説明

光学的測定方法および光学的測定装置

【課題】試料液中の被検出物質を光学的に測定する光学的測定方法および光学的測定装置において、低い負荷で、励起光の影響を排除してSN比の高い測定を可能とする。
【解決手段】試料中の被検物質Aの有無および/または量を測定する光学的測定装置において、偏光変調素子ドライバ22により被検物質Aの量に対応した値を示すシグナル成分と励起光Leの迷光に起因するノイズ成分の両方が検出対象となる低周波数で励起光Leを周波数変調してセンサ部に照射するとともに、周波数解析部24で低周波数に同期して光を計測して低周波数計測信号を取得し、偏光変調素子ドライバ22によりノイズ成分のみが検出対象となる高周波数で励起光Leを周波数変調してセンサ部に照射するとともに、周波数解析部24で高周波数に同期して光を計測して高周波数計測信号を取得し、演算部25により低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の被検出物質を光学的に測定する光学的測定方法および光学的測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
上記蛍光法において、試料を流しながら特定の被検出物質のみを効率よく検出できる等の理由から、以下に示す2つの方法により被検出物質をセンサ部表面に固定し、その後蛍光検出を行う手法が一般的である。このような手法の1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原を特異的に結合させ、次いで、蛍光標識が付与された、抗原と特異的に結合する2次抗体を、さらに上記抗原に結合させることにより、1次抗体―抗原―2次抗体という結合状態を形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂サンドイッチ法である。また、もう1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原と蛍光標識が付与された2次抗体(前述の2次抗体と異なり、1次抗体と特異的に結合する)とを、競合的に1次抗体と結合させ、競合的に結合した2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂競合法である。
【0004】
また、蛍光検出においてSN比を向上できる等の理由から、上記のような方法によって間接的にセンサ部に固定された蛍光標識を、エバネッセント光により励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、励起光をセンサ部裏面から入射し、センサ部表面に染み出すエバネッセント光により蛍光標識を励起して、その蛍光標識から生じる蛍光を検出するものである。
【0005】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が提案されている。この表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、センサ部に金属層を設け、この金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてSN比を向上させるものである。
【0006】
以上のように、バイオ測定等における測定方法としては、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−221667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような光学的測定装置では、一般的にはフォトダイオードやCCD等の光検出素子を用いて、センサ部において発生した蛍光量を計測することにより、被検出物質の存在の確認を行っている。
【0009】
この場合、センサ部に励起光を入射させるプリズムやセンサチップの励起光導入部に光学的な歪があると、センサ部において発生した蛍光のみならず、この歪の部分で散乱した励起光までが光検出素子に入射してしまうようになり、正確な測定が行えなくなるおそれがある。また、プリズムや励起光導入部の各面において励起光が反射し、不要な反射光が光検出素子に入射してしまった場合にも、同様の問題を生じる。
【0010】
このような検出信号に対する励起光の影響を排除するため、特許文献1では、被検出物質に結合させる光標識結合物質の光標識として発光持続時間が長い燐光標識を用い、燐光標識を励起光で励起させた後に励起光の照射を停止し、励起光が照射されていない状態で燐光標識から生じる燐光を検出することにより、励起光の影響を排除することが提案されている。
【0011】
しかしながら、燐光等のように発光時間が長い光の光量を正確に測定するためには、発光持続時間に対して十分な時間分解能を有する光検出素子を用いて、発光持続時間中に複数回の測定を行い、測定結果を全て積分する必要があるため、測定時の負荷が大きくなるという問題がある。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、試料液中の被検出物質を光学的に測定する光学的測定方法および光学的測定装置において、低い負荷で、励起光の影響を排除してSN比の高い測定を可能とすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光学的測定方法は、センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、センサ部上に光電場を発生せしめ、光電場により光標識結合物質の光標識を励起し、この励起に起因して生じる光を計測することにより、被検出物質の量を測定する光学的測定方法において、励起光を、被検出物質の量に対応した値を示すシグナル成分と励起光の迷光に起因するノイズ成分の両方が同期した強度変化を示す低周波数で周波数変調してセンサ部に照射するとともに、励起に起因して生じる光から低周波数に同期する成分を抽出して低周波数計測信号を取得し、励起光を、ノイズ成分のみが同期した強度変化を示す高周波数で周波数変調してセンサ部に照射するとともに、励起に起因して生じる光から高周波数に同期する成分を抽出して高周波数計測信号を取得し、低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めることでシグナル成分のみの信号を取得することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の光学的測定方法において「励起光の迷光に起因するノイズ成分」とは、励起光の散乱光や反射光が検出されることにより生じる誤差成分を意味する。
