説明

光活性化生理機能センサータンパク質

【課題】FRETによりCa2+等生体物質の濃度変化を蛍光強度変化として観測することのできるタンパク質および生体物質濃度の測定法を提供する。
【解決手段】生体物質結合性リンカーの両末端にFRETのドナー分子とFRETのアクセプター分子を結合したキメラタンパク質であって、前記ドナー分子が光活性化蛍光タンパク質であり、前記アクセプター分子が色素タンパク質或いは弱蛍光タンパク質であり、前記生体物質結合性リンカーは、生体物質と結合することでFRETを誘導することができる、キメラタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光活性化生理機能センサータンパク質に関する。このタンパク質は、生物学研究、薬学研究、医学研究、農学研究などの基礎研究用試薬として有用である。
【背景技術】
【0002】
生体試料のCa2+イオン濃度の測定には、Ca2+感受性徴小電極、小分子性合成プローブそしてタンパク質性プローブが用いられてきた。
【0003】
Ca2+感受性徴小電極はCa2+選択性を有する薄膜間に生じるネルンスト電位をもとにCa2+濃度を計測する方法である。細胞外液のCa2+濃度の計測は容易であるが、細胞内部のイオン濃度を計測するには、徴小電極と細胞の形質膜の間を高抵抗性に絶縁する必要があることから細胞内部のCa2+濃度変化の計測には不適であるという問題があった。
【0004】
小分子性合成プローブならびにタンパク質性プローブはそれぞれ、Ca2+結合に伴うプローブの微小環境変化や立体構造変化に誘起される蛍光または発光特性の変化をもとにCa2+濃度を計測する方法である。細胞内部へ導入できるので細胞内部のCa2+イオンの計測が可能である。しかし小分子性合成プローブを生物個体内や組織内の特定の場所に出現させることは困難であった。タンパク質性プローブをコードする遺伝子を導入して発現させる場合には、その遺伝子を特定の場所での遺伝子発現を起こすことのできるプロモーターの制御下に置くことでそれを容易に実現することが可能である。
【0005】
タンパク質性プローブとして、緑色蛍光タンパク質(GFP)変異体とCa2+結合タンパク質の融合遺伝子でコードされた蛍光プローブcameleonが既に報告されている(非特許文献1〜4)。
【0006】
タンパク質性プローブは細胞ならびに細胞内小器官への局在化が容易でかつ細胞毒性の少ない励起条件での計測が可能であるので、生細胞での非侵襲的Ca2+濃度計測に非常に適している。cameleonは、GFPの短波長変異体、カルモジュリン(CaM)、グリシルグリシンリンカー(Gly-Gly)、ミオシン軽鎖キナーゼのCaM結合ペプチド(M13)、およびGFPの長波長変異体から構成されるキメラタンパク質である。Ca2+がCaMに結合することにより、CaMとM13との間の分子間相互作用が開始し、これによりキメラタンパク質は、伸長した立体構造からより小型の立体構造へと変化し、短波長変異体GFPら長波長変異体GFPへのFRET〈蛍光共鳴移動〉の効率が増大する。
【0007】
また、ATP濃度を測定するタンパク質性プローブとしては、GFPの短波長変異体、F0F1-ATP合成酵素εサブユニット、およびGFPの長波長変異体から構成されるキメラタンパク質であるタンパク質性蛍光プローブが既に報告されている(特許文献1)。
【0008】
しかしこれらタンパク質性プローブを用いても尚、観察したい場所の細胞での出現に適切な特異的なプロモーターが見つからない場合もあり、その自由度は制限されていた。
【0009】
またその他の生体物質に関しても、生体試料、特に生物個体内や組織内の特定の場所における濃度を非侵襲的に高い自由度で測定できる技術は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2008/117792号 国際公開パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Miyawaki A他、Nature 388,882-887,1997
【非特許文献2】Miyawaki A他 PNAS 96, 2135-2140,1999
【非特許文献3】Nagai T他 Nature Biotechnol.20, 87-90, 2002
【非特許文献4】Nagai T他 PNAS 101, 10554-10559, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、生物個体内、組織内、細胞内、細胞内小器官内および水溶液において光刺激により任意の位置でFRETによりCa2+濃度やATP濃度等など生体物質の濃度変化を蛍光強度変化として観測することのできるタンパク質、および生体物質濃度の測定法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はFRETのドナー分子として光活性化蛍光タンパク質を、アクセプター分子として無蛍光性の色素タンパク質或いは弱蛍光タンパク質(蛍光量子収率が0.05以下の蛍光タンパク質)を用いて、キメラタンパク質プローブを光活性化型にしたことを特徴とする。
【0014】
これまでに光活性化蛍光タンパク質(例えばPA-GFP)をドナーとしたFRETペアの相手として、DsRed(Bevis BJ他、Nature Biotechnol.
