説明

光学ガラスの製造方法

【課題】速い速度でアニール処理を行ってもアッベ数が規格外とならないようにアッベ数の補正をする光学ガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】複数種類のガラス原料を溶解して予備ガラスを得る工程と、予備ガラスを溶解して光学ガラスを製造する工程を有する光学ガラスの製造方法であって、第1の予備ガラスと、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所望のアッベ数を有する光学ガラスを製造することができる光学ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学素子の素材となっている光学ガラスは、アニール処理(歪み抜き)を経てから製品化される。製品化前にアニール処理することで、光学ガラスの歪抜き、及び屈折率調整がなされる。
【0003】
アニール処理は、1)成形品をバッチやレヤー等の徐冷炉に投入後、設定された温度まで昇温する工程、2)設定された温度で一定時間保持する工程、3)一定速度で降温する工程からなる。屈折率は2)及び3)の工程で決定され、通常0.2℃/分以下の遅い速度で降温させて屈折率を調整する。
【0004】
しかしながら、例えば、レヤーを用いてアニール処理を行う場合、降温速度を0.2℃/分以下とすると、アニール処理に時間がかかるとともに設備が大きくなり、設備投資が増大するという問題があった。又、成形終了後から品質検査完了までに要する時間が長くなり、作業効率が悪くなるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、屈折率は、溶融ガラスの素材(カレット性能)で調整し、アニール処理は歪み抜きのみを行い、降温速度を2℃/分以上と速い速度で降温する方法(いわゆる高速アニール)が提案されており、成形品の成形後数時間で歪の小さい成形品を製造することができるとともに成形と品質検査結果との時間差を減少させている。
【0006】
しかしながら、降温速度を増加させると屈折率の変動が大きくなるとともにアッベ数の変動も大きくなる。さらに、アニール処理ラインごとによっても屈折率及びアッベ数の変動量が異なることがあり、成形品の硝種によってはアッベ数が所望の値から大きくずれ、例えば予め定められた規格外となる場合もあった。従って、降温速度の早いアニール処理のような、屈折率やアッベ数が所望の値から大きくずれうる環境においても、それらを所望の値に適宜調節できるような方法が求められていた。
【0007】
このため、例えば特許文献1では、アニール処理等により変動する屈折率を予測し、複数種の屈折率を有するガラス原料を混合させることにより、所望の屈折率を有する光学ガラスを製造する方法を提案している。
【特許文献1】特開2006−104001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を用いても、ガラスの成分によっては屈折率が時間とともに大きく変動してしまう場合があった。又、所望のアッベ数に調整することは困難である場合もあった。
【0009】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであり、2℃/分以上の速い速度でアニール処理を行っても、アッベ数が所定の範囲内することができる光学ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、第1の予備ガラスと、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを、所定の条件下にて溶解、混合することにより、所望のアッベ数を有する光学ガラスを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 複数種類のガラス原料を溶解して予備ガラスを得る工程と、前記予備ガラスを溶解して光学ガラスを製造する工程を有する光学ガラスの製造方法であって、第1の予備ガラスと、前記第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを混合することで、前記光学ガラスのアッベ数が決定されることを特徴とする光学ガラスの製造方法。
【0012】
(2) 前記第1の予備ガラス及び前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスの屈折率は、前記光学ガラスの屈折率と同一、又は近似していることを特徴とする(1)に記載の光学ガラスの製造方法。
【0013】
(3) 前記第1の予備ガラスの屈折率をn、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの各屈折率をn(xは2以上の整数)としたときの屈折率比n/nが、0.95以上1.05以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光学ガラスの製造方法。
【0014】
(4) 前記第1の予備ガラスのアッベ数をν、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの各アッベ数をν(xは2以上の整数)としたときのアッベ数比ν/νが、0.80以上1.20以下(1を除く)であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【0015】
(5) 前記第1の予備ガラスの比重をd、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの各比重をd(xは2以上の整数)としたとき、比重比d/dが、0.85以上1.15以下であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【0016】
