説明

光学記録媒体

【課題】 高感度で且つ記録データが熱に対して安定な光学記録媒体を提供すること。
【解決手段】フォトクロミック化合物の多光子吸収反応を用いた光学記録媒体において、該化合物の吸収波長が短くなる方向で記録を行うことを特徴とする光学記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトクロミック化合物を用いた光学記録媒体に関し、特に多光子吸収断面積が大きく、多光子吸収により励起した化合物の構造変化に伴う光学特性変化の効率が大きい、すなわち記録感度に優れる光学記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学効果は、強い光と物質との相互作用に基づく様々な現象であり、有機化合物の有する非線形光学特性の中でも、多光子、特に2光子吸収現象が注目されている。2光子吸収とは、化合物が2つの光子を吸収して基底状態から励起状態へ遷移する現象であり、1光子励起波長の2倍程度の波長の光を用いて、2個の光子を1つの分子に当てることにより励起させることができる。1個の分子に同時に2個の光子が当たる確率は、光子密度の2乗に比例し、試料上でレーザー光が焦点を結ぶとき焦点面から離れるにつれ、光子密度は距離の2乗に比例して減少する。従って、2光子吸収の起こる確率は焦点面から離れるに伴い距離の4乗に比例して減少していく。この現象を利用して、光メモリー、2光子造形、2光子フォトダイナミックセラピー等の分野で2光子吸収の応用が期待されている。
【0003】
ところで、フォトクロミック化合物は、光の作用により着色状態の異なる2つの異性体を可逆に生成する化合物であり、調光レンズ、線量計、光学記録媒体などへの応用を目指して研究開発が活発に進められている。また、光学記録媒体の中でも、フォトクロミック化合物が光を吸収して構造変化する際に多光子吸収現象を利用する光学記録媒体についても精力的に検討が行われている。一般的に、フォトクロミック化合物の異性化反応における量子収率は、短波長体から長波長体が0.1以上あるのに対し、逆反応では、その1/10〜1/1000程度しかないため、従来のフォトクロミック化合物を用いた多光子吸収記録は、該化合物の吸収波長が長くなる方向の分子構造変化を利用して記録を行っている(特許文献1及び2参照。)。しかしながら、多光子吸収はその効率が極めて小さいのが一般的であり、実際に多光子記録を行うためには高出力かつ極めて高価なチタンサファイアレーザーなどを使用する必要があるため、より高感度な光学記録媒体が求められている。
【特許文献1】特開2004−039009号公報
【特許文献2】特開2003−308634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、より高感度な光学記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フォトクロミック化合物の多光子吸収断面積について、長吸収波長体の方が短吸収波長体より高く、該化合物の吸収波長が短くなる方向で記録を行うことにより、より低エネルギーで記録可能で、記録データの安定性が高く、且つ、高感度な光学記録媒体ができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、フォトクロミック化合物の多光子吸収反応を用いた光学記録媒体において、該化合物の吸収波長が短くなる方向で記録を行うことを特徴とする光学記録媒体に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高感度で且つ記録データが熱に対して安定な光学記録媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の代表的な内容を具体的に説明するが、この発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
本発明に係る光学記録媒体は、フォトクロミック化合物を構成成分の少なくとも一部として含んでいる。フォトクロミック化合物が光学記録媒体に含まれていることは、該材料を分解、抽出等の処理を施した後、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS)や核磁気共鳴スペクトル法(NMR)などで分析することにより確認できる。なお、フォトクロミック化合物は、1種のみを含むものであっても、2種以上を任意の組み合せ及び任意の比率で含むものであっても良い。
【0008】
フォトクロミック化合物としては、ジアリールエテン系、フルギド系など熱不可逆性を有するフォトクロミック化合物が異性化後の状態が安定、すなわち、記録データが熱に対して安定になるため好ましく、とりわけ、遮光下における保存安定性が高く、繰り返し耐久性にも優れているため、ジアリールエテン系が更に好ましいとされている。熱不可逆性のフォトクロミック化合物は、通常の作業環境下において、熱変化により、記録の消失が実質的に生じなければよいが、具体的には、通常、80℃で200時間保存後に50%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上が熱変化していないものが良い。
【0009】
ジアリールエテン系のフォトクロミック化合物は、下記一般式(Ia)〜(Id)の何れかで示される構造である。
【0010】
【化1】

【0011】
(上記(Id)式中、Xは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアル
コキシ基、置換基を有してもよいアリール基又は置換スルホニル基を表し、A及びBは、芳香環を表す。)
なお、本発明において、単に「芳香環」と称した場合には、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を表し、芳香族炭化水素及び芳香族性を有する複素環のいずれをも含むものとする。また、該芳香環は、芳香族性が大幅に損なわれていなければ置換基を有していてもよい。
【0012】
上述の(Ia)〜(Id)のうち、(Ia)及び(Ib)の構造が好ましく、(Ia)の構造が特に好ましい。
