説明

光学性材料及びそれからなる眼用レンズ

【課題】金属酸化物の微粒子を用いて、優れた透明性を確保しつつ、高い屈折率を有する光学性材料を提供することにあり、また、別の課題とするところは、そのような光学性材料を用いて、透明性に優れ、且つ高い屈折率を有するコンタクトレンズ及び眼内レンズ等の眼用レンズを提供すること。
【解決手段】重合性不飽和結合を有するモノマーの1種又は2種以上に、シランカップリング剤で表面改質された金属酸化物の微粒子を微細に分散せしめてなるモノマー組成物を、その金属酸化物の分散状態を維持しつつ、重合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学性材料及びそれからなる眼用レンズに係り、特に金属酸化物の微粒子を分散、含有する、高屈折率の光学性材料と、それを用いて形成されるコンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物は、各種の用途において用いられてきており、例えば、レンズ材料の分野において、特許文献1には、二酸化チタン等を着色材料として用いて、それを所定のキャリア系に分散せしめた後、その分散物を注型用型の表面に適用して、所定のパターンを形成し、そして、その上において、レンズ形成性モノマー液の重合を行なうことにより、所定の部位、特に虹彩部を着色してなるコンタクトレンズを製造する手法が明らかにされている。また、特許文献2や特許文献3においても、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン等の着色剤を含む着色インクを基材コンタクトレンズ表面に塗覆し、硬化せしめることにより、虹彩部を与える着色層を形成せしめた着色コンタクトレンズを製造する手法が明らかにされているが、それら公知の技術は、何れも、コンタクトレンズにおいて着色した虹彩部を形成する目的のもの(義眼)に過ぎないものであって、そこでは、着色成分により虹彩部は不透明化してしまうものであった。
【0003】
かかる状況下、本願出願人は、先に、特許文献4において、金属酸化物の微粒子が微細に分散せしめられてなる水性媒体中に膨潤した状態において、所定の架橋された含水性ポリマーを存在せしめることにより、透明性に優れた光学性ゲルとして、所定の形状を保持し得る含水ゲルを得ることができ、また、そのような含水ゲルから優れた紫外線吸収能を有する眼科用材料を得ることができることを見出し、出願を行った(特許文献4)。
【0004】
そして、かかる金属酸化物の微粒子を、上述の如き水を主体とする水性媒体中ではなく、非水性溶液である、重合性不飽和結合を有するモノマー中に分散、含有させて、透明性に優れた光学性材料を得ようとしたのであるが、金属酸化物の微粒子は、水性媒体中で分散可能であるものの、光学性材料を与えるモノマー等の非水性溶液中においては、充分に攪拌、混合しても、金属酸化物自体の比重で沈降・沈殿し、微細に分散せしめることができず、透明なポリマーを得ることができなかったのである。
【0005】
一方、コンタクトレンズや、白内障等の手術により水晶体を取り除いた後、視力を回復させるために用いられている視力矯正用の眼内レンズには、非含水性や含水性等の特性を有する各種の光学性材料が用いられているのであるが、かかる光学性材料としては、屈折率の高いものが要求されてきている。これは、屈折率が高くなる程、レンズ厚みを薄くすることができるからであり、その結果として、コンタクトレンズにおいては、酸素透過性の向上を図ることができ、また、眼内レンズ、特にフォルダブル眼内レンズにおいては、眼内レンズを一層容易に折り畳むことができるようになるからである。
【0006】
そして、特許文献5には、高屈折率の眼科用デバイスを得るべく、側鎖に芳香族系の置換基を導入したシリコーンマクロモノマーを用いることが提案されてはいるものの、更なる改善の余地を有しているのである。
【0007】
【特許文献1】特開平3−54519号公報
【特許文献2】特開平6−347728号公報
【特許文献3】特開平8−152582号公報
【特許文献4】特開2000−327925号公報
【特許文献5】米国特許第6989430号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明者らは、前記した金属酸化物の微粒子を、非水性溶液である重合性不飽和結合を有するモノマー中に分散せしめることについて種々なる検討を加えた結果、金属酸化物の微粒子をシランカップリング剤にて処理することにより、金属酸化物の微粒子のモノマーへの親和性が向上せしめられて、金属酸化物の微粒子が、モノマー中で、微細に且つ均一に分散し、その状態を維持することを見出したのである。また、そのような金属酸化物の微粒子が微細に分散せしめられてなるモノマー組成物を重合せしめることによって、光学的透明性を保持しつつ、高い屈折率を有する光学性材料を得ることができることをも見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
従って、本発明の課題とするところは、金属酸化物の微粒子を用いて、優れた透明性を確保しつつ、高い屈折率を有する光学性材料を提供することにあり、また、別の課題とするところは、そのような光学性材料を用いて、透明性に優れ、且つ高い屈折率を有するコンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、上述の如き最初の課題の解決のために、重合性不飽和結合を有するモノマーの1種又は2種以上に、シランカップリング剤で表面改質された金属酸化物の微粒子を微細に分散せしめてなるモノマー組成物を、該金属酸化物の微粒子の分散状態を維持しつつ、重合せしめることによって得られたポリマーからなることを特徴とする光学性材料を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、この本発明に従う光学性材料の好ましい態様の一つによれば、前記表面改質により、前記金属酸化物の微粒子の表面に、重合性基である(メタ)アクリロイル基又はスチリル基が導入されている。