(6) 前記第1の予備ガラスのアッベ数をν、前記アッベ数が異なる第2の予備ガラスのアッベ数をνとし、前記光学ガラスに要求されるアッベ数νにするための前記第1の予備ガラスの混合比をA、前記アッベ数が異なる第2の予備ガラスの混合比をB、としたとき、下記数式にて前記光学ガラスに要求されるアッベ数νにするための前記第1の予備ガラスの混合比Aと、第2の予備ガラスの各混合比Bが決定されることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【数1】

【0017】
(7) 前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスを溶解し混合する際、前記第1の予備ガラスの溶解中における粘度ηと、前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスの溶解中における粘度ηとが、103.0〔dPa・s〕以下となるように混合され、混合溶解後の前記光学ガラスの粘度ηが107.65〔dPa・s〕以下となるようにすることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【0018】
(8) 前記光学ガラスに要求される屈折率n及びアッベ数νにするために前記第1の予備ガラスと、前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを予め決定された混合比となるように溶解する際、前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスのうち比重の小さい方の予備ガラスを先に投入し、次いで比重の大きい方の予備ガラスを投入し、かつ、複数回に分けて前記比重の小さい方の予備ガラスと前記比重の大きい方の予備ガラスを交互に溶解することを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【0019】
(9) 前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを複数回に分けて溶解する際、溶解総量Jに対する1回目の投入量J1との比J1/Jが0.5以下、2回目の投入量J2との比J2/Jが0.4以下、3回目の投入量J3との比J3/Jが0.3以下、4回目の投入量J4との比J4/Jが0.2以下、5回目以降の投入量JXとの比JX/Jが0.1以下、であることを特徴とする(8)に記載の光学ガラスの製造方法。
【0020】
(10) (1)から(9)のいずれかの光学ガラスの製造方法により製造された光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【0021】
(11) (10)に記載のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アッベ数が異なる複数の予備ガラスを投入、混合することで、速い速度でアニール処理を行い光学定数の変動が生じやすい状況であっても、アッベ数を調整することが容易にできるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、複数種類のガラス原料を溶解して予備ガラスを得る工程と、予備ガラスを溶解して光学ガラスを製造する工程を有する光学ガラスの製造方法であって、第1の予備ガラスと、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを混合することで、光学ガラスのアッベ数が決定されることを特徴とする。
【0024】
以下、本発明の光学ガラスの製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0025】
本発明は、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを混合させ、これらにより最終製品である光学ガラスのアッベ数を決定する。すなわち、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとして第2の予備ガラス、第3の予備ガラス、第4の予備ガラス、・・・第xの予備ガラスを使用する(xは2以上の整数である)。例えば、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる第2の予備ガラスを混合させることができる。又、例えば、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる第2の予備ガラス及び第3の予備ガラスを混合させて製造することができる。混合させる1種以上の予備ガラスは、第1の予備ガラスとアッベ数が異なれば、混合させる予備ガラスの数や組成は特に限定されない。このように、複数の予備ガラスを用いることにより、アニール速度の変化によりアッベ数が変動しても、適宜調整できるようになる。
【0026】
本発明の光学ガラスの製造方法にて使用する第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの屈折率は、同一又は近似していることが好ましい。例えば、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスがとして第2及び第3の予備ガラスを使用する場合、第2及び第3の予備ガラスの屈折率が第1の予備ガラスの屈折率と同一又は近似していることが好ましい。
【0027】
