナノメータから数百マイクロメータの物体に加えるような様々な用途に使用することができる。光学渦巻の多数の光学モードを、物体を操作する上で望ましいほぼ全ての要求に適合するように作り出すことができる。さらに、光ビームの波面を特別な方法で修正して、メゾスコピックな材料を取り扱うために有用な新しい種類の光トラップを作ることができる。修正されたビームが焦点に入射されると、結果として生じた光トラップが光軸に対して横向きの力を作用する。この力はナノクラスタ、コロイド状の粒子、及び生物学的細胞などのメゾスコピックな物体を移送するために使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年3月4日に出願された米国仮特許出願第60/451,886号及び2002年9月16日に出願された米国仮特許出願第60/411,132号に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、グラント番号DMR−9880595のもとに国立科学財団によって、またグラント番号DMR−9730189のもとに国立科学財団の助成金によって与えられた契約番号UCHI−982/994による米国政府の支援によりなされたものである。
【0003】
[技術分野]
本発明は、物体を制御するための光トラップ又は光ピンセットに関し、特に、光軸に対して横方向に延びた経路に沿って物体に制御された力を加える光トラップに関する。本発明は、広くは、光学渦巻(optical vortex)を生成及び使用するための方法及び装置にも関係し、より詳細には、各種の位相マスクの1つを使用して、商業的に利用及び応用するために目的物に対して正確に制御されたトルクを印加するために選択された光学渦巻を確立することである。
【背景技術】
【0004】
液体の中に分散された小さな物体を操作するためにホログラフィック光トラップを使用できることは従来から周知である。例えば、材料の移送は、物理的なぜん動性ポンプの状態に似た、ホログラフ的に定義されたトラップのマニホールドを順次用いることにより、ぜん動性ポンピングに類似した過程によって行うことができる。そのような従来の方式では、いずれも、光軸に向かって横方向に移送することは、1つの光学強度パターンによって行うことはできず、3つ以上の別個のパターンの光トラップを投射する必要がある。一般化された光トラップ(光学渦巻として一般に知られている)に基づいた他の方式は、光軸に対して横方向の光のリング上に小さな物体をトラップし、これらのリングの周りの円形の軌道内で物体を駆動する。それによって生じた動きを使用して液体の流れを駆動し、これにより、光軸に対して横方向の面内において他の物体を移送することができる。そのような間接的な光学駆動方式には、光学渦巻の動作を助長する条件と、十分に広がりのある幾何的配置と、十分に遅い流速とが必要である。
【0005】
本発明の改良を最も良く理解してもらうために、図1は従来技術の方法及びシステムを示す。これらの方法及びシステムは、光学収差を特徴付けまたそれを取り除く本発明の特徴の利点に対して使用できる。図1の従来技術の光ピンセットシステム10では、単一の光ビーム12によって加えられた光学勾配力(optical gradient force)が、媒体16の中に分散された小さな誘電体粒子14を制御可能に操作するために使用される。この媒体16の光周波数における屈折率nmは、粒子14の屈折率よりも小さい。光学勾配力の性質は周知であり、またその原理は反射、吸収及び誘電率が低い粒子を操作できるように一般化されていることも同様に良く理解されている。これらの技術のいずれも以下に説明する本発明との関連で実行することができ、以下に用いる専門用語である光ピンセット、光トラップ及び光学勾配力のトラップの使用を含むものである。
【0006】
光ピンセットのシステム10は、粒子を操作するために必要とされる光トラッピング効果を実現するために必要な力を加えることができる光ビーム12(レーザ光など)を使用することによって利用される。従来型の光ピンセット10の目的は、収束光学素子(対物レンズ20など)の後部開口部24の中心に1つ以上の光ビームを投影することである。図1に示すように、光ビーム12の幅はWであり、光軸22に対する入射角はφである。光ビーム12は対物レンズ20の後部開口部24に入射し、前部開口部26から出射して、結像体(imaging volume)32の焦点面30内の焦点28にほぼ収束する。ここで、焦点28は光トラップ33の近くにある。一般に、どのような収束形光学システムも、光ピンセットのシステム10に利用することができる。
【0007】
光ビーム12がコリメートされたレーザ光であり、その軸が光軸22に一致する場合、この光ビーム12は、対物レンズ20の後部開口部24に入射し、結像体32内の対物レンズの焦点面30の中心点cの焦点に届けられる。光ビーム12の軸が光軸22に対して角度φだけ変位される場合、ビームの軸31及び光軸22は後部開口部12の中心点Bで一致する。この変位により、対物レンズ20の角度倍率に依存する量だけ視野に沿って光トラップの移動が可能にされる。2つの変数、すなわち、角度変位φ及び光ビーム12の変化する収束度を用いて、結像体32内の選択された位置に光トラップを形成することができる。複数の光ビーム12を異なる角度φ及び異なるコリメーションの度合いで後部開口部24に加えることにより、複数の光トラップ33を様々な位置に配列することができる。
【0008】
三次元の中で光トラッピングを実行するには、トラップされる粒子上で作られた光学勾配力が、光の散乱及び吸収から生じる他の放射圧力を超えなければならない。一般に、このためには、後部開口部24において光ビーム12の波面が適当な形状を有することが必要である。例えば、ガウス形TEM00の入射レーザ光については、ビームの直径wは、後部開口部24の直径にほぼ一致する必要がある。より一般的には、ビームプロファイル(ラゲール−ガウスのモードのような)の比較可能な条件を求めることができる。
【0009】
図2の別の従来技術のシステムでは、光ピンセットシステム10は、対物レンズ20の視野にわたって光トラップ33を移動することができる。望遠鏡34又は他の中継光学系は、レンズL1及びL2から構成され、図1の従来技術のシステムにおける中心点Bと光学的に共役な点Aを確立する。本発明の他の形態では、中継光学系は収差を最小にするために、複数の光学素子といった他の従来技術を利用することができる。図2のシステムでは、点Aを通過する光ビーム12は点Bも通過するため、光ピンセットシステム10を実現するための基本的な要求事項に適合している。コリメーションの度合いは、レンズL1及びL2を図2に示すように配置することによって維持される。さらに、望遠鏡34の転送特性(transfer property)は、対物レンズ20の後部開口部24の面において光ビーム12の角変位とその幅wを最適にするように選択することができる。前述したように、一般に、幾つかの光ビーム12を用いて幾つかの関連する光トラップを形成することができる。そのような複数のビーム12は、複数の独立した入射ビーム又は従来の反射及び/又は屈折光学素子によって操作された1つのビームから作り出すことができる。
【0010】
図3に示した他の従来のシステムでは、任意の光トラップのアレイを形成することができる。回折光学素子40は、実質的に、対物レンズ20の後部開口部24と共役の面42内に配置される。明確にするために、回折された出力ビーム44は1つしか示してないが、複数のそのようなビーム44を回折光学素子40によって作ることができることを理解されたい。回折光学素子40に入射する光ビーム12は、この回折光学素子40の特性に応じたパターンの出力ビーム44に分割される。それぞれの出力ビームは、点Aから放射する。このため、出力ビーム44も、前述した下流の光学素子の結果として点Bを通過する。
【0011】
図3の回折光学素子40は入射する光ビーム12に対して直角になるように示されているが、他の多くの構成も可能である。例えば、図4の従来技術のシステムでは、光ビーム12は光軸22に対して傾斜角βで到来し、回折光学素子40に対して直角ではない。この実施形態では、点Aから放射された回折ビーム44は、結像体32の焦点面52の中に光トラップ50を形成する(図1に最も良く示されている)。光ピンセットシステム10のこの構成では、入射した光ビーム12の回折されない部分54を光ピンセットシステム10から取り除くことができる。従って、この構成によりバックグラウンド光の少ない処理が可能になり、光トラップの形成における効率及び有用性が改良される。
【0012】
この回折光学素子40は、入射した光ビーム12を事前に選択された所望のパターンに分割するコンピュータ生成によるホログラムを含むことができる。そのようなホログラムを図3及び図4の光学素子の残りの素子と結合することにより、任意のアレイを作ることができる。これらのアレイでは、回折光学素子40を使用して、各回折ビームの波面を別々に成形する。このため、光トラップ50の三次元の配列を形成するために、光トラップ50を焦点面52の中だけでなく、別の位置にも配置することができる。
【0013】
図3及び図4の光ピンセットシステム10には、回折ビーム44を収束して光トラップ50を形成するために、対物レンズ20(又はフレネルレンズのような他の類似の機能的に等価な光学素子)などの収束光学素子も含まれる。さらに、望遠鏡34又は他の等価の転送光学系(transfer optics)は、上記の後部開口部24の中心点Bに対して共役である点Aを作る。回折光学素子40は、点Aを含む面内に置かれる。
【0014】
別の従来技術のシステムの形態では、望遠鏡34を使用しないで、任意の光トラップ50のアレイを作り出すことができる。そのような実施形態では、点Bを含む面内に回折光学素子40を直接配置することができる。
【0015】
光ピンセットシステム10では、静的な又は時間依存性の回折光学素子40のいずれも使用することができる。動的なすなわち時間依存性の素子については、時間的に変化する光トラップ50のアレイを作り出すことができ、これらのアレイをそのような特徴を利用するシステムの一部とすることができる。さらに、これらの動的な光学素子40を使用して、粒子及びマトリックス媒体を互いに相対的に能動的に移動させることができる。例えば、回折光学素子40を、コンピュータ生成のホログラフィックパターンを入射光に転写する液晶の位相変調アレイとすることができる。
【0016】
図5に示された別の従来技術のシステムでは、システムは光ピンセットのトラップ50を連続的に移動できるように構成することができる。ジンバルに搭載したミラー60は、その回転中心を点Aに置いて配置される。光ビーム12はその軸が点Aを通過するようにミラー60の表面に入射し、後部開口部24に投影される。ミラー60が傾斜することにより、ミラー60に対する光ビーム12の入射角が変化され、この機能を使用して結果として光トラップ50を移動することができる。第2の望遠鏡62がレンズL3及びL4から形成されて、点Aと共役の点A’を作る。点A’に置かれた回折光学素子40が次に、回折されたビーム64のパターンを作り出す。それぞれの回折されたビームは点Aを通り、光ピンセットアレイのシステム10内にピンセットトラップ50の1つを形成する。
【0017】
図5の実施形態の動作に当たっては、ミラー60がピンセットアレイ全体を一体として移動させる。この方法は光ピンセットのアレイを静止した基板と精密に位置合わせして、小振幅で急速な振動の変位によって光トラップ50を動的に硬化させるこのに有用であり、また一般的な移動能力が要求されるどのような用途に対しても有用である。
【0018】
試料ステージ(図示せず)を移動することにより又は望遠鏡34を調整することにより、光トラップのアレイ50を試料ステージに対して縦方向に移動することもできる。さらに、試料ステージを移動することによって、光ピンセットのアレイを試料に対して横方向に移動することもできる。この機能は、対物レンズの視野の範囲を超えた大規模な移動に対して特に好都合である。
【0019】
図6に示した別の従来技術のシステムでは、光学システムは、光ピンセット10によってトラップされた粒子の像を目視観察することができるように構成される。ダイクロイックビームスプリッタ70又は他の等価な光学ビームスプリッタが、光ピンセットシステム10の対物レンズ20と光学系(optical train)との間に挿入されている。図示した実施形態では、ビームスプリッタ70は、光ピンセットのアレイを形成するために使用される光の波長を選択的に反射し、他の波長を透過させる。このため、光トラップ50を形成するために使用される光ビーム12は高い効率で後部開口部24に送られ、一方像を形成するために使用される光ビーム66は、結像光学系(図示せず)を通過できる。
【0020】
光トラップの従来技術の用途が、図7A及び図7Bに示されている。回折光学素子40は、1つの光ビーム12と相互作用してコリメートされたビームの4x4のアレイを作り出すように設計される。532nmで動作する100mWの倍周波数ダイオードポンプ式Nd:YAGレーザは、光ビーム12に対してガウス形TEM00形状を提供する。図7Aでは、アレイの16個の主光ピンセット10の中でトラップされた16個のシリカの球体により後方散乱されたレーザ光によって、視野が部分的に照射されている。直径が1μmの球体が水中に分散され、顕微鏡のガラスのスライドと厚さが170μmのカバーガラスとの間の試料体積の中に配置される。ピンセットのアレイはカバーガラスを通して上方に投影され、カバーガラスの8μm上側で顕微鏡の上側のスライドの20μm以上下側の面内に配置される。シリカの球体は、16個の光ピンセット10のそれぞれの中に三次元で安定してトラップされる
【0021】
図7Bでは、光ピンセット10(トラップ)が消滅された1/30秒後において、球体がトラップ側から拡散する時間の前の、球体が光学的に組織化された配列が示されている。
【0022】
その結果、光ピンセット及び関連する光トラップは、強く収束された光ビーム内の強度勾配が及ぼす力を使用して、三次元で小さな物体の体積をトラップし、移動し、又は変更する。光トラッピングシステムの光学系に不正確な位置合わせ及び不完全な特性がある場合は、収差がトラッピングビームの中に取り込まれ、その強度勾配が減少され、またこれにより、その物体を操作する能力が低下される。一般的な方法では、光トラッピングシステムの中の光学素子は、光学結像システムを用いて収束された光トラップの外見上の品質を観察しながら、各素子の位置を組織的に調整することによって位置合わせされる。位置合わせが良好な光ピンセットは、焦点が正確に合い対称的になり、焦点が外れた場合は均一で対称的に広がる。この方法は、単純でかなり効率的であるが、一般的には最適な性能を実現することはなく、また光学系の位置合わせの定量的な評価を提供しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、特別な方法で光ビームの波面を変更する方法を含み、メゾスコピックな材料を操作するために有用な新しい種類の光トラップを作り出す。変更されたビームが焦点に導かれると、結果として生じた光トラップは光軸に対して横方向の力を作用する。この力を使用して、ナノクラスタ(nanocluster)、コロイド状粒子、及び生物学的細胞などのメゾスコピックな物体を移送するために使用できる。この新しい種類のトラップは、波面が少なくともほぼ平面であるレーザビームのような従来の光ビームから作られる。開口数が十分に大きいレンズを用いてそのようなビームを収束させると、光ピンセットとして周知の単一ビームの勾配力を有する光トラップを結果として生ずる。位相変調
【数1】
を用いて波面の位相を変更することにより、収束ビームの特性またこれにより結果として生じた光トラップの特性を変えることができる。このベクトル
【数2】
は、伝搬方向に対して横向きの面内のビームの軸(光軸)に対する位置である。
【0024】
本発明の目的は、複数の収差の無い光トラップを確立するための改良された方法及びシステムを提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、光学系における収差を補正するための方法を使用する、新規な方法及びシステムを提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、光学系における収差を補正するためにコンピュータのソフトウェアを使用する、新規な方法及びシステムを提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、小さな粒子の取扱いに関連した各種の商業的な用途に対して、複数のほとんど収差がない光トラップを確立するための改良された方法及びシステムを提供することである。これらの用途には、フォトニック回路の製造、ナノ複合材料(nanocomposite material)の用途、電子部品の製造、光電子素子、化学的及び生物学的なセンサアレイ、ホログラフィックデータ記憶マトリックスの組立て、組合せ化学の応用例(combinatorial chemistry application)の製造、コロイド状の自己集合の促進、及び生体物質の取扱いが含まれる。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、様々な商業的な用途の要求事項に適合するために、収差に対して補正された光学勾配の場の時間的及び空間的に変化する構成を構築するための、改良された方法及びシステムを提供することである。
【0029】
さらに、本発明の目的は、収差の効果を補正するために、光トラップのパターンに加えられるコード化された位相シフトパターンを使用するための新しい方法及びシステムを提供することである。
【0030】
本発明のさらに別の目的は、ほとんど収差のない静的及び/又は動的な光トラップを形成するために、1つの入力用レーザビーム、回折光学素子、収束レンズ、及びコード化された収束補正パターンを使用する改良された方法及びシステムを提供することである。
【0031】
本発明のまたさらに別の目的は、様々な商業的な用途のために、回折光学素子に入射するレーザビームを使用し、またさらに光トラップのアレイをスキャニングできるビームスキャニングシステムと共に収差補正パターンを用いる改良された方法及びシステムを提供することである。
【0032】
本発明のまたさらに別の目的は、光トラップにほとんど収差のない状態を保ちながら光トラップをスキャンするために、光ビーム、回折光学素子及び複数の望遠鏡レンズを備えた収差補正システムを用いる改良された方法及びシステムを提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、回折光学素子として時間依存のアドレス可能な位相シフト媒体(液晶位相シフトアレイなど)を用い、またその媒体により収差補正パターンをコード化する複数の独立に向けられた光トラップを作り出すための新しい方法を提供することである。
【0034】
本発明のさらに別の目的は、改良された光学渦巻の組並びにこれらの渦巻きを作成及び使用する方法を提供することである。
【0035】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、下記に示した添付の図面と併せて考慮すれば、その好ましい実施形態の次の説明から容易に明らかになるであろう。図面では、全体を通じて、同様の素子には同じ番号を付けてある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
光ビームの電界及び磁界は、下記のように複素数値化された位置の関数として説明することができる。
【数3】
ここで、
【数4】
は実数値の振幅であり、
【数5】
は実数値の位相である。本発明の好ましい形態は、入射した光ビームの位相
【数6】
のみを変調するステップを含む。
【0037】
波面が、一定の位相
【数7】
を以前に有していたような入射に対して、螺旋状の位相プロファイルを転写する利点がある。これは下記のように説明できる。
【数8】
【0038】
式(2)では、変数θは伝搬方向を横切る面内の光軸の回りの方位角であり、
【数9】
は位相チャージ(topological charge)として周知の整数の巻数である。結果として生ずる光の螺旋モードは、スポットではなくリングに収束する。さらに重要なことは、螺旋状ビームは、トラップされた物体に移すことができる軌道角運動量も保持している。こうして、結果として生じるトラップは、トルクを加え、光学渦巻として周知である。
【0039】
光学渦巻の中の角運動量のフラックスは、トラップされた粒子を光学渦巻の円周の周りに駆動することにつながるビームの線形運動量のフラックスの横方向成分の形態となる。準古典的な理論は、そのようなビーム内の各光子により
【数10】
が全体的な角運動量のフラックスに寄与することを明らかにしている。このように、全体的なトルクは、レーザビームのパワーP上の位相チャージ
【数11】
及び光学渦巻の半径
【数12】
並びに照射された物体の光学散乱特性に依存する。
【0040】
最近では、最大強度スケールの光学渦巻の半径は、下記の式のように位相チャージにほぼ直線的に変化することが確定されている。
【数13】
ここで、λは光の波長、NAは収束素子の開口数であり、またA≒0.4及び
【数14】
は光学系を通る均一に明るいビームの伝搬を説明する定数である。この線形の依存性は、収束素子の必然的に限定された開口部による回折から結果として生ずる。
【数15】
に対するこの線形の依存性は、光学渦巻の光学機械的な特性に対する予想のスケーリングにつながる。この特性を用いて、螺旋モードによって伝えられる角運動量の性質を精査することができる。特に、光学渦巻の円周上にトラップされた波長程度の粒子は、強度
【数16】
で照射される。ここで、Pは入射ビームのパワーである。これは、光子束が厚さがおよそλの帯域の中で渦巻の円周の周りに均一に広がると仮定している。各拡散された光子が
【数17】
に比例する角運動量を移送すると仮定すると、粒子の接線方向の速度は
【数18】
に比例することになる。光学渦巻の1つの回路を作るために必要な時間は、下記のように変化する。
【数19】
図16(a)のデータは、
【数20】
が
【数21】
の大きな値に対しては式(3)及び(4)に基づいて実際に変化することを示す。
【0041】
しかしながら、
【数22】
の場合は、周期は予想値よりも体系的に大きくなる。同様に、
【数23】
は小さいパワーに対して予想されたようにPに比例して変化し、Pが増加するにつれて増加する。言い換えると、粒子が強く押されると、粒子は緩やかに動く。これらの予期しない両効果は、画素化された回折光学素子によって作られた光学渦巻の精密な構造の結果とすることができる。この仕組みは、変調されたポテンシャルの中にブラウン移送を利用する新しい可能性を示している。
