光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型
【課題】金型ないし光学素子の無断複製を円滑に抑制し得る光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型を提供する。
【解決手段】対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて微細起伏構造が形成され、微細起伏構造の形成領域の一部に微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する識別パターン領域が配されている。識別パターン領域を物理的に検証することにより、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品ないし金型の製造元を検証することができる。
【解決手段】対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて微細起伏構造が形成され、微細起伏構造の形成領域の一部に微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する識別パターン領域が配されている。識別パターン領域を物理的に検証することにより、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品ないし金型の製造元を検証することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびそれを成形するためのマスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の進展によりナノメートルオーダの加工が可能となっている。かかる加工技術を用いて微細な起伏構造を形成することにより、光学素子の特性を制御することができる。たとえば、光の入射面に微細起伏構造を形成することにより、入射面における光の反射率を低下させることができる。これにより、光の利用効率を向上させることができ、また、この光学素子を表示デバイスに組み込むと、表示画像の視認性を向上させることができる。
【0003】
図13は、微細起伏構造と屈折率の関係を示す図である。図示の如く、微細起伏構造を形成すると、光の入射媒質表面における有効屈折率が緩やかに変化し、あたかも2つの媒質間に屈折率の境界が存在しない状態となる。これにより光の入射面における反射率が抑制される。なお、この現象は、光の入射面内方向における微細起伏構造のピッチが使用対象の光(対象光)の波長よりも小さい場合に生じる。
【0004】
図14は、微細起伏構造における反射率特性を示す図である。同図には、光の入射面に誘電体多層膜を形成した場合と、何も形成されない単純な平面である場合の反射率特性が併せて示されている。
【0005】
図示の如く、光学素子に微細起伏構造を形成した場合には、誘電体多層膜を形成した場合に比べ、広い波長帯において、反射率を抑制することができる。なお、微細起伏構造はナノインプリント等によって形成できるため、誘電体多層膜に比べ、低コスト化を実現できるとの効果も奏される。
【特許文献1】特開2007−47589号公報
【特許文献2】特開2006−199542号公報
【特許文献3】特開2006−130841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細起伏構造の形成は、通常、転写用の金型を用いて行われる。この金型を生成するまでには、微細加工技術の適用等、種々の工程を踏む必要があり、かなりの労力とコストが費やされる。しかし、その一方で、一旦、金型が形成されると、その金型から微細起伏構造を転写することにより、比較的容易に金型の複製が生成され得る。さらに、金型のみならず、光学素子や樹脂形成品、あるいは、マスター原器等からも、転写技術を適用することにより金型を複製することができる。かかる複製が無断で行われると、金型生成者側のコストが無駄となり、他方で、無断複製者に不当な利益がもたらされる。
【0007】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、金型ないし光学素子の無断複製を円滑に抑制し得る光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み本発明は、以下の特徴を有する。
請求項1の発明は、光学素子に関するものである。この光学素子は、対象光が透過する面
内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備え、前記微細起伏構造の形成領域の一部に前記微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する識別パターン領域を有する。
【0009】
この発明によれば、識別パターン領域を物理的に検証することにより、当該光学素子ないしその生成に用いられた金型等の製造元を特定することができる。よって、無断複製によって当該光学素子ないし金型等が生成された場合には、その事実を円滑かつ確実に突き止めることができ、これにより、無断複製の抑制を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学素子において、前記識別パターン領域には前記微細起伏構造が存在しないか、前記識別パターン領域における前記微細起伏構造の高さが他の領域に比べて相違するか、または、前記識別パターン領域には前記微細起伏構造が存在しない領域と前記微細起伏構造の高さが他の領域に比べて相違する領域が混在していることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、識別パターン領域の物理的検証を、たとえば原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学素子において、前記ピッチ方向における前記識別パターン領域の幅は、前記対象光の波長帯以下であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、微細起伏構造の本来の光学特性に対する識別パターン領域の影響を抑制することができる。対象光の波長帯よりも大きい幅で微細起伏構造が欠落し、あるいは、その幅に含まれる微細起伏構造の高さが他の部分と相違すると、その幅の部分は、他の領域の微細起伏構造によって発揮されるべき本来の光学特性を適正に発揮できなくなる。したがって、請求項3の発明のように、識別パターン領域の幅を対象光の波長帯以下に設定すれば、本来の光学特性を劣化させることなく識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1または2に記載の光学素子において、前記ピッチ方向における前記識別パターン領域の幅は、100μm以下であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、視認性に対する識別パターン領域の影響を効果的に抑制することができる。一般に、人の目は数10μm程度の大きさまで物や図形を見分けることができると言われている。したがって、識別パターンの幅が人の目の認識限界以下であれば、識別パターンの部分の光学特性が他の領域の光学特性に対し相違しても、その相違が人の目によって見分けられることはない。上記の如く人の目の認識限界は数10μm程度であって、人によって若干のばらつきはあるが、識別パターンの幅が100μm以下であれば、通常、識別パターン部分は見分けられないか、見分けるのが相当困難なものとなる。したがって、請求項4の発明のように、識別パターン領域の幅を100μm以下に設定すれば、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制しつつ識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。なお、請求項4の発明は、光学素子が表示デバイス等の人の視認性に関連する部分に組み込まれる場合に有効なものである。
【0016】
請求項5、6および7の発明は、それぞれ、請求項1ないし4の何れか一項に記載の微細起伏構造の形成パターンを転写成形可能な状態で保持するマスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型である。これらの発明によれば、上記請求項1ないし4の発明と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記の如く本発明によれば、金型ないし光学素子の無断複製を円滑に抑制し得る光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型を提供することができる。
【0018】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明を実施する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に何ら制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。本実施の形態は、表示デバイスに組み込まれる平板状の光学素子(カバー部材)およびこれを生成するためのマスター原器および金型等に本発明を適用したものである。
【0020】
図1(a)に実施の形態に係るマスター原器の構成を示す。マスター原器には、拡大斜視図に示すように、一定ピッチで微細起伏構造が形成されている。微細起伏構造のピッチは、たとえば100nm程度とされる。また、微細起伏構造の高さは200nm程度とされる。
【0021】
