説明

光導電スイッチング素子、光書き込み型記録用媒体、およびそれらの製造方法と利用

【課題】電荷発生層/電荷輸送層/電荷発生層の層構成を有する光導電スイッチング素子において、平滑性、塗膜厚安定性に優れた電荷輸送層を実現する。
【解決手段】沸点70℃未満の低沸点溶媒と70℃以上の高沸点溶媒との混合物を溶媒として電荷輸送層16を塗設する。光導電スイッチング素子の電荷輸送層16は、塗設時に低沸点溶媒が速やかに蒸発して塗布液濃度と塗布液粘度が上昇するために層内対流が発生しにくく、また高沸点溶媒が比較的緩やかに蒸発するために皮張りが発生しにくい。この結果、オレンジピールの発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電スイッチング素子とその製造方法、およびこれを用いる光書き込み型記録用媒体等のデバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光導電性スイッチング素子と表示素子を組み合わせた光書き込み型空間変調デバイスが開発され、ライトバルブとしてプロジェクター等に実用化されているほか、“液晶空間変調機と情報処理”液晶, Vol.2, No.1, '98, pp3-18にあるように、光情報処理の分野にも可能性が検討されている。光書き込み型空間変調デバイスは、所定の電圧を素子に印加しつつ、受光した光量により光導電性スイッチング素子のインピーダンスを変化させ、表示素子に印加される電圧を制御することにより、表示素子を駆動し、画像を表示するものである。特に、光書き込み型空間変調デバイスの表示制御素子にメモリ性のある素子を用いて、切り離し可能にした光書き込み型媒体は、電子ペーパー媒体として注目されている。
【0003】
また、光書き込み型媒体の表示制御素子としては、例えば、ポリマーに分散しメモリ性を付与したネマチック液晶、コレステリック液晶、強誘電液晶のような液晶表示素子、あるいは電気泳動素子や電界回転素子、トナー電界移動型素子や、これらをカプセル化した素子等が検討されている。これら、受光した光量により電圧あるいは電流を制御できるような光導電スイッチング素子としては、例えば、アモルファスシリコン素子、有機光導電体を用いた機能分離型二層構造のOPC素子のほか、さらに、電荷輸送層(CTL)の上下に電荷発生層(CGL)、を形成した構造(以下、デュアルCGL構造(dual CGL structure)と称する)のOPC素子が知られている(特許文献1)。特にOPC素子は、高温の熱処理を必要としないため、PETフィルムなどのフレキシブル基板への適用も可能であり、かつ、真空プロセスも無いために安価に作製できるという利点を有する。なかでも、前記デュアルCGL構造は、交流駆動が可能であり、表示素子に液晶素子を用いた場合においても、印加電圧に含まれるバイアス成分によりイオンの移動に起因した画像の焼付き現象も生じにくいため、特に有効な構造である。この光導電スイッチング素子を電子ぺーパーに適用した光書き込み型電子ぺーパーの概念図を図1に示す。
【0004】
この光導電スイッチング素子に用いる、電荷発生層の作製方式には蒸着やスパッタリング等真空プロセスを使う方式と、少なくともバインダー樹脂(結着剤)とその溶媒と電荷発生材を分散させた分散液を塗布するという方式があるが、真空プロセスを用いる方式では、装置が高価になるため、低価格な媒体の作製が困難である。一方、塗布型では、安価に大量生産が可能であり、コスト的に優位であるため、電荷輸送層の作製方式としては、塗布型が注目されている。特にスプレーコート法、この変形であるインクジェット法、カーテンコート法、バーコート法、ダイコート法は連続塗布が可能な点で注目されている。
【0005】
光導電スイッチング素子を連続塗布方式で作製するためには、各塗布層の平滑性や膜厚均一性を保つ必要がある。一方電荷輸送層は5〜20μm程度の厚みが必要で、たとえ20質量%の高濃度塗布液を塗布したとしてもそのウエット塗布量は約25〜100μmになり、この塗膜を完全乾燥させるために急速乾燥条件で乾燥すると柚子肌(オレンジピール)を発生しやすい。
【特許文献1】特開2000−180888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なオレンジピールの改良方法として、1)乾燥速度を遅くし、表面の皮張りを防止する方法や、2)高濃度化して層内対流を抑制する方法が採られる。1)の乾燥速度を遅くする方法としては、(A)使用中の溶媒よりも高沸点の溶媒を添加する方法、(B)乾燥温度を下げる方法、(C)乾燥風量を下げる方法、(D)乾燥風の溶媒含率を上げる方法が考えられる。2)の高濃度化の方法としては、(E)より溶解性の高い溶媒を探索して使用する方法、(F)溶質の分子構造改良により溶解性を上げる方法が考えられる。本発明の電荷輸送層はウエット塗布量が多いため、(A)〜(D)の方法はいずれも乾燥時間が長くなることになり、塗布速度の低下による製造コストの増大を招き、さらに(D)の方法では乾燥オーブン中の溶媒濃度が爆発下限を越えてしまう可能性も出るためあまり実用的ではない。また(E)、(F)の方法は確実に課題を克服できるかどうかが不明な上、開発に時間が掛かり、発売時期が大幅に遅れてしまう問題点がある。
【0007】
本発明は、前記のごとき問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光導電スイッチング素子の電荷輸送層を連続積層塗布により、低廉かつ高速に形成する場合に、塗布面状の優れた電荷輸送層を提供することにある。また、本発明は、光導電スイッチング素子を用いた優れた機能を有するデバイス、特に光書き込み型記録用媒体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的は、通常のオレンジピール改善の指針とは逆に、低沸点の溶媒を添加することで改善できることが判った。この推定メカニズムとして以下のメカニズムが考えられる。つまり添加された低沸点の溶媒は塗布後速やかに蒸発し、塗布液の濃度を上昇させ、塗液の粘度が上昇する。この粘度上昇のために層内対流が発生せず、結果的にオレンジピールの発生が防止できる、というメカニズムである。具体的には、本発明では以下の(1)〜(8)を提供する。
【0009】
