説明

光学素子転写箔及びその製造方法

【課題】フォトポリマー法によって光学素子転写箔を製造するに当たり、レリーフ型と咬合した硬化した放射線樹脂を基材と一体のままレリーフ型から剥離することができて、且つその後、硬化した樹脂側を別の被転写媒体に接着するだけで基材から樹脂部分を引き離して、被転写媒体上に転写できる光学素子転写箔を提供すること。
【解決手段】少なくとも、フィルム状の基材と、第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた離型層と、第二の放射線硬化型樹脂を硬化させたレリーフパターン層がこの順に積層された光学素子転写箔であって、前記第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長が、前記第二の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長より短いことを特徴とする光学素子転写箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なレリーフパターンを有する光学素子転写箔、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、微細なレリーフパターンを有する光学素子転写箔、及びその製造方法に関する。光学素子転写箔と成りえる光学素子の例としては、レリーフホログラム、回折格子、サブ波長格子、マイクロレンズ、偏光素子、スクリーンなどに用いられるフレネルレンズ板やレンチキュラー板、さらには液晶表示装置のバックライト用拡散板、反射防止膜などが挙げられる。
【0003】
これらの光学素子を転写箔形態とすることにより、ホットスタンプなどの要領で様々な物品に生産性良く貼付することが可能であり、紙幣やIDカードなどの偽造防止用光学部材として使用されている。
【0004】
近年では、更に微細でアスペクト比の高い光学素子が利用されており、例えば、光の波長以下の微細な構造として、フォトポリマー法を利用して製造するサブ波長格子、アスペクト比の高い構造として、偏光分離素子、無反射構造などがあげられる。
【0005】
フォトポリマー法は、例えば特許文献1に記載されており、放射線硬化性樹脂をレリーフ型(微細なレリーフパターンを複製するための型)と平担な基材(プラスチックフィルム等)との間に流し込み、放射線照射で硬化させた後、この硬化した樹脂膜を基材ごと、レリーフ型から剥離する方法により高精細な微細レリーフパターンを得る方法である。
該方法によって得られた光学素子は、熱可塑樹脂を使用するプレス法やキャスト法に比べ凹凸パターンの成形精度が良く、耐熱性や耐薬品性に優れる。
【0006】
但し、平坦な基材上に成形された上記の微細構造が、別の被転写媒体に転写できる転写箔であるためには、微細構造部分が平坦な基材から剥離できることが必要である。
【0007】
また、レリーフ型と硬化した放射線樹脂の密着強度が重いと、剥離時に放射線樹脂がレリーフ型に付着して残置するレリーフ版汚れが発生するという問題がある。この様な成形加工時の問題は、特にアスペクト比の高い微細構造で発生し易く、レリーフ型と放射線硬化樹脂の密着強度が微細構造によって増強されることに起因すると考えられる。
【0008】
この問題に対して、放射線硬化樹脂中に、シリコーン化合物やフッ素化合物等の離型剤を配合し、レリーフ型と放射線硬化樹脂の密着強度を下げる方法がある。例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4では、シリコーン化合物やフッ素化合物を放射線硬化樹脂にブレンド、又は共重合させる技術が開示されている。しかしながら、これらの添加剤は添加する量によっては白濁するという問題がある。
【0009】
以下、この点を説明すると、成形加工時におけるレリーフ版汚れは、「フィルム基材と離型層の密着力」よりも「レリーフパターン層とレリーフ版との密着力」が強い場合に、剥離層とレリーフパターン形成層が基材フィルムから剥がれ、レリーフ版に貼り付くことにより生じる。
【0010】
このため、転写箔に要求される剥離強度が非常に軽い場合(フィルム基材と離型層の密着力が非常に弱い場合)には、レリーフ版汚れを防止する為に、レリーフ形成層に多量の
離型剤を添加、又は共重合する必要があり、結果として塗膜が白濁するということになる。
従って、離型剤を添加、又は共重合させる方法だけではレリーフ版汚れと塗膜の白濁の問題を同時に満足させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4088884号
【特許文献2】特開2001-310340号公報
【特許文献3】特許3355308号
