説明

光学活性アルコールの製造方法

【課題】 ケトン化合物から、高収率かつ高エナンチオ選択的に光学活性アルコールを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ケトン化合物を、光学活性金属化合物および1,1,1−トリクロロアルカンの存在下、ヒドリド試薬と反応させる工程を含む、光学活性アルコールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アルコールの製造方法に関し、特に、医薬品、農薬等の生理活性化合物の合成中間体、または液晶等の機能性材料、ファインケミカル等における合成原料として有用な光学活性アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルコールは、対応するケトンから合成され、その合成方法として各種の方法が知られている。なかでも、金属錯体触媒を用いてケトン化合物を還元する方法は重要であり、ケトン化合物を、金属錯体触媒の存在下、ヒドリド試薬と反応させて光学活性アルコールを製造する方法が報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−310981号公報
【特許文献2】特開平9−151143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでに報告されている金属錯体触媒を用いたケトン化合物の還元方法は、芳香族ケトンないし多重結合と共役したケトンの還元は高いエナンチオ選択性が実現されるものの、脂肪族ケトンの還元では必ずしも高いエナンチオ選択性が得られず、改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ケトン化合物から光学活性アルコールへの還元反応において触媒として用いられる光学活性金属化合物の活性化剤として、1,1,1−トリクロロアルカンとりわけ、1,1,1−トリクロロエタンを用いることにより、還元生成物が高収率かつ高エナンチオ選択的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の方法に関するものである。
1.ケトン化合物を、光学活性金属化合物および1,1,1−トリクロロアルカンの存在下、ヒドリド試薬と反応させる工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
2.ケトン化合物を、光学活性金属化合物、1,1,1−トリクロロアルカンおよびアルコール化合物の存在下、ヒドリド試薬と反応させる工程を含む、上記1.に記載の光学活性アルコールの製造方法。
3.上記1,1,1−トリクロロアルカンが1,1,1−トリクロロエタンである、1.または2.に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【0007】
4.上記光学活性金属化合物が下記一般式(a)で表される光学活性コバルト(II)錯体である上記1.〜3.のいずれかに記載の光学活性アルコールの製造方法。
【化1】

〔式中、R1とR2は異なる基であり、それぞれ、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基またはアリール基であり、置換基を有していてもよく、2個のR1同士または2個のR2同士は、相互に結合して環を形成していてもよく、R3、R4およびR5は同一でも異なっていてもよく、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アシル基またはアルコキシカルボニル基であり、置換基を有していてもよい〕
5.上記ヒドリド試薬が、金属水素化物である上記1.〜4.のいずれかに記載の光学活性アルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学活性金属化合物および1,1,1−トリクロロアルカンの存在下、取り扱いが容易なヒドリド試薬を用いて、ケトン化合物、特に脂肪族ケトンについても光学活性アルコールを高収率かつ高エナンチオ選択的に得ることができる。
【0009】
また、活性化剤である1,1,1−トリクロロアルカンを作用させて得られる活性化光学活性金属化合物は、反応終了後の後処理操作に対しても安定であり、生成物から分離回収して再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法において、触媒として用いられる光学活性金属化合物は、特に制限されず、例えば、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、ハフニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の遷移金属の錯体であり、例えば、光学活性チタン(IV)錯体、光学活性オキソバナジウム(IV)錯体、光学活性マンガン(III)錯体、光学活性鉄(III)錯体、光学活性コバルト(III)錯体、光学活性コバルト(II)錯体、および光学活性ルテニウム(III)錯体である。
【0011】
本発明の方法において、特に、下記一般式(a):
【化2】