(1)基板上に少なくとも、電極層、下部電荷発生層、電荷輸送層、および上部電荷発生層を順次積層した、交流電界あるいは交流電流により駆動される機能素子のスイッチングを行うための光導電スイッチング素子の製造方法であって、沸点70℃未満の低沸点溶媒と70℃以上の高沸点溶媒との混合物を溶媒として電荷輸送層を塗設する工程を含むことを特徴とする光導電スイッチング素子の製造方法。
本発明の光導電スイッチング素子の電荷輸送層は、塗設時に低沸点溶媒が速やかに蒸発して塗布液濃度と塗布液粘度が上昇するために層内対流が発生しにくく、また高沸点溶媒が比較的緩やかに蒸発するために皮張りが発生しにくい。この結果、オレンジピールの発生が抑制される。
【0010】
(2)前記低沸点溶媒と前記高沸点溶媒との質量混合比が1:4から4:1の範囲内にあることを特徴とする(1)に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
低沸点溶媒と高沸点溶媒の混合比を1:4から4:1の範囲内にすることで乾燥速度を調節し、乾燥が速すぎるために発生するオレンジピールやブラッシングを防止すると共に塗膜表面の皮張りを防止することで、平滑性や塗膜厚安定性に優れた光導電スイッチング素子を製作することができる。
【0011】
(3)前記電荷輸送層を構成する材料組成物の前記低沸点溶媒への溶解度と、前記高沸点溶媒への溶解度がそれぞれ15質量%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
(4)前記低沸点溶媒の溶解度係数と、前記高沸点溶媒の溶解度係数が、それぞれ15〜22(MPa)0.5であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
溶質(塗膜形成材料)の溶解性を上げることで塗布時の塗液粘度を上昇させると共に、乾燥負荷を軽くして、比較的穏やかな条件で乾燥させることにより、オレンジピールの発生を防止することができる。
【0012】
(6)(5)に記載の光導電スイッチング素子と機能素子を電気的に接続したデバイス。
【0013】
(7) 一組の基板の間に、少なくとも電極と表示層と光導電スイッチング素子と電極が積層されてなる光書き込み型記録用媒体において、前記光導電スイッチング素子が請求項5に記載の光導電スイッチング素子であって、該素子の上部電荷発生層が表示層側に位置し、かつ少なくとも書き込み光が入射する側の基板および電極が光透過性であることを特徴とする光書き込み型記録用媒体。
(8)電極層が形成された基板の電極層側の表面に、光導電スイッチング層を形成する工程と、透明電極層が形成された透明基板の透明電極層側の表面に、表示素子層を形成する工程と、得られた両基板の光導電スイッチング層および表示素子層側の面を貼り合わせる工程と、を含み、前記光導電スイッチング層を形成する工程が、電荷発生材を含む下部電荷発生層と、電荷輸送材を含む電荷輸送層と、電荷発生材を含む上部電荷発生層と、を順次長尺で塗設することで積層形成する工程である交流駆動方式の光書き込み型記録媒体の製造方法であって、前記電荷輸送層を塗設する際の溶媒が、沸点70℃未満の低沸点溶媒と70℃以上の高沸点溶媒との混合物からなることを特徴とする光書き込み型記録媒体の製造方法。
【0014】
(9)(7)に記載の光書き込み型記録用媒体、該記録媒体を駆動するための記録媒体駆動装置、前記記録媒体に光書き込みを行う光書き込み装置および制御装置を少なくとも備える表示装置。
(10)(7)に記載の光書き込み型記録用媒体、該記録媒体を駆動するための記録媒体駆動装置、前記記録媒体に光書き込みを行う光書き込み装置および制御装置を少なくとも備える書き込み装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、電荷輸送層の平滑性と膜厚均一性が改良された光導電スイッチング素子を低廉かつ高速に作製することができる。またこの光導電スイッチング素子を使用すれば、均一なグレー表示のできる光書込記録媒体を製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において、本発明の光導電スイッチング素子の製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
本発明の光導電スイッチング素子は、基本的には光透過性の基板、光透過性の電極層、下部電荷発生層、電荷輸送層および上部電荷発生層から構成されるものである。なお、本願においては「光透過性」という性質を「透明」と表現することがある。
図1は、本発明の光導電スイッチング素子30(デュアルCGL 構造の光導電スイッチング素子)の構造を示すものである。図1中、10は基板、12は導電膜(電極)、14は下部電荷発生層、16は電荷輸送層、18は上部電荷発生層をそれぞれ示す。以下で説明するデバイスあるいは光書き込み媒体においては、上部電荷発生層が機能層たとえば表示層側に位置することになる。
【0018】
本発明においては、前記のごとき構造を有する光導電スイッチング素子を製造する際に、電荷発生層の塗布溶媒として、沸点が70℃未満の低沸点溶媒と沸点が70℃以上の高沸点溶媒との混合溶媒を使用することを特徴とするものである。これらの高沸点溶媒や低沸点溶媒は、いずれも電荷輸送層を構成する組成物の溶解度が15質量%以上であることが好ましく、また、溶解度係数が15〜22(MPa)0.5であることが好ましい。
【0019】
溶解度係数とは、J.H.Hildebrandによって提唱され、δで表される定数で、液体の分子凝集エネルギー(E)と分子容(V)から(1)式を用いて計算される温度だけに依存する物質定数である。
δ=(E/V)0.5 (1)
この値から物質の溶解度などを半定量的に予測したり説明したりすることができるとされており、この値が近いもの同士は良く溶解し、値が異なるもの同士は溶解しにくいとされている。この計算には各分子(物質)の分子凝集エネルギーを求めなければならないが、簡便には分子の構成基から値を算出して求める方法もある。この算出法についてはpolymer handbook 4th edition等を参照されたい。尚溶解度係数の単位としては(MPa)0.5と(cal/cm)0.5の2種が通常使用されているが、本明細書では(MPa)0.5単位を使用する。