【特許文献4】特開2007-118563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題を、フォトポリマー法によって光学素子転写箔を製造するに当たり、レリーフ型と咬合した硬化した放射線樹脂を基材と一体のままレリーフ型から剥離することができて、且つその後、硬化した樹脂側を別の被転写媒体に接着するだけで基材から樹脂部分を引き離して、被転写媒体上に転写できる光学素子転写箔を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を達成するための、第一の発明は、少なくとも、フィルム状の基材と、第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた離型層と、第二の放射線硬化型樹脂を硬化させたレリーフパターン層がこの順に積層された光学素子転写箔であって、前記第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長が、前記第二の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長より短いことを特徴とする光学素子転写箔としたものである。
【0014】
第二の発明は、前記第一の放射線硬化型樹脂は、放射線照射前にはタック性を有し、放射線照射後はタックフリーとなる性質を有することを特徴とする請求項1に記載の光学素子転写箔としたものである。
【0015】
第三の発明は、前記第一の放射線硬化型樹脂は電子線硬化樹脂を含み、前記第二の放射線硬化型樹脂が紫外線硬化樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子転写箔としたものである。
【0016】
第四の発明は、前記レリーフパターン層におけるレリーフパターンは、アスペクト比が0.5以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学素子転写箔としたものである。
【0017】
第五の発明は、前記レリーフパターン層におけるレリーフパターンは、光の波長以下のサブ波長構造であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学素子転写箔としたものである。
【0018】
第六の発明は、フィルム状基材の表面に、第一の放射線硬化型樹脂と、第二の放射線硬化型樹脂を塗布して積層体とする工程と、前記積層体の第二の放射線硬化型樹脂にレリーフパターンを有するレリーフ型を咬合させる工程と、前記積層体の第二の放射線硬化型樹脂に放射線を照射して前記第二の放射線硬化型樹脂のみを硬化させる工程と、レリーフ型から前記積層体を剥離する工程と、前記積層体の第一の放射線硬化型樹脂に放射線を照射して硬化させる工程と、を有することを特徴とする光学素子転写箔の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、フィルム状基材とレリーフパターン層の剥離強度がレリーフパターン層とレリーフ型間の剥離強度より重く設定できるので、レリーフパターン層がレリーフ型から容易に剥離して、レリーフパターン層がレリーフ型に残るレリーフ版汚れを生ずることなしに、光学素子転写箔を得ることができる。
さらに、被転写媒体との接着力の関係では、再度の放射線照射によってフィルム状基材とレリーフパターン層の剥離強度をレリーフパタン層と被転写媒体の剥離強度よりも相対的に軽くすることができるので、レリーフパターン層を容易に被転写媒体上に移し取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】光学素子転写箔の断面図。
【図2】レリーフパターン転写前の積層体の断面図。
【図3】光学素子の製造方法の説明図。
【図4】レリーフパターン転写後の積層体の断面図。
【図5】光学素子転写箔を被着体に転写する際の図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る、光学素子転写箔、及びその製造方法について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る光学素子転写箔の断面視の図である。この光学素子転写箔1はフィルム状の基材2上に設けられた、離型層3と、微細なレリーフパターン層4と、反射層5と、接着層6の複層構成である。尚、所望する光学素子の構造によっては反射層4は不要である。また、被転写媒体に接着層が有る場合には、接着層6は必ずしも必要ではない。
【0023】
尚、光学素子のどちらかの表層を保護するための保護層、光学効果の効率向上のための高屈折率層や反射層、層間密着を向上するためのアンカー層を設けたり、各層をコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、することも可能である。
【0024】
図2は、レリーフパターン形成層にレリーフパターン4をレリーフ型を用いて転写する前の積層体の断面図である。積層体10は、フィルム状基材2、離型層3、レリーフパターン層4の複層構成である。
【0025】
図3は、本発明になる光学素子転写箔の製造方法を模式的に説明する図である。