20、83-87、2002)、mCherry、mOrange、tdTomato(Shaner NC他、Nature Biotechnol. 22、1567-72、2004)、mKO(Karasawa
S他、Biochem. J. 381、307-312、2004)、mKO2(Sakurai-Sawano A他、Cell 132、487-498、2008)といった蛍光タンパク質を用いて光活性化蛍光タンパク質プローブの作製を試みたが、いずれも細胞内で光活性化した後に蛍光測定を行うとCa2+濃度変化に伴う蛍光強度変化が観察されないか、或いは観察されてもノイズによる蛍光強度変化と区別するのが難しい小さな変化しか起こすことができなかった。これらに対して、無蛍光性の色素タンパク質或いは蛍光量子収率が0.05以下の蛍光タンパク質(弱蛍光タンパク質)を用いることにより大きな蛍光強度変化をおこすプローブの作製が可能となる。
項1. 生体物質結合性リンカーの両末端にFRETのドナー分子とFRETのアクセプター分子を結合したキメラタンパク質であって、前記ドナー分子が光活性化蛍光タンパク質であり、前記アクセプター分子が色素タンパク質或いは弱蛍光タンパク質であり、前記生体物質結合性リンカーは、生体物質と結合することでFRETを誘導することができる、キメラタンパク質。
項2. 前記ドナー分子が光活性化緑色蛍光タンパク質(PA-GFP)、光活性化赤色蛍光タンパク質(PA-mCherry)またはこれらの機能的等価改変体である、項1に記載のキメラタンパク質。
項3. 前記アクセプター分子がasCP、REACh、Venus-Y145W、Venus-Y145W/H148Vまたはこれらの機能的等価改変体である、項1または2に記載のキメラタンパク質。
項4. 前記生体物質がカルシウムイオンまたはATPである、項1〜3のいずれかに記載のキメラタンパク質。
項5. 前記生体物質結合性リンカーが、カルモジュリンとミオシン軽鎖キナーゼのCaM結合ペプチド(M13)とを必要に応じてペプチドを介して連結させた構造を有する、項1〜4のいずれかに記載のキメラタンパク質。
項6. 前記生体物質結合性リンカーが、F0F1-ATP合成酵素εサブユニットタンパク質、またはその機能的等価改変体である、項1〜4のいずれかに記載のキメラタンパク質。
項7. 項1〜6のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードするDNA。
項8. 項7に記載のDNAを有する組み換えベクター。
項9. 項7に記載のDNAまたは項8に記載の組み換えベクターを有する形質転換体。
項10.項1〜6のいずれかに記載のキメラタンパク質と生体物質を共存させ、ドナー分子からの発光を検出することを特徴とする、生体物質濃度の測定法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、部位特異的な発現をさせるための遺伝子プロモーターによる発現制御を必要とせずに、生物固体、組織等の任意の細胞で光刺激により蛍光を発し、細胞内部の Ca2+イオン濃度やATP濃度等など生体物質の濃度を非侵襲的に測定することを可能にするタンパク質性の光活性化プローブを得ることができる。それらを用いることにより、複雑に入り組んだ神経細胞のネットワーク等の中で注目すべき細胞のみをハイライティングしてその内部のCa2+イオン濃度やATP濃度等など生体物質の濃度変化を観察することができる。
【0016】
また、CaM部分について改良を行うことにより測定できるCa2+イオン濃度のレンジを変更することやトロポニンのようなCaM以外のCa2+イオン結合タンパク質を用いてCa2+プローブを作製することも可能である。さらに、CaM部分を別の金属や基質に結合して構造変化を起こすタンパク質に変えることによりそれらに対する光活性化プローブを作製へと応用することができる(Miyawaki A他、Develop. Cell 4, 295-305, 2003)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】生体物質結合性リンカーとしてCaM-M13を用いた場合の本発明のキメラタンパク質の概念図である。
【図2】Anemonia sulcata 由来の無蛍光性の色素タンパク質asCP572を用いた光活性化Ca2+プローブPA-GFP-asCPによる細胞内Ca2+イメージング (a) HeLa 細胞内で発現させたプローブの405nm 光刺激による活性化。(左)活性化前 (中央)3細胞を選択して活性化後 (右) さらに3細胞を選択して活性化後。(b)活性化後のプローブのhistamine 刺激後の細胞内Ca2+濃度変化に伴う蛍光強度変化。
【図3】EYFPを改変した弱蛍光タンパク質REAChを用いた光活性化Ca2+プローブPA-GFP-cp173REAChによる細胞内Ca2+イメージング (a) HeLa 細胞内で発現させたプローブの405nm 光刺激による活性化。(左)活性化前 (右)活性化後。(b)活性化後のプローブのhistamine 刺激後の細胞内Ca2+濃度変化に伴う蛍光強度変化。
【図4】Venusを改変した色素タンパク質Venus-Y145W/H148Vを用いた光活性化Ca2+プローブcp173PA-GFP-(Venus-Y145W/H148V)による細胞内Ca2+イメージング (a) HeLa 細胞内で発現させたプローブの405nm 光刺激による活性化。(左)活性化前 (右)活性化後。(b)活性化後のプローブのhistamine 刺激後の細胞内Ca2+濃度変化に伴う蛍光強度変化。
【図5】無蛍光性の色素タンパク質asCP572を用いた光活性化ATPプローブPA-ATeamによる細胞内ATPイメージング (a) HeLa 細胞内で発現させたプローブの405nm 光刺激による活性化。(左)活性化前 (右)活性化後。(b)活性化後のプローブのデオキシグルコース刺激後の細胞内ATP濃度変化に伴う蛍光強度変化。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
(1)
生体物質結合性リンカー
本発明のキメラタンパク質に用いる生体物質結合性リンカーは、生体物質が結合することで3次元構造が変化し、FRETを促進ないし誘導することができるリンカーである。このリンカーは、カルモジュリン、トロポニンのようなカルシウム結合タンパク質を含んでいてもよく、F0F1-ATP合成酵素εサブユニットのようなATP結合タンパク質を含んでいてもよく、カルシウム以外の金属やATP以外の基質に結合して構造変化を起こすタンパク質であってもよい。結合する生体物質とその結合タンパク質の関係を以下に例示する。
