説明

光学素子および光学ユニットの組立方法

【課題】光学ユニットの組立に際して、光軸の傾きの調整および検証に適した、光学素子および光学ユニットの組立方法を提供する。
【解決手段】入射した光を屈折または反射させるための光学機能面12a、14aと、光軸P1の方向を示すために光学機能面より外側に平坦な反射鏡面18として形成された基準面と、を備えること特徴とする光学素子(光学レンズ10)が提供される。かかる構成によれば、平坦な反射鏡面として形成された基準面を光学素子が備えるので、基準面から反射した反射光を測定することにより光学素子の光軸の方向が確認される。よって、光学ユニット(鏡筒20)の組立に際して、光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを測定しながら、光学ユニットに光学素子を組込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および光学ユニットの組立方法に係り、特に光学素子の光軸の傾きの調整および検証に適した光学素子および光学ユニットの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カメラやテレビカメラ等の撮影装置に適用される光学ユニットの組立工程に際しては、光学ユニットに複数の光学レンズを組込んだ状態で、光学系の結像状態を顕微鏡等で観察しながら解像度のレベルを向上するための調整が行われる。この調整により、光学ユニットを構成する光学レンズの光軸の傾きや偏心に起因した光学性能の低下が抑制される。
【0003】
従来、この種の傾き調整や偏心調整に際しては、まず、必要に応じて調整対象以外の一部の光学レンズが光学ユニットから取外され、調整対象の光学レンズを保持する保持部材の締付が緩められる。そして、当該光学レンズが単体でまたは保持部材とともに傾けられ、光軸を中心として回転され、または光軸に垂直な面内で移動されることで、傾きや偏心が調整されていた。
【0004】
また、下記特許文献1には、光学レンズの光学機能面とフランジ面との境界部に設けられた屈曲部を、同軸落射法により撮影して画像処理を施した上で、撮影画像に明瞭に現れる屈曲部の配置を測定することにより、光学ユニットに組込まれた光学レンズの光軸中心を検証する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−134672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の組立工程に際しては、光学ユニットに全ての光学レンズを組込んだ状態で光学系の結像状態を検証した後に調整対象の光学レンズを調整するので、傾き調整や偏心調整に際して光学ユニットの分解作業が必要となる。また、上記特許文献1に開示されている検証方法は、光学ユニットに組込まれた光学レンズの光軸中心を正確に検証することができる優れた方法であるが、光学ユニットと光学レンズとの間で光軸の傾きを十分に検証することができない。さらに、従来の組立工程では、光学ユニットに設けられた基準面に対して光学レンズを単に突当てることにより光学レンズの光軸の傾きを調整するので、組立精度を十分に得ることができない。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学ユニットの組立に際して、光軸の傾きの調整および検証に適した、新規かつ改良された、光学素子および光学ユニットの組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、入射した光を屈折または反射させるための光学機能面と、光軸の方向を示すために光学機能面より外側に平坦な反射鏡面として形成された基準面と、を備えること特徴とする光学素子が提供される。
【0009】
かかる構成によれば、平坦な反射鏡面として形成された基準面を光学素子が備えるので、基準面から反射した反射光を測定することにより光学素子の光軸の方向が確認される。よって、光学ユニットの組立に際して、光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを測定しながら、光学ユニットに光学素子を組込むことができる。
【0010】
また、上記光学素子が光学レンズとして形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、光学ユニットの組立に際して、光学ユニット内で光学レンズの光軸の傾きを測定しながら、光学ユニットに光学レンズを組込むことができる。
【0011】
また、上記基準面が光軸に直交する面であるようにしてもよい。かかる構成によれば、光軸に直交する面として形成された基準面を光学素子が備えるので、光学素子の光軸に平行な投射光を投射することにより、光学素子の光軸に平行な反射光が測定される。
