説明

光学材料用組成物および光学材料

【課題】 高屈折率、光散乱性、環境特性に優れる光学材料を提供する。
【解決手段】 有機成分と無機成分からなる光学材料用組成物およびそれを用いて形成した光学材料において、ストロンチウム、ビスマスのそれぞれの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を原料として得られた無機成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む光学材料用組成物および光学材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影光学系や観察光学系などの光学系に用いる光学素子を形成するに適した光学材料用組成物およびそれを重合して得られる光学材料に関するものであり、特に高屈折率、低分散、光散乱性、環境特性に優れる光学材料用組成物および光学材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、銀塩フィルム用やデジタル用のカメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどに、撮像モジュールが用いられている。故能ような撮像モジュールなどに用いられる光学系では、小型軽量、低コスト化が大きな課題となっている。そこでこれらの光学系では、光学素子の容積を小さくしやすい高屈折率の光学材料、あるいは成形が簡単で安価な光学材料を多用するようになってきた。
【0003】
近年、光学素子用の光学材料として、無機化合物と有機化合物を用いた有機無機複合材料、例えば合成樹脂中に粒子径数nm〜150nmの無機微粒子を均一に分散させた微粒子分散型の光学材料が提案されている。
【0004】
このような微粒子分散型の光学材料の場合、光学系の使用波長より小さい粒子等の不均一成分を含んだ有機無機複合材料を用いることによって、粒径が小さい不均一成分は光学性能に影響を与えないと考えられている。それ故に、およそ400〜800nmが使用波長域である白色光学系の光学素子の光学材料として、30nmないし100nm程度の不均一成分である微粒子を含む微粒子分散型の光学材料が提案されてきた。
【0005】
例えば、粒径1〜150nmのダイヤモンド微粉末を合成樹脂に均一に分散させてなる高屈折率を実現する光学用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、粒子径5〜100nmの金属粉末あるいは金属酸化物粉末を有機樹脂中に分散させることで高屈折率を実現する超微粒子分散型光学材料が提案されている(例えば、特許文献2)。
また、チタンとケイ素の複合金属酸化物(Six−Ti(1-x)2)の微粒子やTiO2、Nb25、ITO、Cr23、BaTiO3 などの粒径が2〜100nmの微粒子を熱可塑性の非晶性樹脂に分散させ高分散を実現する光学材料が提案されてきた(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特許第2867388号公報
【特許文献2】特開2000−44811号公報
【特許文献3】特許第3517625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の微粒子分散型の有機無機複合材料は、複雑形状の素子に成形できるという成形性に優れ、また透明性などにも優れ、比較的簡単に量産できる利点はある。しかしながら、従来の微粒子分散型の有機無機複合材料では、高屈折率で低分散を同時に満足するものは得られていない。また、従来の微粒子分散型の有機無機複合材料からなる光学素子は、光散乱性が大きいという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、有機成分と無機成分からなる光学材料用組成物において、ストロンチウム、ビスマスのそれぞれの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を原料として得られた無機成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む光学材料用組成物によって解決することができる。
また、前記金属含有有機化合物は、タンタルの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物化合物を更に含む前記の光学材料形成用組成物である。
前記金属含有有機化合物中、アルミニウムの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物化合物を更に含む前記の光学材料形成用組成物である。
前記金属含有有機化合物の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算で、5〜50質量%である前記の光学材料形成用組成物である。
【0008】
また、下記の化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる金属含有有機化合物を更に含む前記の光学材料形成用組成物である。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3 は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、または一部をアルキルエーテル基で置換したアルキル基、Mは、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Zr、Ti、V、W、Y、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mとした場合に、c=m−(a+b)である。)
また、前記化学式1において、金属元素MがSi、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料形成用組成物である。
【0009】
前記金属含有有機化合物が、金属アルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなる前記の光学材料形成用組成物である。
前記金属含有有機化合物が、金属の有機酸塩を熱処理して得られたものからなる前記の光学材料形成用組成物である。
前記金属含有有機化合物から得られた無機成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nmである前記の光学材料形成用組成物である。
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料形成用組成物である。
【0010】