【0012】
また、本発明に従う光学性材料の望ましい態様の一つによれば、前記ポリマー中に分散せしめられた金属酸化物の微粒子の平均粒子径が、25nm以下であることが望ましい。
【0013】
さらに、本発明に従う光学性材料の他の好ましい態様の一つによれば、前記金属酸化物として、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種以上が用いられる。
【0014】
加えて、本発明に従う光学性材料の好ましい態様の他の一つによれば、前記シランカップリング剤で表面改質された前記金属酸化物の微粒子が、前記モノマー組成物中に、0.1〜80重量%の割合において含有せしめられる。
【0015】
さらに、本発明に従う光学性材料の望ましい他の態様の一つによれば、前記シランカップリング剤で表面改質された前記金属酸化物の微粒子が架橋剤として作用することにより、前記ポリマーが、該金属酸化物の微粒子を介して架橋せしめられている。
【0016】
加えて、本発明に従う光学性材料の好ましい別の態様の一つによれば、前記モノマーとして、(メタ)アクリロイル基又はスチリル基を有するモノマーが採用される。
【0017】
また、本発明は、上記した別の課題の解決のために、上述せる如き光学性材料から形成されるコンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズをも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従う光学性材料においては、ポリマーを与える重合性不飽和結合を有するモノマーに対して、シランカップリング剤による表面改質が施された金属酸化物の微粒子が含有せしめられているところから、非水性溶液であるモノマーへの金属酸化物微粒子の親和性(相溶性)が向上せしめられ、これにより、金属酸化物の微粒子が、モノマー中に微細に分散せしめられ、且つ、その分散状態が、有利に維持されるようになっている。このため、金属酸化物の微粒子が含有せしめられたモノマー組成物を、金属酸化物の微粒子の分散状態を維持しつつ、重合せしめることができ、以て、重合後のポリマー中においても、金属酸化物の微粒子が微細に分散、含有せしめられるのである。
【0019】
その結果、本発明に従う光学性材料にあっては、金属酸化物の粒子が含有されているものの、透明性に優れた良好な光学性能を有するポリマーとなっているのであり、また、金属酸化物の微粒子がポリマー中に微細に分散、含有せしめられることによって、屈折率が有利に高められるようになっている。このため、本発明に従う光学性材料は、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズの材料として、極めて有用なものとなっている。
【0020】
また、そのような光学性材料から形成される眼用レンズにあっては、上述のように、屈折率の高い、極めて有用な光学性材料にて形成されるものであるところから、レンズ厚みの薄型化が可能となっているのである。従って、例えば、眼用レンズとして、コンタクトレンズを形成した場合には、レンズ厚みが薄くなる分、コンタクトレンズの酸素透過性も向上せしめられるようになるのであり、また、眼用レンズとして、眼内レンズ、特に、フォルダブル眼内レンズを形成した場合には、レンズ厚みが薄くなって、眼内レンズを従来よりも一層容易に折り畳むことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ところで、かくの如き本発明に従う光学性材料は、重合性不飽和結合を有するモノマーの1種又は2種以上に、シランカップリング剤で処理された金属酸化物の微粒子を微細に分散せしめてなるモノマー組成物を、従来から公知の各種の手法にて、重合することによって、有利に製造されることとなる。
【0022】
そして、そのような本発明に従う光学性材料中に分散状態において含有せしめられる金属酸化物としては、微粒子形態のものであれば、何れも、適宜に採用可能であるが、その平均粒子径が大き過ぎると、光学的な散乱を生ずるおそれがあり、透明性を確保できないところから、本発明にあっては、光学性材料、特に眼用レンズ素材(材料)等としての有効な透明性を有利に確保する上において、光学性材料を与えるポリマー中において、その平均粒子径が25nm以下となるものが有利に用いられ得、中でも、更なる透明性を得る上においては、15nm以下となるものが、より一層有利に用いられることとなる。なお、本発明において、ポリマー中の金属酸化物の平均粒子径は、XRD(X線回折)やTEM(透過型電子顕微鏡)により、測定され得る。
【0023】
また、そのような金属酸化物の種類としては、公知の各種のものを挙げることができるが、特に、本発明にあっては、金属酸化物の中でも高屈折率を有する、酸化チタンや、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムが、有利に用いられるのであり、それらのうちの1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて用いられる。因みに、かかる金属酸化物自体の屈折率は、それぞれ、酸化チタン:2.52〜2.71(結晶構造により異なる)、酸化ジルコニウム:2.1〜2.4(結晶構造により異なる)、酸化ハフニウム:2.5となっている。
【0024】
そして、上述の如き金属酸化物の微粒子は、そのまま、非水性溶液であるモノマー中に攪拌、混合されても、金属酸化物自体の比重で沈降し、最終的には、沈殿してしまうところから、本発明においては、金属酸化物の微粒子として、後述するシランカップリング剤にて表面改質が施されたものが、用いられるのである。
【0025】
ここにおいて、金属酸化物の微粒子を、シランカップリング剤にて表面改質する手法としては、従来から公知の各種の手法が何れも採用され得るのであるが、本発明においては、金属酸化物の微粒子表面へのシランカップリング剤の反応を高めるべく、所定の溶媒に金属酸化物の微粒子を微細に分散させ、そこに、シランカップリング剤を添加する、液相での処理(湿式法)が採用され得る。