一般式(Id)のXが有するアルキル基としては、通常、炭素数1〜30、好
ましくは、炭素数1〜20、更に好ましくは炭素数1〜10の鎖状アルキル基がよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などが挙げられる。
【0013】
一般式(Id)のXが有するアルコキシ基としては、通常、炭素数1〜30、好ましく
は、炭素数1〜20、更に好ましくは炭素数1〜10の鎖状アルコキシ基がよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基などが挙げられる。
一般式(Id)のXが有するアリール基としては、通常、炭素数5〜30、好ましくは
、炭素数5〜20、更に好ましくは炭素数5〜15の芳香環がよく、該アリール基の炭素原子の中の炭素原子が酸素原子、窒素原子又は硫黄原子で置換されていてもよい。具体的には、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、ピロリル基、フリル基などが挙げられる。
【0014】
一般式(Id)のXがアルキル基、アルコキシ又はスルホニル基の場合、これが有する
置換基としては、1個又は2個以上のフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アミド基、アルコキシ基、アルキルチオ基などが挙げられる。好ましい置換基としては、ハロゲン原子やシアノ基が挙げられる。具体的には、例えば、ハロゲン化アルキル基(フッ化アルキル基、クロロアルキル基など)、シアノアルキル基、アルコキシアルキル基、ハロゲン化アルコキシ基(フッ化アルコキシ基、クロロアルコキシ基など)、シアノアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基などが挙げられる。
【0015】
また、一般式(Id)がアリール基の場合、これが有する置換基としては、1個又は2個以上のアルキル基、アルコキシ基、フッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アミド基、アルキルチオ基などが挙げられる。具体的には、例えば、アルキルアリール基、アルコキシアリール基、フッ化アリール基、クロロアリール基などのハロゲン化アリール基、シアノアリール基、ニトロアリール基などが挙げられる。
【0016】
上述の一般式(I)のAおよびBは、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環を表
す。AおよびBの骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなる
芳香環であり、該縮合環には、芳香族炭化水素、複素芳香族、アントラセン環の他、カルバゾール環、アズレン環のような環なども含まれる。AおよびBの骨格構造の具体例とし
ては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピリジン環、ピラジン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピレン環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、吸収スペクトルを近赤外で波長800nm前後、あるいは波長650nm前後の赤色半導体レーザー光へ対応させる点から、特にチオフェン環、チアゾール環およびベンゾチアゾール環が好ましい。
【0017】
Aおよび/またはBが置換基を有する場合、置換基は、有機基でも無機元素や無機官能
基でも構わないが、ジアリールエテン化合物の電子密度に大幅な影響を及ぼさないものが好ましい。また、置換基が有機基の場合、置換基の炭素数は、20以下が好ましい。なお、合成の容易さの点では、AおよびBが同一である方が好ましい。
AおよびBが有する置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化
水素環基、複素環基、アルコキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基,更に置換基を有していても良いアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。このうち、アルキル基、炭化水素環基、更に置換基を有していても良いアミノ基が好ましく、更に置換基を有していても良いアミノ基が更に好ましい。
【0018】
具体的には、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ジュロジニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。このうち、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基が好ましい。
【0019】
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数1〜20のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
【0020】
炭素数1〜20のアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などが挙げられる。
【0021】
5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基としては、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、オクタヒドロキノリニル基などがあげられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
【0022】
炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基などが挙げられる。
【0023】
炭素数2〜20のアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基などが挙げられる。
炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基などが挙げられる。このうち、ジフェニルアミノ基が好ましい。
【0024】
炭素数1〜6のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基などが挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
なお、各Aおよび/またはBが2つ以上の置換基を有する場合、該置換基同士が結合し
て環状構造をなしてもよい。
【0025】
本発明に係る光学記録媒体で用いるジアリールエテン化合物の骨格構造(本発明に係るジアゾール化合物は、以下に例示する骨格構造の水素原子が上述の置換基で置換されていてもよいものとする)の具体例を以下に例示するが、本発明に係る光学記録媒体で用いる
ジアリールエテン化合物は、これらに限定されるものではない。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
フォトクロミック化合物は、例えば、Chem.Rev.2000,100,1685-1716に記載の方法など
で合成できる。
【0032】
一般的に、フォトクロミック化合物を用いた光学記録媒体では、記録層としてフォトクロミック化合物を高分子バインダー中に分散させて使用する。フォトクロミック化合物は、全固形分の5〜95重量%含まれているのが好ましく、10〜70重量%含まれているのがより好ましい。フォトクロミック化合物の量が少なすぎると、読み出しが困難になり、多すぎると高分子バインダーとの相溶性が低下してしまい、膜中で結晶化しやすくなってしまう。
【0033】
記録層を作成する際に用いる高分子バインダーとしては、前記ジアリールエテン化合物を好適に溶解或いは分散させるものであれば、特に限定されない。具体的には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリナフタレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられ、このうち、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂が好ましい。
【0034】
前記の手法により記録層を作成する場合、溶媒(分散媒)としては、前記ジアリールエテン化合物を好適に溶解或いは分散させるとともに、前記高分子バインダーを好適に溶解或いは分散させるもので、且つ、成膜加工の際に妨げにならないものであれば、特に限定されない。具体的には、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒、ヘキサン等の脂肪族溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、クロロホルム等の塩素系溶媒等、各種の有機溶媒が挙げられる。
【0035】
また、高分子バインダーとして重合性化合物を用い、これを高圧水銀ランプなどの紫外線や、電子線、可視光線等の活性エネルギー線の照射によって重合硬化させて記録層としても良い。この場合、重合性化合物の量は全固形分の50〜99.8重量%が好ましく、より好ましくは80〜99重量%である。
本発明で用いられる重合性化合物成分としては、単官能または多官能性の重合性モノマーや樹脂オリゴマーのいずれであっても良いが記録層の架橋密度を上げて強度を保持するため、多官能成分を一定量含むのが好ましい。
【0036】
単官能モノマー成分としては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシヘキサノリド(メタ)アクリレート、1,3−ジオキサンアルコールのε−カプロラクトン付加物の(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソラン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
多官能モノマー成分としては、例えば、シクロペンテニール(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロぺンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート、2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−5−ヒドロキシメチル−5−エチル−1,3−ジオキサンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に、下記一般式(II)で表されるトリシクロ構造を持つ重合性化合物は、硬化物の耐熱性と光線透過性が高い上に、飽和吸水率が低く、またフォトクロミック化合物との相溶性にも優れており本発明記載の記録層として特に好ましい。
【0038】
【化7】

【0039】
(上記(II)式中、置換基R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、連結基R3及びR4はそれぞれ独立に、単結合又は炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
なお、上記一般式(II)において、R1及びR2としては好ましくはメチル基であり、連結基R3及びR4としては好ましくは炭素数が1又は2のアルキレン基である。
また、樹脂オリゴマー成分としては、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0040】
これらの重合性化合物は単独で使用しても良いが、複数種を組み合わせて使用しても良い。