また、励起光に対する「周波数変調」とは、一定の周波数で励起光の強度または偏光状態を変調させることを意味する。
【0015】
また、「低周波数」および「高周波数」とは、互いの周波数の相対的な高低の関係を意味しており、特定の周波数帯域を指すものではない。励起光を変調する周波数(周波数変調)が低周波数の場合にシグナル成分とノイズ成分の両方が検出対象となる理由、および高周波数の場合にノイズ成分のみが検出対象となる理由については、以下に説明する。
【0016】
ここで、本発明の光学的測定方法における処理について図5を用いて詳細に説明する。図5は励起光を一定の周波数で変調してセンサ部に照射するとともに、計測した光から励起光の変調周波数に同期して変動する光の強度を抽出した場合の結果を示すグラフである。なお、グラフの横軸は励起光の変調周波数、縦軸は励起光の変調周波数に同期して変動する光の強度の実効値を示している。
【0017】
通常、励起光の周波数変調の応答速度に比べると、シグナル成分である蛍光の応答速度は遅い。一方、ノイズ成分である励起光の散乱光や反射光は、励起光の照射によって発生するため、励起光の変調周波数と同期して応答する。シグナル成分、ノイズ成分の発光寿命を各々τs、τnと置くと、Debye型緩和の一般的な蛍光物質から得られる蛍光信号の周波数応答成分の実部は下記式のように得られる。ここで、ωは角周波数を表し、ω=2πfである。また、H、H、Hは周波数応答成分の実部のうち、シグナル成分、ノイズ成分、それらより速い緩和成分の各々の大きさを表す。なお、図5は、H=H/10、H=0の場合を例示している。
【数1】

【0018】
すなわち、ノイズ成分は発光寿命が短く緩和周波数が高いので、励起光を変調する周波数が高くなっても、励起光と同じ周波数により発光される。図5中の一点鎖線で示すように、励起光の変調周波数と同期する検出信号は、0.1〜1000kHzで信号強度がほぼ一定となる。緩和周波数とは緩和時間の逆数で定義されたものであり、発光寿命の逆数で表される。すなわち、シグナル成分の緩和周波数fsはfs=1/τs、ノイズ成分の緩和周波数fnはfn=1/τnと表される。ノイズ成分の蛍光寿命は短いので、緩和周波数は高くなる。
これに対し、シグナル成分は緩和周波数が低いので、図5中の実線で示すように、低周波数領域(図5を例に示した場合には大体1kHz以下の領域)だと励起光の変調周波数に追随して蛍光の強弱が起こるため、励起光の変調周波数と同期する検出信号として取得できるが、高周波領域(図5を例に示した場合には大体100kHz以上の領域)だと励起光の変調周波数に追随できないので蛍光の強弱が起こらず常に光った状態となるため、励起光の変調周波数と同期する検出信号としては取得することができない。
【0019】
センサ部の光量を測定する場合は、図5中の点線で示すように、シグナル成分にノイズ成分が重畳された状態で検出されるが、上記の通り高周波領域にはシグナル成分は含まれないため、シグナル成分とノイズ成分の両方が含まれる低周波数領域(例えば0.1kHz)と、ノイズ成分のみが含まれる高周波数領域(例えば1000kHz)の2点で測定を行い、両者の差分を求めることでシグナル成分のみの信号を取得することができる。
【0020】
この場合、シグナル成分である光標識の応答速度が遅い程、より低い周波数で励起光の変調周波数に追随できなくなるため、本発明の処理を行うにあたっては、シグナル成分とノイズ成分との分離が容易になる。従って、本発明の光学的測定方法においては、光標識として、燐光標識を用いることが好ましい。
【0021】
また、周波数変調を、励起光の強度を変調することにより行ってもよい。
【0022】
また、センサチップとして、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものを用い、励起光の照射により金属層にプラズモンを励起して、プラズモンによって増強した光電場を発生せしめるようにしてもよい。
【0023】
この場合、周波数変調を、励起光の偏光状態を変調することにより行ってもよい。
【0024】
さらに、この場合、励起光が誘電体プレートに入射してからセンサ部に到達するまでに励起光に生じる複屈折の位相差に関する位相差情報を取得し、この位相差情報に基づいて、励起光に前記位相差と逆の位相差が生じるように励起光の偏光状態を制御するようにしてもよい。また、センサ部における励起光の反射光を検出し、偏光状態の変調に同期して変調する反射光の強度に基づいて、反射光の強度の最大値に対する最小値の比が最小化するように偏光状態を制御するようにしてもよい。
【0025】
本発明の光学的測定装置は、上記光学的測定方法に用いられる光学的測定装置であって、センサチップを収容するための収容部と、収容部に収容されるセンサチップのセンサ部の位置に励起光を照射する励起光照射光学系と、励起光に対して周波数変調を施すための周波数変調手段と、励起に起因して生じる光を検出する光検出手段と、光検出手段によって検出された光に基づく信号から励起光を変調する周波数に同期する成分を抽出する周波数解析手段と、低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めることでシグナル成分のみの信号を取得する演算手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に光学的測定方法および光学的測定装置によれば、試料液中の被検出物質を光学的に測定する場合に、励起光を被検出物質の量に対応した値を示すシグナル成分と励起光の迷光に起因するノイズ成分の両方が同期した強度変化を示す低周波数で周波数変調してセンサ部に照射するとともに、励起に起因して生じる光から低周波数に同期する成分を抽出して低周波数計測信号を取得し、励起光をノイズ成分のみが同期した強度変化を示す高周波数で周波数変調してセンサ部に照射するとともに、励起に起因して生じる光から高周波数に同期する成分を抽出して高周波数計測信号を取得し、低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めることで、少ない測定回数と簡単な計算でシグナル成分のみの信号を取得するようにしたので、少ない負荷で、励起光の影響を排除してSN比の高い測定が可能となる。
【0027】
本発明の光学的測定方法において、光標識として、燐光標識を用いれば、上述の通りシグナル成分とノイズ成分との分離が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の光学的測定装置の第1の実施形態を示す概略断面図
