説明

光学活性化合物及びその利用

【課題】光を照射することで旋光度が変化する新たな化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される光学活性化合物。


(Xは、それぞれ独立に、−NH、−N(CH、−H、−F、−I、−Br、−Cl、−COOHなどを示し、a及びbは1〜6の範囲の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性化合物及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物であるアゾベンゼンは光に対して高感度であり、高速応答性に優れ、また可逆的にシス−トランス異性化反応を示すため、光記録材料への応用が検討されている。一般にアゾベンゼン誘導体へ紫外光又は可視光を照射すると、高確率で光異性化反応を誘起することができる。
【0003】
アゾベンゼンを書き換え可能な光記録素子として用いた研究として、2つの干渉光を用いて局所的に光異性化反応を誘起することによるホログラム記録(非特許文献1〜4)、アゾベンゼンの光応答性を液晶の分子配向変化に利用した光誘起パターン記録(非特許文献5〜8)が報告されている。
【0004】
また、特許文献1にはビナフチル骨格とアゾベンゼン骨格とを連結した化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−238510号公報(2007年9月20日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eich, M.; Wendorff, J. H.; Reck, B.; Ringsdorf, H. Makromol. Chem. Rapid Commun. 1987, 8, 59.
【非特許文献2】Rochon, P.; Batalla, E.; Natansohn, A. Appl. Phys. Lett. 1995, 66, 136.
【非特許文献3】Khoo, I. C.; Slussarenko, S.; Guenther, B. D.; Shih, M. Y.; Chen, P.; Wood, W. V. Opt. Lett. 1998, 23, 253.
【非特許文献4】Hasegawa, M.; Yamamoto, T.; Kanazawa, A.; Shiono, T.; Ikeda, T. Adv. Mater. 1999, 11, 675.
【非特許文献5】Ichimura, K.; Suzuki, K.; Seki, T.; Hosoki, A.; Aoki, K. Langmuir 1988, 4, 1214.
【非特許文献6】Gibbons, W. M.; Shannon, P. J.; Sun, S. T.; Swetlin, B. J. Nature 1991, 351, 49.
【非特許文献7】Ikeda, T.; Tsutsumi, O. Science 1995, 268, 1873.
【非特許文献8】Tamaoki, N.; Song, S.; Moriyama, M.; Matsuda, H. Adv. Mater. 2001, 12, 94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光記録素子には、情報を記録する光(記録光)、情報を再生する光(再生光)、情報を消去する光(消去光)が必要である。光記録材料に要求される特性として「記録光及び消去光に対して高感度であり、再生光には感度がない」ことが求められる。また、光記録素子には記録面を破壊することなく情報を読み出す、非破壊読み出し性能が重要である。従来の技術では、再生光に対して光応答性を有する場合が多く、結果的に記録層の劣化を誘発することがある。
【0008】
また、すべての化合物は熱的にトランス体へ戻る異性化反応も同時に誘発するため、アゾベンゼンを記録材料として用いるためには熱に対して安定な化合物の開発が嘱望されている。これまでに報告されているアゾベンゼン誘導体の熱戻り異性化反応の半減期は室温で数百ミリ秒〜80時間程度であるが、実用化のためには少なくとも500時間以上の熱的安定性が必要となる。
【0009】
そこで本発明は、光を照射することで旋光度が変化する化合物であって、劣化せずに非破壊で再生光を照射することができ、熱的安定性を有する新たな化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光学活性化合物は、下記一般式(1)で示される光学活性化合物である。
【0011】
【化1】

【0012】
(X、X、X及びXは、それぞれ独立に、−NH、−N(CH、−H、−C2p+1、−SC2q+1、−C2r+1、−OC2s+1、−F、−I、−Br、−Cl、−COOH、−COOC2t+1、−CONH、COCH、−CHO、−NO又は−CN(ただし、p、q、r、s及びtは、それぞれ独立に1〜10の範囲の整数である)を示し、a及びbは、それぞれ独立に、1〜6の範囲の整数である。)