【0026】
なお、金属酸化物の微粒子の表面処理(表面改質)に用いられるシランカップリング剤としては、従来より、シランカップリング剤として使用されている公知ものが何れも採用され得るのであるが、本発明においては、特に、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロキシ系シランカップリング剤、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルメチルジエトキシシラン、p−スチリルメチルジメトキシシラン、p−スチリルジメチルエトキシシラン、p−スチリルジメチルメトキシシラン等のスチリル基を有するスチリル系シランカップリング剤を好適に用いることができ、これらのうちの1種が単独で、或いは、2種以上が組み合わされて用いられる。このような(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロキシ系シランカップリング剤やスチリル基を有するスチリル系シランカップリング剤を用いることによって、金属酸化物の微粒子の表面に、重合性基である(メタ)アクリロイル基やスチリル基が導入されるようになり、以て、金属酸化物の微粒子と後述するモノマーとの親和性が向上すると共に、金属酸化物の微粒子が光学性材料を構成するポリマー鎖に結合した状態で存在せしめられるようになるのである。つまり、シランカップリング剤で表面改質された金属酸化物の微粒子には、その表面に重合性基が多数導入されることから、金属酸化物の微粒子の一部乃至全部が、架橋剤の如く作用乃至は機能し、以て、光学性材料を与えるポリマーが、金属酸化物の微粒子を介して架橋せしめられるようになり、これにて、光学性材料の硬度や強度が有利に向上せしめられるようになる。特に、光学性材料の酸素透過性を向上させる目的で、全重合性成分(全モノマー成分)に占めるシリコン含有モノマーの配合割合を高くする場合には、通常、得られるポリマーの硬度や強度が低下する傾向があるものの、上記シランカップリング剤で処理された金属酸化物の微粒子を用いることによって、ポリマーの硬度や強度も有利に向上され得るようになる。
【0027】
なお、本明細書において、「・・・(メタ)アクリロキシ・・・」とあるのは、「・・・アクリロキシ・・・」及び「・・・メタクリロキシ・・・」の二つの化合物を示すものであり、その他の(メタ)アクリル化合物についても、同様に、二つの化合物の総称として用いられていることが、理解されるべきである。
【0028】
なお、上記シランカップリング剤による表面処理(シランカップリング処理)に際しては、そのシランカップリング処理に先立って、及び/又は、シランカップリング処理と同時に、金属酸化物の微粒子を、所定の有機酸にて処理することが望ましく、この有機酸処理によって、金属酸化物の微粒子表面が改質されて、金属酸化物の微粒子表面への上記シランカップリング剤の結合が、より一層効果的に行われるようになる。ここで、上記有機酸としては、金属酸化物に対する反応性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、カプリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等を挙げることができ、それらのうちの少なくとも1種が適宜に選択されて用いられる。また、有機酸による処理方法にあっても、公知の手法が適宜に採用され得るのであり、一般には、所定の溶媒中に分散させた液に、有機酸を滴下して、所定時間、撹拌、混合するようにすればよいのである。
【0029】
このようにして、表面処理の施された金属酸化物の微粒子の表面には、用いたシランカップリング剤に応じた官能基が導入され得るのである。なお、金属酸化物の微粒子表面に対する上記シランカップリング剤の反応性は低い傾向にあるものの、表面改質の程度が低すぎると、換言すれば、金属酸化物の微粒子表面に修飾された表面改質剤の量が少なすぎると、後述するモノマーとの親和性が充分に向上し得ず、その結果、モノマーへの分散性が悪く、透明な光学性材料を得ることができなくなるおそれがあると共に、表面硬度の向上効果も得られなくなるおそれがあるところから、好適には、シランカップリング剤にて表面改質された金属酸化物中における正味の金属酸化物量が、90重量%以下となる程度まで、表面処理が施されることが望ましく、このような金属酸化物の微粒子を用いることによって、分散状態が良好に確保され得て、透明性に優れた光学性材料が得られるようになる。
【0030】
そして、シランカップリング剤にて表面改質された金属酸化物の微粒子は、その表面改質の程度等に応じて、モノマー組成物中に、好ましくは0.1〜80重量%、より好ましくは1〜60重量%、更に好ましくは10〜40重量%の割合において、分散、含有せしめられることとなる。これは、シランカップリング剤にて表面処理された金属酸化物の含有割合が少なくなり過ぎると、かかる金属酸化物による屈折率向上効果を充分に得ることができなくなるからであり、また、その含有量が多くなり過ぎると、光学性材料の透明性の確保が困難となるからである。
【0031】
なお、かかるシランカップリング剤にて表面改質された金属酸化物の微粒子を、ポリマーを与えるモノマーからなる液中に分散、含有せしめるには、公知の各種の手法が何れも採用され得るのであり、例えば、超音波で分散させることによって、かかる微粒子をモノマー液中に微細に且つ均一に分散せしめることができる。また、分散された金属酸化物の微粒子は、分散安定性に優れ、その状態が維持され得るようになっているのである。
【0032】
