説明

光学材料用組成物及び光学材料

【課題】高屈折率と光散乱性とを含めた光学特性、成形性及び表面硬度に優れた光学素子を形成するために好適な光学材料を提供する。
【解決手段】 WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含む組成物を重合させて硬化させた硬化物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系などの光学系に用いる光学素子を形成するに適した光学材料用組成物及び光学材料に関し、特に、高屈折率、光散乱性及び表面硬度に優れる光学材料用組成物及び光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銀塩フィルム用やデジタル用のカメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが使用されている。このような撮像モジュールなどに用いられる光学系では、小型軽量、低コスト化が大きな課題となっている。そこで、これらの光学系では、光学素子の大きさを小さくしやすい高屈折率の光学材料あるいは成形が簡単で安価な光学材料を多用するようになっている。
【0003】
このような光学材料としては、光学ガラス、光学用熱可塑性樹脂、高温で押圧成形し所望の光学素子を得るための低融点ガラス、あるいは成形しながら熱や光で重合し所望形状の光学素子を得ることができるエネルギー硬化型樹脂が用いられている。
【0004】
また近年、光学素子用の光学材料として、無機化合物と有機化合物を用いた有機無機複合材料、例えば樹脂中に粒子径が数nm〜150nmの微粒子を均一に分散させた微粒子分散型の光学材料が提案されている。
【0005】
この微粒子分散型の光学材料の場合、即ち、光学系の使用波長より小さい粒子等の不均一成分を含んだ有機無機複合材料からなる光学素子の場合、小さい不均一成分は光学性能に影響を与えないと考えられている。このため、およそ400〜800nmが使用波長域である白色光学系の光学素子の光学材料としては、100nmあるいは30nm程度の不均一成分である微粒子を含む微粒子分散型の光学材料が提案されている。
【0006】
例えば、特許第2867388号公報では、粒径1〜150nmのダイヤモンド微粉末を合成樹脂に均一に分散させてなる高屈折率を実現する光学用樹脂組成物が提案されている。また、特開2000−44811公報では、粒子径5〜100nmの金属粉末あるいは金属酸化物粉末を有機樹脂中に分散させることにより高屈折率を実現する超微粒子分散型光学材料が提案されている。さらに、特開2001−74901公報では、チタンとシリコンの複合金属酸化物(Si−Ti(1−x))の微粒子やTiO、Nb、ITO、Cr、BaTiOなどの粒径が2〜100nmの微粒子を熱可塑性の非晶性樹脂に分散させて高分散を実現する光学材料が提案されている。
【特許文献1】特許第2867388号公報
【特許文献2】特開2000−44811公報
【特許文献3】特開2001−74901公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学ガラスでは、光学有効面を収差補正性能の優れる非球面形状に加工することが難しい、あるいは加工に時間がかかるので量産には不向きであるという欠点がある。
【0008】
また、低融点ガラスにおいては、光学素子の光学有効面を非球面形状に加工するのが容易であり、高屈折率で耐環境性などに優れる利点はある反面、大口径あるいは大偏肉形状の光学素子としての成形が難しい、あるいは成形機及び金型が高価になるなどの成形性等に欠点がある。
【0009】
また、光学用熱可塑性樹脂及びエネルギー硬化型樹脂においては、大口径あるいは複雑形状の光学素子に成形できる成形性や量産性に優れる利点があるものの、光学材料として選択できる屈折率及び分散の範囲が狭く、光学系の小型軽量化あるいは高性能化を制限する問題、及び表面硬度が低く傷つきやすい問題がある。
【0010】
近年、提案されている微粒子分散型の有機無機複合材料は、複雑形状の光学素子に成形する成形性や透明性などに優れ、比較的簡単に量産できる利点はあるものの、高屈折率化は満足するレベルに達してはいない。また微粒子分散型の有機無機複合材料からなる光学素子は、光散乱性が大きいという問題点がある。
【0011】
光散乱性は、光学素子内部における光の散乱の強度を評価するものであり、光散乱性が悪い、つまり散乱光の強度が大きい光学素子では、仮にその光学素子の収差がゼロであっても、光学素子を透過した光により形成される像がぼやけてしまい、優れた光学素子とはいえないものとなる。光散乱性は、光学素子を構成する材料自身に起因するもので、光学素子内部が光学的に均一でない、すなわち、屈折率、透過率が均一でない場合に光が散乱してしまうことに起因している。
【0012】
すなわち、このように光学系の使用波長より小さな不均一成分が多量に光学素子内部に存在すると、プリズムあるいは導波路など光学素子単体内での光路長が長い光学素子、あるいは顕微鏡や高画素デジタルカメラなど光学素子自体に高性能な光学性能が要求される光学系の光学素子においては、散乱光強度の大きさが問題になる。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、高屈折率と良好な光散乱性も含めた光学特性、成形性及び表面硬度に優れた光学素子を形成するために好適な光学材料用組成物及び光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明の光学材料用組成物は、WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含むことを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の光学材料用組成物であって、前記酸化タングステン粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算の質量%で5〜60%であることを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の光学材料用組成物であって、下記の化学式(1)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分をさらに含むことを特徴とする。