また、光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.50,70)、(1.80,30)、(1.80,20)、(1.35,45)、(1.35,55)で囲まれた領域の光学恒数を有する前記の光学材料用組成物から得られた光学材料である。
光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.50,62)、(1.75,30)、(1.75,23)、(1.63,23)、(1.47,40)、(1.40,50)で囲まれた光学恒数を有する前記の光学材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学材料用組成物によって作製した光学材料は、光学材料の分散を調整しつつ、高屈折率化でき、光散乱性、耐環境性に優れ、特に高屈折率化によって光学素子の容積を小さくできるので、光学系の小型化も実現できる。また、光学材料の選択範囲が広がるので、光学系の収差も効率よく補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願の発明は、ストロンチウム、ビスマスのそれぞれの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を原料として得られた無機成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む光学材料用組成物、及びこの光学材料組成物から得られた光学材料に関するものである。
また、ストロンチウム、ビスマスのそれぞれの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を原料にして、無機成分を調製したことを特徴としている。
更に、タンタルの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を添加して無機成分を調製したことを特徴としている。
【0013】
本発明において、光学材料用組成物に導入する無機成分は、金属含有有機化合物を加水分解、重縮合、あるいは部分加水分解して製造した金属成分である。本発明では、このような無機成分を使用したので、光学材料用組成物中においては、金属酸化物を添加した場合とは異なり、金属含有有機化合物を構成していた有機成分の作用によって、重合性官能基を有する有機成分と無機成分が、より微細な状態で混合される。その結果、従来に比べて、本発明ではより均質な組成物を形成することが可能となる。
【0014】
金属酸化物微粒子を作製するには、プラズマ重合等による気相法、水溶液中でのゾルゲル反応等の液相法が知られているが、気相法では、粒径が30nm以下の微粒子の製造は困難であった。また、ゾルゲル法等の液相法では、粒径が小さなものを製造することは可能であるが、微粒子として安定に存在できるのは水性媒体中であり、水性媒体とは相溶性を有さない重合性官能基を有する有機成分中に均一に分散して存在することは困難である。
【0015】
これに対して、金属含有有機化合物は、重合性官能基を有する有機成分との相溶性が良好なものがあるので、金属含有有機化合物、あるいは金属含有有機化合物から金属酸化物微粒子への反応を進めたもの等を、重合性官能基を有する有機成分中に均一に分散させやすい。したがって、金属含有有機化合物を原料とした場合には、他の原料を用いた場合に比べて重合性官能基を有する有機成分中に金属酸化物粒子が均一に存在するものを得ることができる。
また、これらの金属含有有機化合物は、蒸留等の精製工程において、金属塩類に比べてより高純度の製品を得ることができるという特徴も有している。
したがって、本発明の光学材料用組成物においては、無機成分は微分散したものが得られるために、光学特性においても優れたものを得ることができるという特徴を有している。
【0016】
ここで、ストロンチウムおよびビスマスを含有する無機成分は、高屈折率で高分散を実現するための必須の成分である。一方、タンタルを含有する無機成分は、高屈折率で高分散を実現するために寄与する成分である。また、アルミニウム成分も、高屈折率で低分散を実現に寄与する成分である。
【0017】
これらの金属成分の量は、光学材料用組成物の総質量に対して、酸化物換算質量で、5質量%以上50質量%以下が好ましい。5質量%以下では、ストロンチウム含有有機化合物によってストロンチウム成分を添加した効果が小さい。一方、50質量%以上では、光散乱性が悪化したり、所望の形状に成形することが難しいなどの問題が発生する。金属成分の量はより好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0018】
ストロンチウム成分、ビスマス成分およびタンタル成分としては、ストロンチウム、ビスマス、あるいはタンタルのアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものを挙げることができる。
ストロンチウムのアルコキシドとしては、ストロンチウムジメトキシド、ストロンチウムジエトキシド、ストロンチウムジプロポキシド、ストロンチウムジブトキシドを挙げることができる。また、ビスマスのアルコキシドとしては、ビスマストリメトキシド、ビスマストリエトキシド、ビスマストリプロポキシド、ビスマストリブトキシド等を挙げることができる。また、タンタルのアルコキシドとしては、タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタプロポキシド、タンタルペンタブトキシドなどが挙げられる。
【0019】
金属アルコキシドから無機成分を形成する場合には、金属アルコキシドの縮重合反応における希釈溶剤の種類や量、触媒の種類や量、反応温度、時間を適宜調整することで、生成する無機粒子径にかかわる分子量や、屈折率および分散にかかわる結晶性や密度を調整可能となる。
【0020】
また、前記金属含有有機成分としては、各金属の有機酸塩あるいはそれを熱処理して得られたものを用いることができる。有機酸としては、2−エチルヘキサン酸、n−オクタン酸、ナフテン酸などがあげられる。
具体的には、ストロンチウムの有機酸塩としては、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、n−オクタン酸ストロンチウム、ナフテン酸ストロンチウム等を挙げることができる。また、ビスマスの有機酸塩としては、2−エチルヘキサン酸ビスマス、n−オクタン酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等を挙げることができる。また、タンタルの有機酸塩としては、2−エチルヘキサン酸タンタルなどが挙げられる。
【0021】