【0012】
また、上記光学機能面より外側にフランジ部を有し、基準面がフランジ部を構成する面に形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、フランジ部を構成する面に形成された基準面を光学素子が備えるので、投射光が基準面に対して確実に投射されるとともに、光学素子の光軸の傾きが確実に測定される。
【0013】
また、上記基準面が算術平均粗さ(Ra)20nm以下で形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、反射特性の高い基準面を光学素子が備えるので、投射光が基準面で確実に反射される。
【0014】
また、上記光学素子がガラスで形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、光軸の傾きの調整および検証に適した、ガラスからなる光学素子が形成される。
【0015】
また、上記光学素子がプラスチックで形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、光軸の傾きの調整および検証に適した、プラスチックからなる光学素子が形成される。
【0016】
また、上記フランジ部に形成された基準面の背面側には、光軸と同軸で光軸の方向に突出した略円筒面が形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、光軸と同軸で光軸の方向に突出した略円筒面が形成されたフランジ面を光学素子が備えるので、略円筒面と光学素子の装着面との直接的または間接的な接触を介して、光学素子が光学ユニットに組込まれる。
【0017】
さらに、本発明の他の観点によれば、光学素子の光軸の方向を示すために平坦な反射鏡面として光学素子に形成された基準面に投射光を投射する工程と、基準面から反射した反射光を測定する工程と、光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを調整する工程と、を含むことを特徴とする光学ユニットの組立方法が提供される。
【0018】
かかる方法によれば、平坦な反射鏡面として光学素子に形成された基準面に投射光が投射されるので、基準面から反射した反射光を測定することにより光学素子の光軸の方向が確認される。よって、光学ユニットの組立に際して、光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを測定しながら、光学ユニットに光学素子を組込むことができる。
【0019】
また、上記光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを検証する工程をさらに含むようにしてもよい。かかる方法によれば、光学素子の光軸の傾きが光学ユニットに組込まれた状態で検証される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、光学ユニットの組立に際して、光軸の傾きの調整および検証に適した、光学素子および光学ユニットの組立方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、光学素子の一例である光学レンズに本発明が適用される場合について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、光学レンズに限らず、例えば凹面鏡や凸面鏡等のミラー、固浸レンズ、固浸ミラー、プリズム等の光学素子にも適用可能なものである。
【0022】
以下に、添付した図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
まず、本発明の一実施形態に係る光学レンズについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光学レンズを示す説明図である。なお、図1(a)には光学レンズの断面図が示されており、図1(b)には図1(a)に示される光学レンズを右側から見た場合の平面図が示されている。
【0024】
図1に示すように、光学レンズ10には、例えば凸状の非球面からなる第1および第2の光学機能面12a、14aと、光学機能面12a、14aの外縁を各々に構成する第1および第2のフランジ面12b、14bとが設けられる。第1のフランジ面12bには、例えば、光学レンズ10の光軸P1方向に突出し、光軸P1と略直交する突起面16aおよび光軸P1と略同軸の円筒面16bを有する突起部16が設けられる。突起部16は、光学レンズ10をレンズ枠24(図5(c)参照)に装着する際に、突起面16aおよび円筒面16bにより装着時の位置決め精度を向上させるとともに、接触面積の拡大により光学レンズ10とレンズ枠24との接着強度を向上させる。一方、第2のフランジ面14bは、この場合には光学レンズ10の光軸P1と略直交するように形成される。