で表される光学活性コバルト(II)錯体が好ましい。
【0012】
上記一般式(a)において、R1とR2は異なる基であり、それぞれ、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基またはアリール基であり、置換基を有していてもよい。この直鎖または分岐状のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基、p−フルオロフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0013】
また、2個のR1同士または2個のR2同士は、相互に結合して環を形成していてもよく、例えば、4〜8員環が挙げられ、具体例としては、例えば、−(CH24−等の基を介して相互に結合して6員環等の環を形成していてもよい。
【0014】
さらに、R3、R4およびR5は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アシル基またはアルコキシカルボニル基であり、置換基を有していてもよい。直鎖または分岐状のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基、p−フルオロフェニル基、ナフチル基が挙げられる。また、アシル基としては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5のアシル基が挙げられ、例えば、ホルミル基、アセチル基、パーフルオロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基が挙げられる。そしてアルコキシカルボニル基としては、例えば、炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、シクロオクチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0015】
置換基としては、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基としての直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アシル基およびアルコキシカルボニル基は上記で示したとおりである。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられる。なお、これらの置換基は、上記置換基によりさらに置換されていてもよい。
【0016】
この一般式(a)で表される光学活性コバルト(II)錯体の具体例として、下記式で表されるものが挙げられる。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
これらの一般式(a)で表される光学活性コバルト(II)錯体は、公知の方法にしたがって調製することができる(例えば、Y. Nishida, et al,. Inorg. Chim. Acta, 38,213(1980)、E.G. Jager, Z. Chem., 8, 30, 392, and 475(1968)を参照)。例えば、上記錯体に対応する配位子と水酸化ナトリウム水溶液を、窒素雰囲気下、メタノール中で加熱後、塩化コバルト(II)水溶液を添加する方法により調製することができる。
【0022】
本発明の方法において、光学活性金属化合物の使用量は、ケトン化合物1molに対して、0.001〜50mol%、好ましくは0.01〜50mol%、特に好ましくは0.05〜10mol%である。
【0023】
本発明の方法において、出発原料として用いられるケトン化合物は、分子内にカルボニル基を有するプロキラルな化合物であれば、特に制限されず、目的の光学活性アルコールに対応して適宜選択することができる。
【0024】
本発明の方法は、特に、下記一般式(b):
【化7】

で表されるケトン化合物を出発原料として、下記一般式(b)’:
【化8】

(式中、*は不斉炭素を示す)
で表される対応する光学活性アルコールを製造するのに適している。
【0025】
上記一般式(b)および一般式(b)’において、R6およびR7はそれぞれ独立して、直鎖または分岐状のアルキル基、シクロアルキル基または芳香族置換基であり(但し、R6およびR7は同一とはならない)、これらはまた置換基を有していてもよい。この直鎖または分岐状のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、単環式でも、多環式でもよく、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のシクロアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の単環式シクロアルキル基、また、例えば、1−デカリン基、ノルボルニル基、アダマンタ−(1−または2−)イル基等の多環式シクロアルキル基が挙げられる。芳香族置換基としては、例えば、炭素数6〜14のアリール基または炭素数4〜15の複素環式芳香族置換基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基、p−フルオロフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等のアリール基、また、例えば、フラン環、チオフェン環、ピリジン環等の複素環式芳香族置換基が挙げられる。さらに、R6とR7は、相互に結合して環を形成していてもよく、単環、多環、縮合環のいずれでもよく、例えば、4〜8員環が挙げられ、具体例としては、例えば、−(CH24−、−CH=CH−CH=CH−等の基を介して相互に結合して6員環等の環を形成していてもよい。
【0026】
置換基としては、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族置換基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの置換基は上記に定義されるとおりである。
【0027】
本発明の方法において、出発原料として用いられるケトン化合物の具体例としては、例えば、以下:
【化9】

が挙げられる。
【0028】
本発明の方法において、出発原料として用いられるケトン化合物は、カルボニル基の両端の置換基の一方が嵩高い置換基であって、両端の置換基の嵩高さの差が大きいものが好ましく、特に好ましいケトン化合物としては、例えば、以下:
【化10】

が挙げられる。
【0029】
本発明の方法において、光学活性金属化合物の活性化剤として、1,1,1−トリクロロアルカンが使用され、好ましくは1,1,1−トリクロロC1-10アルカン、例えば、1,1,1−トリクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロ−2,2,2
−トリフルオロエタン、1,1,1−トリクロロトルエン、1,1,1−アセトニトリル、特に好ましくは1,1,1−トリクロロエタンが使用される。1,1,1−トリクロロアルカンの使用量は、光学活性金属化合物に対して2当量〜6当量、すなわち10〜30mol%、好ましくは25〜30mol%である。
【0030】
本発明の方法において、還元剤として、ヒドリド試薬が使用される。本発明の方法において使用されるヒドリド試薬は、特に制限されず、例えばシラン類や金属水素化物を使用することができ、好ましくは、金属水素化物である。本発明の方法において使用される金属水素化物としては、例えば、水素化アルミニウムリチウム、トリ(t−ブトキシ)水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、モノエトキシ水素化ホウ素ナトリム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素アンモニウム、水素化シアノホウ素ナトリウムが挙げられ、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、モノエトキシ水素化ホウ素ナトリウムである。
【0031】
本発明の方法において、ヒドリド試薬の使用量は、ケトン化合物1molに対して、0.5〜10mol、好ましくは1〜5molである。
【0032】
さらに、本発明の方法において、ケトン化合物とヒドリド試薬との反応は、アルコール化合物の存在下で行うことが好ましい。
【0033】
このアルコール化合物の例としては、下記一般式(c):
【化11】