重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤であるのが望ましい。光ラジカル重合開始剤は工業的に広く用いられる高圧水銀ランプなどの紫外線や、電子線、可視光線等の活性エネルギー線の照射によって活性ラジカルを生成する。具体的には、例えば、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4−ジエチルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、2−クロロチオキサントン、ジイソプロピルチオザンソン、9,10−アントラキノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,6−ジメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。光重合開始剤はいずれか1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
重合開始剤の量は、全固形分の0.1重量%から10重量%が好ましい。より、好ましくは、0.5重量%から5重量%である。少な過ぎるとラジカルの発生量が少なくなるため、光重合の速度が遅くなる。また、多すぎると光照射により発生したラジカル同士が再結合し、光重合に対する寄与が少なくなり、やはり光重合の速度が遅くなる場合がある。
本発明の記録層には、必要に応じて、熱重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤、保存安定剤、分散剤、消泡剤、可塑剤、重合性化合物以外の高分子バインダー等の添加剤を加えても良い。これら添加剤の量は全固形分に対して0〜20重量%、好ましくは0〜10重量%である。
【0042】
本発明に係る光学記録媒体は、無溶剤で透明支持体上に塗布するか、組成物に溶剤または添加剤を加えて混合してもよく、これを支持体上に塗布、乾燥した後に活性エネルギー線を照射して硬化させて記録層を形成する。
照射する活性エネルギー線は、前記重合性化合物を硬化させると同時にフォトクロミック化合物を着色させることができれば良く、電子線、可視光線および紫外線が挙げられるが、特に波長200〜400nmの紫外線が好ましい。使用するランプの具体例としては、ケミカルランプ、キセノンランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。重合性化合物を硬化させると同時にフォトクロミック化合物を着色させる工程を導入することにより、フォトクロミック化合物の着色効率を高めて信号強度を大きくする効果がある上に、記録媒体の作成工程を簡略化することができて有用である。
【0043】
活性エネルギー線の照射量は、重合開始剤がラジカルを発生する範囲であれば任意であるが、極端に少ない場合は重合が不完全過ぎて記録層の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、逆に極端に多い場合は記録層に含まれるフォトクロミック化合物や重合性化合物が光による劣化を生じるので好ましくない。記録層組成物の組成、重合開始剤の種類、量に合わせて通常、好ましくは0.1〜20Jの範囲で照射する。
【0044】
支持体としては透明であっても、不透明であってもよい。透明支持体としては、透明なガラス板、アクリル板、ポリカーボネート板、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルムなどが用いられる。好ましくは、ガラス板、アクリル板、ポリカーボネート板である。不透明支持体としては、アルミ板等の金属、または前記透明支持体上に金、銀、アルミ、等の金属を素材とする反射コート、またはフッ化マグネシウムや酸化ジルコニウム等の誘電体を単層あるいは多層にコーティングし、誘電体反射コートを施したものが用いられる。これらの支持体には、データアドレス用のパターニングを設けてあっても良い。パターニングは、基板自体に凹凸を形成したり、反射コーティングにパタンを形成したり、またはこれらを組み合わせた方法が可能である。
【0045】
支持体の膜厚は、0.2mmから1mmが好ましい。0.2mm以下では機械的強度が足りず、1mm以上では機械的強度は問題ないが、コストが高くなる。
塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、回転塗布、ワイヤーバー塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、及びブレード塗布等を用いることができる。また、特に膜厚の厚い記録層を形成する場合、型に入れて成型する方法も用いることができる。
【0046】
本発明の光学記録媒体は、記録層上にさらに支持体、あるいは酸素遮断のための保護層を設けることもできる。
保護層としては、酸素による感度低下や保存安定性の劣化等の悪影響を防止するための公知技術、例えば、水溶性ポリマー等の塗布を用いることもできる。
記録層の上下に支持体を設ける場合は、2つある上下の支持体のうち、少なくともどちらか一方は透明である必要がある。
【0047】
記録層の両側に透明基体を有する媒体の場合、透過型、または反射型が記録可能である。また、片側に不透明、または反射型の支持体を有する場合は、反射型が記録可能である。反射型記録媒体の場合、反射層は支持体と記録層の間にあってもよいし、基体の外側面にあってもよい。
透過型、反射型記録媒体とも、記録光及び読み出し光が入射、及び出射する側、あるいは記録層と支持体との間に反射防止膜を設けても良い。これらの反射防止膜は、光の利用効率を向上させる働きをする。
【0048】
本発明に係る光記録媒体は、フォトクロミック化合物の吸収波長が短くなる方向の変化を利用して記録を行う。フォトクロミック化合物の異性化反応は、従来、開環閉環反応であり、閉環体の方が開環体より吸収波長が長いため、情報の記録は、開環体から閉環体への変化を利用して行っていた。
これに対し、本発明に係る光学記録媒体は、吸収波長が短くなる方向の変化を利用するが、従来の吸収波長が長くなる方向の変化を利用した記録に比べ、通常、2光吸収断面積が大きいため、感度が向上する。本発明に係る光学記録媒体で特に好ましいものは、従来の吸収波長が長くなる方向の変化を利用した記録に比べ、感度が5割増になる。なお、異性化による波長変化は、好ましくは50nm、更に好ましくは100nm、特に好ましくは150nm以上あるのがよい。また、通常、350nm以下であるのが良い。波長変化が大きすぎると、異性化後の吸収波長が長すぎて、記録光を吸収しやすくなり、小さすぎると光学変化が小さくなり読み取りにくくなる。