【0020】
【表1】

【0021】
好ましい生体物質結合性リンカーは、カルシウムイオンと結合することにより構造変化を起こす、カルシウムイオン結合性リンカーである。このようなカルシウムイオン結合性リンカーとしては、カルモジュリン(CaM)とミオシン軽鎖キナーゼのCaM結合ペプチド(M13)をペプチドで連結したタンパク質性リンカーが挙げられる。前記ペプチドは2〜12個、好ましくは3〜8個、より好ましくは3〜5個のアミノ酸から構成されるものである。この生体物質結合性リンカーは、CaMにCa2+が結合すると、生体物質結合性リンカーの構造が変化し、生体物質結合性リンカーの両末端(N末端とC末端)が近づくため、生体物質結合性リンカーの両末端にドナー分子とアクセプター分子を連結すると、ドナー分子からアクセプター分子への移動(FRET)が起こる。
【0022】
カルモジュリン(CaM)としては、Ca2+と結合でき、かつ、Ca2+結合型CaMがM13と結合できるものであれば天然のカルモジュリンおよびその変異体を広く用いることができる。
【0023】
M13は、26個のアミノ酸:KRRWKKNFIAVSAANRFKKISSSGALを有するペプチドである。
【0024】
CaMとM13は、ペプチドで連結される。従来、このリンカーペプチドとしてGlyGlyが使用されてきた。当該リンカーペプチドを構成するアミノ酸は任意であるが、好ましいアミノ酸は、Gly、Ala,Ser、Thr、Leu、Ile、Val、Pro、Cys、Met、Phe、Tyr、Trp、Asn、Gln、Asp、Glu、Lys、Arg、Hisなどが挙げられ、好ましくはGly、Ala,Ser、Thr、より好ましくはGly、Serが挙げられる。リンカーペプチドはGlyとSerが各々少なくとも1個含まれるのが好ましく、たとえばGlyGlySer、GlyGlyGlySer、GlyGlyGlyGlySerなどが好ましく例示される。
【0025】
別の好ましい生体物質結合性リンカーは、ATPと結合することにより構造変化を起こすATP結合性リンカーである。このようなATP結合性リンカーとしては、F0F1-ATP合成酵素εサブユニットタンパク質が挙げられる。本発明において使用されるεサブユニットタンパク質はいずれの生物種由来のものであってもよいが、例えばBacillus sp. PS3由来(GenBank accession No.AB044942)やBacillus subtilis由来(GenBank accession
No. Z28592)に示すεサブユニットタンパク質などを好適に使用することができる。
【0026】
本発明で用いる生体物質結合性リンカーはまた、上記生体物質結合性リンカーの機能的等価改変体であってもよい。「機能的等価改変体」とは、そのアミノ酸配列が、元となるタンパク質のアミノ酸配列において1以上(特には1または数個)のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列であって、しかも、元となる融合タンパク質と実質的に同じ活性を示すタンパク質を意味する。前記アミノ酸の欠失、置換、または付加は、例えば10個であり、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜2個である。
【0027】
(2)キメラタンパク質
本発明のキメラタンパク質は、生体物質結合性リンカーのN末端とC末端にドナー分子とアクセプター分子を直接またはリンカーペプチドを介して連結した構造をとる。
【0028】
ドナー分子としては、蛍光タンパク質、特に光活性化蛍光タンパク質が挙げられる。アクセプター分子としては、色素タンパク質あるいは弱蛍光タンパク質が挙げられる。
【0029】
蛍光タンパク質としては、CFP、YEP、GFP、RFP、BFP、DsRedなどが挙げられ、これらの変異体などを利用してもよい。変異体としては、ECFP、EYFP、EGFP、ERFP、EBFPなどが挙げられる。好ましい蛍光タンパク質は、光活性化蛍光タンパク質であり、例えば光活性化緑色蛍光タンパク質(PA-GFP) 、光活性化赤色蛍光タンパク質(PA-mCherry:Subach FV他、Nat.Methods, 6, 153-159, 2009)、およびこれらの変異体、特に円順列変異体などが挙げられる。
【0030】
色素タンパク質としては、無蛍光性の色素タンパク質が好ましく、例えばasCP(Lukyanov KA他、J. Biol. Chem. 275, 25879-25882, 2000)、黄色蛍光タンパク質Venusの145位のチロシンをトリプトファンに置換した変異体である色素タンパク質Venus-Y145W、黄色蛍光タンパク質Venusの145位のチロシンをトリプトファンに、148位のヒスチジンをバリンに置換した変異体である色素タンパク質Venus-Y145W/H148V、およびこれらの変異体、特に円順列変異体などが挙げられる。asCPはイソギンチャクAnemonia sulcata由来の色素タンパク質で、アミノ酸配列情報はLukyanovらの文献(Lukyanov KA他、J.Biol.Chem. 275, 25879-25882, 2000)にwild-type asFP595として記載されている。
【0031】
弱蛍光タンパク質としては、REACh(Ganasan
S他、Proc.Natl.Acad.Sci. USA 103、4089-4094、2006)、およびこれらの変異体、特に円順列変異体などが挙げられる。REAChはオワンクラゲ由来のGFPの改変体EYFPに更に変異を導入して作製された弱蛍光タンパク質で、アミノ酸配列情報はGanasanらの文献(Ganasan S他、Proc.Natl.Acad.Sci. USA 103、4089-4094、2006)に記載されている。
【0032】
ドナー分子とアクセプター分子はまた、上記蛍光タンパク質、色素タンパク質、弱蛍光タンパク質の機能的等価改変体であっても良い。
【0033】
ドナー分子とアクセプター分子は、どちらを生体物質結合性リンカーのN末端に連結してもよいが、ドナー分子をN末端に結合するのが好ましい。
【0034】
生体物質結合性リンカーとドナー分子またはアクセプター分子の連結は、直接であっても良く、リンカーペプチドを介しても良い。当該リンカーペプチドは、上述のCaMとM13を連結するリンカーペプチドと同様に、特に限定されるものではなく、通常2〜20アミノ酸程度の長さのペプチドリンカーを用いることができる。また、ペプチドリンカーに用いるアミノ酸も、限定されるものではないが、例えば、グリシン(G)、セリン(S)、及びスレオニン(T)などを用いることができ、具体的なリンカーペプチドとして、GlyGlySer、GlyGlyGlySer、GlyGlyGlyGlySerなどが好ましく例示される。