レリーフパターン転写前の積層体10は、図の左側から右側方向に搬送され、円筒状のレリーフパターン原版11とプレスロール12により挟まれた時に、加圧され、また必要であれば加熱されて、レリーフパターン原版11のパターンがレリーフパターン形成層にピッタリと咬合する。その後、放射線照射機13にて放射線をレリーフパターン形成層4に照射することによって、当該形成層4のみが硬化される。離型層3はエネルギー的に硬化しない。続いて、レリーフパターンが成形された積層体が、レリーフパターン原版から引き剥がされて光学素子転写箔が得られる。図4は、レリーフパターン転写後の積層体の断面視の図である。
【0026】
この時点では、離型層3は未硬化のままであるが、フィルム基材2とレリーフパターン層に対する十分なタック性を有しており一体化したままである。
この時、離型層3のフィルム基材2及びレリーフパターン層に対する密着強度は、硬化後のレリーフ原版11とレリーフパターン層4の密着強度より重くすることで、引き剥がし
時に、レリーフ原版11側にレリーフパターン層が残置するレリーフ版汚れの発生を抑制することができる。
【0027】
次に、放射線照射機14にて、最初の照射波長より波長の短い放射線を照射することで離型層3を硬化させる。再度の放射線照射では離型層3のタック性が消失するようにしてあるので、フィルム基材とレリーフパターン層との密着性が低下する。その結果、レリーフパターン層を別の被転写媒体に接着すれば、こちらの接着力が勝るのでフィルム基材からレリーフパターン層が容易に剥離できる。すなわち転写性に優れた光学素子転写箔を得ることが可能である。
【0028】
図5は、本発明の光学素子転写箔1を被転写体媒体7に転写している様子を模式的に説明する図である。
【0029】
光学素子転写箔は、フィルム状の基材2上に設けられた、離型層3と、レリーフパターン層4と、反射層5、接着層6の複層構成である。
【0030】
反射層5は、レリーフ形状表面に設けることによって、レリーフ形状による光学効果を強調することや、その光学効果を反射で観察することが可能となる。尚、反射層は必要不可欠ではなく、必要とされる光学効果や層構成に合わせて適宜設置すればよい。この様な反射層は、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Au、Agなどの金属材料の単体、またはこれらの化合物のほか、透明な反射層としてセラミックスや有機ポリマーなども使用可能である。
【0031】
これらの材料は、公知の真空蒸着またはスパッタリングにより成膜して良い。また、これら材料の微粉末をバインダー樹脂に練り込んだ高輝度インキなどをウェットコーティングすることによって設けても良い。
【0032】
また、反射層は部分的に設けても良い。この様な部分的な反射層を設ける方法としては、例えば、反射層を真空蒸着法により全面に設けた後にパターンマスクを印刷し、マスクの無い部分の反射層をエッチングする「エッチング法」や、予め水洗可能な「水洗インキ」をパターン状に印刷した後に真空蒸着法により反射層を設け、その後、水洗することにより、水洗インキ上の反射層を除去する「水洗パスタ法」が挙げられる。
【0033】
接着層6は、様々な被転写材(例えば、紙・プラスチック)に接した状態で熱および圧力を与えられることにより、被転写材に接着する機能を有する公知の感熱樹脂(感熱性接着材料)が使用される。また、紫外線硬化樹脂や電子線硬化樹脂を使用した接着剤を使用しても良く、この様な材料の接着材であれば、コールド転写法によって被転写体に接着させることが可能である。
【0034】
尚、この図では、離型層3は微細レリーフパターン層との間で剥離し、レリーフパターン層が被転写媒体上に転写される様子が図示されているが、フィルム状基材2と離型層3との層間で剥離するようにしても構わない。フィルム状基材2と剥離層3の密着強度と、剥離層3とレリーフパターン層との密着強度を調整すれば良く、例えば表面粗さによる調整のほか、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理による調整や、アンカーコートによる層間密着強度の調整を行っても良い。
【0035】
この様に、本発明によると、光学素子転写箔の製造時には転写箔のレリーフ型からの剥離強度が重いためにレリーフ版汚れが生じ難く、一方、光学素子転写箔としての剥離強度は軽くすることが可能である。
【0036】
以下では、本発明に係わる各層について詳細に説明する。
【0037】
(レリーフパターン形成層)
レリーフパターン形成層は、放射線により硬化する樹脂によって構成される。
放射線硬化性樹脂の例としては、エチレン性不飽和結合をもつモノマー、オリゴマー、ポリマー等を使用することができる。モノマーとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。ポリマーとしては、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂が挙げられる。
【0038】
