説明

光学素子用樹脂組成物

【課題】光弾性係数の絶対値が小さく、高い複屈折性を有し、成形体に絶対値の大きいレタデーションを付与することが可能な光学素子用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)とを含む光学素子用樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂(B)がスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)であり、前記スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量が、8質量%を超えて50質量%以下である、光学素子用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学素子を製造するために用いられる、光学素子用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より画像を鮮明に見たいという要求が高まっており、用いられる光学材料として、単に透明性を有しているだけでなく、より高度な光学特性が付与された材料が必要とされてきている。そのような光学特性の一つとして、複屈折性がある。一般に、高分子は分子主鎖方向とそれに垂直な方向とでは屈折率が異なるため、複屈折を生じる。用途によっては、この複屈折を厳密にコントロールすることが求められている。例えば、液晶の偏光板に用いられる保護フィルムの代表的なものとして、トリアセチルセルロースからなるフィルムがある。一方、この複屈折を利用することにより、直線偏光を円偏光に変えたり(1/4波長板等)、液晶が持つ複屈折を補償する(位相差フィルムなどの光学補償フィルム等)ことが可能となる。このような複屈折性光学材料としてはポリカーボネートがよく知られている。
【0003】
また、最近では、液晶ディスプレイの大型化が進んでおり、それに伴って位相差フィルムなどの高分子光学素子の大型化が必要とされてきている。しかし、光学素子を大型化すると外力の偏りが生じるため、光学素子がポリカーボネート等の外力による複屈折変化の生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じ、コントラストが不均一となるという問題点がある。外力による複屈折変化の生じやすさは光弾性係数によって表されるが、前述のポリカーボネートは、光弾性係数が大きいため、これらに代わる光弾性係数の小さい複屈折性光学材料が切望されている。
【0004】
アクリル系樹脂とスチレン系樹脂を含む樹脂組成物として、アクリル系樹脂とスチレン−メタクリル酸共重合体のブレンド物自体は知られている(特許文献1)。しかし、このブレンド物は、光学材料に用いられるものではない。
【0005】
さらに、最近は、液晶画面のさらなる高画質を求めるために、位相差フィルムの面内のレタデーションだけでなく、厚み方向のレタデーションも制御したいという要求がある。そして、近年注目されている水平電界(IPS)モード液晶ディスプレイ用の位相差フィルムの場合、厚み方向レタデーションが負の値であることが好ましい。しかし、一般的な光学フィルムである、トリアセチルセルロースやポリカーボネートからなるフィルムや、特許文献2に開示された位相差フィルムは、厚み方向のレタデーションは正の値を有する。そのため、光弾性係数の絶対値が小さいことに加え、厚み方向のレタデーションが負である光学フィルムが求められている。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−98251号公報
【特許文献2】特開2004−212971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、光弾性係数の絶対値が小さく、高い複屈折性を有し、成形体に絶対値の大きいレタデーションを付与することが可能な光学素子用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、スチレン系樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)を含む光学素子用樹脂組成物において、アクリル系樹脂(B)としてスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)を使用し、さらに、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量を特定の範囲に調整することにより、上記課題が解決できることを見出し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光弾性係数の絶対値が小さく、かつ、高い複屈折性を有する光学素子用樹脂組成物を提供することができる。本発明の光学素子用樹脂組成物は高い複屈折性を有しているため、樹脂組成物を成形して得られる成形体に、絶対値の大きい面内及び厚み方向レタデーションを付与することが可能である。また、本発明の光学素子用樹脂組成物を成形して得られる成形体は、優れた光学特性を有しているため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学素子として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、望ましい実施の形態とともに詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0011】
本発明の光学素子用樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂(B)がスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)であり、さらに、前記スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量が8質量%を超えて50質量%以下である。
【0012】
アクリル系樹脂(A)
本発明においてアクリル系樹脂(A)とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体を単量体成分として含む重合体をいう。本発明におけるアクリル系樹脂(A)の具体例としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したものが挙げられる。
【0013】
これらの中でも、メタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体は、後述するスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)との相溶性が高いため、特に好ましい。
【0014】
メタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体としては、メタクリル酸メチルの単独重合体でも、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体であってもよい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、メタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸アルキルエステル類;スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレンやα−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類が挙げられる。これらの単量体は、1種または2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0015】
これらのメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特にアクリル酸アルキルエステル類は、これを共重合させて得られるアクリル系樹脂の耐熱分解性が低下し、成形加工時の流動性が高くなる傾向があるため好ましい。なお、ここでの耐熱分解性とは、高温時でのアクリル系樹脂の分解のし易さを意味する。
【0016】
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から、単量体混合物全体に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上14質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
アクリル酸アルキルエステル類の中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量のメタクリル酸メチルと共重合させるだけでも、前述の成形加工時の流動性に関して著しい改善効果が得られるため好ましい。
【0018】
アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は、樹脂組成物成形体の強度の観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは7万以上であり、樹脂組成物の成形加工性、流動性の観点から、好ましくは20万以下、より好ましくは15万以下である。なお、ここでの重量平均分子量は、アクリル系樹脂(A)が下記の2種以上の混合物である場合には、その平均値を意味する。
【0019】
アクリル系樹脂(A)としては、組成、分子量などの異なる2種以上のスチレン系樹脂の混合物であってもよい。
【0020】
また、本発明においてはアクリル系樹脂(A)として、アイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0021】
アクリル系樹脂(A)は、市販品をそのまま用いることもでき、市販品から公知の方法で製造することもできる。アクリル系樹脂(A)を製造する方法としては、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。中でも、光学用途としては不都合な微小異物の混入を低減することが可能であるため、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
【0022】
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0023】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
【0024】
特に、90℃以上の高温下で重合を行う場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は、例えば、全体のモノマー100質量%に対して、0.005〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0025】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において一般に用いられる任意のものが使用でき、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂(A)の分子量が、上記の好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加する。
【0026】
アクリル系樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、特公昭63−1964号公報等に記載されている方法等を用いることができる。
【0027】
アクリル系樹脂(A)の未延伸時の光弾性係数は、好ましくは−60×10-12Pa-1以上、より好ましくは−30×10-12Pa-1以上、さらに好ましくは−6×10-12Pa-1以上である。アクリル系樹脂(A)の光弾性係数が上記範囲内であると、本発明の光学素子用樹脂組成物の光弾性係数の絶対値が小さくなる傾向にあるため好ましい。
【0028】
本発明における「光弾性係数」とは、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数で、これに関しては種々の文献に記載があり(例えば化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行))、下式により定義される係数である。
CR[Pa−1]=Δn/σR Δn=nx−ny
(式中、CR:光弾性係数、σR:伸張応力[Pa]、Δn:応力付加時の複屈折、nx:伸張方向と平行な方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0029】
光弾性係数の値がゼロに近いほど、外力による複屈折の変化が小さく、光学特性に優れていることを意味する。
【0030】
スチレン系樹脂(B)
本発明において、スチレン系樹脂(B)には、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)を用いる。スチレン系樹脂(B)として、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)を用いることで、得られる光学素子用成形体に、優れた耐熱性、透明性を付与することができる。
【0031】
また、本発明においては、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量を8質量%を超えて50質量%以下とすることが重要であり、9質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。メタクリル酸の含有量が8質量%を超えると、光学素子用樹脂組成物に高い複屈折性を付与することができ、50質量%以下であると光学素子用樹脂組成物に優れた透明性を付与することが可能となる。
【0032】
スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上であり、樹脂組成物の成形加工性、流動性の観点から、好ましくは80万以下、より好ましくは50万以下である。なお、ここでの重量平均分子量は、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)が下記の2種以上の混合物である場合には、その平均値を意味する。
【0033】
スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)としては、メタクリル酸の含有量が8質量%を超えて50質量%以下の範囲で、組成比、分子量などの異なる2種以上の共重合体を併用することもできる。
【0034】
また、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)は、ベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。その際の水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0035】
スチレン−メタクリル酸共重合体(B―1)は、市販品をそのまま用いることもでき、市販品から公知の方法で製造することもできる。スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)の製造方法としては、特に限定されず、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化または溶液重合法を採用することができる。中でも、光学用途としては不都合な微小異物の混入を低減することが可能であるため、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合法が好ましい。