本発明で使用する電荷輸送層のバインダー、電荷輸送材の多くが溶解度係数が16〜18(MPa)0.5であるため溶解度係数が近い溶媒を選択することでより高濃度の電荷輸送層塗布液を作成できる。従って本発明で使用する溶媒の溶解度係数は15〜22(MPa)0.5が好ましく、16〜20(MPa)0.5がさらに好ましい。
【0020】
また、電荷輸送層を構成する材料組成物の溶解度については、15質量%以上であることが好ましい。この場合の溶解度は溶媒の質量と電荷輸送層を構成する全固形成分の質量の合計で電荷輸送層を構成する全固形成分の質量の合計を除した値である。溶解度は塗布が可能な粘度範囲で高い方が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。
【0021】
本発明において電荷輸送層の塗設に用いられる溶媒としては、一般に、塩素系、芳香族系、エーテル系の溶媒が有効である。なかでも、塩素系溶媒、ケトン系芳香族溶媒は、電荷輸送材料、バインダーの双方を高濃度で溶解することができるため、電荷輸送層用塗布液の溶媒として最適である。
より具体的に溶媒を示すと、沸点が70℃未満の低沸点溶媒としてはクロロホルム(沸点:62℃、δ:19.0)、カーボンジサルファイド(沸点:46℃、δ:20.5)、メチレンクロライド(沸点:40℃、δ:19.8)、エチルフォルメート(沸点:54℃、δ:19.2)、テトラヒドロフラン(沸点:66℃、δ:18.6)、アセトン(56℃)、ジイソプロピルエーテル(68℃)、メチルアセテート(57℃)等が挙げられる。
また沸点が70℃以上の高沸点溶媒としてはトルエン(沸点:111℃、δ:18.2)、キシレン(沸点:137〜140℃、δ:18.0)、シクロへキサン(沸点:81℃、δ:16.8)、クロロベンゼン(沸点:132℃、δ:19.4)、ジクロロエタン(沸点:83.7℃)、アセトニトリル(82℃)、アニソール(154℃)、ブチルアセテート(127℃)、ジエチルカーボネート(126℃)、ジメチルフォルムアミド(153℃)、ジメチルスルフォキサイド(189℃)、1,4−ジオキサン(101℃)、エチルアセテート(77℃)、エチルメチルケトン(80℃)、イソブチルメチルケトン(117℃)、ピリジン(116℃)トリクロロエチレン(87℃)などが挙げられる。
【0022】
本発明に使用される電荷輸送材料としては、ベンジジン系、トリニトロフルオレン系、ポリビニルカルバゾール系、オキサジアゾール系、ピラリゾン系、ヒドラゾン系、スチルベン系、トリフェニルアミン系、トリフェニルメタン系などが適用可能ある。
上記のなかでも、ベンジジン系化合物および/またはトリフェニルアミン系化合物を主成分とするものが好ましい。特に有用な正電荷輸送材としては、下記(化合物1−A)〜(化合物1−G)に例示するような構造のヒドラゾン系化合物、下記(化合物2−A)〜(化合物2−K)に例示するような構造のスチリルトリフェニルアミン化合物、下記(化合物3−A)〜(化合物3−H)に例示するような構造のN,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン化合物、下記(化合物4−A)〜(化合物4−E)に例示するような構造のトリフェニルアミン化合物や、その他、下記(化合物5−A)〜(化合物5−F)に例示するような構造の化合物等が挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
また、特に有用な負電荷輸送材としては、下記(化合物6−A)〜(化合物6−P)に例示するような構造の化合物が適用可能である。
【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
これらの電荷輸送材のなかでも、トリフェニルアミン系化合物である(化合物4−B)、ベンジジン系化合物である(化合物3−A)、(化合物3−B)、および、(化合物3−D)は、イオン化ポテンシャルが低く、かつ、バインダとの相溶性が高いため、より望ましい。
【0038】
化合物名で言えば、N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニル−(1,1'−ビフェニル)−4,4'−ジアミン、N,N'−ビス(3−エチルフェニル)−N,N'−ジフェニル−(1,1'−ビフェニル)−4,4'−ジアミン、N,N'−ビス(3−エチルフェニル)−N,N'−ジフェニル−(1,1'−ビフェニル)−4,4'−ジアミン、N,N'−ビス(3エチルフェニル)−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1'−ビフェニル)−4,4'−ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1のベンジジン系化合物や、トリフェニルアミン系化合物であるN,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビスフェニル−4−アミンが好ましい。
【0039】
本発明の電荷輸送層のバインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンーブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が適用可能である。とくに、ポリカーボネート樹脂は、バインダーとした場合、電荷輸送材の特性を改善するため、大変有効である。
【0040】
本発明の電荷輸送層の作製方法としては、溶液あるいは分散液を用いるウエットコーティングが好ましく用いられる。ウエットコーティングの方法としては一般的に知られるコーティング法、印刷法のいずれもが適用可能であるが、バーコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、インクジェット法、カーテンコート法、スピンコート法、ディップ法などが好ましく適用できる。中でも高速に連続的に製造するためにはダイコート法、グラビアコート法が好ましく用いられる。電荷輸送層の膜厚は、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは5μm〜20μmが適切である。0.1μmより薄いと耐電圧が低くなって信頼性確保が困難になることがあり、また、100μmより厚くなると、機能素子とのインピーダンスマッチングが困難となって設計が難しくなることがある。