【0035】
本発明のキメラタンパク質は、ドナー分子(蛍光タンパク質)を光照射により励起すると、生体物質の濃度によりドナー分子からアクセプター分子へのエネルギー移動効率が変化し、それを検出することで、生体物質の濃度を測定するセンサーとして機能する。
【0036】
本発明のキメラタンパク質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質でもよい。
【0037】
組み換えタンパク質を作製する場合には、先ずキメラタンパク質をコードするDNAを入手することが必要である。ドナー分子およびアクセプター分子として使用する各種のタンパク質のアミノ酸配列および塩基配列は当業者に公知で、これらをコードするDNAは市販品から入手することが可能であるか、またはPCR等の通常の遺伝子組み換え手法によりクローニングすることができる。このようにして入手したドナー分子およびアクセプター分子をコードするDNAを生体物質結合性リンカーをコードするDNAと遺伝子組み換え技術により連結することにより、本発明のキメラタンパク質をコードするDNAを構築することができる。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明のキメラタンパク質を産生することができる。
【0038】
(3)DNA
本発明によれば、本発明のキメラタンパク質をコードするDNAが提供される。
【0039】
GFP遺伝子は単離され配列も決定されている(Prasher,D.C.ら(1992),"Primary
structure of the Aequorea victoria
green fluorescent protein"、Gene 111:229−233)。その他の蛍光タンパク質またはその変異体のアミノ酸配列も多数報告されており、例えば、Roger Y.Tsien, Annu.Rev.Biochem.1998、67:509-44、並びにその引用文献に記載されている。GFP、YFPまたはそれらの変異体としては、例えば、オワンクラゲ(例えば、エクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria))由来のものを使用できる。
【0040】
本発明で用いる蛍光タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列などは公知である。蛍光タンパク質をコードする遺伝子は市販のものを使用することもできる。例えば、クロンテック社から市販されている、EGFPベクター、EYFPベクター、ECFPベクター、EBFPベクターなどを用いることができる。
【0041】
本発明のDNAは、例えばホスホアミダイト法などにより合成することができるし、特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって製造することもできる。
【0042】
また、所定の核酸配列に所望の変異を導入する方法は当業者に公知である。例えば、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤または放射線への露出等の公知の技術を適宜使用することによって、変異を有するDNAを構築することができる。このような公知の技術は、例えば、Molecular Cloning: A l aboratory Mannual、2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N Y.,1989、並びにCurrent Protocols in Molecular Biology、Supplement 1〜38、John Wiley & Sons (1987-1997)に記載されている。
【0043】
(4)組み換えベクター
本発明のDNAは適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自律的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0044】
好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明のDNAは、転写に必要な要素(例えば、プロモータ等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0045】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillusstearothermophilus maltogenic amylase gen e)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase
gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens
BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌の lac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0046】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性蛋白プロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。
【0047】
また、本発明のDNAは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータまたは真菌宿主についてはTPI1ターミネータ若しくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明の組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)および翻訳エンハンサ配列(例えばアデノウイルスVA
RNA をコードするもの)のような要素を有していてもよい。
【0048】
本発明の組み換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0049】
本発明の組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0050】
本発明のDNA、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0051】
(5)形質転換体
