説明

光映像配信システムの映像品質推定方法および映像品質推定装置

【課題】伝送路中で発生するSPMによる伝送品質への影響を定量的かつ短時間に推定できる光映像配信システムの映像品質推定方法および映像品質推定装置を提供する。
【解決手段】伝送後のRINに対応するCNRRINを所定の計算式に基づいて求める第1のステップと、無変調時のIF信号の伝送後の時間波形を計算し、得られた伝送後の時間波形から1周期の時間幅に対する0V以上の電圧値を有する時間幅の比であるDuty比を求める第2のステップと、あらかじめ測定により求めた光映像配信システムの光受信装置におけるDuty比対CNR特性を入力し、このDuty比対CNR特性と比較して第2のステップで求めたDuty比に対応するCNRDutyを求める第3のステップと、第1のステップで求めたCNRRINと、第3のステップで求めたCNRDutyとを用い、トータルのCNRを所定の計算式に基づいて求める第4のステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数多重された多チャンネル映像信号をFM一括変換方式を用いて伝送する光映像配信システムにおいて、映像信号の品質を推定する映像品質推定方法および映像品質推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光映像配信システムに用いられる伝送方式には、周波数多重された多チャンネル映像信号で、光キャリアの強度を変調して伝送する強度変調方式と、多チャンネルの映像信号を中間周波数(IF:Intermediate Frequency)3GHz の広帯域FM信号に変換し、得られたFM信号で、光キャリアを強度変調して伝送するFM一括変換方式とがある。このFM一括変換方式を用いた光映像配信システムは、近年のFTTH網の普及に伴い、多チャンネル、大容量の映像信号を高品質に伝送可能なものとして導入が進んでいる。
【0003】
また、光映像配信システムは、経済性等の観点から伝送距離の長延化が求められているが、FM一括変換方式を用いた光映像配信システムでも、光増幅装置を多段接続することによって長距離光伝送が可能になっている。
【0004】
これまで、FM一括変換方式を用いた光映像配信システム導入の際のネットワーク設計では、多段接続された光増幅器で累積される雑音量を計算することによって、長距離伝送後の映像信号の品質推定を行ってきた。雑音特性を表す指標としては、光信号の平均強度と1Hzの帯域内に存在する雑音強度との比で定義される相対強度雑音(RIN:Relative Intensity Noise)を用いている。非特許文献1によると、光増幅器で増幅された光信号の相対強度雑音RINout は、以下の式(1) で表すことができる。
【0005】
RINout =2・E・NF/Pin+RINin …(1)
in :光増幅器への入力光電力(mW)
RINin:光増幅器入力光の相対強度雑音(Hz-1
NF :光増幅雑音指数
E :フォトンエネルギー(1.278×10-16
【0006】
本映像配信システムのように光増幅器を多段接続する場合には、式(1) の計算を接続段数分繰り返すことによって、最終的なRINout を計算により予測することが可能である。
【0007】
RINは、映像信号の品質を表すパラメータである信号対雑音比CNRと、以下に示す式 (2)〜(5) で表される関係があることがわかっている(非特許文献2)。よって、RINの値を計算することができれば、RINに対応するCNRRIN を式 (2)〜(5) によって求めることができ、伝送後の映像信号の品質を推定することができる。
【0008】
【数1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.Yoneda et al., Fully Engineered Multi-Channel FM-SCM Video Distribution System,Journal of Lightwave Technology, vol.12, No.2, Feb., 1994,p.366
【非特許文献2】社団法人日本CATV技術協会、FTTH型ケーブルテレビの伝送技術と施工、社団法人日本CATV技術協会技術資料、JCTEA TR-006、pp.21-22