具体的には、第1の予備ガラスの屈折率をn、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの屈折率をnとした場合、n/n(xは2以上の整数)が0.95以上1.05以下の範囲内にあることが好ましい。特に所望の屈折率とアッベ数を有する光学ガラスを製造する観点から、n/nが0.97以上1.03以下の範囲内にあることがより好ましく、0.99以上1.01以下の範囲内にあることが最も好ましい。混合させる予備ガラスの屈折率があまり異なると、混合後に屈折率を再調整するためにさらなる調整が必要となるからである。なお、nは、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスそれぞれの屈折率を示し、例えば、x=2の場合、第2の予備ガラスのアッベ数を示し、x=3の場合は、第3の予備ガラスのアッベ数を示し、x=nの場合は、第nのガラスを示す。本明細書中において、屈折率とは、特に断りが無い限りは0.14℃/分(200℃/day)の降温速度にてアニールした場合のd線の屈折率を意味する。
【0028】
第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスのアッベ数は、上述したように異なっていれば特に限定されない、しかし、あまり各々の予備ガラスのアッベ数が異なるとアッベ数の調整が難しくなり、ガラス化も困難になりやすくなる。従って、第1の予備ガラスのアッベ数をν、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスのアッベ数をνとした場合、ν/ν(xは2以上の整数)が0.80以上1.20以下の範囲内(1を除く)にあることが好ましく、0.85以上1.15以下の範囲内(1を除く)にあることがより好ましく、0.90以上1.10以下の範囲内(1を除く)にあることが最も好ましい。なお、νは、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスそれぞれのアッベ数を示し、例えば、x=2の場合、第2の予備ガラスのアッベ数を示し、x=3の場合は、第3の予備ガラスのアッベ数を示し、x=nの場合は、第nのガラスを示す。本明細書中において、アッベ数とは、特に断りが無い限りは0.14℃/分の降温速度にてアニールした場合のνd=((n−1)/(N−n))を意味する。
【0029】
第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの比重は、製造しようとする光学ガラスの種類等に応じて適宜変更することができるが、第1の予備ガラスの比重をd、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの比重をdとした場合、d/dが0.85以上1.15以下の範囲内となるようにすることが好ましく、0.88以上1.12以下の範囲内となるようにすることがより好ましく、0.90以上1.10以下の範囲内となるようにすることが最も好ましい。なお、dは、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスそれぞれの比重を示し、例えば、x=2の場合、第2の予備ガラスの比重を示し、x=3の場合は、第3の予備ガラスの比重を示し、x=nの場合は、第nのガラスを示す。
【0030】
/dが小さすぎる場合又は大きすぎる場合、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの比重差が大きくなりすぎ、各予備ガラスを投入し混合する際、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスが分離しやすくなり、均質に混合させにくくなる。そのため、所望のアッベ数を有する光学ガラスを製造することが困難となるとともに、脈理が発生しやすくなる。
【0031】
特に、本発明の光学ガラスの製造方法においては、その工程を容易にするため、第1及び第2の2種の予備ガラスを用いてアッベ数を調整することが好ましい。その際、光学ガラスに要求されるアッベ数νにするための第1の予備ガラスの混合比をA、アッベ数が異なる第2の予備ガラスの各混合比をBとしたとき、各混合比A、Bは下記数式により決定することが好ましい。
【数2】

【0032】
なお、上記式において予備ガラスの混合比を決定する際には、最終製品の光学ガラスのν、及び予備ガラスのアッベ数ν及びνを測定する条件をそろえる必要がある。これは、光学ガラスはアニールの条件によりアッベ数が変動するからである。従って、最終製品とする光学ガラスが高速でアニールされたものを使用する場合は、例えば予備ガラス等を用い、予備ガラスのアッベ数測定に用いられた条件と前記高速アニールとの両条件下でのアッベ数の変動を加味して算出する必要がある。
【0033】
第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスとを溶解させ、混合させる際、第1の予備ガラスの溶解中における粘度ηと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの溶解中における粘度ηは、ともに103.0[dPa・s]以下であることが好ましく、102.5[dPa・s]以下であることがより好ましく、101.5[dPa・s]以下であることが最も好ましい。このような粘度とすることにより、両者が均質に混合しやすくなる。又、前記予備ガラスを混合した後においては、光学ガラスの溶解中における粘度は107.65[dPa・s]以下であることが好ましく、105.0[dPa・s]以下であることがより好ましく、104.0[dPa・s]以下であることが最も好ましい。このような粘度に保持することにより、均質で不良の少ない、所望のアッベ数を有する光学ガラスを製造することができる。
【0034】
第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを混合する際、比重が小さい順に予備ガラスを投入し、混合することが好ましい。比重が小さい順に予備ガラスを投入し混合することにより、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスが混合されやすくなり、比重分離による脈理等の外観不良を防止することができる。
【0035】