本発明のDNAまたは組み換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。
【0052】
本発明のDNAまたは組み換えベクターを導入される宿主細胞は、本発明のDNA構築物を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
【0053】
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌または大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。
【0054】
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポーレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
【0055】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces
kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0056】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0057】
上記の形質転換体は、導入されたDNA構築物の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明のキメラタンパク質を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。
【0058】
例えば、本発明のタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0059】
(5)生体物質濃度の測定法
本発明はさらに、上記キメラタンパク質と生体物質を共存させ、ドナー分子からの発光(蛍光)を検出することを特徴とする、生体物質濃度の測定法を提供する。
【0060】
測定対象は特に限定されるものではなく、金属又はプラスチックなどの固体表面、水溶液、又は有機溶媒などの液体、生物個体内、組織内、細胞内、細胞内小器官内、及び微生物内などを挙げることができるが、特に通常の測定法では温度の測定が困難な、生物個体内、組織内、細胞内、細胞内小器官内、及び微生物内の生体物質濃度の測定に好適に用いることができる。
【0061】
上記キメラタンパク質を生体物質と共存させるには、キメラタンパク質そのものを測定対象に導入しても良く、またキメラタンパク質をコードするDNA、当該DNAを有する組み換えベクターもしくは当該DNAやベクターを有する形質転換体を測定対象に導入し、対象内部でキメラタンパク質を発現させても良い。
【0062】
上記キメラタンパク質やDNA等の生物個体への導入方法としては、例えば、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、膣内投与、嚢内投与、皮内投与、肺内投与、吸入、皮下投与、点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢内投与、又は経皮投与を挙げることができる。また、組織への導入方法としては、例えば、トランスフェクション、ジーンガン、ウイルスベクター、電気穿孔法、光穿孔法、又は注射による注入などを挙げることができる。細胞内、細胞内小器官内、及び微生物への導入方法としては、コンピテントセルの形質転換、電気穿孔法又はトランスフェクションなどを挙げることができる。
【0063】
生体物質濃度の測定は、上記キメラタンパク質と生体物質を共存させた後、ドナー分子からの発光を検出することで行う。初めにキメラタンパク質に特定の波長の光を照射して、ドナー分子である光活性化蛍光タンパク質が蛍光を発するよう、光活性化を行う。光活性化に用いる光の波長は用いる光活性化蛍光タンパク質により決まっており、例えばPA-GFPは380〜420nm、好適には405nmであり、 PA-mCherryは380〜420nm、好適には405nmである。
【0064】
キメラタンパク質を光活性化した後に所定の波長の励起光を照射すると、ドナー分子の光活性化蛍光タンパク質が蛍光を発する。測定対象の生体物質濃度が低い場合、ドナー分子からの蛍光はアクセプター分子である色素タンパク質や弱蛍光タンパク質の影響を受けない。一方、測定対象の生体物質濃度が高くなると、キメラタンパク質の生体物質結合性リンカー部分に当該生体物質が結合してキメラタンパク質の立体構造が変化し、ドナー分子からの蛍光はFRETによりアクセプター分子に吸収されて、蛍光強度が低下する。ドナー分子としてPA-GFP、アクセプター分子としてasCP、生体物質結合性リンカーとしてCaM-M13を用いた場合の本発明の概念図を図1に示す。
【0065】
本発明のキメラタンパク質は通常のFRETペアとは異なり、アクセプター分子は色素タンパク質や弱蛍光タンパク質であることから、アクセプター分子は蛍光を全く発しないか、あまり発しない。したがってキメラタンパク質のドナー分子が発する蛍光を測定し、その強度変化から生体物質の濃度を計算して決定することができる。具体的にはあらかじめ濃度がわかっている標準物質を用いた検量線を作成しておくことで、実際の測定対象が発した蛍光強度をかかる検量線から算出することができる。
【0066】
上記励起光は用いる光活性化蛍光タンパク質により決まっており、例えばPA-GFPは460〜490nm、好適には488nmであり、PA-mCherryは540〜580nm、好適には564nmである。
【0067】
キメラタンパク質が発する蛍光の波長は用いる光活性化蛍光タンパク質により決まっているが、本発明の測定法では、特定の波長の蛍光強度を測定しても良く、一定の範囲の波長の蛍光スペクトル(波長の面積)を測定しても良い。例えば、例えばPA-GFPは517nmまたは505〜540nm、PA-mCherryは595nmまたは590〜650nmである。
【0068】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
[実施例1]Anemonia sulcata由来の無蛍光性の色素タンパク質asCP572を用いた光活性化Ca2+プローブPA-GFP-asCPによる細胞内Ca2+イメージング
カルシウムイオンセンサーcameleonYC3.60(GenBank,AB178712)をコードする遺伝子をプラスミドpcDNA3 (Invitrogen)のBamHIとEcoRIサイトの間に挿入したほ乳類細胞発現ベクターcameleonYC3.6/pcDNA3(Nagai
T他、Proc. Natl. Acad. Sci.
