説明

光学レンズ及びその製造方法

【課題】高い透明性、優れた耐熱性や耐老化性、高い表面硬度とともに、近年の要請を満足することができる優れた耐光性を有する光学レンズ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散させてなる樹脂組成物の成形体よりなる光学レンズであって、前記熱伝導性フィラーの含有率が、前記成形体の重量に対して1重量%以上であり、前記成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が30%以上となるように前記熱伝導性フィラーがナノ分散されていることを特徴とする光学レンズ、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キセノンランプ、LED、レーザー等を光源とする光の集光に用いる樹脂製の光学レンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明ポリアミド樹脂やフッ素樹脂等の透明樹脂を用いた光学レンズは、無機ガラスからなる光学レンズと比べて、軽量であり、破損しにくく、又成形が容易であるとの特徴を有するので、各種の光学機器に広く用いられている。しかし、樹脂製光学レンズは、ガラス製光学レンズに比べて、環境変化によりその光学性能が変動しやすい等の問題がある。そこで、樹脂製光学レンズには、ガラス製光学レンズに匹敵する高い透明性とともに、使用時の光照射により変色しない等の性質(耐光性)が求められている。
【0003】
樹脂製光学レンズに対するこの要請を満たすために、レンズを構成する透明樹脂を透明ポリアミド樹脂やフッ素樹脂等とした光学レンズが提案されている。例えば、特許文献1では、炭素数が6から24の少なくとも1種の環状脂肪族ジアミン、これとほぼ等モルの割合の炭素数が8から16の少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸、及びさらに20モル%までのポリアミド形成性モノマー類から構成され、高い表面硬度を有する光学レンズが提案されている。
【0004】
しかし、このような透明ポリアミド樹脂を用いた光学レンズでも、キセノンランプ、LED、青紫レーザー等を光源とし光の照射量が高い所謂ストロボ等の発光装置に用いられる場合は、変色、変形、老化等を生じる場合がある。そこで、特許文献2には、キセノンランプ等を光源とする発光装置等に用いても、光の照射による変色、変形、老化等が小さい樹脂製光学レンズとして、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体等を透明ポリアミドとして用い、さらに安定剤を含有する成形材料の成形体からなり、成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が60%以上であり、かつ、80℃に保った前記成形体にキセノンランプを用いて光量1000W/mの光線を500時間照射した後の前記全光線透過率が50%以上であることを特徴とする光学レンズが開示されている(請求項1、4、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−137057号公報
【特許文献2】WO2009/084690公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、ストロボ等に用いられる光学レンズの耐光性に対する要請はさらに高度となっている。すなわち、近年のストロボにおいては、光量の増大、発光間隔の短縮が望まれており、又ストロボの内蔵化、小型化に対応するために光源とレンズ間の近接化が望まれている。そして、このような要請に対応したストロボに従来の光学レンズを使用すると、発泡、変色等が生じる場合がある。そこで、樹脂性の光学レンズであって、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも、発泡や変色が生じない光学レンズが望まれていた。
【0007】
本発明は、高い透明性とともに、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも変色等の問題を生じない光学レンズ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、透明ポリアミド等の透明樹脂に、熱伝導性フィラーをナノ分散させて放熱性を向上させた成形材料からなる光学レンズは、透明性に優れるとともに、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも変色等の問題が生じにくいことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
請求項1の発明は、透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散させてなる樹脂組成物の成形体よりなる光学レンズであって、前記熱伝導性フィラーの含有率が、前記成形体の重量に対して1重量%以上であり、前記成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が30%以上となるように前記熱伝導性フィラーがナノ分散されていることを特徴とする光学レンズである。
【0010】
