説明

光学素子およびそれを有する光学装置

【課題】 屈折率が内部で変化するグレーデッド層を利用した、生産性と光学特性を両立した光学素子を提供する。
【解決手段】 基板21の少なくとも一面に反射防止膜22が設けられた光学素子23において、反射防止膜は基板側からしだいに屈折率が小さくなるグレーデッド層を有し、グレーデッド層は使用波長範囲の中心2/3の範囲内に反射率0.4%以下の極大値でありかつ最大値を持つ反射率特性を示し、最大値以外に極大値を持たず、使用波長範囲の両端の反射率のうち少なくとも一方は、最大値の反射率の半分以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関し、特にその光学素子の光学特性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品に使われている部材には反射防止機能を付与することが一般的である。反射防止機能を有しない透明部材では、一面ごとに4〜8%程度の透過率の低下が見られる。例えば撮像光学系のように複数枚の透明部材を使用する系では、透過光量が著しく低下してしまい、好ましくない。
【0003】
反射防止機能を付与するには、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1では透過部材の一面に反射防止膜を付与する手法の一つが提案されている。一般的な反射防止膜の作成法として、蒸着法やスパッタ法に代表される成膜装置を利用する方法が知られている。ただし、このような成膜装置では成膜できる材料が限定されているため、任意の屈折率の薄膜を得ることは難しい。そこで、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜を選択的に導入して膜厚を適切に設定することで、仮想的に中間屈折率のような膜を得る手法が提案されている。
【0004】
他の手法として、使用する光の波長よりも細かい構造を利用した反射防止構造体も提案されている。最も有名な概念が ”moth−eye” である。蛾の目の表面は非常に反射率が低いことが知られており、それは蛾の目特有の微細構造にあるということが知られている。光の波長よりも細かい構造では、光はその構造そのものを認識できずに一様な媒質のような振舞いを示す。そのとき、その構造体は構造を構成する材料の体積比に準じた屈折率を示す。それを利用すると、通常の材料では得られない低屈折率の構造体が実現できる。低屈折率な材料を使うことで、より高性能な反射防止機能を得ることができる。
【0005】
特許文献2には、このような微細構造を利用した反射防止構造体として表面に向かって先細りになる形状が提案されている。このような形状にすることで、基板側から表面側にいくにつれて換算屈折率が徐々に小さくなることが提案されている。
【0006】
特許文献3には、微細構造の突起構造の形状を規定している。突起構造の最凸部と最凹部の形状を比較し、最凸部の方が尖る形状にすることで最表面部、また構造と基板との境界での屈折率変化が緩くなり、低反射化することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭61−51283号公報
【特許文献2】特開2005−62674号公報
【特許文献3】特開2003−240904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1に開示されている内容では、反射防止膜に高屈折率材料を用いているために、広帯域の特性には劣るという問題点があった。また、特許文献2に開示されている内容では、屈折率を傾斜させるために微細構造を先細りにしているが、屈折率構造の最適な開示まではいたっていない。また、製造上の作りやすさなどを考慮した構成も開示されていない。また、特許文献3に開示されている内容では、界面での屈折率の変化のみに着目しているために、屈折率の変化が大きな部分が発生してしまい広帯域な特性が得られないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の光学素子は、基板の少なくとも一面に反射防止膜が設けられた光学素子において、前記反射防止膜は基板側からしだいに屈折率が小さくなるグレーデッド層を有し、前記グレーデッド層は使用波長範囲の中心2/3の範囲内に反射率0.4%以下の極大値でありかつ最大値を持つ反射率特性を示し、最大値以外に極大値を持たず、使用波長範囲の両端の反射率のうち少なくとも一方は、最大値の反射率の半分以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反射率特性と生産性を両立した光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光学素子の反射率特性を示す図。