【非特許文献3】菅原鼎山、FM無線工学 pp.16-18 、日刊工業新聞社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本映像配信システムのように、光増幅器を多段接続し、比較的高い光強度で長距離に光信号を伝送しようとする際には、伝送光ファイバ中での非線形光学効果の発生に注意する必要がある。光ファイバ中で発生する非線形光学効果として、主に誘導ブリルアン散乱(SBS:Stimulated Brirouin Scattering)と自己位相変調(SPM:Self-Phase-Modulation )がある。SBSについては、一般的に信号光を任意の周波数の信号で直接強度変調、位相変調等を行い、信号光線幅を大きくすることにより影響を抑圧することが可能であるので、ここではFM一括変換形の光映像配信システムにおけるSPMの影響について説明する。
【0011】
伝送光ファイバ中でSPMが発生すると、伝送光信号のスペクトルに広がりが生じる。これは、光信号の各側波成分が増大することを意味し、増大した各側波成分が伝送光ファイバ中の波長分散の影響を受けることによって、伝送光信号に波形崩れが生じる。波形崩れが生じる前後の波形を比較した結果を図1に示す。図1に示す波形は、変調信号を全く入力しない状態のIF(Intermediate Frequency)信号の波形について比較を行ったものである。FM一括変換方式を用いた光映像配信システムでは、SPMと波長分散の複合作用によって崩れた伝送信号波形が、光受信装置内のFM復調器における復調過程で入力信号の識別点にずれを生じさせ、その結果3GHzを中心とする広帯域FM信号の復調信号帯域内への漏れこみ量が増大する。復調信号帯域内に漏れこんだ広帯域FM信号は雑音となり、復調信号電力対雑音電力特性(CNR:Carrier to Nose Ratio )を劣化させる。この劣化は、主にBS/CS−IF信号など、伝送キャリアの中でもFM信号のIFである3GHzに近い高い周波数を有する信号で顕著になる。
【0012】
図2は、伝送路でのSPMと波長分散の影響を受けた光映像信号を受信した光受信装置の出力信号スペクトル例を示す。図に示すように、周波数が高周波になるに従い、雑音レベルが徐々に増大していることが分かる。
【0013】
従来のRINによる映像品質推定方法では、上記に示すようなSPMによる波形崩れがCNRに影響を及ぼすような長距離ネットワークに対しては、その影響を考慮できないためにCNRを実際よりも良く見積もってしまう。SPMによる影響を考慮するためには、非線形シュレディンガー方程式を数値計算により解き、伝送波形を求める方法が用いられる。しかし、今回対象としている多チャンネル映像配信システムに用いることを考えた場合、非特許文献3に示すような非常に複雑なスペクトルを有する多チャンネルFM信号、ならびにFM変復調部のモデル化が必要となり、計算が極めて煩雑になる。このため、一般的な計算装置では膨大な計算時間がかかっていた。
【0014】
本発明は、従来のRINによる映像品質推定方法では考慮できなかった伝送路中で発生するSPMによる伝送品質への影響を定量的かつ短時間に推定することができる光映像配信システムの映像品質推定方法および映像品質推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明は、映像信号をFM一括変換方式を用いて伝送する光映像配信システムに多段接続される光増幅器で累積する雑音量をRINを用いて表し、伝送後のRINの値から映像品質を推定する光映像配信システムの映像品質推定方法において、伝送後のRINに対応するCNRRIN を所定の計算式に基づいて求める第1のステップと、無変調時のIF信号の伝送後の時間波形を計算し、得られた伝送後の時間波形から1周期の時間幅に対する0V以上の電圧値を有する時間幅の比であるDuty 比を求める第2のステップと、あらかじめ測定により求めた光映像配信システムの光受信装置におけるDuty 比対CNR特性を入力し、このDuty 比対CNR特性と比較して第2のステップで求めたDuty 比に対応するCNRDutyを求める第3のステップと、第1のステップで求めたCNRRIN と、第3のステップで求めたCNRDutyとを用い、トータルのCNRを所定の計算式(後述の式(6))に基づいて求める第4のステップとを有する。
【0016】