本発明の光学レンズは、透明樹脂をマトリックス樹脂とする樹脂組成物を成形してなる成形体である。透明樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリアミド、シリコーン、エポキシ、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエステル等からなる透明な樹脂を挙げることができる。特に、特許文献2で説明、例示されているような非晶性でかつガラス転位点の高い透明ポリアミドが好適である。このような透明ポリアミド樹脂としては、例えば、特定のジアミンと特定のジカルボン酸とを縮合して得たもの、ラクタムの開環重合やω−アミノカルボン酸の縮合により得たものを挙げることができる。
【0011】
このような透明ポリアミド樹脂の中でも、芳香環、脂環等を有するものが好ましく、特に、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体は、変色や変形等を生じにくいので好ましい。請求項2の発明は、この特に好ましい態様に該当するものであり、前記透明樹脂が、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体であることを特徴とする請求項1に記載の光学レンズである。
【0012】
本発明の光学レンズの成形材料である透明な樹脂組成物は、前記の透明樹脂に、熱伝導性フィラーをナノ分散させてなることを特徴とする。
【0013】
熱伝導性フィラーを分散させることにより、成形体の放熱性が向上し、その結果、より大きな光量で多数回の照射がされた場合でも温度上昇を抑制できるために、変色や発泡しにくい、優れた耐光性を有する成形体(透明樹脂成形体)が得られる。すなわち、本発明の光学レンズは、光量が増大し発光間隔が短縮化した発光装置に使用しても変色や発泡を生じにくいことを特徴とする。
【0014】
ここで熱伝導性フィラーとは、熱伝導率が1W/m・K以上であるフィラーを言い、好ましくは、熱伝導率が20W/m・K以上のフィラーであり、より好ましくは、熱伝導率が50W/m・K以上のフィラーである。熱伝導率が1W/m・K未満の場合は、透明樹脂に対し10重量%を超えて配合しても優れた耐光性が得られず、キセノンランプ、LED、(青紫)レーザー等による大きな光量での多数回の照射がされると、発泡や変色が生じる。
【0015】
熱伝導性フィラーの配合量は、レンズを構成する成形体の重量に対して1重量%以上である。配合量が1重量%未満の場合は、優れた耐光性が得られず、キセノンランプ、LED、レーザー等による大きな光量での多数回の照射がされると、発泡や変色が生じる。一方、配合量が50重量%を超える場合は透明性が低下する場合があるので、50重量%以下が好ましく、より優れた透明性を得るためには20重量%以下である。すなわち、より好ましくは1〜20重量%の範囲であり、この範囲で、さらに優れた耐光性とともに優れた透明性が得られる。
【0016】
又、熱伝導性フィラーの分散がナノ分散であることにより優れた透明性を有する成形体が得られる。すなわち、本発明の光学レンズを形成する成形体(透明樹脂成形体)の優れた透明性は、光学レンズの成形に用いるマトリックス樹脂として透明樹脂を使用すること、及び、熱伝導性フィラーをナノ分散することにより得ることができる。
【0017】
ナノ分散とは、(平均)粒子径が400nm以下のナノ粒子を、マトリックス樹脂(透明樹脂)中に良分散することを言う。従って、本発明に使用される熱伝導性フィラーは、(平均)粒子径が400nm以下の粒子である。粒子径が400nmを超える場合は、光学レンズが白濁し高い透明性が得られない。
【0018】
良分散とは、フィラー(ナノ粒子)の一次粒子の凝集がなく二次粒子(凝集粒子)が形成されていないこと、又は、一次粒子の凝集物(凝集粒子)の径が400nm以下となる分散状態にあることを言う。フィラーが凝集し径が400nmを超える凝集物が生成すると、白濁が生じ、光学レンズの透明性が低下する。しかし、本発明の光学レンズでは、熱伝導性フィラーはナノ分散されているので、優れた透明性を維持できる。
【0019】
このようにフィラーのナノ分散の程度と透明性は強い相関がある。そこで、レンズの透明度(全光線透過率)によりフィラーのナノ分散の程度を表わすことができる。本発明の光学レンズでは、熱伝導フィラーのナノ分散は、光学レンズを構成する成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が30%以上、好ましくは70%以上となるように行われる。ここで、全光線透過率とは、透明性を表す指標であり、その測定は、JIS K 7361に規定される測定法を用いて行い、可視光線の範囲、具体的には波長400〜800nmの範囲において、入射光量Tと試験片を通った全光量Tとの比の百分率で示される。
【0020】
本発明の光学レンズの成形材料である透明な樹脂組成物は、透明樹脂及び熱伝導性フィラーに加えてマトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である分散剤を含有し、かつ、前記熱伝導性フィラーをこの分散剤中にナノ分散した分散液を、透明樹脂中に混合して得られたものであることが好ましい。熱伝導性フィラーを分散剤中にナノ分散した分散液を作製し、この分散液を透明樹脂中に混合する方法により、熱伝導性フィラーを透明樹脂中に容易にナノ分散させることができる。請求項3は、この好ましい態様に該当し、前記樹脂組成物が、前記透明樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である分散剤を含有し、かつ前記熱伝導性フィラーを前記分散剤中にナノ分散した分散液を、前記透明樹脂中に混合してなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学レンズである。