ところで、本発明に従う光学性材料となるポリマーを与えるモノマーとしては、重合性不飽和結合を有するモノマーであれば、特に限定されるものではなく、従来より、眼用レンズ材料等の光学性材料を与えるポリマーを形成するモノマーとして公知の各種のものが、適宜に選択されて、1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて用いられることとなる。特に、光学性材料の中でも、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズ用の材料には、モノマーとして、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーや、スチリル基を有するスチレン系モノマーが、有利に用いられる。
【0033】
具体的には、そのような光学性材料を与える(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、tert−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセロール(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート等のシリコン含有(メタ)アクリレート;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−tert−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−tert−ヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロへプチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−オクタデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ノナデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,7,7,7−オクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,9,9,9−ドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,11,11,11−ヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有アルキル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらのうちの1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて用いられるが、例示のものに何等限定されるものではなく、他の公知の(メタ)アクリレート系モノマーを用いることも勿論可能である。
【0034】
一方、スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、トリメチルスチレン、tert−ブチルスチレン、パーブロモスチレン、ジメチルアミノスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、トリメチルシリルスチレン、ペンタメチルジシロキサニルスチレン、ヘプタメチルトリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキサニルスチレン、ペンタデカメチルヘプタシロキサニルスチレン、ヘンエイコサメチルデカシロキサニルスチレン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサニルスチレン、ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニルスチレン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリルスチレン、トリメチルシロキシ(ペンタメチルジシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シリルスチレン、(トリス(トリメチルシロキシ)シロキサニル)ビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(ヘプタメチルトリシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)シリルスチレン、トリメチルシロキシ(ビス(トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ))シリルスチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキシ(ウンデカメチルペンタシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス(トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ)シリルスチレン、(トリス(トリメチルシロキシ)ヘキサメチルテトラシロキシ)(トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ)トリメチルシロキシシリルスチレン、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシロキサニルスチレン、ビス(トリデカメチルヘキサシロキシ)メチルシリルスチレン等のシリコン含有スチレン誘導体;4−ビニルベンジル−2’,2’,2’−トリフルオロエチルエーテル、4−ビニルベンジル−2’,2’,3’,3’,4’,4’,4’−ヘプタフルオロブチルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,3’,−トリフルオロプロピルエーテル、4−ビニルベンジル−3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,6’−ノナフルオロヘキシルエーテル、4−ビニルベンジル−4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’,8’,8’,8’−ウンデカフルオロオクチルエーテル、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、パーフルオロスチレン、p−トリフルオロメチルスチレン、o−トリフルオロメチルスチレン、m−トリフルオロメチルスチレン等のフッ素含有スチレン誘導体等を挙げることができ、これらのうちの1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて用いられるが、例示のものに何等限定されるものではなく、他の公知のスチレン系モノマーを用いることも勿論可能である。