USA 101, 10554-10559, 2004)を元に、光活性化Ca2+センサータンパク質発現ベクターを作製した。FRETドナー分子として光活性化緑色蛍光タンパク質PA-GFPを用い、アクセプター分子としては無蛍光性の色素タンパク質asCPを用いた。
CameleonYC3.6/pcDNA3のFRETドナー分子であるBamHI、SphIサイト間のC末端11残基を欠失させたECFPをコードする遺伝子を、PA-GFPのC末端11残基を欠失させたものをコードする遺伝子に置換した。さらに、FRETアクセプター分子であるSacI、EcoRIサイト間のVenus円順列変異体cp173Venusをコードする遺伝子配列を、イソギンチャクAnemonia sulcata由来の無蛍光性の色素タンパク質asCP(Lukyanov KA他、J. Biol. Chem. 275, 25879-25882, 2000)をコードする遺伝子に置換した。
この発現ベクターを用いて形質転換させたHeLa細胞の安定発現株を1.5mL培地を含む35mmガラスボトムディッシュ上で培養し観察を行った。イメージングはUPLSAPO60x(NA1.35)オイル対物レンズ、観察用マルチアルゴンレーザー光源、光刺激用半導体レーザーを装着した共焦点倒立顕微鏡FV1000(Olympus)で行った。励起光波長として488nm、光活性化のための刺激光として405nmのレーザー光を用い、タイムラプス測定では3秒間隔で画像を取得した。
【0070】
顕微鏡観察下でディッシュ上の光刺激を行っていない6細胞を選び(図2-a 左)そのうちの3細胞について405nmの刺激光を照射したところ、照射を行った3細胞で選択的にFRETドナー分子PA-GFPの蛍光を出現させることができた (図2-a 中央)。さらに、残りの3細胞について刺激光の照射を行い6細胞の全てに関して蛍光を出現させることができた(図2-a 右)。
蛍光を発するこれら6細胞について、さらにhistamine刺激による細胞内Ca2+をタイムラプス観測した。測定開始から20フレーム取得後に0.5mM histamine溶液を観察する細胞付近に最終濃度が5μMとなるように滴下した。histamine 滴下前の20フレームの蛍光強度の平均値を各時間での蛍光強度で割った相対蛍光強度を時間に対してプロットしてやると、histamine刺激直後にCa2+濃度上昇に伴う相対蛍光強度の増大が観察された(図2-b)。また、添加後約5分からCa2+濃度振動に伴うスパイク状の相対蛍光強度の増大(約10%)が観察された。これらの挙動は既存のcameleonYC3.60を発現するHeLa細胞で見られるものと同様であった。なお予測される測定可能なCa2+濃度の範囲はcameleonYC3.60と同様に数百nM程度で、ダイナミックレンジは約10%である。
【0071】
[実施例2]EYFPを改変した弱蛍光タンパク質REAChを用いた光活性化Ca2+プローブPA-GFP- cp173REAChによる細胞内Ca2+イメージング
カルシウムイオンセンサーcameleonYC3.60(GenBank, AB178712)をコードする遺伝子をプラスミドpcDNA3(Invitrogen)のBamHIとEcoRIサイトの間に挿入したほ乳類細胞発現ベクターcameleonYC3.6/pcDNA3(Nagai
T他、Proc. Natl. Acad. Sci.