本発明に係る光学活性化合物では、前記a及びbは、それぞれ独立に1〜3の範囲の整数であることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る光学活性化合物では、前記X1、X2、X3及びX4は−Hであり、前記a及びbは3であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係る光学活性化合物を含む、光記録用材料及び光学フィルムも本発明の範疇である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光を照射することで旋光度が変化する化合物であって、劣化せずに非破壊で再生光を照射することができ、熱的安定性を有する新規の光学活性化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】3RAA溶液の吸収スペクトル変化を示す図である。
【図2】3RAA溶液及び3SAA溶液のCDスペクトル変化を示す図である。
【図3】3RAAの熱戻りによる異性化の一次プロットを示す図である。
【図4】3RAAの熱戻りによる異性化の半減期を算出した結果を示す図である。
【図5】3RAA溶液及び3SAA溶液に紫外光及び可視光を繰り返し照射して比旋光度を測定した結果を示す図である。
【図6】3RAAのDSC測定の結果を示す図である。
【図7】3RAAのX線回折パターンを示す図である。
【図8】3RAAフィルムの吸収スペクトル変化を示す図である。
【図9】3RAAフィルム及び3SAAフィルムのCDスペクトル変化を示す図である。
【図10】3RAAフィルム及び3SAAフィルムに紫外光及び可視光を繰り返し照射して旋光度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔本発明に係る光学活性化合物〕
本発明に係る光学活性化合物は、前記一般式(1)で示される。
【0018】
本発明に係る光学活性化合物は、特許文献1に記載の化合物におけるビナフチル骨格が、特許文献1に記載のようなアゾベンゼンの2,2’位ではなく3,3’位に置換された化合物である。これにより、記録、消去に用いる光の波長と、再生に用いる光の波長とを異ならせることができる、情報の書き換えや非破壊読み出しが可能な光記録素子の材料として用いることができる。また、半減期が長いため記録した情報を長期間保持することができる。
【0019】
なお、本発明に係る光学活性化合物のトランス体は上記一般式(1)で示され、シス体は下記一般式(2)で示される。
【0020】
【化2】

【0021】
(a、b、X、X、X及びXは一般式(1)と同義である。)
一般式(1)で表される化合物の溶解性を高めて薄膜形成を容易にするという観点から、X及びXとして好ましい基としては、−C2p+1、−SC2q+1、−C2r+1、−OC2s+1、−Br及びCOOC2t+1を例示できる。また、X及びXは、同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
一般式(1)において、アゾベンゼン骨格のシス−トランス応答(シス体からトランス体への異性化)を促進するためには、X及びXは、一方が電子供与基であり他方が電子吸引基であることが好ましい。この点から好ましいXとXの組み合わせとしては、X及びXのいずれか一方が、電子供与基である−NH、−N(CH、−OC2s+1、−SC2q+1であり、他方が、電子吸引基である−CN、−NO、−COOC2t+1、−COOH、−C2p+1である組み合わせを挙げることができる。なお、一方が電子供与基であり他方が電子吸引基である組み合わせであれば、X及びXのどちらへ電子供与基又は電子吸引基を導入してもよい。
【0023】
一般式(1)において、a及びbは、それぞれ独立に1〜6、好ましくは1〜3の範囲の整数である。a及びbが6以下にすることで、アゾベンゼン骨格とキラル部位との距離を短くして、アゾベンゼン骨格の構造変化をキラル部位に高速に伝達することが容易となる。一般式(1)において、a及びbは同一であっても異なっていてもよいが、合成の容易性の観点からは、両者が同一であることが好ましい。
【0024】
本発明の光学活性化合物には、以下に示すように、ビナフチル部位の捻れ構造が異なるS体とR体がある。本発明に係る光学活性化合物は、S体であってもR体であっても光等に対して高速かつ高感度に応答し得る。S体は下記一般式(3)で示され、R体は下記一般式(4)で示される。
【0025】
【化3】

【0026】
(a、b、X、X、X及びXは一般式(1)と同義である。)
【0027】
【化4】

【0028】
(a、b、X、X、X及びXは一般式(1)と同義である。)
一般式(1)で示される化合物の中で、最も好ましい形態は、前記X1、X2、X3及びX4は−Hであり、前記a及びbは3である。この形態の化合物のS体は下記式(5)で示され、R体は下記式(6)で示される。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
以下、式(5)で示される化合物を「3RAA」といい、式(6)で示される化合物を「3SAA」という。
【0032】