【0041】
下部および上部電荷発生層の電荷発生材としては、ペリレン系、フタロシアニン系、ビスアゾ系、ジチオピトケロピロール系、スクワリリウム系、アズレニウム系、チアピリリウム・ポリカーボネート系など光照射により電荷が発生する有機材料が適用可能である。特に、クロロガリウムフタロシアニンやヒドロキシガリウムフタロシアニン、チタニルフタロシアニンが高感度な電荷発生材として好ましく適用可能であるが、中でも、(1)結晶構造がX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が、少なくともi)7.4°、16.6°、25.5°および28.3°、ii)6.8°、17.3°、23.6°および26.9°、またはiii)8.7°〜9.2°、17.6°、24.0°、27.4°および28.8°に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン、(2)結晶構造がX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が、少なくともi)7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°、ii)7.7°、16.5°、25.1°および26.6°、iii)7.9°、16.5°、24.4°および27.6°、iv)7.0°、7.5°、10.5°、11.7°、12.7°、17.3°、18.1°、24.5°、26.2°および27.1°、v)6.8°、12.8°、15.8°および26.0°、またはvi)7.4°、9.9°、25.0°、26.2°および28.2°に強い回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、および(3)結晶構造がX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が、i)少なくとも9.3°および26.3°に強い回折ピークを有するか、またはii)9.5゜、9.7°、11.7°、15°、23.5°、24.1°、および27.3゜に強い回折ピークをもつチタニルフタロシアニン、が高感度であり好ましく、これらの群より選ばれる少なくとも一種類以上の電荷発生材を用いることができる。
【0042】
下部および上部電荷発生層のバインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂を含む)、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂などが適用可能である。特に、ポリビニルブチラール樹脂、およびポリアミド樹脂、なかでもメトキシメチル化6ナイロン等のナイロン系樹脂は、アルコール系およびケトアルコール系の多くに可溶であり、効果的である。また、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、ケトアルコールに可溶であり、かつ、電荷発生材であるヒドロキシガリウムフタロシアニン等を良好に分散させるため、好ましいバインダー樹脂である。
【0043】
下部電荷発生層の作製方法としては、真空蒸着法やスパッタ法などドライな膜形成法を用いることもできるが、溶液あるいは分散液を用いるウエットコーティングが好ましく用いられる。ウエットコーティングの方法としては一般的に知られるコーティング法、印刷法のいずれもが適用可能であるが、バーコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、インクジェット法、カーテンコート法、スピンコート法、ディップ法などが好ましく適用できる。中でも高速に連続的に製造するためにはバーコート法、ダイコート法、グラビアコート法が好ましく用いられる。いずれの方式も、a−Siやフォトダイオード作製におけるような基板加熱や厳しい工程管理は不要である。上部および下部電荷発生層の膜厚は、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは20nm〜500nmが適切である。10nmより薄いと光感度が不足しかつ均一な膜の作製が難しくなることがあり、また、1μmより厚くなると、光感度は飽和し、膜内応力によって剥離が生じ易くなることがある。
【0044】
各層の順番は電極層、下部電荷発生層、電荷輸送層、上部電荷発生層の順番以外には特に規定はなく、これら4層の中間に任意の機能層を設置することができる。またこれら4層以外に電極とは別の導電層、電荷輸送層、電荷発生層を設けることもできる。
【0045】
本発明において電荷発生層の塗設に用いられる溶媒としては、電荷輸送層を構成する材料にもよるが、一般に、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系などの溶媒が有効である。なかでも、アルコール等の分子中に水酸基を有する溶媒は、ポリカーボネート系樹脂をバインダーとした電荷輸送層上に作製する電荷発生層用分散液の溶媒として最適である。また、本発明において電荷発生層の塗設に用いられる溶媒は、プロトン系溶媒であり、かつその溶解パラメータ(SP値)が18(MPa)0.5以上であることが好ましい。一般に電荷輸送材には、アルコールなどのプロトン系溶媒に不溶あるいは難溶である物質が多く用いられる。一方、電荷輸送層のバインダー樹脂は電荷輸送材と相溶性のある樹脂が選択されるが、その際、その可溶性に関しては、電荷輸送材と同様な性質の樹脂、すなわち、プロトン系溶媒に不溶あるいは難溶である樹脂が選択されるからである。
【0046】
電荷発生層に適用可能なアルコールとは分子中に1以上の水酸基を有する化合物であり、たとえばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチルー1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチルー2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペプタノール、2−ペプタノール、3−ペプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルギルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、α―テルピネオール、アビエチノール、フーゼル油、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、2−ブテンー1,4−ジオール、2−メチルー2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等である。