M(OR……化学式(1)
(式中、R及びRは同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Ta、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、a及びbは0ないし2、cは金属元素Mの価数−(a+b)から計算される正の整数)
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の光学材料用組成物であって、前記化学式(1)において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料用組成物であって、前記酸化タングステン粒子成分が、下記の化学式(2)で表されるタングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはこれらの加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする。
W(OR6−d ……化学式(2)
(式中、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし1)
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料用組成物であって、前記酸化タングステン粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化タングステン粒子であることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項記載の光学材料用組成物であって、前記有機成分がメタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種類を有することを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明の光学材料は、WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含む組成物を重合させた硬化物であることを特徴とする。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の光学材料であって、前記酸化タングステン粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算の質量%で5〜60%であることを特徴とする。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項8または9記載の光学材料であって、下記の化学式(1)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分をさらに含むことを特徴とする。
M(OR……化学式(1)
(式中、R及びRは同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Ta、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、a及びbは0ないし2、cは金属元素Mの価数−(a+b)から計算される正の整数)
【0024】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の光学材料であって、前記化学式(1)において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0025】
請求項12記載の発明は、請求項8〜11のいずれか1項記載の光学材料であって、d線の屈折率nd及びアッベ数νdが、(nd、νd)=(1.4、60)、(1.6、60)、(1.9、25)、(1.9、15)、(1.6、20)で囲まれた領域に存在することを特徴とする。
【0026】
請求項13記載の発明は、請求項8〜12のいずれか1項記載の光学材料であって、前記酸化タングステン粒子成分が、下記の化学式(2)で表されるタングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはこれらの加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする。
W(OR6−d ……化学式(2)
(式中、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし1)
【0027】
請求項14記載の発明は、請求項8〜12のいずれか1項記載の光学材料であって、前記酸化タングステン粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化タングステン粒子であることを特徴とする。
【0028】
請求項15記載の発明は、請求項8〜14のいずれか1項記載の光学材料であって、前記有機成分がメタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種類を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の光学材料用組成物によれば、高屈折率で且つ光散乱性に優れた光学特性を有し、しかも成形性及び表面硬度に優れた光学素子を成形することが可能な光学材料とすることができる。
【0030】
本発明の光学材料によれば、高屈折率であるので光学素子の大きさを小さくでき、光散乱性に優れ、表面硬度が高く傷つきにくく、常温付近で液状であるため、高温や高い圧力をかけることなく複雑形状の光学素子を短時間で製造できる高い加工性を有しており、光学系の小型軽量化、低コスト化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の光学材料用組成物は、WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含むものである。
【0032】
また、本発明の光学材料は、WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含む組成物を重合させた硬化物から構成される。
【0033】
WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分は、高屈折率を実現するための必須の成分であり、含有量が光学材料の総質量に対する酸化物換算で、5質量%以上60質量%以下が好ましい。含有量が5質量%未満では、添加した効果が小さく、60質量%を超える場合は、光散乱性が悪化したり、光学材料用組成物の粘度が高くなりすぎて所望の形状に成形することが難しいなど問題が発生する。より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0034】
酸化タングステン粒子成分としては、下記の化学式(3)で表されるタングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはこれらの加水分解物を重合させたものが好適である。
W(OR6−d ……化学式(3)
【0035】
化学式(3)中において、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし1である。
【0036】
の有機基におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基などを用いることができる。ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタクロロエチル基などを用いることができる。アリール基としてはスチリル基を用いることができる。なお、アリール基として好ましいのは、メチル基、フェニル基である。
【0037】
のアルキル基またはアリール基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、フェニル基などを用いることができる。
【0038】
タングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはそれらの加水分解物としては、へキサエトキタングステン、へキサブトキタングステン、へキサクロロタングステン、ヘキサブロモタングステン、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムあるいはそれらの加水分解物などを用いることができる。
【0039】
タングステンアルコキシドを用いる場合は、エタノールなどの低級アルコールと、水及び必要に応じて触媒を加えて加水分解した後、縮重合してPS換算分子量2000〜1500000程度まで高分子量化させたものを用いる。
【0040】
タングステンアルコキシド以外を用いる場合は、エタノールなどの低級アルコールを加えて一旦タングステンアルコキシドを経由し、タングステンアルコキシドと同様に加水分解、縮重合して高分子量化させて用いる。
【0041】
タングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物から製造される酸化タングステン粒子成分を用いる場合、縮重合反応における水の量、低級アルコールなどの希釈溶剤の種類や量、触媒の種類や量、反応温度、反応時間を適宜調整することにより、粒子径にかかわる分子量や、光学恒数(屈折率及び分散)にかかわる結晶性や密度を調整することが可能となる。
【0042】
なお、原子価6のタングステンからなる酸化タングステンは、一部が還元して原子価5のタングステンが存在すると青色に着色する傾向にある。酸化タングステンの還元を防ぐため、酸化タングステン粒子成分の製造工程中は、酸、アルカリ金属イオン及びアルカリ金属イオンを極力混入しないないようにする必要がある。必要であれば、重合工程において加熱還流を行って原子価5のタングステンを原子価6のタングステンまで十分に酸化させて着色を防ぐことを行う。
【0043】
また、酸化タングステン結晶を砕いて粉末化し微粒子にしたもの、気相酸化法、ジュールクエンチ法あるいは熱プラズマ法などの公知の方法で製造された酸化タングステン粒子を、水やアルコールなどの各種有機溶剤から選ばれる分散媒に均一に分散させる。これを、酸化タングステン粒子成分として用いることができる。このような酸化タングステン粒子を酸化タングステン粒子成分として用いる場合、酸化タングステン粒子の大きさは平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下であることが好ましい。より好ましくは平均粒子経が15nm以下で、かつ90%粒子径が20nm以下である。
【0044】
ここで粒子径は動的光散乱法によって求めたものであり、平均粒子径とは粒子径分布の中心値、また90%粒子径とは全粒子の90%が含まれる範囲の粒子径のことである。酸化タングステン粒子の粒子径がいずれの粒子径より大きい場合は、透過率が低下したり、光散乱が大きくなってしまう。つまり、たとえ平均粒子径が20nm以下で小さくても、粒子径分布の幅が広く30nmより大きな粒子径の粒子が全粒子の10%を超えた割合で存在すると、透過率は悪化しないが、光散乱強度が大きくなってしまう。
【0045】
ミクロンからサブミクロンオーダーの酸化タングステン粒子は、ハードコート剤あるいは表面保護剤にも添加されるように、表面硬度を高める特性を有している。本発明に用いる酸化タングステン粒子のようなナノメートルオーダーの酸化タングステン粒子においては、粒子表面積の増大によって、表面硬度を高める特性がより顕著に作用するため、より少ない添加量で表面硬度を高めることができる効果がある。
【0046】
酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分以外にも、下記の化学式(4)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分を用いることができる。
M(OR ……化学式(4)
【0047】
化学式(4)中において、R及びRは同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基である。具体的には、メチル基、エチル基、イソブチル基、トリフルオルメチル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、スチリル基、エポキシ基、オキセタニル基、フェニル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基などを用いることができる。特に好ましくは、メチル基、エチル基、イソブチル基、アクリロイル基、メタクロイル基、フェニル基、エポキシ基、オキセタニル基があげられる。