USA 101, 10554-10559, 2004) を元に、光活性化Ca2+センサータンパク質発現ベクターを作製した。FRETドナー分子としてPA-GFPを用い、アクセプター分子としては黄色蛍光タンパク質EYFPにY145W/H148V変異を導入した弱蛍光タンパク質 REACh2(Ganesan S 他、Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 103, 4089-4094, 2006)の円順列変異体cp173REACh2を用いた。
Cameleon YC3.6/pcDNA3のBamHI、SphIサイト間のC末端11残基を欠失させたECFPをコードする遺伝子を、C末端11残基を欠失させたPA-GFPをコードする遺伝子に置換した。さらに、FRETアクセプター分子であるSacI、EcoRIサイト間のVenus円順列変異体cp173Venusをcp173REACh2をコードする遺伝子に置換した。作製した発現ベクターをSuperfect(QIAGEN)を用いて35mmガラスボトムディッシュ上で培養したHeLa細胞に形質導入して24-48時間後に観察を行った。
イメージングはUPLSAPO60x(NA1.35)オイル対物レンズ、観察用マルチアルゴンレーザー光源、光刺激用半導体レーザーを装着した共焦点倒立顕微鏡FV1000(Olympus)で行った。励起光波長として488nm、光活性化のための刺激光として405nmのレーザー光を用い、タイムラプス測定では3秒間隔で画像を取得した。
【0072】
顕微鏡観察下でディッシュ上の光刺激を行っていない2細胞を選び(図3-a 左)405 nmの刺激光を照射したところ、照射を行った2細胞で選択的にFRETドナー分子のPA-GFPの蛍光を出現させることができた(図3-a 右)。
蛍光を発するこれら2細胞について、さらにhistamine刺激による細胞内Ca2+濃度変化タイムラプス観測した。測定開始から20フレーム取得後に0.5mM histamine溶液を観察する細胞付近に最終濃度が5μMとなるように滴下した。histamine滴下前の20フレームの蛍光強度の平均値で各時間での蛍光強度で割った相対蛍光強度を時間に対してプロットしてやると、histamine 刺激直後にCa2+濃度上昇に伴う蛍光強度の増大が観察された(図3-b)。また、添加後にもCa2+濃度振動に伴うスパイク状の相対蛍光強度の増大(刺激前の平均蛍光強度の約15%)が観察された。これらの挙動は既存のcameleonYC3.60を発現するHeLa細胞で見られるものと同様であった。なお予測される測定可能なCa2+濃度の範囲はcameleonYC3.60と同様に数百nM程度で、ダイナミックレンジは約10%である。
【0073】
[実施例3]Venusを改変した色素タンパク質Venus-Y145W/H148Vを用いた光活性化Ca2+プローブcp173PA-GFP-(Venus-Y145W/H148V) による細胞内Ca2+イメージング
カルシウムイオンセンサーcameleonYC3.60(GenBank, AB178712)をコードする遺伝子をプラスミドpcDNA3(Invitrogen)のBamHIとEcoRIサイトの間に挿入したほ乳類細胞発現ベクターcameleonYC3.6/pcDNA3(Nagai
T他、Proc. Natl. Acad. Sci.
USA 101, 10554-10559, 2004)を元に光活性化Ca2+センサータンパク質発現ベクターを作製した。FRETドナー分子としてPA-GFPの円順列変異体cp173PA-GFPを用い、アクセプター分子としては黄色蛍光タンパク質VenusにY145W/H148V変異を導入して色素蛋白質化した変異体Venus-Y145W/H148Vを用いた。
CameleonYC3.6/pcDNA3のBamHI、SphIサイト間のC末端11残基を欠失させたECFPをコードする遺伝子を、C末端11残基を欠失させたVenus-Y145W/H148Vをコードする遺伝子に置換した。さらに、FRETアクセプター分子であるSacI、EcoRIサイト間のVenus円順列変異体cp173Venusを、PA-GFPの円順列変異体cp173PA-GFPをコードする遺伝子に置換した。作製した発現ベクターをSuperfect(QIAGEN)を用いて35mmガラスボトムディッシュ上で培養したHeLa細胞に形質導入して24-48時間後に観察を行った。
イメージングはUPLSAPO60x(NA1.35)オイル対物レンズ、観察用マルチアルゴンレーザー光源、光刺激用半導体レーザーを装着した共焦点倒立顕微鏡FV1000(Olympus)で行った。励起光波長として488nm、光活性化のための刺激光として405nmのレーザー光を用い、タイムラプス測定では3秒間隔で画像を取得した。
【0074】
顕微鏡観察下でディッシュ上の光刺激を行っていない2細胞を選び(図4-a 左)405 nmの刺激光を照射したところ、照射を行った2細胞で選択的にFRETドナー分子のPA-GFPの蛍光を出現させることができた(図4-a 右)。
蛍光を発するこれら2細胞について、さらにhistamine刺激による細胞内Ca2+濃度変化タイムラプス観測した。測定開始から20フレーム取得後に0.5mM histamine溶液を観察する細胞付近に最終濃度が5μMとなるように滴下した。histamine滴下前の20フレームの蛍光強度の平均値で各時間での蛍光強度で割った相対蛍光強度を時間に対してプロットしてやると、histamine刺激直後にCa2+濃度上昇に伴う蛍光強度の増大が観察された(図4-b)。また、添加後にもCa2+濃度振動に伴うスパイク状の相対蛍光強度の増大(刺激前の平均蛍光強度の約15%)が観察された。これらの挙動は既存のcameleonYC3.60を発現するHeLa細胞で見られるものと同様であった。なお予測される測定可能なCa2+濃度の範囲はcameleonYC3.60と同様に数百nM程度で、ダイナミックレンジは約10%である。