【図2】薄膜を設けた光学素子の断面模式図。
【図3】均質な屈折率を持つ反射防止膜を設けた光学素子の断面模式図。
【図4】グレーデッド層を設けた光学素子の断面模式図。
【図5】グレーデッド層を反射防止膜として利用するときの、理想的な屈折率勾配と実施例の屈折率勾配を示す図。
【図6】各屈折率勾配での光学膜厚に対する反射率の模式図。
【図7】光学膜厚λ/2の理想的な屈折率勾配のグレーデッド層が形成された場合の反射率特性を示す図。
【図8】光学膜厚λ/2の本実施例の屈折率勾配のグレーデッド層が形成された場合の反射率特性を示す図。
【図9】光学膜厚3λ/4の理想的な屈折率勾配のグレーデッド層が形成された場合の反射率特性を示す図。
【図10】屈折率勾配の模式図。
【図11】光の波長よりも細かい構造の一例を示す図。
【図12】光の波長よりも細かい構造のグレーデッド層の一例を示す図。
【図13】本発明の第1の実施例に係る光学素子の反射率特性を示す図。
【図14】本発明の第2の実施例に係る光学素子の屈折率勾配を示す図。
【図15】微細構造と薄膜を組み合わせた光学素子の一例を示す図。
【図16】本発明の光学素子を適用したデジタルカメラを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。ここでは、説明のために使用波長域は可視域(波長400nm以上700nm以下)を例に記述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に関わる反射率特性である。横軸は波長、縦軸は反射率である。この特性の場合、反射率の最大値は波長550nmに存在し、0.40%である。また、使用波長域の両端である波長400nm、700nmでの反射率はそれぞれ0.15、0.28である。
【0014】
本発明では、基板側からしだいに屈折率が小さくなるグレーデッド層を利用していることを特徴としている。図2に、基板の一面に薄膜を設けた構造の一例を示す。ここで、21は基板、22は薄膜、23は光学素子、24入射光である。通常、このような光学素子に入射光23が入射する場合、薄膜22によって振舞いが異なる。
【0015】
通常の屈折率が均一な薄膜を薄膜22に用いた場合の光の反射の様子を図3に示す。ここで、31は基板、32は均質な屈折率を持つ薄膜、33は光学素子、34は入射光、35は薄膜32の表面で反射する光、36は薄膜32と基板31の界面で反射する光である。このような薄膜32では、入射光34はその界面で反射し、その反射率特性は光35、光36の干渉で決まる。光35と光36を干渉させて打ち消しあわせるためには、薄膜32の光学厚みがλ/4の整数倍である必要がある。
【0016】
一方、厚み方向に屈折率が小さくなるグレーデッド層を薄膜22に用いた場合の光の反射の様子を図4に示す。ここで、41は基板、42は厚み方向に屈折率が小さくなるグレーデッド層、43は光学素子、44は入射光、45はグレーデッド層42の内部で反射する光である。このようなグレーデッド層42では、入射光44はグレーデッド層42の内部の屈折率変化に合わせて無数の光45が反射する。その無数の光45がそれぞれ干渉しあうことで、反射率特性が決まる。光45を全て干渉させて打ち消しあわせるためには、グレーデッド層42の光学厚みがλ/2の整数倍である必要がある。
【0017】
しかし、このグレーデッド層42が光学膜厚λ/2で干渉しあうのは、グレーデッド層42の内部屈折率変化が理想状態のときだけである。図5に、グレーデッド層42の光学膜厚に対する屈折率勾配を示す。この図では左側が基板側であり、基板側からグレーデッド層42の屈折率が徐々に下がっている様子がわかる。ここで、51は本実施例の屈折率勾配の一例、52は理想的な屈折率勾配である。屈折率勾配52は、以下の条件を満たしている。
【0018】
【数1】

【0019】
・t=一定 (2)
ここで、niはグレーデッド層42の任意点iの屈折率、ni+1はグレーデッド層42の任意点iの隣接点i+1の屈折率、tiはグレーデッド層42の任意点iの物理膜厚である。式(1)は、ni、ni+1から求められるAiがグレーデッド層42内部の任意点iの全てで一定であることを特徴としている。これにより、グレーデッド層42の内部で反射する光45のそれぞれの振幅が一定となる。また、式(2)はグレーデッド層42内部の任意点iの光学膜厚が全て一定であることを特徴としている。これにより、グレーデッド層42の内部で反射する光45のそれぞれの干渉する位相が全てそろう。これを表した屈折率勾配52は、光学膜厚に対して直線とはならず弓なりな曲線となる。この条件式(1)、(2)とグレーデッド層42の総光学膜厚がλ/2の条件を満たすと、グレーデッド層の内部で完全に反射光45を干渉で打ち消し合わせることができる。