このマスター原器から、樹脂成形用の金型が生成される(同図(b)参照)。そして、この金型を用いて、たとえばナノインプリントにより、光学素子が生成される(同図(c)参照)。なお、本実施の形態では、マスター原器から直接金型を生成せずに、一旦、樹脂マスターを生成し、この樹脂マスターから金型が生成される。
【0022】
図2は、電子ビームカッティングによりマスター原器を生成する場合の生成工程を示す図である。
【0023】
この生成工程では、まず、シリコン基板上にスピンコートによりレジストが塗布される(工程1)。ここで用いられるレジストは電子ビーム用のものである。その後、EB描画(電子ビームカッティング)にて、上記ピッチの微細起伏構造が描画される(工程2)。その後現像処理が行われ(工程3)、さらにRIE加工が行われる(工程4)。しかる後、酸素プラズマアッシングにより、残存するレジストが除去される(工程5)。これにより、シリコン基板上に微細起伏構造が形成され、マスター原器の生成が終了する。
【0024】
なお、レジストに対する微細起伏構造の描画は、EB(電子ビーム)に替えてレーザビームを用いて行うこともできる。また、2つの光を干渉させつつ露光することにより、レジストに微細起伏構造を描画することもできる(2光束干渉露光法)。
【0025】
図3は、2光束干渉露光法にて用いる光学系の構成例を示す図である。
【0026】
同図において、レーザ光源11から出射された光は、シャッター12、ミラー13、絞り14およびミラー15を介してビームエキスパンダ(BEXP)16に入射され、一定形状の平行光に変換される。しかる後、レーザ光は、λ/2板17によって、偏光ビームスプリッタ(PBS)18に対する偏光方向が調整される。これにより、レーザ光は、PBS18により2光束に分岐される。
【0027】
PBS18を透過したレーザ光(第1のレーザ光)は、λ/2板19を透過することにより、偏光方向が90度回転される。これにより、第1のレーザ光の偏光方向は、PBS18によって反射されたレーザ光(第2のレーザ光)の偏光方向に整合する。しかる後、第1のレーザ光は、絞り20を介して対物レンズ21に入射され、所定の開口数にて収束される。その後、第1のレーザ光は、ピンホール22を通過し、干渉面30上に照射され
る。
【0028】
PBSによって反射された第2のレーザ光は、ミラー23と絞り24を介して対物レンズ25に入射され、所定の開口数にて収束される。その後、第2のレーザ光は、ピンホール26を通過し、干渉面30上に照射される。
【0029】
干渉面30上には、第1および第2のレーザ光の干渉によりストライプ状の干渉縞が生じる。ここで、ストライプのピッチは、干渉面30に対する第1および第2のレーザ光の入射角度によって調整できる。
【0030】
レジストを塗布したシリコン基板を干渉面30に配置することにより、干渉縞に応じた露光を行うことができる。1回の露光で、レジストに1次元のストライプ構造が描画され、さらに、シリコン基板を面内方向に90度回転させて2回目の露光を行うことにより、レジストに2次元ピラミッド構造の描画が行われる。これにより、図2の場合と同様、レジストに微細起伏構造の描画が行われる。その後、図2の工程3、4、5を行うことにより、シリコン基板上に微細起伏構造が形成されたマスター原器が生成される。
【0031】
マスター原器上の微細起伏構造を電鋳で金型にする場合、一般には電鋳後に原器を溶かして取り去るなどして、微細起伏構造を破壊しないような方法がとられているが、本実施の形態では、マスター原器から直接金型を生成せずに、一旦、樹脂マスターを生成し、この樹脂マスターから金型を生成するようにしている。
【0032】
図4は、マスター原器から樹脂マスターを生成する際の工程を示す図である。
【0033】
この生成工程では、まず、微細起伏構造上にフッ素系の離型剤を塗布した後(工程2)、マスター原器を成形ジグに装着する(工程3)。その後、微細起伏構造上に液体状の紫外線硬化樹脂を滴下し、その上に、紫外線透過率の高い透明基板(光ディスク等で用いられているポリカーボネートから成る板)を載せて、透明基板をマスター原器に押し付ける(工程4)。これにより、紫外線硬化樹脂が微細起伏構造の起伏間に入り込む。この圧着工程を所定時間行った後、透明基板側から紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させる(工程5)。その後、硬化した紫外線硬化樹脂を透明基板とともにマスター原器から引き剥がす(工程6)。これにより、樹脂マスターが生成される。
【0034】
なお、生成された樹脂マスターは、原子間力顕微鏡を用いて微細起伏構造の形成状態が観察・評価される。この観察・評価により微細起伏構造の形成状態が適正であれば、生成された樹脂マスターは完成品とされる。
【0035】
このようにして生成された樹脂マスターを用いて金型が生成される。
【0036】
図5は、金型の生成工程を示す図である。この生成工程では、上記の如くして生成された樹脂マスターに離型剤を塗布し、さらに、樹脂マスターを電鋳ジグの形状に整合するよう切り出す(工程1)。ここで、樹脂マスターは、上記の如く紫外線硬化樹脂から構成されているため、このままでは離型剤を微細起伏構造上に塗布できない。よって、工程1では、微細起伏構造上にOH基を持つ誘電体をスパッタした後、離型剤が塗布される。
【0037】
次に、切り出した樹脂マスターを電鋳ジグに装着し(工程2)、さらに、微細起伏構造上にNi層をスパッタにより形成する(工程3)。その後、電鋳ジグに装着された樹脂マスターをメッキ液に浸し、Ni層上にさらにNi層を析出させる(工程4)。この処理を、Ni層が所定の厚みになるまで行う。その後、電鋳ジグに装着された樹脂マスターをメッキ液から引き上げ、形成されたNi層を樹脂成形品から引き剥がす前に、Ni層の裏面
を研磨する(工程5)。しかる後、Ni層を樹脂成形品から引き剥がし(工程6)、これにより、金型が生成される。
【0038】
生成された金型は、原子間力顕微鏡を用いて微細起伏構造の形成状態が観察・評価される。この観察・評価により微細起伏構造の形成状態が適正であれば、生成された樹脂マスターは完成品とされる。
【0039】
なお、図5の生成工程では、Ni層がスパッタと電鋳の2つの工程によって生成される。通常、スパッタによるNi層は、電鋳工程において電極の役割を果たすものである。この点からすると、スパッタによるNi層は、微細起伏構造の表面に膜(膜厚:数100Å程度)として形成されていれば良い。しかし、本実施の形態のように微細起伏構造がナノメートルオーダのピッチで形成される場合には、電流密度をかなり低くした状態で電鋳処理を行わなければ、Ni層を微細起伏構造の起伏間に充填することができない。このため、スパッタによるNi層を微細起伏構造の表面に膜として形成する場合には、電鋳処理に要する時間がかなり長期となり、金型の生成効率が顕著に低下する。
【0040】
この問題は、微細起伏構造の表面のみならず、起伏間をある程度埋めるまで、スパッタによりNi層を形成することにより解消される。
【0041】
図6は、スパッタによるNi層の形成工程から電鋳によるNi層の形成工程への流れを示す図である。同図(a-1)(a-2)(a-3)は、微細起伏構造の表面のみにスパッタによ
りNi層を形成する場合の流れを示している。また、同図(b-1)(b-2)(b-3)は、微
細起伏構造の表面の他、起伏間を埋め尽くすまで、スパッタによりNi層を形成する場合の流れを示し、同図(c-1)(c-2)(c-3)は、微細起伏構造の表面の他、起伏間をある
程度の深さまで、スパッタによりNi層を形成する場合の流れを示している。
【0042】
同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程では、上述の如く、電流密度をかなり低くした状態
で電鋳処理を行わなければ、Ni層を微細起伏構造の起伏間に充填できす、このため、電鋳処理に要する時間がかなり長期となる。
【0043】
これに対し、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程では、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、スパッタによる処理工程の時間は長期化するが、電流密度を大きくした状態で電鋳処理が行えるため、電鋳処理を高速で行うことができ、Ni層形成に要するトータルの所要時間は、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程よりも顕著に短くなる。
【0044】
また、同図(c-1)(c-2)(c-3)の工程では、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程に比べれば電鋳処理に要する時間は長くなるものの、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比
べると、電鋳処理に要する時間がかなり短くなり、Ni層形成に要するトータルの所要時間は、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程よりも短くなる。
【0045】
なお、同図(b-1)(b-2)(b-3)および(c-1)(c-2)(c-3)の工程では、スパッタによるNi層の厚みが増大するため電鋳処理時におけるNi層の電気抵抗が低下し、また、スパッタによるNi層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、電鋳処理を安定して行えるとの効果も奏される。また、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、Ni層に対する微細起伏構造の転写性を向上させることもできる。
【0046】