3RAA及び3SAAの比旋光度([α])の変化量は約235°である。また、[α]の記録・消去を多数(例えば後述の実施例では10回)繰り返しても、劣化を生じない。また、記録した情報を25℃で882時間(36.7日)保存することができる。3RAA及び3SAAは、従来報告されている、いずれのアゾベンゼン誘導体よりも長い半減期である。つまり、3RAA及び3SAAは、記録した情報を安定に保持することが可能であり、熱安定性に極めて優れる材料である。なお、旋光度の測定はJIS規格(K0063)に従って行なえばよい。
【0033】
〔本発明に係る光学活性化合物の用途:光記録用材料〕
本発明に係る光学活性化合物の用途として光記録用材料が挙げられる。本発明に係る光学活性化合物を用いた光記録用材料は、本発明に係る光学活性化合物を含めばよく、適宜他の添加物をも含むものであってもよいし、本発明に係る光学活性化合物からなるものであってもよい。
【0034】
本発明に係る光学活性化合物はアゾベンゼン部位を含む。アゾベンゼンはシス体とトランス体があり、熱的に安定なものはトランス体である。棒状のトランス体は屈曲したシス体と比べて分子長が約40%長いため、シス体からトランス体への異性化及びトランス体からシス体への異性化により分子長が大きく変化する。本発明の光学活性化合物においては、このように異性化により分子長が大きく変化するアゾベンゼン骨格が、ビナフチル骨格と比較的近距離で環状に結合されているため、アゾベンゼン骨格の構造変化により、2つのナフタレン環を結合する単結合を回転させ、ビナフチル部位のキラリティーを高速かつ高感度にスイッチすることができる。
【0035】
アゾベンゼン部位がトランス体である本発明の光学活性化合物に対し、紫外光等の光(例えば波長300〜400nm)を照射すると、シス体への異性化を起こすことができ、その後、トランス−シス異性化に用いた光よりも長波長の光(例えば波長400〜550nm)を照射するか、又は加熱することにより、再びトランス体に変化させることができる。加熱温度は、例えば20〜100℃程度とすることができ、加熱温度が高いほど高速でシス−トランス異性化を起こすことができる。また、照射する光としては、例えば高圧水銀灯の輝線である313nm、365nm、407nm、436nm;YAGレーザーの第2及び第3高調波である355nm、532nm;又はアルゴンイオンレーザーの458nm、488nm、514nm等を用いることができる。光強度については、0.1〜100mW/cm程度が好ましい。
【0036】
このように、本発明に係る光学活性化合物は、光照射等によりアゾベンゼン部位の異性化を可逆的に起こすことにより、ビナフチル部位のキラリティーを可逆的に変化させる(以下、「キラルスイッチング」ともいう)ことができる。このキラリティーの変化は、旋光度の変化として現れる。本発明に係る光学活性化合物は、この光照射によるスペクトル変化を利用して光書き換え可能な光記録用材料として用いることができる。また、本発明の光学活性化合物には、S体及びR体があり、S体及びR体は互いに反対のキラリティーを有するため、得られる旋光度は左右対称になる。よって、S体及びR体を併せて利用することにより記録のバリエーションを増やすことができ、更に複数種の化合物を組み合わせて使用することにより、記録のバリエーションをより一層増やすことができる。また、本発明に係る光学活性化合物は、加工が容易であるという利点も有する。また、キラリティーの変化がCDスペクトルの変化として現れる物質でもある。
【0037】
なお、本発明に係る光記録用材料には、本発明に係る光学活性化合物以外にも、目的に応じて適宜、添加剤を添加することもできる。
【0038】
〔本発明に係る光学活性化合物の用途:光学フィルム、情報記録媒体〕
本発明に係る光学活性化合物の用途として光学フィルムが挙げられる。本発明に係る光学フィルムは本発明に係る光学活性化合物を含めばよいし、本発明に係る光学活性化合物からなるものであってもよい。
【0039】
本発明に係る光学活性化合物を用いれば容易に光学フィルムを製造することができる。本発明に係る光学フィルムが本発明に係る光学活性化合物からなるものである場合、例えば、本発明に係る光学活性化合物を、スピンコート、キャスト法などの汎用製膜法を用いることで、容易に固体薄膜を作製できる。後述のように、本発明者らは、固体薄膜においても旋光度の記録、再生及び消去をおこなうことに成功している。本発明は、固体膜における旋光度の光による情報の書き換え、非破壊読み出しをおこなった最初の例である。
【0040】
また、例えば、本発明の光学活性化合物を、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム等の適当な溶媒に溶解して調製した塗布液を、基板上に塗布、乾燥することにより、光学フィルムを作製してもよい。前記基板としては、石英、ガラス、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリイミド等の公知の基板を用いることができる。塗布方法としては、公知の方法を用いることができるが、中でも、スピンコート法を用いると、本発明の化合物を高分子等へ分散させることなく、均一な薄膜を容易に形成することができる。こうして形成された光学フィルムは、本発明に係る光学活性化合物を含み、好ましくは本発明に係る光学活性化合物からなるものである。但し、前記光学フィルムには、本発明に係る光学活性化合物以外にも、目的に応じて適宜、添加剤を添加することもできる。