【0020】
しかし、このような屈折率勾配52を実際に作製しようとすると、屈折率を非常に細かく制御した膜を作製する必要がある。また、総光学膜厚も考慮した膜にする必要があるため、製造上非常に繊細な技術を必要とし、量産性に乏しいという欠点がある。
【0021】
一方、製造上この理想的な屈折率勾配52から外れた屈折率勾配51では、光学膜厚λ/2では完全に反射光45が干渉して打ち消し合わない。図6に、それぞれの屈折率勾配での光学膜厚に対する反射率の模式図を示す。ここで、61は屈折率勾配51の反射率、62は屈折率勾配52の反射率である。屈折率勾配52の反射率62は、理想的な干渉を示すため、λ/2の整数倍のところで反射率が0になる。また、光学膜厚を厚くすれば厚くするほど、全体的な反射率が落ちるという特徴がある。一方、屈折率勾配51の反射率61は屈折率勾配が最適値でないため、初期のλ/2で反射率が0にならない。一方、光学膜厚が厚くなるほど反射率全体が落ちる。これは、理想的な干渉の膜厚で打ち消し合うよりも、光学膜厚が大きくなることで反射光45のそれぞれが小さくなる効果の方が大きいためである。
【0022】
光学膜厚がλ/2のときの、屈折率勾配52の波長に対する反射率特性を図7に示す。基板はd線での屈折率が1.583の光学ガラスを使用した。グレーデッド層42は、屈折率が1.58から1.0まで変化するとした。このように、屈折率勾配52が最適な場合、波長550nmで反射率が0となる特性となる。一方、光学膜厚がλ/2のときの、屈折率勾配51の波長に対する反射率特性を図8に示す。このように、屈折率勾配51が最適でないため、干渉する波長550nmの反射率が完全に落ちきらない。
【0023】
また、光学膜厚が3λ/4のときの、屈折率勾配52の波長に対する反射率特性を図9に示す。屈折率勾配が最適だが、干渉の膜厚が最適でないため波長550nmでピークを持つ特性となっている。一方、光学膜厚が3λ/4のときの、屈折率勾配51の波長に対する反射率特性を図1に示す。図9と同様に波長550nmで反射率がピークを持つような特性となっている。しかし、図8と比べて全体的な反射率が落ちている。このように、屈折率勾配が最適値でない場合は、光学膜厚を厚くする効果の方が大きい。
【0024】
このように屈折率勾配が最適でない場合、光学膜厚をできるだけ厚くするほうがよい。一方、グレーデッド層42の光学膜厚を厚くすることは製造上難しいという問題がある。グレーデッド層を作製する場合、屈折率が徐々に変化するような膜を作製する必要がある。これは均質な屈折率を持つ薄膜32とは異なり、屈折率の変化を調整しつづけながら成膜する必要性を持つ。そのような膜を厚膜化することは、製造時間の延長化や成膜の微調整が必要となってしまうため、好ましくない。
【0025】
そこで本発明では、使用波長範囲の中心2/3の範囲内に反射率0.4%以下の極大値でありかつ最大値を持つことを特徴としている。使用波長範囲の中心2/3とは、使用波長範囲域があったとしたら、その中心から波長域の1/3ずつの範囲を表している。例えば使用波長域を400〜700nmとした場合、波長450〜650nmが指定の範囲である。通常反射防止を作製する場合は中心に干渉膜厚を持ってくることが望ましい。しかし、前述したように屈折率勾配51のようなグレーデッド層42を使用する場合、干渉膜厚で反射率が完全に落ちきるわけではない。そこで、干渉的には好ましくないが、使用波長の中心付近にピークを持つような光学膜厚までグレーデッド層42を厚膜化し、使用することが好ましい。
【0026】
また、光学膜厚がλ/4のときにも使用波長範囲の中心付近でピークを持つ特性になる。これは図6からも明らかなように、干渉膜厚λ/2に比べて反射率は高く、好ましくない。そこで、反射率は干渉的に最適な膜厚λ/2より厚いほうが好ましく、この条件を満たすとピークの反射率は0.4%以下となる。
【0027】
また、本発明では、使用波長の範囲内で最大値以外に極大値を持たないことを特徴としている。使用波長範囲内に極大値を複数もつような特性を持つグレーデッド層42は、十分に膜厚が厚いことを意味する。このような膜厚のグレーデッド層42は、光学膜厚を厚くする効果が大きいため干渉の程度を気にする必要がない。そのため、本発明の課題は生じない。