【図2】本発明の光学的測定装置のセンサチップを示す概略斜視図
【図3】本発明の光学的測定装置のセンサチップを示す概略断面図
【図4】本発明の光学的測定方法を用いたイムノアッセイ測定の工程を示す概略断面図
【図5】励起光を周波数変調してセンサ部に照射するとともに、変調周波数に同期して蛍光強度を測定した場合の結果を示すグラフ
【図6】励起光を周波数変調する際に変調素子に印加する電圧のグラフ
【図7】本発明の光学的測定装置の第2の実施形態を示す概略断面図
【図8】本発明の光学的測定装置の第3の実施形態を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0030】
「光学的測定装置および光学的測定方法の第1の実施形態」
本実施形態の光学的測定装置1は、図1、図2、図3および図4に示すように、流路33を形成する流路基材30、流路33の上流側に乾燥配置された燐光標識結合物質BF、および流路33内の所定領域に形成された金属膜34aを含む検出部(センサ部)38を備えるセンサチップC1と、励起光Leを出射する光源10と、流路基材30と金属膜34aとの界面で励起光Leが全反射条件を満たすように、流路基材30を通して一方の側からこの界面に励起光Leを導光する導光部材14と、励起光Leの上記界面における偏光方向を周期的に変調せしめるように、励起光Leの偏光状態を制御する偏光変調素子11と、偏光方向の変調の周期の基となる電圧の周期クロックを生成するファンクションジェネレータ(FG)21と、このFG21に生成された電圧の周期クロックに応じて偏光変調素子11を駆動する偏光変調素子ドライバ22と、上記界面に関して他方の側に配置された、励起に起因して検出部38または検出部39から生じる信号光を検出する光検出器23と、偏光方向の変調の周期に同期した信号成分のみを検出する周波数解析部24と、周波数解析部24で得られた信号について演算を行う演算部25と、装置全体をコントロールする制御部20とを備えるものである。ここで、上記金属膜34aの表面には、試料中の被検物質Aと特異的に結合する物質B1(特異的結合物質)が固定されている。
【0031】
センサチップC1は、図2および図3に示すように、所定領域に金属膜34a・34bを有する上方が開放した流路33を備える流路基材(誘電体プレート)30と、この流路基材30上に流路33の上面を形成するように装着される蓋部材32とを備えている。ここで、図2は、本実施形態に係るチップC1の全体構成を示す概略斜視図であり、図3は、図2中チップC1の金属膜34aを通るz−x平面における概略断面図である。
【0032】
流路基材30は、被検物質Aを含む試料等を流すための流路33、励起光Leを流路基材30内部へ透過させるための透過面30b、およびこの透過面30bをキズや汚れから保護する保護部30aが形成されたものである。本実施形態では、流路基材(誘電体プレート)30がプリズムとしての機能も果たしている(つまり、流路基材(誘電体プレート)30全体がプリズムを兼ねており、プリズム部の明確な境界はない)。流路基材30の材料は、例えば透明樹脂やガラス等の透明材料から形成されたものである。流路基材30は、樹脂から形成されたものが望ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)、ポリスチレン、およびゼオネックス(登録商標)等の樹脂を用いることがより望ましい。
【0033】
流路33は、流路基材30上に形成されたコ文字型の溝に蓋をするように、蓋部材32が流路基材30に装着されることにより形成される。本明細書において、流路の幅および高さ(いずれも試料の進行方向と垂直な方向の長さ)は、特に限定されない。さらに、流路33の両端には液下用或いは廃液用の液溜めが形成されている。また、流路33の所定領域には、検出部(センサ部)38・39をそれぞれ構成する金属膜34a・34bが形成されている。本実施形態では、測定用として金属膜34aを、リファレンス用として金属膜34bを設けている。ただし、検出部は、測定用の検出部38が1つあればよく、上記のようなリファレンス用の検出部39は必ずしも必要ではない。金属膜34a・34bの材料としては、特に制限されるものではなく、例えばプラズモンを効率よく誘起する観点から、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。金属膜34a・34bの厚みは、金属膜34a・34bの材料と、励起光Leの波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが望ましい。例えば、励起光Leとして780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜34a・34bとしてAu膜を用いる場合、金属膜34a・34bの厚みは50nm±5nmが好適である。
【0034】
蓋部材32は、流路基材30に装着することにより流路33の上面を形成するためのものである。また、蓋部材32は、液下用の液溜めに接続する試料等を流下するための注入口35a、および廃液用の液溜めに接続する空気等を抜くための空気孔35bを有している。蓋部材32の材料としては、前述した流路基材30と同様の材料を用いることができる。蓋部材32は、上記金属膜が形成されたあとに、超音波融着等により装着される。
【0035】
光源10は、例えばレーザ光源等でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。また、光源10は、前述のように、センサチップC1の流路基材30と金属膜34aとの界面で、励起光Leが全反射すると共に金属膜34aで表面プラズモン共鳴する共鳴角で入射するように配置されている。なお、励起光Leは、一般的には表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射させる。
【0036】
導光部材14は、流路基材30と金属膜34aとの界面で励起光Leが全反射条件を満たすように、励起光Leをこの界面に導光するものであれば特に制限されるものではなく、レンズやミラー等を使用することができる。
【0037】