【0036】
スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)の未延伸時の光弾性係数は、好ましくは60×10-12Pa-1以下であり、より好ましくは30×10-12Pa-1以下であり、さらに好ましくは6×10-12Pa-1以下である。スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)の光弾性係数が上記範囲内であると、本発明の光学素子用樹脂組成物の光弾性係数が小さくなる傾向にあるため好ましい。
【0037】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物中の、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の質量比((A)/(B))は、透湿度及び光学特性の観点から、好ましくは20/80〜60/40であり、より好ましくは30/70〜50/50である。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の質量比((A)/(B))を大きくすると、成形体の吸水率が大きくなる傾向を示し、逆に、質量比((A)/(B))を小さくすると、成形体の吸水率が小さくなる傾向を示す。従って、樹脂の質量比((A)/(B))を調整することにより、所望の吸水率を有する成形体を容易に製造することができる。
【0039】
また、本発明においては、樹脂組成物中に、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)以外の重合体を混合することができる。そのような重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられ、これらの1種以上を混合することができる。混合する他の重合体の割合は、樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0040】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲内で、樹脂組成物中に、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0041】
このような添加剤としては、例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;アクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤;りん系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物等の紫外線吸収剤;その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。これら添加剤の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0042】
上記各種添加剤の中でも、特に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物等の紫外線吸収剤は、これを添加した樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくする効果を有しているため好ましい。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物がより好ましい。これらは、単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0043】
添加剤は、その20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。蒸気圧(P)のより好ましい範囲は1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましい範囲は1.0×10-8Pa以下である。ここで、成形加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、添加剤のロールへの付着が少ないことなどを示す。添加剤がロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなるおそれがある。
【0044】
また、添加剤は、融点(Tm)が80℃以上である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。融点(Tm)のより好ましい範囲は130℃以上であり、さらに好ましい範囲は160℃以上である。
【0045】
さらに、添加剤は、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。重量減少率のより好ましい範囲は15%以下であり、さらに好ましい範囲は2%以下である。
【0046】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、樹脂成分、必要に応じて耐加水分解抑制剤や上記その他の成分を添加して溶融混練して製造することができる。
【0047】
光学素子用成形体
本発明の光学素子用成形体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物を、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形等、公知の方法で成形することによって製造することでき、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法を用いることもできる。
【0048】
本発明の光学素子用成形体がフィルムまたはシートの場合は、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押し出し成形することができる。押し出し成形により成形体を得る場合は、事前にアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)を溶融混錬してもよいが、押し出し成形時に溶融混錬を経て成形することもできる。またアクリル系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)に共通の良溶媒、例えば、クロロホルム等の溶媒を用いてキャスト成形し未延伸フィルム、シートを得ることも可能である。
【0049】
さらに必要に応じて、未延伸フィルム、シートを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸することができる。例えば、工業的には、ロール延伸またはテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸の組み合わせによる逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸フィルムを製造することができる。
【0050】
延伸倍率は、少なくともどちらか一方向に、好ましくは0.1%以上300%以下であり、より好ましくは1%以上200%以下であり、さらに好ましくは2%以上100%以下である。延伸倍率を上記範囲に設計することにより、複屈折、レタデーション、強度の観点で好ましい延伸成形体が得られる傾向にある。
【0051】
ここで、延伸倍率は、得られた延伸フィルム又はシートをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
【0052】
