説明

光学活性アミノ酸類の製造方法

【課題】 製造時に特別な装置が不要で、工業的規模まで比較的容易にスケールアップできる光学分割法により、官能基保護を必要とすることなく、効率的に光学活性バリン及び光学活性2−アミノブタン酸を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 ラセミ−バリン又はラセミ−2−アミノブタン酸を、水、低級アルコール又はそれらの混合物からなる媒体中で、特定の光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と反応させ、光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される難溶性のジアステレオマーを生成させ、固液分離した後、水と水に難溶性の有機溶媒との混合液中で攪拌して分解させ、水層から光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸を、有機溶媒層から光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体をそれぞれ回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分離剤を使用した光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸の製造方法及び光学分離の工程で得られるジアステレオマーに関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性アミノ酸類は医薬、農薬のキラルプールとして幅広い利用が期待されており、例えば2−アミノブタン酸は、抗てんかん薬(特許文献1)、血圧降下薬(特許文献2)等の利用例が報告されている。
【0003】
光学活性アミノ酸の製造法には下記(a〜c)のような方法があるが、製造時に特別な装置が不要で、工業的規模まで比較的容易にスケールアップできる等の理由からcの光学分割法が注目されている。
a.生体触媒法
b.不斉合成法
c.光学分割法
【0004】
アミノ酸類の光学分割においては、アミノ基あるいはカルボキシ基のどちらかに官能基保護を行うのが一般的である。官能基保護を不要とするアミノ酸分割例として、例えば2−アミノブタン酸では、下記のような化合物を用いた光学分割が発表されている。
1.光学活性スルホン酸を用いる光学分割(非特許文献1)。
2.光学活性マンデル酸を用いる光学分割(特許文献3)。
しかし、1は分割剤の入手が困難であるうえ、回収が難しい難点がある。2についてはアミノ酸−マンデル酸複合体からアミノ酸の単離についての記載がないうえ、アミノ酸の光学純度も記述されていないため実用性に乏しい。
【0005】
本発明者らは、先に光学活性2−フェノキシプロピオン酸を用いた、光学活性ピペコリン酸の光学分割による製法を確立した(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/014080号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第629627号明細書
【特許文献3】特開昭58−1105号公報
【特許文献4】特開2001−178253号公報
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol67 3012-3020 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は製造時に特別な装置が不要で、工業的規模まで比較的容易にスケールアップできる光学分割法により、官能基保護を必要とすることなく、ラセミ−バリン又はラセミ−2−アミノブタン酸から効率的に光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸を分離、製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決する手段として次の(1)〜(4)の構成を採る。
(1)ラセミ−バリン又はラセミ−2−アミノブタン酸を、水、低級アルコール又はそれらの混合物からなる媒体中で、一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と反応させ、光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である難溶性のジアステレオマーを生成させ、固液分離することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーの製造方法。
【化1】

【0009】
(2)前記(1)の方法において固液分離した後の母液から光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を分離したのち、使用した光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と反対の対掌体である光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を添加して反応させ、光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である難溶性のジアステレオマーを生成させ、固液分離することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーの製造方法。
【0010】
(3)光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーを、水と水に難溶性の有機溶媒との混合液に溶解又は懸濁させて攪拌してジアステレオマーを分解させ、水層から光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸を、有機溶媒層から光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体をそれぞれ回収することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸の製造方法。
【0011】
(4)光学活性バリンと一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマー。
【化2】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を光学分割剤として、ラセミ体のバリン又は2−アミノブタン酸に作用させることにより、溶解度差により分離が可能な光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体とで構成される複合体であるジアステレオマーを製造し、これを分離した後に分解させることにより、農薬や医薬品などの合成用中間体として有用な光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を光学分割剤として用い、ラセミ−バリン又はラセミ−2−アミノブタン酸(両者を合わせてラセミ−アミノ酸と略称)から、それぞれ光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸(両者を合わせて光学活性−アミノ酸と略称)を製造するものである。具体的な製造工程は次のとおりである。
1)適当な溶媒にラセミ‐アミノ酸と、光学分割剤として光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を加え加熱溶解する。