ストロンチウム化合物、ビスマス化合物と共に混合するアルミニウム含有有機化合物としては、アルミニウムアルコラートおよびその加水分解物、アルミニウムキレートの熱分解物などが用いられる。更に、アルミナ粒子、ベーマイト型水酸化アルミニウム等を添加しても良い。
【0022】
本発明の光学材料形成用組成物中においては、金属含有有機化合物から形成した無機成分は、平均粒子径が20nm以下で、90%粒子径が30nm以下であることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が15nm以下で、90%粒子径が20nm以下である。
ここで粒子径は動的光散乱法よって求めたもので、平均粒子径とは粒子径分布の中心値を、また90%粒子径とは全粒子の90%が含まれる範囲の粒子径のことを言う。いずれの粒子径より大きい場合は透過率や光散乱が大きくなってしまう。つまり、たとえ平均粒子径が20nm以下で小さくても、粒径分布の幅が広く30nmより大きな粒子径の粒子が全粒子の10%を超えた割合で存在してしまうと、透過率は悪化しないが光散乱が大きくなってしまうことになる。
【0023】
また、本発明の金属含有有機化合物から形成した無機成分と、重合性官能基を有する有機成分以外にも、下記の化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類の金属含有化合物を用いることができる。
化学式1
1a2bM(OR3c
1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基である。
【0024】
具体例としてはメチル基、イソブチル基、トリフルオルメチル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、フェニル基、スチリル基、エポキシ基、エポキシプロピル基、オキセタニル基、グリシジル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基などがあげられる。特に好ましくはメチル基、エチル基、イソブチル基、フェニル基、エポキシ基、オキセタニル基、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が挙げられる。
また、R3 は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、または一部をアルキルエーテル基で置換したアルキル基、Mは、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Zr、Ti、V、W、Y、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mとした場合に、c=m−(a+b)である。
また、前記化学式1において、金属元素MがSi、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料形成用組成物である。
【0025】
以上の化学式1で示した成分は、ストロンチウム含有有機化合物、ビスマス含有有機化合物、タンタル含有有機化合物、アルミニウム含有有機化合物等の金属含有有機化合物から生成した微粒子表面、あるいはこれらから生成した金属酸化物等の微粒子表面を修飾して、これらの粒子と重合性官能基を有する有機成分との相溶性や分散性を調整し、微粒子化した成分同士の凝集を防止して、粒子径が大きくなることによる透過率や光散乱性の低下を防ぐ作用を有する。
また、R1およびR2の有機基としてビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、オキセタニル基などの重合性有機基を有する金属アルコキシドを用いることで、有機成分と金属成分含有有機化合物、あるいは有機成分と生成した金属酸化物微粒子表面との間に強固な共有結合ができるので、相溶性および結合性が向上して、より環境安定性や光散乱性を向上させることができ、さらに機械的強度も向上できるものと考えられる。
【0026】
金属アルコキシドあるいはその加水分解物の具体例は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン、アルミニウムイソプロポキシド、ペンタエトキシタンタル、ペンタメトキシタンタル、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、テトラエトキシゲルマニウム、エチルトリエトキシゲルマニウム、ハフニウムノルマルブトキシド、ランタンイソプロポキシドあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0027】
また、微粒子化した金属酸化物の粒子表面を修飾する金属アルコキシド等の成分以外にも、粒子表面を修飾する成分として、粒子表面と反応するためのイソシアネート基、有機成分と相溶したり共重合するための官能基を分子内に有している化合物を用いても良い。
さらに金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる金属含有成分は、単独であるいは複数種類の混合物として用いることができる。このため、光学設計上で求められる屈折率や分散、透過率などの光学特性にあわせて、混合する数種類の金属成分の組成比を決めることができる。
【0028】
重合性官能基を有する有機成分としては、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル(以下、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの少なくともいずれか一種を含有するものを(メタ)アクリレートと称す)、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物を用いることができる。
【0029】
具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシナネート、3−((メタ)アクリロキシ)プロピル−シルセスキオキサン、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド、ビス(4−ビニルチオフェニル)スルフィドなどを挙げることができる。また、モノマーのまま用いても良いし、モノマーを少し重合させたオリゴマーとして用いても良い。
【0030】
重合性官能基を有する有機成分としては、上記以外にも全ての成分が完全に相溶する合成樹脂等を用いることができる。例えばポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシランなどを挙げることができる。
【0031】
本発明の光学材料は、上記金属含有有機化合物、有機成分および金属酸化物微粒子成分以外にも、その他の成分として重合開始剤あるいは硬化剤、光増感剤、連鎖移動剤、酸化防止剤などが添加される。