で表される化合物が挙げられる。
【0034】
上記一般式(c)において、R8、R9およびR10は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロ原子を含む直鎖もしくは分岐状のエーテル基であり、水酸基、アミノ基、エステル基またはカルボニル基等の置換基を有していてもよい。一般式(c)における直鎖または分岐状のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、単環式でも、多環式でもよく、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10のシクロアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の単環式シクロアルキル基、また、例えば、1−デカリン基、ノルボルニル基、アダマンタ−(1−または2−)イル基等の多環式シクロアルキル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基、p−フルオロフェニル基、ナフチル基が挙げられる。ヘテロ原子を含む直鎖または分岐状のエーテル基としては、例えば、炭素数1〜10のエーテル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、2−フリル基、3−フリル基、2−テトラヒドロピラニル基が挙げられる。また、R8、R9は、相互に結合して環を形成していてもよく、例えば、4〜8員環が挙げられ、具体例としては、例えば、−(CH24−、−(CH25−の基を介して相互に結合して5員環、6員環等の環を形成していてもよい。
【0035】
このアルコール化合物の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール等の脂肪族または脂環式アルコール、フェノール、レゾルシン等の芳香族アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコール、テトラヒドロピレン−2−メタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロ−3−フラン−メタノール等の鎖状または環状エーテルアルコール、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−ピリジンメタノール、2−ペパリジンメタノール等の鎖状または環状アミノアルコールが挙げられる。
【0036】
本発明の方法において、上記一般式(c)で表されるアルコール化合物は、単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。2種以上の組み合わせの具体例としては、例えば、エタノール/エチレングリコール、エタノール/プロピレングリコール、エタノール/エチレングリコールモノメチルエーテル、エタノール/プロピレングリコールモノメチルエーテル、エタノール/テトラヒドロフルフリルアルコール、エタノール/テトラヒドロピレン−2−メタノール、エタノール/フルフリルアルコール、エタノール/テトラヒドロ−3−フラン−メタノール、エタノール/5−メチルテトラヒドロフラン−2−メタノールの組み合わせ、および上記組み合わせにおけるエタノールの代わりに、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、2−プロパノール、2,2−ジメチルエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノールをそれぞれ用いた組み合わせが挙げられる。
【0037】
本発明の方法において使用される好ましいアルコール化合物は、エタノール(EtOH)単独、メタノール(MeOH)単独、ベンジルアルコール(BnOH)単独、エタノール/テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)またはメタノール/テトラヒドロフルフリルアルコールの組み合わせである。
【0038】
本発明の方法において、アルコール化合物の使用量は、ヒドリド試薬1molに対して、0.01〜50mol、好ましくは1〜30molである。
【0039】
また、本発明の方法において、反応は、好ましくは液相中で行われ、必要に応じて溶媒を使用することができる。使用される溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂環式炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒およびハロゲン系溶媒が挙げられ、特に、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒および四塩化炭素、クロロホルム、フロン113等のハロゲン系溶媒が好ましい。
【0040】
溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は、通常、ケトン化合物1mmolに対して、1ml〜1l、好ましくは5〜100mlである。
【0041】
反応温度は、通常、−100〜50℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは−80〜30℃の範囲、特に好ましくは−60〜0℃である。また、反応圧力は、溶媒が気化しないかぎり、常圧で十分である。
【0042】
また、反応時間は、通常、1分〜10日程度である。さらに、逐次、反応混合物のサンプルを採取して、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)等により分析して、反応の進行状況を確認することができる。
【0043】
本発明の方法において、以上の反応によって得られる反応混合物から、目的の光学活性アルコールの回収、精製は、公知の方法、例えば、蒸留、吸着による方法、抽出、再結晶等の方法を組み合わせて行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
【化12】

