説明

光沢膜形成用塗料と光沢膜およびそれを備えた物品

【課題】 金属ナノ粒子を含有する塗料を用いて形成した塗膜の反射色調、透過色調を改善することができる光沢膜形成用塗料と光沢膜およびそれを備えた物品を提供する。
【解決手段】 本発明の光沢膜形成用塗料は、1次粒子径が1nm以上かつ50nm以下の合金ナノ粒子を含有し、この合金ナノ粒子は、銀を主成分とし、さらに、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含有したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢膜形成用塗料と光沢膜およびそれを備えた物品に関し、更に詳しくは、塗料中の金属ナノ粒子を合金化し、その塗膜の膜厚を変えることにより、フラット透過色のハーフミラー膜またはクロム光沢調のミラー膜を選択することが可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用物品、家庭電化製品、携帯用電話機等の意匠用として、金属光沢調の膜を付与した物品が使用されている。また、金属光沢調の意匠感を高めるために、クロム光沢調のミラー膜を付与した物品も使用されている。
このクロム光沢調のミラー膜を備えた物品を作製するには、クロムまたは錫等を光沢材料とし、真空蒸着法またはスパッタリング法により基材上に直接クロム光沢調の金属膜を成膜するか、もしくは、真空蒸着法もしくはスパッタリング法により基材上に直接アルミニウム膜を成膜し、この金属膜上もしくはアルミニウム膜上に黒色のクリアコート層を成膜することにより、光沢色の補色を施し、擬似的にクロム光沢調のミラー膜としている。
また、他の作製方法として、クロムもしくは錫、アルミニウムと黒色のクリアコートの組み合わせにて、めっき法、転写箔法等を用いて基材上にクロム光沢調のミラー膜を形成する場合もある。
【0003】
一方、ハーフミラー(半透過・半反射)膜についても、ガラス基板等の透明基材上に、真空蒸着法またはスパッタリング法等により膜厚を制御したアルミニウム薄膜または銀薄膜を形成することで得ることができる。これらのハーフミラー膜については、光学用として液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の電極、偏光板等、また、意匠用としてデジタルヴァーサタイルディスク(DVD)等の前面板、家庭電化製品の文字盤、携帯用電話機等に幅広く使用されている。真空蒸着法もしくはスパッタリング法により得られたハーフミラー膜は、使用される材料の特性から可視光全域で透過スペクトルがほぼフラットな状態となっており、その透過色は目視で確認するとほぼ黒色を呈している。
【0004】
この様なミラー膜やハーフミラー膜は、薄膜技術を用いているために、成膜装置が大がかりかつ高価なものとなるという問題があり、そこで、ミラー膜やハーフミラー膜をより簡便にかつ安価に形成する方法として、金属コロイド粒子を含有した塗料を塗布・乾燥することにより、膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
金属コロイド粒子を光沢材料として用いた場合、金属光沢が最も発現する材料、即ち金属コロイド含有塗料を塗布した際に得られる塗膜の反射率が最も高い材料としては、銀ナノ粒子が挙げられる。
この銀ナノ粒子を光沢膜形成用塗料に適用した場合に、高輝度のミラー調の膜を実現することが可能であり、さらに銀ナノ粒子の特性を生かして膜厚を制御することにより、ハーフミラー調の膜を実現することができる。
【特許文献1】特開2003−327870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の銀ナノ粒子を光沢膜形成用塗料に適用した場合には、透過色、反射色が色を呈するという問題点があった。その理由は、銀ナノ粒子自体にプラズモン吸収があり、可視光領域の一部の波長を吸収する特性を有するために、透過色、反射色が着色してしまうことによる。
その結果、銀ナノ粒子を使用したハーフミラー膜の場合、透過色が赤〜紫色を呈してしまうという問題点があり、一方、銀ナノ粒子を含む塗膜の膜厚を厚くしてミラー調の膜を形成した場合、同様に銀ナノ粒子のプラズモン吸収が生じ、可視光の一部の波長が塗膜に吸収されるため、その結果として銀ナノ粒子を介して反射してくる反射光は、黄色〜青緑色を呈してしまうこととなる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、金属ナノ粒子を含有する塗料を用いて形成した塗膜の反射色調、透過色調を改善することができる光沢膜形成用塗料と光沢膜およびそれを備えた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、銀ナノ粒子に若干の金属を添加して合金ナノ粒子とすることにより、銀ナノ粒子のプラズモン吸収を抑制し、この合金ナノ粒子を含有した塗料を用いて形成された塗膜が、可視光における銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収を抑制することにより、透過色がフラットとなるハーフミラー膜が得られ、また、この塗膜の膜厚を厚くすることにより、銀ナノ粒子のプラズモン吸収を抑制するのと併せて、銀ナノ粒子特有の金属光沢を有する反射色を抑制するとともに、反射光の色調を黒く沈んだ色調とし、擬似的にクロム調の光沢色の反射光を実現することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の光沢膜形成用塗料は、1次粒子径が1nm以上かつ50nm以下の合金ナノ粒子を含有してなり、この合金ナノ粒子は、銀を主成分とし、さらに、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含有してなることを特徴とする。
【0009】
前記合金ナノ粒子は、合金の全体量を100重量部としたとき、銀を90重量部以上かつ99重量部以下含有してなることが好ましい。