なお、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程では、起伏間を埋め尽くすまで、スパッタに
よりNi層を形成することとしたが、微細起伏構造を埋め尽くした後もさらに所定の厚みだけスパッタによりNi層を形成するようにして良い。また、同図(c-1)(c-2)(c-3
)の工程では、起伏間をある程度の深さまで、スパッタによりNi層を形成するとしたが、どの程度の深さまでスパッタによりNi層を形成するかは、微細起伏構造の面積等を考慮して適宜設定すれば良い。
【0047】
たとえば、微細起伏構造の面積が大きくなるほど起伏構造領域の中心にNi層を析出させ難くなるため、スパッタによるNi層の深さを大きくし、あるいは、微細起伏構造埋め尽くすかそれ以上までスパッタによりNi層を形成するようにする。逆に、微細起伏構造の面積が小さければ、起伏構造領域の中心にも比較的容易にNi層を析出させ得るため、スパッタによるNi層の深さを小さくし、あるいは、微細起伏構造の表面のみにスパッタによりNi層を形成するようにする。
【0048】
以上のようにして生成された金型を用いて、光学素子が樹脂成形される。ここで、光学素子は、たとえば、ナノインプリントによって生成される。この他、上記図4に示した2P成形や、キャスト成形、熱樹脂成形および熱プレス成形等により光学素子を生成することもできる。なお、上記実施の形態では、樹脂マスターから金型を生成したが、マスター原器から直接金型を生成することも勿論可能である。但し、この場合は、上記の如く、金型生成時にマスター原器上の微細起伏構造が破損する惧れがある。
【実施例1】
【0049】
本実施例は、マスター原器生成時に、識別パターン領域を形成するものである。
【0050】
図7(a)に示す如く、本実施例では、視聴に影響を与え難い周辺領域に識別パターン領域が設定される。識別パターン領域は、他の領域に比べ、微細起伏構造の形成状態が相違している。識別パターン領域は、上記図4の生成工程によって、他の領域とともに、マスター原器から樹脂マスターに転写される(同図(b)参照)。さらに、識別パターン領域は、上記図5の生成工程によって、他の領域とともに、樹脂マスターから金型に転写され(同図(c)参照)、光学素子成形時には、金型から光学素子に転写される(同図(d)参照)。
【0051】
図8は、識別パターン領域の形成例を示す図である。同図は、マスター原器を微細起伏構造の形成面に垂直な方向から見たときの図である。同図中、灰色の丸は、微細起伏構造の一つの起伏(構造体)を模式的に示すものである。
【0052】
同図(a)の構成例では、2つの構造体を幅として線図状に構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。また、同図(b)の構成例では、所定個数の構造体を幅として縦方向に一定個数だけ構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。ここで、識別パターン領域の形成は、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時の描画パターンを制御することにより行われる。
【0053】
この構成例では、識別パターン領域の幅が人の目の認識限界以下となるよう設定されている。上記の如く、人の目は、数10μm程度の大きさまで物や図形を見分けることができると言われている。したがって、識別パターンの幅が人の目の認識限界以下であれば、識別パターン領域の光学特性が他の領域の光学特性に対し相違しても、その相違が人の目によって見分けられることはない。人の目の認識限界は人によって若干のばらつきはあるが、識別パターン領域の幅が100μm以下であれば、通常、識別パターン領域は見分けられないか、見分けるのが相当困難なものとなる。より好ましくは、識別パターン領域の幅が10μm以下であれば、識別パターン領域が形成されても、ユーザはこれを見分けることができない。
【0054】
図8(b)に示す如く、識別パターン領域の幅は縦、横にそれぞれ存在するが、この場合、小さい方の幅D1が人の目の認識限界以下であればよい。よって、同図(b)の例では、少なくとも幅D1が100μm以下に設定され、より好ましくは、D1とD2の両方が、100μm以下に設定される。より徹底する場合には、幅D1または幅D1とD2の両方が10μm以下に設定される。
【0055】
このように識別パターン領域の幅を設定することにより、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制しつつ識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。 図9は、識別パターン領域の他の形成例を示す図である。上記実施の形態では、光学素子として、表示デバイスに組み込まれる平板状のカバー部材が想定されていたが、図9の形成例は、例えば、光ピックアップ装置の光学系を構成する光学素子等を上記実施の形態に示す工程により形成する場合に用いて好適なものである。
【0056】
図9の形成例では、図8の場合に比べ、識別パターン領域の幅が小さくなっている。すなわち、この構成例では、1つの構造体をドット状に消失させることにより識別パターン領域が形成されている。図8の場合と同様、識別パターン領域の形成は、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時の描画パターンを制御することにより行われる。
【0057】
上述の如く、対象光の波長帯以下の幅で微細起伏構造が欠落し、あるいは、その幅に含まれる微細起伏構造の高さが他の部分と相違したとしても、その幅の部分の光学特性が、他の微細起伏構造によって発揮されるべき本来の光学特性から大きく変化することはない。したがって、上記実施の形態に示す工程により形成される光学素子が、たとえば、光ピックアップ装置に組み込まれる場合には、当該光ピックアップ装置における使用レーザ波長以下の幅で識別パターン領域を形成すると、他の微細起伏構造の本来の光学特性に対する識別パターン領域の影響を抑制することができる。たとえば、使用レーザ波長が450nm程度であれば、識別パターン領域の幅をそれよりも小さく設定することにより、当該光学素子に形成された微細起伏構造の本来の光学特性(たとえば無反射特性)が適正に発揮される。
【0058】
図8(b)に示す如く、識別パターン領域の幅は縦、横にそれぞれ存在するが、この場合、両方の幅D1、D2がともに使用レーザ波長以下に設定される。たとえば、微細起伏構造のピッチが100nm程度に設定される場合、図9に示す如く1つの構造体をドット状に消失させて識別パターン領域を形成すると、識別パターン領域の幅D1、D2は100nm程度となり、使用レーザ波長(450nm)の1/4程度となる。したがって、図8の如く識別パターン領域を形成した場合には、微細起伏構造の本来の光学特性を劣化させることなく識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。
【0059】
なお、図9の形成例では、1つの構造体をドット状に消失させるようにしたが、両方の幅D1、D2がともに使用レーザ波長帯以下となるのであれば、連続する複数の構造体を消失させて識別パターン領域を形成しても、図9の場合と同様の効果が奏される。
【0060】
図10は、識別パターン領域のさらに他の形成例を示す図である。上記図8の形成例では、微細起伏構造の構造体を消失させることにより識別パターン領域を形成したが、図10の形成例では、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に比べ変化させることにより識別パターン領域が形成される。ここで、構造体の高さは、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時のドーズ量を制御することにより調整される。レジストには、照射されるドーズ量が多いほど深い溝が描画され、ドーズ量が少ないほど浅い溝が描画される。したがって、ドーズ量の照射密度ないし照射時間を識別パターン領域と他の領域とで変化させることにより、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に対し相違させることができる。
【0061】
図10の形成例においても、上記図8の形成例と同様の効果が奏される。なお、図9の形成例においても、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に比べ変化させることにより識別パターン領域を形成することができる。この場合も、上記図9の形成例と同様の効果が奏される。
【0062】
本実施例において、識別パターン領域によって描画されるパターンは、マスター原器の製造元に固有のパターンとされる。したがって、識別パターン領域に対応する領域を物理的に観察し、その際取得されるパターンを判定することにより、そのマスター原器の製造元を特定することができる。同様に、樹脂マスター、金型、光学素子の識別パターン領域に対応する領域を物理的に観察することにより、その樹脂マスター、金型、光学素子がどの製造元のマスター原器から生成されたものであるかを特定することができる。
【0063】
識別パターン領域の観察は、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。原子間力顕微鏡によって識別パターン領域に対応する領域を走査すると、微細起伏構造の起伏に応じた振幅の信号が取得される。識別パターン領域に対応する全ての領域を走査したときに取得される信号を演算処理することにより、識別パターン領域に保持されたパターンが取得される。このパターンをマスター原器から取得すれば、マスター原器の製造元を特定することができ、また、樹脂マスター、金型あるいは光学素子から取得すれば、その樹脂マスター、金型、光学素子がどの製造元のマスター原器から生成されたものであるかを特定することができる。