窒素雰囲気下、式(1)の光学活性ケトイミナトコバルト錯体触媒 (19.7mg、0.025mmol、5mol%)および1−アダマンチルメチルケトン(90.6mg、0.51mmol)、1,1,1−トリクロロエタン(5μL、0.05mmol、10mol%)のTHF(5mL)溶液を0℃に冷却し、あらかじめNaBH4とEtOH(1当量 vs NaBH4)、およびテトラヒドロフルフリルアルコール(14当量 vs NaBH4)から調製した修飾水素化ホウ素ナトリウム(1.5当量)をシリンジポンプ(0.35mL/min)を用いて滴下した。滴下後、0℃で31時間撹拌させた。薄層クロマトグラフィーにより反応は追跡した。反応溶液をドライアイス−アセトンバスで−78℃まで冷却し、続いて同様にドライアイス−アセトンバスで冷却した含水THF溶液(1%酢酸)(2.0mL)を加え反応を停止させた。生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤をろ過し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/Hexane=1/15)で精製すると、目的とする(1−アダマンチル)−1−エタノールが得られた(74.3mg、80%yield)。得られた(1−アダマンチル)−1−エタノールをN,N−ジメチルアミノピリジン(1当量)、1−ナフトイルクロリド(2当量)およびピリジン(5当量)で処理し1−ナフトイルエステルに変換した後、HPLC分析を行い、光学収率を決定した(63% ee)(Daicel Chiralpak IB、1.0mL/min、254nm、0.5% THF in n−hexane、tr=16.03min、19.76min)。
【0046】
実施例2〜5
各例において、アルコール化合物を変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ただし、実施例5については2当量の水素化ホウ素ナトリウムを−20 ℃で使用した。
【0047】
実施例6
【化13】

ケトン化合物にブチルフェニルケトンを用いて、実施例1と同様にして反応を行った。ただし、式(1)の光学活性ケトイミナトコバルト錯体触媒 (10mol%)、1,1,1−トリクロロエタン(30mol%)およびMeOH(12当量)を使用した。
【0048】
比較例1〜3
各例において、活性化剤を変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0049】
生成されたアルコールの光学純度を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、その結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
実施例7
【化14】