【0010】
本発明の光沢膜は、本発明の光沢膜形成用塗料を基材の表面に塗布してなることを特徴とする。
【0011】
前記塗布により形成される塗膜の膜厚を変えることにより、フラット透過色のハーフミラー膜またはクロム光沢調のミラー膜としたことが好ましい。
【0012】
本発明の物品は、本発明の光沢膜を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光沢膜形成用塗料によれば、1次粒子径が1nm以上かつ50nm以下の合金ナノ粒子を含有し、この合金ナノ粒子を、銀を主成分とし、さらに、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含有したので、可視光における銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収を抑制することができ、その結果、透過色がフラットとなるハーフミラー膜、擬似的にクロム調の光沢色の反射光となるミラー膜、のいずれをも実現することができる。
また、大型の製造装置を必要とせず、簡便かつ容易に塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光沢膜形成用塗料と光沢膜およびそれを備えた物品を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
「光沢膜形成用塗料」
本発明の光沢膜形成用塗料は、1次粒子径が1nm以上かつ50nm以下の合金ナノ粒子を含有してなり、この合金ナノ粒子は、銀を主成分とし、さらに、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含有してなる塗料である。
【0016】
合金ナノ粒子の一次粒子径は、1nm以上かつ50nm以下である必要がある。その理由は、一次粒子径が1nm未満であると、合金ナノ粒子の分散性を保つのが困難であるからであり、一方、一次粒子径が50nmを越えると、塗膜にした際の光透過性が低下し、所望の反射・透過率を有するハーフミラーを得ることが難しくなるからである。
【0017】
この合金ナノ粒子は、合金の全体量を100重量部としたとき、銀を90重量部以上かつ99重量部以下含有してなることが好ましい。
この場合、合金ナノ粒子の銀を除く残部成分が、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含む金属成分となる。
【0018】
ここで、銀の含有量を90重量部以上かつ99重量部以下とした理由は、銀が90重量部よりも少ないと、銀ナノ粒子の反射特性が悪化してしまい、ミラー膜あるいはハーフミラー膜とした際の輝度感が損なわれるからであり、一方、99重量部より多くなると、銀ナノ粒子が十分に合金化できず、銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収が発現し、ハーフミラー膜とした場合の透過色やミラー膜とした場合の反射色に、銀ナノ粒子特有の色合いを呈してしまうからである。
【0019】
合金ナノ粒子を得る方法としては、次の様な方法がある。
(1)銀ナノ粒子の生成時、即ち銀イオン還元時に他の金属イオンを混在させ、この系に還元剤を添加すると同時に還元反応させ、銀を主成分とする合金ナノ粒子を得る方法。
(2)銀ナノ粒子分散液中に他の金属イオンを混在させ、この系に還元剤を添加し、合金ナノ粒子を得る方法。
(3)銀ナノ粒子と銀以外の金属ナノ粒子を別々に作成し、これら銀ナノ粒子及び金属ナノ粒子を適宜混合し、熱処理、オートクレーブ処理等により合金化し、合金ナノ粒子とする方法。
【0020】
なお、合金ナノ粒子を得る方法として、銀ナノ粒子と銀以外の金属ナノ粒子を含む塗料を塗布し、この塗膜を焼成することにより、銀ナノ粒子と金属ナノ粒子とを合金化する方法もあるが、この場合、銀ナノ粒子と金属ナノ粒子とを合金化するために高い温度での焼成工程が必要となり、プラスチックフィルム等の様な耐熱性の低い基材を用いた場合、合金膜を得ることが難しい。
【0021】
銀ナノ粒子を合金化することにより、銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収を抑制するとともに、この塗料を用いて形成された塗膜は、ハーフミラー膜については透過色がほぼ黒色であり、ミラー膜についてはクロム光沢調となる。
この塗膜の厚みを変えることにより、ハーフミラー膜、ミラー膜のいずれかを選択することが可能である。
【0022】
また、銀ナノ粒子を合金化すると、銀自体のマイグレーション等を防止することができ、耐食性等を改善することができる。
例えば、銀ナノ粒子単体の塗膜を、例えば、恒温恒湿槽(温度:60℃、湿度:98%)を用いた恒温恒湿試験を実施すると、銀ナノ粒子の劣化に起因する茶褐色等の著しい変色を生じるが、銀ナノ粒子を合金化することにより、茶褐色等の著しい変色を防止することができる。
【0023】
この合金ナノ粒子の分散性を向上させるために、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子を分散補助剤として用いることもできる。
【0024】
塗料に用いられる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、β−オキシエチルメチルエーテル(メチルセロソルブ)、β−オキシエチルエーテル(エチルセロソルブ)、ブチル−β−オキシエチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコールのモノエーテル類(セロソルブ類)、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類、ホルムアミド、N,N,−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類が好適に用いられる。