【0047】
また、分子中に水酸基とカルボニル基を有する化合物も有効であり、例えば、3−メチル−3−ヒドロキシ−2−ブタノン、4−メチル−4−ヒドロキシ−2−ペンタノン等のケトアルコールが適用可能である。
もちろん、これらの溶媒を数種類混ぜてもよいほか、これらを主成分とすれば、これ以外の溶媒を、混合することも可能である。
【0048】
前記上部電荷発生層用の分散液の調製については、バインダーと電荷発生材との質量比は、1:20から20:1程度が好適であるが、さらに好ましくは1:3から3:1である。1:20以上では結着力が小さくなることがあり、また、20:1以下では電気特性が劣化することがある。また、上部電荷発生層用分散液の固形分含有量の濃度は、1〜30質量%程度が好適である。1%以下では膜厚が薄すぎて電気特性が得られないことがあり、30%以上では粘度が高すぎて膜形成が困難になることがある。
【0049】
特に、前記の特定の結晶構造を有するフタロシアニンを含む高感度の電荷発生材を分散させるためには、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を、また溶媒として、1−ブタノール、3−メチル−3−ヒドロキシ−2−ブタノン、4−メチル−4ヒドロキシ−2−ペンタノンを用いると、前記電荷発生材を良好に分散させることができるため、大変有効である。
【0050】
また、本発明の光導電スイッチング素子の基板としては、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリイミド、PES(ポリエーテルスルホン)等の基板を用いることができる。特にPETは価格が安く、強度が高いため有用である。また、光導電層(電荷発生層、電荷輸送層)に有機材料を用いる場合には高温で熱処理をする工程がないので、フレキシブル基板が得られること、成形が容易なこと、コストの点などから光透過性のプラスチック基板を用いることが有利である。基板の厚みとしては、一般的には10μm〜500μm程度が好適である。好ましくは25μm〜250μm、さらに好ましくは50μm〜150μmである。また、本発明における電極層としては、IZO膜、ITO膜、SnO2、Au、Al、Cu、Cr等が用いられる。また、基板および電極は、必ずしも光透過性である必要はない。すなわち、特開2001−100664号公報に示すように、光書き込み型記録用媒体の表示素子が、メモリ性を有し、かつ、表示に必要な波長を選択的に反射する選択反射性または後方散乱性の表示素子である場合には、表示側から書き込むことが可能であるので、この場合には少なくとも表示素子側の基板および電極層が光透過性であればよい。したがって、表示素子側から光書き込みをする場合、光導電スイッチング素子の基板あるいは電極層は光透過性である必要はなく、電極層としてAl、Cu、Cr、Auなどの金属層を用いることができる。
【0051】
また、本発明の光導電スイッチング素子においては、上記の光導電スイッチング素子の電荷輸送層の上下に形成された電荷発生層の光導電特性が同一でない場合、特開2000−180888号公報の[0022]〜[0025]に記載のごとき、直流成分除去可能な容量成分をもつ機能膜、すなわち直流成分除去用機能膜を光導電スイッチング素子に設けることが実効的な直流バイアスを除去するのに有効である。
【0052】
また、直流成分除去用機能膜の他に、他の機能層を設けることも可能である。たとえば、電極と電荷発生層の間にキャリアの突入を防ぐ層を形成することができる。また、反射膜や遮光膜を形成することも可能であるし、これらの複数の機能を兼ねた機能層でもよい。このような機能層は電流の流れを著しく妨げない範囲で適用可能である。また本発明の光導電スイッチング素子の構造としては、電荷輸送層間に電荷発生層を作製し、電荷発生層/ 電荷輸送層/ 電荷発生層/ 電荷輸送層/ 電荷発生層等のような構成とすることも可能である。
【0053】
本発明の光導電スイッチング素子は、光導電スイッチング素子に交流電界を印加した場合にその電圧対称性が優れており、高速に連続塗布が可能で、各層間の密着が優れているので、高品質かつ低コストで作製し得る。また、層間の剥離や欠陥による電荷のトラップが少ないので、光導電スイッチング素子としての機能劣化が生じない。
【0054】
この光導電スイッチング素子は、以下で説明するような機能素子に電気的に接続して用いることができる。光導電スイッチング素子と機能素子は直列接続であっても並列接続であっても構わないし、これらの組み合わせであっても構わない。さらにほかの素子と接続されていてもよい。前記機能素子としては、画像表示のための液晶表示素子、エレクトロクロミック、電気泳動素子、電界回転素子等の表示素子、画像表示以外の空間変調素子や光演算素子、記憶装置に用いるメモリ素子、サーマルヘッド用画像記録素子等が挙げられる。本発明の光導電スイッチング素子は、画像表示素子、特に液晶表示素子のスイッチングを行わせるのに効果的である。液晶表示素子を用いた場合は、光書き込み型液晶空間変調素子として使用することが可能である。特に、液晶表示デバイスは、交流駆動が基本であり、上述したように直流成分を嫌うため、本発明の光導電スイッチング素子の適用が効果的である。使用できる液晶は、ネマチック、スメクチック、ディスコチック、コレステリック系などである。
【0055】
また、本発明の機能素子としては、メモリ性のある機能素子を挙げることができる。メモリ性のある機能素子としては、上記液晶表示素子のうちメモリ性のある液晶表示素子を挙げることができる。メモリ性のある液晶とは、液晶を電圧印加により配向制御した後、電圧印加を解除した後も、一定時間、液晶の配向が保たれる特徴を持った液晶である。たとえば、ポリマー分散型液晶(PDLC)やカイラルスメクチックC 相等の強誘電性液晶、あるいはコレステリック液晶等である。また、これらをカプセル化した液晶素子でも適用可能である。メモリ性を有する液晶はそのメモリ性ゆえに、画像表示保持のための電力を必要とせず、また、後述の一体化したデバイスを作製し、本体から分離して使用することが可能である。また、そのデバイスの作製を安価に行うことができる。また、メモリ性のある表示素子としては、上記液晶表示素子の他、エレクトロクロミック素子、電気泳動素子、電界回転素子を挙げることができる。