【0025】
ここで、光学レンズ10の光学機能面とは、光学レンズの有効径(光軸上の無限遠点から出て光学レンズを通過すべき平行光線束の、光軸に垂直な断面の直径)の範囲を含む外側までの範囲を示しており、有効径の範囲のみを対象とする成形では、光学レンズとしての機能を実現するための設計形状に従って加工することが困難であるため、有効径の範囲とともに光学レンズとしての機能を実現するための所定の設計形状で成形される範囲を意味する。
【0026】
この種の光学レンズ10は、射出成形法やプレス成形法等により成形される。射出成形法とは、型締、射出、保圧、冷却、可塑化、型開の各工程により、成形素材から光学レンズを成形する成形法である。射出成形法では、例えば、成形型を射出圧以上の圧力で締付け、成形型内に成形素材を注入し、成形素材に印加された圧力を維持し、成形素材を冷却・硬化させることにより所望の光学レンズが成形される。また、プレス成形法とは、光学機能転写面を含む転写面を備えた一対の成形型と、成形型が内挿される胴型とにより、成形素材から光学レンズを成形する成形法である。プレス成形法では、例えば、一方の成形型に成形素材を載置し、成形素材を加熱軟化した状態で一対の成形型で加圧して転写面を転写し、転写を維持した状態で成形素材を冷却することにより所望の光学レンズが成形される。ここで、光学レンズ用の成形素材としては、ガラス、プラスチック等の成形素材が用いられる。
【0027】
ここで、第2のフランジ面14bには、後述するように、オートコリメータ30からの平行光束が投射され、第2のフランジ面14bにより反射された平行光束が受光装置37等を介して点像として観測される。このため、第2のフランジ面14bには、反射特性を十分に確保するために、射出成形法やプレス成形法により成形された光学レンズ10に対して、例えば研磨パッドや研磨材等を用いた研磨加工により鏡面処理が施され、反射鏡面18が形成される。なお、第2のフランジ面14bを転写する成形型が十分な面精度を伴う場合には、成形後の第2のフランジ面14bが鏡面処理を施されることなしに反射鏡面18として機能しうる。ここで、反射鏡面18は、この場合には光学レンズ10の光軸P1と正確に直交するように形成される。
【0028】
反射鏡面18が第2のフランジ面14bに形成されることにより、十分な面積の反射面が確保され、オートコリメータ30からの平行光束が反射鏡面18に確実に投射される。また、光学レンズ10の光軸P1から離隔した位置に反射鏡面18が形成されることで、反射鏡面18により反射され、受光装置37等を介して観測される点像には、鏡筒20の光軸P0と光学レンズ10の光軸P1との間の傾きが明瞭に現れる。
【0029】
なお、本実施形態では、光学機能面12a、14aより外側にフランジ面12b、14bが形成されているが、例えば、光学機能面12a、14aより外側に十分な大きさのコバ部が形成される場合や光学レンズが十分な外径寸法を有する場合等には、フランジ面12b、14bを設けずに、光学機能面12a、14aより外側の領域に反射鏡面を形成するようにしてもよい。また、本実施形態では、反射鏡面18が第2のフランジ面14bの外周の全域に亘って形成されているが、オートコリメータ30からの平行光束が投射される部分にのみ形成されるようにしてもよい。
【0030】
次に、本発明の一実施形態に係る光学レンズ10を含む鏡筒20の組立に際して、鏡筒20に組込まれた光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0との間の傾きを調整および検証するために用いられるオートコリメータ30について説明する。図2は、一般的なオートコリメータの構成を示す模式図である。
【0031】
図2に示すように、オートコリメータ30は、光源31、光源31から放射される光の一部を透過させるターゲット32、放射光の一部を反射部材50に反射するハーフミラー33、およびコリメータレンズ34からなるオートコリメータ光学系35と、オートコリメータ光学系35の配置を調整する支持装置36と、を含む。また、オートコリメータ30による測定に際しては、ミラー等の反射部材50と、反射光を受光する受光素子を含む受光装置37と、受光装置37で受光された平行光束を表示するモニター等の表示装置38とが用いられる。
【0032】