【0041】
また、本発明に係る光学活性化合物の用途としては、基板上に光記録層を有する情報記録媒体を挙げることができる。この場合、情報記録媒体は、本発明に係る光学活性化合物を含めばよい。前記光記録層は、本発明に係る光学活性化合物を含むものである。前記光記録層及び前記基板は、前述した通りである。なお、前記光記録層の上に、例えば保護層等の更なる層を設けることも可能である。前記光学フィルム及び光記録媒体の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば10nm〜10μmとすることができる。
【0042】
本発明の光学活性化合物を用いた光学フィルム及び情報記録媒体に対し、光を照射することにより、光学フィルム又は光記録層に含まれる化合物中のアゾベンゼン部位をトランス体からシス体へ変化させることができ、再度光照射等を行うことにより、シス体からトランス体へ変化させることができる。本発明では、この可逆的な異性化によってビナフチル部位のキラリティーを可逆的に変化させることにより、情報の記録、書き換えを容易に行うことができる。また、本発明の光学活性化合物を含む光学フィルムは、光照射によってビナフチル部位の捻れ構造を変化させることができるため、この性質を利用してカラーフィルター、偏光マスク等として使用することもできる。
【0043】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0044】
<実施例1:3RAA及び3SAAの合成>
3RAA及び3SAAは、以下に示す合成経路(1)により合成した。
【0045】
【化7】

【0046】
具体的な合成方法は次の通りである。
【0047】
〔中間体1の合成〕
合成経路(1)の中間体1(3−nitro−1−(3−bromopropoxy)benzene)を次の通り合成した。
【0048】
アセトニトリル(200ml)中に、3−ニトロフェノール23.3g(167mmol)、炭酸カリウム34.7g(251mmol)を加えた。10分撹拌した後、1,3−ジブロモブタン270g(1.34mol)を加え、24時間還流した。反応の終了については薄層クロマトグラフィーを用いて確認した。反応物を水−塩化メチレンで抽出した後、抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。精製にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:塩化メチレン=3:2)を用いて、中間体1を31.4g(120mmol)得た。
Rf値:0.4(展開溶媒;塩化メチレン:ヘキサン=1:1)
収率:73%
H−NMR(300MHz, CDCl):δ(ppm)2.37(quint, 2H,J=6.3Hz, Ar−OCHCHCHBr), 3.62(t, 2H, J=6.3Hz, Ar−OCHCHCHBr), 4.20(t, 2H, J=6.3Hz, Ar−OCHCHCHBr), 7.25(m, 1H, aromatic rings), 7.45(dd, J=8.1Hz, 1H, aromatic rings), 7.75(d, 1H, J=2.4Hz, aromatic rings), 7.85(d, J=8.1Hz, 1H, aromatic rings)。
【0049】
〔中間体2rの合成〕
中間体2r(((R)−2,2’−bis[3−(3−nitrophenyloxy)propoxy]−1,1’−binaphthyl)を次の通り合成した。
【0050】
アセトン(500ml)中に中間体1(10.0g, 38.6mmol)、(R)−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル5.52g(19.3mmol)、炭酸カリウム7.99g(75.9mmol)を加え、24時間還流した。反応の終了については薄層クロマトグラフィーを用いて確認した。反応物を水−塩化メチレンで抽出した後、抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。精製にカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;塩化メチレン)を用いて、化合物2rを9.70g(15mmol)得た。
Rf値:0.6(展開溶媒;塩化メチレン)
収率:78%
