説明

光学用合成石英ガラス成形体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐レーザ光性の光学用合成石英ガラス成形体の製造方法に関し、特に紫外線を照射した際に、緑色螢光の発生が無く、耐レーザー性に優れる光学用合成石英ガラス成形の製造方法に関するものである。また、本発明は、合成石英ガラスを所望の形状に成形し、この合成石英ガラス成形体について、歪取り処理及び屈折率分布を均一にする高温熱処理を施した後において、例えば254nmの紫外線を照射した際に、490nm付近に緑色螢光の発生が無く、耐レーザー性に優れる光学用合成石英ガラス成形の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】従来、合成石英ガラスを成形する際には、グラファイト製鋳型内部に、該合成石英ガラスを、離形材として用いられるグラファイト製シート、グラファイト粉末などと共にセットし、不活性ガス雰囲気下に、1500℃乃至1800℃の範囲内の温度で高温加圧成形する方法が行われてきている。このように、不活性ガス雰囲気中で高温成形を行う場合、使用する成形炉の内壁及びグラファイト鋳型、離形材などに微量ながら存在する金属不純物が、成形される合成石英ガラス内に拡散する。この金属不純物は、炉内に残留している酸素や、不活性ガス中の不純物の酸素ガスや、該合成石英ガラス中に残存する酸素と反応して金属酸化物を形成し、この形成された金属酸化物は、合成石英ガラス中で、前記螢光の発光源となると考えられる。
【0003】このような合成石英ガラス成形体において、一般に、254nmの紫外線の照射による緑色蛍光は、表面から20mm程の深さまで達し、光学用レンズ母材として、使用不可の領域を形成する。そこで、成形を真空雰囲気下で行い、螢光原因となる金属不純物と炉内における残留酸素の排気が行われる。このように真空下で成形することにより、合成石英ガラス成形体における緑色螢光の発光は全くみられなくなる。
【0004】しかし、このように、合成石英ガラスを真空下で成形することにより、成形後の螢光発光は防止されるが、真空雰囲気下で行われるため、該合成石英ガラス内に存在する泡や異物が、微小なものでも直径20mm以上にも膨張し、使用不可部分を増大させることとなり、問題とされている。本発明は、合成石英ガラス成形体における緑色蛍光を発する部分による歩留まりの低下に係る問題点を解決することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、緑色蛍光を発する部分による歩留まりの低下を生じない合成石英ガラス成形体を製造する方法を提供することを目的としている。即ち、本発明は、光透過方向に脈理及び泡が存在しない合成石英ガラスを、型内で、1トール以下の圧力下において、1500℃乃至1800℃の範囲内の温度下で真空成形し、この真空成形された合成石英ガラス成形体を、非酸化性雰囲気内で、800℃乃至1300℃の範囲内の温度に一定時間保持し、次いで、この合成石英ガラス成形体を、15℃/時間以下の降温速度で、徐冷することを特徴とする光学用石英ガラス成形体の製造方法にある。
【0006】本発明においては、完全に泡の無い合成石英ガラス、或いは100cmに含有される泡の断面積が、0〜0.01mmである合成石英ガラスが使用される。このような合成石英ガラスは、例えば高温で合成石英ガラスを捻ることにより容易に製造することがでる。本発明においては、このように製造された完全に泡の無い合成石英ガラス又は100cmに含有される泡の断面積が、0〜0.01mmである合成石英ガラスについて、成形工程、歪取り工程、屈折率設定を行なうためのアニール処理工程が行われる。
【0007】本発明においては、合成石英ガラスの成形は真空下に行われる。この成形工程において使用される真空度は1トール以上であるが、1×10−2トール以上であるのが好ましい。この真空状態は、成形開始前から保持され、少なくとも成形後1000℃に温度が低下するまで保持される。しかし、成形に使用される真空度は、室温に温度が低下するまで保持されるのが好ましい。このようにすることは、1000℃以上の温度域では、まだ相当に起こりやすい酸化反応及び酸素ガスの拡散反応を防止するためである。またこの成形に先立って、該成形炉は、成形温度より50℃以上高い温度で、且つ1×10−1トール以下の圧力で空焼きしておくのが好ましい。