【0021】
請求項4は、前記分散剤が、架橋助剤、可塑剤、又は紫外線若しくは電子線照射により重合するモノマー(以下、UV・EBモノマーと言う。)であることを特徴とする請求項3に記載の光学レンズである。
【0022】
本発明の光学レンズを形成する樹脂組成物は、本発明の趣旨を損ねない範囲で、透明樹脂及び熱伝導性フィラーに加えて、光学レンズの種々の物性を向上させるための他の成分を含有することができるが、この他の成分には、架橋助剤、可塑剤、及びUV・EBモノマーが含まれる。例えば、後述する架橋が行われる場合には、架橋を促進するため、架橋助剤を添加することが好ましい。
【0023】
そして、架橋助剤、可塑剤及びUV・EBモノマーが、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状であり、熱伝導性フィラーをナノ分散できる場合は、これらを、熱伝導性フィラーをナノ分散するための前記分散剤として用いることができる。この場合は、光学レンズの形成に好ましく用いられる成分をそのまま分散剤とすることができ、光学レンズの物性の向上に特に必要でない成分を用いる必要がないので好ましい。
【0024】
マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(以下、TAICとする。)を挙げることができる。TAICは融点23℃程度であり液体となりやすい。又、TAICは、三官能のため架橋性に優れ、TAICを含有させることにより光学レンズの耐熱性(リフロー耐熱性)を電離放射線照射等により容易に向上できる、放射線照射や熱による変色が比較的少ない、人体に対する毒性が低い等の点でも好ましい。
【0025】
さらに、TAICは、透明樹脂との相溶性に優れる。例えば、透明ポリアミド(特に、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体)との相溶性に優れ透明ポリアミドに対して50重量%程度の高濃度まで溶解させることができる。従って、多量の熱伝導性フィラーをナノ分散しやすく、熱伝導性フィラーをレンズ中に高濃度でナノ分散させるための分散剤として好適に用いることができる。請求項5は、この好ましい態様に該当し、前記分散剤が、TAICであることを特徴する請求項3に記載の光学レンズである。
【0026】
UV・EBモノマーとしては、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマー、イミド系モノマー、シリコーン系モノマー、ウレタン系モノマー、イソシアネート系モノマー、エポキシ系モノマー等を挙げることができる。
【0027】
本発明の光学レンズの成形材料である透明な樹脂組成物は、前記の組成に加えて安定剤を含有することが好ましい。安定剤を含有することにより、変色をより効率的に抑制することができる。請求項6に記載の発明は、この好ましい態様に該当し、さらに安定剤を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光学レンズである。
【0028】
ここで言う安定剤には、光や熱等による劣化を防ぐ作用を有する全ての安定剤を含み、例えば、酸化防止剤も含まれる。具体的には、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒドロキノン系酸化防止剤等を挙げることができる。2種以上の安定剤を併用すると、安定剤としての機能が向上し、より優れた効果が得られる場合がある。
【0029】
本発明の光学レンズの成形材料である樹脂組成物には、さらに、本発明の趣旨が損なわれない範囲で、前記以外の成分、例えば、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を配合することができる。
【0030】
透明樹脂を架橋することにより、光学レンズを、耐熱性(リフロー耐熱性)や高温時の剛性に優れた成形体とすることができる。請求項7に記載の発明は、この好ましい態様に該当するものであり、前記透明樹脂が、架橋されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光学レンズである。
【0031】
この架橋は、樹脂の加熱や樹脂に電離放射線を照射する方法等により行われる。中でも電離放射線を照射する方法は、制御が容易な点で好ましい。又、電離放射線としては、安全性や装置の入手し易さ等から電子線が好ましい。
【0032】
請求項8に記載の発明は、270℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光学レンズである。270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とすることにより、室温から高温まで満足する剛性が得られ、光学レンズを鉛フリー半田を用いた半田付けや半田リフローにより実装する場合や、使用環境が高温になる場合でも、熱変形の問題を生じにくく、所謂リフロー耐熱性が高いので好ましい。請求項8の光学レンズのように、高温時の剛性が高い光学レンズは、その成形材料の組成である透明樹脂を、前記のようにして架橋することにより得られる。