例えば、第1及び第2の予備ガラスを用いてアッベ数の調整を行い、第1の予備ガラスの比重が第2の予備ガラスの比重よりも小さい場合、まず、第1の予備ガラスの一部を投入し、次に第2の予備ガラスを上記数式により決定された混合比が維持されるように投入する。その後、さらに第1の予備ガラスの一部を投入し、第2の予備ガラスを投入する。
【0036】
混合比を維持しながら第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入、混合させる回数は、光学ガラスの製造量等に応じて適宜変更することができるが、2回以上に分けて投入、混合させることが好ましく、3回以上に分けて投入、混合させることがより好ましく、4回以上に分けて投入、混合させることが最も好ましい。このようにガラス原料を複数開に分けて投入するのは、一般的にガラス原料は溶融混合する前にはその体積が大きく、坩堝等に入りきらないことがあるからである。又複数回に分けることにより、複数種類の予備ガラスをより均一に混合させることが可能となる。
【0037】
複数回に分けて第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入、混合させる際、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの溶解総量をJ(kg)、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの1回目の投入量をJ(kg)、2回目の投入量をJ(kg)、3回目の投入量をJ(kg)、4回目の投入量をJ(kg)、5回目の投入量をJ(kg)・・・としたとき、J/Jが0.5以下となるように第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入することが好ましく、0.45以下となるように投入することがより好ましく、0.4以下となるように投入することが最も好ましい。
【0038】
/Jが0.5を超えると、第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスの比重差により分離(比重分離)しやすくなり、均一に溶解、混合することが困難となりやすい。その結果、製造した光学ガラスに脈理が発生しやすくなる。
【0039】
/Jが0.4以下となるように第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入することが好ましく、0.35以下となるように投入することがより好ましく、0.30以下となるように投入することが最も好ましい。J/Jが多すぎると、J/Jの場合と同様に各予備ガラスが比重分離しやすくなり、均一に混合することが困難となりやすくなる。又、比重分離により、製造した光学ガラスに脈理が発生しやすくなる。
【0040】
同様に、J/Jについては0.3以下となるように第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入することが好ましく、0.25以下となるように投入することがより好ましく、0.20以下となるように投入することが最も好ましい。
【0041】
/Jについては、0.2以下となるように第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入することが好ましく、0.15以下となるように投入することがより好ましく、0.10以下となるように投入することが最も好ましい。1
【0042】
/Jについては、0.1以下となるように第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入することが好ましく、0.07以下となるように投入することがより好ましく、0.05以下となるように投入することが最も好ましい。
【0043】
必要に応じて6回以上に分けて第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを投入、混合させてもよい。この場合、6回目以降の投入量は、5回目と同一の投入量で行うことが好ましい。
【0044】
第1の予備ガラスと第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスとの混合比を維持しながら複数回に分けて投入、溶解混合した後、目的とする形状に成形しアニール処理を行う。アニール処理は、公知の種々の方法により行うことができる。本発明の方法によれば、降温速度が2℃/分以上の速い速度でアニール処理を行っても所望のアッベ数に調整できるので、成形終了から検査完了までの時間が減少し、検査の結果を予備ガラスの配合に早期にフィードバックする等の対応が可能となり、効率的に光学ガラスを製造することができる。
【0045】
本発明の方法により得られた光学ガラスは、使用目的等に応じて加熱軟化させて精密プレス成形によってガラス成形品を得るためのプリフォームとして使用されてもよい。又、溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォームとして使用する場合、その製造方法及び熱間成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォームの製造方法としては、例えば特開平8−319124号公報に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229号公報に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような溶融ガラスから直接プリフォームを製造することもでき、又板状に成形した材料を冷間加工して製造してもよい。
【0046】
なお、プリフォームの熱間成形方法を特に限定するものではないが、例えば特公昭62−41180号公報に記載の光学素子の成形方法のような方法を使用することができる。
【0047】