【0035】
なお、上述せる如きモノマーの中でも、高屈折率化の観点から、重合後において屈折率の高い材料となるものがより一層好適に採用され得るのであり、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマーよりも高屈折率の材料を与えるスチレン系モノマーを主成分とするものが、有利に採用され得るのである。
【0036】
更にまた、かかる光学性材料に対して含水性を付与する場合には、上記疎水性のモノマーの他に、親水性モノマーも有利に用いられるのであり、かかる親水性モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチルエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド若しくはその誘導体(N置換);N−ビニルピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカプリルラクタム等のビニルラクタム類;アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシル基含有(メタ)アクリレート;無水マレイン酸;マレイン酸;フマル酸;フマル酸誘導体等を挙げることができ、これらは、単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、本発明においては、重合性不飽和結合を有するモノマーの一種である架橋剤を、更に用いることも可能である。ここにおいて、架橋剤としては、重合性基を二つ以上有する、従来からレンズ材料に使用されている、公知の各種の架橋剤が何れも用いられるのであり、特に限定されるものではないことは、言うまでもないところである。なお、そのような架橋剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールの(メタ)アクリレート;アジピン酸ジビニル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸アリルエステルビニルエステル、セバシン酸ジビニル、セバシン酸ジアリル、セバシン酸アリルエステルビニルエステル、その他、蓚酸、マロン酸、マレイン酸、メチルマロン酸、琥珀酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、メチル琥珀酸、グルタル酸、ジメチル琥珀酸、イソプロピルマロン酸、メチルグルタル酸、メチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ジ−n−プロピルマロン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,3−フェニレンジ酢酸、フェニル琥珀酸、ベンジルマロン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の多塩基カルボン酸のビニルエステルやアリルエステル(多塩基カルボン酸の全てのカルボキシル基がエステル化(完全エステル化)しているものが、溶解性の面から、より望ましい);ジビニルベンゼン;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート;トリアリルシアヌレート;トリアリルイソシアヌレート;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;トリメリット酸トリアリル;アリルエーテル;アルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールのジアリルエーテル;アルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールのジビニルエーテル;アルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールのアリルエーテルビニルエーテル;ジアリリデンペンタエリスリット;1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン等を例示することができ、これらの公知の架橋剤のうちの1種又は2種以上が、適宜に選択されて用いられ得るのである。
【0038】
なお、上記架橋剤は、上述せる如きモノマーの重合によって形成されるポリマーを架橋せしめるために用いられるものであって、かかるモノマーの重合時にその重合系に存在せしめられるものであり、一般に、その配合量としては、上述せる如きモノマーの総配合量の100重量部に対して、0.0005〜10重量部となる割合が採用される。この理由は、架橋剤が必要な際に、架橋剤の配合割合が上記範囲に満たない場合には、架橋剤による充分な効果が得られず、形状保持性や適度な弾性が得られなくなるおそれがあるからであり、逆に、かかる配合割合が上記範囲を超える場合には、架橋点が多くなり過ぎて、光学性材料が脆くなり、容易に破損してしまうおそれがあるからである。
【0039】
加えて、上述せる如き重合性不飽和結合を有するモノマーには、更に必要に応じて、従来から眼用レンズ材料等の光学性材料に一般的に用いられている、他の各種の配合剤乃至は添加剤、例えば、光学性材料に紫外線吸収性を付与したり、光学性材料を着色するために、重合性の紫外線吸収性モノマーや着色剤、紫外線吸収性着色剤等を、従来と同様に、必要に応じて添加せしめることもでき、これにより、それらの添加剤を、ポリマー中に導入し、光学性材料の構成成分の一つとすることも可能である。但し、それらの配合剤乃至は添加剤は、本発明の目的を阻害しないものであり、また阻害しない量的範囲において、用いられることとなることは、勿論、言うまでもないところである。