H−NMR(400MHz, DMSO−d):δ(ppm)1.79(t, 4H, J=5.6Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 3.51(m, 4H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 4.10(d, 4H, J=5.6Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 6.91(d, 2H, J=8.8Hz, aromatic rings), 6.99(d, 2H, J=8.4Hz, aromatic rings), 7.11(dd, 2H, J=7.2Hz, aromatic rings), 7.22(dd, 2H, J=7.2Hz, aromatic rings), 7.31(s, 2H, aromatic rings), 7.50(dd, 2H, J=8.0Hz, aromatic rings), 7.57(d, 2H, J=9.0Hz, aromatic rings), 7.78(d, 2H, J=7.2Hz, aromatic rings), 7.86(d, 2H, J=8.0Hz, aromatic rings), 8.00(d, 2H, J=9.0Hz, aromatic rings)。
【0051】
〔3RAAの合成〕
3RAA((R)−2,2’−bis[3−(3’’−phenoxy)propoxy]−1’’−azo−1,1’−binaphthyl)を次の通り合成した。
【0052】
テトラヒドロフラン(200ml)中に、水素化アルミニウムリチウム(3.6g, 93mmol)を加えた。窒素雰囲気下で、氷浴にて20分間撹拌した後、テトラヒドロフラン(100ml)に溶かした中間体2r(6.0g, 9.3mmol)を少しずつ滴下し、室温で24時間撹拌した。その後、24時間還流した。反応経過は薄層クロマトグラフィーを用いて確認した。反応終了後、反応物を塩化メチレンで抽出した後、抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。精製にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:塩化メチレン=2:3)及びサイズ排除クロマトグラフィー(溶出時間:41min)を用いて、3RAAを0.22g(0.38mmol)得た。
Rf値:0.5(展開溶媒;塩化メチレン)
収率:4%
H−NMR(300MHz, DMSO−d):δ(ppm) 1.48(m, 2H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 1.90(m, 2H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 3.57(m, 4H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 3.70(t, 2H, J=8.1Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 4.41 (t, 2H, J=6.9Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 6.96(d, 2H, J=7.8Hz, aromatic rings), 7.15(m, 4H, aromatic rings), 7.39(m, 10H, aromatic rings), 7.89(m, 4H, aromatic rings). Anal. Calcd. for C3832:C, 78.60; H, 5.55; N, 4.82. Found: C, 78.43; H, 5.61; N, 4.83. MALDI−TOF MS: m/z=580.1 [M+]。
【0053】
〔3SAAの合成〕
3SAA(((S)−2,2’−bis[3−(3’’−phenoxy)propoxy]−1’’−azo−1,1’−binaphthyl)を次の通り合成した。
【0054】
(R)−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチルの代わりに(S)−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチルを用いた以外は、上記〔中間体2rの合成〕と同じ操作を行なうことで中間体2sを合成した。次に、中間体2rの代わりに中間体2sを用いた以外は上記〔3RAAの合成〕と同じ操作を行ない、3SAAを得た。
Rf値:0.5(展開溶媒;塩化メチレン)
収率:4%
H−NMR(300MHz, CDCl):δ(ppm) 2.00(m, 2H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 3.56(m, 2H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 3.73(m, 4H, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 4.37(m, 2H, Ph−OCHCHCHO−binaphthyl), 6.91(d, 2H, J=9.0Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl), 7.34 (m, 12H, aromatic rings), 7.52(d, 2H, J=7.8 Hz, aromatic rings), 7.79(d, 4H, J=9.0Hz, Ar−OCHCHCHO−binaphthyl).Anal. Calcd. for C3832:C, 78.60; H, 5.55; N, 4.82. Found: C, 78.37; H, 5.55; N, 4.66. MALDI−TOF MS: m/z = 580.1 [M]。