本発明の光学素子は、例えば、レンズ、プリズム、ミラー等の用途に使用される。光学素子は前述のように精密プレス成形により非球面レンズ等に成形してもよいし、研削・研磨による冷間加工により光学素子に成形してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
第1の予備ガラス(屈折率1.70、アッベ数55.5、比重3.70、アニール処理0.14℃/分)、第2の予備ガラス(屈折率1.70、アッベ数56.5、比重3.69、アニール処理0.14℃/分)を使用し、高速の降温速度でアニール処理(3.3℃/分の降温速度)した屈折率1.70、アッベ数55.3の光学ガラスを37kg製造した。
【0050】
まず、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比A、Bを決定するために、上記数式(1)及び(2)より、混合比を決定した。まず第1の予備ガラスを3.3℃/分の降温速度でアニール処理を行ったところアッベ数が55.0となり、0.14℃/分でアニールしたときに比べて0.5だけ低くなることが分かった。従って、高速でアニールした際にアッベ数55.3とするためには、低速アニール処理0.14℃/分にて処理した際に55.8となるように、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比A、Bを決定すればよい。その結果、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比(A:B)は0.7:0.3と決定した。すなわち、第1の予備ガラスを26kg、第2の予備ガラスを11kg使用することとした。
【0051】
比重が小さい第2の予備ガラスから溶融炉へ投入し、上記混合比を維持するように第1の予備ガラスも順次投入し、1回目の投入を行った。なお、1回目の第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの投入量は、合計で15kgであり、J/Jが約0.4であった。
【0052】
1回目の投入と同様に、第2の予備ガラスを投入した後、第1の予備ガラスを上記混合比が維持されるように溶融炉へ2回目の投入をした。2回目の第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの投入量は、合計で11kgであり、J/Jが0.3であった。同様に3回目、4回目及び5回目の投入を行い、J/Jが0.2、J/Jが0.1であった。
【0053】
第1の予備ガラス及び第2の予備ガラスを全て投入後、溶解、成形し、3.3℃/分の降温速度でアニール処理を行い、光学ガラスを製造した。
予備ガラスを溶融混合させる際の粘度を103.0[dPa・s]以下となるように温度調節し、全ての原料を投入後は、溶融ガラス粘度が107.65[dPa・s]以下となるように、温度調節しつつ保持した。
【0054】
[比較例1]
第2の予備ガラスを使用しなかった以外は実施例1と同様の方法により光学ガラスを製造した。
【0055】
[実施例2]
第1の予備ガラス(屈折率1.79、アッベ数44.2、比重4.40)を41kg使用し、第2の予備ガラス(屈折率1.80、アッベ数46.6、比重4.76)を3kg使用し、屈折率1.79、アッベ数44.0の光学ガラスを44kg製造した以外は実施例1と同様の方法により光学ガラスを製造した。すなわち第1の予備ガラスを用いて、最終製品のアニール条件の差に伴うアッベ数変化量の目安を求めたところ、低速(0.14℃/分)でのアニールに比べ高速(3.3℃/分)でのアニールではアッベ数が0.4減少することが分かった。当該変化量を考慮して所望のアッベ数を有する最終製品である光学ガラスを作成するための、第1及び第2の予備ガラスの混合比を決定した。その結果、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比は0.93:0.07とした。
【0056】
[比較例2]
第2の予備ガラスを使用しなかった以外は実施例2と同様の方法により光学ガラスを製造した。
【0057】
[実施例3]
第1の予備ガラス(屈折率1.81、アッベ数40.9、比重4.43)を43.6kg使用し、第2の予備ガラス(屈折率1.80、アッベ数46.6、比重4.76)を0.9kg使用し、屈折率1.81、アッベ数40.5の光学ガラスを44.5kg製造した以外は実施例1と同様の方法により、光学ガラスを製造した。すなわち第1の予備ガラスを用いて、最終製品のアニール条件の差に伴うアッベ数変化量の目安を求めたところ、低速(0.14℃/分)でのアニールに比べ高速(3.3℃/分)でのアニールではアッベ数が0.5減少することが分かった。当該変化量を考慮して所望のアッベ数を有する最終製品である光学ガラスを作成するための、第1及び第2の予備ガラスの混合比を決定した。なお、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比は0.98:0.02であった。
【0058】
[比較例3]
第2の予備ガラスを使用しなかった以外は実施例3と同様の方法により光学ガラスを製造した。
【0059】
[実施例4]
第1の予備ガラス(屈折率1.80、アッベ数46.6比重4.76)を43kg使用し、第2の予備ガラス(屈折率1.79、アッベ数50.0、比重4.79)を5kg使用し、屈折率1.80、アッベ数46.5の光学ガラスを48kg製造した以外は実施例1と同様の方法により、光学ガラスを製造した。すなわち第1の予備ガラスを用いて、最終製品のアニール条件の差に伴うアッベ数変化量の目安を求めたところ、低速(0.14℃/分)でのアニールに比べ高速(3.3℃/分)でのアニールではアッベ数が0.4減少することが分かった。当該変化量を考慮して所望のアッベ数を有する最終製品である光学ガラスを作成するための、第1及び第2の予備ガラスの混合比を決定した。なお、第1の予備ガラスと第2の予備ガラスの混合比は0.90:0.10であった。
【0060】
[比較例4]
第2の予備ガラスを使用しなかった以外は実施例4と同様の方法により光学ガラスを製造した。