【0048】
は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Ta、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、a及びbは0ないし2、cは金属元素Mの価数−(a+b)から計算される正の整数である。
【0049】
前記無機成分は、酸化タングステン粒子成分の粒子表面を修飾して、酸化タンクステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分との相溶性や分散性を調整し、酸化タングステン粒子同士の凝集を防止して、粒子径が30nmより大きくならないように作用し、これにより透過率や光散乱性の低下を防ぐ。また、R及びRの有機基としてビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、エポキシ基、オキセタニル基などの重合性有機基を有する金属アルコキシドを無機成分として用いると、有機成分と無機成分との間に強固な共有結合が生成するので、相溶性及び結合性が向上し、環境安定性や光散乱性をより向上させることができ、さらに機械的強度も向上できる。
【0050】
金属アルコキシドあるいはその加水分解物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン、アルミニウムイソプロポキシド、ペンタエトキシタンタル、ペンタメトキシタンタル、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムメタクリレートトリイソプロポキシド、テトラエトキシゲルマニウム、エチルトリエトキシゲルマニウム、ハフニウムノルマルブトキシド、ランタニウムイソプロポキシド、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、メチルトリブトキシジルコニウム、フェニルトリメトキシジルコニウム、フェニルトリエトキシジルコニウムあるいはこれらの加水分解物などを用いることができる。
【0051】
さらに金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる無機成分は、単独であるいは複数種類の混合物として用いることができる。このため、光学設計上で求められる屈折率や分散、透過率などの光学特性にあわせて、混合する数種類の無機成分の組成比を決めることができる。
【0052】
特に、Al、Ti、Siのアルコキシドあるいはその加水分解物は入手が容易であるためコスト面で有利であり、Alのアルコキシドあるいはその加水分解物は低分散化に、Tiのアルコキシドあるいはその加水分解物は高屈折率化に、Siのアルコキシドあるいはその加水分解物は低屈折率化に有効な成分である。
【0053】
金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる無機成分の添加量は、WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分の質量に対して1/10以上1/5以下が好ましい。
【0054】
重合性官能基を有する有機成分としては、メタクリ酸エステルあるいはアクリル酸エステル(以下、両者をあわせて(メタ)アクリレートと記す)、エポキシ化合物、含硫黄化合物を用いることができる。
【0055】
この具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシナネート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂などがある。これらは、モノマーのまま用いても良いし、モノマーを少し重合させたオリゴマーとしてから用いても良い。
【0056】
重合性官能基を有する有機成分としては、全ての成分が完全に相溶すれば、特に上記のものに限定されるものではない。例えばウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。
【0057】
本発明の光学材料用組成物及び光学材料においては、上記酸化タングステン粒子成分、有機成分及び無機成分以外にも、その他の成分として硬化剤、光増感剤、連鎖移動剤、酸化防止剤などを添加することができる。
【0058】
硬化剤としては、光重合開始剤あるいは熱重合開始剤を選択することができる。具体的には、有機成分が(メタ)アクリレートの場合及び無機成分の金属アルコキシドの有機基RあるいはRがビニル基、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基である場合は、熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどを用いることができ、光重合開始剤としてはベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどを用いることができる。
【0059】
また、有機成分がエポキシ樹脂の場合及び無機成分の金属アルコキシドの有機基RあるいはRがエポキシ基あるいはオキセタニル基である場合は、触媒型硬化剤として芳香族系3級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸類などを用いることができ、重付加型硬化剤としては、ポリアミン系硬化剤、変性ポリアミン系硬化剤、カルボン酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、硫黄含有化合物系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ポリエステル系硬化剤などを用いることができる。
【0060】
本発明の光学材料の高屈折率化は、酸化タングステン粒子成分の添加量、分子量、結晶性及び密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、無機成分の種類と添加量及び硬化条件によって行うことができる。
【0061】