【0033】
ここで、貯蔵弾性率とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定した値である。より具体的には、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により、室温(25℃)よりの10℃/分の昇温速度にて測定される値である。
【0034】
本発明の光学レンズは、透明樹脂、前記透明樹脂にナノ分散している熱伝導性フィラー、及び場合により添加される他の成分からなる樹脂組成物を、レンズに成形し、好ましくはその後樹脂を架橋することにより製造することができる。成形後に架橋する方法によれば、架橋前は樹脂組成物(成形材料)の剛性が小さいので成形が容易であるとともに、架橋により耐熱性や剛性を向上させることができるので、耐熱性や高温での剛性に優れた光学レンズが得られる。
【0035】
透明樹脂、前記透明樹脂にナノ分散している熱伝導性フィラー、及び場合により添加される他の成分からなる前記樹脂組成物は、好ましくは、前記のように、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である分散剤、例えば、架橋助剤、可塑剤又はUV・EBモノマーに、熱伝導性フィラーをナノ分散して分散液を作製し、その分散液を透明樹脂(場合により、安定剤等の他の成分が含有されている)に混合する方法により作製することができる。又、マトリックス樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である分散剤に熱伝導性フィラーをナノ分散して分散液を作製し、その分散液と、透明樹脂を構成するモノマー(場合により、安定剤等の他の成分が含有されている)及び重合開始剤を混合し、モノマーを重合する方法によっても作製することができる。
【0036】
本発明者は、熱伝導性フィラーを分散剤に分散すること、そして、透明樹脂を主体とする混合物、又は、透明樹脂を構成するモノマーを主体とする混合物を撹拌しながら、熱伝導性フィラーを分散した分散液を加えることにより、透明樹脂中に熱伝導性フィラーをナノ分散できることを見出した。
【0037】
透明樹脂の組成物に、熱伝導性フィラーをナノ分散する方法としては、前記の方法、すなわち「熱伝導性フィラーを分散剤にナノ分散させてなる分散液を、透明樹脂又はその原料モノマーに混合する方法」以外にも、次に示す方法を挙げることができる。
1)樹脂を溶融し、その中に熱伝導性フィラーを添加して剪断力等により分散する方法。
2)熱伝導性フィラーを、シランカップリング剤等の表面処理剤や界面活性剤等で処理した後、樹脂に分散する方法。
【0038】
ただし、ナノ分散の容易さからは、前記の方法、すなわち「熱伝導性フィラーを分散剤にナノ分散させてなる分散液を、透明樹脂又はそのモノマーに混合する方法」、又は前記の方法と、上記1)及び/若しくは2)とを併用する方法が好ましい。これらの方法を併用することにより、分散性をより向上させることができる。
【0039】
請求項9に記載の発明は、熱伝導性フィラーを透明樹脂にナノ分散させてなる樹脂組成物を成形する成形工程、及び成形工程後に透明樹脂を架橋する架橋工程を有することを特徴とする光学レンズの製造方法である。この製造方法により、耐熱性(リフロー耐熱性)や高温時の剛性に優れた光学レンズを容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の光学レンズは、透明性が高いとともに、キセノンランプ、LEDや(青紫)レーザー等を光源とする光が、より大きな光量で多数回照射された場合でも、変色等を生じにくい。本発明の光学レンズであって耐熱性(リフロー耐熱性)や高温時の剛性に優れたものは、本発明の光学レンズ製造方法により容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本発明は、ここに述べる形態に限定されるものではない。
【0042】
本発明の光学レンズの成形材料を構成する透明樹脂としては、前記のように透明ポリアミドが好ましい。透明ポリアミドとしては特許文献2等に例示されているものを挙げることができるが、配合物自体が透明であれば、多数の異なるポリアミドの配合物であってよく、結晶性のものが含まれていてもよい。さらに、透明ポリアミドとしては、その合成反応(重合)を、原料モノマーとともに、後述する安定剤、補強材等の存在下行って製造したものでもよい。
【0043】
透明ポリアミドとしては市販品を用いることもできる。例えば、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体からなるポリアミドは、グリルアミドTR−90(エムスケミー・ジャパン社)等の商品名で市販されている。
【0044】
その他、本発明に使用される透明ポリアミドの具体的商品例としては、トロガミドCX7323、トロガミドT、トロガミドCX9701(商品名、以上、ダイセル・デグサ社)、グリルアミドTR−155、グリボリーG21、グリルアミドTR−55LX、グリロンTR−27(以上、エムスケミー・ジャパン社)、クリスタミドMS1100、クリスタミドMS1700(以上、アルケマ社)、シーラー3030E、シーラーPA−V2031、イソアミドPA−7030(以上、デュポン社)等を挙げることができる。