【0075】
[実施例4]無蛍光性の色素タンパク質asCP572を用いた光活性化ATPプローブによる細胞内ATPイメージング
ATPセンサーATeam(特許文献1)をコードする遺伝子をプラスミドpcDNA3.1(-)(Invitrogen)のXhoIとHindIIIサイトの間に挿入したほ乳類細胞発現ベクターpCDNA-AT1.03(Imamura H 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 15651-15656, 2009)を元に光活性化ATPセンサータンパク質発現ベクターを作製した。FRETドナー分子としてPA-GFPを用い、アクセプター分子としては黄色蛍光タンパク質VenusにY145W変異を導入して色素蛋白質化した変異体Venus-Y145Wにさらに円順列変異を導入したcp173Venus-Y145W
を用いた。
pCDNA-AT1.03のXhoI、ClaIサイト間のC末端11残基を欠失させたECFPをコードする遺伝子を、C末端11残基を欠失させたPA-GFPをコードする遺伝子に置換した。さらに、FRETアクセプター分子であるSacI、EcoRI サイト間のVenus円順列変異体 cp173Venusを、Venus-Y145Wの円順列変異体cp173Venus-Y145Wをコードする遺伝子に置換した。作製した発現ベクターをSuperfect(QIAGEN)を用いて35mmガラスボトムディッシュ上で培養したHeLa細胞に形質導入して24-48時間後に観察を行った。
イメージングはUPLSAPO60x(NA1.35)オイル対物レンズ、観察用マルチアルゴンレーザー光源、光刺激用半導体レーザーを装着した共焦点倒立顕微鏡FV1000(Olympus)で行った。励起光波長として488nm、光活性化のための刺激光として405nmのレーザー光を用い、タイムラプス測定では1分間隔で画像を取得した。
【0076】
顕微鏡観察下でディッシュ上の光刺激を行っていない2細胞を選び(図5-a 左)405 nmの刺激光を照射したところ、照射を行った2細胞で選択的にFRETドナー分子のPA-GFPの蛍光を出現させることができた(図5-a 右)。
蛍光を発するこれら2細胞について、さらに2-deoxyglucose刺激による細胞内ATP濃度変化タイムラプス観測した。測定開始から10フレーム取得後に1M 2-deoxyglucose
溶液を観察する細胞付近に最終濃度が10mMとなるように滴下した。2-deoxyglucose滴下前の10フレームの蛍光強度の平均値で各時間での蛍光強度で割った相対蛍光強度を時間に対してプロットしてやると、ATP濃度低下に伴う相対蛍光強度の減少が観察された(図5-b)。ダイナミックレンジは約30%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質結合性リンカーの両末端にFRETのドナー分子とFRETのアクセプター分子を結合したキメラタンパク質であって、前記ドナー分子が光活性化蛍光タンパク質であり、前記アクセプター分子が色素タンパク質或いは弱蛍光タンパク質であり、前記生体物質結合性リンカーは、生体物質と結合することでFRETを誘導することができる、キメラタンパク質。
【請求項2】
前記ドナー分子が光活性化緑色蛍光タンパク質(PA-GFP)、光活性化赤色蛍光タンパク質(PA-mCherry)またはこれらの機能的等価改変体である、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
前記アクセプター分子がasCP、REACh、Venus-Y145W、Venus-Y145W/H148Vまたはこれらの機能的等価改変体である、請求項1または2に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
前記生体物質がカルシウムイオンまたはATPである、請求項1〜3のいずれかに記載のキメラタンパク質。
【請求項5】
前記生体物質結合性リンカーが、カルモジュリンとミオシン軽鎖キナーゼのCaM結合ペプチド(M13)とを必要に応じてペプチドを介して連結させた構造を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のキメラタンパク質。
【請求項6】
前記生体物質結合性リンカーが、F0F1-ATP合成酵素εサブユニットタンパク質、またはその機能的等価改変体である、請求項1〜4のいずれかに記載のキメラタンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
請求項7に記載のDNAを有する組み換えベクター。
【請求項9】
請求項7に記載のDNAまたは請求項8に記載の組み換えベクターを有する形質転換体。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のキメラタンパク質と生体物質を共存させ、ドナー分子からの発光を検出することを特徴とする、生体物質濃度の測定法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−97930(P2011−97930A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226953(P2010−226953)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼発行所名 日本蛋白質科学会 刊行物名 「第9回日本蛋白質科学会年会プログラム・要旨集」 発行日 平成21年4月24日
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】