オートコリメータ30により測定対象52の傾きを測定する際には、まず、光源31からの放射光がターゲット32に設けられたスリット(不図示)を透過し、その透過光がハーフミラー33で分岐される。この分岐光がコリメータレンズ34により平行光束となり、その平行光束が測定対象52に設置された反射部材50に投射される。次に、反射部材50により反射された平行光束がコリメータレンズ34に入射して集光され、コリメータレンズ34の焦点位置に配置された受光装置37により受光される。
【0033】
図2に示すように、反射部材50には平行光束40aが投射される。ここで、反射部材50が傾いていない場合には、反射された平行光束40bが投射された平行光束40aと実質的に同一の光路を経由してコリメータレンズ34に入射され、集光されて受光装置37により受光される。一方、反射部材50が傾いている場合には、平行光束40b’が投射された平行光束40aの光路と異なる光路を経由してコリメータレンズ34に入射され、集光されて受光装置37により受光される。よって、受光装置37等を介して観測される点像は、反射部材50が設置されている測定対象52が傾いている場合には、測定対象52が傾いていない場合に観測される点像の位置からずれている状態で観測されるので、測定対象52の傾きが測定される。
【0034】
次に、前述したようなオートコリメータ30を用いて、鏡筒20に光学レンズ10を組込む際の工程について説明する。図3〜8は、鏡筒に光学レンズを組込む際の工程を各々に示す概略説明図である。なお、図4および図7は、各々に図3および図6の要部を拡大して示す部分拡大図である。
【0035】
図3に示すように、光学レンズ10の組込みに際しては、前述したオートコリメータ30等とともに組立治具60および吸着治具70が用いられる。
【0036】
組立治具60は、様々な用途で用いられるが、ここで説明する光学レンズ10の組込みに際しては、主に鏡筒20の設置・固定用途で用いられる。組立治具60には、加工精度の高い受面62と、鏡筒20の内径よりも大きな開口部64が設けられる。以下では、説明の便宜上、断面図上で、開口部64の両側に位置する受面を各々に第1および第2の受面62a、62bとも称するが、第1および第2の受面62a、62bは、実質的に同一の平面を構成する。第1の受面62aには、固定部材66が設けられており、第1の受面62aに設置された鏡筒20が固定部材66に備えられた位置決め部材(例えば、不図示の位置決めピン等)を介して固定部材66により所定の位置に固定される。
【0037】
吸着治具70は、吸引装置(不図示)に接続されており、吸着面72に設けられた吸引孔(不図示)に作用する吸引力により吸着面72に光学レンズ10を吸着させた状態で、操作装置(不図示)等による操作を介して光学レンズ10を移動させることができる。吸着治具70には、アラインメント調整手段74が設けられており、吸着面72の配置および傾きが組立治具60の受面62に対して調整される。なお、後述する図6および図8では、表示の便宜上、吸着治具70の一部が省略されている。
【0038】
光学レンズ10の組込みに際して、第1の工程では、図3に示すように、吸着治具70の吸着面72のアラインメントが組立治具60の受面62に対して調整される。この工程では、まず、図3(a)に示すように、第2の受面62bに基準ミラー80aが設置されるとともに、吸着面72に他の基準ミラー80bが吸着される。なお、基準ミラー80a、80bの各々では、両方の面が正確に平行に形成されている。ここで、組立治具60の開口部64には、第2の受面62bに設置された基準ミラー80aと吸着面72に吸着された基準ミラー80bとの反射面が略平行となるように、吸着治具70が配置される。
【0039】
この状態で、図3(b)に示すように、オートコリメータ30を用いて、以下のように吸着面72のアラインメント調整が行われる。すなわち、2つの基準ミラー80a、80bの反射面に対向するように、オートコリメータ30が設置され、その配置が支持装置36により調整される。そして、オートコリメータ30から出射する平行光束42aが基準ミラー80a、80bの反射面に投射され、反射面により反射された平行光束42b(または42b’)が受光装置37により受光される。これにより、オートコリメータ30による観察像は、例えば図4に示すような2つの点像44a、44b(または44b’)として表示装置38の画面上に表示される。
【0040】
ここで、図4(a)に示すように、2つの点像44a、44b’の位置が相互にずれていれば、2つの基準ミラー80a、80bの反射面が平行状態にない(受面62と吸着面72とが平行状態にない)ことを意味するので、吸着面72のアラインメント調整が必要となる。この場合には、表示装置38の画面上に表示される2つの点像44a、44b’の位置を確認しながら、吸着面72のアラインメントがアラインメント調整手段74を用いて調整される。