重合開始剤としては、光重合開始剤、あるいは熱重合開始剤が挙げられ、具体的には有機成分が(メタ)アクリレートの場合および無機成分の金属アルコキシドの有機基がビニル基、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基である場合は、熱重合開始剤としては過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどを挙げることができ、光重合開始剤としてはベンゾフェノン系開始剤、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニループロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1、2一ジフェニルエタン−1−オンなどを挙げることができる。
【0032】
また有機成分がエポキシ樹脂の場合および無機成分の金属アルコキシドの有機基がエポキシ基あるいはオキセタニル基である場合は、触媒型硬化剤として芳香族系3級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸類などを挙げることができ、重付加型硬化剤としては、ポリアミン系硬化剤、変性ポリアミン系硬化剤、カルボン酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、硫黄含有化合物系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ポリエステル系硬化剤などを挙げることができる。
【0033】
また、本発明の光学材料の屈折率および分散(アッベ数)の調整は、金属含有有機化合物の添加量、分子量、結晶性および密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、金属酸化物微粒子成分の種類と添加量、および硬化条件で行うことができる。
【0034】
例えば、光学材料の屈折率及び分散を高屈折率高分散化する場合について説明する。ここで、光学材料は、下記の物質、成分から構成されている。
金属含有有機成分として2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマスおよびペンタエトキシタンタルをそれぞれ、質量比で4:12:8とし、これに対して、2,4−ペンタンジオンとプロピレングリコールモノエチルエーテルを質量比で75:1として希釈溶剤として加えて、加水分解反応と縮重合反応を行って得られた複合金属成分含有物質A、重合性官能基を有する有機成分としてメチルメタクリレート、化学式1で表される金属アルコキシドとして、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、その他の成分としてベンゾフェノン系開始剤である。
【0035】
このような光学材料において、複合金属成分含有物質Aの原料中のペンタエトキシタンタルの量に対して、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの割合を質量比で4分の1として、複合金属成分含有物質Aの原料中に含まれる2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタル総量の割合を光学材料全体に対して、金属成分を含まないものから50質量%まで変化させたときの、光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの変化を、図1の曲線Aに示す。ここで、nd、νdは、それぞれd線における屈折率及びアッベ数である。なお、アッベ数は分散を表す。
【0036】
メチルメタクリレート単体の(nd,νd)=(1.492,58)から、光学材料に含まれるストロンチウム、ビスマスおよびタンタル成分の総量の割合を増加させると、屈折率と分散は、高屈折率高分散の方向に変化する。そして、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマスおよびタンタル成分を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.576,38)まで光学材料の屈折率と分散を高屈折率高分散化することができる。
【0037】
また、光学材料において、重合性官能基を有する有機成分を下記化学式2に示されるアクリレートに変更し、硬化工程において60℃〜160℃まで段階的に昇温させた点を除き、同様にストロンチウム、ビスマスおよびタンタルの割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10〜50質量%まで変化させたときの光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Dに示す。
【0038】
【化1】

【0039】
また、化学式2に示されるアクリレート単体の(nd,νd)=(1.646,23)から、光学材料に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を増加させるとともに、分散はそれほど変化せずに屈折率は高屈折率の方向に変化する。そして、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、これらの金属成分を含まないものから、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50%質量まで増加させると、(nd,νd)=(1.678,23)まで光学材料の屈折率を高屈折率化することができる。
【0040】
更に、上記曲線Dの様に変化する光学材料において、金属成分として、ベーマイト型水酸化アルミニウムを10質量%添加した場合、ストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、金属成分を含まないものから40質量%まで変化させたときの光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Gに示す。
【0041】
化学式2に示されるアクリレート単体にベーマイト型水酸化アルミニウムを10質量%添加した場合の(nd,νd)=(1.628,24)から、光学材料全体に含まれる複合金属成分含有物質Aの割合を増加させると、分散はほとんど変化せずに屈折率は高屈折率の方向に変化する。そして、光学材料全体に含まれる複合金属成分含有物質Aを、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.653,25)まで光学材料の屈折率を高屈折率化することができる。