また、別の光硬化性樹脂の例としては、特開昭61−98751号公報、特開昭63−23909号公報、特開昭63−23910号公報、特開2007−118563号公報に記載されているような光硬化性樹脂を挙げることができる。また、微細レリーフパターン形状を正確に形成するために反応性をもたないアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のポリマーを添加することができる。
【0039】
また、光カチオン重合を利用する場合には、エポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー、オキセタン骨格含有化合物、ビニルエーテル類を使用することができる。また、上記の電離放射線硬化性樹脂は、紫外線等の光によって硬化させる場合には、光重合開始剤を添加することができる。樹脂に応じて、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、その併用型(ハイブリッド型)を選定することができる。
【0040】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系化合物、アントラキノン、メチルアントラキノン等のアントラキノン系化合物、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−アミノアセトフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン等のフェニルケトン系化合物、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、アシルホスフィンオキサイド、ミヒラーズケトン等を挙げることができる。
【0041】
光カチオン重合可能な化合物を使用する場合の光カチオン重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、混合配位子金属塩等を使用することができる。光ラジカル重合と光カチオン重合を併用する、いわゆるハイブリッド型材料の場合、それぞれの重合開始剤を混合して使用することができ、また、一種の開始剤で双方の重合を開始させる機能をもつ芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等を使用することができる。
【0042】
本発明に係る微細レリーフパターン形成層には、放射線硬化樹脂と光重合開始剤を0.1〜15質量%配合することにより得られる。樹脂組成物には、さらに、光重合開始剤と組み合わせて増感色素を併用してもよい。また、必要に応じて、染料、顔料、各種添加剤(重合禁止剤、レベリング剤、消泡剤、タレ止め剤、付着向上剤、塗面改質剤、可塑剤、含窒素化合物など)、架橋剤(例えば、エポキシ樹脂など)、などを含んでいてもよく、また、成形性向上のために非反応性の樹脂を添加しても良い。また、塗膜が白濁しない程度であれば、レリーフ原版に対する離型性を向上させるために、フッ素化合物やシリコーン化合物を添加したり、あらかじめ共重合させて導入しておいても良く、無機フィラーなどを添加しても良い。
【0043】
微細レリーフパターン形成層の厚みは、0.1〜10μmの範囲で適宜設ければよい。未硬化塗膜の粘度(流動性)にも依るが、塗膜が厚すぎる場合にはプレス加工時に未硬化塗膜の樹脂のはみ出しや、シワの原因となり、厚みが極端に薄い場合には十分な成型が出来ない。
【0044】
また、成形性は原版の微細レリーフパターンの形状によって変化するため、所望する深さの3〜10倍の膜厚の微細レリーフパターン形成層を設けることが好ましい。
微細レリーフパターン形成層を設ける際には、コーティング法を利用してよく、特にウェトコーティングであれば低コストで塗工できる。また、塗工膜厚を調整するために溶媒で希釈したものを塗布乾燥しても良い。この場合、未硬化の離型層の上に設けることから、極力離型層を再溶解させない希釈溶媒を選択する必要がある。
コーティング以外で微細レリーフパターン形成層を積層する場合は、フィルム状基材に塗工した未硬化の離型層と、別途フィルム状基材の上に転写可能に設けた微細レリーフパターン形成層を準備し、それらをラミネートして積層しても良い。
【0045】
(離型層)
本発明に係る離型層は、放射線硬化樹脂を含むことを特徴としており、放射線未照射である未硬化塗膜の状態ではタック性を有する粘着剤様の性質であり、放射線を照射して硬化させることによってタックフリーとなり、フィルム基材、又は微細レリーフパターン形成層との密着強度を低下させ、転写時の剥離強度が軽く、転写性に優れた光学素子転写箔を得ることが可能である。
【0046】
離型層に用いられる材質は、レリーフパターン形成層と同様であるが、放射線照射前後に樹脂表面のタック性、保持力が変化する放射線硬化型粘着剤を含むことが好ましい。
尚、一般にアクリル系粘着剤の粘着力は、タッキファイヤーや異種ポリマーとのブレンド、分子量とその分布、極性モノマーとの共重合、架橋システム等によってコントロールされることから、放射線硬化型粘着剤を使用する場合においても同様の仕組みによってタック性や保持力をコントロールしてよい。また、レリーフパターン形成層を硬化する際に照射される放射線によって、硬化しないことが必要なため、適切な材料構成とする必要がある。