例えば、表面硬度を重視する場合、酸化タングステン粒子成分としてへキサエトキシタングステンを1−ブタノールを希釈溶剤として加水分解反応と縮重合反応を行いPS換算分子量2000〜1500000程度まで高分子量化させたものを用い、また重合性官能基を有する有機成分として比較的表面硬度を高くできるメチルメタクリレートを用い、また化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、テトラメトキシシランを用い、その他の成分としてベンゾフェノンを含む光重合開始剤を用いた場合の光学材料用組成物においては、ヘキサエトキシタングステンとテトラメトキシシランの割合をそれぞれの酸化物WO、SiOに換算した時の質量比WO:SiOで6:1として、光学材料全体に含まれるWOの割合を質量%で0〜60%まで変化させたとき、その光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッベ数νdの測定点の変化は図1の特性曲線Aとなる。
【0062】
特性曲線Aに示すように、メチルメタクリレート単体の(nd,νd)=(1.492,58)からWOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.547,41)まで高屈折率化することができる。
【0063】
より高屈折率化をする場合、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が21nmで、90%粒子径が30nmの酸化タングステンの結晶粒子を水に分散させたものを用い、また重合性官能基を有する有機成分として屈折率の高い下記化学式(5)に示されるフルオレン化合物を用い、また化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、フェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてベンゾフェノンを含む光重合開始剤を用いた場合の光学材料用組成物においては、酸化タングステンの結晶粒子とフェニルトリメトキシシランの割合をそれぞれの酸化物WO、SiOに換算した時の質量比WO:SiOで8:1として、光学材料全体に含まれるWOの割合を質量%で0〜60%まで変化させたとき、その光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッベ数νdの測定点の変化は図1の特性曲線Bとなる。
【0064】
特性曲線Bに示すように、化学式(5)に示されるフルオレン化合物単体の(nd、νd)=(1.631,24)からWOの割合が増加するとともに、高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.777,18)まで高屈折率化することができる。
【0065】
【化1】

【0066】
また、高屈折率で低分散にする場合は、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が12nmで、90%粒子径が20nmの気相酸化法によって製造された酸化タングステン粒子を水/アルコール混合溶媒に分散させたものを用い、重合性官能基を有する有機成分として化学式(6)で示されるエピスルフィド化合物を用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてフェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてアミン系の熱重合開始剤を用いた光学材料において、酸化タングステン粒子とフェニルトリメトキシシランの割合をそれぞれの酸化物WO、SiOに換算した時の質量比WO:SiOで8:1として、光学材料全体に含まれるWOの割合を質量%で0〜60%まで変化させたとき、その光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッべ数νdの測定点の変化は図1の特性曲線Cとなる。
【0067】
特性曲線Cに示すように、エピスルフィド化合物単体の(nd,νd)=(1.710,36)からWOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.788,25)まで高屈折率化することができる。
【0068】
【化2】

【0069】
また、より高屈折率化する場合、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が21nmで、90%粒子径が30nmの酸化タングステンの結晶粒子を水に分散させたものを用い、また重合性官能基を有する有機成分として屈折率の高い下記化学式(7)に示されるエピスルフィド化合物を用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、フェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてアミン系熱重合開始剤を用いた光学材料において、酸化タングステン粒子とフェニルトリメトキシシランの割合をそれぞれの酸化物WO、SiOに換算した時の質量比WO:SiOで8:1として、光学材料全体に含まれるWOの割合を質量%で0〜60%まで変化させたとき、その光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッべ数νdの測定点の変化は図1の特性曲線Dとなる。
【0070】
特性曲線Dに示すように、エピスルフィド化合物のみの(nd,νd)=(1.741,35)からWOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.872,21)まで高屈折率化することができる。
【0071】
【化3】

【0072】
以上のように、酸化タングステン粒子成分の添加量、分子量、結晶性及び密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、無機成分の種類と添加量及び硬化条件を調整することにより、d線の屈折率nd及びアッべ数νdが(nd、νd)=(1.4、60)、(1.6、60)、(1.9、25)、(1.9、15)、(1.6、20)で囲まれた領域の範囲で調整可能である。ただし、酸化タングステン粒子成分、重合性官能基を有する有機成分及び無機成分の相溶性が極端に悪く、光散乱が大きくなってしまう場合、酸化タングステン粒子成分の添加量によっては増粘して成形性が低下する場合、あるいは硬化収縮のひずみによる光学性能、例えば複屈折性や屈折率の均一性が低下する場合がある。このような場合は酸化タングステン粒子成分の添加量が制限される。