【0056】
また、本発明においては、光導電スイッチング素子と前記のごとき機能素子とを接続する場合において、これらを一体化させてデバイスとすることが好ましい。一体化させることにより光導電スイッチング素子と機能素子の接続を安定化させることができる。また特に、メモリ性を有する機能素子と光導電スイッチング素子とを一体化することが効果的である。これらを一体化したデバイスは、デバイスを駆動する本体から分離させることが可能となる。したがって、本体から分離させたデバイスを例えば、配布することが可能になる。また、使用者は自由な場所で自由な姿勢で閲覧することができる。もちろん、液晶部の画像表示のみ分離することにも適用可能である。しかし、機能素子と光導電スイッチング素子を、再度改めて接続する場合の信頼性の確保が困難な場合があるため、機能素子と有機光導電スイッチングを一体化したものの方が効果的である。上記メモリ性を有する機能素子として、メモリ性を有する液晶素子と光導電スイッチングを一体化したデバイス( 画像表示媒体) は、本発明のデバイスとして特に効果的である。さらに、メモリ性を有する液晶素子のなかでも、コレステリック液晶は、反射率が高く、表示性能が優れているため、コレステリック液晶表示素子と光導電スイッチング素子を一体化したデバイスが特に画像表示媒体として望ましい。さらに、本発明においては、前記の光導電スイッチング素子、直流成分除去用機能膜、および機能素子を順次積層し一体化したデバイスとすることが有利である。光導電スイッチング素子と機能素子を直列に接続したデバイスにおいて、光導電スイッチング素子の上部電荷発生層と機能素子の間に機能膜を設けることもできる。たとえば光導電スイッチング素子と機能素子を隔離するための隔離層や直流成分除去用機能膜等が挙げられる。
【0057】
本発明の光導電スイッチング素子と機能素子とを一体化したデバイスの一例として、図2に前記のごとき機能膜を備えた光書き込み型空間変調デバイス(光書き込み型記録用媒体)の概念図を示す。この光書き込み型記録用媒体20は、光導電スイッチング素子30、表示素子40および光導電スイッチング素子と表示素子の間に挟まれた機能膜50より構成され、光導電スイッチング素子30は基板31、電極32、下部電荷発生層33、電荷輸送層34および上部電荷発生層35より構成され、表示素子40は、基板41、電極42および表示層(液晶層等)43から構成される。図から明らかなように、上部電荷発生層35を表示素子側に位置させる。前記光書き込み型記録用媒体20において、光書き込みが光導電スイッチング素子側あるいは表示素子側から行なわれるかにより、光入射側の素子の基板および電極を光透過性にすることが必要である。電極32と42の間に交流電界が印加される。
【0058】
本発明においては、上記のごとき光導電スイッチング素子と機能素子を一体化させたデバイスに、該デバイスを駆動する駆動機構を電気的に接続させて、様々な機能を発揮する装置を作製することができる。またこの際、該駆動機構を該デバイスと切り離し可能に構成することにより、デバイスを装置本体から切り離して閲覧に供したり、配付したりすることができる。機能素子としてはメモリ性のある機能素子、表示素子、メモリ性のある表示素子、液晶表示素子、メモリ性のある液晶表示素子あるいはコレステリック液晶表示素子等が挙げられるが、特にメモリー性のある機能素子、例えばメモリー性のある液晶表示素子、中でもコレステリック液晶表示素子が好ましく用いられる。また、上記装置のデバイスが、前記の直流成分除去用機能膜を備えたデバイスの場合には、交流電界により駆動する際の電圧対称性がさらに改善されることになる。
【0059】
次に、本発明を用いて製造することができる表示装置について説明する。図3に表示装置の一例の概略図を示す。図3で示される表示装置は、記録媒体駆動装置、書き込み装置およびこれらを制御する制御装置から構成される。これらの装置は一つにまとめられていてもよいし、分離していてもよい。記録媒体駆動装置は、波形発生手段62、入力信号検知手段64、制御手段66およびコネクター65からなる。コネクター65は、光導電スイッチング素子側基板の透明電極と、表示素子側基板の電極に接続するためのコネクターで、それぞれの側に接点を有し、記録媒体駆動装置と光書き込み型記録用媒体20を自在に分離することが可能である。書き込み装置は、制御手段82、光パターン生成手段(たとえば透過型TFT液晶ディスプレイ)84および光照射手段(たとえばハロゲン光源)86よりなり、制御手段82はPCにつながっている。また、制御装置は記録媒体駆動装置および書き込み装置を制御するためのものであり、制御手段70、駆動波発生信号出力手段72および光書き込みデータ出力手段74からなる。なお、前記光書き込み型記録用媒体20は、この場合、光導電スイッチング素子30と表示素子40の間に直流成分除去用機能膜52を備えている。
【0060】
光書き込み手段による光書き込みと同期して、表示のための駆動パルスを印加する電圧印加手段(図示せず)は、印加パルスの生成手段、出力するためのトリガ入力を検知する手段を有する。パルス生成手段には例えば、ROMのような波形記憶手段とDA変換手段と制御手段とを有し、電圧印加時にROMから読み出した波形をDA変換して空間変調デバイスに印加する手段が適用可能であるし、また、ROMではなくパルス発生回路のような電気回路的な方式でパルスを発生させる手段が適用可能であるが、このほかにも駆動パルスを印加する手段であれば特に制限なく使用することができる。書き込み装置としては、空間変調デバイスの光入射側に照射する光のパターンを生成する手段と、そのパターンを空間変調デバイスに照射する光照射手段とを有する。パターンの生成には、例えば、TFTを用いた液晶ディスプレイ、単純マトリックス型液晶ディスプレイ等透過型のディスプレイが適用可能である。光照射手段としては、蛍光ライト、ハロゲンランプ、エレクトロルミネッセンス(EL)ライト等、空間変調デバイスに照射できるものであれば適用可能である。また、パターン生成手段と光照射手段を兼ね備えたELディスプレイやCRT、フィールドエミッションディスプレイ(FED)など発光型ディスプレイも適用可能であることはいうまでもない。前記のほかにも、空間変調デバイスに照射する光量、波長、照射パターンを制御できる手段であれば、それ以外であっても構わない。