【0028】
また、本発明では使用波長範囲の両端の反射率のうち少なくとも一方は、最大値の反射率の半分以下であることを特徴としている。使用波長範囲のどちらか一方の反射率がピークの半分以下というのは、膜厚の影響よりも干渉の影響の方が強いことを意味している。干渉の影響が強いため、使用波長範囲の端の反射率を半分以下に抑えることができる。そのため、最大値の反射率に対して、広範囲で反射率を抑えることができる。
【0029】
また、本発明ではグレーデッド層42の光学厚みdが以下の式(3)を満たすことを特徴としている。
【0030】
【数2】

【0031】
これは前述したように、光学厚みdがグレーデッド層42が最も干渉するλ/2の整数倍ではなく、干渉としては最も適さない(2m−1)・λ/4の条件であることを意味している。しかし、λ/4はλ/2に比べて厚みが薄いため、本発明の効果は見込めない。dの範囲は厚みが薄いよりも厚いほうが効果的なため、上限の方が範囲が広い。下限は−0.2以内が好ましく、−0.18以内がより好ましい。上限は0.25以内が好ましく、0.20以内がより好ましい。
【0032】
本実施例である図1の構成は、光学膜厚が3λ/4であるため、式(3)の条件を満たしている。
【0033】
また、本発明ではグレーデッド層の屈折率勾配51が以下の条件を満たすことを特徴としている。
【0034】
【数3】

【0035】
nα:基板側から見てグレーデッド層の光学厚み1/4の位置の屈折率
nα+1:nαに隣接する位置の屈折率
nβ:基板側から見てグレーデッド層の光学厚み3/4の位置の屈折率
nβ+1:nβに隣接する位置の屈折率
図10にnα、nβのイメージ図を示す。図10は図5を参考にしており、一点鎖線が屈折率勾配51、破線が屈折率勾配52に対応している。ここで101は屈折率勾配51のnα、102は屈折率勾配51のnβ、103は屈折率勾配52のnα、104は屈折率勾配52のnβである。基板側から見て光学厚み1/4とは、101、103の位置を表し、基板側から見て光学厚み3/4とは、102、104の位置を表す。ここで式(4)の両辺は、式(1)で表されるAである。理想的な屈折率勾配52だと、このAの値はどの位置で比較しても一定である。一方、式(4)は屈折率勾配51のように基板側の勾配がきつく、反対側の勾配が緩いことを表している。このように、理想的な屈折率勾配52よりも下側に弓なりとなる勾配にすると、厚みを増やすことで反射率が低下しやすい。一方、屈折率勾配52よりも上側に弓なりとなる勾配にしても、厚みを増やすことで反射率を低下させることが可能だが、効果が薄い。
【0036】
本実施例の屈折率勾配51は、理想的な屈折率勾配52よりも下側に弓なりになっている。そのため、式(4)の条件を満たしている。
【実施例2】
【0037】
図13は、本発明の実施例2に関わる反射率特性である。横軸は波長、縦軸は反射率である。この特性の場合、反射率の最大値は波長500nmに存在し、0.18%である。また、使用波長域の両端である波長400nm、700nmでの反射率はそれぞれ0.15、0.28である。0.06、0.03である。これらの値は全て、上記した条件を全て満たしている。
【0038】
本実施例2の構成を図12に示す。ここで121は基板、122は使用する光の波長よりも細かい構造からなる、花弁状構造層である。構造層122の屈折率勾配を図14に示す。基板にはd線における屈折率が1.583の硝材を用いた。屈折率勾配を見ると、板側から徐々に屈折率が低下している様子がわかる。この屈折率勾配は、式(4)の条件を満たしている。
【0039】
本発明ではグレーデッド層42は使用する光の波長よりも細かい構造を利用した微細構造層からなることを特徴としている。
【0040】
微細構造でグレーデッド層を実現するには、その構造を調整する必要がある。まず、微細構造での振舞いを簡単に説明するために、反射防止構造の一例の概略図を図11に示す。ここで、111は基板、112は反射防止構造体、113は反射防止構造体32の構造間のピッチ、114は反射防止構造体112の構造部である。
【0041】
反射防止構造体112は、ピッチ113が使用波長よりも小さいことを特徴としている。このような構造の内部では、光は構造体112が均質な膜であるかのように振舞うことが知られている。構造体112の内部では、その構造をなす材料の体積比に準じた特性を示す。図11の構成を例にとると、構造体112の等価屈折率neffは、構造部の屈折率nsと構造部114の体積比ffを使って、式(5)で簡略的に求められる。