第2の発明は、映像信号をFM一括変換方式を用いて伝送する光映像配信システムに多段接続される光増幅器で累積する雑音量をRINを用いて表し、伝送後のRINの値から映像品質を推定する光映像配信システムの映像品質推定装置において、伝送後のRINに対応するCNRRIN を所定の計算式に基づいて求める第1の計算手段と、無変調時のIF信号の伝送後の時間波形を計算し、得られた伝送後の時間波形から1周期の時間幅に対する0V以上の電圧値を有する時間幅の比であるDuty 比を求める第2の計算手段と、あらかじめ測定により求めた光映像配信システムの光受信装置におけるDuty 比対CNR特性を入力し、このDuty 比対CNR特性と比較して第2のステップで求めたDuty 比に対応するCNRDutyを求める処理手段と、第1の計算手段で求めたCNRRIN と、処理手段で求めたCNRDutyとを用い、トータルのCNRをの計算式(後述の式(6))に基づいて求める第3の計算手段とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、伝送後のRINに対応するCNRRIN と、無変調時のIF信号に対するDuty 比の劣化度合いと、Duty 比対CNR特性に基づいてDuty 比に対応するCNRDutyとを求め、CNRRIN とCNRDutyからトータルのCNRを求める手順により、従来のRINによる映像品質推定方法では考慮できなかった伝送路中で発生するSPMによる伝送品質への影響を定量的に評価することができる。また、SPMが発生するような長距離伝送時における映像品質を推定することができるので、従来よりも長距離なネットワークにおいて高精度かつ高速に映像品質の推定を行うことができる。
【0018】
また、構築予定の光映像配信システムの伝送後の映像品質について、現場での測定用設備構築や測定作業を行うことなく推定することが可能となるため、測定用設備構築にかかるコストや、測定のための人件費等を大幅に削減することが可能なであり、経済的に光映像配信システムの映像品質を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】SPMと波長分散の複合作用による波形崩れを示す図である。
【図2】光受信装置の出力信号スペクトル例を示す図である。
【図3】本発明の映像品質推定装置の実施例構成を示す図である。
【図4】本発明の映像品質推定装置の処理フローを示す図である。
【図5】Duty 比の定義を説明する図である。
【図6】Duty 比の計算値に対する実測値を示す図である。
【図7】伝送信号のDuty 比とCNRとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図3は、本発明の映像品質推定装置の実施例構成を示す。図4は、本発明の映像品質推定装置の処理フローを示す。
図において、本実施例の映像品質推定装置は、処理部1,2,3、計算部4および出力部5により構成される。処理部1は初期値入力部10、計算部11および計算部12により構成され、処理部2は初期値入力部20により構成される。
【0021】
処理部1の初期値入力部10は、外部からファイバ種別、距離、損失値、物理定数、接続段数、光増幅器のNF等のネットワークパラメータを入力し(S1)、入力したネットワークパラメータをデータベース化して計算部11および計算部12に出力する(S2)。計算部11は、入力されたネットワークパラメータを用いて伝送後のRINを求め(S3)、式 (2)〜(5) を用いて伝送後のRINに対応するCNRRIN を求め、計算部4に出力する(S4)。計算部12は、変調サブキャリアを入力しない無変調時の3GHzのIF信号について、ネットワーク伝送後の時間波形を計算し、得られた時間波形から伝送後のDuty 比を求め、処理部3に出力する(S5)。
【0022】
Duty 比は、図5に示すように、無変調状態における3GHzのIF信号の電圧波形の1周期の時間幅(τ1)に対する、0V以上の電圧値を取る時間幅(τ2)の比(τ2/τ1)で定義した。定義より、Duty 比が0.5 に近いほど崩れの無い波形であることを意味し、逆に0.5 から遠いほど波形崩れが発生していることを意味する。
【0023】
図6は、Duty 比の計算値に対する実測値を示す。横軸に示すDuty 比の計算値は、波形計算の手法として計算速度に優れるスプリットステップフーリエ法を用いて計算した。縦軸に示すDuty 比の実測値は、実際に伝送系を構築して実測した結果を示す。図より、計算値と実測値とでDuty 比の値が良く一致することが分かる。伝送波形計算の方法については、スプリットステップフーリエ法以外の方法を用いても良く、本発明では特に限定しない。
【0024】