2)この溶液を冷却後、生じた難溶性のジアステレオマー(光学活性−アミノ酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体とで構成される複合体)を分離し、適当な溶媒で光学精製後、分離、乾燥する。
【0014】
3)このジアステレオマーを水に難溶性の有機溶媒と水の混合液に溶解又は懸濁させ、攪拌して光学活性−アミノ酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体とに分離させた後、静置して水層と有機溶媒層とに分離する。
4)水層から減圧留去などにより水を除去して光学活性アミノ酸、有機溶媒層から減圧留去などにより有機溶媒を除去して光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体をそれぞれ単離する。
【0015】
5)前記2)でジアステレオマーを分離し、必要により1)で使用した光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を分離した後の母液に、1)の操作で用いたものとは逆の対掌体である光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を加えて加熱したのち、2)と同様の操作を行い、2)で得られたものとは逆のアミノ酸対掌体のジアステレオマーを単離する。
6)5)の操作により得られたジアステレオマーに3)、4)の操作を行い、4)で得られたアミノ酸とは逆のアミノ酸対掌体である光学活性アミノ酸を得る。
【0016】
本発明においては、光学分割剤として一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を使用する。特に光学活性の2−フェノキシプロピオン酸、2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸、2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸が好ましい。
【化3】

【0017】
ラセミ−アミノ酸に対して光学分割剤として(S)−2−フェノキシプロピオン酸誘導体を使用した場合にはそれぞれの組合せに対応して(S)−アミノ酸又は(R)−アミノ酸とのジアステレオマーが生成し、(R)−2−フェノキシプロピオン酸誘導体を使用した場合にはそれぞれの組合せに対応して(R)−アミノ酸又は(S)−アミノ酸とのジアステレオマーが生成する。ここでラセミ−アミノ酸の光学分割の中間生成物として得られるジアステレオマーは光学活性−アミノ酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体とで構成される複合体であり、従来、合成された報告はなく、全て新規物質である。
【0018】
前記1)、2)によるジアステレオマーの調製は無溶媒の条件でも可能ではあるが、通常は溶媒を用いるのが好ましい。溶媒は光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体及びラセミ−アミノ酸を溶解させると同時に、光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と光学活性アミノ酸から成るジアステレオマーを難溶性のジアステレオマーとして析出させ、ジアステレオマーを形成していないもう一方の光学異性体のアミノ酸を溶解しうる溶媒が、操作上好ましい。ここでは水と親和性のある溶媒が好ましく、具体的には水、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、1,4−ジオキサン又はそれらの混合物が使用できる。製造コストや環境への配慮などから好ましくは水又はメタノール、エタノールなどの低級アルコール若しくはそれらの混合物である。
【0019】
溶媒の使用量は、2−フェノキシプロピオン酸誘導体及びラセミ−アミノ酸が溶解し、ジアステレオマーが析出し、ジアステレオマーを形成していないもう一方の光学異性体のアミノ酸は溶解している範囲が望ましく、通常ラセミ−アミノ酸に対して1〜50重量倍の範囲である。
【0020】
2−フェノキシプロピオン酸誘導体とラセミ−アミノ酸の反応温度は溶媒の融点から沸点の範囲である。例えば、水を使用した場合には、混合物を60−90℃で加熱溶解後、10−30℃まで冷却して、析出した結晶を固液分離することによりジアステレオマーが得られる。分離したジアステレオマー中の目的とする光学活性アミノ酸の光学純度が低い場合は、ジアステレオマーを1回〜数回再結晶することにより精製可能である。
ラセミ−アミノ酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸の混合比は10:1〜1:10で、好ましくは2:0.8〜1.2である。
【0021】
前記3)、4)の工程においては、ジアステレオマーからの光学活性アミノ酸単離時の有機溶媒は水に難溶で、アミノ酸及び2−フェノキシプロピオン酸誘導体に対して不活性ならばどのような溶媒でも使用可能である。すなわち、1−ブタノールなどのアルコール系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒、4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン類、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化アルキル類、トルエン、ヘキサンなど炭化水素類、t−ブチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が利用できる。経済性及び安全性から酢酸エチル又はt−ブチルメチルエーテル、4−メチル―2−ペンタノンが好ましい。有機溶媒の使用量は実用的にはジアステレオマーに対し2〜10倍量である。また、ジアステレオマー結晶の溶解に使用される水の使用量は、実用的にはジアステレオマーに対し2〜10倍量である。
【実施例1】
【0022】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
ラセミ−バリン100g(0.85mol)、(S)−2−フェノキシプロピオン酸71.0g(0.427mol)、脱イオン水855gを混合し、85〜95℃で1時間撹拌した。溶液の温度を一夜かけて20〜30℃まで冷却し、生じた結晶を分離乾燥し粗ジアステレオマー98gを得た。得られたジアステレオマー結晶中の(R)−バリンの光学純度は旋光度から40%eeであった。
この粗ジアステレオマー結晶97.5gをジアステレオマー結晶に対し5倍量の脱イオン水487gに溶解させる再結晶を実施して68.3gの精製ジアステレオマー結晶を得た。このジアステレオマーは(R)−バリンと(S)−2−フェノキシプロピオン酸からなる複合体(R−Val/S−APP)である。
【0023】
得られた精製ジアステレオマー結晶10gにt−ブチルメチルエーテル100ml、水100mlを加え、20〜30℃で30分攪拌した。その後、分液し水層から水を減圧留去して定量的に(R)−バリンを得た。得られた(R)−バリンの旋光度は−23.4°(温度:26℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
