説明

光学素子

【課題】高屈折率、低分散の光学特性を有する光学素子を提供する。
【解決手段】平均粒子径が1μm以上10μm以下のYSiO、LaSiO、GdSiOまたはZrSiOから成るセラミックス粒子の成形体を焼結してなる光学素子。前記セラミックス粒子の成形体は1100℃以上1500℃以下の温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させて光学素子を得る。前記光学素子は、屈折率が1.8以上の透光性を有することを特徴とする。前記セラミックス粒子が球形であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子に関し、特にレンズ等に使用される高精度な光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラを始めとするカメラの生産量が増し、より高性能の光学レンズが要求されている。特にカメラ等の光学性能を向上させるためには、高屈折低分散の光学材料が必要となってきている。
【0003】
結晶材料では、従来の光学ガラスには無い高屈折低分散の光学性能が実現できるが、光学用途に適した透過率の良い材料として使用するには、単結晶材料を使用するか、或いは結晶粒子を焼結させて使用する方法があった。
【0004】
単結晶材料は、非常に高価であり、また光学レンズに適した直径の大きな材料が得られ難いという問題があった。
結晶粒子を焼結させる方法では、粒子直径が大きいと、焼結時に大きな粒界が生じ、光学レンズとして透過率の低下が生じたり、レンズ形状に加工する際に粒界によりレンズ表面に欠陥が生じ、良好な光学レンズが得られ難いという問題があった。
【0005】
粒径の小さい結晶粒子として、特許文献1には、結晶粒子径が100nm以下の透光性セラミックスの例が開示されている。
【特許文献1】特開平6―56514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、結晶粒径が100nm以下の透光性セラミックスの例が開示されているが、結晶粒径が100nm以下の結晶粒子を焼結させる工程では、焼結前の予備成形体を形成する際に、嵩密度が小さいために取扱が困難となる。また、得られる光学素子中に生成する泡などの欠陥を充分に除去することが困難であった。
【0007】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、高屈折率で低分散の光学特性を有する光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する光学素子は、平均粒子径が1μm以上10μm以下のYSiO、LaSiO、GdSiOまたはZrSiOから成るセラミックス粒子の成形体を焼結してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高屈折率で低分散の光学特性を有する光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る光学素子は、平均粒子径が1μm以上10μm以下のYSiO、LaSiO、GdSiOまたはZrSiOから成るセラミックス粒子の成形体を焼結してなることを特徴とする。
本発明の光学素子は、例えば光学系に用いられるレンズ、プリズムなどが挙げられる。
【0011】
本発明の光学素子の製造方法は、下記の第1工程から第3工程により行なわれる。
第1工程として、原料からプラズマ溶融などの方法により、平均粒子径が1μm以上10μm以下の球状のYSiO、LaSiO、GdSiOまたはZrSiOから成るセラミックス粒子を作製する。
【0012】
原料には、純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrO,SiO等が用いられる。セラミックス粒子の作製において、YSiO粒子は原料としてYとSiOが用いられ、LaSiO粒子は原料としてLaとSiOが用いられ、GdSiO粒子は原料としてGdとSiOが用いられ、ZrSiO粒子は原料としてZrOとSiOが用いられる。
【0013】
第2工程として、この球状粒子を、鋳込み成形、乾式成形あるいは湿式成形により予備成形体を作製する。
第3工程として、この予備成形体を真空中にて焼結させ、光学素子を作製し、その後に、研削、研磨工程を経て、光学レンズを作製する。
【0014】
本発明において用いられるセラミックス粒子の粒子径は、平均粒子径が1μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下の範囲が望ましい。平均粒子径が1μm未満では、粒子が細かく、部分的な凝集が生じるので、加圧の際に充分に緻密化し難く、また、焼結後の素子中に泡が残留し、光学素子としての使用に不適となる。また、平均粒子径が10μmより大きい場合には、加圧の際に空隙が生じやすく、焼結後に得られた結晶内部に粒界が生じやすく、研磨時に粒子の脱落が生じ、良好な表面を有する光学素子が得られない。
【0015】
また、セラミックス粒子が球形であることが好ましい。なお、球形とは、球の断面形状の縦径/横径=1±0.1が好ましい。セラミックス粒子の形状が球形から不定形に移るほど、加圧の際に空隙が生じやすく、焼結後に得られた結晶内部に粒界が生じやすく、良好な光学素子が得られない。そのために粒子の形状は球形が望ましい。