偏光変調素子11、ファンクションジェネレータ(FG)21、および偏光変調素子ドライバ22は、これら全体で本発明における周波数変調手段として機能している。この周波数変調手段によって、流路基材30と金属膜34aとの界面における励起光Leの偏光方向がFG21から出力される信号と同一の周期で変更される。本実施形態の偏光変調素子11は、電圧制御によって励起光Leの偏光状態を制御するための素子であり、具体的には、図6に示すように、第1の電圧が入力された場合は励起光Leの偏光方向をp偏光とし、第2の電圧が入力された場合は励起光Leの偏光方向をs偏光とする素子である。このようなものとして電気光学効果を用いたポッケルスセルが挙げられる。しかし、偏光変調素子11は、これに限定されず、λ/2波長板やλ/4波長板、偏光版、バビネソレイユ板、および特開2006−330105に示されているような近接場を利用した偏光変調素子等でもよい。偏光方向の変調波形(より具体的には、p偏光成分(もしくはs偏光成分)の変調波形)は、図6に示すように第1の電圧と第2の電圧とが切り替わる矩形波状であってもよいし正弦波状であってもよい。例えば、ポッケルスセルを矩形波状の電圧で制御する場合には前者となり、波長板を回転させる場合には後者となる。FG21は、制御部20からトリガーを受信し、制御部20に指定された波形に従って、偏光方向の変調波形の基となる電圧の周期クロック(電圧の変調波形)を生成して偏光変調素子11に出力するものであり、特に限定されるものではなく、他の波形発生器等でもよい。また、FG21は、偏光変調素子に出力する電圧の周期クロックと同一の周期を有する参照信号を周波数解析部24へ出力する。FG21により生成される電圧の変調波形は、矩形波状、正弦波状等適宜設定することができる。偏光変調素子ドライバ22は、FG21に接続されており、FG21が発する信号の波形に従って偏光変調素子11を駆動するものである。ただし、偏光方向の変調は必ずしも周期的である必要はない。
【0038】
光検出器23は、試料中に含まれる燐光標識Fが励起されて発する燐光Lfを定量的に検出するものであればよく、検出条件に応じて適宜選択することができ、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c−MOS等を用いることができる。また、光検出器23は、励起光の迷光として励起に起因して生じる散乱光や反射光(図示せず)も検出する。励起光の散乱光や反射光は、燐光Lfと混在して検出されるためノイズ成分となる。
【0039】
周波数解析部24は、FG21から出力される参照信号を受信し、FG21から偏光変調素子11に出力される電圧の周期クロックの周期に同期する信号成分、すなわち電圧の周期クロックと同一の周期で変動する信号成分のみを検出するものであり、例えば、ロックインアンプ等を用いることができる。
【0040】
演算部25は、後述の通り、周波数解析部24で得られた低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めるものである。
【0041】
制御部20は、本装置上の各構成の動作内容を制御すると共に各動作のタイミング制御を行っている。また、この制御部20によって、FG21の波形発生と周波数解析部24の信号受信のタイミングを制御することにより、制御部20は、FG21と周波数解析部24との同期をとる同期制御手段とすることもできる。
【0042】
一方、本実施形態の光学的測定方法は、上記測定装置1を用い、被検物質Aを含有する試料をセンサチップC1に滴下し、試料を乾燥配置された燐光標識結合物質BFと接触せしめながら検出部38まで流下せしめ、流路基材30と金属膜34aとの界面で励起光Leが全反射条件を満たすように、流路基材30を通して一方の側からこの界面に励起光Leを導光せしめ、被検物質Aの量に対応した値を示すシグナル成分と励起光Leの迷光に起因するノイズ成分の両方が検出対象となる低周波数で励起光Leの上記界面における偏光方向を周期的に変調せしめて励起光Leを検出部38に照射するとともに、計測した光からこの低周波数に同期する成分を抽出して低周波数計測信号を取得し、ノイズ成分のみが検出対象となる高周波数で励起光Leの上記界面における偏光方向を周期的に変調せしめて励起光Leを検出部38に照射するとともに、計測した光からこの高周波数に同期する成分を抽出して高周波数計測信号を取得し、低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めることで、被検物質Aの存在および/または量を測定することを特徴とするものである。
【0043】
以下、例えば、被検物質として抗原Aを含む試料Soから、抗原Aを検出する本実施形態における蛍光法について詳細に説明する。本実施形態の蛍光法は、後述するサンドイッチ法によるアッセイを行うことによって、1次抗体B1、抗原Aおよび2次抗体B2を介して金属膜34a上に燐光標識Fを固定し、次に光源10より発せられる励起光LeをセンサチップC1の流路基材30と金属膜34aとの界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射して、エバネッセント波を励起し、このエバネッセント波と金属膜34a中の自由電子とを共鳴させることにより金属膜34a中に表面プラズモンを発生させ、この表面プラズモンによる増強電場Ewで燐光標識Fを励起して燐光Lfを生じせしめ、この燐光Lfを光検出器23で検出して、その燐光量を周波数解析部24で処理するものである。
【0044】
ここで、以上の例では、燐光検出によって実際に存在が確認されるのは燐光標識Fであるが、この燐光標識Fは抗原Aがなければ金属膜34a上に固定されないものと考えて、この燐光標識Fの存在を確認することにより、間接的に抗原Aの存在を確認している。
【0045】
1次抗体B1は、本実施形態における特異的結合物質であり、特に制限なく、検出条件(特に被検物質)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原がCRP抗原(分子量11万 Da)の場合、この抗原と特異的に結合するモノクロナール抗体(2次抗体B2と少なくともエピトープが異なる)等を用いることができ、既存の技術を用いて金属膜34a上に固定することができる。
【0046】
燐光標識結合物質BFは、燐光標識Fおよびこれに修飾化された2次抗体B2からなる。燐光標識Fは、励起光Leが金属膜34aで全反射して発生する表面プラズモン増強電場Ewによって励起されて所定波長の燐光Lfを発するものであり、特に制限なく、測定条件(被検物質や励起光の波長)に応じて適宜選択することができる。例えば、エオシンやオーラミンの他にも、希土類蛍光錯体や遷移金属蛍光錯体等を用いることができる。
【0047】