【0008】本発明において、アニール処理は非酸化性雰囲気において行われる。アニール処理で使用される非酸化性雰囲気としては、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気及び水素、塩化水素ガスなどの還元雰囲気がある。本発明においては、アニール処理時にアニール処理炉の炉壁より金属不純物の蒸発が起きないようにするために、アニール処理に先立って、アニール処理炉は空焼きされる。アニール処理炉の空焼きは、アニール処理温度より50℃以上高い温度で、数時間以上の間、アニール炉内の空焼きが行われる。アニール炉の空焼きは、真空下で行われるのが好ましい。
【0009】本発明において、アニール処理を真空下に行う場合には、成形時の真空度と同じ真空度で行うことができるが、成形時の真空度よりも高い真空度で行うのが好ましい。アニール処理を行う不活性ガス雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性なガスの雰囲気が使用される。アニール処理を還元ガス雰囲気で行う場合、水素、塩化水素などの還元ガス雰囲気を使用することができる。このような還元ガス雰囲気でアニール処理を行うと、酸化反応を抑制するに留まらず、既に該ガラス体内にある酸化物を還元し、酸化物を減少させることとなるので好ましい。本発明においては、更に、例えば、還元雰囲気の一部を、不活性ガスに替えたり、或は還元ガス雰囲気下のアニール処理工程の一部を、他の雰囲気下で行うことができる。以上のように種々の雰囲気を組み合わせてアニール処理を行うと、酸化物の形成を、比較的容易に且つ経済的に阻止できることとなり好ましい。
【0010】本発明において、還元ガス雰囲気を水素ガス雰囲気とすると、合成石英ガラス成形体中に水素が内蔵されることとなり、耐紫外線レーザー性が増すこととなるので好ましい。この場合、合成石英ガラス成形体中の水素濃度は、耐紫外線レーザー性に対して正の相関を有するので、紫外線レーザー用の合成石英ガラス成形体中の水素濃度は、最終的に、前記正の相関の領域内で高濃度とするのが好ましい。
【0011】合成石英ガラス成形体を、水素ガス雰囲気以外の雰囲気によりアニール処理を行うと、合成石英ガラス成形体中に内蔵される水素が抜けてしまい、水素ドープ工程が必要である。本発明においては、この水素ドープの工程を短縮するために、水素ガス雰囲気でアニール処理が行われる。本発明における水素ガス雰囲気下でアニール処理された製品中の水素濃度は、該合成石英ガラス成形体全域に亙って、前記正の相関の領域内で好ましい水素濃度とすることができる(特開平3−188742号公報及び特開平3−10282号公報参照)。
【0012】ところで、水素ガスは、非常に効率のよい熱媒体なので、水素ガス雰囲気下で高温熱処理を行うと強い対流効果のために、徐冷時に該ガラスの表面部位が強冷却され、屈折率分布が表面に高く内部に低い形になり、特に、円柱状、ブロック状の合成石英ガラス成形体の場合、光透過面上の屈折率分布が、大幅に悪化し、殊に、水冷炉を使用したり、雰囲気ガスを流動させた場合、水冷炉を使用する場合、屈折率分布の悪化はさらに強調されたものとなる。本発明では、このような問題を解決するために徐冷速度を極端に遅らせたり、又は円柱形状、ブロック形状の合成石英ガラスの外周側面に密接するような石英ガラス、SIC、アルミナ等の円管状リングを設置し、かつ光透過面をリングの開口部に向けて設置するなどして透過面上の屈折率分布を平坦化している。
【0013】
【作用】本発明は、光透過方向に脈理及び泡が存在しない合成石英ガラスを、型内で、1トール以下の圧力下において、1500℃乃至1800℃の範囲内の温度下で真空成形し、この真空成形された合成石英ガラス成形体を、非酸化性雰囲気内で、800℃乃至1300℃の温度で、一定時間保持し、次いで、この合成石英ガラス成形体を、15℃/時間以下の降温速度で徐冷することにより、緑色螢光発光及び泡が無く、屈折率分布が均一で、耐紫外域レーザー性の高い光学用合成石英ガラス成形体を得ることができる。
【0014】
【実施例】本発明の実施の態様について、以下に例を挙げて説明するが、本発明は以下の説明及び例示によって、何等限定されるものではない。
実施例1.本実施例において、合成石英ガラス素塊は、四塩化ケイ素を酸水素炎により、火炎加水分解し、生成する微粒子を回転している耐熱性基体上に堆積させ、溶融ガラス化させて、合成石英ガラス素塊を製造した。該合成石英ガラス素塊より、特に無泡の部分を選別し、それを軟化点以上の高温に加熱して捻ることにより、脈理を含まない均質な、外径160mm、全長200mmの合成石英ガラスを製造した。この合成石英ガラス素塊の泡について測定したところ、体積100cmあたりに対して、0.01mm以下であった。