【0049】
情報の記録に用いる光は、1光子吸収が起こらない波長の光源を用いる。これにより、多層記録が可能になる。好ましくは、800nm±50nmが良い。
このように、フォトクロミック化合物を用いる多光子吸収記録において、該化合物の吸収波長が短くなる方向で記録を行うことにより、高感度な光学記録媒体が達成できる。
【実施例】
【0050】
以下に、合成例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<フォトクロミック化合物の合成>
(合成例1) 1,2−ビス(6−ジフェニルアミノ−2−メチル−1−ベンゾ[b]チオフェン−3−イル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンの合成(以下のPC1038)
J.Chem.Eur.、2001、vol7、p3466記載の方法で、化合物IIIを
合成した。化合物III(0.72g、1.0mmol)、ジフェニルアミン(0.34g
、2.0mmol)、ナトリウム−t−ブトキシド(0.23g)、およびトルエン(2cm3)の混合物に窒素雰囲気下に酢酸パラジウム(II)(2.2mg)およびトリ−t
−ブチルホスフィン(10重量%ヘキサン溶液、0.1cm3)を加え、3時間加熱還流
した。室温に冷却後、酢酸エチルおよび水を加え攪拌後、セライト濾過し、有機層を分離し、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=50/1(容量比)、その後10/1(容量比))で精製し、得られた結晶をメタノールで懸濁洗浄して、当該化合物(0.65g、収率81%)を得た。質量分析結果は、m/z=802(M+)であっ
た。
【0051】
【化8】

【0052】
(合成例2〜7) 以下のPC1043、PC1015、PC1014、PC1039、PC1019、PC1016の合成
【0053】
【化9】

【0054】
合成例1の化合物(III)及びジフェニルアミンの代わりに、各原料化合物を用いるこ
とにより、合成例1とほぼ同様にして、以下のPC1043、PC1015、PC1014、PC1039、PC1019、PC1016を合成した。
<フォトクロミック化合物の熱安定性>
各フォトクロミック化合物の吸収波長、及び該化合物を80℃、85RHで200時間放置後の色素残存率は、表1に記載の通りであった。
【0055】
<光学記録媒体の作製>
各ジアリールエテン化合物4重量%およびアクリル樹脂(三菱レイヨン製、商品名:アクリペットVH−5)4重量%をテトラヒドロフラン/トルエン(混合重量比1:1)に溶解して溶液を作成した。スライドガラス上に上記溶液を滴下後、アプリケーターで塗布し(ギャップ100ミクロン)、100℃で30分間乾燥させ、厚さ1ミクロンのフィルムサンプルを作成した。このフィルムサンプルの両面に紫外線を照射することにより(超高圧水銀ランプ:ウシオ電機製USH−500BY1、照射強度:250mW/cm2
波長365nm)、照射時間:1秒間)、ほぼ無色から着色させ、フィルム中に含まれる短波長体を長波長体へ構造変化させた。
【0056】
<2光子吸収断面積の評価方法>
2光子吸収断面積評価はJ. Opt. Soc. Am. B Vol. 14, No. 5 (1997) pp. 1079 - 1087記載の方法を参考にして行った。上記フィルムサンプルに、フェムト秒チタンサファイアレーザー(波長:800nm、パルス幅:100fs、繰り返し周波数:1kHz、平均出力:2W、ピークパワー:20GW)を用い、レーザーからの出力を適当に減衰させて2光子吸収断面積を測定した。測定にはZ−scan法を用いて励起光密度1〜40GW/cm2の範囲で変化させた。測定試料には、2.5mmol/Lの濃度で各化合物をト
ルエンに溶かした溶液を用い、この溶液を4面透明の1cm角石英セルに入れて測定に供した。
【0057】
<記録感度の比較方法>
各サンプルの2光子吸収記録感度については、フィルムサンプルのレーザー照射部分で色変化が視認できるまでに要する時間を比較した。
波長800nmの場合は、フェムト秒チタンサファイアレーザーの平均出力を68mWに下げ、レーザー光を集光レンズでビーム径1mmに集光して照射を行い、照射部分の色変化を目視で評価した。また、波長650nmの場合は、上記チタン:サファイアレーザーからのレーザー光を波長変換器で650nmに変換した後(平均出力:33mW)、ビーム径1.7mmに集光して同様に実験を行った。
【0058】
本発明に係る光学記録媒体は、表1に示す通り、二光子吸収断面積が大きく、高感度であることが分かった。
(比較例)
上記の合成例1〜7の化合物について、実施例と同様にして、開環体の2光子吸収断面積及び記録感度を測定した。結果を表1に併記する。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
高感度で且つな記録データが熱に対して安定な光学記録媒体が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物の多光子吸収反応を用いた光学記録媒体において、該化合物の吸収波長が短くなる方向で記録を行うことを特徴とする光学記録媒体。
【請求項2】
熱不可逆性を有するフォトクロミック化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の光学記録媒体。
【請求項3】
1光子吸収が起こらない波長の光源を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学記録媒体。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の光学記録媒体により記録することを特徴とする光学記録方法。

【公開番号】特開2006−185506(P2006−185506A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377874(P2004−377874)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】