【0040】
かくして、上述の如き重合性不飽和結合を有するモノマーの1種又は2種以上からなるモノマー液中に、前述のシランカップリング剤にて表面処理を施した金属酸化物の微粒子を添加し、微細に分散せしめることによって、重合性のモノマー組成物が調製されるのであり、そして、このモノマー組成物を用いて、光学性材料を製造するに際しては、従来から公知の各種の重合手法が採用され、例えば、重合開始剤を更に配合せしめた後、常法に従って、重合せしめれば良い。
【0041】
具体的には、モノマー組成物の重合手法としては、例えば、重合開始剤を添加した後、室温〜約130℃の温度範囲にて徐々に或いは段階的に加熱して重合せしめる方法(熱重合法)や、増感剤を添加した後、適当な光線(例えば、紫外線等)を照射して、重合を行なう方法(光重合法)、又は、それら熱重合法と光重合法とを組み合わせて、重合を行なう方法等が挙げられる。更に、重合形式としては、塊状重合法が挙げられるが、また、その他公知の各種の手法が採用されても、何等差支えない。
【0042】
なお、一般に、熱重合の場合には、重合開始剤が使用される一方、紫外線等の光照射にて重合する場合には、増感剤が使用されるのであるが、増感剤及び重合開始剤の何れか一方を用いて、又は、その両方を組み合わせて用いて、光及び/又は熱にて重合することも可能である。
【0043】
ここにおいて、重合開始剤としては、通常の重合開始剤、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等が挙げられ、また、増感剤としては、通常の増感剤、例えば、ジエトキシアセトフェノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロピル−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロピル−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−4−モルホリノフェニル−ブタノン、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0044】
また、これらの重合開始剤及び増感剤は、そのうちの1種又は2種以上を適宜に選択して使用すればよく、その使用割合としては、全重合性成分の100重量部に対して、0.001〜5重量部、好ましくは、0.002〜3重量部となる割合が採用され得ることとなる。なお、全重合性成分の100重量部に対して、0.001重量部に満たない使用量の場合には、残留モノマーが多くなり過ぎて、重合体が固化しなくなり、また、全重合性成分の100重量部に対して、5重量部を超えるような使用量の場合には、重合後の平均分子量が大きくならず、光学性材料、特に眼用レンズに必要とされる強度が確保され得なくなったり、光学性材料が黄変したり等して、望ましくないのである。
【0045】
一方、光学性材料を成形する方法(加工方法)としては、特に限定されるものではなく、モノマー組成物を適当な重合型内又は重合容器内に収容して、かかる重合型内又は重合容器内で重合を行ない、棒状、ブロック状、板状等の素材(重合体)を得た後、切削加工、研磨加工等の機械的加工によって所望の形状に成形する切削加工法や、光学性材料の目的とする形状、例えば、その具体的用途たる眼内レンズやコンタクトレンズ等の眼用レンズの形状に対応した成形キャビティを有する成形型を用意し、この成形型の成形キャビティ内に、所定のモノマー組成物を収容して、型内で前記した重合成分の重合を行なって成形物を得る鋳型(モールド)法、更に必要に応じて、機械的に仕上げ加工を施すモールド法と切削加工法を組み合わせた方法等、当業者に従来から公知の各種の手法が、何れも、採用され得るのであるが、上記した方法の中でも、特に、モールド法が、生産コストを効果的に低減せしめることができるところから、好適に採用されることとなる。
【0046】
また、上述せるようにして成形されたポリマーは、使用するモノマーの種類に応じて、非含水性、又は含水性を有しているのであり、含水性の光学材料の場合には、成形後、更に、水中に浸漬せしめられる水和処理が施され、これによって、所定の含水率を有する含水性光学材料とされるのである。また、かかる光学性材料からコンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズを製造する場合には、生体に対する充分な安全性が確保されるように、必要に応じた滅菌処理等が、適宜に実施されることは、勿論、言うまでもないところである。
【0047】
さらに、本発明に従う光学性材料にあっては、必要に応じて、上述せる如きモールド法や切削加工法等による成形加工の後に、乾燥状態又は含水状態の光学性材料に対して、プラズマガスや紫外線、コロナ放電、エキシマレーザー、電子線等による表面処理や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド等の親水性剤による表面コーティングが実施されて、光学性材料表面を親水性化せしめて、更に優れた水濡れ性を付与することも、有効である。
【0048】
かくして、本発明に従って製造された光学性材料にあっては、それを与えるポリマー中に、所定の金属酸化物の微粒子が、ポリマー鎖に結合した状態或いは非結合状態で、微細に分散、含有せしめられているところから、光学性材料に必要とされる光学的透明性を損なうことなく、しかも、各種モノマーの配合組成に基づく酸素透過性、含水率等の諸物性を損なうことなく、金属酸化物の微粒子を含有しない従来のものに比して、高い屈折率を有しているのであり、これによって、高屈折率を有する透明な光学性材料として、特に、眼内レンズやコンタクトレンズの如き眼用レンズ材料として、有利に用いられ得るのである。
【0049】