【0025】
この光沢膜形成用塗料は、必ずしもバインダー成分を必要するものではないが、基材上への密着性を確保するために、輝度感を損なわない程度に適宜バインダー成分を添加してもよい。
バインダー成分としては、塗料中で合金ナノ粒子の分散を阻害するものでなければよく、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン等の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂、紫外線(UV)硬化性樹脂、電子線(EB)硬化性樹脂、ポリシロキサン、シリカゾル、チタニアゾル等の無機材料を単独もしくは併用して用いることができる。
【0026】
「光沢膜」
上記の光沢膜形成用塗料を基材の表面に塗布し、その後、この塗膜を、例えば、ドライヤーやエアブローによる乾燥、室温(25℃)放置等、基材に影響を与えない温度である80℃以下にて乾燥することにより、本実施形態の光沢膜、例えば、フラットな透過色のハーフミラー膜、クロム光沢調のミラー膜のいずれかを得ることができる。
【0027】
基材としては、例えば、ガラス、金属、ポリメチルメタクリレート(PMMA:アクリル)、スチレンアクリル(MS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の板、成形品、フィルム等、もしくは紙等が挙げられる。
【0028】
塗布方法としては、特に限定はされないが、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法、スピンコート法、ディプコート法、ロールコート法、グラビア印刷、インクジェット法、スクリーン印刷法等の塗布法を用いることができる。
【0029】
この塗膜の膜厚を調整するのみで、フラットな透過色のハーフミラー膜、クロム光沢調のミラー膜のいずれに対しても適宜対応可能である。膜厚の調整は通常の調整方法でよく、塗料中の合金ナノ粒子の含有量を調整、もしくは塗工条件の調整で適宜対応可能である。
例えば、この塗膜の膜厚を0.01μm以上かつ0.5μm以下に調整すると、塗膜の透過性が出てくるので、フラット透過色のハーフミラー膜となる。
また、この塗膜の膜厚を0.15μm以上に調整すると、塗膜の透過性が薄れてくるので、クロム光沢調のミラー膜となる。
【0030】
これらハーフミラー膜やミラー膜を保護する目的で、オーバーコート膜を適宜施すことも可能である。
オーバーコート膜の材料としては、特に限定されないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチラール樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、アクリル-スチレンエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン等の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂、紫外線(UV)硬化性樹脂、電子線(EB)硬化性樹脂、ポリシロキサン、シリカゾル、チタニアゾル等の無機材料を単独もしくは併用して用いることができる。
塗布方法も、通常の塗布方法で特に差し支えは無い。
【0031】
さらに、これらハーフミラー膜やミラー膜の意匠性を高めるために、これらの膜に適宜模様を施すこともできる。模様を施す方法としては、スクリーン印刷法や転写箔による形成、インクジェット法による塗出等、通常の方法で差し支えない。
【0032】
これらハーフミラー膜やミラー膜の輝度感は、下地である基材表面の処理状態によって違ってくる。即ち、基材の表面が粗面、すなわちざらついているものであれば、この粗面に応じてハーフミラー膜やミラー膜が形成されることとなり、アンチグレア感のある膜が形成される。このような粗面の基材上にクリアーなハーフミラー膜やミラー膜を形成するためには、この表面にアンダーコート膜等を形成してもよい。
【0033】
特に、ハーフミラー膜の場合には、基材にはクリアーなものを用いるものが望ましい。
基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA:アクリル)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレン(PE)、ガラス等が挙げられる。
ハーフミラー膜を備えた成形品については、裏面側に発光ダイオード(LED)や蛍光灯等の照明器具をセットし、照明を消したときはミラー膜、照明を付けたときは透過膜とした機能性のある膜としても活用が可能である。
【0034】
上記の光沢膜は、反射板、反射フィルム、半導体装置、半導体部品、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイ(LCD)等の各種表示装置、偏光板、反射型電極、導光板、光ディスク、金属光沢調装飾品、ハーフミラー装飾品等への適用も可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例1〜6及び比較例1〜6により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[合金ナノ粒子分散液の調製]
実施例1〜6及び比較例1〜6にて用いられる合金ナノ粒子分散液として、以下の分散液を作製した。
【0037】
「銀−パラジウムナノ粒子分散液Aの調製」
10wt%硝酸銀水溶液230.3gと硝酸パラジウム水溶液(パラジウムを8.3wt%含む)4.52gと純水(イオン交換水)53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀−パラジウムナノ粒子を15wt%含む銀−パラジウムナノ粒子分散液Aを得た。この銀−パラジウム合金(Ag−Pd)の組成比は、重量比でAg:Pd=97.5:2.5であった。
【0038】
「銀−パラジウムナノ粒子分散液Bの調製」