【0042】
各有効な位相画素は、対物レンズの入射瞳に投射される場合およそ10λに広がる。そのようなアポダイズされたビームを数値的に変形することにより、図16(a)に示すような、
【数24】
の強度波形のパターンが明らかにされた。これらはほぼ正弦波ポテンシャルを確立し、これにより、粒子を局所的な角運動量のフラックスによって駆動することができる。リングの周りの円弧の長さsに対する強度の依存性は、下記の式のようにモデル化される。
【数25】
ここで、αは変調の深さであり、
【数26】
は波数である。
【数27】
の場合、qは
【数28】
には無関係である。
【0043】
この変調された強度は、トラップされた球体に2つの接線分力を与える。1つは、下記のような転送された角運動量による。
【数29】
ここで、光子に対する
【数30】
の局所的な角運動量のフラックスが仮定される。前因子A0は、粒子の散乱断面積としてそのような幾何学的因子を含む。他は下記の式のような、局所的な強度勾配に対する分極性粒子の応答による光学勾配力である。
【数31】
ここで、εは勾配力の相対的な強度を設定する。式(6)及び(7)を組み合わせることにより、下記のように接線分力が生じる。
【数32】
ここで、関連性がない位相角が削除され、また
【数33】
である。αが1よりも遙かに小さい場合でも、ε及びηの両方は、かなり大きくすることができる。この場合、固定パワーで
【数34】
を減少させることにより、熱エネルギーのスケールkBTに対する変調の深さが増加され、粒子を局所的なポテンシャルの最小値の中でハングアップすることができる。このように、変調されたポテンシャルは有効なドラグを増加する。
【0044】
強い粘性減衰を有する傾斜した正弦波状ポテンシャルに沿った粒子の運動は、下記のランジュバンの式によって記述される。
【数35】
ここで、γは粘性抵抗係数であり、Г(t)はゼロ平均(zero-mean)のランダムサーマルフォース(random thermal force)である。付随する移動度μは、下記のように表すことができる。
【数36】
ここで、
【数37】
は、変調がkBTに達する位相チャージである。この結果を考えると、1つのサイクルの通過時間は、下記の式のようになる。
【数38】
ここで、
【数39】
は、変調のない場合のP=P1における
【数40】
に対する予想周期である。図16(a)及び図16(b)の実線の曲線は、T1、
【数41】
及びηに対して式(10)及び(11)に適合する。結果T1P1/P=1msec、
【数42】
及びη=19は、図16(b)への挿入図面の中で示された強く変調されたポテンシャルに一致している。粒子は光学渦巻の周りをスムーズに進行するのではなく、光学渦巻のトルクによってバイアスされた方向に、ポテンシャル井戸間で熱的に起動されてホップする。
【0045】
式(10)で
【数43】
をPT/Pで置き換えると、図16(b)に示すように、固定した
【数44】
に加えられたパワーに対する周期の依存性に類似した結果が生じる。ここで、
【数45】
は、運動量がkBTに達するパワーである。図16(a)から得られたη及びP1T1を用いると、P=1.5W以上の球体の運動は、モデルの予想よりも遅い。パワーが高い場合の周期の発散は、光学系内の収差から結果として得られた
【数46】
の光学渦巻上の局所的な「ホットスポット」による。そのようなホットスポットは、螺旋状ビームの中の単一粒子のダイナミックスを研究する以前の試みを混乱させている。ホットスポットはまたパワーを増加すると深まるため、それらは指数関数的に増加する残留時間で粒子を保持する。全体的な通過時間は、下記の式のようになる。
【数47】
【0046】
図16(b)のデータは、TH=5msec及びPH=270mWに一致する。ホットスポット内の局所性は、P=1W以上のパワーに対してのみ波形に起因するドラグに匹敵するようになり、このため、図16(a)のデータには影響しない。その結果、これらのデータによって、螺旋状ビームの角運動量密度の性質に対する知見が得られる。
【0047】
上記の式(3)は、螺旋状の位相プロファイルのピッチが均一でない可能性を説明するように一般化されている。所定の角度θにおける最大強度の半径R(θ)は、下記の式のように、波面の方位角の位相変調に関係する。
【数48】
この式は、下記の式による光学渦巻のヘリシティを変調することによって利用された。
【数49】
【0048】
結果として生じた変調された光学渦巻は、実際に半径のm倍の変調を有する。その深さはαに依存し、その向きはβによって決まる。変調された光学渦巻にトラップされたマイクロメータ規模のコロイド状の粒子の運動を研究することにより、これらは周囲R(θ)への接線方向の力をなおも働かせることが確かめられる。
【0049】
図17(a)に示すような光トラッピングシステムでは、反射形液晶空間光モジュレータ(SLM)を使用して、望ましい位相プロファイルφ(γ)をコリメートされたTEM00の光ビーム(λ=532nm)の波面に転写する。変更されたビームは、逆にされた光学顕微鏡に取り付けられた高いNAの対物レンズの入射瞳に中継される。レンズの焦点面内に配置されたミラーは、結果として生じた強度分布を光軸の後に戻すように反射して、取り付けられたビデオカメラ上に像を形成する。図17(b)は、
【数50】
の光学渦巻をコード化する典型的な位相マスクを示し、図17(c)は結果として生じた位相分布を示す。SLMは約50%の回折効率を有し、図17(c)の中心スポットは、入射ビームの回折されない部分から形成され、光軸上の中心に置かれた従来の光ピンセットである。SLMは0から2πラジアンの範囲で位相シフトを転写できるに過ぎないため、投射された位相関数はスキャロップされた様相を作るために、φ=2πでラップアラウンドする。
【0050】
光学渦巻が水中に分散されたコロイド状の微小球体のサンプルに投射されると、光学勾配力がこれらの球体を光のリング上に引き込み、ビームの軌道角運動量が、図17(d)に示すように、それらを円周の周りに駆動する。その結果として生じた運動が、極めて小さいサンプルの体積をポンピング及び混合する利点を示すような方法で、液体と粒子の両方の流れを引っ張って行く。
【0051】
図18(a)〜図18(c)は、光学渦巻の位相を周期的に変調することがどのようにその幾何形状に影響するかを示している。図18(a)の位相マスクは、
【数51】
の螺旋ピッチ上に重ね合わされた振幅α=0.1のm=5倍の変調を含む。式(13)を用いて予想された半径方向のプロファイルは図18(b)に示され、図18(c)の観察された強度分布に良く一致している。m=12、α=1及び
【数52】
までの変調された螺旋状の位相に対して、発明者らの装置を用いてかなり良好な一致が得られた。図19は、変調の深さαを固定してmを変化させること、及びmを固定してαを変化させることによって得られた典型的な強度パターンを示す。
【数53】
を超えて変調を増加させると、図19の最後の2つの像に示すように、最大強度の軌跡が原点を通過し、負のパリティ(negative parity)のローブを作る原因になる。
【0052】
均一な光学渦巻がトルクをトラップされた粒子に加えるのと同様に、変調された光学渦巻は接線分力を加えることができる。これらの力は、図20に示すように、極めて複雑な軌跡を通るように粒子を駆動できる。この例では、水中に分散された直径が800nmの2つのポリスチレンの球体が、3倍に変調された光学渦巻の周りを循環していることが示される。それぞれの球体は、約2秒で1つの回路を終了する。矢印で示された2つの球体は、300mWで、また
【数54】
、m=3及びα=0.1でトラップに沿って、湾曲した矢印によって示された方向に移動する。2つの別の球体が、回折されない中心スポットの中で静止した状態でトラップされる。球体が図17(a)〜図17(d)に示すように、多かれ少なかれ均一に従来の光学渦巻の周りを移動するのに対して、それらの球体はR(θ)が変調されたパターンの中で最小となるように最も急速に円運動する傾向がある。このことは、光はより小さい半径では最も強度が高くなるため、またSLMの有限の空間分解能によるアーチファクトはより大きな半径ではトラップの構造に対してより顕著な効果を有する傾向があるためという両方の理由のために現れる。強度が減少するより大きな半径では、図19に示すような、より深い変調のトラップを弱くする傾向がある。より深く変調されたパターンは、粒子を円運動させる方向ではなく粒子をビームに対して横方向に移動させる傾向がある。そのような光学的に仲介された分布は、マイクロ流体装置の中のサンプルを取り扱うために有用である。離散的な光ピンセットを移動することによる配送方法とは異なり、本発明による方式は1つの静的な回折光学素子を用いて実現できる。
【0053】
粒子を移動させることに加えて、変調された光学渦巻によって加えられた力を使用して、粒子の寸法、形状、及び光学特性に基づいて粒子を区別することができる。その結果、変調された光学渦巻は、メゾスコピックな寸法の材料を分類及び分別する原理も提供できる。
【0054】
式(14)のβを変化させることによって、変調された光学渦巻を任意の角度まで回転することができる。大きさがトラッピングパターンにほぼ等しい非対称的な物体はパターンの凹凸上に固定することができ、またその向きは位相角を変えることによって制御できる。深く変調された光学渦巻の負パリティのローブは、大きく照射された物体に対する全体的なトルクを取り消すために有用な逆方向の接線分力を働かせる。光学渦巻を従来の光ピンセットを用いて干渉することによって、また光トラップを楕円形の偏光を用いて作ることによって、類似の制御された回転が実現された。この方法を用いることにより、1つの光ビームによって、トラップされた物体の向きを機械的に調整することなく変えることができ、強度分布を式(4)により目標のサンプルの形状に対して調整することができ、また同じ装置が複数の独立した回転子を同時に作ることができる。これらの機能強化された能力により、変調された光学渦巻がマイクロ流体装置及びラボオンアチップ装置(lab-on-a-chip device)におけるポンプやバルブのようなマイクロ電気機械システム(MEMS)を動作させる用途が開かれる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、選択された効果及び用途を実現するために、位相関数を計算することができる。1つの実施形態では、制約のない光学強度のパターンのより一般的なクラスに式(13)を適用できる。特に、距離bの光軸への横方向の線を考慮する。極座標では、この線は下記の式を有する。
R(θ)=b/sinθ (15)
この式を式(13)に代入し、関連した位相変調を解くと、下記の式が得られる。
【数55】
【0056】
この位相関数は、図21においてプロットされている。実際には、入射する光ビームの位相を変調することができる位相専用空間光変調器(SLM)などの装置上で、この関数をコード化する必要がある。このため、説明するために、位相関数は一般的な損失を考慮せずに、2πを法としてプロットされる。
【0057】
焦点面すなわちトラップ形成用の対物レンズの中で結果として生じた強度プロファイルが、最大強度の線に沿った横方向の運動量の移動方向を示す矢印210及び220と一緒に、図22に示されている。実際には、線の強度は、光軸230からの距離rと共に1/r3/2で減少する。明確にするために、計算された強度は、図22ではr3/2で乗算されている。
【0058】
第1の注目点は、式(16)が光軸に対して横方向の、その長さに沿って角運動量を伝える線形の強度分布を首尾良く実現することである。このことは、式(13)がより一般的な用途に対してより一般的な強度分布を設計するためにも有用であることを確認することになる。従来は式(13)は、正弦波状に変調された光学渦巻を設計するためにのみ使用されてきた。このため、一般に、望ましい位相変調
【数56】
を解くために、所定の指定された動径ベクトル
【数57】
について式(13)を解くことができる。以後、各種の例が、放物線及び双曲線などの典型的なR(φ)プロファイルに対して提供される。
【0059】
図23〜図24は、焦点面の5マイクロメータ上及び下の面内に投影された、図21の同じ位相変調からの強度パターンを示す。これらの図は、焦点面内に平行なアクセラレータを形成する光ビームの強度分布の三次元構造に対する様相を示す。
【0060】
線形の横方向光学アクセラレータが、式(16)における対数依存性を合理的に処理するために、一対の反対に伝搬する線として現れる。別の種類の横方向光学アクセラレータは、この制約を共有しない。線のまだらな様相は、この回折パターンを計算するために使用される限定された分解能から結果として生ずる。特に、図21の位相パターンは、この実施形態を実証するために使用される物理的な装置を提供するために、480x480の位相画素の正方形のアレイから成る。
【0061】
この種類の好ましい横方向の光学アクセラレータには、マイクロ流体システム及びラボオンアチップ・システム用のサンプルを取り扱う場合に好都合な用途がある。図22にプロットされた強度を有する光がまた最大強度の位置に沿って線形の運動量を与えるため、これらの強度パターンは焦点面内の材料を移送するために使用できる。例えば、用途には高分子、コロイド状の粒子、ナノクラスタ、生物学上の細胞などをマイクロ流体チャネルを通して処理及び移動させることが含まれる。特に、そのような光学トランスレータは、物体を電気泳動、流体の流れ、磁気泳動又は他の外部操作方式を加えることができない又は実際的でないような領域に移動させるために使用できる。外部の了解又は電気的なアクセスを必要とする他の方式とは異なり、横方向の光学アクセラレータを用いる移送は光学的なアクセスしか必要としない。
【0062】
他のプロファイルR(θ)も、前述した線形形式に対して幾つかの利点を有する横方向の光学アクセラレータを生ずる。特定の例には、例えば下記が含まれる。
放物線:光軸上に中心がある
R(θ)=α/(1+cosθ) (17)
【数58】
双曲線:光軸上に焦点がある
【数59】
【0063】
これら両方のより一般的な横方向のアクセラレータはまた、動的なホログラフィック光ピンセット装置を用いて作られ、粒子を振幅aの記号によって決定された方向に移送することが実証されている。これらのパターンは、焦点が外れた強度パターンが焦点面内に全体的なパターンを保持するという点で、線形形式に対してかなりの利点を有する。その結果、これらの横方向のアクセラレータは、収差に対して適切に制御することにより、軸方向の光トラップとして動作し、このため、三次元のシステムの中央の平面の軌道に沿って材料を取り扱うことに対して有用である。
【0064】
本発明の好ましい形式では、ホログラフィック光ピンセットなどの勾配力を有する光トラップは、都合がよいことに、各種の光学収差を克服するように修正される。しかしながら、後で説明するように、この方法及びシステムは各種の光学システムに適合することができる。本発明の好ましい形式では、強く収束された光ビームによって加えられた力により光トラップを形成して、体積が小さい物体を正確に操作する。最適なトラッピングでは、各光ビームが回折限界の焦点に集まることが必要である。収差は焦点の質を劣化させ、このため、結果として生じた収束された光ビームがトラップとして動作する能力を低下させる。
【0065】
本発明は光トラッピングを最適にするように、1つ以上の光ビーム内の収差を補正することに関する。この特定の実施形態では、測定された収差に対する補正をコード化する位相シフト形回折格子を計算すること、及び1つ以上の光トラップのパターンをコード化する別の回折光学素子と併せて、この回折格子を投影することが含まれる。実際には、結合された回折光学素子は、位相専用空間光変調器(SLM)のようなコンピュータがアドレス可能な装置を用いて投影することができ、これにより、動的なホログラフィック光ピンセットのシステムの中で収差を動的に補正する手段を提供する。
【0066】
1つ以上の光トラップを作り、それぞれに際立った特徴を持たせるコンピュータ作成による回折光学素子(DOE)を使用することは、ホログラフィック光ピンセット(以後、HOTと呼ぶ)技術として周知である。SLM90(図10を参照のこと)のような更新可能な装置を用いて回折光学素子を投影することにより、別の操作が可能にされ、また動的なホログラフィック光ピンセット技術が静的なHOTから区別される。本発明は、動的なHOTに最も好適に適用される。静的だが取外し可能なDOEを使用するシステムでは、発明者らはそのDOEを静的な渦巻形成用の位相マスク100で置き換えることができる(図10及び図3〜図6のファントムを参照のこと)。結果として生じた渦巻の像を使用して、その特定の光学系に対して補正用の位相マスク100を計算することができる。最適化された位相マスク100は、他の静的なDOEを計算するために使用できる、又はシュミットのコレクタが反射望遠鏡の中で使用されるように、光学系を作りその中に組み込むことができる。位相マスク100は、種々のDOE素子(図3〜図5では参照番号40、図6では参照番号A)を2つの背中合わせに配置されたDOEで置き換えるような、周知の従来の形態を取ることができる。DOEの一方をトラップ形成素子、また他方のDOEを収差補正素子とすることができる。DOEの対を極めて接近させてまた任意の順序で配置することが好ましい。
【0067】
光ビーム内の5つの主な収差は、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲及び歪みとして特徴付けられる。これらの収差は、HOTシステム110(図10(a)を参照のこと)内の中継レンズや収束素子のような光学系の構成要素のわずかな位置合わせ不良によって、他の点では理想的なビームの中に持ち込まれる。光ビーム130の波面をその複素数値の場によって表すと、下記のようになる。
【数60】
ここで、
【数61】
は実数値の振幅であり、
【数62】
は実数値の位相である。光ビーム130内のどのような収差も、ビームの開口を横切る
【数63】
内の空間的な変動として表すことができる。
【0068】
発明者らは、一般性を失うことなく、収差のないビームをその波面を横切る一定の位相を有するコリメートされた平面波として特徴付けることができる。このため、5つの主要な収差を持ち込む場合、下記のように、この波面に加えられた従来の方式を使用できる。
【数64】
【0069】
ここで、ρ=r/aは、開口部の半径aを単位としたビームの軸からの半径であり、θは波面の面内の極座標の角度である。5つの係数a0〜a4及び関連している角度θ1,θ2及びθ4によって、ビームの収差が完全に特定される。
【0070】
これらの係数及び角度は、HOTシステム110を使用し、またビデオカメラ120などの結像システムを用いて結果として生じた光の像を作る1つ以上の光トラップを投影することによって測定することができる。係数のそれぞれに−1を乗算することにより、ビームの中に既にある収差を正確に打ち消す新しい収差のパターン
【数65】
が結果として生じる。このため、動的なHOTシステムの中でSLM90を用いて
【数66】
を投影することにより、光ビーム130内の収差が補正され、収差のない形態の光トラップが結果として生ずる。
【0071】
収差補正用の位相マスク100は他のトラップ形成用の回折パターンと結合して、これらのパターンのトラッピング能力を向上させることができる。例えば、特定のトラップのパターンをコード化する位相パターン
【数67】
を検討してみる。HOT光学システム110により投影されると、結果として生じたトラップは全て、光学系が発生した収差によって劣化する。下記の組合せ
【数68】
により、同じトラップのパターンが投影されるが、それらの収差は補正される。ここで、モジュラスオペレータ(mod operator)は、SLM90の表面に位相パターンをコード化するために必要なスケーリング及び離散化(discretization)を示す。
【0072】
同じ構造の位相パターンを使用して、HOTシステム110により投影された任意のトラッピングパターンを補正することができる。その結果、1回限りのキャリブレーション(one-time calibration)及び使用毎の補正(per-use correction)の組合せにより直接的な手段が提供されて、HOTシステム110の光学系の物理的な構成要素を位置合わせしたり調整したりすることなく、ソフトウェア制御の下で物理的にもたらされた収差を補正する。そのようなキャリブレーションを定期的に繰り返して、構成要素の物理的な位置合わせが長い間にずれる場合でさえも、収差の補正を最適に維持することができる。ソフトウェアの制御の下で、最適な位置合わせを動的に微調整することにより、商業的なHOTシステムに対する製作公差及び保守計画が緩やかになるという付加的な利点が提供される。
【0073】
本発明の好ましい形態は、光トラッピングシステム、また特に、SLM90又はトラッピング光の波面を成形することができる他の光学素子を取り入れるシステムを位置合わせする定量的な方法に関する。この方法は、動的なホログラフィック光ピンセットを位置合わせするために特に有用である。
【0074】
本発明の好ましい形態には、外観が位置合わせの不具合に明らかにまた敏感に左右される光学渦巻のような光のモードを投影することが含まれる。光学渦巻は、光を吸収する材料をトラップしたり操作したりすることを含む各種の用途に対して、光ピンセットの中で使用される光のモードである。光学渦巻は、入射するレーザの光ビーム130の位相プロファイルを、光学素子の位相シフト形式(すなわち、SLM90を用いることによって加えられたコンピュータが生成したDOE140の修正された形態のような位相マスク100)で修正することによって作られる。
【0075】
入射するレーザの波面は、その複素数値の場によって下記のように記載される。
【数69】
ここで、
【数70】
は実数値の振幅であり、
【数71】
はDOE面の中のシステムの光軸に対する位置
【数72】
における実数値の位相である。理想的な光学渦巻をコード化する位相変調は、
【数73】
である。ここで、θは、任意であるが固定された方向に対するDOE面の中の極座標の角度であり、
【数74】
は位相チャージとして周知の整数である。この位相変調によって媒介された弱めあう干渉及び強めあう干渉のために、波長λとほぼ同じ厚さで、位相チャージ
【数75】
に比例する半径Rを有するドーナッツ状の光のリングとして、光学渦巻がシステム110の焦点面に現れる。HOTシステム110の焦点面における光学渦巻の光学強度のパターンの典型的な例を、図8Aに示す。
【0076】
軸方向に対称的なガウス形入射レーザビームを用い、完全に位置合わせされた光トラッピングシステム内にある理想的な光学渦巻は、