【0015】合成石英ガラス素塊(1)は、図1の如く、グラファイト製の鋳型(2)内に置いて、真空炉内(3)にセットした。本例において、グラファイト製の鋳型(2)は、内径が230mmの円筒状の側部壁(4)と、直径が約230mmの底部壁(5)と、加圧用蓋(6)とで構成されており、その底部壁(5)上に、グラファイト製の底板(7)を配置し、その上にグラファイト製の円筒(8)を配置し、合成石英ガラス素塊(1)は、円形状の面(9)を上下に位置させて、グラファイト製の円筒(8)内に配置した。合成石英ガラス素塊(1)は、直径が160mmであり、高さが200mmの密実な円筒体に形成されている。合成石英ガラス素塊(1)をグラファイト製の円筒内に配置したところで、該素塊(1)の頂部に直径が230mmのグラファイト製の蓋板(10)を配置し、その上にグラファイト製の加圧用蓋(6)が配置された。
【0016】本実施例において、合成石英ガラス素塊(1)を真空炉内(3)に配置し、炉内圧が10−2トール以下の圧力になるまで、真空排気した。炉内(3)の真空度を10−2トールに保持しつつ加熱昇温し、1800℃に1時間保持した後、自然冷却した。炉内(3)の温度が、1000℃以下になるまで、炉内圧を10−2トールに保持した。真空炉内(3)が、室温まで冷却したところで、大気圧に戻し、炉内(3)より取り出した。成形され取り出された合成石英ガラス成形体の寸法は、外径230mmで、厚さ80mmであった。図2にその概略が示されているように、このようにして製造された合成石英ガラス成形体(11)を、アニール炉(12)内の台(13)の上に載せて、合成石英ガラス成形体(11)ついて、水素ガス雰囲気中で、水素ガスを200ml/分の流速で流し、アニールを行った。温度条件は1150℃であり、この温度下に50時間の間保持し、その後、0.5℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。この合成石英ガラス成形体の、光透過面上における屈折率分布を測定したところ、△n=1.0×10−6であった。
【0017】この合成石英ガラス成形体に254nmの紫外線を照射したところ、490nm付近の緑色の螢光は、全く確認されなかった。また、成型後の泡の膨れも全くなかった。この合成石英ガラス成形体100cm中に含まれる泡の総断面積をDIN58927に準じて測定したところ、0.01mmであった。なお、本例における合成石英ガラス成形体は、全域にに亙って高い水素濃度を有している。本例において、使用された成形炉及びアニール炉は、何れも予め、処理温度より、50℃以上の高い温度で、且つ真空度1×10−2トール以下で、100時間以上空焼きを行って使用されている。
【0018】実施例2.図3に示すように、本実施例においては、実施例1におけるアニール時において、外側表面(14)が溶融面に形成され、外径240mmで、厚さ4mmであり、また予めアニール処理温度より50℃高い温度で、1×10−2トール以下の真空度で100時間以上空焼されている石英ガラス製の円筒管(15)を、合成石英ガラス成形体(11)の外周側面に密接するように、合成石英ガラス成形体に嵌め、アニール炉(12)内の台(13)の上に載置してアニールが行われ、アニール時の冷却速度が、1℃/時間で行われた以外は、前記実施例1と全く同様な条件で行われた。本実施例において得られた結果は実施例1と全く同様であった。
【0019】比較例1外径160mm、厚さ200mmの四塩化珪素を原料とし、直接火炎加水分解法で、製造された、合成石英ガラス素塊を弗化水素酸で洗浄後、実施例1で使用したグラファイト鋳型内部に置いて、真空炉内にセットし、炉内を1×10−2トールまで、真空びきを行ったのち、炉内に窒素ガスを110トール封入し、加熱を開始した。1750℃まで温度が上昇したところで加熱を停止し、真空炉内を室温まで冷却させ、真空炉内の圧力を大気圧に戻して、真空炉内より合成石英ガラス成形体を取り出した。成形後の該ガラス体寸法は、外径230mm、厚さ80mmであった。以上のような方法で製造された合成石英ガラス成形体に254nmの紫外線を照射すると、外表面より20mmの深さまで緑色螢光が確認された。
【0020】比較例2比較例1と同様な合成石英ガラスを、実施例1と同様の真空下で成形を開始した。真空炉内の温度が1750℃まで上昇したところで、加熱を停止し、1000℃まで冷却するまで真空びきを行い、その後室温まで冷却した。冷却後、真空炉内を大気圧に戻し、真空炉内より合成石英ガラス成形体を取り出した。以上のような方法で製造された合成石英ガラス成形体に、比較例1同様に、254nmの紫外線を照射したが、緑色螢光は全く確認されなかった。しかし、あらかじめ該合成石英ガラス内に存在していた微小な泡が、径20mmに膨れ使用不可部位が大幅に増大した。