処理部2の初期値入力部20は、あらかじめ測定により求めた光受信装置におけるDuty 比対CNR特性を入力する(S6)。この場合のCNRは、RINなどの影響によるものを除くDuty 比の変動のみに対して変化したCNRとする。また、Duty 比対CNR特性は、Duty 比変動の影響を最も受け易い、伝送キャリアの中で最高の周波数を有するキャリアに対して測定したものとする。これをDuty 比劣化によるCNRであるのでCNRDutyと呼ぶ。初期値入力部20は、入力したDuty 比に対応するCNRDutyをデータベース化して処理部3に出力する(S7)。伝送信号のDuty 比とCNRとの関係を図7に示す。図7の横軸は、Duty 比の値に100 を掛け、%単位で表示している。
【0025】
処理部3は、処理部1の計算部12から入力するDuty 比と、処理部2の初期値入力部20から入力するDuty 比対CNRDuty特性とを比較することにより、計算部12から入力するDuty 比に対応するCNRDutyを求め、計算部3に出力する(S8)。
【0026】
計算部3は、処理部1の計算部11から入力するCNRRIN と、処理部3から入力するCNRDutyとを用い、トータルのCNRを下記の式(6) によって求め(S9)、得られたCNRを出力部5に出力する(S10)。
【0027】
【数2】

【符号の説明】
【0028】
1,2,3 処理部
4 計算部
5 出力部
10,20 初期値入力部
11,12 計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像信号をFM一括変換方式を用いて伝送する光映像配信システムに多段接続される光増幅器で累積する雑音量をRIN(Relative Intensity Noise)を用いて表し、伝送後のRINの値から映像品質を推定する光映像配信システムの映像品質推定方法において、
前記伝送後のRINに対応するCNRRIN を所定の計算式に基づいて求める第1のステップと、
無変調時のIF信号の伝送後の時間波形を計算し、得られた伝送後の時間波形から1周期の時間幅に対する0V以上の電圧値を有する時間幅の比であるDuty 比を求める第2のステップと、
あらかじめ測定により求めた前記光映像配信システムの光受信装置におけるDuty 比対CNR特性を入力し、このDuty 比対CNR特性と比較して前記第2のステップで求めた前記Duty 比に対応するCNRDutyを求める第3のステップと、
前記第1のステップで求めた前記CNRRIN と、前記第3のステップで求めた前記CNRDutyとを用い、トータルのCNRを所定の計算式に基づいて求める第4のステップと
を有することを特徴とする光映像配信システムの映像品質推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光映像配信システムの映像品質推定方法において、
前記第4のステップの所定の計算式は、
【数3】

であることを特徴とする光映像配信システムの映像品質推定方法。
【請求項3】
映像信号をFM一括変換方式を用いて伝送する光映像配信システムに多段接続される光増幅器で累積する雑音量をRIN(Relative Intensity Noise)を用いて表し、伝送後のRINの値から映像品質を推定する光映像配信システムの映像品質推定装置において、
前記伝送後のRINに対応するCNRRIN を所定の計算式に基づいて求める第1の計算手段と、
無変調時のIF信号の伝送後の時間波形を計算し、得られた伝送後の時間波形から1周期の時間幅に対する0V以上の電圧値を有する時間幅の比であるDuty 比を求める第2の計算手段と、
あらかじめ測定により求めた前記光映像配信システムの光受信装置におけるDuty 比対CNR特性を入力し、このDuty 比対CNR特性と比較して前記第2のステップで求めた前記Duty 比に対応するCNRDutyを求める処理手段と、
前記第1の計算手段で求めた前記CNRRIN と、前記処理手段で求めた前記CNRDutyとを用い、トータルのCNRをの計算式に基づいて求める第3の計算手段と
を備えたことを特徴とする光映像配信システムの映像品質推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光映像配信システムの映像品質推定装置において、
前記第3の計算手段の所定の計算式は、
【数4】

であることを特徴とする光映像配信システムの映像品質推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−151600(P2011−151600A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11029(P2010−11029)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】