【0073】
以上より、より好ましいd線の屈折率nd及びアッべ数νdの範囲は(nd、νd)=(1.4、60)、(1.6、60)、(1.8、30)、(1.8、17)、(1.6、20)で囲まれた領域である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を適用した実施例を具体的に説明する。
【0075】
(実施例1)
この実施例では、酸化タングステン粒子成分としてへキサエトキタングステンを加水分解反応して縮重合させたものを用い、重合性官能基を有する有機成分としてメチルメタクリレートを用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてテトラメトキシシランを用い、その他の成分としてベンゾフェノンを含む光重合開始剤を用いた。
【0076】
へキサエトキタングステン31.1gと、1−ブタノール74gと、水1gとを混合し、室温で1時間攪拌し、ヘキサエトキタングステンを加水分解反応及び縮重合反応させてWOを繰り返し単位とする高分子量の酸化タングステンゾル溶液を用意する。
【0077】
この酸化タングステンゾル溶液を、別途用意した3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン7.1gと水1.3gを混合して室温にて12時間攪拌した混合溶液に添加して、さらに室温で8時間攪拌した後、水、1−ブタノール及び副生成物を60℃でのエバポレーション操作で取り除き、酸化タングステン−シリカゾル溶液を得た.
【0078】
光学材料に占めるWO換算の割合が質量%で5%となるように、この酸化タングステン−シリカゾル溶液20gとメチルメタクリレート132gと、ベンゾフェノンを含む光重合開始剤イルガキュア500(長瀬産業(社)製、商品名)を1gを混合して本実施例の光学材料を得た。この光学材料を紫外線照射によって25℃にて硬化させたところ、(nd、νd)=(1.495,56)であった。結果を図2にプロットして示す。
【0079】
また、酸化タングステン−シリカゾル溶液とメチルメタクリレートとの混合比を調整し、WO換算の割合を質量%で10〜60%まで変化させた光学材料に対して、同様に硬化させた時の(nd、νd)の変化を図2に示してある。
【0080】
なお、図2では、横軸をアッベ数νd、縦軸をd線の屈折率ndとし、各質量%で得られた光学材料の(nd、νd)を「○」で示している。図2に示すように、WOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に変化し、WOの割合を質量%で10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.547,41)まで高屈折率化することができる。
【0081】
また、得られた光学材料の表面の鉛筆硬度を測定したところ、4H以上6H以下であり、酸化タングステン粒子成分を添加していないメチルメタクリレート単体での表面の鉛筆硬度3Hを上回っていた。
【0082】
この実施例によれば、表面硬度が高く高屈折である光学材料を得ることができる。
【0083】
(実施例2)
この実施例では、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が21nmで90%粒子径が30nmの酸化タングステンの結晶粒子を水に分散させたものを用い、重合性官能基を有する有機成分としてジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレートを用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、メチルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてベンゾフェノンを含む光重合開始剤イルガキュア500を用いた。
【0084】
WO換算で酸化タングステンを20質量%含有している酸化タングステン水溶液50gとメタノール20gを混合した溶液に、メチルトリメトキシシラン3.4gを添加して、室温で24時間攪拌して酸化タングステン粒子表面を表面処理した酸化タングステン−シリカゾル溶液を用意する。
【0085】
光学材料に占めるWO換算の割合が質量%で5%になるように、酸化タングステン−シリカゾル溶液30gにジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート82gとイルガキュア500を1gを混合して1時間攪拌した後、水、メタノール及び副生成物を60℃でのエバポレーション操作で取り除き、紫外線照射によって硬化させたところ(nd、νd)=(1.557,37)であった。結果を図3にプロットしてある。
【0086】
また、酸化タングステン−シリカゾル溶液とジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレートとの混合比を調整し、WO換算の割合を質量%で10〜60%まで変化させた光学材料に対して、同様に硬化させた時の(nd、νd)の変化を図3に示してある。図3では、横軸をアッべ数νd、縦軸をd線の屈折率ndとし、各質量%で得られた光学材料の(nd、νd)を「O」で示している。
【0087】
図3に示すように、WOの割合が増加すとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.679,24)まで高屈折率化することができる。
【0088】
この実施例によれば、高屈折率化した光学材料を得ることができる。
【0089】
(実施例3)