【数76】
と設定することによって、均一に照射され、完全に円形で、また同じシステムを用いて投影された光ピンセットに対して中心に配置されるように見える。渦巻を通して上下に焦点を合わせることにより、収束された渦巻と同軸の位置に、大きくなる、ぼやけた円が確認できる。光学渦巻の構造は、位相関数
【数77】
の細部に敏感に依存する。光学素子の位置合わせ不良のような光学系内の不完全性により、位相プロファイルが変化し、これにより、渦巻の外観も変化する。例えば、位相マスク100内の光学渦巻をコード化する位相変調
【数78】
が光軸上の中心に置かれていない場合は(例えば、SLM90の位置合わせ不良のために)、渦巻の均一な円形の外観は、図8A及び図8Bに示すように、明るい部分と暗い部分の非対称的なパターンへと劣化する。そのような位置合わせ不良は、同じシステムを用いて投影された従来の光ピンセットの特性では容易に観察されないが、しかしそれにもかかわらず、特に複雑な光トラッピングのパターンのために性能が劣化する。
【0077】
光学系の中の他の位置合わせ不良はビームの中に収差をもたらし、図9A〜図9Fに示すように、投影された渦巻の外観に特徴的な歪みがはっきりと現れる。図10(a)のHOTシステムの実施例に示すような、システム110内の光学系に影響する5つの主要な収差には、コマ収差、非点収差、球面収差、像面湾曲及び歪みが含まれる。他の従来の収差もあるが、それらは本願で説明される方法に基づいてこのように処理することができる。
【0078】
各収差の要素は、投影された光学渦巻の構造の中にそれ自身の特定のシグナチャーを有する。球面収差は、図9Bに示すように、渦巻の直径を増加させまたその軸方向の強度の勾配を減少させる。さらに別の収差の影響では、コマ収差は渦巻を円形から歪ませて、光を再配分するため、図9Cのように、一方の側が他方よりも明るくなる。コマ収差とは異なり、非点収差は、図9Dに示すように渦巻を対称的な楕円に変形し、その強度を対称的に再配分する。像面湾曲は、図9Eに示すように、渦巻の強度を半径方向に沿って再配分し、また半径方向に沿って強度を減少させる。最大強度に対する典型的な急激な変化が和らげられる。最後に、歪みは、図9Fに示すように、渦巻の中心を光軸からずらす。これは、その影響が中心エラーによる影響に似ているという点で、特定するのがやや難しい収差である。しかしながら、歪みによるずれはリングの周りの強度分布に影響を与えないため、そのずれは中心エラーによる劣化から区別することができる。
【0079】
これらの歪みのそれぞれは、投影された渦巻の像を用いて、従来の光ピンセットの像において微かにしか得られない歪みよりも一層正確に測定することができる。さらに、従来のコンピュータによる結像システムを用いて、これらの歪みを定量的に測定することができる。この結果を使用して、HOTシステム110内の各種の物理的な光学素子の位置合わせを向上させることができる。別の方法では、また選択的に、測定された欠陥に対して正確に補償するような位相マスク100を計算することによって、測定された歪みをソフトウェアで補正することができる。その結果得られた収差補正用の位相マスク100を、光トラップの望ましい配列をコード化する他のDOEの中に組み込むことができる。このように、収差補正用の位相マスク100はDOEが発生したトラップにおける収差を補正し、これにより、性能が向上する。
【0080】
収差の測定及び補償は、コンピュータの管理のもとで修正された渦巻のパターンを交互に投影し、その結果生じた強度分布を測定することによって、自動的に行うことができる。
【0081】
この方法の実用性を示す例として、発明者らは図10に概略的に図示した特定のHOTシステム110を位置合わせするために使用することを検討する。位置合わせされた素子には、レーザの光ビーム130、SLM90、転送光学系140、及び顕微鏡の対物レンズ150が含まれる。理想的には、レーザの光ビーム130は、単一のガウスモード又は光軸160に対して対称的な他の任意の周知のモードとすることができる。これにより、システム110が完全に位置合わせされると、投影された光学渦巻の円周の周りの強度が確実にされる。光学系が位置合わせされると、光ビーム130は、SLM90の中心に達し、光軸160に沿って転送光学系140の中の各レンズの中心を通過し、中心に配置された対物レンズの後部開口部に入射し、またレンズの入射瞳を満たしてごく僅かにあふれさせる。
【0082】
図10(a)では、コリメートされたレーザの光ビーム130が、コンピュータでアドレスされたSLM90の前面に入射する。ビームの波面にこのSLM90によって与えられた位相変調95
【数79】
は、1つの入射した光ビーム130をそれぞれが別個に指定された特性を有する複数の光ビーム135に分割する。これらの複数のビーム135は、望遠鏡の構成をした2つのレンズによって開口数が高い収束素子の後部開口部に中継される。この収束素子は、本願では顕微鏡の対物レンズ150として図示されている(従来から使用可能な任意の収束素子も使用できる)。このレンズは、各ビームを別個の光トラップに収束させる。サンプル面内に一時的に配置されたミラーの表面に、投影された光135を収束させることができる。このミラーによって反射された光は同じ対物レンズ150によって集光され、ダイクロイックミラー155を通過して、取り付けられたCCDカメラ120上に像160を形成する。これにより、焦点面内の光の強度
【数80】
を直接測定できるようになる。
【0083】
理想的な位置合わせからの逸脱は、どのようなものであっても、光学渦巻の外観中に容易に検出される。例えば、中継レンズ145の光軸に対する位置合わせ不良は結果としてコマ収差を発生し、図9Cのように、投影された渦巻を劣化させる。光軸に対してレンズ145を傾けると、外観が異なる非点収差が取り込まれる。レンズ145又はSLM90上の表面の形状が不完全な場合は、それぞれ固有の外観を呈する歪み又は球面収差がもたらされることがある。渦巻の像に対するこれらの欠陥の影響は、直線的に結合する必要はない。例えそうでも、非線形の反復検索アルゴリズム(iterative search algorithm)を使用して、変形された渦巻の像を中心エラー及び5つの主要な収差の影響を取り入れたモデルに適合することができる。そのような適合することから得られたパラメータを使用して、中心エラーを補償したり、他の収差を補正するための最良の位相マスク95を計算することができる。この方法及びシステムの出来具合は、仮に補正された光学渦巻を投影して、その歪みの特徴を調べることによって評価することができる。
【0084】
最も好ましい実施形態では、収差の補正を実行する特定の順序には、下記のような一連のステップが含まれる。
【0085】
光軸をビデオカメラ上に配置し、
【数81】
のような均一な位相パターンをSLM90に送る。これにより、結果として1つの回折されないビームが発生する。このビームは、SLM90によってミラー155の鏡面上に投影され、そこからビデオカメラ120に戻される。このビームのビデオカメラ120の面上の位置が、光軸の位置を定義する。発明者らはこの位置を
【数82】
と示す。
【0086】
入射するレーザビーム130の強度は、回折されないスポットがカメラ120上で見えるが、それを飽和しないように調整される必要がある。回折されないスポットを視野の中に配置できない場合は、光学系が次に進むには大きくずれているため、物理的な位置合わせが必要である。
【0087】
トラッピングシステムの幾何学的配置の確立:設計されたトラッピングパターンと投影された結果との間の空間的な関係は、3つのパラメータによって、すなわち、SLM90上の
【数83】
方向におけるスケーリング係数mx、SLM90上の
【数84】
方向における別のスケーリング係数my、及びSLM90とビデオカメラ120との間の相対的な配向θによって説明することができる。発明者らはこのセクションでは、結像システムによるどのような歪みも前もって測定及び補正されていると仮定する。3つのパラメータは、キノフォーム(kinoform)をSLM90に送り、4x4の正方形のパターンなどの単純なトラップのアレイをコード化し、またディジタルビデオの顕微鏡検査法の標準的な方法を用いて結果として生じた強度を焦点面内に像形成することによって測定することができる。特に、発明者らは、各収束された光のスポットに対する強度の中心に基づいて、投影されたトラップのそれぞれの位置を測定する。スケールファクタmx及びmy並びに配向θを引き出すために、計算幾何学による方法を用いて、トラップの相対的な分離を分析することができる。幾つかの光ピンセットの実施形態で必要とされるように、SLM90が入射するレーザビーム130に対して斜めの角度で位置合わせされる場合は、2つのスケールファクタは同一である必要はない。別の実施形態で垂直な入射が望ましい場合は、mx及びmyが等しくないという判定結果を利用して、SLMの光軸に対する傾斜を測定することができる。
【0088】
この動作に当たっては、入射するレーザビーム130の強度は、回折されたスポットがビデオカメラ120上で見えるが、それを飽和させないように調整される必要がある。一旦スケールファクタ及び配向が分かると、それらを用いて、トラップを正確に視野の中に配置し、またSLMの光軸に対する位置合わせによるトラッピングパターン内の歪みを取り除くことができる。
【0089】
SLM上への光軸の配置:一旦視野の中心及びスケーリングフィルタが確立されると、それらを使用して、SLM90の表面の光軸が通過する位置を突き止めることができる。これを行うために、発明者らは光学渦巻をコード化するSLM90にキノフォームを送って、SLMの表面にレーザビームが斜めに入射することによる全てのスケールファクタの補正値を考慮に入れる。mx=myの光学系に対して、位相パターン
【数85】
は、対応する光学渦巻のトラップに収束するような、位相チャージが
【数86】
の螺旋状となるラゲール−ガウス形ビームへとガウス形の入射レーザビームを変換する。このパターンは、前のステップに現れた任意の非対称性を説明するために、直接的な方法で修正される。
【0090】
光学系が適切に位置合わせされる場合、光学渦巻が、光軸の中心に位置した環状の強度パターンで円周の周りの強度が均一になるように収束するはずである。しかしながら、位相パターンの中心が光軸に位置合わせされていない場合は、歪曲した環状形の中に不均一な強度となるよう光のリングが収束する。ソフトウェアの制御の下で位相パターンをSLM90の表面に送ることにより、投影された渦巻の円形、ビデオカメラにおける光軸の中心、及び均一性を最適化することができる。
【0091】
投影された渦巻の外観を最適化するSLM面内のオフセットρ0は、SLM90の面上における光軸の位置として識別される。この測定値を使用して、SLM90の物理的な位置を光軸がその面の中心に位置するように調整することができる。この場合、前述した2つのステップを繰り返す必要がある。
【0092】
別の方法では、測定されたオフセットを使用して、SLM面上の他のキノフォームをそれらの中心が光軸と位置合わせされるように中心に配置することができる。この方式は、オフセットがあまり大きくない場合は、物理的な装置にどのような変更も要求せずに適用できる。物理的な位置合わせと視覚的な位置合わせの組合せは、特定の用途に対して最良の結果を提供する。
【0093】
有効な入射開口の測定:対物レンズ150、中継光学系(いくつかのレンズ145)及びSLM90が組み合わせて光学系とされる。この光学系の有効開口は先験的に知られているものではないと推測されるか、又は光学系の位置合わせの細部に依存する。SLM90の面上の光軸に対する開口の半径Rは、望ましいトラッピングパターンを作るためのキノフォームの能力に影響する可能性があり、システムに対してキノフォームを計算するために使用するファクタとなることが理想的である。
【0094】
一旦ρ0が前のステップで決定されると、
【数87】
と設定することによって前のステップの渦巻形成用のキノフォームを修正することにより、事実上の開口を確立することができる。ここで、Φ0は|ρ−ρ0|≧Rに対する定数である。RがSLM面の物理的に有効な開口よりも大きい場合は、この修正によってビデオカメラ130内の渦巻の外観が変わることはない。投影された渦巻の外観の変化が見えるまで連続的にRが減少されるようなキノフォームを投影することにより、開口の半径を設定することができる。
【0095】
開口がSLMの面の寸法に匹敵するようになる場合には、このことは有効な開口の寸法及び形状の両方として使用される。一旦有効な開口が測定されると、それはこの開口に対して最適化されたキノフォームを計算するために使用できる。この値は、結像システムの長さスケールの較正と共に、光学渦巻の予想される外観を計算するために必要とされる。計算された外観と測定された外観の偏差は、光学系の位置合わせにおける他の欠陥を評価及び補正するために使用できる。
【0096】
球面収差に対する測定及び補正:光学渦巻の外観を使用して、現在の光学系の種類が属する、前に説明した5つの主要な収差を測定することができる。これらの収差は、中継光学系すなわちレンズ145の、例えば、光軸に対する個々のレンズの傾き又は変位による位置合わせ不良によってもたらされる。それらはSLM90を照射するために使用される入射ビームに固有のものである。実際に、それらは、これらの幾つかの組合せによってもたらされることがある。
【0097】
一旦収差が測定されると、それらの程度を用いて、物理的な光学系が再位置合わせを必要とするか否かを評価することができる。必要とする場合は、全ての先行するステップを繰り返すことが好ましい。別の場合は、測定された収差を使用して、補償用の位相マスクを計算することができる。この位相マスク95をトラップのパターンをコード化するキノフォームと結合して、結果として生じたトラッピングパターンにおける収差を補正することができる。
【0098】
この補償用の位相マスク95の複雑性により、システムが投影できるトラッピングパターンの複雑性が制限される。補償用の位相マスクの複雑性を、その空間的な相関関数を調べることなどによって測定することにより、物理的な光学系が再位置合わせを必要とするか否かを決定するための別の方法が提供される。
【0099】
1つの光学渦巻の強度分布を分析することによって十分な結果が得られるが、各種の渦巻の測定を繰り返すことにより、歪み測定の精度が向上され、また上記の分析では行われない不均一な照射などの別の不完全な点が強調されるようになる。
【0100】
この方法はまた、入射するレーザの光ビーム130のプロファイルを研究するための迅速で容易な方法である。このプロファイルの知識により、ビームを修正するためのハードウェアの教育された調整が可能になる。入射するビームプロファイルの知識はまた、HOTに対して使用される位相マスク100がビームプロファイルの想定に基づいて作られ、またHOTは正しいビームプロファイルが使用される場合は最も効率的であるため極めて有用である。CCDカメラ120を用いる画像形成のような他の方法は、同様のビームの分析を可能にするが、これは非侵襲的な技術であり、特別な装置やセットアップ時間を必要とせず、測定の間に物理的な位置合わせを乱す潜在的な危険はない。
【0101】
本発明の別の形態では、制御されたトルクを、寸法がナノメータから数百マイクロメータまた恐らくさらに大きな寸法まで広がる物体に加えるために、光学渦巻を使用することができる。
【0102】
螺旋ビームを、各種のモード変換器を用いて従来の光モードから発生することができる。この場合、大抵の実施形態では
【数88】
の範囲の位相チャージを発生する。それに対して、動的なホログラフィック光ピンセットは、最大
【数89】
の螺旋モードを発生することができるので、どのように光学渦巻の特性がそれらの螺旋性に依存するかを研究するためには理想的である。
【0103】
図10(a)に示した発明者らのシステムは、Hamamatsu X7550形の平行配向のネマチック液晶空間光変調器(SLM)を使用して、コンピュータが発生した位相シフトのパターン(例えば、図10(b)を参照のこと)を周波数倍増したNd:YVO4レーザ(Coherent Verdi社)からのλ=532nmのTEM00ビームの波面に転写する。変調された波面は望遠鏡によって、Zeiss Axiovert S100TV形の倒立光学顕微鏡の中に取り付けられた100倍でNAが1.4の油浸対物レンズの後部開口部に送られる。この対物レンズは光を光トラップに、この場合は単一の光学渦巻に収束させる。同じレンズを使用してトラップされた粒子の像を形成することもでき、またダイクロイックミラーはこれらの像を取り付けられたビデオカメラに中継する。
【0104】
SLMは光の位相を、480x480の正方形のアレイの中の各々が幅40μmの画素の範囲が0≦φ≦2πラジアンの150の明確なレベルのいずれかにシフトすることができる。較正された位相の伝達関数は、レーザの出力に無関係である。別個の近似値を入射ビームの位相変調
【数90】
に転写することにより、
【数91】
において効率が50パーセントの螺旋モードが発生する。より高い位相チャージではSLMの空間分解能が限定されるため、この効率は減少する。図10(c)は、対物レンズの焦点面の中に配置されたミラーによって反射された
【数92】
の光学渦巻のディジタル像である。図10(d)は、カバーガラスと顕微鏡のスライドとの間の厚さが85μmの水の層の中で光学渦巻の円周上にトラップされた、直径が800nmのコロイド状のポリスチレンの1つの球体の複数の時間差照射を示す。光学渦巻から吸収された角運動量は、500mWの印加されたパワーの2秒より少し短い時間で円周の周りの球体を1度乾燥させる。図10(d)の像は、1/6秒の間隔で移行する11の段階を示す。同じ粒子が、螺旋性がどのように光学渦巻の強度分布及び局所的な角運動量のフラックスに影響するかを立証するために、異なる位相チャージ及び印加パワーを用いて研究された。
【0105】
一般に、ほぼコリメートされた光ビームの波動関数
【数93】
は、近軸のヘルムホルツの式の固有モードの重ね合わせとして、下記のように表すことができる。
【数94】
【0106】
螺旋ビームについては、自然基底(natural basis)は、半径方向の依存性が下記の式を有するラゲール−ガウス
【数95】
の固有モードの組である。
【数96】
ここで、
【数97】
は一般化されたラゲールの多項式であり、wはビームの半径[1]である。
【数98】
【0107】
モード
【数99】
の強度は、自身の螺旋状のトポロジーだけでなく、自身の振幅がr=0に沿って消滅するために、自身の軸に沿ってゼロになる。半径指数(radial index)pのモードは、半径が
【数100】
と共に変化する強度最大値のp+1の同軸のリングを有する。実験的に観察される光学渦巻は、焦点面内の環形の光によって特徴付けられ、その結果として、p=0のモードにより識別される。このため、光学渦巻の中にトラップされた粒子の動作は、
【数101】
のモードの特性に照らして説明される。
【0108】
例えば、
【数102】
のモードの最大強度は、半径
【数103】
において発生する。そのような渦巻の円周上にトラップされた波長スケールの粒子は、強度
【数104】
で照射される。ここで、Pは入射ビームのパワーであり、発明者らは、光子束が渦巻の円周の周りの厚さがおよそλの帯域内に均一に広がると想定する(図11を参照のこと)。平均すると、各分散された光子は、
【数105】
に比例する角運動量を転送する。このため、粒子の接線方向の速度は
【数106】
に比例する必要があり、渦巻の1つの回路を作るために必要な時間は、下記のように比例する必要がある。
【数107】
実際、
【数108】
の場合、粒子の速度は
【数109】
とは無関係であるはずであり、周期は
【数110】
のように変化する。
【0109】
発明者らの装置によって作られた光学渦巻はまた光のリングとして現れるため、同じように変化することが期待される。しかしながら、図11のデータは、定性的に異なる動作を表している。発明者らは、図10(c)のようなディジタイズされた像から、角度に対して平均化して、ピーク強度の半径を捜し出すことによって
【数111】
を得ている。一連の渦巻を
【数112】
ではなく、異なる値の
【数113】
で投影することにより、
【数114】
が位相チャージにより線形に変化することが明らかにされる。
【0110】
この著しい不一致は、位相変調されたビームに対する対物レンズの動作を考慮することによって説明できる。焦点距離fのレンズの焦点面内の場は、スカラー回折理論では、フーリエ変換により、入射開口における(従って、SLMの面における)場に関連付けられる。螺旋ビームを始めに角度に対して変換することにより、下記の式が得られる。
【数115】
ここで、
【数116】
は第1種の
【数117】
番目のベッセル関数であり、Σは入射開口の半径である。均一な照射に対してu(r−f)=u0と設定することにより、下記の式が得られる。
【数118】
ここで、ξ=krΣ/(2/f)である。
【数119】
における主要な最大値の半径Σは、下記の式によって極めて良く近似される。
【数120】
ここで、a=2.585であり、
【数121】
である。図11の実験による半径は、発明者らの光学系内の収差によって、この回折限界を超えて増加され、その代わりにa=5及び
【数122】
によって説明される。
【0111】
同等の結果が、全て同じ
【数123】
の一連のLGラジアルモード(radial mode)
【数124】
における入射ビームの半径方向のプロファイルを広げることによって得られる。より高いpモードからの貢献は、
【数125】
に対する
【数126】
のほぼ線形の依存性と、図10(c)において主要な最大値を取り巻く回折フリンジとの両方で明白である。たとえ純粋な
【数127】
モードを使用してSLMを照射しても、開口数が高い光トラッピングシステムの開口が限定されることにより、比較できる線形のスケーリングがもたらされる。
【0112】
半径の位相チャージに対する線形の依存性は、光学渦巻の局所的な角運動量のフラックスにも影響する。図12(a)のデータは、大きな値の
【数128】
に対する式(31)に基づいて、トラップされた粒子が1つの回路スケールを完了するために必要な時間
【数129】
を示す。しかしながら、
【数130】
の場合は、周期は予想されたものよりも一貫して大きい。同様に、
【数131】
は小さいパワーに対して予想されたようにPと共に変化するが、Pが増加するにつれて大きくなる傾向がある。
【0113】
これら両方の意外な効果は、異常な回折光学素子によって作られた光学渦巻の細部の構造に帰することができる。各有効な位相画素が、半径がΣ=1.7mmの対物レンズの入射口径に投影される場合、およそ10Aに広がる。そのようなアポダイズされたビームを数的に変換することにより、図12(a)の挿入図面の中で示されたような2