増強電場Ewは、金属膜34a中に発生する表面プラズモンによって形成される電場であって、金属膜34a上の局所的な領域に発生する、通常のエバネッセント波よりも増強された電場である。この増強電場Ewによって、標識から発せられる燐光等の信号の強度を増幅することができる。表面プラズモンは、エバネッセント波と金属膜34a中の自由電子とを共鳴させることにより金属膜34a中に発生せしめられる。
【0048】
燐光標識Fを金属膜34aに固定するためのサンドイッチ法によるアッセイは、例えば以下に示す手順により行われる。血液(全血)中に被検物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合について図4を参照して説明する。また、以下の手順において、標識2次抗体BF(2次抗体B2と燐光標識Fとの燐光標識結合物質)が流路33の検出部上流側に乾燥状態で配置されたセンサチップC1を用いている。
step1:注入口35aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図4において血液Soは網掛け領域で示している。
step2:血液Soはメンブレンフィルタ36により濾過され、赤血球、白血球等の大きな分子が残渣となる。引き続き、メンブレンフィルタ36で血球分離された血液S(血漿)が毛細管現象で流路33に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔にポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図4において血漿Sは斜線領域で示している。
step3:流路33に染み出した血漿Sと、流路33の検出部上流側に乾燥状態で配置された標識2次抗体BFとが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識2次抗体BFと結合する。
step4:血漿Sは流路33に沿って空気孔35b側へと徐々に流れ、標識2次抗体BFと結合した抗原Aが、測定用の検出部38上に固定されている1次抗体B1と結合し、抗原Aが1次抗体B1と標識2次抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。
step5:抗原Aと結合しなかった標識2次抗体BFの一部は、リファレンス用の検出部39上に固定されている抗体であって、上記2次抗体B2と特異的結合性のある1次抗体B0と結合する。さらに、1次抗体B0と結合しなかった標識2次抗体BFが検出部上に残っている場合があっても、後続の血漿が洗浄の役割を担い、検出部上に浮遊している標識2次抗体BFを洗い流す。
【0049】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体および2次抗体と結合するまでのstep1からStep5の後、前述したように上記の装置1において、測定用の検出部38からの信号光を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を高感度に検出することができる。その後、リファレンス用の検出部39からの信号光を検出できるようにセンサチップC1を移動させ、同様に、リファレンス用の検出部39からの検出信号を検出する。標識2次抗体BFと結合する1次抗体B0を固定しているリファレンス用の検出部39からの信号光は、標識2次抗体BFの流下した量、活性等の反応条件を反映した信号光であると考えられる。したがって、この信号光をリファレンスとして、測定用の検出部38からの信号光を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、リファレンス用の検出部39に既知量の標識物質(蛍光標識、金属微粒子等)をあらかじめ固定しておき、リファレンス用の検出部39からの信号光をリファレンスとして測定用の検出部38からの信号光を補正してもよい。
【0050】
以下、本実施形態の光学的測定装置および方法の作用を詳細に説明する。
本実施形態においては、シグナル成分とノイズ成分の両方が検出対象となる低周波数として0.1kHz、ノイズ成分のみが検出対象となる高周波数として1000kHzの変調周波数で偏光変調素子11を制御した場合について説明する。なお、これらの周波数は上記に限るものではなく、使用する燐光標識の特性を考慮して、シグナル成分とノイズ成分の分離が可能な範囲で、適切なものを選択すればよい。
【0051】
まず、偏光変調素子11によって0.1kHzの変調周波数で偏光状態が制御された励起光Leは、流路基材30を透過し、流路基材30と金属膜34aとの界面に照射される。このとき、偏光方向の変調の周期の中で、上記界面における励起光Leの偏光状態がp偏光になったとき、励起光Leは表面プラズモンとカップリングして、金属膜34a上に増強電場Ewが発生する。一方、上記界面における励起光Leの偏光状態がs偏光になったとき、励起光Leは表面プラズモンとカップリングしないので、増強電場は発生しない。そして、表面プラズモンの増強電場Ewによって励起された、検出対象信号成分である燐光標識Fからの燐光Lfは光検出器23によって検出される。燐光標識Fの発光時間は、変調周波数が0.1kHzの場合に励起光Leがs偏光となる1期間より短い。そのため、燐光標識Fは、励起光Leが再度p偏光となって励起される前に発光が終わり、励起光Leが再度p偏光となった時に再び発光する。つまり、燐光Lfは励起光Leの周波数と同じ周波数0.1kHzで変動する。また、表面プラズモン増強電場Ew内に励起光を散乱する散乱体が存在した場合、その散乱体による励起光Leの迷光等のノイズ成分も、表面プラズモン増強電場Ewが発生した時に大きく、表面プラズモン増強電場Ewが無い時は小さい。つまり、表面プラズモン増強電場Ew内に存在する散乱体による励起光Leの迷光は、励起光Leと同じ周波数0.1kHzで変動して光検出器23によって検出される。また、励起に起因して発生する自家蛍光も表面プラズモン増強電場Ewが発生している時のみ大きいため、励起光Leと同じ周波数0.1kHzで変動する。光検出器23によって検出された光量に基づいて光検出器23から周波数解析部24へ信号が送信され、送信された信号から周波数解析部24によって周波数0.1kHzに同期する成分が検出される。このとき検出された信号(低周波数計測信号)には、被検物質Aの量に対応した値を示すシグナル成分と、表面プラズモン増強電場Ew内に存在する散乱体による励起光Leの迷光や自家蛍光等のノイズ成分の両方が含まれる。
【0052】