この実施例では、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が21nmで90%粒子径が30nmの酸化タングステンの結晶粒子を水に分散させたものを用い、また重合性官能基を有する有機成分として屈折率が高い上記化学式(5)で示されるフルオレン化合物を用い、また化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、フェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてベンゾフェノンを含む光重合開始剤イルガキュア500を用いた。
【0090】
WO換算で酸化タングステンを20質量%含有している酸化タングステン水溶液50gとメタノール20gを混合した溶液に、フェニルトリメトキシシラン5gを添加して、室温で24時間攪拌して酸化タングステン粒子表面を表面処理した酸化タングステン−シリカゾル溶液を用意する。
【0091】
光学材料に占めるWO換算の割合が質量%で5%になるように、酸化タングステン−シリカゾル溶液30gに上記化学式(5)に示されるフルオレン化合物80gとイルガキュア500を1gを混合して1時間攪拌した後、水、メタノール及び副生成物を60℃でのエバポレーション操作で取り除き、紫外線照射によって硬化させたところ(nd、νd)=(1.637,23)であった。結果を図4にプロットしてある。
【0092】
また、酸化タングステン−シリカゾル溶液と化学式(5)に示されるフルオレン化合物との混合比を調整し、WO換算の割合を質量%で10〜60%まで変化させた光学材料に対し、同様に硬化させた時の(nd、νd)の変化を図4にプロットしてある。
【0093】
図4に示すように、WOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、、WOの割合を質量%で10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.777,18)まで高屈折率化することができる。
【0094】
この実施例によれば、より高屈折率化した光学材料を得ることができる。
【0095】
(実施例4)
この実施例では、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が21nmで、90%粒子径が30nmの酸化タングステンの結晶粒子を水/アルコール混合溶媒に分散させたものを用い、重合性官能基を有する有機成分として上記化学式(7)で示されるエピスルフィド化合物及びビスフェノールAエポキシ樹脂を用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてフェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分として熱重合開始剤2,4,6−トリジメチルへキシルアミノフェノールを用いた。
【0096】
WO換算で酸化タングステンを20質量%含有している酸化タングステンの水/メタノール溶液50g溶液に、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン5.5gを添加して、室温で24時間攪拌することにより、酸化タングステン粒子表面を表面処理した酸化タングステン−シリカゾル溶液を用意する。
【0097】
光学材料に占めるWO換算の割合を質量%で5%になるように、酸化タングステン−シリカゾル溶液20gに化学式(7)で示されるエピスルフィド化合物65gと、ビスフェノールAエポキシ樹脂7gと、2,4,6−トリジメチルへキシルアミノフェノール1gを混合して1時間攪拌した後、水、メタノール及び副生成物を50℃でのエバポレーション操作で取り除き、紫外線照射によって硬化させたところ(nd、νd)=(1.746,34)であった。結果を図5にプロットしてある。
【0098】
また、酸化タングステン−シリカゾル溶液と化学式(7)で示されるエピスルフィド化合物との混合比を調整し、WO換算の割合を質量%で10〜60%まで変化させた光学材料において、同様に硬化させた時の(nd、νd)の変化を図5に示してある。図5では、横軸をアッべ数νd、縦軸をd線の屈折率ndとし、各質量%で得られた光学材料の(nd、νd)を「O」で示している。
【0099】
図5に示すように、WOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,γd)=(1.872,21)まで高屈折率化することができる。
【0100】
この実施例によれば、より高屈折率化した光学材料を得ることができる。
【0101】
(実施例5)
この実施例では、酸化タングステン粒子成分として、平均粒子径が12nmで90%粒子径が20nmの気相酸化法により製造された酸化タングステン粒子を水/アルコール混合溶媒に分散させたものを用い、重合性官能基を有する有機成分として上記化学式(6)で示されるエピスルフィド化合物を用い、化学式(4)で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてフェニルトリメトキシシランを用い、その他の成分としてアミン系の熱重合開始剤を用いた。
【0102】
WO換算で酸化タングステンを20質量%含有している酸化タングステンの水/メタノール溶液50g溶液に、フェニルトリメトキシシラン5gを添加して、室温で24時間攪拌して酸化タングステン粒子表面を表面処理した酸化タングステン−シリカゾル溶液を用意する。
【0103】
光学材料に占めるWO換算の割合を質量%で5%になるように、酸化タングステン−シリカゾル溶液30gに化学式(6)で示されるエピスルフィド化合物80gとN,N−ジメチルシクロへキシルアミン0.1gを混合して1時間撹拌した後、水、メタノール及び副生成物を50℃でのエバポレーション操作で取り除き、紫外線照射によって硬化させたところ(nd、νd)=(1.713,35)であった。この結果を図6にしてある。
【0104】
また、酸化タングステン−シリカゾル溶液と化学式(6)で示されるエピスルフィド化合物との混合比を調整し、WO換算の割合を質量%で10〜60%まで変化させた光学材料に対して、同様に硬化させた時の(nd、νd)の変化を図6に示してある。図6では、横軸をアッベ数νd、縦軸をd線の屈折率ndとし、各質量%で得られた光学析料の(nd、νd)の「○」で示している。
【0105】
図6に示すように、WOの割合が増加するとともに高屈折率の方向に屈折率が変化し、WOの割合を質量%で10%、20%、30%、40%、50%、60%まで増加させると(nd,νd)=(1.788,25)まで高屈折率化することができる。