【数132】
の強度波形のパターンが現れる。
【0114】
光学渦巻の方位角の強度変調は、ほぼ正弦波状のポテンシャルを確立する。このポテンシャルを通って、粒子は平均の局所的な角運動量のフラックスによって駆動される。発明者らはリングの周りの弧長sに対する強度の依存性を下記のようにモデル化する。
【数133】
ここで、αは変調の深さであり、
【数134】
はその波長番号である。発明者らの実験的なシステムの中の
【数135】
に対して、qは
【数136】
とはほとんど無関係である。
【0115】
この変調された強度は、トラップされた球体に対して2つの接線方向の力を作用させる。1つは、下記のような転送された角運動量による。
【数137】
ここで、発明者らは光子当たりの局所的な角運動量のフラックス
【数138】
を想定する。前因子A0は粒子の散乱する断面のような形態係数を含む。また、発明者らは
【数139】
を近似した。他は、下記のような、光の強度内の勾配に対する偏光可能な粒子の応答による光学勾配力である。
【数140】
ここで、εは勾配力の相対的強度を設定する。式(36)と(37)を組み合わせることにより、下記の接線方向の力が生成される。
【数141】
ここで、発明者らは無関係の位相因子を切り捨て、また
【数142】
である。例え相対的な強度変調αが1よりもはるかに小さい場合でも、ε及びηの両方を一層大きくすることができる。その場合、固定したPで
【数143】
を減らすことにより、温度Tにおける熱エネルギーのスケールβ-1=kBTに関連した変調の深さが増加され、また粒子を局所的なポテンシャルの最小値において動けなくさせることができる。このように変調されたポテンシャルは有効なドラグを増加させる。
【0116】
より明示的に説明すると、強い粘性減衰を有する傾斜した正弦波状のポテンシャルに沿った粒子の動きは、下記のランジュバンの式によって説明される。
【数144】
ここで、γは粘性抵抗係数、Γ(t)はゼロ平均のランダムサーマルフォース、及びF(s)は式(38)によって与えられる。関連のあるアンサンブル平均した移動度μは、下記の形式で表すことができる。
【数145】
ここで、
【数146】
は変調がkBTに達する位相チャージである。この結果は、下記のように与えられる。
【数147】
ここで、T1=A0/(2πγR1P1)は、変調がない場合のP=P1における
【数148】
に対する予想周期である。図12(b)の実線の曲線はT1、
【数149】
及びηに関して式(40)及び(41)に対する適合から結果として生ずる。結果T1P1/P=1msec、
【数150】
及びη=19は、図12(b)の挿入図面の中で示された強く変調されたポテンシャルと一致している。粒子は光学渦巻の周りをスムーズに進行するのではなく、光学渦巻のトルクによってバイアスされた方向に、ポテンシャル井戸間で熱的に活性化されてホップする。
【0117】
式(40)で
【数151】
をPT/Pで置き換えると、図12(b)に示すように、固定した
【数152】
に加えられたパワーに対する周期の依存性に類似した結果を得ることができる。ここで、
【数153】
は、変調の深さがkBTに達するパワーである。図12(a)から得られたηを用いると、P=1.5W以上の球体の運動は、簡単なスケーリングによって予想されたものよりも遅いだけでなく、その運動は発明者らのモデルの予想よりも遅いことを見出した。パワーが高い場合の周期の発散は、光学系内の収差から結果として生じた
【数154】
の光学渦巻上の局所的な「ホットスポット」による。そのようなホットスポットは、螺旋状ビームの中の単一粒子のダイナミックスを研究する以前の試みを混乱させている。ホットスポットの電位井戸はまたパワーを増加すると深まるため、それらは形式T(P)=THexp(P/PH)の指数関数的に増加する残留時間で粒子を保持する。図12(b)のデータは、TH=5msec及びPH=270mWに一致する。そのようなローカリゼイションは、P=1W以上のパワーに対してのみ波形に起因するドラグに匹敵するようになり、このため、図12(a)のデータには影響しない。
【0118】
強度変調の遅れの影響にもかかわらず、単純なスケーリングの関係式、式(31)は、光学渦巻の周りの粒子の運動を説明する場合に非常に好適である。この成功は、各光子が
【数155】
を、ビームの全体的な角運動量の密度だけでなく、螺旋状の光ビームの局所的な角運動量のフラックスに対して与えるという論点を強く支持する。この一致は、
【数156】
モードとは異なり、実際的な光学渦巻の半径がその位相チャージと共に線形に変化するという発明者らの観察にかかっている。アポダイズされた光学渦巻内の波形は、M. C. Escherの不可能な階段(impossible staircase)を実現するだけでなく、使用する可能性のある傾斜した正弦波状のポテンシャルに大きく減衰した駆動機構を加えるための滅多にない機会を提供する。実際的なブラウンラチェット(Brownian ratchet)として、このシステムは、分子モータによる駆動機構、ジョセフソン接合のアレイ内の電圧ノイズ、及びタイプIIの超伝導体内の磁束フローのような関連した現象に密接な関係がある洞察力を約束する。光学渦巻上で複数の粒子を予備的に観察することにより、ジャミングから、光学渦巻が顕微装置(microscopic machine)内の動きを駆動するための潜在的な用途に対する増大する仕事との協同性まで移行するのを利用する機会も示唆される。
【0119】
幾つかの光学渦巻及び光学渦巻の使用に関連して前に説明した一般的な概念は、下記のように位相チャージに対して線形に変化する実際的な光学渦巻の極めて一般的な種類に対して可変の半径を説明することによって明らかにできる。
【数157】
ここで、λは光の波長、fはビームを光トラップに収束させるレンズの焦点距離、またΣはレンズの入射開口部の半径である。収差のない光学系に関しては、数値解析によりa=2.585及び
【数158】
であると示される。この結果は、全てが
【数159】
であることを要求するような以前発表した予想とは定性的に異なっている。この基本的な結果は、この開示内容の中で説明された本発明に対する基礎である。
【0120】
光学渦巻を従来具体化する場合、ピッチが一定の螺旋状の光ビームを全て考慮した。換言すると、位相の導関数
【数160】
は、θとは無関係に選択された。このことは、(一定の)位相チャージ
【数161】
の3つの異なる値に対して図13に示されている。これら全ての場合では、結果は完全に円形の光学渦巻であるため、その半径はθとは無関係である。
【0121】
発明者らはこの結果を、φ(θ)=φ(θ+2π)mod2πという条件で、φ(θ)をθの一般的な(及び、単純に線形でない)関数に設定することによって一般化する。その結果、発明者らは、収束された光のパターンを単純な環形から下記のようなより一般的なプロファイルに変換する。
【数162】
【0122】
光トラップの幾何形状をうまく作るためのこの一般的な方式の第1の実際的な実証として、発明者らは、次のように、正弦波変調を光学渦巻の線形の角度依存性に加える効果を検討する。
【数163】
ここで、αはm倍変調の振幅であり、βはその向きを設定する。発明者らはこの位相変調を、図10(a)に示した従来の動的なホログラフィック光ピンセットのシステムを用いて実現した。図14(a)〜図14(i)は、
【数164】
固定した変調深さα=0.1、及びm=2からm=10の範囲の変調に対する収束及び変調された光学渦巻の像を示す。
【0123】
通常の光学渦巻と同様に、変調された渦巻の半径方向の強度構造は、位相φ(θ)の局所的な勾配に関係している。しかしながら、この勾配は下記のような角度θの関数のように一定ではない。
【数165】
また、この変調は、光によって示された花のようなリサージュのパターン(Lissajous pattern)の中に反射される。予想されたように、実験的に決定された半径は、下記のように角度と共に変化する。
【数166】
【0124】
特に、所定の変調mについては、形状及び寸法が変調の性質に依存する渦巻の周りに、少なくともmの強度のローブが常に存在する。この正弦波の例に対して、半径は組合せ
mαに依存し、組合せmα<0の場合は別のローブ
【数167】
が現れるため、変調はr=0を通過する。この影響は、図15において
【数168】
=60の4倍に変調された渦巻に対して示されている。
【0125】
R(θ)の極値は、角度(θj)=2πj/m+βにおいて発生する。このため、図14(a)〜図14(i)及び図15(a)〜図15(e)のようなパターンは、βを変化させることによって連続的に回転することができる。同じ効果は、光軸の回りのφ(θ)をコード化する位相マスクを回転することによって得ることができる。これには、変調された光学渦巻によって照射された非対称の物体を制御可能に回転させ、回転の大きさをオフセット角βによって制御するための潜在的な用途がある。
【0126】
変調された光学渦巻を作るために使用された光は、パターンの弧長に沿って均一に分配される。(θ)が最大のときにこの弧長は最も急速に増大するため、パターンの外側の先端は強度が高くない。この強度変調は、φ(θ)の半径方向の依存性によって変えることもできる。
【0127】
もし
【数169】
という条件が成り立てば、変調された光学渦巻は、照射された物体に移すことができる軌道角運動量をなおも運ぶ。照射された物体に加えられた局所的な力iは、拡大された光トラップの弧長に対してもはや一定ではなく、φ(θ)の細部に対して複雑な方法で依存する。このことにも、結果として生じた力の密度によって駆動される高分子や小さい粒子を混合及び分類するための潜在的な用途がある。
【0128】
まさに光ピンセット、従来の光学渦巻、及び他の前述した光トラッピングモダリティを作ることができ、また動的なホログラフィック光ピンセットの技術と組み合わせることができるように、変調された光学渦巻を従来の方法を使用することにより、均質及び異質な配列の中で作ることもできる。
【0129】
好ましい実施形態を図示し説明してきたが、当業者が変更や修正を本発明から逸脱せずにその広い態様の中で行うことができることは理解されたい。本発明の様々な特徴は、下記の特許請求の範囲の中で定義される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】1つの光ピンセット用の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図2】1つの操作可能な光ピンセット用の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図3】回折光学素子を使用する従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図4】入射した光ビームに対して傾斜した光学素子を使用する、別の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図5】回折光学素子を使用して連続的に移送可能な光ピンセット(トラップ)のアレイを有する、従来技術のシステムを示す図である。
【図6】光ピンセットのアレイを使用して粒子を操作し、同時に光トラップのアレイを目視観察するための像も形成する、従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図7A】図6の従来技術の光学システムを使用する光ピンセット(トラップ)による4x4のアレイの像を示す図である。
【図7B】トラッピング照射が消えた直後で、球体が拡散する前の、図7Aの光ピンセットによる水中に浮遊している直径が1マイクロメータの像を示す図である。
【図8A】位相チャージ(topological charge)
【数170】
を有する理想的な光学渦巻の計算された像を示す図である。
【図8B】図8Aの同じ渦巻の計算された像を示すが、渦巻をコード化する回折光学素子の中心をその開口部の直径の5パーセントだけ変位させた図である。
【図8C】渦巻を形成する位相マスクの光軸からのより大きな変位、この場合は開口部の直径の10パーセントを示す図である。
【図9A】歪みのない渦巻を示す図である。
【図9B】10λの球面収差を受ける渦巻を示す図である。
【図9C】10λのコマ収差の影響を示す図である。
【図9D】10λの非点収差の影響を示す図である。
【図9E】10λの像面湾曲の影響を示す図である。
【図9F】10λの糸巻き形歪みの影響を示す図である。
【図10(a)】動的なホログラフィック光ピンセットシステムの概略図である。
【図10(b)】図10(a)のシステムに加えられる位相マスクである。
【図10(c)】対物レンズの焦点面内にミラーを配置することによって得られた
【数171】
の光学渦巻の像である。
【図10(d)】
【数172】
の光学渦巻の周りを移動する1つのコロイド状の球体の1/6秒間隔の微速度撮影した像である。
【図11】位相チャージ
【数173】
上の光学渦巻の半径
【数174】
の依存性を示す図であり、挿入図面は図10(c)の像から
【数175】
における方位角によって平均化された強度を示す。
【図12(a)】コロイド状の球体が光学渦巻の1つの回路を完了するために必要な時間を示す図である。点線の曲線は式(11)によって予想されたスケーリングを示し、実線の曲線はP=500mWに対して位相チャージへの
【数176】
の依存性を有する式(20)及び式(21)に対する適合から結果として生ずる。挿入図面は、同じ縮尺で
【数177】
における計算されたパターンと比較された、強度が減少した位置で測定された
【数178】
の光学渦巻の円周の約1/4の波形が付いた強度分布を示す。
【図12(b)】
【数179】
に対して印加されたパワーに対する
【数180】
の依存性を示す図である。点線の曲線は局在化されたホットスポットの影響を含み、挿入図面は、
【数181】
及びP=500mWに対する図12(a)及び図12(b)におけるデータへの適合から計算された潜在的なエネルギーの展望を示す。
【図13】
【数182】
の光学渦巻の位相依存性及び像を示す図である。
【図14(a)−(i)】
【数183】
で、mが2から10まで整数のステップで変化する場合の変調された渦巻の依存性を示す図である。
【図15(a)−(e)】振幅変調αが0.1,0.3,0.5,0.7,及び0.9にそれぞれ変化する場合の変調された渦巻m=4の依存性を示す図である。
【図16(a)】コロイド状の球体が光学渦巻の1つの回路を完了するために必要な時間を示す図である。挿入図面は、同じ縮尺で
【数184】
における計算されたパターンと比較された、強度が減少した位置で測定された
【数185】
の光学渦巻の円周の約1/4の波形が付いた強度分布を示す。
【図16(b)】
【数186】
に対して印加されたパワーに対する
【数187】
の依存性を示す図である。挿入図面は、
【数188】
に対する図16(a)及び図16(b)におけるデータへの適合から計算された潜在的なエネルギーの展望を示す。
【図17(a)】位相変調
【数189】
をTEM00形レーザビームの波面に転写する反射形空間光変調器の概略図である。この場合、変形されたビームは望遠鏡によって顕微鏡の対物レンズの後部開口部に中継され、顕微鏡の対物レンズはそのビームを光トラップに収束させる。従来の照明及びビデオカメラは物体の像をトラップの中に生成する。
【図17(b)】
【数190】
の光学渦巻をコード化する位相変調を示す図である。
【図17(c)】焦点面における結果として生じた光学渦巻の強度を示す図である。
【図17(d)】5秒以上にわたって1/6秒の間隔で測定された、光学渦巻の円周を移動する直径が800nmの1つのシリカの球体の軌道を示す図である。
【図18(a)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調を示す図である。
【図18(b)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調の予想される半径方向のプロファイルR(θ)を示す図である。
【図18(c)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調の実験に基づく強度分布を示す図である。
【図19】α=0.1で、m=2,4,及び6(上側の図)並びにm=4で、α=0.3,0.5,及び0.7(下側の図)の変調された光学渦巻を示す図である。α>αc≒0.25に対する下側のパターンの中に、矢印で示した接線力の方向に付加的なローブが現れる。また、全てのパターンは
【数191】
で作られ、目盛バーは1μmを示す。
【図20】2つの粒子が変調された光学渦巻の周りを通過している状態を示す図であり、ここでデータ点は、1/10秒の間隔で10秒間にわたって測定された直径が800nmのポリスチレンの球体の位置を示す。
【図21】横方向の光学アクセラレータの実行を示すプロットであり、この図では位相接合が2πを法としてプロットされる。
【図22】トラップを形成する対物レンズの焦点面内に結果として生じた強度プロファイルのプロットである。
【図23】焦点面の5マイクロメータ上の面内に像形成された、図21の位相変調から得た強度パターンを示すプロットである。
【図24】焦点面の5マイクロメータ下の面内に像形成された、図21の位相変調から得た強度パターンを示すプロットである。
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年3月4日に出願された米国仮特許出願第60/451,886号及び2002年9月16日に出願された米国仮特許出願第60/411,132号に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、グラント番号DMR−9880595のもとに国立科学財団によって、またグラント番号DMR−9730189のもとに国立科学財団の助成金によって与えられた契約番号UCHI−982/994による米国政府の支援によりなされたものである。
【0003】
[技術分野]
本発明は、物体を制御するための光トラップ又は光ピンセットに関し、特に、光軸に対して横方向に延びた経路に沿って物体に制御された力を加える光トラップに関する。本発明は、広くは、光学渦巻(optical vortex)を生成及び使用するための方法及び装置にも関係し、より詳細には、各種の位相マスクの1つを使用して、商業的に利用及び応用するために目的物に対して正確に制御されたトルクを印加するために選択された光学渦巻を確立することである。
【背景技術】
【0004】
液体の中に分散された小さな物体を操作するためにホログラフィック光トラップを使用できることは従来から周知である。例えば、材料の移送は、物理的なぜん動性ポンプの状態に似た、ホログラフ的に定義されたトラップのマニホールドを順次用いることにより、ぜん動性ポンピングに類似した過程によって行うことができる。そのような従来の方式では、いずれも、光軸に向かって横方向に移送することは、1つの光学強度パターンによって行うことはできず、3つ以上の別個のパターンの光トラップを投射する必要がある。一般化された光トラップ(光学渦巻として一般に知られている)に基づいた他の方式は、光軸に対して横方向の光のリング上に小さな物体をトラップし、これらのリングの周りの円形の軌道内で物体を駆動する。それによって生じた動きを使用して液体の流れを駆動し、これにより、光軸に対して横方向の面内において他の物体を移送することができる。そのような間接的な光学駆動方式には、光学渦巻の動作を助長する条件と、十分に広がりのある幾何的配置と、十分に遅い流速とが必要である。
【0005】
本発明の改良を最も良く理解してもらうために、図1は従来技術の方法及びシステムを示す。これらの方法及びシステムは、光学収差を特徴付けまたそれを取り除く本発明の特徴の利点に対して使用できる。図1の従来技術の光ピンセットシステム10では、単一の光ビーム12によって加えられた光学勾配力(optical gradient force)が、媒体16の中に分散された小さな誘電体粒子14を制御可能に操作するために使用される。この媒体16の光周波数における屈折率nmは、粒子14の屈折率よりも小さい。光学勾配力の性質は周知であり、またその原理は反射、吸収及び誘電率が低い粒子を操作できるように一般化されていることも同様に良く理解されている。これらの技術のいずれも以下に説明する本発明との関連で実行することができ、以下に用いる専門用語である光ピンセット、光トラップ及び光学勾配力のトラップの使用を含むものである。
【0006】
光ピンセットのシステム10は、粒子を操作するために必要とされる光トラッピング効果を実現するために必要な力を加えることができる光ビーム12(レーザ光など)を使用することによって利用される。従来型の光ピンセット10の目的は、収束光学素子(対物レンズ20など)の後部開口部24の中心に1つ以上の光ビームを投影することである。図1に示すように、光ビーム12の幅はWであり、光軸22に対する入射角はφである。光ビーム12は対物レンズ20の後部開口部24に入射し、前部開口部26から出射して、結像体(imaging volume)32の焦点面30内の焦点28にほぼ収束する。ここで、焦点28は光トラップ33の近くにある。一般に、どのような収束形光学システムも、光ピンセットのシステム10に利用することができる。
【0007】
光ビーム12がコリメートされたレーザ光であり、その軸が光軸22に一致する場合、この光ビーム12は、対物レンズ20の後部開口部24に入射し、結像体32内の対物レンズの焦点面30の中心点cの焦点に届けられる。光ビーム12の軸が光軸22に対して角度φだけ変位される場合、ビームの軸31及び光軸22は後部開口部12の中心点Bで一致する。この変位により、対物レンズ20の角度倍率に依存する量だけ視野に沿って光トラップの移動が可能にされる。2つの変数、すなわち、角度変位φ及び光ビーム12の変化する収束度を用いて、結像体32内の選択された位置に光トラップを形成することができる。複数の光ビーム12を異なる角度φ及び異なるコリメーションの度合いで後部開口部24に加えることにより、複数の光トラップ33を様々な位置に配列することができる。
【0008】
三次元の中で光トラッピングを実行するには、トラップされる粒子上で作られた光学勾配力が、光の散乱及び吸収から生じる他の放射圧力を超えなければならない。一般に、このためには、後部開口部24において光ビーム12の波面が適当な形状を有することが必要である。例えば、ガウス形TEM00の入射レーザ光については、ビームの直径wは、後部開口部24の直径にほぼ一致する必要がある。より一般的には、ビームプロファイル(ラゲール−ガウスのモードのような)の比較可能な条件を求めることができる。