【0047】
(放射線)
上記レリーフパターン形成層、及び離型層に用いられる放射線硬化性樹脂は、放射線を照射して硬化させる。放射線としては、紫外線(UV)、可視光線、ガンマー線、X線、または電子線(EB)などが適用できる。尚、放射線で硬化する放射線硬化性樹脂は、紫外線硬化の場合は光重合開始剤、及び/又は光重合促進剤を添加し、エネルギーの高い電子線硬化の場合はそれらを添加しないで良い。また放射線と熱を併用することにより反応性が向上し、架橋密度の高い塗膜を得ることも可能である。
本発明では、レリーフパターン形成層を硬化する際に、離型層を硬化させないことを特徴としている為、離型層を硬化させるために必要な放射線波長は、レリーフパターン形成層を硬化させるために必要な放射線波長よりも短く、必要とするエネルギーが高い。尚、紫外線硬化樹脂であれば、必要な放射線波長を考慮して光重合開始剤を適宜選択すればよい。
【0048】
(フィルム状基材)
離型層、及びレリーフパターン形成層を設けるための支持基材としては、フィルム状基材が好ましい。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)などのプラスチックフィルムを用いることができるが、プレス成形時にかかる熱量によって変形、変質のない耐熱性を有するものを用いることが望ましい。また、フィルム状基材越しに放射線を照射する場合には、対象の放射
線が吸収し難い材質であることが好ましい。
【0049】
(微細レリーフパターン)
本発明のレリーフパターンは、光学素子としての機能を有するレリーフパターンであり、例えば、回折格子、ホログラム、レンズ、レンズアレイ、散乱構造、サブ波長構造等が例として挙げられる。サブ波長構造は、光の波長以下の周期性回折構造であり、例えば、強調された一次回折光を得たり、偏光特性を有するゼロ次回折光や一次回折光を得ることが可能である。近年では、その特殊な光学効果を産業利用する研究が進められている。
【0050】
尚、所望する微細レリーフパターンが、アスペクト比(凹凸構造の深さ/幅比)が0.5以上である「高アスペクト構造」である場合、又は、アスペクト比が0.5未満であったとしても、光の波長以下の非常に微細な回折性周期構造である「サブ波長構造」である場合には、成形加工時のレリーフ版汚れが発生し易くなる。
これは、「高アスペクト構造」や「サブ波長構造」を有する「レリーフ版」の比表面積が大きいことに起因しており、「レリーフ版」と「レリーフパターン層」の間に「アンカー効果(くさび効果)」が発生して密着強度が増す為である。
このため、「フィルム基材と離型層の密着力」よりも「レリーフパターン層とレリーフ版の密着力」が強くなり、レリーフ版汚れが生じ易くなる。
【0051】
しかしながら、本発明の構成であれば、所望する微細レリーフパターンが、アスペクト比(凹凸構造の深さ/幅比)が0.5以上である「高アスペクト構造」、又は、「サブ波長構造」である場合であったとしても、成形加工時における、「レリーフパターン層とレリーフ版の密着力」よりも「フィルム基材と離型層の密着力」を強くすることが出来るため、レリーフ版汚れを防止することが可能である。
【0052】
尚、本発明の光学素子は、傷つき防止の為に最表面に保護膜を設けることや、光学特性を向上させるために最表面に反射膜を設けることも可能である。尚、保護膜や反射膜は、公知のコーティング方法を使用することが可能である。
【実施例1】
【0053】
本発明に係る偽造防止積層体を製造するために、下記に示すように、微細レリーフパターン形成層のインキ組成物、及び離型層のインキ組成物を用意した。
【0054】
離型層インキ組成物(電子線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート粘着剤(多官能、分子量15,000) 50.0重量部シリカ(疎水シリカ、平均粒径3ミクロン) 10.0重量部酢酸エチル 30.0重量部
微細レリーフパターン形成層インキ組成物(紫外線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート(多官能、分子量20,000) 50.0重量部メチルエチルケトン 30.0重量部酢酸エチル 20.0重量部光開始剤(チバスペシャリティー製イルガキュア184) 1.5重量部
【0055】
厚み23μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる支持体上に、離型層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように塗布し、120℃、30secの条件で乾燥して微細レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はややタック性があり、透明、平滑であった。
【0056】
その後、離型層の乾燥塗膜上(放射線未照射)に、微細レリーフパターン形成層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように上塗りし、120℃、30秒の条件で乾燥して微細
レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はほとんどタック性が無く、透明、平滑であった。
【0057】
得られた積層体を、図3に示す様なロールフォトポリマー法によって成形した。プレス成形に使用した原版には、周期700nm、深さ200nmの回折格子構造の円筒型金属版を使用し、プレス圧力を2Kgf/cm2、ロール温度を80℃、プレススピードを10m/分にて、成形加工した。成形と同時に高圧水銀灯で300mJ/cm2露光を行い、形状転写されたと同時にを硬化させた。
【0058】
成形加工中、レリーフ版汚れは発生せずに安定した加工が可能であった。
得られた偽造防止表示体は、深さの形状転写率が90%以上であり、回折構造による回折光を確認することが出来た。この状態の転写箔はのレリーフ面に紙テープを貼り付けて剥がそうとしても、転写箔の剥離強度が強い為に、光学素子は剥がれなかった。
【0059】
その後、電子線を照射して離型層を硬化させた。得られた光学素子転写箔のレリーフ面に紙テープを貼り付けて剥がそうとしても、転写箔の剥離強度が強い為に、光学素子は剥がれなかった。
【実施例2】
【0060】
本発明に係る偽造防止積層体を製造するために、下記に示すように、微細レリーフパターン形成層のインキ組成物、及び離型層のインキ組成物を用意した。
【0061】
離型層インキ組成物(電子線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート粘着剤(多官能、分子量15,000) 50.0重量部シリカ(疎水シリカ、平均粒径3ミクロン) 10.0重量部酢酸エチル 30.0重量部
微細レリーフパターン形成層インキ組成物(紫外線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート(多官能、分子量20,000) 50.0重量部メチルエチルケトン 30.0重量部酢酸エチル 20.0重量部光開始剤(チバスペシャリティー製イルガキュア184) 1.5重量部
【0062】
厚み23μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる支持体上に、離型層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように塗布し、120℃、30秒の条件で乾燥して微細レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はややタック性があり、透明、平滑であった。
【0063】
その後、離型層の乾燥塗膜上(放射線未照射)に、微細レリーフパターン形成層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように上塗りし、120℃、30秒の条件で乾燥して微細レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はほとんどタック性が無く、透明、平滑であった。
【0064】
得られた積層体を、図3に示す様なロールフォトポリマー法によって成形した。プレス成形に使用した原版には、周期300nm、深さ300nmの回折格子構造の円筒型金属版を使用し、プレス圧力を2Kgf/cm2、ロール温度を80℃、プレススピードを10m/分にて、成形加工した。成形と同時に高圧水銀灯で300mJ/cm2露光を行い、形状転写されたと同時にを硬化させた。
成形加工中、レリーフ版汚れは発生せずに安定した加工が可能であった。
【0065】
得られた偽造防止表示体は、深さの形状転写率が90%以上であり、回折格子による回
折光を確認することが出来た。この状態の転写箔はのレリーフ面に紙テープを貼り付けて剥がそうとしても、転写箔の剥離強度が強い為に、光学素子は剥がれなかった。
【0066】
その後、電子線を照射して離型層を硬化させた。得られた光学素子転写箔のレリーフ面に紙テープを貼り付けて剥がそうとしても、転写箔の剥離強度が強い為に、光学素子は剥がれなかった。
【0067】
その後、回折構造面に真空蒸着によってアルミニウムを0.08ミクロン蒸着し、蒸着面にアクリル樹脂からなる感熱接着剤を塗布して、光学素子転写箔を得た。
【0068】
最終的に得られた光学素子転写箔は、ホットスタンプによって紙に転写し、光学素子転写物を得ることが出来た。
【0069】
(比較例1)
本発明に係る偽造防止積層体と比較するために、下記に示すように、微細レリーフパターン形成層のインキ組成物、及び離型層のインキ組成物を用意した。
【0070】
離型層インキ組成物(紫外線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート粘着剤(多官能、分子量15,000) 50.0重量部シリカ(疎水シリカ、平均粒径3ミクロン) 10.0重量部酢酸エチル 30.0重量部光開始剤(チバスペシャリティー製イルガキュア184) 1.5重量部