次に、偏光変調素子11によって1000kHzの変調周波数で偏光状態が制御された励起光Leは、流路基材30を透過し、流路基材30と金属膜34aとの界面に照射される。上記と同様に、表面プラズモンの増強電場Ewによって励起された、検出対象信号成分である燐光標識Fからの燐光Lfは光検出器23によって検出される。燐光標識Fの発光時間は、変調周波数が1000kHzの場合に励起光Leがs偏光となる1期間より長い。そのため、燐光標識Fは、発光時間が終了する前に再度励起され、常に光った状態となる。従って、燐光Lfは周波数1000kHzで変動しない。一方、表面プラズモン増強電場Ew内に存在する散乱体による励起光Leの迷光等のノイズ成分は、励起光Leと同じ周波数1000kHzで変動して光検出器23によって検出される。光検出器23によって検出された光量に基づいて光検出器23から周波数解析部24へ信号が送信され、送信された信号から周波数解析部24によって周波数1000kHzに同期する成分が検出される。燐光Lfは周波数1000kHzに同期して変動する信号ではないため、このとき検出された信号(高周波数計測信号)には、表面プラズモン増強電場Ew内に存在する散乱体による励起光Leの迷光や自家蛍光等のノイズ成分のみが含まれる。
【0053】
そして演算部25によって、低周波数計測信号と高周波数計測信号との差分を求めることで、被検物質Aの存在および/または量が求められる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る光学的測定装置は、特に周波数変調手段、周波数解析部および演算部を備えることにより、少ない測定回数と簡単な計算で、表面プラズモン増強電場Ew内に存在する散乱体による励起光Leの迷光や自家蛍光等の影響を排除してSN比の高い測定が可能となる。
【0055】
(第1の実施形態の設計変更)
上記実施形態においては、抗原Aの標識として燐光標識物質を用いたが、標識としてはその他の光応答性標識(例えば、蛍光等の標識)を用いてもよい。
【0056】
偏光変調素子の前後に、λ/2波長板、λ/4波長板、偏光版、バビネソレイユ板等の偏光状態を調整するための素子を加えてもよい。
【0057】
金属膜に照射される測定光がさまざまな角度成分を含むように、測定光に集光レンズを通過させることが、金属膜の被検物質の吸着量が変動しても表面プラズモンを励起できるために好ましい。しかし、集光レンズがあることは本発明の本質的な部分ではないため、必ずしも必要ではない。また、必要に応じて複数の集光レンズを用いて、測定光の状態を調整してもよい。
【0058】
上記実施形態においては、免疫反応を利用したサンドイッチ法を例に説明したが、これに限られず、アビジン−ビオチン反応やDNA反応等を利用したもの、または競合法等を利用したものでも本発明を適用することが可能である。
【0059】
上記実施形態においては、本発明を表面プラズモン増強蛍光法に応用した例を示したが、エバネッセント蛍光法に応用することも可能である。エバネッセント蛍光法では、図1に示す装置の流路基材30から金属膜34aを外せばよく、またこの場合には、励起光Leは偏光変調によっても測定することができるが、強度変調させることが好ましい。励起光Leを強度変調する場合は、励起光のオンオフを周期的に行うことがより好ましい。また、表面プラズモン増強蛍光法においても励起光Leを強度変調させてもよい。励起光Leを強度変調すると、表面プラズモン増強電場Ew外に存在する散乱体による励起光Leの散乱光によるノイズ成分も、励起光Leを強度変調する周期と同期して変動するため、同様の方法により除去することができる。
励起光Leの強度変調の方法については、励起光Leの強度をファンクションジェネレータと同期させて変調してもよいし、励起光Leを一定の強度で照射するとともに、光チョッパで周期的に変調してもよい。光チョッパは、例えば、第1の電圧が入力された場合は励起光Leを透過させ、第2の電圧が入力された場合は励起光Leを遮断する。すなわち、光チョッパにより励起光Leを周期的にオンオフ制御することができる。励起光を周期的に強度変調することにより、蛍光標識は周期的に変動する強度で励起される。また、励起光の迷光も周期的に強度変調する。
【0060】
「光学的測定装置および光学的測定方法の第2の実施形態」
次に、第2の実施形態の光学的測定装置2および方法について説明する。本実施形態の光学的測定装置2および方法は、センサチップC2が、励起光Leがプリズム部に入射してから上記界面に到達するまでに励起光Leに生じる複屈折の位相差に関する位相差情報を表示する情報コード44を備える点、およびこの情報コードを読み取るための情報読取部43と、励起光Leの伝播中に生じる上記複屈折の位相差を制御する位相差制御部45とを備え、上記情報コードが有する位相差情報に基づいて、上記界面における励起光Leの偏光状態を調整する点で、第1の実施形態の光学的測定装置1および方法と異なる。したがって、その他の第1の実施形態の光学的測定装置1および方法と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0061】
本実施形態の光学的測定装置2は、図7に示すように、流路33を形成する流路基材30、流路33の上流側に乾燥配置された蛍光標識結合物質、流路33内の所定領域に形成された金属膜34aを含む検出部、および情報コード44を備えるセンサチップC2と、励起光Leを出射する光源10と、流路基材30と金属膜34aとの界面で励起光Leが全反射条件を満たすように、流路基材30を通して一方の側からこの界面に励起光Leを導光する導光部材14と、励起光Leの上記界面における偏光方向を周期的に変調せしめるように、励起光Leの偏光状態を制御する偏光変調素子11と、偏光方向の変調の周期の基となる電圧の周期クロックを生成するFG21と、このFG21に生成された電圧の周期クロックに応じて偏光変調素子11を駆動する偏光変調素子ドライバ22と、上記界面に関して他方の側に配置された、検出部から生じる信号光を検出する光検出器23と、偏光方向の変調の周期に同期した信号成分のみを検出する周波数解析部24と、周波数解析部24で得られた信号について演算を行う演算部25と、装置全体をコントロールする制御部20と、上記情報コードを読み取る情報読取部43と、情報処理部により読み取られた情報に基づいて、測定光の伝播中に生じる上記複屈折の位相差を制御する位相差制御部45とを備えるものである。
【0062】
情報コード44は、センサチップC2の出荷時に予め求められた流路基材30内の複屈折の位相差に関する位相差情報が、例えばバーコードや2次元コードの形式で記録されたものであり、そのセンサチップC2に添付されたものである。