【0055】
<実施例2:光照射に伴う吸収スペクトル及びCDスペクトル>
3RAAを1,4−ジオキサンに溶解して3RAA溶液を調製した(濃度:8.5×10−6M)。次に、3RAA溶液に高圧水銀灯の輝線である365nm(光強度:10mW/cm2)の光を100秒間照射した。次に、3RAA溶液に436nm(光強度:10mW/cm)の光を100秒間照射した。これらの光を照射したことによる吸収スペクトル変化を図1に示す。図1は3RAA溶液の吸収スペクトル変化を示す図である。図1の(a)は215nm〜600nmの波長における吸収スペクトル変化を示し、図1の(b)は図1の(a)のうち350nm〜600nmの範囲を拡大した図である。
【0056】
図1に示すように、3RAA溶液に365nmの光を照射したところ、365nm付近の吸収が減少し、440nm付近の吸収が増加した。365nm及び440nm付近の吸収は、それぞれアゾベンゼンのπ−π及びn−π遷移に帰属できることから、3RAAが光によってトランス体からシス体に変化することが確認できた(トランス体からシス体への異性化率は85%)。次に3RAA溶液に436nmの光を照射した結果、元の状態に戻った。なお、215−350nmはキラル部位であるビナフチル骨格に由来する吸収であり、350nm−600nmはアゾベンゼン骨格に由来する吸収である。
【0057】
また、円二色性(CD)スペクトル変化を確認するため、3SAAを1,4−ジオキサンに溶解して3SAA溶液も調製した(濃度:8.5×10−6M)。3RAA溶液及び3SAA溶液のそれぞれに、365nm(光強度:10mW/cm2)の光を100秒間照射して、次に、436nm(光強度:10mW/cm2)の光を100秒間照射した。この光の照射によるCDスペクトル変化を図2に示す。図2は3RAA溶液及び3SAA溶液のそれぞれのCDスペクトル変化を示す図である。図2に示すように、CDスペクトルは上下対称となった。これは3RAAと3SAAとが互いに反対のキラリティーを有するためである。また、365nmの光を照射したことにより、238nm付近のスペクトルが変化した。変化量(モル円二色性比:Δε)は213であった。また、365nmの光を照射した後、436nmの光を照射したことで元の状態に戻った。
【0058】
<実施例3:熱戻りによる異性化>
実施例2で用いた3RAA溶液を298K〜338Kの環境下に置き、異性化率を測定してグラフ上にプロットした。結果を図3に示す。図3は3RAAの熱戻りによる異性化の一次プロットを示す図である。次に、図3におけるプロットした点の傾きから、一次反応定数(k)を算出した(k298K:1.2×10−7−1、k308K:7.6×10−7−1、k318K:3.7×10−6−1、k328K:1.2×10−5−1、k338K:3.3×10−5−1)。kの値から熱戻りによる異性化の半減期(ln2/k)を算出した。結果を図4に示す。図4は3RAAの熱戻りによる異性化の半減期を算出した結果を示す図である。なお、図4には比較のため、本実施例と同じ方法で算出した以下の式(7)で示す化合物(以下、「2RAA」という。)の半減期も示す。なお、2RAAの合成については、特許文献1の記載に従った。
【0059】
【化8】

【0060】
図4に示すように、3RAAの半減期は298Kにおいて883時間(36.8日)となった。これは2RAAよりも極めて高い値であり、一般的なアゾベンゼン誘導体と比べて、約10倍の値である。
【0061】
<実施例4:比旋光度スイッチング>
3RAA及び3SAAをそれぞれクロロホルムに溶解した3RAA溶液及び3SAA溶液を調製した(各濃度:0.1g/dl)。
【0062】
3RAA溶液に365nm(光強度:10mW/cm)の光を照射した。その結果、光の照射前後で[α]の値の正負が逆転することが確認できた(モニター波長:589nm、照射前:+172、照射後:−63)。
【0063】
次に、3RAA溶液及び3SAA溶液のそれぞれに紫外光(365nm、10mW/cm)、可視光(436nm、10mW/cm)の照射を10回繰り返して[α]の測定を行なった(モニター波長:589nm)。結果を図5に示す。図5は3RAA溶液及び3SAA溶液に紫外光及び可視光を繰り返し照射して比旋光度を測定した結果を示す図である。図5に示すように、材料の劣化は確認されなかった。このことから3RAA及び3SAAは光で[α]を繰り返して制御できることが示された。
【0064】
<実施例5:3RAAの熱物性>
3RAAの熱物性を評価するために、示差走査熱量測定(DSC測定)を行なった。結果を図6に示す。図6は3RAAのDSC測定の結果を示す図である。10℃/分で250℃まで昇温したところ、205℃に融点に由来する鋭いピークが現れた。0℃以下まで降温した後再び昇温すると、融点のピークが消失し、112℃に幅の広いピークが生じた。また、一度融点以上に加熱したサンプルは、昇温及び降温を繰り返しても同様なプロファイルとなることが確認された。
