説明

光学素子の成形装置

【課題】金型調整の手間が不要でありながら、高精度な成形を行える光学素子の成形装置を提供する。
【解決手段】型締め時に、突き出した第1の入れ子12の突き当て面12cが、第2の入れ子22の突き当て面22cに突き当たると、面同士が倣うようになるため、第2の入れ子22に対して第1の入れ子12が傾くようなモーメントを受ける。第1の入れ子12は、第1の金型部材11に対してコイルスプリング14により傾き可能に支持されているので、かかるモーメントに従いコイルスプリング14の付勢力に抗して傾くが、突き当て面12c、22cが光軸X1,X2に対して直交しているので、これにより光軸X1,X2を整列させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の成形装置に関し、特に高精度な光学素子の成形に好適な成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の射出成形に光学素子を成形すると、高精度な形状を有する光学素子を大量生産できるというメリットがある。ところで、通常は、それぞれ成形転写面を有する一対の金型を用いて光学素子を成形するが、成形転写面の光軸が傾いた状態で成形を行うと、成形された光学素子を通過する光束にコマ収差が発生する恐れがある。これに対し特許文献1には、シフト調整手段とチルト調整手段と固定手段とを、いずれか一方の金型に備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−259245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、チルト手段を用いることで作業者が金型のチルトを調整できるが、構成が複雑であると共に、調整の手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、金型調整の手間が不要でありながら、高精度な成形を行える光学素子の成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の成形装置は、第1の成形転写面及び第1の突き当て面を備えた第1の入れ子と、前記第1の入れ子を保持する第1の金型部材と、前記第1の成形転写面及び第1の突き当て面に対向して第2の成形転写面及びと第2の突き当て面を備えた第2の入れ子と、前記第2の入れ子を保持する第2の金型部材とを有する光学素子の成形装置において、
前記第1の金型部材に対して前記第1の入れ子が、前記第1の成形転写面の光軸を傾け可能に支持されており、
型締め時に、前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面が当接することにより、前記第1の成形転写面の光軸と前記第2の成形転写面の光軸とが整列することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、例えば前記第1の突き当て面に対して前記第1の成形転写面の光軸を直交させ、前記第2の突き当て面に対して前記第2の成形転写面の光軸を直交させておけば、前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面を当接させることにより、前記第1の成形転写面の光軸と前記第2の成形転写面の光軸とが自然に整列するので、光軸の傾きを調整する必要がなく、高精度な光学素子の成形を行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の光学素子の成形装置は、請求項1に記載の発明において、前記第1の金型部材と前記第1の入れ子との間に弾性体が配置されていることを特徴とする。前記弾性体が弾性変形することで、前記第1の金型部材に対して前記第1の入れ子が傾き可能となるため、前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面を当接させることにより、前記第1の成形転写面の光軸と前記第2の成形転写面の光軸とを整列させることができる。尚、以上に加えて前記第2の金型部材と前記第2の入れ子との間に弾性体を配置しても良い。
【0009】
請求項3に記載の光学素子の成形装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記弾性体は金属であることを特徴とする。これにより十分な耐久力を確保できる。但し、弾性体は樹脂やゴム、セラミック等でも良い。又、固体の弾性体の代わりに、静圧軸受等を用いて流体を介して支持しても良い。
【0010】
請求項4に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記第1の金型部材の端面から前記第1の入れ子の前記第1の突き当て面が突出していることを特徴とする。これにより型締め時に前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面を当接させることができる。
【0011】
請求項5に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記第2の金型部材の端面から前記第2の入れ子の前記第2の突き当て面が突出していることを特徴とする。これにより型締め時に前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面を当接させることができる。
【0012】
請求項6に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記第1の成形転写面は、一体加工又は同時加工された第1の光学面成形面と第1のフランジ成形面とを有することを特徴とする。これにより高精度な成形転写面を得ることができる。尚、「一体加工」とは、入れ子が1部品からなり、光学面成形面とフランジ成形面とを連続して加工することをいい、「同時加工」とは、入れ子が複数の部品からなり、複数の部品を入れ子として組み付けた状態で、光学面成形面とフランジ成形面とを連続して加工することをいう。加工難易度や構造に応じて、必要な入れ子を選択できる。
【0013】
請求項7に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記第2の成形転写面は、一体加工又は同時加工された第2の光学面成形面と第2のフランジ成形面とを有することを特徴とする。これにより高精度な成形転写面を得ることができる。