neff=ff・ns+(1−ff) (5)
ここでffは、{(構造部114)/(構造間のピッチ113)}で求められる。このffを適切に選択することで、等価屈折率neffは低屈折率な振舞いを示す。従来使用される薄膜材料で最も低屈折率な膜はフッ化マグネシウムであり、可視域でおよそ1.38程度である。これ以上に低屈折率な構造体112を反射防止膜として利用すると、従来の膜では得られないような非常に高性能な反射防止性能を得ることができる。
【0042】
ここでは説明のために構造体112は周期構造を例に挙げたが、構造間のピッチ112が使用光の波長以下ならば、構造体32は非周期構造でもかまわない。
【0043】
本発明ではグレーデッドな膜を特徴としている。そのため、微細構造をグレーデッド層として利用する場合、厚みに対して式(5)のffが変わるような構造にする必要がある。ffが厚み方向で変化するような微細構造の一例を図12に示す。構造体122は周期構造ではなくランダムだが、その平均的なffから求められるneffを持つ材料として振舞う。このような構造層122の場合、最も基板121側の充填率ffに比べ、入射側の充填率ffの方が小さい。そのため、構造層122は基板側から屈折率が徐々に小さくなるようなグレーデッド層と同様の振舞いを示す。
【0044】
また、本発明は均質な膜を化学処理によって変質させて微細構造層122などを作製することを特徴としている。微細構造を作製する方法はいくつか知られている。一例として、ナノインプリンティングによる型の微細構造の転写や、電子ビームやフォトマスクによるリソグラフィからのエッチングでの構造の作製などが挙げられる。しかし、これらの作製法は厚みや構造の充填率の制御が非常にしにくいという欠点がある。一方、例えば酸化アルミの皮膜を60〜100度の温水に10分以上浸漬させることで得られる花弁状膜が知られている。この方法は、皮膜自体は従来通りの方法で制御よく作製でき、その後の処理での変質も比較的制御しやすい。そのため、本発明の重要項目である厚みの制御がしやすいという利点がある。また、化学処理の方法によって微細構造の充填率も変化させられるため、式(4)を満たす微細構造も作製しやすいという利点がある。
【0045】
また、本発明はグレーデッド層42の最も基板41側の屈折率nbと、基板41の屈折率nsが以下の条件を満たすことを特徴とする光学素子。
0.001<│ns−nb│<0.2 (6)
これは、グレーデッド層42と基板41の屈折率差ができるだけ小さい事を意味している。この屈折率差が大きいと、グレーデッド層42である程度反射を落としても、グレーデッド層42と基板41の屈折率差での反射が大きくなってしまうという課題がある。そのため、式(6)を満たす条件に設定することで、反射率全体を抑えることができる。
【0046】
実施例1、2ともに式(6)の条件を満たしている。
【0047】
また、本発明はグレーデッド層42の最も基板側の屈折率をnb、最も基板から離れた側の屈折率をnt、光学膜厚の中心における屈折率をnとしたとき、以下の条件を満たすことを特徴としている。
【0048】
【数4】

【0049】
この条件式は、グレーデッド層42の光学膜厚の中間での屈折率を表している。式(7)を満たすと、反射率の最大値が使用波長範囲の中心近くにある場合でも全体の反射率を下げることができる。式(7)の範囲は、0.86〜0.93が好ましく、さらには0.87〜0.91がより好ましい。実施例1の式(7)の値は0.94、実施例2の値は0.88と両者ともこの条件を満たしている。
【0050】
また、本発明は反射防止膜がグレーデッド層42のみで構成されていることを特徴としている。グレーデッド層42のみで膜が構成されているため、反射率の影響をグレーデッド層のみで制御しやすいというメリットがある。また、微細構造122で反射防止させるときに、グレーデッド層全てを微細構造122にすることができるため、生産的に制御しやすいというメリットがある。
【0051】
また、本発明はグレーデッド層122と基板121の間に1層以上の薄膜が挿入されていることを特徴としている。その構造を図15に示す。ここで151は基板、152は微細構造層、153は薄膜である。この薄膜153は、構造層152と基板151間の反射防止膜として機能させる中間膜や、基板151を保護するための保護膜などの機能を付与することができる。
【0052】
このような反射率を抑えた光学素子は、多くの光学機器で使用することができる。例えば、図16には、本実施例の光学素子を用いた光学機器の例としてデジタルカメラを示している。
【0053】