一方、t−ブチルメチルエーテル層を濃縮して、(S)−2−フェノキシプロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1で得られた粗ジアステレオマー分離母液に、t−ブチルメチルエーテル100mlを加えて撹拌後分液する操作を3回繰り返した。この操作で得られた水層に(R)−2−フェノキシプロピオン酸71.0g(0.427mol)を加え85〜95℃で1時間撹拌した。その後一夜かけて溶液の温度を20〜30℃まで冷却し、生じた結晶を分離乾燥して95gの粗ジアステレオマー(このジアステレオマーの一部からアミノ酸を単離して、旋光度を測定した結果、光学純度は50%eeであった)を得た。
この粗ジアステレオマー結晶94.5gをジアステレオマー結晶に対し5倍量の脱イオン水472gに溶解後、再結晶して66.0gの精製ジアステレオマー結晶を得た。このジアステレオマーは(S)−バリンと(R)−2−フェノキシプロピオン酸からなる複合体(S−Val/R−APP)である。
【0025】
得られた精製ジアステレオマー結晶10gにt−ブチルメチルエーテル100ml、水100mlを加え、20〜30℃で30分攪拌した。その後、分液し水層から水を減圧留去して定量的に(S)−バリンを得た。得られた(S)−バリンの旋光度は+23.7°(温度:26℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層を濃縮して、(R)−2−フェノキシプロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0026】
〔実施例3〕
ラセミ−バリン100g(0.854mol)、(R)−2−フェノキシプロピオン酸71.0g(0.427mol)、脱イオン水855gを混合し、85〜95℃で1時間した。溶液の温度を一夜かけて20〜30℃まで冷却し、生じた結晶を分離乾燥し粗ジアステレオマー94g(得られたジアステレオマー結晶中のアミノ酸の光学純度:40%ee)を得た。
この粗ジアステレオマー結晶94gを脱イオン水で再結晶し精製ジアステレオマー結晶66.0gを得た。このジアステレオマーは(S)−バリンと(R)−2−フェノキシプロピオン酸からなる複合体(S−Val/R−APP)である。
【0027】
得られた精製ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(S)−バリンを得た。得られた(S)−バリンの旋光度は+23.8°(温度:25℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。また、実施例1と同様にt−ブチルメチルエーテル層から(R)−2−フェノキシプロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0028】
〔実施例4〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(S)−2−フェノキシプロピオン酸80.6g(0.485mol)、脱イオン水903gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、115gの粗ジアステレオマー結晶を得た。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて分析した含有アミノ酸光学純度は95%eeであった。
この粗ジアステレオマー結晶114.5gを実施例1と同様な操作で再結晶して精製ジアステレオマー結晶70.0gを得た。このジアステレオマーは(R)−2−アミノブタン酸と(S)−2−フェノキシプロピオン酸からなる複合体(R−2−ABA/S−APP)である。
【0029】
得られた精製ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(R)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(R)−2−アミノブタン酸の旋光度は−20.6°(温度:28℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であり、HPLCで分析した光学純度は99%ee以上であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(S)−2−フェノキシプロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0030】
〔実施例5〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(R)−2−フェノキシプロピオン酸71.0g(0.427mol)、脱イオン水903gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、106gの粗ジアステレオマー結晶(HPLCにて分析した含有アミノ酸光学純度は95%ee)を得た。
この粗ジアステレオマー結晶105gを実施例1と同様な操作で再結晶して精製ジアステレオマー結晶69.0gを得た。このジアステレオマーは(S)−2−アミノブタン酸と(R)−2−フェノキシプロピオン酸からなる複合体(S−2−ABA/R−APP)である。
【0031】
得られた精製ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(S)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(S)−2−アミノブタン酸の旋光度は+20.1°(温度:28℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であり、HPLCで分析した光学純度は99%ee以上であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(R)−2−フェノキシプロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0032】
〔実施例6〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(S)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸87.4g(0.485mol)、脱イオン水937gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、85gの粗ジアステレオマー結晶(HPLCにて分析した含有アミノ酸光学純度は70%ee)を得た。このジアステレオマーはS−2−アミノブタン酸と(S)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸からなる複合体(S−2−ABA/S−4−Me−APP)である。
得られた粗ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(S)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(S)−2−アミノブタン酸の旋光度は+14.4°(温度:25℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(S)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0033】
〔実施例7〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(R)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸87.4g(0.485mol)、脱イオン水937gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、88gの粗ジアステレオマー結晶(HPLCにて分析した含有アミノ酸光学純度は65%ee)を得た。このジアステレオマーはR−2−アミノブタン酸と(R)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸からなる複合体(R−2−ABA/R−4−Me−APP)である。