【実施例2】
【0064】
本実施例は、マスター原器生成後に、識別パターン領域を形成するものである。
【0065】
すなわち、図11(a)に示す如く、本実施例では、マスター原器には識別パターン領域は生成されていない。識別パターン領域は、たとえば樹脂マスター生成時に生成される(同図(b)参照)。
【0066】
上記実施例1と同様、識別パターン領域は、他の領域に比べ、微細起伏構造の形成状態が相違している。識別パターン領域は、上記図5の生成工程によって、他の領域とともに、樹脂マスターから金型に転写され(同図(c)参照)、さらに、光学素子成形時に、金型から光学素子に転写される(同図(d)参照)。
【0067】
図12は、識別パターン領域の形成例を示す図である。同図は、樹脂マスターを微細起伏構造の形成面に垂直な方向から見たときの図である。同図中、灰色の丸は、微細起伏構造の一つの起伏(構造体)を模式的に示すものである。
【0068】
同図(a)の構成例では、一定の幅にて線図状に構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。また、同図(b)の構成例では、所定の幅にて縦方向に一定の長さだけ構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。
【0069】
ここで、識別パターン領域の形成は、たとえば、ナノメートルオーダで加工可能な超精密加工機によって微細起伏構造の構造体を引き切ることにより行われる。超精密加工機としては、たとえば、ファナック社製「ROBONANO α-0iB」(“ROBONANO”はファナック社
の登録商標)を用いることができる。
【0070】
図12の形成例においても、識別パターン領域D1、D2の幅を実施例1における図8の形成例と同様に設定することにより、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制す
ることができる。
【0071】
また、識別パターン領域を、図9の場合と同様、ドット状に形成することもできる。さらに、図10の場合と同様、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に対し変化させることにより、識別パターン領域を形成することもできる。この場合も、図9および図10の場合と同様の効果が奏される。
【0072】
この他、本実施例では、識別パターン領域を構造体の底部よりもさらに深く掘削するようにして形成することもできる。上記ファナック社製の超精密加工機では、引き切りの高さをコントロールできるため、引き切り時に、識別パターン領域における構造体の高さを調節し、あるいは、構造体の底部よりもさらに深く掘削することも可能である。
【0073】
識別パターン領域の観察は、上記実施例1と同様、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。この観察によって、樹脂マスター、金型あるいは光学素子から識別パターン領域に保持されたパターンを取得できる。このパターンを樹脂マスターから取得すれば、樹脂マスターの製造元を特定することができ、また、金型あるいは光学素子から取得すれば、その金型、光学素子がどの製造元の樹脂マスターから生成されたものであるかを特定することができる。
【0074】
なお、本実施例では、樹脂マスターに識別パターン領域を形成するようにしたが、金型あるいは金型から樹脂成形される成形品に識別パターン領域を形成するようにしても良い。この場合も、上記と同様、超精密加工機によって微細起伏構造の構造体を引き切ることにより識別パターン領域を形成できる。
【0075】
以上、実施例1、2によれば、識別パターン領域を物理的に観察することにより、マスター原器、樹脂マスター、金型ないし樹脂成形品の製造元を特定することができる。よって、無断複製によって光学素子ないし金型等が生成された場合にも、その事実を円滑かつ確実に突き止めることができ、これにより、無断複製の抑制を図ることができる。
【0076】
なお、上記実施例1、2では、識別パターン領域において微細起伏構造を消失させ、あるいは、識別パターン領域における微細起伏構造の高さを他の領域に比べて相違させるようにしたが、前記微細起伏構造を消失させた領域と微細起伏構造の高さを他の領域に比べて相違させた領域を識別パターン領域に混在させるようにしても良い。
【0077】
さらに、識別パターンを1つではなく、複数個の識別パターンをランダムに配置しても良い。
【0078】
本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0079】
なお、特許請求の範囲に記載の発明以外に、上記図6に示す製造工程からも、以下の発明を抽出できる。
<請求項a>
対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備える光学素子を樹脂成形にて形成するための金型であって、
前記微細起伏構造を前記光学素子に転写するためのパターンが、スパッタ処理にて形成された第1の金属層と、該第1の金属層上に電鋳処理にて形成された第2の金属層を有するようにして形成され、前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の被転写パターンの輪郭のみならず、前記微細起伏構造の起伏間を所定の深さまで埋めるようにして形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0080】
<請求項b>
請求項aにおいて、
前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の起伏間を少なくとも埋め尽くすようにして形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0081】
<請求項c>
請求項aまたはbにおいて、
前記第1および第2の金属層は、同一の材料によって形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0082】
<請求項d>
請求項aないしcの何れか一項に記載の金型を形成する金型製造方法であって、
非転写面に形成された前記微細起伏構造にスパッタにより第1の金属層を形成する第1の工程と、
前記第1の工程によって形成された前記第1の金属層上に電鋳処理にて第2の金属層を形成する第2の工程とを備え、
前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の表面のみならず、前記微細起伏構造の起伏間を所定の深さまで埋めるようにして形成される、
ことを特徴とする金型製造方法。
【0083】
これら請求項aないしdの各発明によれば、上記の如く、第1および第2の金属層のトータルの形成時間を短縮することができる。また、第1の金属層の厚みが増大するため電鋳処理時における第1の金属層の電気抵抗が低下し、また、第1の金属層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、微細起伏構造の表面のみに第1の金属層を形成する場合に比べ、電鋳処理を安定して行えるとの効果も奏される。さらに、第1の金属層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、微細起伏構造の表面のみに第1の金属層を形成する場合に比べ、Ni層に対する微細起伏構造の転写性を向上させることもできる。したがって、結果的に、請求項aないしcの何れか一項の発明に係る金型は、微細起伏構造の形成精度が高いものとなり、これを用いて樹脂成形すれば、安定した微細起伏構造を光学素子に転写でき、光学素子の特性を高めることができる。
【0084】
なお、請求項aないしdにおける第1および第2の金属層は、上記実施の形態では、Ni層とされている。この他の金属材料にて、第1および第2の金属層を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係る光学素子の形成工程の概要を示す図
【図2】実施の形態に係るマスター原器の形成工程を示す図
【図3】実施の形態に係る微細起伏構造の描画に用いる光学系を示す図
【図4】実施の形態に係る樹脂マスターの形成工程を示す図
【図5】実施の形態に係る金型の形成工程を示す図
【図6】実施の形態に係るNi層の形成方法を示す図
【図7】実施例1に係る識別パターン領域の形成状態を説明する図
【図8】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図9】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図10】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図11】実施例2に係る識別パターン領域の形成状態を説明する図
【図12】実施例2に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図13】微細起伏構造の無反射特性を説明する図
【図14】微細起伏構造の無反射特性を説明する図
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびそれを成形するためのマスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の進展によりナノメートルオーダの加工が可能となっている。かかる加工技術を用いて微細な起伏構造を形成することにより、光学素子の特性を制御することができる。たとえば、光の入射面に微細起伏構造を形成することにより、入射面における光の反射率を低下させることができる。これにより、光の利用効率を向上させることができ、また、この光学素子を表示デバイスに組み込むと、表示画像の視認性を向上させることができる。