【0009】
図2の別の従来技術のシステムでは、光ピンセットシステム10は、対物レンズ20の視野にわたって光トラップ33を移動することができる。望遠鏡34又は他の中継光学系は、レンズL1及びL2から構成され、図1の従来技術のシステムにおける中心点Bと光学的に共役な点Aを確立する。本発明の他の形態では、中継光学系は収差を最小にするために、複数の光学素子といった他の従来技術を利用することができる。図2のシステムでは、点Aを通過する光ビーム12は点Bも通過するため、光ピンセットシステム10を実現するための基本的な要求事項に適合している。コリメーションの度合いは、レンズL1及びL2を図2に示すように配置することによって維持される。さらに、望遠鏡34の転送特性(transfer property)は、対物レンズ20の後部開口部24の面において光ビーム12の角変位とその幅wを最適にするように選択することができる。前述したように、一般に、幾つかの光ビーム12を用いて幾つかの関連する光トラップを形成することができる。そのような複数のビーム12は、複数の独立した入射ビーム又は従来の反射及び/又は屈折光学素子によって操作された1つのビームから作り出すことができる。
【0010】
図3に示した他の従来のシステムでは、任意の光トラップのアレイを形成することができる。回折光学素子40は、実質的に、対物レンズ20の後部開口部24と共役の面42内に配置される。明確にするために、回折された出力ビーム44は1つしか示してないが、複数のそのようなビーム44を回折光学素子40によって作ることができることを理解されたい。回折光学素子40に入射する光ビーム12は、この回折光学素子40の特性に応じたパターンの出力ビーム44に分割される。それぞれの出力ビームは、点Aから放射する。このため、出力ビーム44も、前述した下流の光学素子の結果として点Bを通過する。
【0011】
図3の回折光学素子40は入射する光ビーム12に対して直角になるように示されているが、他の多くの構成も可能である。例えば、図4の従来技術のシステムでは、光ビーム12は光軸22に対して傾斜角βで到来し、回折光学素子40に対して直角ではない。この実施形態では、点Aから放射された回折ビーム44は、結像体32の焦点面52の中に光トラップ50を形成する(図1に最も良く示されている)。光ピンセットシステム10のこの構成では、入射した光ビーム12の回折されない部分54を光ピンセットシステム10から取り除くことができる。従って、この構成によりバックグラウンド光の少ない処理が可能になり、光トラップの形成における効率及び有用性が改良される。
【0012】
この回折光学素子40は、入射した光ビーム12を事前に選択された所望のパターンに分割するコンピュータ生成によるホログラムを含むことができる。そのようなホログラムを図3及び図4の光学素子の残りの素子と結合することにより、任意のアレイを作ることができる。これらのアレイでは、回折光学素子40を使用して、各回折ビームの波面を別々に成形する。このため、光トラップ50の三次元の配列を形成するために、光トラップ50を焦点面52の中だけでなく、別の位置にも配置することができる。
【0013】
図3及び図4の光ピンセットシステム10には、回折ビーム44を収束して光トラップ50を形成するために、対物レンズ20(又はフレネルレンズのような他の類似の機能的に等価な光学素子)などの収束光学素子も含まれる。さらに、望遠鏡34又は他の等価の転送光学系(transfer optics)は、上記の後部開口部24の中心点Bに対して共役である点Aを作る。回折光学素子40は、点Aを含む面内に置かれる。
【0014】
別の従来技術のシステムの形態では、望遠鏡34を使用しないで、任意の光トラップ50のアレイを作り出すことができる。そのような実施形態では、点Bを含む面内に回折光学素子40を直接配置することができる。
【0015】
光ピンセットシステム10では、静的な又は時間依存性の回折光学素子40のいずれも使用することができる。動的なすなわち時間依存性の素子については、時間的に変化する光トラップ50のアレイを作り出すことができ、これらのアレイをそのような特徴を利用するシステムの一部とすることができる。さらに、これらの動的な光学素子40を使用して、粒子及びマトリックス媒体を互いに相対的に能動的に移動させることができる。例えば、回折光学素子40を、コンピュータ生成のホログラフィックパターンを入射光に転写する液晶の位相変調アレイとすることができる。
【0016】
図5に示された別の従来技術のシステムでは、システムは光ピンセットのトラップ50を連続的に移動できるように構成することができる。ジンバルに搭載したミラー60は、その回転中心を点Aに置いて配置される。光ビーム12はその軸が点Aを通過するようにミラー60の表面に入射し、後部開口部24に投影される。ミラー60が傾斜することにより、ミラー60に対する光ビーム12の入射角が変化され、この機能を使用して結果として光トラップ50を移動することができる。第2の望遠鏡62がレンズL3及びL4から形成されて、点Aと共役の点A’を作る。点A’に置かれた回折光学素子40が次に、回折されたビーム64のパターンを作り出す。それぞれの回折されたビームは点Aを通り、光ピンセットアレイのシステム10内にピンセットトラップ50の1つを形成する。
【0017】
図5の実施形態の動作に当たっては、ミラー60がピンセットアレイ全体を一体として移動させる。この方法は光ピンセットのアレイを静止した基板と精密に位置合わせして、小振幅で急速な振動の変位によって光トラップ50を動的に硬化させるこのに有用であり、また一般的な移動能力が要求されるどのような用途に対しても有用である。
【0018】
試料ステージ(図示せず)を移動することにより又は望遠鏡34を調整することにより、光トラップのアレイ50を試料ステージに対して縦方向に移動することもできる。さらに、試料ステージを移動することによって、光ピンセットのアレイを試料に対して横方向に移動することもできる。この機能は、対物レンズの視野の範囲を超えた大規模な移動に対して特に好都合である。
【0019】
図6に示した別の従来技術のシステムでは、光学システムは、光ピンセット10によってトラップされた粒子の像を目視観察することができるように構成される。ダイクロイックビームスプリッタ70又は他の等価な光学ビームスプリッタが、光ピンセットシステム10の対物レンズ20と光学系(optical train)との間に挿入されている。図示した実施形態では、ビームスプリッタ70は、光ピンセットのアレイを形成するために使用される光の波長を選択的に反射し、他の波長を透過させる。このため、光トラップ50を形成するために使用される光ビーム12は高い効率で後部開口部24に送られ、一方像を形成するために使用される光ビーム66は、結像光学系(図示せず)を通過できる。
【0020】
光トラップの従来技術の用途が、図7A及び図7Bに示されている。回折光学素子40は、1つの光ビーム12と相互作用してコリメートされたビームの4x4のアレイを作り出すように設計される。532nmで動作する100mWの倍周波数ダイオードポンプ式Nd:YAGレーザは、光ビーム12に対してガウス形TEM00形状を提供する。図7Aでは、アレイの16個の主光ピンセット10の中でトラップされた16個のシリカの球体により後方散乱されたレーザ光によって、視野が部分的に照射されている。直径が1μmの球体が水中に分散され、顕微鏡のガラスのスライドと厚さが170μmのカバーガラスとの間の試料体積の中に配置される。ピンセットのアレイはカバーガラスを通して上方に投影され、カバーガラスの8μm上側で顕微鏡の上側のスライドの20μm以上下側の面内に配置される。シリカの球体は、16個の光ピンセット10のそれぞれの中に三次元で安定してトラップされる
【0021】
図7Bでは、光ピンセット10(トラップ)が消滅された1/30秒後において、球体がトラップ側から拡散する時間の前の、球体が光学的に組織化された配列が示されている。
【0022】
その結果、光ピンセット及び関連する光トラップは、強く収束された光ビーム内の強度勾配が及ぼす力を使用して、三次元で小さな物体の体積をトラップし、移動し、又は変更する。光トラッピングシステムの光学系に不正確な位置合わせ及び不完全な特性がある場合は、収差がトラッピングビームの中に取り込まれ、その強度勾配が減少され、またこれにより、その物体を操作する能力が低下される。一般的な方法では、光トラッピングシステムの中の光学素子は、光学結像システムを用いて収束された光トラップの外見上の品質を観察しながら、各素子の位置を組織的に調整することによって位置合わせされる。位置合わせが良好な光ピンセットは、焦点が正確に合い対称的になり、焦点が外れた場合は均一で対称的に広がる。この方法は、単純でかなり効率的であるが、一般的には最適な性能を実現することはなく、また光学系の位置合わせの定量的な評価を提供しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、特別な方法で光ビームの波面を変更する方法を含み、メゾスコピックな材料を操作するために有用な新しい種類の光トラップを作り出す。変更されたビームが焦点に導かれると、結果として生じた光トラップは光軸に対して横方向の力を作用する。この力を使用して、ナノクラスタ(nanocluster)、コロイド状粒子、及び生物学的細胞などのメゾスコピックな物体を移送するために使用できる。この新しい種類のトラップは、波面が少なくともほぼ平面であるレーザビームのような従来の光ビームから作られる。開口数が十分に大きいレンズを用いてそのようなビームを収束させると、光ピンセットとして周知の単一ビームの勾配力を有する光トラップを結果として生ずる。位相変調
【数1】
を用いて波面の位相を変更することにより、収束ビームの特性またこれにより結果として生じた光トラップの特性を変えることができる。このベクトル
【数2】
は、伝搬方向に対して横向きの面内のビームの軸(光軸)に対する位置である。
【0024】
本発明の目的は、複数の収差の無い光トラップを確立するための改良された方法及びシステムを提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、光学系における収差を補正するための方法を使用する、新規な方法及びシステムを提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、光学系における収差を補正するためにコンピュータのソフトウェアを使用する、新規な方法及びシステムを提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、小さな粒子の取扱いに関連した各種の商業的な用途に対して、複数のほとんど収差がない光トラップを確立するための改良された方法及びシステムを提供することである。これらの用途には、フォトニック回路の製造、ナノ複合材料(nanocomposite material)の用途、電子部品の製造、光電子素子、化学的及び生物学的なセンサアレイ、ホログラフィックデータ記憶マトリックスの組立て、組合せ化学の応用例(combinatorial chemistry application)の製造、コロイド状の自己集合の促進、及び生体物質の取扱いが含まれる。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、様々な商業的な用途の要求事項に適合するために、収差に対して補正された光学勾配の場の時間的及び空間的に変化する構成を構築するための、改良された方法及びシステムを提供することである。
【0029】
さらに、本発明の目的は、収差の効果を補正するために、光トラップのパターンに加えられるコード化された位相シフトパターンを使用するための新しい方法及びシステムを提供することである。
【0030】
本発明のさらに別の目的は、ほとんど収差のない静的及び/又は動的な光トラップを形成するために、1つの入力用レーザビーム、回折光学素子、収束レンズ、及びコード化された収束補正パターンを使用する改良された方法及びシステムを提供することである。
【0031】
本発明のまたさらに別の目的は、様々な商業的な用途のために、回折光学素子に入射するレーザビームを使用し、またさらに光トラップのアレイをスキャニングできるビームスキャニングシステムと共に収差補正パターンを用いる改良された方法及びシステムを提供することである。
【0032】
本発明のまたさらに別の目的は、光トラップにほとんど収差のない状態を保ちながら光トラップをスキャンするために、光ビーム、回折光学素子及び複数の望遠鏡レンズを備えた収差補正システムを用いる改良された方法及びシステムを提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、回折光学素子として時間依存のアドレス可能な位相シフト媒体(液晶位相シフトアレイなど)を用い、またその媒体により収差補正パターンをコード化する複数の独立に向けられた光トラップを作り出すための新しい方法を提供することである。
【0034】
本発明のさらに別の目的は、改良された光学渦巻の組並びにこれらの渦巻きを作成及び使用する方法を提供することである。
【0035】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、下記に示した添付の図面と併せて考慮すれば、その好ましい実施形態の次の説明から容易に明らかになるであろう。図面では、全体を通じて、同様の素子には同じ番号を付けてある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
光ビームの電界及び磁界は、下記のように複素数値化された位置の関数として説明することができる。
【数3】
ここで、
【数4】
は実数値の振幅であり、
【数5】
は実数値の位相である。本発明の好ましい形態は、入射した光ビームの位相
【数6】
のみを変調するステップを含む。
【0037】
波面が、一定の位相
【数7】
を以前に有していたような入射に対して、螺旋状の位相プロファイルを転写する利点がある。これは下記のように説明できる。
【数8】
【0038】
式(2)では、変数θは伝搬方向を横切る面内の光軸の回りの方位角であり、
【数9】
は位相チャージ(topological charge)として周知の整数の巻数である。結果として生ずる光の螺旋モードは、スポットではなくリングに収束する。さらに重要なことは、螺旋状ビームは、トラップされた物体に移すことができる軌道角運動量も保持している。こうして、結果として生じるトラップは、トルクを加え、光学渦巻として周知である。
【0039】
光学渦巻の中の角運動量のフラックスは、トラップされた粒子を光学渦巻の円周の周りに駆動することにつながるビームの線形運動量のフラックスの横方向成分の形態となる。準古典的な理論は、そのようなビーム内の各光子により
【数10】
が全体的な角運動量のフラックスに寄与することを明らかにしている。このように、全体的なトルクは、レーザビームのパワーP上の位相チャージ
【数11】
及び光学渦巻の半径
【数12】
並びに照射された物体の光学散乱特性に依存する。
【0040】
最近では、最大強度スケールの光学渦巻の半径は、下記の式のように位相チャージにほぼ直線的に変化することが確定されている。
【数13】
ここで、λは光の波長、NAは収束素子の開口数であり、またA≒0.4及び
【数14】
は光学系を通る均一に明るいビームの伝搬を説明する定数である。この線形の依存性は、収束素子の必然的に限定された開口部による回折から結果として生ずる。
【数15】
に対するこの線形の依存性は、光学渦巻の光学機械的な特性に対する予想のスケーリングにつながる。この特性を用いて、螺旋モードによって伝えられる角運動量の性質を精査することができる。特に、光学渦巻の円周上にトラップされた波長程度の粒子は、強度
【数16】
で照射される。ここで、Pは入射ビームのパワーである。これは、光子束が厚さがおよそλの帯域の中で渦巻の円周の周りに均一に広がると仮定している。各拡散された光子が
【数17】
に比例する角運動量を移送すると仮定すると、粒子の接線方向の速度は
【数18】
に比例することになる。光学渦巻の1つの回路を作るために必要な時間は、下記のように変化する。
【数19】
図16(a)のデータは、
【数20】
が
【数21】
の大きな値に対しては式(3)及び(4)に基づいて実際に変化することを示す。
【0041】
しかしながら、
【数22】
の場合は、周期は予想値よりも体系的に大きくなる。同様に、
【数23】
は小さいパワーに対して予想されたようにPに比例して変化し、Pが増加するにつれて増加する。言い換えると、粒子が強く押されると、粒子は緩やかに動く。これらの予期しない両効果は、画素化された回折光学素子によって作られた光学渦巻の精密な構造の結果とすることができる。この仕組みは、変調されたポテンシャルの中にブラウン移送を利用する新しい可能性を示している。
【0042】
各有効な位相画素は、対物レンズの入射瞳に投射される場合およそ10λに広がる。そのようなアポダイズされたビームを数値的に変形することにより、図16(a)に示すような、
【数24】
の強度波形のパターンが明らかにされた。これらはほぼ正弦波ポテンシャルを確立し、これにより、粒子を局所的な角運動量のフラックスによって駆動することができる。リングの周りの円弧の長さsに対する強度の依存性は、下記の式のようにモデル化される。
【数25】
ここで、αは変調の深さであり、
【数26】
は波数である。
【数27】
の場合、qは
【数28】
には無関係である。
【0043】
この変調された強度は、トラップされた球体に2つの接線分力を与える。1つは、下記のような転送された角運動量による。
【数29】
ここで、光子に対する
【数30】
の局所的な角運動量のフラックスが仮定される。前因子A0は、粒子の散乱断面積としてそのような幾何学的因子を含む。他は下記の式のような、局所的な強度勾配に対する分極性粒子の応答による光学勾配力である。
【数31】
ここで、εは勾配力の相対的な強度を設定する。式(6)及び(7)を組み合わせることにより、下記のように接線分力が生じる。
【数32】
ここで、関連性がない位相角が削除され、また
【数33】
である。αが1よりも遙かに小さい場合でも、ε及びηの両方は、かなり大きくすることができる。この場合、固定パワーで
【数34】
を減少させることにより、熱エネルギーのスケールkBTに対する変調の深さが増加され、粒子を局所的なポテンシャルの最小値の中でハングアップすることができる。このように、変調されたポテンシャルは有効なドラグを増加する。
【0044】
強い粘性減衰を有する傾斜した正弦波状ポテンシャルに沿った粒子の運動は、下記のランジュバンの式によって記述される。
【数35】
ここで、γは粘性抵抗係数であり、Г(t)はゼロ平均(zero-mean)のランダムサーマルフォース(random thermal force)である。付随する移動度μは、下記のように表すことができる。
【数36】
ここで、
【数37】
は、変調がkBTに達する位相チャージである。この結果を考えると、1つのサイクルの通過時間は、下記の式のようになる。
【数38】
ここで、
【数39】
は、変調のない場合のP=P1における
【数40】
に対する予想周期である。図16(a)及び図16(b)の実線の曲線は、T1、
【数41】
及びηに対して式(10)及び(11)に適合する。結果T1P1/P=1msec、
【数42】
及びη=19は、図16(b)への挿入図面の中で示された強く変調されたポテンシャルに一致している。粒子は光学渦巻の周りをスムーズに進行するのではなく、光学渦巻のトルクによってバイアスされた方向に、ポテンシャル井戸間で熱的に起動されてホップする。
【0045】
式(10)で
【数43】
をPT/Pで置き換えると、図16(b)に示すように、固定した
【数44】
に加えられたパワーに対する周期の依存性に類似した結果が生じる。ここで、
【数45】
は、運動量がkBTに達するパワーである。図16(a)から得られたη及びP1T1を用いると、P=1.5W以上の球体の運動は、モデルの予想よりも遅い。パワーが高い場合の周期の発散は、光学系内の収差から結果として得られた
【数46】
の光学渦巻上の局所的な「ホットスポット」による。そのようなホットスポットは、螺旋状ビームの中の単一粒子のダイナミックスを研究する以前の試みを混乱させている。ホットスポットはまたパワーを増加すると深まるため、それらは指数関数的に増加する残留時間で粒子を保持する。全体的な通過時間は、下記の式のようになる。
【数47】
【0046】
図16(b)のデータは、TH=5msec及びPH=270mWに一致する。ホットスポット内の局所性は、P=1W以上のパワーに対してのみ波形に起因するドラグに匹敵するようになり、このため、図16(a)のデータには影響しない。その結果、これらのデータによって、螺旋状ビームの角運動量密度の性質に対する知見が得られる。
【0047】
上記の式(3)は、螺旋状の位相プロファイルのピッチが均一でない可能性を説明するように一般化されている。所定の角度θにおける最大強度の半径R(θ)は、下記の式のように、波面の方位角の位相変調に関係する。
【数48】
この式は、下記の式による光学渦巻のヘリシティを変調することによって利用された。
【数49】
【0048】
結果として生じた変調された光学渦巻は、実際に半径のm倍の変調を有する。その深さはαに依存し、その向きはβによって決まる。変調された光学渦巻にトラップされたマイクロメータ規模のコロイド状の粒子の運動を研究することにより、これらは周囲R(θ)への接線方向の力をなおも働かせることが確かめられる。
【0049】
図17(a)に示すような光トラッピングシステムでは、反射形液晶空間光モジュレータ(SLM)を使用して、望ましい位相プロファイルφ(γ)をコリメートされたTEM00の光ビーム(λ=532nm)の波面に転写する。変更されたビームは、逆にされた光学顕微鏡に取り付けられた高いNAの対物レンズの入射瞳に中継される。レンズの焦点面内に配置されたミラーは、結果として生じた強度分布を光軸の後に戻すように反射して、取り付けられたビデオカメラ上に像を形成する。図17(b)は、
【数50】
の光学渦巻をコード化する典型的な位相マスクを示し、図17(c)は結果として生じた位相分布を示す。SLMは約50%の回折効率を有し、図17(c)の中心スポットは、入射ビームの回折されない部分から形成され、光軸上の中心に置かれた従来の光ピンセットである。SLMは0から2πラジアンの範囲で位相シフトを転写できるに過ぎないため、投射された位相関数はスキャロップされた様相を作るために、φ=2πでラップアラウンドする。
【0050】