得られた粗ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(R)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(R)−2−アミノブタン酸の旋光度は−13.7°(温度:27℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(R)−2−(4′−メチルフェノキシ)プロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0034】
〔実施例8〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(R)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸97.3g(0.485mol)、脱イオン水1000gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、100gの粗ジアステレオマー結晶(HPLCにて分析した含有アミノ酸光学純度は63%ee)を得た。このジアステレオマーはR−2−アミノブタン酸と(R)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸からなる複合体(R−2−ABA/R−4−Cl−APP)である。
得られた粗ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(R)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(R)−2−アミノブタン酸の旋光度は−12.9°(温度:26℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(R)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0035】
〔実施例9〕
ラセミ−2−アミノブタン酸100g(0.970mol)、(S)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸97.3g(0.485mol)、脱イオン水1000gを混合して実施例1と同様な操作を実施し、103gの粗ジアステレオマー結晶を得た。このジアステレオマーはS−2−アミノブタン酸と(S)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸からなる複合体(S−2−ABA/S−4−Cl−APP)である。
得られた粗ジアステレオマー結晶10gを、t−ブチルメチルエーテルと水との混合溶媒を用いて実施例1と同様に操作し、定量的に(S)−2−アミノブタン酸を得た。得られた(S)−2−アミノブタン酸の旋光度は+12.3°(温度:28℃、溶媒:1.0M HCl、光源:Na Lamp、濃度:1.0%w/v)であった。
また、t−ブチルメチルエーテル層から(S)−2−(4′−クロロフェノキシ)プロピオン酸を定量的に回収することができた。
【0036】
実施例1〜5で得られた精製ジアステレオマー及び実施例6〜9で得られた粗ジアステレオマーについて測定したNMR分析結果を表1に示す。また、これらの試料(実施例3の物は除く)について旋光度及び融点を測定した結果を表2に示す。なお、表2の旋光度の測定条件は次のとおりである。
温度:28℃
溶媒:酢酸(実施例1〜5)、メタノール(実施例6〜9)
光源:Na Lamp
濃度:1.0%w/v
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法によって得られる光学活性のバリン及び2−アミノブタン酸は、医薬、農薬などの化学品の分野において、キラルプールとして幅広い利用が期待されている。また、光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体とで構成される複合体であるジアステレオマーはラセミ−アミノ酸の光学分割の中間生成物として利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラセミ−バリン又はラセミ−2−アミノブタン酸を、水、低級アルコール又はそれらの混合物からなる媒体中で、一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と反応させ、光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である難溶性のジアステレオマーを生成させ、固液分離することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーの製造方法。
【化1】

【請求項2】
請求項1の方法において固液分離した後の母液から光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を分離したのち、使用した光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体と反対の対掌体である光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体を添加して反応させ、光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である難溶性のジアステレオマーを生成させ、固液分離することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーの製造方法。
【請求項3】
光学活性バリンと光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマーを、水と水に難溶性の有機溶媒との混合液に溶解又は懸濁させて攪拌してジアステレオマーを分解させ、水層から光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸を、有機溶媒層から光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体をそれぞれ回収することを特徴とする光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸の製造方法。
【請求項4】
光学活性バリンと一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体又は光学活性2−アミノブタン酸と一般式(1)で表される光学活性2−フェノキシプロピオン酸誘導体で構成される複合体である光学活性バリン又は光学活性2−アミノブタン酸のジアステレオマー。
【化2】


【公開番号】特開2006−169158(P2006−169158A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363270(P2004−363270)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(591169386)大東化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】