【0016】
本発明の光学素子は、屈折率が1.8以上、好ましくは1.93以上の透光性を有することが好ましい。
本発明の光学素子は、アッベ数が40以上、好ましくは45以上56以下であるのが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
実施例1
純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrO,SiOを用意し、表1の試料No.1から4に示す化合物のセラミックス粒子となる比率になるように原料を調整し、混合した。
【0018】
セラミックス粒子の作製において、YSiO粒子は原料としてYとSiOが用いられ、LaSiO粒子は原料としてLaとSiOが用いられ、GdSiO粒子は原料としてGdとSiOが用いられ、ZrSiO粒子は原料としてZrOとSiOが用いられる。
【0019】
この原料を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融させた後に冷却して微粒子を得た。熱プラズマ法にて平均粒子径が1μmの球状粒子を得た。このとき、加熱温度は1500℃以上3200℃以下とした。1500℃未満では、熔融が充分に行われず、球状の粒子が得られず、3200℃をこえると、原料の揮発が生じ、粒子径の小さい球形粒子しか得られなかった。
【0020】
この球状粒子を9800000Pa(100kgf)から196000000Pa(2000kgf)の圧力で乾式成形し、直径20mm、厚さ2mmの予備成形体を得た。予備成形体を1100℃以上1500℃以下の下記の表1に示す温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させた。尚、焼結時間は6時間以上24時間以下とした。得られた焼結体を研削、研磨して厚さ1mmの光学素子とした。
【0021】
得られた光学素子の屈折率およびアッベ数を測定した結果を表1に示す。なお、アッベ数は分散を示す値である。各光学素子は、高屈折で低分散の光学特性を有していた。また表面を光学顕微鏡で観察したところ、研磨工程において生ずる表面粒子の脱落や表面のキズが無い良好な光学素子が得られた。
【0022】
また、内部透過率を測定したところ、400nmの波長で60%以上と良好な透光性を得ることができた。
<測定方法>
(1)屈折率
屈折率は、プルフリッヒ法屈折率測定装置(商品名「KPR−2000」、島津デバイス製造株式会社)を用いて波長587nmで測定し求めた値(nd)を示す。
(2)アッベ数
アッベ数は、プルフリッヒ法屈折率測定装置を用いて、波長587nm,486nm,656nmの屈折率nd,nF,nCを求め、アッベ数νdをνd=(nd−1)/(nF−nC)の式で求めた値を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2
純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrO,SiOを用意し、表2の試料No.11から14に示す化合物のセラミックス粒子となる比率に原料を調整、混合した。この原料を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融させた後に冷却して微粒子を得る熱プラズマ法にて平均粒子径が3μmの球状粒子を得た。このとき、加熱温度は1500℃以上3000℃以下とした。1500℃未満では、熔融が充分に行われず、球状の粒子が得られず、3000℃をこえると、原料の揮発が生じ、粒子径の小さい球形粒子しか得られなかった。
【0025】
この球状粒子を9800000Pa(100kgf)から196000000Pa(2000kgf)の圧力で乾式成形し、直径20mm、厚さ2mmの予備成形体を得た。予備成形体を1100℃以上1500℃以下の表2に示す温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させた。尚、焼結時間は6時間以上24時間以下とした。得られた焼結体を研削、研磨して厚さ1mmの試料とした。
【0026】
得られた光学素子の屈折率を光学測定したところ、表2に示す、高屈折で低分散の光学特性を有していた。また表面を光学顕微鏡で観察したところ、研磨工程において生ずる表面粒子の脱落や表面のキズが無い良好な光学素子が得られた。
【0027】
また、内部透過率を測定したところ、400nmの波長で60%以上と良好な透光性を得ることができた。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例3
純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrO,SiOを用意し、表3の試料No.21から24に示す化合物のセラミックス粒子となる比率に原料を調整、混合した。この原料を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融させた後に冷却して微粒子を得る熱プラズマ法にて平均粒子径が10μmの球状粒子を得た。このとき、加熱温度は1500℃以上3000℃以下とした。1500℃未満では、熔融が充分に行われず、球状の粒子が得られず、3000℃をこえると、原料の揮発が生じ、粒子径の小さい球形粒子しか得られなかった。