【0041】
この調整により、図4(b)に示すように、2つの点像44a、44bの位置が互いに重なり合うようになれば、2つの基準ミラー80a、80bの反射面が平行状態にある(受面62と吸着面72とが平行状態にある)ことを意味するので、吸着面72のアラインメント調整が終了する。所定のアラインメント精度が確保されると、第1の工程が終了し、基準ミラー80a、80bを取外した上で、第2の工程が実施される。
【0042】
第2の工程では、図5に示すように、組立治具60に鏡筒20が固定される。この工程では、まず、図5(a)に示すように、吸着治具70の吸着面72に光学レンズ10が吸着される。ここで、アラインメントが調整された状態で吸着面72に光学レンズ10が吸着されるので、光学レンズ10の光軸P1が組立治具60の受面62に対して直交するように正確に配置される。
【0043】
なお、光学レンズ10の吸着に際しては、吸着治具70が移動せずに、光学レンズ10が他の移送手段により移送され、吸着治具70に吸着されることが望ましい。一方、吸着治具70の移動により調整済みのアラインメントに誤差が生じないようであれば、吸着治具70が移動することにより、他の場所に配置された光学レンズ10が吸着され、所定の位置に配置されるようにしてもよい。
【0044】
この状態で、図5(b)に示すように、組立治具60の第1の受面62aに鏡筒20が設置され、位置決め部材(不図示)を介して固定部材66により所定の位置に固定される。鏡筒20の端部には、鏡筒20の光軸P0と正確に直交する基準面22が設けられており、鏡筒20の基準面22が組立治具60の第1の受面62aに当接された状態で、鏡筒20が組立治具60に固定される。これにより、鏡筒20は、鏡筒20の光軸P0が組立治具60の受面62に対して直交するように正確に固定される。
【0045】
ここで、鏡筒20の内側には光学レンズ10が装着されるレンズ枠24が予め組立てられている。図5(c)に示すように、レンズ枠24には、光学レンズ10の第1のフランジ面12b(円筒面16bを含む)に相応するレンズ装着面24aが形成されており、レンズ装着面24aには光学レンズ10の光軸調整に必要とされる調整代が確保されている。以上で第2の工程が終了し、第3の工程が実施される。
【0046】
第3の工程では、図6(a)に示すように、レンズ枠24に配置された光学レンズ10の光軸P1の傾きが調整される。この工程では、まず、図6(a)に示すように、組立治具60の第2の受面62bに基準ミラー80aが設置される。この状態で、オートコリメータ30を用いて、以下のように光学レンズ10の光軸P1の傾きが調整される。すなわち、基準ミラー80aの反射面と光学レンズ10の反射鏡面18とに対向するように、オートコリメータ30が設置され、支持装置36により調整される。ここで、オートコリメータ30は、第1の工程とは異なり、組立治具60の受面62と反対側に配置される。そして、オートコリメータ30からの平行光束46aが組立治具60の開口部64を介して反射面および反射鏡面18に投射され、反射面および反射鏡面18により反射された平行光束46b(または46b’)が受光装置37により受光される。これにより、オートコリメータ30による観察像は、例えば図7に示すような2つの点像48a、48b(または48b’)として表示装置38の画面上に表示される。
【0047】
ここで、図7(a)に示すように、2つの点像48a、48b’の位置が相互にずれている場合には、反射面と反射鏡面18とが平行状態にない(光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0とが平行状態にない)ことを意味するので、レンズ枠24に配置された光学レンズ10の光軸P1の傾きの調整が必要となる。この場合には、表示装置38の画面上に表示される2つの点像48a、48b’の位置を確認しながら、例えば図6(b)に示すように、吸着治具70の操作装置を用いて、レンズ装着面24aの調整代の範囲内で光学レンズ10の光軸P1の傾きが調整される。
【0048】
一方、図7(b)に示すように、2つの点像48a、48bの位置が互いに重なり合う場合には、反射面と反射鏡面18とが平行状態にある(光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0とが平行状態にある)ことを意味するので、光学レンズ10の光軸P1の傾きの調整が必要とされない。よって、所定の調整精度が確保されているので、第1のフランジ面12b(円筒面16bを含む)とレンズ装着面24aとの間に接着剤が充填されることで、レンズ枠24に光学レンズ10が装着・固定される。
【0049】