【0003】
図13は、微細起伏構造と屈折率の関係を示す図である。図示の如く、微細起伏構造を形成すると、光の入射媒質表面における有効屈折率が緩やかに変化し、あたかも2つの媒質間に屈折率の境界が存在しない状態となる。これにより光の入射面における反射率が抑制される。なお、この現象は、光の入射面内方向における微細起伏構造のピッチが使用対象の光(対象光)の波長よりも小さい場合に生じる。
【0004】
図14は、微細起伏構造における反射率特性を示す図である。同図には、光の入射面に誘電体多層膜を形成した場合と、何も形成されない単純な平面である場合の反射率特性が併せて示されている。
【0005】
図示の如く、光学素子に微細起伏構造を形成した場合には、誘電体多層膜を形成した場合に比べ、広い波長帯において、反射率を抑制することができる。なお、微細起伏構造はナノインプリント等によって形成できるため、誘電体多層膜に比べ、低コスト化を実現できるとの効果も奏される。
【特許文献1】特開2007−47589号公報
【特許文献2】特開2006−199542号公報
【特許文献3】特開2006−130841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細起伏構造の形成は、通常、転写用の金型を用いて行われる。この金型を生成するまでには、微細加工技術の適用等、種々の工程を踏む必要があり、かなりの労力とコストが費やされる。しかし、その一方で、一旦、金型が形成されると、その金型から微細起伏構造を転写することにより、比較的容易に金型の複製が生成され得る。さらに、金型のみならず、光学素子や樹脂形成品、あるいは、マスター原器等からも、転写技術を適用することにより金型を複製することができる。かかる複製が無断で行われると、金型生成者側のコストが無駄となり、他方で、無断複製者に不当な利益がもたらされる。
【0007】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、金型ないし光学素子の無断複製を円滑に抑制し得る光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み本発明は、以下の特徴を有する。
請求項1の発明は、光学素子に関するものである。この光学素子は、対象光が透過する面
内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備え、前記微細起伏構造の形成領域の一部に前記微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する識別パターン領域を有する。
【0009】
この発明によれば、識別パターン領域を物理的に検証することにより、当該光学素子ないしその生成に用いられた金型等の製造元を特定することができる。よって、無断複製によって当該光学素子ないし金型等が生成された場合には、その事実を円滑かつ確実に突き止めることができ、これにより、無断複製の抑制を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学素子において、前記識別パターン領域には前記微細起伏構造が存在しないか、前記識別パターン領域における前記微細起伏構造の高さが他の領域に比べて相違するか、または、前記識別パターン領域には前記微細起伏構造が存在しない領域と前記微細起伏構造の高さが他の領域に比べて相違する領域が混在していることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、識別パターン領域の物理的検証を、たとえば原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学素子において、前記ピッチ方向における前記識別パターン領域の幅は、前記対象光の波長帯以下であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、微細起伏構造の本来の光学特性に対する識別パターン領域の影響を抑制することができる。対象光の波長帯よりも大きい幅で微細起伏構造が欠落し、あるいは、その幅に含まれる微細起伏構造の高さが他の部分と相違すると、その幅の部分は、他の領域の微細起伏構造によって発揮されるべき本来の光学特性を適正に発揮できなくなる。したがって、請求項3の発明のように、識別パターン領域の幅を対象光の波長帯以下に設定すれば、本来の光学特性を劣化させることなく識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1または2に記載の光学素子において、前記ピッチ方向における前記識別パターン領域の幅は、100μm以下であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、視認性に対する識別パターン領域の影響を効果的に抑制することができる。一般に、人の目は数10μm程度の大きさまで物や図形を見分けることができると言われている。したがって、識別パターンの幅が人の目の認識限界以下であれば、識別パターンの部分の光学特性が他の領域の光学特性に対し相違しても、その相違が人の目によって見分けられることはない。上記の如く人の目の認識限界は数10μm程度であって、人によって若干のばらつきはあるが、識別パターンの幅が100μm以下であれば、通常、識別パターン部分は見分けられないか、見分けるのが相当困難なものとなる。したがって、請求項4の発明のように、識別パターン領域の幅を100μm以下に設定すれば、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制しつつ識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。なお、請求項4の発明は、光学素子が表示デバイス等の人の視認性に関連する部分に組み込まれる場合に有効なものである。
【0016】
請求項5、6および7の発明は、それぞれ、請求項1ないし4の何れか一項に記載の微細起伏構造の形成パターンを転写成形可能な状態で保持するマスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型である。これらの発明によれば、上記請求項1ないし4の発明と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記の如く本発明によれば、金型ないし光学素子の無断複製を円滑に抑制し得る光学素子、マスター原器、樹脂マスター、樹脂成形品および金型を提供することができる。
【0018】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明を実施する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に何ら制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。本実施の形態は、表示デバイスに組み込まれる平板状の光学素子(カバー部材)およびこれを生成するためのマスター原器および金型等に本発明を適用したものである。
【0020】
図1(a)に実施の形態に係るマスター原器の構成を示す。マスター原器には、拡大斜視図に示すように、一定ピッチで微細起伏構造が形成されている。微細起伏構造のピッチは、たとえば100nm程度とされる。また、微細起伏構造の高さは200nm程度とされる。
【0021】
このマスター原器から、樹脂成形用の金型が生成される(同図(b)参照)。そして、この金型を用いて、たとえばナノインプリントにより、光学素子が生成される(同図(c)参照)。なお、本実施の形態では、マスター原器から直接金型を生成せずに、一旦、樹脂マスターを生成し、この樹脂マスターから金型が生成される。
【0022】
図2は、電子ビームカッティングによりマスター原器を生成する場合の生成工程を示す図である。
【0023】
この生成工程では、まず、シリコン基板上にスピンコートによりレジストが塗布される(工程1)。ここで用いられるレジストは電子ビーム用のものである。その後、EB描画(電子ビームカッティング)にて、上記ピッチの微細起伏構造が描画される(工程2)。その後現像処理が行われ(工程3)、さらにRIE加工が行われる(工程4)。しかる後、酸素プラズマアッシングにより、残存するレジストが除去される(工程5)。これにより、シリコン基板上に微細起伏構造が形成され、マスター原器の生成が終了する。
【0024】
なお、レジストに対する微細起伏構造の描画は、EB(電子ビーム)に替えてレーザビームを用いて行うこともできる。また、2つの光を干渉させつつ露光することにより、レジストに微細起伏構造を描画することもできる(2光束干渉露光法)。
【0025】
図3は、2光束干渉露光法にて用いる光学系の構成例を示す図である。
【0026】
同図において、レーザ光源11から出射された光は、シャッター12、ミラー13、絞り14およびミラー15を介してビームエキスパンダ(BEXP)16に入射され、一定形状の平行光に変換される。しかる後、レーザ光は、λ/2板17によって、偏光ビームスプリッタ(PBS)18に対する偏光方向が調整される。これにより、レーザ光は、PBS18により2光束に分岐される。
【0027】