【0045】
熱伝導性フィラーとしては、アルミナ、(結晶性)シリカ、窒化アルミニウム、窒化硼素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等のカーボン材料、合成マグネサイト等を挙げることができる。熱伝導性フィラーの形状は、必ずしも球状である必要は無く、棒状、板状、粉砕フィラーであってもよい。さらにこれらの熱伝導性フィラーは、そのナノ分散を容易にするために、界面活性剤等による表面処理等が施されたものでもよい。
【0046】
本発明の光学レンズに配合することができる安定剤の配合割合の好ましい範囲は、特に限定されないが、配合割合が大きい程、キセノンランプ等の照射による変色等が小さいものが得られる。一方、配合割合が大き過ぎると、ブルーム、曇点(ヘイズ)の悪化、透過率の低下等の問題を生じる。そこで、通常、1種の安定剤を用いる場合は、透明ポリアミド100重量部に対し、0.01〜5重量部程度が好ましい。
【0047】
安定剤としては、市販されているものを用いることができる。例えば、ヒンダードアミン光安定剤はアデカスタブLA68、LA62(商品名、旭電化社)等として、紫外線吸収剤はアデカスタブLA36(商品名、旭電化社)等として、リン系安定剤はイルガフォス168(商品名、BASF社)等として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤はイルガノックス245、イルガノックス1010(商品名、BASF社)等として、ヒドロキノン系酸化防止剤は、メトキノン(商品名:精工化学社)等として市販されており、これらを用いることができる。
【0048】
本発明で用いることができる架橋助剤としては、TAIC以外にも、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート、トリメタクリルイソシアヌレート等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等を挙げることができる。TAIC及びこれらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0049】
架橋助剤としてTAICを用いる場合、その含有量は、透明ポリアミド100重量部に対して25重量部未満が好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。TAICの含有量が多い程、架橋を促進しリフロー耐熱性等を向上させる効果が大きいが、その含有量が前記の範囲以上となると、固化が遅くなりすぎて成形性が低下し、成形品の良い外観が得にくくなる場合がある。
【0050】
本発明の光学レンズの製造において、透明樹脂と、熱伝導性フィラーをナノ分散する分散液、及び場合により添加される成分等の混合に用いられる混合機としては、公知の混合機を挙げることができ、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーを挙げることができる。中でも、二軸押出機が好ましく、230℃〜300℃程度の混練温度、2秒〜15分程度の混練時間が、一般に好ましく採用される。
【0051】
成形工程での成形方法は特に制限されず、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、プレス成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法等が挙げられるが、成形の容易さ及び成形の精度の観点から、射出成形法が好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、ここに述べる実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り他の形態への変更も可能である。先ず、実施例及び比較例で使用した原料について述べる。
【0053】
[透明ポリアミド] 1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体(商品名:グリルアミドTR−90、エムスケミー・ジャパン社)
[架橋助剤] トリアリルイソシアヌレート(TAIC:日本化成社)
[熱伝導性フィラー] 酸化チタン(商品名:TTO−51A,石原産業社)
【0054】
実施例
表1に示す組成の樹脂組成物を次に示すようにして得た。すなわち、TAICと熱伝導性フィラーをミルで混合して混合物を得る。この混合物を、二軸混合機(東芝機械社、TEM58BS)にサイドフィードして前記透明ポリアミドと混合した。このようにして得られた樹脂組成物を、SE−18(住友重機社、電動射出成形機)により射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。射出成形は、樹脂温度280℃、金型温度80℃、サイクル30秒の条件で行った。
【0055】
得られた成形体試料に300kGyの電子線を照射し架橋を行った。照射後の試料について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を、表1に示す。
【0056】
比較例1