ここで、光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0との間の傾きが組立治具60の受面62を介して調整されている。鏡筒20の内側に別部品であるレンズ枠24を組立てる際には、その組立精度の確保が不十分となる場合があるが、光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0との間の傾きが調整されているので、レンズ枠24の組立精度が光学レンズ10の組込みに及ぼす影響が緩和される。これにより、第3の工程が終了し、吸着治具70が取外される。なお、必要に応じて組立精度を検証する場合には、以下の検証工程が実施される。
【0050】
検証工程では、図8(a)に示すように、鏡筒20に組込まれた光学レンズ10の光軸P1の傾きが検証される。この工程では、第3の工程と同様に、光学レンズ10が組込まれた鏡筒20が組立治具60に固定され、オートコリメータ30が設置される。そして、オートコリメータ30からの平行光束49aが基準ミラー80aの反射面および反射鏡面18に投射され、反射面および反射鏡面18により反射された平行光束49b(または49b’)が受光装置37により受光され、オートコリメータ30による観察像が表示装置38の画面上で確認される。
【0051】
ここで、図7(a)に示す第3の工程と同様に、2つの点像の位置が相互にずれている場合には、反射面と反射鏡面18とが平行状態にない(光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0とが平行状態にない)ことを意味するので、鏡筒20に組込まれた光学レンズ10の光軸P1の傾きの調整が必要となる。この場合には、表示装置38の画面上に表示される2つの点像の位置を確認しながら、例えば図8(b)に示すように、吸着棒等の調整手段90を用いて、光学レンズ10の光軸P1の傾きが調整される。なお、この場合には、光学レンズ10とレンズ枠24との接着には、硬化遅延性の接着剤が用いられることが望ましい。
【0052】
一方、図7(b)に示す第3の工程と同様に、2つの点像の位置が互いに重なり合う場合には、反射面と反射鏡面18とが平行状態にある(光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0とが平行状態にある)ことを意味する。よって、光学レンズ10の光軸P1の傾きが検証されたことで、検証工程が終了する。
【0053】
ここで、光学レンズ10の光軸P1と鏡筒20の光軸P0との間の傾きには、例えば、組立治具60の受面62、吸着治具70の吸着面72、鏡筒20の基準面22等の加工精度やレンズ枠24の組立精度が影響を及ぼす。出願人等の実証試験では、前述の加工精度が(1/60)°以内、前述の組立精度が(2/60)°以内の条件下で光学レンズ10の組込みが行われ、光学レンズ10の光軸P1の調整を検証後に必要としない精度の範囲で光学レンズ10の組込みを行うことができた。また、反射鏡面18としては、最大外径約8mmの光学レンズ10に対して、幅約1mmを有する第2のフランジ面14bが光学機能面12a、14aに相当する算術平均粗さ(Ra)20nm程度に鏡面処理された。これにより、オートコリメータ30からの平行光束が拡散されずに正反射されることで、反射鏡面18の良好な反射特性が確認された。
【0054】
以上のような本実施形態の光学レンズ10によれば、平坦な反射鏡面18として形成された基準面を備えるので、基準面から反射した反射光を測定することにより光学レンズ10の光軸P1の方向が確認される。よって、鏡筒20の組立に際して、光学レンズ10の光軸P1の傾きを測定しながら、鏡筒20に光学レンズ10を組込むことができる。このため、鏡筒20の分解作業を必要とすることなしに、鏡筒20に組込まれた状態で、光学レンズ10の光軸P1の傾きが調整され、必要に応じて検証される。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0056】
例えば、上記実施形態の説明では、光学素子の一例である光学レンズ10に本発明が適用される場合について説明した。しかしながら、本発明は、光学レンズ以外の例えば凹面鏡や凸面鏡等のミラー、固浸レンズ、固浸ミラー、プリズム等の光学素子にも同様に適用可能なものである。すなわち、光学レンズ以外の光学素子においても、平坦な反射鏡面として形成された基準面を備えることにより、基準面から反射した反射光を測定することで、光学素子の光軸の方向が確認される。よって、光学ユニットの組立に際して、光学ユニット内で光学素子の光軸の傾きを測定しながら、光学ユニットに光学素子を組込むことができる。
【0057】