また、ベーマイト型水酸化アルミニウムの10質量%を添加していない系に対し、若干ではあるが、低分散化した曲線となり、ベーマイト型水酸化アルミニウムの添加によって分散の制御が可能であることを示している。
【0042】
さらに、上記重合性官能基を有する有機成分として化学式2に示されるアクリレートの代わりに、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィドを用いて、同様の処理を行い、光学材料全体に含まれる複合金属成分含有物質Aを、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、これらの金属成分を含まないものから50質量%まで変化させたときの光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Cに示す。
【0043】
ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド単体の(nd,νd)=(1.628,36)から光学材料全体に含まれる、ストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を増加させると、分散はそれほど変化せずに屈折率は高屈折率の方向に変化する。そして、複合金属成分含有物質Aを、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.670,31)まで光学材料の屈折率を高屈折率化することができる。
【0044】
また、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、およびペンタエトキシタンタルの混合溶液を加水分解反応と縮重合を行ったものを、300℃において窒素雰囲気において1時間、微粒子化と半無機化を進めて更に粉砕・分級した、タンタル酸ビスマスストロンチウム前駆体の金属含有機化合物微粒子(以下、SBT粒子と称す)を調製した。SBT粒子として、平均粒子径が9nmで、90%粒子径(個数)が20nmの粒子を水分散させたものを用いた。
【0045】
また、重合性官能基を有する有機成分として化学式3で示される硫黄含有有機化合物を、化学式1で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてフェニルトリメトキシシランを、その他の成分としてアミン系硬化剤を用い、SBT粒子成分中のペンタエトキシタンタルの量に対するフェニルトリメトキシシランの割合を、質量比で4分の1として、光学材料用組成物全体に含まれるSBT粒子を、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、およびペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合を、金属成分を含まないものから50質量%まで変化させ、硬化工程において60℃から160℃まで段階的に昇温させて硬化させた光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Eに示す。
【0046】
【化2】

【0047】
また、化学式3の硫黄含有有機化合物単体の(nd,νd)=(1.71,36)から、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、これらの成分の総量の割合を増加させると屈折率はあまり変動せずに分散は高分散の方向に変化する。そして、光学材料に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.756,30)まで光学材料の分散を高分散化することができる。
【0048】
次に、図1の曲線Aに示した材料系において、重合性官能基を有する有機成分のみをシルセスキオキサンからなるシリコーン樹脂に変更し、光学材料に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合で、これらの金属成分を含まないものから50質量%まで変化させたものを、硬化工程において60℃〜160℃まで段階的に昇温させて硬化させた光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Bに示す。
【0049】
シリコーン樹脂単体の(nd,νd)=(1.410,50)から、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を増加させると、屈折率は高屈折率高分散の方向に変化する。そして、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマスおよびタンタルの成分を、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムと2−エチルヘキサン酸ビスマスとペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.510,36)まで光学材料の屈折率と分散を高屈折率、高分散化することができる。
【0050】
また、図1の曲線Aに示した材料系において、重合性官能基を有する有機成分のみを非晶質シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン製Zeonex480R)に変更し、光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、これらの金属成分を含まないものから50質量%まで変化させたものを、硬化工程において60℃〜160℃まで段階的に昇温させて硬化させた光学材料の屈折率ndとアッベ数νdの測定点の変化を図1の曲線Fに示す。
【0051】
この非晶質シクロオレフィンポリマー単体の(nd,νd)=(1.542,56)から光学材料全体に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の総量の割合を増加させると、屈折率と分散は高屈折率高分散の方向に変化する。そして、光学材料に含まれるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合を、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.606,39)まで光学材料の屈折率と分散を高屈折率、高分散化することができる。
【0052】