微細レリーフパターン形成層インキ組成物(紫外線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート(多官能、分子量20,000) 50.0重量部メチルエチルケトン 30.0重量部酢酸エチル 20.0重量部光開始剤(チバスペシャリティー製イルガキュア184) 1.5重量部
【0071】
厚み23μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる支持体上に、離型層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように塗布し、120℃、30秒の条件で乾燥して微細レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はややタック性があり、透明、平滑であった。
【0072】
その後、離型層の乾燥塗膜上(放射線未照射)に、微細レリーフパターン形成層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように上塗りし、120℃、30secの条件で乾燥して微細レリーフパターン形成層を製膜した。得られた塗膜はほとんどタック性が無く、透明、平滑であった。
【0073】
得られた積層体を、図3に示す様なロールフォトポリマー法によって成形した。プレス成形に使用した原版には、周期700nm、深さ200nmの回折格子構造の円筒型金属版を使用し、プレス圧力を2Kgf/cm2、ロール温度を80℃、プレススピードを10m/分にて、成形加工した。成形と同時に高圧水銀灯で300mJ/cm2露光を行い、形状転写されたと同時にを硬化させた。この時、離型層も硬化し、離型層のタック性が低下し、剥離強度が低くなった為に、微細レリーフパターン形成層がレリーフ原版に貼り着き、レリーフ版汚れが発生した。形状転写が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の光学素子転写箔は、ホットスタンプの要領で様々な物品に生産性良く光学素子を貼付することが可能であり、紙幣やIDカードなどの偽造防止用光学部材として使用される。
【符号の説明】
【0075】
1…光学素子転写箔
2…フィルム基材
3…離型層
4…微細レリーフパターン形成層
10…レリーフパターン成型前の積層体(放射線未照射)
11…レリーフパターン原版
12…プレスロール
13…放射線照射機
14…放射線照射機
20…レリーフパターン成型後の積層体(放射線照射済み)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、フィルム状の基材と、第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた離型層と、第二の放射線硬化型樹脂を硬化させたレリーフパターン層がこの順に積層された光学素子転写箔であって、前記第一の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長が、前記第二の放射線硬化型樹脂を硬化させた放射線の波長より短いことを特徴とする光学素子転写箔。
【請求項2】
前記第一の放射線硬化型樹脂は、放射線照射前にはタック性を有し、放射線照射後はタックフリーとなる性質を有することを特徴とする請求項1に記載の光学素子転写箔。
【請求項3】
前記第一の放射線硬化型樹脂は電子線硬化樹脂を含み、前記第二の放射線硬化型樹脂が紫外線硬化樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子転写箔。
【請求項4】
前記レリーフパターン層におけるレリーフパターンは、アスペクト比が0.5以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学素子転写箔。
【請求項5】
前記レリーフパターン層におけるレリーフパターンは、光の波長以下のサブ波長構造であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学素子転写箔。
【請求項6】
フィルム状基材の表面に、第一の放射線硬化型樹脂と、第二の放射線硬化型樹脂を塗布して積層体とする工程と、
前記積層体の第二の放射線硬化型樹脂にレリーフパターンを有するレリーフ型を咬合させる工程と、
前記積層体の第二の放射線硬化型樹脂に放射線を照射して前記第二の放射線硬化型樹脂のみを硬化させる工程と、
レリーフ型から前記積層体を剥離する工程と、
前記積層体の第一の放射線硬化型樹脂に放射線を照射して硬化させる工程と、を有することを特徴とする光学素子転写箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−256595(P2010−256595A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106132(P2009−106132)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】