【0061】
表1に実施例1〜4、比較例1〜4のアッベ数、屈折率、光学ガラスの所望のアッベ数、屈折率を示した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に見られるとおり、実施例1〜4の光学ガラスは、高速のアニール処理を行ったにもかかわらず、所望のアッベ数を有するものであった。しかし比較例1〜4のガラスは、屈折率は所望の値が得られたものの、アッベ数が大きく変動し、最終製品として許容できるものではなかった。このように本発明の方法は、アニールの速度の変化に適宜対応してアッベ数の調整が可能となり、光学ガラス製造における効率を格段に向上させることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のガラス原料を溶解して予備ガラスを得る工程と、
前記予備ガラスを溶解して光学ガラスを製造する工程を有する光学ガラスの製造方法であって、
第1の予備ガラスと、前記第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを混合することで、前記光学ガラスのアッベ数が決定されることを特徴とする光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記第1の予備ガラス及び前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスの屈折率は、前記光学ガラスの屈折率と同一、又は近似していることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記第1の予備ガラスの屈折率をn、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの各屈折率をn(xは2以上の整数)としたときの屈折率比n/nが、0.95以上1.05以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の予備ガラスのアッベ数をν、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスのアッベ数をν(xは2以上の整数)としたときのアッベ数比ν/νが、0.80以上1.20以下(1を除く)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第1の予備ガラスの比重をd、第1の予備ガラスとアッベ数が異なる1種以上の各予備ガラスを使用する場合の第xの予備ガラスの比重をd(xは2以上の整数)としたとき、比重比d/dが、0.85以上1.15以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第1の予備ガラスのアッベ数をν、前記アッベ数が異なる第2の予備ガラスのアッベ数をνとし、前記光学ガラスに要求されるアッベ数νにするための前記第1の予備ガラスの混合比をA、前記アッベ数が異なる第2の予備ガラスの混合比をB、としたとき、下記数式にて前記光学ガラスに要求されるアッベ数νにするための前記第1の予備ガラスの混合比Aと、前記第2の予備ガラスの各混合比Bが決定されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【数1】

【請求項7】
前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスを溶解し混合する際、前記第1の予備ガラスの溶解中における粘度ηと、前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスの溶解中における粘度ηとが、103.0〔dPa・s〕以下となるように混合され、混合溶解後の前記光学ガラスの粘度ηが107.65〔dPa・s〕以下となるようにすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記光学ガラスに要求される屈折率n及びアッベ数νにするために前記第1の予備ガラスと、前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを予め決定された混合比となるように溶解する際、
前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスのうち比重の小さい方の予備ガラスを先に投入し、次いで比重の大きい方の予備ガラスを投入し、かつ複数回に分けて前記比重の小さい方の予備ガラスと前記比重の大きい方の予備ガラスを交互に溶解することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記第1の予備ガラスと前記アッベ数が異なる1種以上の予備ガラスとを複数回に分けて溶解する際、
溶解総量Jに対する1回目の投入量Jとの比J/Jが0.5以下、2回目の投入量Jとの比J/Jが0.4以下、3回目の投入量Jとの比J/Jが0.3以下、4回目の投入量Jとの比J/Jが0.2以下、5回目以降の投入量Jとの比J/Jが0.1以下、であることを特徴とする請求項8に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの光学ガラスの製造方法により製造された光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項11】
請求項10に記載のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。


【公開番号】特開2009−126763(P2009−126763A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305812(P2007−305812)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】