【0014】
請求項8に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記第1の金型部材が固定され、前記第2の金型部材が移動することを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記第2の金型部材が固定され、前記第1の金型部材が移動することを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の光学素子の成形装置は、請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記第1の成形転写面と前記第2の成形転写面の光軸は、型締め前に0.04°以下の角度で傾いていることを特徴とする。金型加工公差もしくは組み付け誤差に起因して0.03°前後の光軸の傾きが予想されるので、本発明により、かかる不具合を解消できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型調整の手間が不要でありながら、高精度な成形を行える光学素子の成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施の形態である成形装置の断面図であり、かかる成形装置を用いて成形する工程を示している。
【図2】第2実施の形態である成形装置の断面図である。
【図3】第3実施の形態である成形装置の断面図であり、かかる成形装置を用いて成形する工程を示している。
【図4】第4実施の形態である成形装置の断面図であり、かかる成形装置を用いて成形する工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、光学素子としてのレンズを、成形装置を用いて成形する工程を示す図である。成形装置は、第1の型10と第2の型20とを含む。尚、以下の図面中の金型部材と入れ子間の隙間は誇張して示している。
【0020】
第1の型10は、貫通した開口11aを有する第1の金型部材11と、開口11a内に配置され、一端側に光学面転写面12aとフランジ転写面12bと突き当て面12cとを一体加工で形成した円筒状の第1の入れ子12と、開口11aの端部を閉止する第1のホルダ13と、開口11a内において第1のホルダ13と第1の入れ子12との間に配置された弾性体であるコイルスプリング14とを有する。第1の入れ子12の端面は、第1の金型部材11の端面から突き出している。突き当て面12cは、光学面転写面12aにおける光軸X1に対して直交している。開口11aの内径に対し、第1の入れ子12の外径は小さく、開口11a内で第1の入れ子12は傾き可能となっている。
【0021】
一方、第2の型20は、貫通した開口21aを有する第2の金型部材21と、開口21a内に配置され、第1の入れ子12に対向する端部側に、光学面転写面22aとフランジ転写面22bと突き当て面22cとを一体加工で形成した円筒状の第2の入れ子22と、開口21aの端部を閉止する第2のホルダ23とを有する。突き当て面22cは、光学面転写面22aにおける光軸X2に対して直交している。開口21aに対し第2の入れ子22は嵌合しており、従って開口21a内で第2のホルダ23により第2の入れ子22は位置を固定されている。
【0022】
ここで、第1の型10は固定され、第2の型20が不図示の油圧シリンダ等により可動され、第1の型10に対して光軸方向(図1で左右方向)に相対移動可能となっている。
【0023】
次に、本実施の形態の成形装置を用いた光学素子の成形方法について説明する。ここでは、図1に示すように、固定された第2の金型部材21に固定された第2の入れ子22の光学面転写面22aにおける光軸X2は、第1の入れ子12の光学面転写面12aにおける光軸X1に対して角度θで傾いているものとする。一般的には、金型加工公差もしくは組み付け誤差に起因して0.03°前後の光軸の傾きが予想される。但し、第1の型10と第2の型20の光軸直交方向の位置決めは精度良く行われているものとする。
【0024】
まず、第2の型20に対向するようにして第1の型10をセットする。かかる初期状態では、光軸X2と光軸X1は傾いたままである。その後、図1(b)に示すように、第2の型20に対して第1の型10を相対的に接近させ密着させて、所定の保圧にて型締めを行う。
【0025】
このとき、金型部材11,12の端面同士が突き当たる前に、第1の入れ子12の突き当て面12cが、第2の入れ子22の突き当て面22cに突き当たり、これにより面同士が倣うようになるため、第2の入れ子22に対して第1の入れ子12が傾くようなモーメントを受ける。第1の入れ子12は、第1の金型部材11に対してコイルスプリング14により傾き可能に支持されているので、かかるモーメントに従いコイルスプリング14の付勢力に抗して傾くが、突き当て面12c、22cが光軸X1,X2に対して直交しているので、これにより光軸X1,X2を整列させることができる。従って、光学面転写面12a、22aが同軸に整列することとなる。
【0026】
更に第1の型10と第2の型20とを不図示のヒータにより加熱することにより、型締め時点での光学面転写面12a、22aを所定温度まで加熱した後、不図示のノズルからゲートを介して任意の圧力に加圧された状態で樹脂を供給する。
【0027】
次に、溶融した樹脂が光学面転写面12a、22a,フランジ転写面12b、22bの形状を転写した状態で固化した後、型温度を低下させて樹脂を冷却して固化させる。
【0028】
その後、図1(c)において、第1の型10と第2の型20とを相対的に移動させて型開きを行い、光学面転写面12a、22aから形成された光学面と,フランジ転写面12b、22bから形成されたフランジ部をと有する光学素子OEを取り出すことができる。このとき、第2の入れ子22に対して第1の入れ子12が傾く方向のモーメントが消失するので、第1の入れ子12は元の傾き角度に復帰する。
【0029】