光学渦巻が水中に分散されたコロイド状の微小球体のサンプルに投射されると、光学勾配力がこれらの球体を光のリング上に引き込み、ビームの軌道角運動量が、図17(d)に示すように、それらを円周の周りに駆動する。その結果として生じた運動が、極めて小さいサンプルの体積をポンピング及び混合する利点を示すような方法で、液体と粒子の両方の流れを引っ張って行く。
【0051】
図18(a)〜図18(c)は、光学渦巻の位相を周期的に変調することがどのようにその幾何形状に影響するかを示している。図18(a)の位相マスクは、
【数51】
の螺旋ピッチ上に重ね合わされた振幅α=0.1のm=5倍の変調を含む。式(13)を用いて予想された半径方向のプロファイルは図18(b)に示され、図18(c)の観察された強度分布に良く一致している。m=12、α=1及び
【数52】
までの変調された螺旋状の位相に対して、発明者らの装置を用いてかなり良好な一致が得られた。図19は、変調の深さαを固定してmを変化させること、及びmを固定してαを変化させることによって得られた典型的な強度パターンを示す。
【数53】
を超えて変調を増加させると、図19の最後の2つの像に示すように、最大強度の軌跡が原点を通過し、負のパリティ(negative parity)のローブを作る原因になる。
【0052】
均一な光学渦巻がトルクをトラップされた粒子に加えるのと同様に、変調された光学渦巻は接線分力を加えることができる。これらの力は、図20に示すように、極めて複雑な軌跡を通るように粒子を駆動できる。この例では、水中に分散された直径が800nmの2つのポリスチレンの球体が、3倍に変調された光学渦巻の周りを循環していることが示される。それぞれの球体は、約2秒で1つの回路を終了する。矢印で示された2つの球体は、300mWで、また
【数54】
、m=3及びα=0.1でトラップに沿って、湾曲した矢印によって示された方向に移動する。2つの別の球体が、回折されない中心スポットの中で静止した状態でトラップされる。球体が図17(a)〜図17(d)に示すように、多かれ少なかれ均一に従来の光学渦巻の周りを移動するのに対して、それらの球体はR(θ)が変調されたパターンの中で最小となるように最も急速に円運動する傾向がある。このことは、光はより小さい半径では最も強度が高くなるため、またSLMの有限の空間分解能によるアーチファクトはより大きな半径ではトラップの構造に対してより顕著な効果を有する傾向があるためという両方の理由のために現れる。強度が減少するより大きな半径では、図19に示すような、より深い変調のトラップを弱くする傾向がある。より深く変調されたパターンは、粒子を円運動させる方向ではなく粒子をビームに対して横方向に移動させる傾向がある。そのような光学的に仲介された分布は、マイクロ流体装置の中のサンプルを取り扱うために有用である。離散的な光ピンセットを移動することによる配送方法とは異なり、本発明による方式は1つの静的な回折光学素子を用いて実現できる。
【0053】
粒子を移動させることに加えて、変調された光学渦巻によって加えられた力を使用して、粒子の寸法、形状、及び光学特性に基づいて粒子を区別することができる。その結果、変調された光学渦巻は、メゾスコピックな寸法の材料を分類及び分別する原理も提供できる。
【0054】
式(14)のβを変化させることによって、変調された光学渦巻を任意の角度まで回転することができる。大きさがトラッピングパターンにほぼ等しい非対称的な物体はパターンの凹凸上に固定することができ、またその向きは位相角を変えることによって制御できる。深く変調された光学渦巻の負パリティのローブは、大きく照射された物体に対する全体的なトルクを取り消すために有用な逆方向の接線分力を働かせる。光学渦巻を従来の光ピンセットを用いて干渉することによって、また光トラップを楕円形の偏光を用いて作ることによって、類似の制御された回転が実現された。この方法を用いることにより、1つの光ビームによって、トラップされた物体の向きを機械的に調整することなく変えることができ、強度分布を式(4)により目標のサンプルの形状に対して調整することができ、また同じ装置が複数の独立した回転子を同時に作ることができる。これらの機能強化された能力により、変調された光学渦巻がマイクロ流体装置及びラボオンアチップ装置(lab-on-a-chip device)におけるポンプやバルブのようなマイクロ電気機械システム(MEMS)を動作させる用途が開かれる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、選択された効果及び用途を実現するために、位相関数を計算することができる。1つの実施形態では、制約のない光学強度のパターンのより一般的なクラスに式(13)を適用できる。特に、距離bの光軸への横方向の線を考慮する。極座標では、この線は下記の式を有する。
R(θ)=b/sinθ (15)
この式を式(13)に代入し、関連した位相変調を解くと、下記の式が得られる。
【数55】
【0056】
この位相関数は、図21においてプロットされている。実際には、入射する光ビームの位相を変調することができる位相専用空間光変調器(SLM)などの装置上で、この関数をコード化する必要がある。このため、説明するために、位相関数は一般的な損失を考慮せずに、2πを法としてプロットされる。
【0057】
焦点面すなわちトラップ形成用の対物レンズの中で結果として生じた強度プロファイルが、最大強度の線に沿った横方向の運動量の移動方向を示す矢印210及び220と一緒に、図22に示されている。実際には、線の強度は、光軸230からの距離rと共に1/r3/2で減少する。明確にするために、計算された強度は、図22ではr3/2で乗算されている。
【0058】
第1の注目点は、式(16)が光軸に対して横方向の、その長さに沿って角運動量を伝える線形の強度分布を首尾良く実現することである。このことは、式(13)がより一般的な用途に対してより一般的な強度分布を設計するためにも有用であることを確認することになる。従来は式(13)は、正弦波状に変調された光学渦巻を設計するためにのみ使用されてきた。このため、一般に、望ましい位相変調
【数56】
を解くために、所定の指定された動径ベクトル
【数57】
について式(13)を解くことができる。以後、各種の例が、放物線及び双曲線などの典型的なR(φ)プロファイルに対して提供される。
【0059】
図23〜図24は、焦点面の5マイクロメータ上及び下の面内に投影された、図21の同じ位相変調からの強度パターンを示す。これらの図は、焦点面内に平行なアクセラレータを形成する光ビームの強度分布の三次元構造に対する様相を示す。
【0060】
線形の横方向光学アクセラレータが、式(16)における対数依存性を合理的に処理するために、一対の反対に伝搬する線として現れる。別の種類の横方向光学アクセラレータは、この制約を共有しない。線のまだらな様相は、この回折パターンを計算するために使用される限定された分解能から結果として生ずる。特に、図21の位相パターンは、この実施形態を実証するために使用される物理的な装置を提供するために、480x480の位相画素の正方形のアレイから成る。
【0061】
この種類の好ましい横方向の光学アクセラレータには、マイクロ流体システム及びラボオンアチップ・システム用のサンプルを取り扱う場合に好都合な用途がある。図22にプロットされた強度を有する光がまた最大強度の位置に沿って線形の運動量を与えるため、これらの強度パターンは焦点面内の材料を移送するために使用できる。例えば、用途には高分子、コロイド状の粒子、ナノクラスタ、生物学上の細胞などをマイクロ流体チャネルを通して処理及び移動させることが含まれる。特に、そのような光学トランスレータは、物体を電気泳動、流体の流れ、磁気泳動又は他の外部操作方式を加えることができない又は実際的でないような領域に移動させるために使用できる。外部の了解又は電気的なアクセスを必要とする他の方式とは異なり、横方向の光学アクセラレータを用いる移送は光学的なアクセスしか必要としない。
【0062】
他のプロファイルR(θ)も、前述した線形形式に対して幾つかの利点を有する横方向の光学アクセラレータを生ずる。特定の例には、例えば下記が含まれる。
放物線:光軸上に中心がある
R(θ)=α/(1+cosθ) (17)
【数58】
双曲線:光軸上に焦点がある
【数59】
【0063】
これら両方のより一般的な横方向のアクセラレータはまた、動的なホログラフィック光ピンセット装置を用いて作られ、粒子を振幅aの記号によって決定された方向に移送することが実証されている。これらのパターンは、焦点が外れた強度パターンが焦点面内に全体的なパターンを保持するという点で、線形形式に対してかなりの利点を有する。その結果、これらの横方向のアクセラレータは、収差に対して適切に制御することにより、軸方向の光トラップとして動作し、このため、三次元のシステムの中央の平面の軌道に沿って材料を取り扱うことに対して有用である。
【0064】
本発明の好ましい形式では、ホログラフィック光ピンセットなどの勾配力を有する光トラップは、都合がよいことに、各種の光学収差を克服するように修正される。しかしながら、後で説明するように、この方法及びシステムは各種の光学システムに適合することができる。本発明の好ましい形式では、強く収束された光ビームによって加えられた力により光トラップを形成して、体積が小さい物体を正確に操作する。最適なトラッピングでは、各光ビームが回折限界の焦点に集まることが必要である。収差は焦点の質を劣化させ、このため、結果として生じた収束された光ビームがトラップとして動作する能力を低下させる。
【0065】
本発明は光トラッピングを最適にするように、1つ以上の光ビーム内の収差を補正することに関する。この特定の実施形態では、測定された収差に対する補正をコード化する位相シフト形回折格子を計算すること、及び1つ以上の光トラップのパターンをコード化する別の回折光学素子と併せて、この回折格子を投影することが含まれる。実際には、結合された回折光学素子は、位相専用空間光変調器(SLM)のようなコンピュータがアドレス可能な装置を用いて投影することができ、これにより、動的なホログラフィック光ピンセットのシステムの中で収差を動的に補正する手段を提供する。
【0066】
1つ以上の光トラップを作り、それぞれに際立った特徴を持たせるコンピュータ作成による回折光学素子(DOE)を使用することは、ホログラフィック光ピンセット(以後、HOTと呼ぶ)技術として周知である。SLM90(図10を参照のこと)のような更新可能な装置を用いて回折光学素子を投影することにより、別の操作が可能にされ、また動的なホログラフィック光ピンセット技術が静的なHOTから区別される。本発明は、動的なHOTに最も好適に適用される。静的だが取外し可能なDOEを使用するシステムでは、発明者らはそのDOEを静的な渦巻形成用の位相マスク100で置き換えることができる(図10及び図3〜図6のファントムを参照のこと)。結果として生じた渦巻の像を使用して、その特定の光学系に対して補正用の位相マスク100を計算することができる。最適化された位相マスク100は、他の静的なDOEを計算するために使用できる、又はシュミットのコレクタが反射望遠鏡の中で使用されるように、光学系を作りその中に組み込むことができる。位相マスク100は、種々のDOE素子(図3〜図5では参照番号40、図6では参照番号A)を2つの背中合わせに配置されたDOEで置き換えるような、周知の従来の形態を取ることができる。DOEの一方をトラップ形成素子、また他方のDOEを収差補正素子とすることができる。DOEの対を極めて接近させてまた任意の順序で配置することが好ましい。
【0067】
光ビーム内の5つの主な収差は、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲及び歪みとして特徴付けられる。これらの収差は、HOTシステム110(図10(a)を参照のこと)内の中継レンズや収束素子のような光学系の構成要素のわずかな位置合わせ不良によって、他の点では理想的なビームの中に持ち込まれる。光ビーム130の波面をその複素数値の場によって表すと、下記のようになる。
【数60】
ここで、
【数61】
は実数値の振幅であり、
【数62】
は実数値の位相である。光ビーム130内のどのような収差も、ビームの開口を横切る
【数63】
内の空間的な変動として表すことができる。
【0068】
発明者らは、一般性を失うことなく、収差のないビームをその波面を横切る一定の位相を有するコリメートされた平面波として特徴付けることができる。このため、5つの主要な収差を持ち込む場合、下記のように、この波面に加えられた従来の方式を使用できる。
【数64】
【0069】
ここで、ρ=r/aは、開口部の半径aを単位としたビームの軸からの半径であり、θは波面の面内の極座標の角度である。5つの係数a0〜a4及び関連している角度θ1,θ2及びθ4によって、ビームの収差が完全に特定される。
【0070】
これらの係数及び角度は、HOTシステム110を使用し、またビデオカメラ120などの結像システムを用いて結果として生じた光の像を作る1つ以上の光トラップを投影することによって測定することができる。係数のそれぞれに−1を乗算することにより、ビームの中に既にある収差を正確に打ち消す新しい収差のパターン
【数65】
が結果として生じる。このため、動的なHOTシステムの中でSLM90を用いて
【数66】
を投影することにより、光ビーム130内の収差が補正され、収差のない形態の光トラップが結果として生ずる。
【0071】
収差補正用の位相マスク100は他のトラップ形成用の回折パターンと結合して、これらのパターンのトラッピング能力を向上させることができる。例えば、特定のトラップのパターンをコード化する位相パターン
【数67】
を検討してみる。HOT光学システム110により投影されると、結果として生じたトラップは全て、光学系が発生した収差によって劣化する。下記の組合せ
【数68】
により、同じトラップのパターンが投影されるが、それらの収差は補正される。ここで、モジュラスオペレータ(mod operator)は、SLM90の表面に位相パターンをコード化するために必要なスケーリング及び離散化(discretization)を示す。
【0072】
同じ構造の位相パターンを使用して、HOTシステム110により投影された任意のトラッピングパターンを補正することができる。その結果、1回限りのキャリブレーション(one-time calibration)及び使用毎の補正(per-use correction)の組合せにより直接的な手段が提供されて、HOTシステム110の光学系の物理的な構成要素を位置合わせしたり調整したりすることなく、ソフトウェア制御の下で物理的にもたらされた収差を補正する。そのようなキャリブレーションを定期的に繰り返して、構成要素の物理的な位置合わせが長い間にずれる場合でさえも、収差の補正を最適に維持することができる。ソフトウェアの制御の下で、最適な位置合わせを動的に微調整することにより、商業的なHOTシステムに対する製作公差及び保守計画が緩やかになるという付加的な利点が提供される。
【0073】
本発明の好ましい形態は、光トラッピングシステム、また特に、SLM90又はトラッピング光の波面を成形することができる他の光学素子を取り入れるシステムを位置合わせする定量的な方法に関する。この方法は、動的なホログラフィック光ピンセットを位置合わせするために特に有用である。
【0074】
本発明の好ましい形態には、外観が位置合わせの不具合に明らかにまた敏感に左右される光学渦巻のような光のモードを投影することが含まれる。光学渦巻は、光を吸収する材料をトラップしたり操作したりすることを含む各種の用途に対して、光ピンセットの中で使用される光のモードである。光学渦巻は、入射するレーザの光ビーム130の位相プロファイルを、光学素子の位相シフト形式(すなわち、SLM90を用いることによって加えられたコンピュータが生成したDOE140の修正された形態のような位相マスク100)で修正することによって作られる。
【0075】
入射するレーザの波面は、その複素数値の場によって下記のように記載される。
【数69】
ここで、
【数70】
は実数値の振幅であり、
【数71】
はDOE面の中のシステムの光軸に対する位置
【数72】
における実数値の位相である。理想的な光学渦巻をコード化する位相変調は、
【数73】
である。ここで、θは、任意であるが固定された方向に対するDOE面の中の極座標の角度であり、
【数74】
は位相チャージとして周知の整数である。この位相変調によって媒介された弱めあう干渉及び強めあう干渉のために、波長λとほぼ同じ厚さで、位相チャージ
【数75】
に比例する半径Rを有するドーナッツ状の光のリングとして、光学渦巻がシステム110の焦点面に現れる。HOTシステム110の焦点面における光学渦巻の光学強度のパターンの典型的な例を、図8Aに示す。
【0076】
軸方向に対称的なガウス形入射レーザビームを用い、完全に位置合わせされた光トラッピングシステム内にある理想的な光学渦巻は、
【数76】
と設定することによって、均一に照射され、完全に円形で、また同じシステムを用いて投影された光ピンセットに対して中心に配置されるように見える。渦巻を通して上下に焦点を合わせることにより、収束された渦巻と同軸の位置に、大きくなる、ぼやけた円が確認できる。光学渦巻の構造は、位相関数
【数77】
の細部に敏感に依存する。光学素子の位置合わせ不良のような光学系内の不完全性により、位相プロファイルが変化し、これにより、渦巻の外観も変化する。例えば、位相マスク100内の光学渦巻をコード化する位相変調
【数78】
が光軸上の中心に置かれていない場合は(例えば、SLM90の位置合わせ不良のために)、渦巻の均一な円形の外観は、図8A及び図8Bに示すように、明るい部分と暗い部分の非対称的なパターンへと劣化する。そのような位置合わせ不良は、同じシステムを用いて投影された従来の光ピンセットの特性では容易に観察されないが、しかしそれにもかかわらず、特に複雑な光トラッピングのパターンのために性能が劣化する。
【0077】
光学系の中の他の位置合わせ不良はビームの中に収差をもたらし、図9A〜図9Fに示すように、投影された渦巻の外観に特徴的な歪みがはっきりと現れる。図10(a)のHOTシステムの実施例に示すような、システム110内の光学系に影響する5つの主要な収差には、コマ収差、非点収差、球面収差、像面湾曲及び歪みが含まれる。他の従来の収差もあるが、それらは本願で説明される方法に基づいてこのように処理することができる。
【0078】
各収差の要素は、投影された光学渦巻の構造の中にそれ自身の特定のシグナチャーを有する。球面収差は、図9Bに示すように、渦巻の直径を増加させまたその軸方向の強度の勾配を減少させる。さらに別の収差の影響では、コマ収差は渦巻を円形から歪ませて、光を再配分するため、図9Cのように、一方の側が他方よりも明るくなる。コマ収差とは異なり、非点収差は、図9Dに示すように渦巻を対称的な楕円に変形し、その強度を対称的に再配分する。像面湾曲は、図9Eに示すように、渦巻の強度を半径方向に沿って再配分し、また半径方向に沿って強度を減少させる。最大強度に対する典型的な急激な変化が和らげられる。最後に、歪みは、図9Fに示すように、渦巻の中心を光軸からずらす。これは、その影響が中心エラーによる影響に似ているという点で、特定するのがやや難しい収差である。しかしながら、歪みによるずれはリングの周りの強度分布に影響を与えないため、そのずれは中心エラーによる劣化から区別することができる。
【0079】
これらの歪みのそれぞれは、投影された渦巻の像を用いて、従来の光ピンセットの像において微かにしか得られない歪みよりも一層正確に測定することができる。さらに、従来のコンピュータによる結像システムを用いて、これらの歪みを定量的に測定することができる。この結果を使用して、HOTシステム110内の各種の物理的な光学素子の位置合わせを向上させることができる。別の方法では、また選択的に、測定された欠陥に対して正確に補償するような位相マスク100を計算することによって、測定された歪みをソフトウェアで補正することができる。その結果得られた収差補正用の位相マスク100を、光トラップの望ましい配列をコード化する他のDOEの中に組み込むことができる。このように、収差補正用の位相マスク100はDOEが発生したトラップにおける収差を補正し、これにより、性能が向上する。
【0080】
収差の測定及び補償は、コンピュータの管理のもとで修正された渦巻のパターンを交互に投影し、その結果生じた強度分布を測定することによって、自動的に行うことができる。
【0081】
この方法の実用性を示す例として、発明者らは図10に概略的に図示した特定のHOTシステム110を位置合わせするために使用することを検討する。位置合わせされた素子には、レーザの光ビーム130、SLM90、転送光学系140、及び顕微鏡の対物レンズ150が含まれる。理想的には、レーザの光ビーム130は、単一のガウスモード又は光軸160に対して対称的な他の任意の周知のモードとすることができる。これにより、システム110が完全に位置合わせされると、投影された光学渦巻の円周の周りの強度が確実にされる。光学系が位置合わせされると、光ビーム130は、SLM90の中心に達し、光軸160に沿って転送光学系140の中の各レンズの中心を通過し、中心に配置された対物レンズの後部開口部に入射し、またレンズの入射瞳を満たしてごく僅かにあふれさせる。
【0082】
図10(a)では、コリメートされたレーザの光ビーム130が、コンピュータでアドレスされたSLM90の前面に入射する。ビームの波面にこのSLM90によって与えられた位相変調95
【数79】
は、1つの入射した光ビーム130をそれぞれが別個に指定された特性を有する複数の光ビーム135に分割する。これらの複数のビーム135は、望遠鏡の構成をした2つのレンズによって開口数が高い収束素子の後部開口部に中継される。この収束素子は、本願では顕微鏡の対物レンズ150として図示されている(従来から使用可能な任意の収束素子も使用できる)。このレンズは、各ビームを別個の光トラップに収束させる。サンプル面内に一時的に配置されたミラーの表面に、投影された光135を収束させることができる。このミラーによって反射された光は同じ対物レンズ150によって集光され、ダイクロイックミラー155を通過して、取り付けられたCCDカメラ120上に像160を形成する。これにより、焦点面内の光の強度
【数80】
を直接測定できるようになる。
【0083】