【0065】
次に3RAAの加熱処理前後におけるX線回折パターンを測定した。加熱処理としては、230℃で5分間加熱した後、室温まで冷却する処理を行なった。図7に結果を示す。図7は3RAAのX線回折パターンを示す図である。図7の(A)は加熱処理前の室温でのX線回折パターンである。図7の(A)に示すように、加熱処理前の3RAAは複数の鋭いピークが確認されたことから、結晶状態であることが確認できた。また、図7の(B)は加熱処理後のX線回折パターンである。図7の(B)に示すように加熱処理後は、加熱処理前に確認されたピークが消失し、幅の広いピークが確認された。
【0066】
図6及び図7の結果から、3RAAは112℃にガラス転移点を有する分子性アモルファス材料であることが確認された。
【0067】
<実施例6:薄膜のトランス−シス光異性化>
まず、3RAA及び3SAAそれぞれの薄膜である3RAAフィルム及び3SAAフィルムをスピンコートにより作製した(膜厚:120nm)。具体的には、3RAA及び3SAAの1wt%クロロホルム溶液を調製し、洗浄したシリカ基板上へスピンコート(回転速度:1000rpm,時間:30s)した。
【0068】
3RAAフィルム及び3SAAフィルムのそれぞれに、365nmの光(光強度:10mW/cm)及び436nmの光(光強度:10mW/cm)をそれぞれ100秒間照射した。光を照射したことによる吸収スペクトル変化及びCDスペクトル変化を図8及び図9に示す。図8は3RAAフィルムの吸収スペクトル変化を示す図である。図9は3RAAフィルム及び3SAAフィルムのCDスペクトル変化を示す図である。
【0069】
図9に示すように、CDスペクトルは244nmにビナフチル分子に由来する大きな円二色性強度(±620mdeg/μm)を示した。また、365nmの光を照射したところCDスペクトルが変化し、円二色性強度の変化量は500であった。
【0070】
また、図8及び図9に示されるように、3RAA及び3SAAは、実施例2のジオキサンに溶解した溶液を用いた場合と同様に、光異性化反応によってビナフチルの不斉軸が回転することが確認できた。
【0071】
<実施例7:旋光度スイッチング>
実施例6で作製した3RAAフィルム及び3SAAフィルムに365nm(光強度:10mW/cm)の光を照射した。その結果、光の照射前後で旋光度α(mdeg/μm)の値が可逆的に変化することが確認できた(モニター波長:589nm、3RAAの照射前:+12mdeg/μm、照射後:+2mdeg/μm)。
【0072】
次に、3RAAフィルム及び3SAAフィルムのそれぞれに紫外光(365nm、10mW/cm)、可視光(436nm、10mW/cm)の照射を10回繰り返して旋光度αの測定を行なった(モニター波長:589nm)。結果を図10に示す。図10は3RAAフィルム及び3SAAフィルムに紫外光及び可視光を繰り返し照射して旋光度を測定した結果を示す図である。図10に示すように、得られる値にばらつきがあるものの、ほぼ初期状態に戻るため、それぞれの薄膜の劣化は確認されなかった。つまり3RAAフィルム及び3SAAフィルムは、旋光度αを用いて繰り返して記録及びその記録の消去が可能な非破壊読み出しスイッチングフィルムとして機能することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は光スイッチング型デバイス材料等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される光学活性化合物。
【化1】

(X、X、X及びXは、それぞれ独立に、−NH、−N(CH、−H、−C2p+1、−SC2q+1、−C2r+1、−OC2s+1、−F、−I、−Br、−Cl、−COOH、−COOC2t+1、−CONH、COCH、−CHO、−NO又は−CN(ただし、p、q、r、s及びtは、それぞれ独立に1〜10の範囲の整数である)を示し、a及びbは、それぞれ独立に、1〜6の範囲の整数である。)
【請求項2】
前記a及びbは、それぞれ独立に1〜3の範囲の整数である、請求項1に記載の光学活性化合物。
【請求項3】
前記X、X、X及びXは−Hであり、前記a及びbは3である請求項1に記載の光学活性化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性化合物を含む光記録用材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性化合物を含む光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−173840(P2011−173840A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40160(P2010−40160)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「高分子学会予稿集58巻2号」 発行日 平成21年9月1日 発行所 社団法人 高分子学会
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】