【0061】
本発明における機能素子を駆動する駆動方法としては、特に制限されないが、交流電圧、周波数、照射光量および波長制御が適用可能である。本発明の記録装置あるいは記録方法において印加する印加電圧は交流電圧であるが、波形としてはサイン波、矩形波、三角波などが使用可能である。もちろんこれらを組み合わせたものでも、まったく任意の波形であっても適用可能である。また、表示性能等改善のため、単独では表示の切り替えのできないようなサブパルスを駆動パルスに付加してもよい。表示素子によっては、若干のバイアス成分印加が有効な場合があるが、本発明のデバイスにおいて、それを採用してもよいことはもちろんである。
【実施例】
【0062】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において%は「質量%」を、部は「質量部」を意味する。
【0063】
(電荷輸送層塗布液の調液)
表1に示す電荷輸送材、バインダー、低沸点溶媒、高沸点溶媒を用いて電荷輸送層塗布液を調液した。低沸点溶媒と高沸点溶媒との質量比(溶媒のみの比率)は表1に記載されるとおりとし、電荷輸送材量とバインダーの質量比は4:6に固定した。電荷輸送層にはこれ以外の一切の固形分を添加せずに調液を行った。表1には固形分濃度を合わせて示す。なお、表中においてバインダーの種類を表すZ-400は、PolyCarbonate bisphenol-Z(ポリ(4,4'-シクロヘキシリデンジフェニレンカーボネート)、三菱ガス化学株式会社製)である。また、電荷輸送材とバインダーからなる各材料組成物は、表1に記載される各溶媒への溶解度がいずれも15質量%以上であった。さらに、表1に記載される各溶媒は、いずれも溶解度係数が15〜22(MPa)0.5の範囲内である。
【0064】
表1に記載される溶媒以外に、n−ペンタン(沸点:36℃、δ:14.3)とジエチルエーテル(沸点:34℃、δ:15.1)に対しても、各電荷輸送材とバインダーを溶解することを試みた。しかしながら、いずれも15%以上の濃度の溶液を調液することはできなかった。
【0065】
(PETベース上における電荷輸送層の形成)
上で調製した各電荷輸送層塗布液をPETベース上にダイコーターを使用して連続的に塗布することで実施例101〜106、比較例201〜204の電荷輸送層塗膜を得た。塗布液の乾燥温度は80℃、乾燥時間は3分とした。この塗布膜の面状を評価して、平滑、レチキュレーション、柚子肌、ブラッシングに分類した。この結果を表1に示す。ここで平滑以外の結果は、膜表面に何らかの問題があることを示す。
【0066】
(光導電スイッチング素子の作成)
この例においては、光導電スイッチング素子の密着度合いを評価するために、OPCセルを作製した。下部電荷発生層用分散液として、X線回折のブラッグ角が7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°にピークをもつヒドロキシガリウムフタロシアニンを電荷発生材とし、バインダー樹脂としてポリビニルブチラールを用い、両者の質量比率を1:1とし、これを、1−ブタノールに混合(濃度4%)した後、ペイントシェーカーにより1時間分散させ、分散液を作った。この分散液をバーコート法により 125μm厚のITO付きPETフィルム(東レハイビーム)のITO面上に、塗布後、乾燥させ、下部電荷発生層を0.2μm厚に形成した。
【0067】
上記のPETベース上における電荷輸送層の形成方法と同じ方法により、ダイコート法により電荷輸送層塗布液を塗布、乾燥して、下部電荷発生層上に8μm厚の電荷輸送層を形成した。
【0068】
形成した電荷輸送層の上に、下部電荷発生層と同じ塗布液を同様に塗布、乾燥して上部電荷発生層を0.2μm厚で形成し、実施例101〜106と比較例201〜204の各光導電スイッチング素子を得た。各光導電スイッチング素子の上部電荷発生層の上に、隔離層として、ポリビニルアルコールの層を0.2μmの厚さで、ダイコート法により連続的に形成した。
【0069】
(表示素子の作製)
表示素子の表示層としては以下で示す方法により作製されたカプセル液晶素子を用いた。正の誘電率異方性を有するネマチック液晶E8(メルク社製)74.8部に、カイラル剤CB15(BDH社製)21部およびカイラル剤R1011(メルク社製)4.2部を加熱溶解後、室温に戻して、ブルーグリーンの色光を選択反射するカイラルネマチック液晶を得た。このブルーグリーンカイラルネマチック液晶10部に、キシレンジイソシアネート3モルとトリメチロールプロパン1モルとの付加物(武田薬品工業製D−110N)3部と、酢酸エチル100部を加えて均一溶液とし、油相となる液を調製した。一方、ポリビニルアルコール(クラレ社製ポバール217EE)10部を、熱したイオン交換水1000部に加えて攪拌後、放置冷却することによって、水相となる液を調製した。
【0070】
次に、スライダックで30V交流を与えた家庭用ミキサーによって、前記油相を前記水相中に1分間乳化分散して、水相中に油相液滴が分散した水中油エマルジョンを調製した。この水中油エマルジョンを60℃のウォーターバスで加熱しながら2時間攪拌し、界面重合を完了させて、液晶マイクロカプセルを形成した。得られた液晶マイクロカプセルの平均粒径は、レーザー粒度分布計によって約12μmと見積もられた。マイクロカプセル分散液を網目38μmのステンレスメッシュを通して濾過後一昼夜放置し、乳白色の上澄みを取り除くことによりマイクロカプセルからなる固形成分約40質量%のスラリーを得た。前記スラリーに対しマイクロカプセルからなる固形成分に対して2/3質量となる量のポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール溶液(10%)を加えることにより表示層用塗布液を調製した。125μm厚ITO付きPETフィルム(東レハイビーム)のITO面上に、上記塗布液を#44のワイヤーバーで塗布することにより、液晶層を形成し、表示素子を作製した。
【0071】
(光書き込み型記録媒体の作製)