理想的な位置合わせからの逸脱は、どのようなものであっても、光学渦巻の外観中に容易に検出される。例えば、中継レンズ145の光軸に対する位置合わせ不良は結果としてコマ収差を発生し、図9Cのように、投影された渦巻を劣化させる。光軸に対してレンズ145を傾けると、外観が異なる非点収差が取り込まれる。レンズ145又はSLM90上の表面の形状が不完全な場合は、それぞれ固有の外観を呈する歪み又は球面収差がもたらされることがある。渦巻の像に対するこれらの欠陥の影響は、直線的に結合する必要はない。例えそうでも、非線形の反復検索アルゴリズム(iterative search algorithm)を使用して、変形された渦巻の像を中心エラー及び5つの主要な収差の影響を取り入れたモデルに適合することができる。そのような適合することから得られたパラメータを使用して、中心エラーを補償したり、他の収差を補正するための最良の位相マスク95を計算することができる。この方法及びシステムの出来具合は、仮に補正された光学渦巻を投影して、その歪みの特徴を調べることによって評価することができる。
【0084】
最も好ましい実施形態では、収差の補正を実行する特定の順序には、下記のような一連のステップが含まれる。
【0085】
光軸をビデオカメラ上に配置し、
【数81】
のような均一な位相パターンをSLM90に送る。これにより、結果として1つの回折されないビームが発生する。このビームは、SLM90によってミラー155の鏡面上に投影され、そこからビデオカメラ120に戻される。このビームのビデオカメラ120の面上の位置が、光軸の位置を定義する。発明者らはこの位置を
【数82】
と示す。
【0086】
入射するレーザビーム130の強度は、回折されないスポットがカメラ120上で見えるが、それを飽和しないように調整される必要がある。回折されないスポットを視野の中に配置できない場合は、光学系が次に進むには大きくずれているため、物理的な位置合わせが必要である。
【0087】
トラッピングシステムの幾何学的配置の確立:設計されたトラッピングパターンと投影された結果との間の空間的な関係は、3つのパラメータによって、すなわち、SLM90上の
【数83】
方向におけるスケーリング係数mx、SLM90上の
【数84】
方向における別のスケーリング係数my、及びSLM90とビデオカメラ120との間の相対的な配向θによって説明することができる。発明者らはこのセクションでは、結像システムによるどのような歪みも前もって測定及び補正されていると仮定する。3つのパラメータは、キノフォーム(kinoform)をSLM90に送り、4x4の正方形のパターンなどの単純なトラップのアレイをコード化し、またディジタルビデオの顕微鏡検査法の標準的な方法を用いて結果として生じた強度を焦点面内に像形成することによって測定することができる。特に、発明者らは、各収束された光のスポットに対する強度の中心に基づいて、投影されたトラップのそれぞれの位置を測定する。スケールファクタmx及びmy並びに配向θを引き出すために、計算幾何学による方法を用いて、トラップの相対的な分離を分析することができる。幾つかの光ピンセットの実施形態で必要とされるように、SLM90が入射するレーザビーム130に対して斜めの角度で位置合わせされる場合は、2つのスケールファクタは同一である必要はない。別の実施形態で垂直な入射が望ましい場合は、mx及びmyが等しくないという判定結果を利用して、SLMの光軸に対する傾斜を測定することができる。
【0088】
この動作に当たっては、入射するレーザビーム130の強度は、回折されたスポットがビデオカメラ120上で見えるが、それを飽和させないように調整される必要がある。一旦スケールファクタ及び配向が分かると、それらを用いて、トラップを正確に視野の中に配置し、またSLMの光軸に対する位置合わせによるトラッピングパターン内の歪みを取り除くことができる。
【0089】
SLM上への光軸の配置:一旦視野の中心及びスケーリングフィルタが確立されると、それらを使用して、SLM90の表面の光軸が通過する位置を突き止めることができる。これを行うために、発明者らは光学渦巻をコード化するSLM90にキノフォームを送って、SLMの表面にレーザビームが斜めに入射することによる全てのスケールファクタの補正値を考慮に入れる。mx=myの光学系に対して、位相パターン
【数85】
は、対応する光学渦巻のトラップに収束するような、位相チャージが
【数86】
の螺旋状となるラゲール−ガウス形ビームへとガウス形の入射レーザビームを変換する。このパターンは、前のステップに現れた任意の非対称性を説明するために、直接的な方法で修正される。
【0090】
光学系が適切に位置合わせされる場合、光学渦巻が、光軸の中心に位置した環状の強度パターンで円周の周りの強度が均一になるように収束するはずである。しかしながら、位相パターンの中心が光軸に位置合わせされていない場合は、歪曲した環状形の中に不均一な強度となるよう光のリングが収束する。ソフトウェアの制御の下で位相パターンをSLM90の表面に送ることにより、投影された渦巻の円形、ビデオカメラにおける光軸の中心、及び均一性を最適化することができる。
【0091】
投影された渦巻の外観を最適化するSLM面内のオフセットρ0は、SLM90の面上における光軸の位置として識別される。この測定値を使用して、SLM90の物理的な位置を光軸がその面の中心に位置するように調整することができる。この場合、前述した2つのステップを繰り返す必要がある。
【0092】
別の方法では、測定されたオフセットを使用して、SLM面上の他のキノフォームをそれらの中心が光軸と位置合わせされるように中心に配置することができる。この方式は、オフセットがあまり大きくない場合は、物理的な装置にどのような変更も要求せずに適用できる。物理的な位置合わせと視覚的な位置合わせの組合せは、特定の用途に対して最良の結果を提供する。
【0093】
有効な入射開口の測定:対物レンズ150、中継光学系(いくつかのレンズ145)及びSLM90が組み合わせて光学系とされる。この光学系の有効開口は先験的に知られているものではないと推測されるか、又は光学系の位置合わせの細部に依存する。SLM90の面上の光軸に対する開口の半径Rは、望ましいトラッピングパターンを作るためのキノフォームの能力に影響する可能性があり、システムに対してキノフォームを計算するために使用するファクタとなることが理想的である。
【0094】
一旦ρ0が前のステップで決定されると、
【数87】
と設定することによって前のステップの渦巻形成用のキノフォームを修正することにより、事実上の開口を確立することができる。ここで、Φ0は|ρ−ρ0|≧Rに対する定数である。RがSLM面の物理的に有効な開口よりも大きい場合は、この修正によってビデオカメラ130内の渦巻の外観が変わることはない。投影された渦巻の外観の変化が見えるまで連続的にRが減少されるようなキノフォームを投影することにより、開口の半径を設定することができる。
【0095】
開口がSLMの面の寸法に匹敵するようになる場合には、このことは有効な開口の寸法及び形状の両方として使用される。一旦有効な開口が測定されると、それはこの開口に対して最適化されたキノフォームを計算するために使用できる。この値は、結像システムの長さスケールの較正と共に、光学渦巻の予想される外観を計算するために必要とされる。計算された外観と測定された外観の偏差は、光学系の位置合わせにおける他の欠陥を評価及び補正するために使用できる。
【0096】
球面収差に対する測定及び補正:光学渦巻の外観を使用して、現在の光学系の種類が属する、前に説明した5つの主要な収差を測定することができる。これらの収差は、中継光学系すなわちレンズ145の、例えば、光軸に対する個々のレンズの傾き又は変位による位置合わせ不良によってもたらされる。それらはSLM90を照射するために使用される入射ビームに固有のものである。実際に、それらは、これらの幾つかの組合せによってもたらされることがある。
【0097】
一旦収差が測定されると、それらの程度を用いて、物理的な光学系が再位置合わせを必要とするか否かを評価することができる。必要とする場合は、全ての先行するステップを繰り返すことが好ましい。別の場合は、測定された収差を使用して、補償用の位相マスクを計算することができる。この位相マスク95をトラップのパターンをコード化するキノフォームと結合して、結果として生じたトラッピングパターンにおける収差を補正することができる。
【0098】
この補償用の位相マスク95の複雑性により、システムが投影できるトラッピングパターンの複雑性が制限される。補償用の位相マスクの複雑性を、その空間的な相関関数を調べることなどによって測定することにより、物理的な光学系が再位置合わせを必要とするか否かを決定するための別の方法が提供される。
【0099】
1つの光学渦巻の強度分布を分析することによって十分な結果が得られるが、各種の渦巻の測定を繰り返すことにより、歪み測定の精度が向上され、また上記の分析では行われない不均一な照射などの別の不完全な点が強調されるようになる。
【0100】
この方法はまた、入射するレーザの光ビーム130のプロファイルを研究するための迅速で容易な方法である。このプロファイルの知識により、ビームを修正するためのハードウェアの教育された調整が可能になる。入射するビームプロファイルの知識はまた、HOTに対して使用される位相マスク100がビームプロファイルの想定に基づいて作られ、またHOTは正しいビームプロファイルが使用される場合は最も効率的であるため極めて有用である。CCDカメラ120を用いる画像形成のような他の方法は、同様のビームの分析を可能にするが、これは非侵襲的な技術であり、特別な装置やセットアップ時間を必要とせず、測定の間に物理的な位置合わせを乱す潜在的な危険はない。
【0101】
本発明の別の形態では、制御されたトルクを、寸法がナノメータから数百マイクロメータまた恐らくさらに大きな寸法まで広がる物体に加えるために、光学渦巻を使用することができる。
【0102】
螺旋ビームを、各種のモード変換器を用いて従来の光モードから発生することができる。この場合、大抵の実施形態では
【数88】
の範囲の位相チャージを発生する。それに対して、動的なホログラフィック光ピンセットは、最大
【数89】
の螺旋モードを発生することができるので、どのように光学渦巻の特性がそれらの螺旋性に依存するかを研究するためには理想的である。
【0103】
図10(a)に示した発明者らのシステムは、Hamamatsu X7550形の平行配向のネマチック液晶空間光変調器(SLM)を使用して、コンピュータが発生した位相シフトのパターン(例えば、図10(b)を参照のこと)を周波数倍増したNd:YVO4レーザ(Coherent Verdi社)からのλ=532nmのTEM00ビームの波面に転写する。変調された波面は望遠鏡によって、Zeiss Axiovert S100TV形の倒立光学顕微鏡の中に取り付けられた100倍でNAが1.4の油浸対物レンズの後部開口部に送られる。この対物レンズは光を光トラップに、この場合は単一の光学渦巻に収束させる。同じレンズを使用してトラップされた粒子の像を形成することもでき、またダイクロイックミラーはこれらの像を取り付けられたビデオカメラに中継する。
【0104】
SLMは光の位相を、480x480の正方形のアレイの中の各々が幅40μmの画素の範囲が0≦φ≦2πラジアンの150の明確なレベルのいずれかにシフトすることができる。較正された位相の伝達関数は、レーザの出力に無関係である。別個の近似値を入射ビームの位相変調
【数90】
に転写することにより、
【数91】
において効率が50パーセントの螺旋モードが発生する。より高い位相チャージではSLMの空間分解能が限定されるため、この効率は減少する。図10(c)は、対物レンズの焦点面の中に配置されたミラーによって反射された
【数92】
の光学渦巻のディジタル像である。図10(d)は、カバーガラスと顕微鏡のスライドとの間の厚さが85μmの水の層の中で光学渦巻の円周上にトラップされた、直径が800nmのコロイド状のポリスチレンの1つの球体の複数の時間差照射を示す。光学渦巻から吸収された角運動量は、500mWの印加されたパワーの2秒より少し短い時間で円周の周りの球体を1度乾燥させる。図10(d)の像は、1/6秒の間隔で移行する11の段階を示す。同じ粒子が、螺旋性がどのように光学渦巻の強度分布及び局所的な角運動量のフラックスに影響するかを立証するために、異なる位相チャージ及び印加パワーを用いて研究された。
【0105】
一般に、ほぼコリメートされた光ビームの波動関数
【数93】
は、近軸のヘルムホルツの式の固有モードの重ね合わせとして、下記のように表すことができる。
【数94】
【0106】
螺旋ビームについては、自然基底(natural basis)は、半径方向の依存性が下記の式を有するラゲール−ガウス
【数95】
の固有モードの組である。
【数96】
ここで、
【数97】
は一般化されたラゲールの多項式であり、wはビームの半径[1]である。
【数98】
【0107】
モード
【数99】
の強度は、自身の螺旋状のトポロジーだけでなく、自身の振幅がr=0に沿って消滅するために、自身の軸に沿ってゼロになる。半径指数(radial index)pのモードは、半径が
【数100】
と共に変化する強度最大値のp+1の同軸のリングを有する。実験的に観察される光学渦巻は、焦点面内の環形の光によって特徴付けられ、その結果として、p=0のモードにより識別される。このため、光学渦巻の中にトラップされた粒子の動作は、
【数101】
のモードの特性に照らして説明される。
【0108】
例えば、
【数102】
のモードの最大強度は、半径
【数103】
において発生する。そのような渦巻の円周上にトラップされた波長スケールの粒子は、強度
【数104】
で照射される。ここで、Pは入射ビームのパワーであり、発明者らは、光子束が渦巻の円周の周りの厚さがおよそλの帯域内に均一に広がると想定する(図11を参照のこと)。平均すると、各分散された光子は、
【数105】
に比例する角運動量を転送する。このため、粒子の接線方向の速度は
【数106】
に比例する必要があり、渦巻の1つの回路を作るために必要な時間は、下記のように比例する必要がある。
【数107】
実際、
【数108】
の場合、粒子の速度は
【数109】
とは無関係であるはずであり、周期は
【数110】
のように変化する。
【0109】
発明者らの装置によって作られた光学渦巻はまた光のリングとして現れるため、同じように変化することが期待される。しかしながら、図11のデータは、定性的に異なる動作を表している。発明者らは、図10(c)のようなディジタイズされた像から、角度に対して平均化して、ピーク強度の半径を捜し出すことによって
【数111】
を得ている。一連の渦巻を
【数112】
ではなく、異なる値の
【数113】
で投影することにより、
【数114】
が位相チャージにより線形に変化することが明らかにされる。
【0110】
この著しい不一致は、位相変調されたビームに対する対物レンズの動作を考慮することによって説明できる。焦点距離fのレンズの焦点面内の場は、スカラー回折理論では、フーリエ変換により、入射開口における(従って、SLMの面における)場に関連付けられる。螺旋ビームを始めに角度に対して変換することにより、下記の式が得られる。
【数115】
ここで、
【数116】
は第1種の
【数117】
番目のベッセル関数であり、Σは入射開口の半径である。均一な照射に対してu(r−f)=u0と設定することにより、下記の式が得られる。
【数118】
ここで、ξ=krΣ/(2/f)である。
【数119】
における主要な最大値の半径Σは、下記の式によって極めて良く近似される。
【数120】
ここで、a=2.585であり、
【数121】
である。図11の実験による半径は、発明者らの光学系内の収差によって、この回折限界を超えて増加され、その代わりにa=5及び
【数122】
によって説明される。
【0111】
同等の結果が、全て同じ
【数123】
の一連のLGラジアルモード(radial mode)
【数124】
における入射ビームの半径方向のプロファイルを広げることによって得られる。より高いpモードからの貢献は、
【数125】
に対する
【数126】
のほぼ線形の依存性と、図10(c)において主要な最大値を取り巻く回折フリンジとの両方で明白である。たとえ純粋な
【数127】
モードを使用してSLMを照射しても、開口数が高い光トラッピングシステムの開口が限定されることにより、比較できる線形のスケーリングがもたらされる。
【0112】
半径の位相チャージに対する線形の依存性は、光学渦巻の局所的な角運動量のフラックスにも影響する。図12(a)のデータは、大きな値の
【数128】
に対する式(31)に基づいて、トラップされた粒子が1つの回路スケールを完了するために必要な時間
【数129】
を示す。しかしながら、
【数130】
の場合は、周期は予想されたものよりも一貫して大きい。同様に、
【数131】
は小さいパワーに対して予想されたようにPと共に変化するが、Pが増加するにつれて大きくなる傾向がある。
【0113】
これら両方の意外な効果は、異常な回折光学素子によって作られた光学渦巻の細部の構造に帰することができる。各有効な位相画素が、半径がΣ=1.7mmの対物レンズの入射口径に投影される場合、およそ10Aに広がる。そのようなアポダイズされたビームを数的に変換することにより、図12(a)の挿入図面の中で示されたような2
【数132】
の強度波形のパターンが現れる。
【0114】
光学渦巻の方位角の強度変調は、ほぼ正弦波状のポテンシャルを確立する。このポテンシャルを通って、粒子は平均の局所的な角運動量のフラックスによって駆動される。発明者らはリングの周りの弧長sに対する強度の依存性を下記のようにモデル化する。
【数133】
ここで、αは変調の深さであり、
【数134】
はその波長番号である。発明者らの実験的なシステムの中の
【数135】
に対して、qは
【数136】
とはほとんど無関係である。
【0115】
この変調された強度は、トラップされた球体に対して2つの接線方向の力を作用させる。1つは、下記のような転送された角運動量による。
【数137】
ここで、発明者らは光子当たりの局所的な角運動量のフラックス
【数138】
を想定する。前因子A0は粒子の散乱する断面のような形態係数を含む。また、発明者らは
【数139】
を近似した。他は、下記のような、光の強度内の勾配に対する偏光可能な粒子の応答による光学勾配力である。
【数140】
ここで、εは勾配力の相対的強度を設定する。式(36)と(37)を組み合わせることにより、下記の接線方向の力が生成される。
【数141】
ここで、発明者らは無関係の位相因子を切り捨て、また
【数142】
である。例え相対的な強度変調αが1よりもはるかに小さい場合でも、ε及びηの両方を一層大きくすることができる。その場合、固定したPで
【数143】
を減らすことにより、温度Tにおける熱エネルギーのスケールβ-1=kBTに関連した変調の深さが増加され、また粒子を局所的なポテンシャルの最小値において動けなくさせることができる。このように変調されたポテンシャルは有効なドラグを増加させる。
【0116】
より明示的に説明すると、強い粘性減衰を有する傾斜した正弦波状のポテンシャルに沿った粒子の動きは、下記のランジュバンの式によって説明される。
【数144】
ここで、γは粘性抵抗係数、Γ(t)はゼロ平均のランダムサーマルフォース、及びF(s)は式(38)によって与えられる。関連のあるアンサンブル平均した移動度μは、下記の形式で表すことができる。
【数145】
ここで、
【数146】
は変調がkBTに達する位相チャージである。この結果は、下記のように与えられる。
【数147】
ここで、T1=A0/(2πγR1P1)は、変調がない場合のP=P1における
【数148】
に対する予想周期である。図12(b)の実線の曲線はT1、
【数149】
及びηに関して式(40)及び(41)に対する適合から結果として生ずる。結果T1P1/P=1msec、
【数150】
及びη=19は、図12(b)の挿入図面の中で示された強く変調されたポテンシャルと一致している。粒子は光学渦巻の周りをスムーズに進行するのではなく、光学渦巻のトルクによってバイアスされた方向に、ポテンシャル井戸間で熱的に活性化されてホップする。
【0117】
式(40)で
【数151】
をPT/Pで置き換えると、図12(b)に示すように、固定した
【数152】
に加えられたパワーに対する周期の依存性に類似した結果を得ることができる。ここで、
【数153】
は、変調の深さがkBTに達するパワーである。図12(a)から得られたηを用いると、P=1.5W以上の球体の運動は、簡単なスケーリングによって予想されたものよりも遅いだけでなく、その運動は発明者らのモデルの予想よりも遅いことを見出した。パワーが高い場合の周期の発散は、光学系内の収差から結果として生じた
【数154】
の光学渦巻上の局所的な「ホットスポット」による。そのようなホットスポットは、螺旋状ビームの中の単一粒子のダイナミックスを研究する以前の試みを混乱させている。ホットスポットの電位井戸はまたパワーを増加すると深まるため、それらは形式T(P)=THexp(P/PH)の指数関数的に増加する残留時間で粒子を保持する。図12(b)のデータは、TH=5msec及びPH=270mWに一致する。そのようなローカリゼイションは、P=1W以上のパワーに対してのみ波形に起因するドラグに匹敵するようになり、このため、図12(a)のデータには影響しない。
【0118】
強度変調の遅れの影響にもかかわらず、単純なスケーリングの関係式、式(31)は、光学渦巻の周りの粒子の運動を説明する場合に非常に好適である。この成功は、各光子が
【数155】
を、ビームの全体的な角運動量の密度だけでなく、螺旋状の光ビームの局所的な角運動量のフラックスに対して与えるという論点を強く支持する。この一致は、
【数156】
モードとは異なり、実際的な光学渦巻の半径がその位相チャージと共に線形に変化するという発明者らの観察にかかっている。アポダイズされた光学渦巻内の波形は、M. C. Escherの不可能な階段(impossible staircase)を実現するだけでなく、使用する可能性のある傾斜した正弦波状のポテンシャルに大きく減衰した駆動機構を加えるための滅多にない機会を提供する。実際的なブラウンラチェット(Brownian ratchet)として、このシステムは、分子モータによる駆動機構、ジョセフソン接合のアレイ内の電圧ノイズ、及びタイプIIの超伝導体内の磁束フローのような関連した現象に密接な関係がある洞察力を約束する。光学渦巻上で複数の粒子を予備的に観察することにより、ジャミングから、光学渦巻が顕微装置(microscopic machine)内の動きを駆動するための潜在的な用途に対する増大する仕事との協同性まで移行するのを利用する機会も示唆される。
【0119】
幾つかの光学渦巻及び光学渦巻の使用に関連して前に説明した一般的な概念は、下記のように位相チャージに対して線形に変化する実際的な光学渦巻の極めて一般的な種類に対して可変の半径を説明することによって明らかにできる。
【数157】