また、上記実施形態の説明では、光学レンズ10が光軸P1に直交する面として形成された基準面(反射鏡面18)を備える場合について説明した。しかしながら、本発明は、光軸に直交する基準面を備える光学レンズに限らず、例えば、光軸に対して所定の角度で傾斜する基準面を備える光学素子にも同様に適用可能なものである。例えば、光軸に対して所定の角度で傾斜した基準面やフランジ部の側面に基準面を備える場合でも、基準面に対するオートコリメータや治具の配置角度を適切に調整することで、光学ユニット内における光学素子の光軸の傾きが調整および検証される。
【0058】
また、上記実施形態の説明では、光学レンズ10の基準面(反射鏡面18)から反射した反射光の点像をオートコリメータ30を用いて観察しながら、光学レンズ10の光軸P1の傾きを調整および検証する場合について説明した。しかしながら、本発明は、オートコリメータを用いる場合に限らず、例えば、干渉計等の測定装置を用いる場合にも同様に適用可能なものである。例えば、光学素子の基準面から反射した反射光の干渉縞の状態(間隔や方向等)を干渉計で観察しながら、光学ユニット内における光学素子の光軸の傾きが調整および検証される。
【0059】
また、上記実施形態の説明では、光学ユニットの一例として鏡筒20に光学レンズ10を組込む場合について説明したが、本発明の適用はかかる場合に限定されるものではない。すなわち、例えば光学ピックアップ装置やカメラ機能付き携帯電話機の光学レンズ収納部に光学素子を組込む場合についても同様に適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学レンズを示す説明図である。
【図2】一般的なオートコリメータの構成を示す模式図である。
【図3】鏡筒に光学レンズを組込む際の第1の工程を示す概略説明図である。
【図4】図3の要部を拡大して示す部分拡大図である。
【図5】鏡筒に光学レンズを組込む際の第2の工程を示す概略説明図である。
【図6】鏡筒に光学レンズを組込む際の第3の工程を示す概略説明図である。
【図7】図6の要部を拡大して示す部分拡大図である。
【図8】鏡筒に組込まれた光学レンズの検証工程を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 光学レンズ
12a、14a 光学機能面
12b、14b フランジ面
18 反射鏡面
20 鏡筒
22 基準面
24 レンズ枠
30 オートコリメータ
40a、40b、42a、42b、46a、46b、49a、49b 平行光束
60 組立治具
62 受面
64 開口部
70 吸着治具
72 吸着面
80a、80b 基準ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を屈折または反射させるための光学機能面と、
光軸の方向を示すために前記光学機能面より外側に平坦な反射鏡面として形成された基準面と、
を備えること特徴とする光学素子。
【請求項2】
光学レンズとして形成されることを特徴とする、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記基準面が前記光軸に直交する面であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記光学機能面より外側にフランジ部を有し、前記基準面が前記フランジ部を構成する面に形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記基準面が算術平均粗さ(Ra)20nm以下で形成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
ガラスで形成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子。
【請求項7】
プラスチックで形成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
前記フランジ部に形成された前記基準面の背面側には、前記光軸と同軸で前記光軸の方向に突出した略円筒面が形成されることを特徴とする、請求項4〜7のいずれかに記載の光学素子。
【請求項9】
光学素子の光軸の方向を示すために平坦な反射鏡面として前記光学素子に形成された基準面に投射光を投射する工程と、
前記基準面から反射した反射光を測定する工程と、
前記光学ユニット内で前記光学素子の光軸の傾きを調整する工程と、
を含むことを特徴とする光学ユニットの組立方法。
【請求項10】
前記光学ユニット内で前記光学素子の光軸の傾きを検証する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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