PBS18を透過したレーザ光(第1のレーザ光)は、λ/2板19を透過することにより、偏光方向が90度回転される。これにより、第1のレーザ光の偏光方向は、PBS18によって反射されたレーザ光(第2のレーザ光)の偏光方向に整合する。しかる後、第1のレーザ光は、絞り20を介して対物レンズ21に入射され、所定の開口数にて収束される。その後、第1のレーザ光は、ピンホール22を通過し、干渉面30上に照射され
る。
【0028】
PBSによって反射された第2のレーザ光は、ミラー23と絞り24を介して対物レンズ25に入射され、所定の開口数にて収束される。その後、第2のレーザ光は、ピンホール26を通過し、干渉面30上に照射される。
【0029】
干渉面30上には、第1および第2のレーザ光の干渉によりストライプ状の干渉縞が生じる。ここで、ストライプのピッチは、干渉面30に対する第1および第2のレーザ光の入射角度によって調整できる。
【0030】
レジストを塗布したシリコン基板を干渉面30に配置することにより、干渉縞に応じた露光を行うことができる。1回の露光で、レジストに1次元のストライプ構造が描画され、さらに、シリコン基板を面内方向に90度回転させて2回目の露光を行うことにより、レジストに2次元ピラミッド構造の描画が行われる。これにより、図2の場合と同様、レジストに微細起伏構造の描画が行われる。その後、図2の工程3、4、5を行うことにより、シリコン基板上に微細起伏構造が形成されたマスター原器が生成される。
【0031】
マスター原器上の微細起伏構造を電鋳で金型にする場合、一般には電鋳後に原器を溶かして取り去るなどして、微細起伏構造を破壊しないような方法がとられているが、本実施の形態では、マスター原器から直接金型を生成せずに、一旦、樹脂マスターを生成し、この樹脂マスターから金型を生成するようにしている。
【0032】
図4は、マスター原器から樹脂マスターを生成する際の工程を示す図である。
【0033】
この生成工程では、まず、微細起伏構造上にフッ素系の離型剤を塗布した後(工程2)、マスター原器を成形ジグに装着する(工程3)。その後、微細起伏構造上に液体状の紫外線硬化樹脂を滴下し、その上に、紫外線透過率の高い透明基板(光ディスク等で用いられているポリカーボネートから成る板)を載せて、透明基板をマスター原器に押し付ける(工程4)。これにより、紫外線硬化樹脂が微細起伏構造の起伏間に入り込む。この圧着工程を所定時間行った後、透明基板側から紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させる(工程5)。その後、硬化した紫外線硬化樹脂を透明基板とともにマスター原器から引き剥がす(工程6)。これにより、樹脂マスターが生成される。
【0034】
なお、生成された樹脂マスターは、原子間力顕微鏡を用いて微細起伏構造の形成状態が観察・評価される。この観察・評価により微細起伏構造の形成状態が適正であれば、生成された樹脂マスターは完成品とされる。
【0035】
このようにして生成された樹脂マスターを用いて金型が生成される。
【0036】
図5は、金型の生成工程を示す図である。この生成工程では、上記の如くして生成された樹脂マスターに離型剤を塗布し、さらに、樹脂マスターを電鋳ジグの形状に整合するよう切り出す(工程1)。ここで、樹脂マスターは、上記の如く紫外線硬化樹脂から構成されているため、このままでは離型剤を微細起伏構造上に塗布できない。よって、工程1では、微細起伏構造上にOH基を持つ誘電体をスパッタした後、離型剤が塗布される。
【0037】
次に、切り出した樹脂マスターを電鋳ジグに装着し(工程2)、さらに、微細起伏構造上にNi層をスパッタにより形成する(工程3)。その後、電鋳ジグに装着された樹脂マスターをメッキ液に浸し、Ni層上にさらにNi層を析出させる(工程4)。この処理を、Ni層が所定の厚みになるまで行う。その後、電鋳ジグに装着された樹脂マスターをメッキ液から引き上げ、形成されたNi層を樹脂成形品から引き剥がす前に、Ni層の裏面
を研磨する(工程5)。しかる後、Ni層を樹脂成形品から引き剥がし(工程6)、これにより、金型が生成される。
【0038】
生成された金型は、原子間力顕微鏡を用いて微細起伏構造の形成状態が観察・評価される。この観察・評価により微細起伏構造の形成状態が適正であれば、生成された樹脂マスターは完成品とされる。
【0039】
なお、図5の生成工程では、Ni層がスパッタと電鋳の2つの工程によって生成される。通常、スパッタによるNi層は、電鋳工程において電極の役割を果たすものである。この点からすると、スパッタによるNi層は、微細起伏構造の表面に膜(膜厚:数100Å程度)として形成されていれば良い。しかし、本実施の形態のように微細起伏構造がナノメートルオーダのピッチで形成される場合には、電流密度をかなり低くした状態で電鋳処理を行わなければ、Ni層を微細起伏構造の起伏間に充填することができない。このため、スパッタによるNi層を微細起伏構造の表面に膜として形成する場合には、電鋳処理に要する時間がかなり長期となり、金型の生成効率が顕著に低下する。
【0040】
この問題は、微細起伏構造の表面のみならず、起伏間をある程度埋めるまで、スパッタによりNi層を形成することにより解消される。
【0041】
図6は、スパッタによるNi層の形成工程から電鋳によるNi層の形成工程への流れを示す図である。同図(a-1)(a-2)(a-3)は、微細起伏構造の表面のみにスパッタによ
りNi層を形成する場合の流れを示している。また、同図(b-1)(b-2)(b-3)は、微
細起伏構造の表面の他、起伏間を埋め尽くすまで、スパッタによりNi層を形成する場合の流れを示し、同図(c-1)(c-2)(c-3)は、微細起伏構造の表面の他、起伏間をある
程度の深さまで、スパッタによりNi層を形成する場合の流れを示している。
【0042】
同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程では、上述の如く、電流密度をかなり低くした状態
で電鋳処理を行わなければ、Ni層を微細起伏構造の起伏間に充填できす、このため、電鋳処理に要する時間がかなり長期となる。
【0043】
これに対し、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程では、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、スパッタによる処理工程の時間は長期化するが、電流密度を大きくした状態で電鋳処理が行えるため、電鋳処理を高速で行うことができ、Ni層形成に要するトータルの所要時間は、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程よりも顕著に短くなる。
【0044】
また、同図(c-1)(c-2)(c-3)の工程では、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程に比べれば電鋳処理に要する時間は長くなるものの、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比
べると、電鋳処理に要する時間がかなり短くなり、Ni層形成に要するトータルの所要時間は、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程よりも短くなる。
【0045】
なお、同図(b-1)(b-2)(b-3)および(c-1)(c-2)(c-3)の工程では、スパッタによるNi層の厚みが増大するため電鋳処理時におけるNi層の電気抵抗が低下し、また、スパッタによるNi層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、電鋳処理を安定して行えるとの効果も奏される。また、同図(a-1)(a-2)(a-3)の工程に比べ、Ni層に対する微細起伏構造の転写性を向上させることもできる。
【0046】
なお、同図(b-1)(b-2)(b-3)の工程では、起伏間を埋め尽くすまで、スパッタに
よりNi層を形成することとしたが、微細起伏構造を埋め尽くした後もさらに所定の厚みだけスパッタによりNi層を形成するようにして良い。また、同図(c-1)(c-2)(c-3
)の工程では、起伏間をある程度の深さまで、スパッタによりNi層を形成するとしたが、どの程度の深さまでスパッタによりNi層を形成するかは、微細起伏構造の面積等を考慮して適宜設定すれば良い。
【0047】
たとえば、微細起伏構造の面積が大きくなるほど起伏構造領域の中心にNi層を析出させ難くなるため、スパッタによるNi層の深さを大きくし、あるいは、微細起伏構造埋め尽くすかそれ以上までスパッタによりNi層を形成するようにする。逆に、微細起伏構造の面積が小さければ、起伏構造領域の中心にも比較的容易にNi層を析出させ得るため、スパッタによるNi層の深さを小さくし、あるいは、微細起伏構造の表面のみにスパッタによりNi層を形成するようにする。
【0048】
以上のようにして生成された金型を用いて、光学素子が樹脂成形される。ここで、光学素子は、たとえば、ナノインプリントによって生成される。この他、上記図4に示した2P成形や、キャスト成形、熱樹脂成形および熱プレス成形等により光学素子を生成することもできる。なお、上記実施の形態では、樹脂マスターから金型を生成したが、マスター原器から直接金型を生成することも勿論可能である。但し、この場合は、上記の如く、金型生成時にマスター原器上の微細起伏構造が破損する惧れがある。
【実施例1】
【0049】
本実施例は、マスター原器生成時に、識別パターン領域を形成するものである。
【0050】
図7(a)に示す如く、本実施例では、視聴に影響を与え難い周辺領域に識別パターン領域が設定される。識別パターン領域は、他の領域に比べ、微細起伏構造の形成状態が相違している。識別パターン領域は、上記図4の生成工程によって、他の領域とともに、マスター原器から樹脂マスターに転写される(同図(b)参照)。さらに、識別パターン領域は、上記図5の生成工程によって、他の領域とともに、樹脂マスターから金型に転写され(同図(c)参照)、光学素子成形時には、金型から光学素子に転写される(同図(d)参照)。