以上のように、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルといった金属含有有機化合物の添加量、分子量、結晶性および密度、前記金属成分含有有機物に添加するアルミニウム含有有機化合物の添加量、分子量、結晶性および密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、無機成分の種類と添加量、および硬化条件などを調整することで、光学材料の屈折率や分散が制御可能である。
【0053】
制御可能な範囲としては、各種材料を選択し、条件を制御することで、図1に直線で囲ったような、屈折率ndおよびアッベ数νdが(nd,νd)=(1.50,70)、(1.80,30)、(1,80,20)、(1.35,45)、(1.35,55)で囲まれた光学恒数を有する領域が制御可能である。特に、細かく制御し易い領域としては、屈折率ndおよびアッベ数νdが(nd、νd)=(1.50,62)、(1.75,30)、(1.75,23)、(1.63,23)、(1.47,40)、(1.40,50)で囲まれた光学恒数を有する領域である。
以下、本発明によって作製した光学材料用組成物およびそれを用いて製造した光学材料を実施例を示して説明する。
【実施例1】
【0054】
2−エチルヘキサン酸ビスマス14.76mmol、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム4.92mmo1およびタンタルペンタエトキシド12.30mmolをプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル100g中に加えて、100℃、4時間攪拌反応、濃縮して25℃まで冷却した。
次いで、水0.58g、ジエタノールアミン0.35g、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル5.0gを添加して、90℃において2時間、部分加水分解反応を行い、25℃まで冷却した後、0.2μmフィルターで濾過して金属成分含有溶液Bを調製した。
【0055】
金属成分含有溶液Bを、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン15gと水0.
6gを混合して25℃にて12時間攪拌した混合溶液に添加して、さらに25℃にて8時間攪拌した後、水、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルおよび副生成物を50℃での蒸発操作で取り除き、金属成分含有シリカゾルを得た。
光学材料に占める金属成分の割合を、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した総量の割合で、10質量%になるように、金属成分シリカゾル5gとメチルメタクリレート45g、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.5gを混合して本発明の光学材料形成用組成物を得た。
【0056】
表裏よりそれぞれ3J/cm2 の紫外線照射によって25℃にて硬化させたところ、(nd,νd)=(1.505,53)であった。この結果を図2において、横軸に光学材料に占めるストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合での総量を、質量%で示し、各質量%で得られた光学材料の屈折率nd、アッベ数νdを示した。
本実施例によれば、高屈折高分散である光学材料を得ることができる。
【実施例2】
【0057】
実施例1における金属成分含有シリカゾルの製造工程での蒸発操作の温度を50℃から80℃に変更するとともに、得られた光学材料形成用組成物を紫外線照射によって硬化させる際に、温度を25℃から、毎分10℃の昇温速度で150℃まで昇温し150℃で1時間保持させた後に紫外線照射した点を除き、実施例1と同様に光学材料を調整した。
このように加熱を行うことで、金属成分含有ゾル内の金属成分含有有機化合物の反応が促進され、より安定した物性を有する硬化物となることが期待される。なお、加熱反応時に発生する歪みを低減するため徐々に昇温することが好ましい。
【0058】
実施例1と同様に、金属成分含有シリカゾルとメチルメタクリレートとの混合比を調整し、ストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、10〜50質量%まで変化させた光学材料の屈折率nd、アッベ数νdの変化を図3に示した。
【0059】
メチルメタクリレート単体の(nd,νd)=(1.492,58)からストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を増加させるとともに高屈折率の方向に変化し、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した合計の割合で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.512,53)、(1.527,49)、(1.543,45)、(1,562,41)、(1.583,38)と高屈折率化することができた。
本実施例によれば、同じ材料を用いながら、実施例1よりも高屈折率、高分散化した光学材料を得ることができる。
【実施例3】
【0060】
実施例1において、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルとしてベーマイト型水酸化アルミニウムを10質量%含有する溶液を添加した以外は、実施例1と同様に調製した。
実施例1と同様にして、ストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、それぞれ、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した割合で、金属成分を含まないものから40質量%まで含むものまで変化させた光学材料形成用組成物を調製し、紫外線硬化させた時の屈折率ndとアッベ数νdの変化を、図4に示した。
【0061】
メチルメタクリレート単体にベーマイト型水酸化アルミニウムを10質量%含有するゾルを添加したものの(nd,νd)=(1.481,60)からストロンチウム、ビスマス、およびタンタル成分の割合を、増加させるとともに高屈折率の方向に変化し、また金属成分を、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ペンタエトキシタンタルに換算した総量で、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%まで増加させると、(nd,νd)=(1.493,55)、(1.506,51)、(1.520,47)、(1.537,43)と高屈折率化することができた。
本実施例によれば、分散を少し大きく変化させて高屈折化した光学材料を得ることができる。