【0030】
この球状粒子を9800000Pa(100kgf)から196000000Pa(2000kgf)の圧力で乾式成形し、直径20mm、厚さ2mmの予備成形体を得た。予備成形体を1100℃以上1500℃以下の下記の表に示す温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させた。尚、焼結時間は6時間以上24時間以下とした。得られた焼結体を研削、研磨して厚さ1mmの試料とした。
【0031】
得られた光学素子の屈折率を光学測定したところ、表3に示す、高屈折で低分散の光学特性を有していた。また表面を光学顕微鏡で観察したところ、研磨工程において生ずる表面粒子の脱落や表面のキズが無い良好な光学素子が得られた。
【0032】
また、内部透過率を測定したところ、400nmの波長で60%以上と良好な透光性を得ることができた。
【0033】
【表3】

【0034】
比較例1
純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrOを用意し、表1の試料No.1から4に示す化合物のセラミックス粒子となる比率に原料を調整、混合した。この原料を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融させた後に冷却することで微粒子を得る熱プラズマ法にて平均粒子径が0.1μmの球状粒子を得た。このとき、加熱温度は3500℃以上とした。
【0035】
この球状粒子を9800000Pa(100kgf)から196000000Pa(2000kgf)の圧力で乾式成形し、直径20mm、厚さ2mmの予備成形体を得た。予備成形体を1100℃以上1500℃以下の表1に示す温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させた。尚、焼結時間は6時間以上24時間以下とした。得られた焼結体を研削、研磨して厚さ1mmの試料とした。
【0036】
得られた光学素子を光学顕微鏡で観察したところ、素子中に泡が多数観察され、光学素子としての使用には不適切であった。
【0037】
比較例2
純度99.9%以上のY,La,Gd,ZrO,を用意し、表1の試料No.1から4に示す化合物のセラミックス粒子となる比率に原料を調整、混合した。この原料を熱プラズマ中に導入し、加熱、溶融させた後に冷却して微粒子を得る熱プラズマ法にて平均粒子径が100μmの球状粒子を得た。このとき、加熱温度は1500℃以上3200℃以下とした。
【0038】
この球状粒子を9800000Pa(100kgf)から196000000Pa(2000kgf)の圧力で乾式成形し、直径20mm、厚さ2mmの予備成形体を得た。予備成形体を1100℃以上1500℃以下の表1に示す温度で10−1Pa以下の真空中にて焼結させた。尚、焼結時間は6時間以上24時間以下とした。得られた焼結体を研削、研磨して厚さ1mmの試料とした。
【0039】
得られた光学素子の表面を光学顕微鏡で観察したところ、研磨工程において生ずる表面粒子の脱落や表面のキズが多数存在し、光学素子としての使用には不適切であった。
本発明は上記実施例に限定されるものではない。原料に例えば、LaSiOのような複合合酸化物を用いてもよく、酸化物以外に炭酸塩、硝酸塩も用いることができる。予備成形体作製は鋳込み成形、湿式成形でも可能である。その際に少量の有機バインダーを加えることもできる。
【0040】
また、乾式成形、真空加熱の2段階の工程に換えて、HIP(熱間静水圧成形)により加熱時間を3から24期間に短縮することが可能である。
予備成形体、焼結体それぞれの直径は20mm以上、厚さは2mm以上の作製も可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の光学素子は、高屈折率、低分散の光学特性を有するので、レンズ、プリズムとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上10μm以下のYSiO、LaSiO、GdSiOまたはZrSiOから成るセラミックス粒子の成形体を焼結してなることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記光学素子は、屈折率が1.8以上の透光性を有することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記セラミックス粒子が球形であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。

【公開番号】特開2010−139663(P2010−139663A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314997(P2008−314997)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】