【0063】
情報読取部43は、例えばCCDや公知のバーコードリーダであり、読み取った情報を位相差制御部45に送信するものである。
【0064】
位相差制御部45は、情報読取部43によって読み取られた情報を受信し、この情報に基づいて、励起光Leの流路基材30内の伝播中に生じる複屈折の位相差と逆の位相差を励起光Leに付与するようにFG21に指示を与えるものである。これにより、FG21は、上記逆の位相差を反映させた電圧の変調波形を生成する。
【0065】
本実施形態の光学的測定方法は、上記測定装置2を用い、上記第1の実施形態での処理に加えて、上記励起光Leの偏光方向を変調する際に、センサチップC2に添付された情報コード44から励起光Leの流路基材30内の伝播中に生じる複屈折の位相差に関する位相差情報を取得し、この位相差情報に基づいて、励起光Leの偏光状態を制御するものである。
【0066】
以下、本実施形態の光学的測定装置および方法の作用を詳細に説明する。
流路基材30(プリズム)内に複屈折が存在するとき、偏光変調素子11で流路基材30へ透過する前にp偏光およびs偏光を周期的に切り替える変調を行っても、流路基材30内を伝播する間に例えば楕円偏光となってしまい、増強電場が効率よく生じず、検出した信号のSN比が悪化してしまうという問題が生じる。実際に、安価なプラスチック材料を使ったプリズム(ゼオネックス(登録商標)、ポリスチレン、PMMA等)を用いた場合、この複屈折は無視することができない。そこで、実際にはこの流路基材30を伝播する間に生じる複屈折の位相差を加味して励起光Leの偏光状態を制御する必要がある。
【0067】
本実施形態では、出荷時に予め求められた位相差情報をセンサチップC2に添付しておき、さらにその情報を測定時に読み取り、この読み取った情報をFG21が生成する変調波形に反映させて偏光状態を調整することにより、上記複屈折の位相差を加味し、この位相差と逆の位相差を与えるように測定光の偏光状態を制御しているので、複屈折を有する材料からなるプリズム部を備えたセンサチップを用いても、SN比の高い測定を行うことが可能となる。
【0068】
(第2の実施形態の設計変更)
上記第2の実施形態では、情報コードに基づいて直接偏光変調素子を制御し、測定光の流路基材内の伝播中に生じる複屈折の位相差を調整したが、後述の第3の実施形態にあるように、波長板制御部によって波長板を回転制御するようにしてもよい。
【0069】
「光学的測定装置および光学的測定方法の第3の実施形態」
次に、第3の実施形態の光学的測定装置および方法について説明する。本実施形態の光学的測定装置3および方法は、偏光変調素子11と導光部材14の間に備えられた波長板12および13と、流路基材30と金属膜34aとの界面における励起光Leの反射光を検出する第2の光検出器40と、第2の周波数解析部41と、上記波長板を回転制御する波長板制御部42とを備え、上記反射光をモニタリングすることにより、上記界面における励起光Leの偏光状態を調整する点で、第1の実施形態の光学的測定装置1および方法と異なる。したがって、その他の第1の実施形態の光学的測定装置1および方法と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0070】
本実施形態の光学的測定装置3は、図8に示すように、流路33を形成する流路基材30、流路33の上流側に乾燥配置された蛍光標識結合物質、および流路33内の所定領域に形成された金属膜34aを含む検出部を備えるセンサチップC3と、励起光Leを出射する光源10と、流路基材30と金属膜34aとの界面で励起光Leが全反射条件を満たすように、流路基材30を通して一方の側からこの界面に励起光Leを導光する導光部材14と、励起光Leの上記界面における偏光方向を周期的に変調せしめるように、励起光Leの偏光状態を制御する偏光変調素子11と、偏光方向の変調の周期の基となる電圧の周期クロックを生成するFG21と、このFG21に生成された電圧の周期クロックに応じて偏光変調素子11を駆動する偏光変調素子ドライバ22と、上記界面に関して他方の側に配置された、検出部から生じる信号光を検出する光検出器23と、偏光方向の変調の周期に同期した信号成分のみを検出する周波数解析部24と、周波数解析部24で得られた信号について演算を行う演算部25と、装置全体をコントロールする制御部20と、上記偏光変調素子11と上記導光部材14の間に備えられた波長板12・13と、上記界面における励起光Leの反射光Lrを検出する第2の光検出器40と、第2の周波数解析部41と、上記波長板を回転制御する波長板制御部42とを備えるものである。
【0071】
センサチップC3は、第1の実施形態と同様の構成であるが、図7に示すように、上記界面における励起光Leの反射光Lrが適切に検出することが可能となるように、反射光Lrが流路基材30外へ透過するための透過面30dとこれをキズや汚れから保護するための保護部30cとをさらに備えるように形成されたものである。
【0072】
第2の光検出器40は、上記反射光Lrを検出するように配置された、検出した反射光Lrの信号を第2の周波数解析部41に送信するものであり、第1の実施形態と同様のものを使用することができる。
【0073】
波長板12・13、第2の周波数解析部41、および波長板制御部42は、周波数変調手段としてさらに設けられたものであり、これらによって、第2の光検出器40によって検出された反射光強度に基づいて、励起光Leの偏光状態の調整を行う機能を果たす。例えば波長板12・13において、波長板12がλ/2波長板であり、波長板13がλ/4波長板である。第2の周波数解析部41は、例えばロックインアンプ等であり、検出した反射信号光のうち測定光の偏光方向の変調に同期した反射信号成分を分離検出し、この信号成分の強度の最大値に対する最小値の比が最小化する(周期的に変調している間の、最大値と最小値の振幅の変化の差が最大となる)ように、波長板12・13を制御するよう波長板制御部42に指示を与えるものである。また、波長板制御部42は、第2の周波数解析部41の指示に従い波長板12・13を回転制御するものである。
【0074】
一方、本実施形態の光学的測定方法は、上記測定装置3を用い、上記第1の実施形態での処理に加えて、上記第1の実施形態での処理に加えて、上記信号光を検出する際に、上記界面における励起光Leの反射光Lrを含む反射信号光を検出し、この反射信号光のうち偏光方向の変調に同期した反射信号成分を分離検出し、この信号成分の強度の最大値に対する最小値の比が最小化するように、励起光Leの偏光状態を制御するものである。