160はカメラ本体、161は本実施例を用いた撮像光学系である。162はカメラ本体160に内蔵され、撮影光学系161によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0054】
163は撮像素子162によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリ、164は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子162上に形成された被写体像を観察するための電子ビューファインダである。
【0055】
このように実施例の光学素子を撮像光学系などに利用することで、撮像光学系内での不要な反射を抑え、かつ光量の多いカメラを実現することができる。
【0056】
なお、本実施例の光学素子は、液晶プロジェクターの照明光学系及び投射光学系等にも使用することができる。それにより、不要な反射を抑え、かつ光量の多い光学系を有する光学装置を提供することができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
41 基板
42 薄膜
43 光学素子
44 入射光
45 グレーデッド層42の内部で反射する光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも一面に反射防止膜が設けられた光学素子において、
前記反射防止膜は基板側からしだいに屈折率が小さくなるグレーデッド層を有し、
前記グレーデッド層は使用波長範囲の中心2/3の範囲内に反射率0.4%以下の極大値でありかつ最大値を持つ反射率特性を示し、
最大値以外に極大値を持たず、
使用波長範囲の両端の反射率のうち少なくとも一方は、最大値の反射率の半分以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記グレーデッド層の光学厚みdが以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【数1】

【請求項3】
前記グレーデッド層の屈折率勾配が以下の条件を満たすことを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【数2】


nα:基板側から見てグレーデッド層の光学厚み1/4の位置の屈折率
nα+1:nαに隣接する位置の屈折率
nβ:基板側から見てグレーデッド層の光学厚み3/4の位置の屈折率
nβ+1:nβに隣接する位置の屈折率
【請求項4】
前記グレーデッド層は使用する光の波長よりも細かい微細構造を利用した微細構造層からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記微細構造層は、均質な膜を化学処理によって変質させて前記微細構造が作製されていることを特徴とする請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記グレーデッド層の最も基板側の屈折率nbと、基板の屈折率nsが以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の光学素子。
0.001<│ns−nb│<0.2
【請求項7】
前記使用波長範囲は400nm以上700nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記グレーデッド層の最も基板側の屈折率をnb、最も基板から離れた側の屈折率をnt、光学膜厚の中心における屈折率をnとしたとき、以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の光学素子。
【数3】

【請求項9】
前記反射防止膜は前記グレーデッド層のみで構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記グレーデッド層と前記基板の間に1層以上の薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の光学素子を有する光学系。
【請求項12】
請求項11に記載の光学系を有する光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−271534(P2010−271534A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123181(P2009−123181)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】