本発明において、フィルムとは厚さが300μm以下のものを意味し、シートとは厚さが300μmを超えるものを意味する。また、本発明において、フィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、シートの厚さは、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
【0053】
本発明の光学素子用成形体は、光弾性係数の絶対値が0〜5×10-12/Pa、好ましくは0〜4×10-12/Pa、より好ましくは0〜3×10-12/Paである。光弾性係数が上記範囲内であれば、外力による複屈折の変化が少ないため、これを大型の液晶表示装置等に使用した場合にコントラストや画面の均一性に優れたものとなる。光弾性係数は、樹脂成分の質量比、組成比を調整することや、上記添加剤を添加することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0054】
本発明の光学素子用成形体においては、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)を含む樹脂組成物において、スチレン系樹脂(B)として、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)を使用し、さらに、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量を、8質量%を超えて50質量%以下とすることで、成形して得られる成形体に絶対値の大きい面内レタデーション(Re)及び厚み方向レタデーション(Rth)を付与することができる。ここで、面内レタデーション(Re)と厚み方向レタデーション(Rth)は下式により定義される。
Re =(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2)−nz)×d
(式中、nx:成形体面内において屈折率が最大となる方向をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:成形体面内においてx方向に垂直な方向をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:成形体厚み方向の主屈折率、d:成形体の厚み(nm)である。)
【0055】
本発明の光学素子用成形体を1/4波長板として用いる場合、その面内レタデーション(Re)は、100nm以上190nm以下であることが好ましく、より好ましくは120nm以上160nm以下、さらに好ましくは130nm以上150nm以下である。
【0056】
また、本発明の光学素子用成形体を1/2波長板として用いる場合、その面内レタデーション(Re)の絶対値は、240以上320nm以下であることが好ましく、より好ましくは260以上300nm以下、さらに好ましくは270以上290nm以下である。Reの値は、MD、TD方向の延伸倍率、フィルム厚さ、アクリル系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)の質量比により調整することができる。
【0057】
本発明の光学素子用成形体における、厚み方向レタデーション(Rth)は、好ましくは−20nm以下、より好ましくは−60nm以下、さらに好ましくは−90nm以下である。Rthの値は、MD、TD方向の延伸倍率、フィルム厚さ、アクリル系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)の質量比により調整することができる。
【0058】
本発明の光学素子用成形体は、光弾性係数の絶対値が小さく、かつ、絶対値の大きい面内及び厚み方向レタデーションを有しているため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学素子として好適に用いることができる。
【0059】
本発明の光学素子用成形体には、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理を適宜施してもよい。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において%とは、重量%を意味する。
[測定方法]
本明細書中の物性等の測定方法は以下の通りである。
(1)複屈折及び光弾性係数の測定
Macromolecules 2004,37,1062−1066に詳細が記載された複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引っ張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は0.3%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:0.1mm/分)、試験片幅は7mmで測定を行った。複屈折(Δn)をy軸、伸張応力(σR)をx軸としてプロットし、その関係から、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きをもとめ光弾性係数(CR)を計算した。
(2)面内レタデーション(Re)及び厚み方向レタデーション(Rth)
(面内レタデーション(Re)の測定)
シックネスゲージを用いてフィルムの厚さd(nm)を測定した。この値を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、測定面が測定光と垂直になるように試料を配置し、23℃で回転検光子法により面内レタデーション(Re)を測定・算出した。
(厚み方向レタデーション(Rth)の測定)
Metricon社製レーザー屈折計Model2010を用いて、23℃で光学フィルムの平均屈折率nを測定した。そして、平均屈折率nとフィルム厚さd(nm)を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、23℃で厚み方向レタデーション(Rth)を測定・算出した。
(3)分子量の測定
(i)アクリル系樹脂(A)
東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8120+8020)カラムに、東ソー株式会社製TSKスーパーHH−M(2本)とスーパーH2500(1本)を直列に並べ、検出器として示差屈折検出器を用いた。測定試料となるアクリル系樹脂0.02gを20ccのTHF溶媒に溶解し、注入量10mL、展開流量0.3mL/minで、溶出時間と、強度を測定した。ジーエルサイエンス株式会社製の重量平均分子量が既知の単分散のメタクリル系樹脂を標準試料とした検量線を用いて、測定試料のアクリル系樹脂の重量平均分子量を求めた。
(ii)スチレン系樹脂(B)
GPC(測定装置:東ソー(株)製GPC−8020、検出:示差屈折検出器(RI)、カラム:昭和電工製Shodex K−805、801連結)を用い、溶媒はクロロホルム、測定温度40℃で、市販標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
(4)ヘイズの測定
フィルムのヘイズ値をASTM D1003に準拠し測定した。
(5)ガラス転移温度(Tg)の測定
DSC−7型(パーキン・エルマー社製)を用い、室温から200℃までの昇温測定において、昇温速度20℃/分で原反フィルムサンプル重量8.0〜10mgのTgを測定した。
(6)スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸含有量の測定