【0051】
図8は、識別パターン領域の形成例を示す図である。同図は、マスター原器を微細起伏構造の形成面に垂直な方向から見たときの図である。同図中、灰色の丸は、微細起伏構造の一つの起伏(構造体)を模式的に示すものである。
【0052】
同図(a)の構成例では、2つの構造体を幅として線図状に構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。また、同図(b)の構成例では、所定個数の構造体を幅として縦方向に一定個数だけ構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。ここで、識別パターン領域の形成は、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時の描画パターンを制御することにより行われる。
【0053】
この構成例では、識別パターン領域の幅が人の目の認識限界以下となるよう設定されている。上記の如く、人の目は、数10μm程度の大きさまで物や図形を見分けることができると言われている。したがって、識別パターンの幅が人の目の認識限界以下であれば、識別パターン領域の光学特性が他の領域の光学特性に対し相違しても、その相違が人の目によって見分けられることはない。人の目の認識限界は人によって若干のばらつきはあるが、識別パターン領域の幅が100μm以下であれば、通常、識別パターン領域は見分けられないか、見分けるのが相当困難なものとなる。より好ましくは、識別パターン領域の幅が10μm以下であれば、識別パターン領域が形成されても、ユーザはこれを見分けることができない。
【0054】
図8(b)に示す如く、識別パターン領域の幅は縦、横にそれぞれ存在するが、この場合、小さい方の幅D1が人の目の認識限界以下であればよい。よって、同図(b)の例では、少なくとも幅D1が100μm以下に設定され、より好ましくは、D1とD2の両方が、100μm以下に設定される。より徹底する場合には、幅D1または幅D1とD2の両方が10μm以下に設定される。
【0055】
このように識別パターン領域の幅を設定することにより、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制しつつ識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。 図9は、識別パターン領域の他の形成例を示す図である。上記実施の形態では、光学素子として、表示デバイスに組み込まれる平板状のカバー部材が想定されていたが、図9の形成例は、例えば、光ピックアップ装置の光学系を構成する光学素子等を上記実施の形態に示す工程により形成する場合に用いて好適なものである。
【0056】
図9の形成例では、図8の場合に比べ、識別パターン領域の幅が小さくなっている。すなわち、この構成例では、1つの構造体をドット状に消失させることにより識別パターン領域が形成されている。図8の場合と同様、識別パターン領域の形成は、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時の描画パターンを制御することにより行われる。
【0057】
上述の如く、対象光の波長帯以下の幅で微細起伏構造が欠落し、あるいは、その幅に含まれる微細起伏構造の高さが他の部分と相違したとしても、その幅の部分の光学特性が、他の微細起伏構造によって発揮されるべき本来の光学特性から大きく変化することはない。したがって、上記実施の形態に示す工程により形成される光学素子が、たとえば、光ピックアップ装置に組み込まれる場合には、当該光ピックアップ装置における使用レーザ波長以下の幅で識別パターン領域を形成すると、他の微細起伏構造の本来の光学特性に対する識別パターン領域の影響を抑制することができる。たとえば、使用レーザ波長が450nm程度であれば、識別パターン領域の幅をそれよりも小さく設定することにより、当該光学素子に形成された微細起伏構造の本来の光学特性(たとえば無反射特性)が適正に発揮される。
【0058】
図8(b)に示す如く、識別パターン領域の幅は縦、横にそれぞれ存在するが、この場合、両方の幅D1、D2がともに使用レーザ波長以下に設定される。たとえば、微細起伏構造のピッチが100nm程度に設定される場合、図9に示す如く1つの構造体をドット状に消失させて識別パターン領域を形成すると、識別パターン領域の幅D1、D2は100nm程度となり、使用レーザ波長(450nm)の1/4程度となる。したがって、図8の如く識別パターン領域を形成した場合には、微細起伏構造の本来の光学特性を劣化させることなく識別パターンによる製造元の検証を行うことができる。
【0059】
なお、図9の形成例では、1つの構造体をドット状に消失させるようにしたが、両方の幅D1、D2がともに使用レーザ波長帯以下となるのであれば、連続する複数の構造体を消失させて識別パターン領域を形成しても、図9の場合と同様の効果が奏される。
【0060】
図10は、識別パターン領域のさらに他の形成例を示す図である。上記図8の形成例では、微細起伏構造の構造体を消失させることにより識別パターン領域を形成したが、図10の形成例では、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に比べ変化させることにより識別パターン領域が形成される。ここで、構造体の高さは、たとえば、図2の工程2におけるEB描画時のドーズ量を制御することにより調整される。レジストには、照射されるドーズ量が多いほど深い溝が描画され、ドーズ量が少ないほど浅い溝が描画される。したがって、ドーズ量の照射密度ないし照射時間を識別パターン領域と他の領域とで変化させることにより、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に対し相違させることができる。
【0061】
図10の形成例においても、上記図8の形成例と同様の効果が奏される。なお、図9の形成例においても、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に比べ変化させることにより識別パターン領域を形成することができる。この場合も、上記図9の形成例と同様の効果が奏される。
【0062】
本実施例において、識別パターン領域によって描画されるパターンは、マスター原器の製造元に固有のパターンとされる。したがって、識別パターン領域に対応する領域を物理的に観察し、その際取得されるパターンを判定することにより、そのマスター原器の製造元を特定することができる。同様に、樹脂マスター、金型、光学素子の識別パターン領域に対応する領域を物理的に観察することにより、その樹脂マスター、金型、光学素子がどの製造元のマスター原器から生成されたものであるかを特定することができる。
【0063】
識別パターン領域の観察は、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。原子間力顕微鏡によって識別パターン領域に対応する領域を走査すると、微細起伏構造の起伏に応じた振幅の信号が取得される。識別パターン領域に対応する全ての領域を走査したときに取得される信号を演算処理することにより、識別パターン領域に保持されたパターンが取得される。このパターンをマスター原器から取得すれば、マスター原器の製造元を特定することができ、また、樹脂マスター、金型あるいは光学素子から取得すれば、その樹脂マスター、金型、光学素子がどの製造元のマスター原器から生成されたものであるかを特定することができる。
【実施例2】
【0064】
本実施例は、マスター原器生成後に、識別パターン領域を形成するものである。
【0065】
すなわち、図11(a)に示す如く、本実施例では、マスター原器には識別パターン領域は生成されていない。識別パターン領域は、たとえば樹脂マスター生成時に生成される(同図(b)参照)。
【0066】
上記実施例1と同様、識別パターン領域は、他の領域に比べ、微細起伏構造の形成状態が相違している。識別パターン領域は、上記図5の生成工程によって、他の領域とともに、樹脂マスターから金型に転写され(同図(c)参照)、さらに、光学素子成形時に、金型から光学素子に転写される(同図(d)参照)。
【0067】
図12は、識別パターン領域の形成例を示す図である。同図は、樹脂マスターを微細起伏構造の形成面に垂直な方向から見たときの図である。同図中、灰色の丸は、微細起伏構造の一つの起伏(構造体)を模式的に示すものである。
【0068】
同図(a)の構成例では、一定の幅にて線図状に構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。また、同図(b)の構成例では、所定の幅にて縦方向に一定の長さだけ構造体を消失させることにより識別パターン領域が形成されている。
【0069】
ここで、識別パターン領域の形成は、たとえば、ナノメートルオーダで加工可能な超精密加工機によって微細起伏構造の構造体を引き切ることにより行われる。超精密加工機としては、たとえば、ファナック社製「ROBONANO α-0iB」(“ROBONANO”はファナック社
の登録商標)を用いることができる。
【0070】
図12の形成例においても、識別パターン領域D1、D2の幅を実施例1における図8の形成例と同様に設定することにより、視認性に対する識別パターン領域の影響を抑制す
ることができる。
【0071】
また、識別パターン領域を、図9の場合と同様、ドット状に形成することもできる。さらに、図10の場合と同様、識別パターン領域における構造体の高さを他の領域に対し変化させることにより、識別パターン領域を形成することもできる。この場合も、図9および図10の場合と同様の効果が奏される。