【0075】
以下、本実施形態の光学的測定装置および方法の作用を詳細に説明する。
上述の通り、流路基材30を伝播する間に生じる複屈折の位相差を加味して励起光Leの偏光状態を制御する必要があるのは上述の通りである。
流路基材30と金属膜34aとの界面における励起光Leの反射光Lrを第2の光検出器40で検出した場合、反射光Lrの強度が、上記界面における励起光Leの偏光方向の変調に対応して変調することになる。これは、上記界面における励起光Leの偏光状態がp偏光になったとき、励起光Leは表面プラズモンとカップリングして、励起光Leのエネルギーが表面プラズモンに変換されて、反射光Lrが最小になり、一方上記界面における励起光Leの偏光状態がs偏光になったとき、励起光Leは表面プラズモンとカップリングしないので、反射光Lrが最大となることに起因する。
【0076】
そこで、本実施形態では、反射信号光のうち励起光Leの偏光方向の変調に同期した反射信号成分をモニタリングし、この信号成分の強度の最大値に対する最小値の比が最小化するように波長板12・13を調整することにより、上記複屈折の位相差を加味し、この位相差と逆の位相差を与えるように励起光Leの偏光状態を制御しているので、複屈折を有する材料からなるプリズム部を備えたセンサチップを用いても、SN比の高い測定を行うことが可能となる。
【0077】
(第3の実施形態の設計変更)
上記第3の実施形態では、波長板制御部によって波長板を回転制御し、測定光の流路基材内の伝播中に生じる複屈折の位相差を調整したが、上記第2の実施形態にあるように、波長板ではなく直接偏光変調素子を制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1、2、3 光学的測定装置
10 光源
11 偏光変調素子(周波数変調手段)
12、13 波長板
14 導光部材
20 制御部
21 ファンクションジェネレータ(FG)(周波数変調手段)
22 偏光変調素子ドライバ(周波数変調手段)
23 光検出器
24 周波数解析部
25 演算部
30 流路基材(誘電体プレート)
32 蓋部材
33 流路
34a・34b 金属膜
40 第2の光検出器
41 第2の周波数解析部
42 波長板制御部
43 情報読取部
44 情報コード
45 位相差制御部
A 被検物質
BF 燐光標識結合物質
C1、C2、C3 センサチップ
Ew 増強電場
Le 励起光
Lf 燐光
Lr 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサチップの誘電体プレートの一面に形成されたセンサ部上に、被検出物質を含む試料液を接触させることにより、該試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質を前記センサ部上に結合させ、
前記センサ部に全反射条件が得られる入射角度で励起光を照射することにより、該センサ部上に光電場を発生せしめ、
該光電場により前記光標識結合物質の光標識を励起し、該励起に起因して生じる光を計測することにより、前記被検出物質の量を測定する光学的測定方法において、
前記励起光を、前記被検出物質の量に対応した値を示すシグナル成分と前記励起光の迷光に起因するノイズ成分の両方が同期した強度変化を示す低周波数で周波数変調して前記センサ部に照射するとともに、前記励起に起因して生じる光から前記低周波数に同期する成分を抽出して低周波数計測信号を取得し、
前記励起光を、前記ノイズ成分のみが同期した強度変化を示す高周波数で周波数変調して前記センサ部に照射するとともに、前記励起に起因して生じる光から前記高周波数に同期する成分を抽出して高周波数計測信号を取得し、
前記低周波数計測信号と前記高周波数計測信号との差分を求めることで前記シグナル成分のみの信号を取得することを特徴とする光学的測定方法。
【請求項2】
前記光標識として、燐光標識を用いることを特徴とする請求項1記載の光学的測定方法。
【請求項3】
前記周波数変調を、前記励起光の強度を変調することにより行うことを特徴とする請求項1または2記載の光学的測定方法。
【請求項4】
前記センサチップとして、前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものを用い、
前記励起光の照射により前記金属層にプラズモンを励起して、該プラズモンによって増強した光電場を発生せしめることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光学的測定方法。
【請求項5】
前記周波数変調を、前記励起光の偏光状態を変調することにより行うことを特徴とする請求項4記載の光学的測定方法。
【請求項6】
前記励起光が前記誘電体プレートに入射してから前記センサ部に到達するまでに前記励起光に生じる複屈折の位相差に関する位相差情報を取得し、
該位相差情報に基づいて、前記励起光に前記位相差と逆の位相差が生じるように前記励起光の偏光状態を制御することを特徴とする請求項5記載の光学的測定方法。
【請求項7】
前記センサ部における前記励起光の反射光を検出し、
前記偏光状態の変調に同期して変調する前記反射光の強度に基づいて、該反射光の強度の最大値に対する最小値の比が最小化するように前記偏光状態を制御することを特徴とする請求項5または6記載の光学的測定方法。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の光学的測定方法に用いられる光学的測定装置であって、
前記センサチップを収容するための収容部と、
該収容部に収容される前記センサチップの前記センサ部の位置に前記励起光を照射する励起光照射光学系と、
前記励起光に対して周波数変調を施すための周波数変調手段と、
前記励起に起因して生じる光を検出する光検出手段と、
該光検出手段によって検出された光に基づく信号から前記励起光を変調する周波数に同期する成分を抽出する周波数解析手段と、
前記低周波数計測信号と前記高周波数計測信号との差分を求めることで前記シグナル成分のみの信号を取得する演算手段とを備えることを特徴とする光学的測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211811(P2012−211811A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77296(P2011−77296)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】