そして、このような光学性材料から形成される眼用レンズにあっては、上述のように、屈折率の高い、極めて有用な光学性材料にて形成されるものであるところから、レンズ厚みを従来に比して薄くすることができるのである。従って、例えば、コンタクトレンズの場合には、レンズ厚みが薄くなる分、コンタクトレンズの酸素透過性も向上せしめられるようになるのであり、また、眼内レンズ(フォルダブル眼内レンズ)の場合には、眼内レンズを従来よりも簡単に折り畳むことができるようになる。
【0050】
また、シランカップリング剤の中でも、(メタ)アクリロイル基やスチリル基を有するシランカップリング剤で表面改質された金属酸化物の微粒子を採用することによって、光学性材料の硬度や強度が有利に向上せしめられるようになるのである。それ故、光学性材料(特に、ハードコンタクトレンズ)の酸素透過性を向上させる目的で、全重合性成分に占めるシリコン含有モノマーの配合割合を高くしても、ポリマーの硬度や強度の低下が、防止乃至は抑制され得るのである。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0052】
先ず、金属酸化物の微粒子として、TEM測定にて確認された平均粒子径が4nmである、酸化ジルコニウム(ZrO2 )を準備し、これに、以下の如き有機酸による表面処理及びシランカップリング剤による表面処理(1)〜(3)を施した。
【0053】
−有機酸処理−
酸化ジルコニウム6gをベンジルアルコール100gに超音波分散させた液に、カプリル酸6gを添加して、室温下、2時間撹拌した。この溶液にエタノールを、添加して沈殿を生成させ、デカンテーションした後、上澄み液を廃棄した。このエタノールを用いた操作を3回繰り返して、沈殿をエタノールで洗浄した後、遠心分離(3000rpm)を行って、白色沈殿物を回収した。引き続いて、エタノールを含む沈殿物を、30mlのテトラヒドロフランに再溶解し、溶媒を真空留去して、カプリル酸変性の酸化ジルコニウム(ZrO2 −CPA)5gを得た。そして、得られたZrO2 −CPAの元素分析を行ったところ、ZrO2 −CPA中の酸化ジルコニウムの含有量は、73wt%であった。
【0054】
−シランカップリング剤による表面処理−
(1)トリエトキシシラン処理によるメタクリロイル基の導入
上記有機酸処理が施されたZrO2 −CPA5gを、冷却管を備えた100mlの三口フラスコに入れ、窒素ガスを流しながら、テトラヒドロフラン40mlに溶解した。そして、室温にて30分撹拌した後、3gの3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBE503)をシリンジで添加し、更に10分撹拌した。この透明溶液にエタノールを4g添加し、得られた溶液を60℃のオイルバスで、3時間加熱撹拌した後、室温に戻して更に3時間撹拌した。そして、かかる溶液を、300mlビーカーに移し、大過剰のエタノールを添加して白色沈殿を生成させ、デカンテーションした後、上澄み液を廃棄した。その後、上記有機酸処理と同様の操作を行って、沈殿を回収し、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランで表面処理されたZrO2 (ZrO2 −1)の4gを得た。
【0055】
(2)モノエトキシシラン処理によるメタクリロイル基の導入
上記有機酸処理が施されたZrO2 −CPA8gを、冷却管を備えた200mlの三口フラスコに入れ、窒素ガスを流しながら、テトラヒドロフラン40mlに溶解した。そして、10gの3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン(信越化学工業株式会社製特注品)をシリンジで添加し、室温にて30分撹拌した。その後、得られた溶液を60℃のオイルバスで、3時間加熱撹拌した。この溶液に、更にカプリル酸を1.7g加え、更に3時間撹拌した。その後、オイルバスからフラスコを外し、2日間、室温で撹拌した。そして、得られた溶液を、500mlのビーカーに移し、大過剰のエタノールを添加して白色沈殿を生成させ、デカンテーションした後、上澄み液を廃棄した。その後、上記有機酸処理と同様の操作を行って、沈殿を回収し、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシランで表面処理されたZrO2 (ZrO2 −2)の8gを得た。
【0056】
(3)モノエトキシシラン処理によるスチリル基の導入
上記3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン(信越化学工業株式会社製特注品)に代えて、p−スチリルジメチルエトキシシラン(信越化学工業株式会社製特注品)を用いた以外は、上記(2)と同様の操作を行い、p−スチリルジメチルエトキシシランで表面処理されたZrO2 (ZrO2 −3)の8gを得た。
【0057】
また一方、モノマーとして、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン(SiSt)、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート(6FPMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、ビニルベンジルメタクリレート(VBMA)、メタクリル酸(MAA)及びN−ビニル−2−ピロリドン(N−VP)を準備し、更にまた、重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)を準備した。
【0058】
そして、下記表1又は表2に示される配合割合となるように、各種のモノマーを混合し、そこに、上記シランカップリング剤で処理された酸化ジルコニウム(ZrO2 −1〜3)を加えて、超音波分散させたところ、実施例1〜6及び比較例1〜3の何れのモノマー中においても、酸化ジルコニウムが均一に且つ微細に分散した。そして、酸化ジルコニウムが微細に分散された実施例1〜6及び比較例1〜3に係るモノマー組成物に、それぞれ、重合開始剤を加えた。次いで、得られたモノマー組成物を、それぞれ、ガラス製試験管に流し込み、45℃×24時間、50℃×24時間、及び65℃×15時間となるように、段階的に昇温して、重合した。