【0072】
この他、本実施例では、識別パターン領域を構造体の底部よりもさらに深く掘削するようにして形成することもできる。上記ファナック社製の超精密加工機では、引き切りの高さをコントロールできるため、引き切り時に、識別パターン領域における構造体の高さを調節し、あるいは、構造体の底部よりもさらに深く掘削することも可能である。
【0073】
識別パターン領域の観察は、上記実施例1と同様、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。この観察によって、樹脂マスター、金型あるいは光学素子から識別パターン領域に保持されたパターンを取得できる。このパターンを樹脂マスターから取得すれば、樹脂マスターの製造元を特定することができ、また、金型あるいは光学素子から取得すれば、その金型、光学素子がどの製造元の樹脂マスターから生成されたものであるかを特定することができる。
【0074】
なお、本実施例では、樹脂マスターに識別パターン領域を形成するようにしたが、金型あるいは金型から樹脂成形される成形品に識別パターン領域を形成するようにしても良い。この場合も、上記と同様、超精密加工機によって微細起伏構造の構造体を引き切ることにより識別パターン領域を形成できる。
【0075】
以上、実施例1、2によれば、識別パターン領域を物理的に観察することにより、マスター原器、樹脂マスター、金型ないし樹脂成形品の製造元を特定することができる。よって、無断複製によって光学素子ないし金型等が生成された場合にも、その事実を円滑かつ確実に突き止めることができ、これにより、無断複製の抑制を図ることができる。
【0076】
なお、上記実施例1、2では、識別パターン領域において微細起伏構造を消失させ、あるいは、識別パターン領域における微細起伏構造の高さを他の領域に比べて相違させるようにしたが、前記微細起伏構造を消失させた領域と微細起伏構造の高さを他の領域に比べて相違させた領域を識別パターン領域に混在させるようにしても良い。
【0077】
さらに、識別パターンを1つではなく、複数個の識別パターンをランダムに配置しても良い。
【0078】
本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0079】
なお、特許請求の範囲に記載の発明以外に、上記図6に示す製造工程からも、以下の発明を抽出できる。
<請求項a>
対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備える光学素子を樹脂成形にて形成するための金型であって、
前記微細起伏構造を前記光学素子に転写するためのパターンが、スパッタ処理にて形成された第1の金属層と、該第1の金属層上に電鋳処理にて形成された第2の金属層を有するようにして形成され、前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の被転写パターンの輪郭のみならず、前記微細起伏構造の起伏間を所定の深さまで埋めるようにして形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0080】
<請求項b>
請求項aにおいて、
前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の起伏間を少なくとも埋め尽くすようにして形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0081】
<請求項c>
請求項aまたはbにおいて、
前記第1および第2の金属層は、同一の材料によって形成されている、
ことを特徴とする金型。
【0082】
<請求項d>
請求項aないしcの何れか一項に記載の金型を形成する金型製造方法であって、
非転写面に形成された前記微細起伏構造にスパッタにより第1の金属層を形成する第1の工程と、
前記第1の工程によって形成された前記第1の金属層上に電鋳処理にて第2の金属層を形成する第2の工程とを備え、
前記第1の金属層は、前記微細起伏構造の表面のみならず、前記微細起伏構造の起伏間を所定の深さまで埋めるようにして形成される、
ことを特徴とする金型製造方法。
【0083】
これら請求項aないしdの各発明によれば、上記の如く、第1および第2の金属層のトータルの形成時間を短縮することができる。また、第1の金属層の厚みが増大するため電鋳処理時における第1の金属層の電気抵抗が低下し、また、第1の金属層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、微細起伏構造の表面のみに第1の金属層を形成する場合に比べ、電鋳処理を安定して行えるとの効果も奏される。さらに、第1の金属層が微細起伏構造にくまなく形成されるため、微細起伏構造の表面のみに第1の金属層を形成する場合に比べ、Ni層に対する微細起伏構造の転写性を向上させることもできる。したがって、結果的に、請求項aないしcの何れか一項の発明に係る金型は、微細起伏構造の形成精度が高いものとなり、これを用いて樹脂成形すれば、安定した微細起伏構造を光学素子に転写でき、光学素子の特性を高めることができる。
【0084】
なお、請求項aないしdにおける第1および第2の金属層は、上記実施の形態では、Ni層とされている。この他の金属材料にて、第1および第2の金属層を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係る光学素子の形成工程の概要を示す図
【図2】実施の形態に係るマスター原器の形成工程を示す図
【図3】実施の形態に係る微細起伏構造の描画に用いる光学系を示す図
【図4】実施の形態に係る樹脂マスターの形成工程を示す図
【図5】実施の形態に係る金型の形成工程を示す図
【図6】実施の形態に係るNi層の形成方法を示す図
【図7】実施例1に係る識別パターン領域の形成状態を説明する図
【図8】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図9】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図10】実施例1に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図11】実施例2に係る識別パターン領域の形成状態を説明する図
【図12】実施例2に係る識別パターン領域の形成例を示す図
【図13】微細起伏構造の無反射特性を説明する図
【図14】微細起伏構造の無反射特性を説明する図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備える光学素子であって、
前記微細起伏構造の形成領域の一部に前記微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する所定領域を有し、前記ピッチ方向における前記所定領域の幅は、前記対象光の波長帯よりも大きいことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記ピッチ方向における前記所定領域の幅は、100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記微細起伏構造の構造体を消失させることにより、前記所定領域が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記微細起伏構造の構造体の底部よりも深く掘削されることにより、前記所定領域が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記所定領域が識別パターン領域であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項1】
対象光が透過する面内に前記対象光の波長帯よりも小さなピッチにて形成された微細起伏構造を備える光学素子であって、
前記微細起伏構造の形成領域の一部に前記微細起伏構造の形成状態が他の領域に比べ相違する所定領域を有し、前記ピッチ方向における前記所定領域の幅は、前記対象光の波長帯よりも大きいことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記ピッチ方向における前記所定領域の幅は、100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記微細起伏構造の構造体を消失させることにより、前記所定領域が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記微細起伏構造の構造体の底部よりも深く掘削されることにより、前記所定領域が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記所定領域が識別パターン領域であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−247806(P2012−247806A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195948(P2012−195948)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2007−109823(P2007−109823)の分割
【原出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2007−109823(P2007−109823)の分割
【原出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]