【0021】比較例3微少な泡の全くない該合成石英ガラスを、比較例2と同様に成形し製造した。泡の膨れは無く、また緑色螢光も全く確認されなかった。この様にして得られた該合成石英ガラス成形体を、弗化水素酸で洗浄した後、熱処理炉内に置き、大気下で加熱を開始した。温度が1150℃まで上昇した後、45時間保持し、1℃/時間の冷却速度で、室温まで徐冷した。取り出した該合成石英ガラス成形体を、比較例1と同様に、254nmの紫外線を照射したところ、比較例1と等量の螢光発生が確認された。また該合成石英ガラス成形体の水素濃度は、比較的低く、紫外レーザー用ガラス母材として、使用可能部位は極めて減少した。
【0022】
【発明の効果】本発明は、光透過方向に脈理及び泡が存在しない合成石英ガラスを、型内で、1トール以下の圧力下において、1500℃乃至1800℃の範囲内の温度下で真空成形し、この真空成形された合成石英ガラス成形体を、非酸化性雰囲気内で、800℃乃至1300℃の温度で、一定時間保持し、次いで、この合成石英ガラス成形体を、15℃/時間以下の降温速度で徐冷することにより、緑色螢光発光及び泡が無く、屈折率分布が均一で、耐紫外線域レーザー性の高い光学用合成石英ガラス成形体が製造できるので、従来の合成石英ガラス成形体の製造方法に比して、高い耐紫外域レーザー性を有し、且つ紫外域のーザーの透過性に優れた光学用合成石英ガラス成形体が歩留まり良く、しかも比較的安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1及び2並びに各比較例において使用されたグラファイト製の鋳型の概略の側断面図である。
【図2】本発明の実施例1に示されるアニール処理の概略を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例2に示されるアニール処理の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
1 合成石英ガラス素塊
2 鋳型
3 真空炉内
4 鋳型の側部壁
5 鋳型の底部壁
6 鋳型の加圧用蓋
7 グラファイト製の底板
8 グラファイト製の円筒
9 合成石英ガラス素塊の円形状の面
10 グラファイト製の蓋板
11 合成石英ガラス成形体
12 アニール炉
13 台
14 内側表面
15 石英ガラス製の円筒管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光透過方向に脈理及び泡が存在しない合成石英ガラスを、型内で、1トール以下の圧力下において、1500℃乃至1800℃の範囲内の温度下で真空成形し、この真空成形された合成石英ガラス成形体を、非酸化性雰囲気内で、800℃乃至1300℃の範囲内の温度に一定時間保持し、次いで、この合成石英ガラス成形体を、15℃/時間以下の降温速度で、徐冷することを特徴とする光学用合成石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】 合成石英ガラスは、含有する泡の総断面積が、合成石英ガラス100cmあたり0乃至0.01mmであることを特徴とする請求項1に記載の光学用合成石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項3】 合成石英ガラスの真空成形が、1トール以下の圧力下で行なわれ、引き続き1トール以下の圧力を維持しながら1000℃に降温することを特徴とする請求項1に記載の光学用合成石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項4】 非酸化性雰囲気が水素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載の光学用合成石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項5】 合成石英ガラス成形体が、円柱状又はブロック状に成形されており、その光透過面の外周面に、円筒状の、天然石英リング、SICリング又はアルミナリングを被せる請求項1に記載の光学用石英ガラス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2514876号
【登録日】平成8年(1996)4月30日
【発行日】平成8年(1996)7月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−299998
【出願日】平成3年(1991)8月31日
【公開番号】特開平5−58657
【公開日】平成5年(1993)3月9日
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【参考文献】
【文献】特開平5−170466(JP,A)
【文献】特開平1−160834(JP,A)
【文献】特開昭61−286236(JP,A)
【文献】特開昭59−152233(JP,A)