【実施例4】
【0062】
実施例1と同様に調製した金属成分含有溶液Bを、窒素雰囲気下で750℃、1時間の加熱処理した後に粉砕・分級した、平均粒子径が10nmで、90%粒子径が20nmのタンタル酸ビスマスストロンチウム微粒子を、金属成分含有溶液B中に、金属成分の量が同量となるように添加し、メチルメタクリレートに代えて、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィドを用いて、金属成分含有シリカゾル10gとビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド40gと、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.5gを混合して本発明の光学材料形成用組成物を得た。
紫外線照射によって硬化させたところ、(nd,νd)=(1.693,28)であった。
本実施例によれば、より高屈折・高分散化した光学材料を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光学材料形成用組成物は、光学材料の分散を制御しつつ高屈折率化できるので、光学素子の大きさを小さくでき、収差も効率よく取り除くことができるとともに、光散乱性、耐環境性に優れ、比較的高温や高圧力を加えることなく複雑形状の光学素子を短時間で製造できる高い加工性を有しているので、光学系の小型軽量、製造効率の改善等に貢献でき、産業上も極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の光学材料の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図2】本発明の光学材料の一実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図3】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図4】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分と無機成分からなる光学材料用組成物において、ストロンチウム、ビスマスのそれぞれの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物を原料として得られた無機成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含むことを特徴とする光学材料用組成物。
【請求項2】
前記金属含有有機化合物は、タンタルの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物化合物を更に含むことを特徴とする請求項1記載の光学材料形成用組成物。
【請求項3】
前記金属含有有機化合物中、アルミニウムの有機酸塩、アルコラート、アルコキシドから選ばれる金属含有有機化合物化合物を更に含むことを特徴とする請求項1または2記載の光学材料形成用組成物。
【請求項4】
前記金属含有有機化合物の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算で、5〜50質量%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学材料形成用組成物。
【請求項5】
下記の化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる金属含有有機化合物を更に含むことを特徴とする請求項3記載の光学材料形成用組成物。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3 は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、または一部をアルキルエーテル基で置換したアルキル基、Mは、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Zr、Ti、V、W、Y、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mとした場合に、c=m−(a+b)である。)
【請求項6】
前記化学式1において、金属元素MがSi、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
前記金属含有有機化合物が、金属アルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学材料形成用組成物。
【請求項8】
前記金属含有有機化合物が、金属の有機酸塩を熱処理して得られたものからなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学材料形成用組成物。
【請求項9】
前記金属含有有機化合物から得られた無機成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nmであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の光学材料形成用組成物。
【請求項10】
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の光学材料用組成物。
【請求項11】
光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.50,70)、(1.80,30)、(1.80,20)、(1.35,45)、(1.35,55)で囲まれた領域の光学恒数を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の光学材料用組成物から得られた光学材料。
【請求項12】
光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.50,62)、(1.75,30)、(1.75,23)、(1.63,23)、(1.47,40)、(1.40,50)で囲まれた光学恒数を有することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の光学材料形成用組成物から得られた光学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−282789(P2006−282789A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102831(P2005−102831)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】