〈第1サイクル〉
窒素雰囲気下、式(1)の光学活性ケトイミナトコバルト錯体触媒(20.0mg、0.025mmol、10mol%)および1−アダマンチルメチルケトン(44.5mg、0.25mmol)、1,1,1−トリクロロエタン(10μL、0.10mmol、40mol%)のTHF(2.5mL)溶液を−20℃に冷却し、あらかじめMeOH(6.0当量 vs NaBH4)とNaBH4から調製した修飾水素化ホウ素ナトリウム(2当量)をシリンジポンプ(0.176mL/min)を用いて23分かけて滴下した。14時間、−20℃で反応させた後、ドライアイス−アセトンバスで冷却し、同様にドライアイス−アセトンバスで冷却した含水THF溶液(2.0mL)を加え反応を停止させた。生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤をろ過し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/Hexane=1/15)で精製すると、目的とする光学活性(1−アダマンチル)−1−エタノールが得られた(39.1mg、87% yield)。得られた(1−アダマンチル)−1−エタノールをN,N−ジメチルアミノピリジン(1当量)、1−ナフトイルクロリド(2当量)およびピリジン(5当量)で処理し、1−ナフトイルエステルに変換した後、HPLC分析を行い、光学収率を決定した(81% ee)(Daicel Chiralpak IB、1.0mL/min、254nm、0.5% THF in n−hexane、tr=16.03min、19.76min)。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで目的生成物を単離した後、素早く極性の高い展開溶媒(Et2O/AcOEt=4/1)で赤色の分画を回収し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、真空ラインで減圧乾燥して錯体触媒を回収した(回収率:>99%)。回収した錯体触媒のESI−MS分析の結果、コバルト錯体を1,1,1−トリクロロエタン存在下、水素化ホウ素ナトリウムで処理した赤色溶液のESI−MS分析と同一のスペクトルを示すことを確認した。回収された錯体触媒はこれ以上の精製をせず、次の反応サイクルに触媒として用いた。
【0051】
〈第2サイクル〉
回収された錯体触媒のモル数に合わせての試薬、基質の調整は行わず反応に用いた。すなわち、窒素雰囲気下、回収した錯体触媒(22.1mg、0.025mmol、14h)、および1−アダマンチルメチルケトン(45.3mg、0.25mmol)、1,1,1−トリクロロエタン(10μL、0.10mmol、40mol%)のTHF(2.5mL)溶液を−20℃に冷却し、あらかじめMeOH(6.0当量 vs NaBH4)とNaBH4から調製した修飾水素化ホウ素ナトリウム(2当量)をシリンジポンプ(0.176mL/min)を用いて23分かけて滴下した。14時間−20℃で反応させた後、ドライアイス−アセトンバスで冷却し、同様にドライアイス−アセトンバスで冷却した含水THF溶液(2.0mL)を加え反応を停止させた。生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤をろ過し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/Hexane=1/15)で精製すると、目的とする光学活性(1−アダマンチル)−1−エタノールが得られた(32.1mg、71% yield)。得られた(1−アダマンチル)−1−エタノールをN,N−ジメチルアミノピリジン(1当量)、1−ナフトイルクロリド(2当量)およびピリジン(5当量)で処理し、1−ナフトイルエステルに変換した後、HPLC分析を行い、光学収率を決定した(75% ee)(Daicel Chiralpak IB、1.0mL/min、254nm、0.5% THF in n−hexane、tr=16.03min、19.76min)。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで目的生成物を単離した後、素早く極性の高い展開溶媒(Et2O/AcOEt=4/1)で赤色分画を回収し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、真空ラインで減圧乾燥させて錯体触媒を回収した(回収率:75%)。錯体触媒はこれ以上の精製をせず、次の反応サイクルに用いた。
【0052】
〈第3サイクル〉以降
第2サイクルと同様に、回収された錯体触媒のモル数に合わせての試薬、基質のモル数の調整は行わず反応に用いた。
これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0053】
実施例8
上記の各実施例においては、反応は窒素雰囲気下で行うものの、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでの目的生成物の精製は空気中で行った。本実施例ではシリカゲルカラムクロマトグラフィーでの目的生成物の精製も窒素雰囲気中で行い、それ以外は実施例7と同様にして反応を行った。
この結果を表3に示す。反応サイクルを繰り返しても触媒錯体の回収率を高く維持することができた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、有用な光学活性アルコールを、高収率かつ高エナンチオ選択的に得ることができ、また、反応に使用した光学活性金属化合物を、回収し、再利用することができるので、その工業的価値は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトン化合物を、光学活性金属化合物および1,1,1−トリクロロアルカンの存在下、ヒドリド試薬と反応させる工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
【請求項2】
ケトン化合物を、光学活性金属化合物、1,1,1−トリクロロアルカンおよびアルコール化合物の存在下、ヒドリド試薬と反応させる工程を含む、請求項1に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【請求項3】
前記1,1,1−トリクロロアルカンが1,1,1−トリクロロエタンである、請求項1または2に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【請求項4】
前記光学活性金属化合物が下記一般式(a)で表される光学活性コバルト(II)錯体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【化1】

〔式中、R1とR2は異なる基であり、それぞれ、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基またはアリール基であり、置換基を有していてもよく、2個のR1同士または2個のR2同士は、相互に結合して環を形成していてもよく、R3、R4およびR5は同一でも異なっていてもよく、水素原子、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アシル基またはアルコキシカルボニル基であり、置換基を有していてもよい〕
【請求項5】
前記ヒドリド試薬が、金属水素化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学活性アルコールの製造方法。

【公開番号】特開2011−241191(P2011−241191A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116137(P2010−116137)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月28日 有機合成化学協会関東支部発行の「第58回有機合成化学協会関東支部シンポジウム講演要旨集」に発表(平成21年11月28日、29日 有機合成化学協会関東支部主催の「第58回有機合成化学協会関東支部シンポジウム」において文書をもって発表)平成22年3月12日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第90春季年会2010年 講演予稿集IV」に発表(平成22年3月26日〜28日 社団法人日本化学会主催の「日本化学会第90春季年会2010年」おいて文書をもって発表)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】