10wt%硝酸銀水溶液165.4gと硝酸パラジウム水溶液(パラジウムを8.3wt%含む)54.2gと純水53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀−パラジウムナノ粒子を15wt%含む銀−パラジウムナノ粒子分散液Bを得た。この銀−パラジウム合金(Ag−Pd)の組成比は、重量比でAg:Pd=70:30であった。
【0039】
「銀−パラジウムナノ粒子分散液Cの調製」
10wt%硝酸銀水溶液235gと硝酸パラジウム水溶液(パラジウムを8.3wt%含む)0.9gと純水53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀−パラジウムナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀−パラジウムナノ粒子を15wt%含む銀−パラジウムナノ粒子分散液Cを得た。この銀−パラジウム合金(Ag−Pd)の組成比は、重量比でAg:Pd=99.5:0.5であった。
【0040】
「銀−白金ナノ粒子分散液の調製」
10wt%硝酸銀水溶液230.3gと硝酸白金水溶液(白金を5.3wt%含む)7.06gと純水53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀−白金ナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀−白金ナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀−白金ナノ粒子を15wt%含む銀−白金ナノ粒子分散液を得た。この銀−白金合金(Ag−Pt)の組成比は、重量比でAg:Pt=97.5:2.5であった。
【0041】
「銀−ルテニウムナノ粒子分散液の調製」
10wt%硝酸銀水溶液230.3gと硝酸ルテニウム水溶液(ルテニウムを10wt%含む)3.75gと純水53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀−ルテニウムナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀−ルテニウムナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀−ルテニウムナノ粒子を15wt%含む銀−ルテニウムナノ粒子分散液を得た。この銀−ルテニウム合金(Ag−Ru)の組成比は、重量比でAg:Ru=97.5:2.5であった。
【0042】
「銀ナノ粒子分散液の調製」
10wt%硝酸銀水溶液236.2gと純水53kgとを混合し、氷浴下にて攪拌した。この攪拌中に0.088wt%水素化ホウ素ナトリウム水溶液6kgを添加し、希薄な銀ナノ粒子分散液を得た。この希薄な銀ナノ粒子分散液中の不純物をイオン交換樹脂を用いて除去した後、溶液をエバポレーターにて濃縮し、銀ナノ粒子を15wt%含む銀ナノ粒子分散液を得た。
【0043】
[光沢膜形成用塗料の調製及び塗膜の作製]
上記の分散液を用いて実施例1〜6及び比較例1〜6の光沢膜形成用塗料を調製し、塗膜を作製した。この実施例1〜6及び比較例1〜6の塗料は、ミラー膜形成用塗料、ハーフミラー膜形成用塗料のいずれかとした。
【0044】
「実施例1」
銀−パラジウムナノ粒子分散液A 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Aを得た。このミラー膜形成用塗料Aをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜A(M膜A)を得た。
【0045】
「実施例2」
銀−白金ナノ粒子分散液 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Bを得た。このミラー膜形成用塗料Bをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜B(M膜B)を得た。
【0046】
「実施例3」
銀−ルテニウムナノ粒子分散液 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Cを得た。このミラー膜形成用塗料Cをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜C(M膜C)を得た。
【0047】
「実施例4」
実施例1のミラー膜形成用塗料Aをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Aを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Aをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜A(HM膜A)を得た。
【0048】
「実施例5」
実施例2のミラー膜形成用塗料Bをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Bを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Bをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜B(HM膜B)を得た。
【0049】
「実施例6」
実施例3のミラー膜形成用塗料Cをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Cを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Cをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜C(HM膜C)を得た。
【0050】
「比較例1」