光導電スイッチング素子の上部電荷発生層の上に形成したポリビニルアルコール隔離層の表面に、完全水性型ドライラミネート接着剤であるディックドライWS−321A/LD−55 (大日本インキ化学工業(株)製)を塗布乾燥させて4μm厚の接着層とした。光導電スイッチング素子に設けた接着層と表示素子の液晶層を密着させ、70℃においてラミネートを行った後、表示素子のPETフィルムの表面にブラックポリイミドBKR−105(日本化薬製)を塗布し、これを張り合わせてモノクロ表示の光書き込み型記録用媒体を得た。
【0072】
(光書き込み記録媒体の記録評価)
上で作製した光書き込み記録媒体を用い、図3で示したような書き込み装置に接続し、光書き込み記録媒体の両電極に電圧を印加し、モノクロカラー画像表示を試みた。書き込み条件は、書込光を1μw/cm2以下から500μw/cm2まで連続して変化させて照射を行いながら、パルスとして矩形波、50Hz、4パルス、300Vppを印加した。この結果、光照射部はブルー、暗部はブラックへと連続的に濃度が変化するモノクロ画像(グレースケール)が得られた。このモノクロ画像の濃度ムラを目視評価した。この結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、電荷輸送層の平滑性と膜厚均一性が改良された光導電スイッチング素子を連続積層塗布により作製することができる。また、この光導電スイッチング素子を使用することで均一なグレー表示のできる光書込記録媒体を製作することができる。本発明の方法によれば、低廉かつ高速に優れた機能を有する光導電スイッチング素子等を製造することができるため、本発明の産業上の利用可能性は高い。
【0074】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】デュアル CGL構造を有する光導電スイッチング素子の断面構造を示す概念図である。
【図2】本発明の光書き込み型記録用媒体の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の書き込み装置および表示装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0076】
10 基板
12 電極
14 下部電荷発生層
16 電荷輸送層
18 上部電荷発生層
20 光書き込み型記録用媒体
30 光導電スイッチング素子
40 表示素子
50 機能膜
52 直流成分除去用機能膜(または接着層)
65 コネクター
70、82 制御手段
84 光パターン生成手段
86 光照射手段
A 制御装置
B 記録媒体駆動装置
C 光書き込み装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも、電極層、下部電荷発生層、電荷輸送層、および上部電荷発生層を順次積層した、交流電界あるいは交流電流により駆動される機能素子のスイッチングを行うための光導電スイッチング素子の製造方法であって、
沸点70℃未満の低沸点溶媒と70℃以上の高沸点溶媒との混合物を溶媒として電荷輸送層を塗設する工程を含むことを特徴とする光導電スイッチング素子の製造方法。
【請求項2】
前記低沸点溶媒と前記高沸点溶媒との質量混合比が1:4から4:1の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
【請求項3】
前記電荷輸送層を構成する材料組成物の前記低沸点溶媒への溶解度と、前記高沸点溶媒への溶解度がそれぞれ15質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
【請求項4】
前記低沸点溶媒の溶解度係数と、前記高沸点溶媒の溶解度係数が、それぞれ15〜22(MPa)0.5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光導電スイッチング素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により製造される光導電スイッチング素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光導電スイッチング素子と機能素子を電気的に接続したデバイス。
【請求項7】
一組の基板の間に、少なくとも電極と表示層と光導電スイッチング素子と電極が積層されてなる光書き込み型記録用媒体において、前記光導電スイッチング素子が請求項5に記載の光導電スイッチング素子であって、該素子の上部電荷発生層が表示層側に位置し、かつ少なくとも書き込み光が入射する側の基板および電極が光透過性であることを特徴とする光書き込み型記録用媒体。
【請求項8】
電極層が形成された基板の電極層側の表面に、光導電スイッチング層を形成する工程と、透明電極層が形成された透明基板の透明電極層側の表面に、表示素子層を形成する工程と、得られた両基板の光導電スイッチング層および表示素子層側の面を貼り合わせる工程と、を含み、前記光導電スイッチング層を形成する工程が、電荷発生材を含む下部電荷発生層と、電荷輸送材を含む電荷輸送層と、電荷発生材を含む上部電荷発生層と、を順次長尺で塗設することで積層形成する工程である交流駆動方式の光書き込み型記録媒体の製造方法であって、
前記電荷輸送層を塗設する際の溶媒が、沸点70℃未満の低沸点溶媒と70℃以上の高沸点溶媒との混合物からなることを特徴とする光書き込み型記録媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の光書き込み型記録用媒体、該記録媒体を駆動するための記録媒体駆動装置、前記記録媒体に光書き込みを行う光書き込み装置および制御装置を少なくとも備える表示装置。
【請求項10】
請求項7に記載の光書き込み型記録用媒体、該記録媒体を駆動するための記録媒体駆動装置、前記記録媒体に光書き込みを行う光書き込み装置および制御装置を少なくとも備える書き込み装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−76762(P2008−76762A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256247(P2006−256247)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】