【0059】
そして、上述のようにして得られたポリマーからなる光学性材料を1.0mm厚さとなるように切削した後、分光光度計を用いて可視領域(380〜800nm)における光線透過率を測定したところ、実施例1〜6及び比較例1〜3に係るポリマーは、何れも可視光線の透過率が80%以上あり、充分な透明性を有していると共に、金属酸化物の微粒子がポリマー中に良好な分散状態をもって存在していることが認められた。また、XRD(X線回折)及びTEM(透過型電子顕微鏡)にて、ポリマー中に分散せしめられた金属酸化物の微粒子の粒子径を測定したところ、何れも、2〜5nm程度の範囲にあることを確認した。
【0060】
また、上記で得られた実施例1〜6及び比較例1〜3に係るポリマーからなる光学性材料を用いて、以下の物性測定(酸素透過係数、ショアD硬度、屈折率)を行った。
【0061】
−酸素透過係数−
上記で得られた光学性材料を、旋盤にて加工し、直径:約10mm、厚み:約0.2mmの円形状プレートを作製した。かかるプレートを、GTG(Gas to Gas法)ANALYZER(REHDER DEVELOPMENT COMPANY製)を用いて、測定時間:5分、温度:35℃にて測定し、その得られた測定値を、ISO 9912−2にて規格化された(株)メニコン製コンタクトレンズ「メニコンEX」(酸素透過係数=64)の測定値を用いて換算して、酸素透過係数を求め、その結果を下記表1及び表2に示した。
【0062】
−ショアD硬度−
上記で得られた光学性材料を、旋盤にて加工し、直径:約10mm、厚み:約3mmの円形状プレートを作製した。かかるプレートのショアD硬度を、デュロメーターTypeD((株)テクロック製)を用いて、温度:25℃、湿度:50%の条件下において測定し、得られた結果を下記表1及び表2に示した。
【0063】
−屈折率−
上記で得られた光学性材料を、旋盤にて加工し、直径:約10mm、厚み:約1mmの円形状プレートを作製した。かかるプレートの屈折率を、アッベ屈折計 TYPE 2T((株)アタゴ製)を用いて、温度:20℃、湿度:50%の条件下において測定し、得られた結果を下記表1及び表2に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
かかる表1の結果からも明らかなように、実施例1〜3に係る光学性材料は、ZrO2 −1〜3が配合されていない比較例1に係る光学材料に比して、屈折率が0.02以上も高くなっていることが、わかる。また、ZrO2−2又はZrO2−3を用いた実施例2,3にあっては、比較例1よりも、酸素透過係数が高く、酸素透過性にも優れていることが認められる。
【0066】
【表2】

【0067】
かかる表2の結果からも明らかなように、実施例4〜6に係る光学性材料は、ZrO2 −1〜3が配合されていない比較例2に係る光学性材料に比して、屈折率が0.02以上も高くなっていると共に、ショアD硬度も、大きくなっていることが、認められる。また、シリコン含有モノマー(SiSt)の配合割合が小さく、ZrO2 −1〜3が配合されていない比較例3と比較すると、実施例4〜6に係る光学性材料は、屈折率が0.07以上も高く、しかも、シリコン含有モノマー(SiSt)の配合割合が大きいにも拘わらず、ショアD硬度が略同程度となっていることが、わかる。これに対し、比較例2と3を比較すると、シリコン含有モノマー(SiSt)の配合割合が大きい比較例2は、ショアD硬度が大きく低下していることが認められる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和結合を有するモノマーの1種又は2種以上に、シランカップリング剤で表面改質された金属酸化物の微粒子を微細に分散せしめてなるモノマー組成物を、該金属酸化物の微粒子の分散状態を維持しつつ、重合せしめることによって得られたポリマーからなることを特徴とする光学性材料。
【請求項2】
前記表面改質により、前記金属酸化物の微粒子の表面に、重合性基である(メタ)アクリロイル基又はスチリル基が導入されている請求項1に記載の光学性材料。
【請求項3】
前記ポリマー中に分散せしめられた金属酸化物の微粒子の平均粒子径が、25nm以下である請求項1又は請求項2に記載の光学性材料。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種以上である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の光学性材料。
【請求項5】
前記シランカップリング剤で表面改質された前記金属酸化物の微粒子が、前記モノマー組成物中に、0.1〜80重量%の割合において含有せしめられる請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光学性材料。
【請求項6】
前記シランカップリング剤で表面改質された前記金属酸化物の微粒子が架橋剤として作用することにより、前記ポリマーが、該金属酸化物の微粒子を介して架橋せしめられている請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光学性材料。
【請求項7】
前記モノマーが、(メタ)アクリロイル基又はスチリル基を有するモノマーである請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光学性材料。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の光学性材料から形成される眼用レンズ。


【公開番号】特開2009−29931(P2009−29931A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195297(P2007−195297)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】