試料となるスチレン−メタクリル酸共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定を行なった。測定結果より、スチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)とメタクリル酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位とメタクリル酸単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:メタクリル酸単位=104:86)から、スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸含有量を求めた。
【0061】
[原料の準備]
(1)アクリル系樹脂(A)
メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、アクリル系樹脂(A)であるメタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体ペレットを得た。得られた共重合体のアクリル酸メチル含量は6.0%、重量平均分子量は145,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。また、23℃における光弾性係数(未延伸)は、−4.4×10-12/Paであった。
【0062】
(2)スチレン系樹脂(B)
(i)スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−1)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン74.4質量%、メタクリル酸5.6質量%、エチルベンゼン20質量%を調合液とし、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いた。この調合液を1L/hr.の速度で、連続して内容積2Lの攪拌機付きの完全混合重合器へ供給し、136℃で重合を行った。
固形分49%を含有する重合液を連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出した。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−1)は無色透明で、NMR測定による組成分析の結果、スチレン含量90.5質量%、メタクリル酸含量9.5質量%、重量平均分子量は220,000であった。また、23℃における光弾性係数(未延伸)は、4.5×10-12/Paであった。
(ii)スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−2)
仕込み量をスチレン70.4質量%、メタクリル酸9.6質量%に変更したこと以外は(B−1−1)と同様に重合を行った。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−2)は無色透明で、NMR測定による組成分析の結果、スチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、重量平均分子量は350,000であった。であった。また、23℃における光弾性係数(未延伸)は、4.0×10-12Pa-1であり、固有複屈折は負であった。
(iii)スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−3)
比較例として仕込み量をスチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%に変更したこと以外は(B−1−1)と同様に重合を行った。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1−3)は無色透明で、NMR測定による組成分析の結果、スチレン含量92質量%、メタクリル酸含量8質量%、重量平均分子量は190,000であった。であった。また、23℃における光弾性係数(未延伸)は、4.8×10-12/Paであり、固有複屈折は負であった。
【0063】
[実施例1〜10、比較例1〜4]
表1に記載された配合比の樹脂組成物を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表1に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で1軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例1〜7、9、比較例1〜4の一軸延伸フィルムを得た。
さらに、一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例8、10の二軸延伸フィルムを得た。
【0064】
各延伸フィルムの組成、押し出し成形条件、延伸条件、フィルムの厚み、ガラス転移温度、面内レターデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)、光弾性係数、ヘイズを表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の1〜10の光学素子用樹脂組成物は、光弾性係数の絶対値が小さく、かつ、高い複屈折性を有しているため、樹脂組成物を成形して得られる成形体に絶対値の大きい面内レタデーション及び厚み方向レタデーションを付与することが可能であった。
これに対して比較例1〜4の光学素子用樹脂組成物は、光弾性係数の絶対値は実施例とほぼ同程度であったが、実施例の樹脂組成物と比べて複屈折性に劣るため、成形して得られる成形体に絶対値の大きいレタデーションを付与することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光学素子用樹脂組成物は、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、タッチパネル、太陽電池に用いられる透明基盤等や、その他、光通信システム、光交換システム、光計測システム等の分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子を製造するための光学材料に使用できる。とりわけ、本発明の光学素子用樹脂組成物の成形体は、絶対値の大きいレタデーションを付与することが可能であるため、保護フィルムとしての機能と、位相差フィルムとしての機能とを兼ねることができ、偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)とを含む光学素子用樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(B)がスチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)であり、
前記スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量が8質量%を超えて50質量%以下である、光学素子用樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン−メタクリル酸共重合体(B−1)中のメタクリル酸の含有量が9質量%以上20質量%以下である、請求項1記載の光学素子用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光学素子用樹脂組成物を成形してなる光学素子用成形体。
【請求項4】
請求項3記載の光学素子用成形体からなる偏光板保護フィルム。
【請求項5】
請求項3記載の光学素子用成形体からなる位相差フィルム。

【公開番号】特開2008−268929(P2008−268929A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76167(P2008−76167)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】