銀ナノ粒子分散液 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Dを得た。このミラー膜形成用塗料Dをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜D(M膜D)を得た。
【0051】
「比較例2」
銀−パラジウムナノ粒子分散液B 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Eを得た。このミラー膜形成用塗料Eをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜E(M膜E)を得た。
【0052】
「比較例3」
銀−パラジウムナノ粒子分散液C 20g
β−オキシエチルエーテル 10g
2−プロパノール 10g
純水 23g
エタノール 37g
を混合し、ミラー膜形成用塗料Fを得た。このミラー膜形成用塗料Fをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ミラー膜F(M膜F)を得た。
【0053】
「比較例4」
比較例1のミラー膜形成用塗料Dをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Dを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Dをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜D(HM膜D)を得た。
【0054】
「比較例5」
比較例2のミラー膜形成用塗料Eをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Eを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Eをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜E(HM膜E)を得た。
【0055】
「比較例6」
比較例3のミラー膜形成用塗料Fをエタノールにて6倍に希釈し、ハーフミラー膜形成用塗料Fを得た。
このハーフミラー膜形成用塗料Fをアクリル板上にスピンコーティングにて塗布し、塗膜を作製した。この塗膜を電気炉を用いて60℃にて3分間乾燥させ、ハーフミラー膜F(HM膜F)を得た。
【0056】
「評価」
以上により得られた膜の評価を行った。
実施例1〜3及び比較例1〜3それぞれのミラー膜については、膜厚、反射率、反射色調の各評価項目について、次の方法または装置を用いて評価した。
(1)膜厚
塗膜の膜厚を触針式の膜厚測定計(Tencor)にて測定した。
(2)反射率
日立製作所社製「分光光度計U−3400」を用いて、アルミニウム蒸着膜を対照として380〜780nmの波長における反射率を測定した。
【0057】
(3)反射色調
日立製作所社製「分光光度計U−3400」を用いて、アルミニウム蒸着膜を対照として380〜780nmの波長における反射色調の色彩値を求めた。
ここでは、CIE1976(国際照明委員会1976)に基づき、ミラー膜の色彩値をL表色系に基づいて測定した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0058】
また、実施例4〜6及び比較例4〜6それぞれのハーフミラー膜については、上記の膜厚、反射率、反射色調それぞれの評価項目に加え、透過率、透過色調の各評価項目について、次の方法または装置を用いて評価した。
(4)透過率
日立製作所社製「分光光度計U−3400」を用いて、アルミニウム蒸着膜を対照として380〜780nmの波長における透過率を測定した。
【0059】
(5)透過色調
日立製作所社製「分光光度計U−3400」を用いて、アルミニウム蒸着膜を対照として380〜780nmの波長における透過色調の色彩値を求めた。
ここでは、CIE1976(国際照明委員会1976)に基づき、ハーフミラー膜の色彩値をL表色系に基づいて測定した。
これらの測定結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のミラー膜やハーフミラー膜は、銀ナノ粒子に若干の金属を添加した合金ナノ粒子を含有する塗料を用いたことにより、塗膜の反射色調、透過色調を改善することができたものであるから、液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置に適用可能であることはもちろんのこと、自動車、建築物等の窓材等、ミラー膜やハーフミラー膜が適用される様々な工業分野においても、その効果は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次粒子径が1nm以上かつ50nm以下の合金ナノ粒子を含有してなり、
この合金ナノ粒子は、銀を主成分とし、さらに、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、クロム、錫、鉄、鉛、インジウム、ガリウムの群から選択された1種または2種以上を含有してなることを特徴とする光沢膜形成用塗料。
【請求項2】
前記合金ナノ粒子は、合金の全体量を100重量部としたとき、銀を90重量部以上かつ99重量部以下含有してなることを特徴とする請求項1記載の光沢膜形成用塗料。
【請求項3】
請求項1または2記載の光沢膜形成用塗料を基材の表面に塗布してなることを特徴とする光沢膜。
【請求項4】
前記塗布により形成される塗膜の膜厚を変えることにより、フラット透過色のハーフミラー膜またはクロム光沢調のミラー膜としたことを特徴とする請求項3記載の光沢膜。
【請求項5】
請求項3または4記載の光沢膜を備えてなることを特徴とする物品。

【公開番号】特開2006−124583(P2006−124583A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317125(P2004−317125)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】