ここで、λは光の波長、fはビームを光トラップに収束させるレンズの焦点距離、またΣはレンズの入射開口部の半径である。収差のない光学系に関しては、数値解析によりa=2.585及び
【数158】
であると示される。この結果は、全てが
【数159】
であることを要求するような以前発表した予想とは定性的に異なっている。この基本的な結果は、この開示内容の中で説明された本発明に対する基礎である。
【0120】
光学渦巻を従来具体化する場合、ピッチが一定の螺旋状の光ビームを全て考慮した。換言すると、位相の導関数
【数160】
は、θとは無関係に選択された。このことは、(一定の)位相チャージ
【数161】
の3つの異なる値に対して図13に示されている。これら全ての場合では、結果は完全に円形の光学渦巻であるため、その半径はθとは無関係である。
【0121】
発明者らはこの結果を、φ(θ)=φ(θ+2π)mod2πという条件で、φ(θ)をθの一般的な(及び、単純に線形でない)関数に設定することによって一般化する。その結果、発明者らは、収束された光のパターンを単純な環形から下記のようなより一般的なプロファイルに変換する。
【数162】
【0122】
光トラップの幾何形状をうまく作るためのこの一般的な方式の第1の実際的な実証として、発明者らは、次のように、正弦波変調を光学渦巻の線形の角度依存性に加える効果を検討する。
【数163】
ここで、αはm倍変調の振幅であり、βはその向きを設定する。発明者らはこの位相変調を、図10(a)に示した従来の動的なホログラフィック光ピンセットのシステムを用いて実現した。図14(a)〜図14(i)は、
【数164】
固定した変調深さα=0.1、及びm=2からm=10の範囲の変調に対する収束及び変調された光学渦巻の像を示す。
【0123】
通常の光学渦巻と同様に、変調された渦巻の半径方向の強度構造は、位相φ(θ)の局所的な勾配に関係している。しかしながら、この勾配は下記のような角度θの関数のように一定ではない。
【数165】
また、この変調は、光によって示された花のようなリサージュのパターン(Lissajous pattern)の中に反射される。予想されたように、実験的に決定された半径は、下記のように角度と共に変化する。
【数166】
【0124】
特に、所定の変調mについては、形状及び寸法が変調の性質に依存する渦巻の周りに、少なくともmの強度のローブが常に存在する。この正弦波の例に対して、半径は組合せ
mαに依存し、組合せmα<0の場合は別のローブ
【数167】
が現れるため、変調はr=0を通過する。この影響は、図15において
【数168】
=60の4倍に変調された渦巻に対して示されている。
【0125】
R(θ)の極値は、角度(θj)=2πj/m+βにおいて発生する。このため、図14(a)〜図14(i)及び図15(a)〜図15(e)のようなパターンは、βを変化させることによって連続的に回転することができる。同じ効果は、光軸の回りのφ(θ)をコード化する位相マスクを回転することによって得ることができる。これには、変調された光学渦巻によって照射された非対称の物体を制御可能に回転させ、回転の大きさをオフセット角βによって制御するための潜在的な用途がある。
【0126】
変調された光学渦巻を作るために使用された光は、パターンの弧長に沿って均一に分配される。(θ)が最大のときにこの弧長は最も急速に増大するため、パターンの外側の先端は強度が高くない。この強度変調は、φ(θ)の半径方向の依存性によって変えることもできる。
【0127】
もし
【数169】
という条件が成り立てば、変調された光学渦巻は、照射された物体に移すことができる軌道角運動量をなおも運ぶ。照射された物体に加えられた局所的な力iは、拡大された光トラップの弧長に対してもはや一定ではなく、φ(θ)の細部に対して複雑な方法で依存する。このことにも、結果として生じた力の密度によって駆動される高分子や小さい粒子を混合及び分類するための潜在的な用途がある。
【0128】
まさに光ピンセット、従来の光学渦巻、及び他の前述した光トラッピングモダリティを作ることができ、また動的なホログラフィック光ピンセットの技術と組み合わせることができるように、変調された光学渦巻を従来の方法を使用することにより、均質及び異質な配列の中で作ることもできる。
【0129】
好ましい実施形態を図示し説明してきたが、当業者が変更や修正を本発明から逸脱せずにその広い態様の中で行うことができることは理解されたい。本発明の様々な特徴は、下記の特許請求の範囲の中で定義される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】1つの光ピンセット用の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図2】1つの操作可能な光ピンセット用の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図3】回折光学素子を使用する従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図4】入射した光ビームに対して傾斜した光学素子を使用する、別の従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図5】回折光学素子を使用して連続的に移送可能な光ピンセット(トラップ)のアレイを有する、従来技術のシステムを示す図である。
【図6】光ピンセットのアレイを使用して粒子を操作し、同時に光トラップのアレイを目視観察するための像も形成する、従来技術の方法及びシステムを示す図である。
【図7A】図6の従来技術の光学システムを使用する光ピンセット(トラップ)による4x4のアレイの像を示す図である。
【図7B】トラッピング照射が消えた直後で、球体が拡散する前の、図7Aの光ピンセットによる水中に浮遊している直径が1マイクロメータの像を示す図である。
【図8A】位相チャージ(topological charge)
【数170】
を有する理想的な光学渦巻の計算された像を示す図である。
【図8B】図8Aの同じ渦巻の計算された像を示すが、渦巻をコード化する回折光学素子の中心をその開口部の直径の5パーセントだけ変位させた図である。
【図8C】渦巻を形成する位相マスクの光軸からのより大きな変位、この場合は開口部の直径の10パーセントを示す図である。
【図9A】歪みのない渦巻を示す図である。
【図9B】10λの球面収差を受ける渦巻を示す図である。
【図9C】10λのコマ収差の影響を示す図である。
【図9D】10λの非点収差の影響を示す図である。
【図9E】10λの像面湾曲の影響を示す図である。
【図9F】10λの糸巻き形歪みの影響を示す図である。
【図10(a)】動的なホログラフィック光ピンセットシステムの概略図である。
【図10(b)】図10(a)のシステムに加えられる位相マスクである。
【図10(c)】対物レンズの焦点面内にミラーを配置することによって得られた
【数171】
の光学渦巻の像である。
【図10(d)】
【数172】
の光学渦巻の周りを移動する1つのコロイド状の球体の1/6秒間隔の微速度撮影した像である。
【図11】位相チャージ
【数173】
上の光学渦巻の半径
【数174】
の依存性を示す図であり、挿入図面は図10(c)の像から
【数175】
における方位角によって平均化された強度を示す。
【図12(a)】コロイド状の球体が光学渦巻の1つの回路を完了するために必要な時間を示す図である。点線の曲線は式(11)によって予想されたスケーリングを示し、実線の曲線はP=500mWに対して位相チャージへの
【数176】
の依存性を有する式(20)及び式(21)に対する適合から結果として生ずる。挿入図面は、同じ縮尺で
【数177】
における計算されたパターンと比較された、強度が減少した位置で測定された
【数178】
の光学渦巻の円周の約1/4の波形が付いた強度分布を示す。
【図12(b)】
【数179】
に対して印加されたパワーに対する
【数180】
の依存性を示す図である。点線の曲線は局在化されたホットスポットの影響を含み、挿入図面は、
【数181】
及びP=500mWに対する図12(a)及び図12(b)におけるデータへの適合から計算された潜在的なエネルギーの展望を示す。
【図13】
【数182】
の光学渦巻の位相依存性及び像を示す図である。
【図14(a)−(i)】
【数183】
で、mが2から10まで整数のステップで変化する場合の変調された渦巻の依存性を示す図である。
【図15(a)−(e)】振幅変調αが0.1,0.3,0.5,0.7,及び0.9にそれぞれ変化する場合の変調された渦巻m=4の依存性を示す図である。
【図16(a)】コロイド状の球体が光学渦巻の1つの回路を完了するために必要な時間を示す図である。挿入図面は、同じ縮尺で
【数184】
における計算されたパターンと比較された、強度が減少した位置で測定された
【数185】
の光学渦巻の円周の約1/4の波形が付いた強度分布を示す。
【図16(b)】
【数186】
に対して印加されたパワーに対する
【数187】
の依存性を示す図である。挿入図面は、
【数188】
に対する図16(a)及び図16(b)におけるデータへの適合から計算された潜在的なエネルギーの展望を示す。
【図17(a)】位相変調
【数189】
をTEM00形レーザビームの波面に転写する反射形空間光変調器の概略図である。この場合、変形されたビームは望遠鏡によって顕微鏡の対物レンズの後部開口部に中継され、顕微鏡の対物レンズはそのビームを光トラップに収束させる。従来の照明及びビデオカメラは物体の像をトラップの中に生成する。
【図17(b)】
【数190】
の光学渦巻をコード化する位相変調を示す図である。
【図17(c)】焦点面における結果として生じた光学渦巻の強度を示す図である。
【図17(d)】5秒以上にわたって1/6秒の間隔で測定された、光学渦巻の円周を移動する直径が800nmの1つのシリカの球体の軌道を示す図である。
【図18(a)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調を示す図である。
【図18(b)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調の予想される半径方向のプロファイルR(θ)を示す図である。
【図18(c)】m=5,α=0.1で変調された光学渦巻に対する位相変調の実験に基づく強度分布を示す図である。
【図19】α=0.1で、m=2,4,及び6(上側の図)並びにm=4で、α=0.3,0.5,及び0.7(下側の図)の変調された光学渦巻を示す図である。α>αc≒0.25に対する下側のパターンの中に、矢印で示した接線力の方向に付加的なローブが現れる。また、全てのパターンは
【数191】
で作られ、目盛バーは1μmを示す。
【図20】2つの粒子が変調された光学渦巻の周りを通過している状態を示す図であり、ここでデータ点は、1/10秒の間隔で10秒間にわたって測定された直径が800nmのポリスチレンの球体の位置を示す。
【図21】横方向の光学アクセラレータの実行を示すプロットであり、この図では位相接合が2πを法としてプロットされる。
【図22】トラップを形成する対物レンズの焦点面内に結果として生じた強度プロファイルのプロットである。
【図23】焦点面の5マイクロメータ上の面内に像形成された、図21の位相変調から得た強度パターンを示すプロットである。
【図24】焦点面の5マイクロメータ下の面内に像形成された、図21の位相変調から得た強度パターンを示すプロットである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波面が少なくともほぼ平面状である光ビームを提供するステップと、
十分大きな開口数を有するレンズを用いて光ビームを収束させて、単一ビームの勾配力を有し、横方向の光学勾配力の成分を有する光トラップを作るステップと、
前記光ビームの光軸に対して横向きの力を作用させるために前記光トラップを使用するステップと
を含む、メゾスコピックな粒子を操作する方法。
【請求項2】
収束された光ビームの特性を、位相変調を用いて修正するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光ビームがレーザビームであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位相変調が
【数1】
であり、
【数2】
は進行方向を横切る面内での前記光ビームの軸に対する位置であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記光トラップによって加えられた力によってメゾスコピックな物体が移送されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記メゾスコピックな物体がナノクラスタを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記メゾスコピックな物体がコロイド状の粒子を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記メゾスコピックな物体が生物学的細胞を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
光学トラッピングシステムを規定する光学系中に現れる収差を補正する方法であって、
モニター装置上に光軸を配置するステップと、
前記光学トラッピングシステムの幾何配置を確立するステップと、
前記光軸を空間光変調器の上に配置するステップと、
前記空間光変調器の上の前記光軸に対して有効な入射開口を測定するステップと、
前記光学系の中に現れる全ての収差を測定するステップと、
前記光学系の中に現れる測定された収差を補正するステップと
を含む方法。
【請求項10】
前記モニター装置がビデオカメラを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記測定された収差が前記光学系を再位置合わせすることによって補正されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記測定された収差が、
補償用の位相マスクを計算するステップと、
収差を補正するために、前記補償用の位相マスクを、トラップのパターンをコード化するキノフォームに組み合わせるステップと
によって補正されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記光学系が再位置合わせを必要とするかどうかを判断するために、前記補償用の位相マスクの複雑性が測定されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記測定された収差が球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪み及びこれらの組合せから成るグループから選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記収差がコンピュータ結像システムを用いて測定されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記光学トラッピングシステムの幾何配置が、
キノフォームを前記空間光変調器に送るステップと、
トラップのアレイをコード化するステップと、
前記焦点面内の結果として生じた強度を像形成するステップと
によって識別されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記光学トラッピングシステムの幾何配置が、各投影されたトラップの位置を各収束された光のスポットに対する強度の中心に基づいて測定することによって識別されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項18】
均一の位相パターンを前記空間光変調器に送り、前記空間光変調器に、ビームを前記モニター装置に反射する鏡面上に、回折されないビームを投影させることによって、前記光軸が前記モニター装置上に位置決めされ、前記モニター装置上のビームの位置が前記光軸の位置を規定することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記ビームがレーザビームを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記レーザビームの強度が、回折されない領域が前記モニター装置を飽和させることなく前記モニター装置上に現れるように調整されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項1】
波面が少なくともほぼ平面状である光ビームを提供するステップと、
十分大きな開口数を有するレンズを用いて光ビームを収束させて、単一ビームの勾配力を有し、横方向の光学勾配力の成分を有する光トラップを作るステップと、
前記光ビームの光軸に対して横向きの力を作用させるために前記光トラップを使用するステップと
を含む、メゾスコピックな粒子を操作する方法。
【請求項2】
収束された光ビームの特性を、位相変調を用いて修正するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光ビームがレーザビームであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位相変調が
【数1】
であり、
【数2】
は進行方向を横切る面内での前記光ビームの軸に対する位置であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記光トラップによって加えられた力によってメゾスコピックな物体が移送されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記メゾスコピックな物体がナノクラスタを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記メゾスコピックな物体がコロイド状の粒子を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記メゾスコピックな物体が生物学的細胞を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
光学トラッピングシステムを規定する光学系中に現れる収差を補正する方法であって、
モニター装置上に光軸を配置するステップと、
前記光学トラッピングシステムの幾何配置を確立するステップと、
前記光軸を空間光変調器の上に配置するステップと、
前記空間光変調器の上の前記光軸に対して有効な入射開口を測定するステップと、
前記光学系の中に現れる全ての収差を測定するステップと、
前記光学系の中に現れる測定された収差を補正するステップと
を含む方法。
【請求項10】
前記モニター装置がビデオカメラを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記測定された収差が前記光学系を再位置合わせすることによって補正されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記測定された収差が、
補償用の位相マスクを計算するステップと、
収差を補正するために、前記補償用の位相マスクを、トラップのパターンをコード化するキノフォームに組み合わせるステップと
によって補正されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記光学系が再位置合わせを必要とするかどうかを判断するために、前記補償用の位相マスクの複雑性が測定されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記測定された収差が球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪み及びこれらの組合せから成るグループから選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記収差がコンピュータ結像システムを用いて測定されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記光学トラッピングシステムの幾何配置が、
キノフォームを前記空間光変調器に送るステップと、
トラップのアレイをコード化するステップと、
前記焦点面内の結果として生じた強度を像形成するステップと
によって識別されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記光学トラッピングシステムの幾何配置が、各投影されたトラップの位置を各収束された光のスポットに対する強度の中心に基づいて測定することによって識別されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項18】
均一の位相パターンを前記空間光変調器に送り、前記空間光変調器に、ビームを前記モニター装置に反射する鏡面上に、回折されないビームを投影させることによって、前記光軸が前記モニター装置上に位置決めされ、前記モニター装置上のビームの位置が前記光軸の位置を規定することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記ビームがレーザビームを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記レーザビームの強度が、回折されない領域が前記モニター装置を飽和させることなく前記モニター装置上に現れるように調整されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2006−500237(P2006−500237A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571987(P2004−571987)
【出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/028535
【国際公開番号】WO2004/025668
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(503449775)ユニヴァーシティ・オヴ・シカゴ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/028535
【国際公開番号】WO2004/025668
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(503449775)ユニヴァーシティ・オヴ・シカゴ (2)
【Fターム(参考)】
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