表1に示す組成で、TAICを二軸混合機(東芝機械社、TEM58BS)にサイドフィードして前記透明ポリアミドと混合した。その後、SE−18(住友重機社、電動射出成形機)により、実施例と同じ条件にて射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。さらに、実施例と同じ条件にて、得られた成形体試料に電子線を照射して架橋を行い、照射後の試料について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
表1に示す組成で、TAIC、熱伝導性フィラー及び前記透明ポリアミドを、二軸混合機(東芝機械社、TEM58BS)のトップからフィードして混合した。その後、SE−18(住友重機社、電動射出成形機)により、実施例と同じ条件にて射出成形をして、40mm×40mm×2mm(厚さ)の成形体試料を作製した。さらに、実施例と同じ条件にて、得られた成形体試料に電子線を照射して架橋を行い、照射後の試料について、下記の方法で、全光線透過率、耐光テスト後の外観を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0058】
[全光線透過率]
JIS K 7361に準拠して測定した。可視光線の範囲(波長400〜800nmの範囲)における入射光量Tと試験片を通った全光量Tとの比を百分率で示す。
【0059】
[耐光テスト後の外観]
市販の外付ストロボ(ニコン社)を用い、レンズサンプルの表面と光源(キセノンランプ)との距離を2mmとし、次に示す条件の閃光を、10秒に1回又は2秒に1回のサイクルで200サイクル繰返した。
閃光時間:(1/800)秒、色温度:5600K
【0060】
200サイクル後のレンズの変色を評価し、その評価結果を、レンズに変色が見られないものを○、レンズの中央部が変色したものを×として表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果より明らかなように、実施例の成形体は、透明性が優れる(全光線透過率80%)とともに、耐光性も優れている。一方、熱伝導性フィラーを添加していない比較例1の成形体は、透明性は優れるものの(全光線透過率90%)、耐光性が低く2秒に1回の閃光の200サイクルで変色を生じている。熱伝導性フィラーが分散されていないので、成形体の放熱性が低く、熱による変色が生じたものと考えられる。又、熱伝導性フィラーを添加しているものの、TAICへの分散をせずに樹脂に混合して作製した比較例2の成形体は、透明性が低く(全光線透過率20%)、熱伝導性フィラーはナノ分散されていないと考えられる。又、耐光性も低く2秒に1回の閃光の200サイクルで変色を生じている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光学レンズは、ストロボ用レンズ(例えば、ストロボ用フレネルレンズ)等の用途に、好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂に熱伝導性フィラーをナノ分散させてなる樹脂組成物の成形体よりなる光学レンズであって、前記熱伝導性フィラーの含有率が、前記成形体の重量に対して1重量%以上であり、前記成形体の厚さを2mmとしたときの全光線透過率が30%以上となるように前記熱伝導性フィラーがナノ分散されていることを特徴とする光学レンズ。
【請求項2】
前記透明樹脂が、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体であることを特徴とする請求項1に記載の光学レンズ。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、前記透明樹脂のガラス転移点より50℃高い温度において液状である分散剤を含有し、かつ前記熱伝導性フィラーを前記分散剤中にナノ分散した分散液を、前記透明樹脂中に混合してなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学レンズ。
【請求項4】
前記分散剤が、架橋助剤、可塑剤、又は紫外線若しくは電子線照射により重合するモノマーであることを特徴とする請求項3に記載の光学レンズ。
【請求項5】
前記分散剤が、トリアリルイソシアヌレートであることを特徴する請求項3に記載の光学レンズ。
【請求項6】
さらに安定剤を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光学レンズ。
【請求項7】
前記透明樹脂が、架橋されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光学レンズ。
【請求項8】
270℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光学レンズ。
【請求項9】
熱伝導性フィラーを透明樹脂にナノ分散させてなる樹脂組成物を成形する成形工程、及び成形工程後に透明樹脂を架橋する架橋工程を有することを特徴とする光学レンズの製造方法。

【公開番号】特開2013−15647(P2013−15647A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147902(P2011−147902)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】