図2は、第2の実施の形態にかかる成形装置の断面図である。図2に示すように、本実施の形態においては、第1の入れ子12が、円筒状のコア12dと、コア12dを嵌合したコア支持部材12fの2部品から構成されており、同時加工によって、コア12dの端面に光学面転写面12aが形成され、且つコア支持部材12fの端面にフランジ転写面12bと突き当て面12cが形成されている。第2の入れ子22を同様の構成としても良い。又、弾性体として、金属製の3つの円盤31,32,33を開口11a内において第1のホルダ13と第1の入れ子12との間に配置している。円盤31,33のヤング率は、円盤32のヤング率より小さくなっている。それ以外の構成は上述した実施の形態と同様である。
【0030】
型締め時に、突き出した第1の入れ子12の突き当て面12cが、第2の入れ子22の突き当て面22cに突き当たると、第1の入れ子12は、傾く方向にモーメントを受け、これにより主として円盤32が歪むことで、第1の入れ子12の傾きを許容するようになっている。
【0031】
図3は、第3の実施の形態にかかる成形装置の断面図である。図3(a)に示すように、本実施の形態においては、弾性体として、第1の入れ子12の周面と端面とを覆うようなカップ状のゴム部材35を、開口11a内において第1のホルダ13と第1の入れ子12との間に配置している。それ以外の構成は上述した実施の形態と同様である。
【0032】
図3(b)に示す型締め時に、突き出した第1の入れ子12の突き当て面12cが、第2の入れ子22の突き当て面22cに突き当たると、第1の入れ子12は、傾く方向にモーメントを受け、これによりゴム部材35が歪むことで、第1の入れ子12の傾きを許容するようになっている。
【0033】
図4は、第4の実施の形態にかかる成形装置の断面図である。図4(a)に示すように、本実施の形態においては、弾性体として、第1の入れ子12の周面の中央を取り巻くような管状の樹脂部材36を、開口11a内において第1のホルダ13と第1の入れ子12との間に配置している。それ以外の構成は上述した実施の形態と同様である。
【0034】
図4(b)に示す型締め時に、突き出した第1の入れ子12の突き当て面12cが、第2の入れ子22の突き当て面22cに突き当たると、第1の入れ子12は、傾く方向にモーメントを受け、これにより樹脂部材36が歪むことで、第1の入れ子12の傾きを許容するようになっている。尚、樹脂部材36を設ける代わりに、第1の金型部材11の内周の弾性を利用して、第1の入れ子12の傾きを許容することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、簡素な構成ながら、高精度な光学素子を成形できる成形装置を提供することができるが、成形の対象は光学素子に限られず、種々の製品が対象になる。弾性体は、固定側の型に設けても良いし、固体側、可動側の双方の型に設けても良い。
【符号の説明】
【0036】
10 第1の型
11 第1の金型部材
11a 開口
12 第1の入れ子
12a 光学面転写面
12b フランジ転写面
12c 突き当て面
12d コア
12f コア支持部材
13 第1のホルダ
14 コイルスプリング
20 第2の型
21 第2の金型部材
21a 開口
22 第2の入れ子
22a 光学面転写面
22b フランジ転写面
22c 突き当て面
23 第2のホルダ
31〜33 円盤
35 ゴム部材
36 樹脂部材
OE 光学素子
X1 光軸
X2 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成形転写面及び第1の突き当て面を備えた第1の入れ子と、前記第1の入れ子を保持する第1の金型部材と、前記第1の成形転写面及び第1の突き当て面に対向して第2の成形転写面及びと第2の突き当て面を備えた第2の入れ子と、前記第2の入れ子を保持する第2の金型部材とを有する光学素子の成形装置において、
前記第1の金型部材に対して前記第1の入れ子が、前記第1の成形転写面の光軸を傾け可能に支持されており、
型締め時に、前記第1の突き当て面と前記第2の突き当て面が当接することにより、前記第1の成形転写面の光軸と前記第2の成形転写面の光軸とが整列することを特徴とする光学素子の成形装置。
【請求項2】
前記第1の金型部材と前記第1の入れ子との間に弾性体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の成形装置。
【請求項3】
前記弾性体は金属であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子の成形装置。
【請求項4】
前記第1の金型部材の端面から前記第1の入れ子の前記第1の突き当て面が突出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項5】
前記第2の金型部材の端面から前記第2の入れ子の前記第2の突き当て面が突出していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項6】
前記第1の成形転写面は、一体加工又は同時加工された第1の光学面成形面と第1のフランジ成形面とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項7】
前記第2の成形転写面は、一体加工又は同時加工された第2の光学面成形面と第2のフランジ成形面とを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項8】
前記第1の金型部材が固定され、前記第2の金型部材が移動することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項9】
前記第2の金型部材が固定され、前記第1の金型部材が移動することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学素子の成形装置。
【請求項10】
前記第1の成形転写面と前記第2の成形転写面の光軸は、型締め前に0.04°以下の角度で傾いていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光学素子の成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−177924(P2011−177924A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41887(P2010−41887)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】