【0106】
このような実施例によれば、高屈折率かつ低分散化した光学材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の光学材料の屈折率とアッベ数の変化を示すグラフである。
【図2】実施例1の屈折率とアッベ数の変化を表すグラフである。
【図3】実施例2の屈折率とアッベ数の変化を表すグラフである。
【図4】実施例3の屈折率とアッベ数の変化を表すグラフである。
【図5】実施例4の屈折率とアッベ数の変化を表すブラフである。
【図6】実施例5の屈折率とアッベ数の変化を表すブラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含むことを特徴とする光学材料用組成物。
【請求項2】
前記酸化タングステン粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算の質量%で5〜60%であることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物。
【請求項3】
下記の化学式(1)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の光学材料用組成物。
M(OR……化学式(1)
(式中、R及びRは同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Ta、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、a及びbは0ないし2、cは金属元素Mの価数−(a+b)から計算される正の整数)
【請求項4】
前記化学式(1)において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
前記酸化タングステン粒子成分が、下記の化学式(2)で表されるタングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはこれらの加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料用組成物。
W(OR6−d ……化学式(2)
(式中、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし1)
【請求項6】
前記酸化タングステン粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化タングステン粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
前記有機成分がメタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種類を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の光学材料用組成物。
【請求項8】
WO単位を構成成分とする酸化タングステン粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分とを含む組成物を重合させた硬化物であることを特徴とする光学材料。
【請求項9】
前記酸化タングステン粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化物換算の質量%で5〜60%であることを特徴とする請求項8記載の光学材料。
【請求項10】
下記の化学式(1)で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分をさらに含むことを特徴とする請求項8または9記載の光学材料。
M(OR……化学式(1)
(式中、R及びRは同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Nb、Sc、Si、Ta、Ti、V、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、a及びbは0ないし2、cは金属元素Mの価数−(a+b)から計算される正の整数)
【請求項11】
前記化学式(1)において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10記載の光学材料。
【請求項12】
d線の屈折率nd及びアッベ数νdが、(nd、νd)=(1.4、60)、(1.6、60)、(1.9、25)、(1.9、15)、(1.6、20)で囲まれた領域に存在することを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項記載の光学材料。
【請求項13】
前記酸化タングステン粒子成分が、下記の化学式(2)で表されるタングステンアルコキシド、タングステン酸塩、ハロゲン化タングステン、タングステン錯化合物あるいはこれらの加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項記載の光学材料。
W(OR6−d ……化学式(2)
(式中、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし1)
【請求項14】
前記酸化タングステン粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化タングステン粒子であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項記載の光学材料。
【請求項15】
前記有機成分がメタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種類を有することを特徴とする請求項8〜14のいずれか1項記載の光学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−22291(P2006−22291A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222921(P2004−222921)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】