説明

光照射装置

【課題】操作が簡単であるにもかかわらず、患部の内部で局所的に紫外光を照射して治療効果を高めることができる光照射装置を得る。
【解決手段】紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光を放射する紫外パルス光源1と、紫外パルス光源1からのパルス光を一端の入射面から導入し他端の出射面から出射させるライトガイド2と、ライトガイド2の出射面側に配置されている球状レンズ3と、ライトガイド2の出射面側においてライトガイド2の外周面に沿って摺動可能に配置されライトガイド2の出射面側を球状レンズ3とともに覆う態様と球状レンズ3を露出させる態様をとらせることができる管状の針と、ライトガイド2の外周面に沿う管状の針の摺動を案内する案内パイプ5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガン細胞などの患部に局所的に光を照射してガン細胞のみを死滅させるというような、主として医療に用いることができる光照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線に殺菌効果があることはよく知られている。また、写真撮影用ストロボ発光器の光源として用いられているキセノンフラッシュランプは、殺菌効果が強い紫外領域の波長スペクトルを有する光を1秒間に数十回、瞬間的にかつ高いエネルギー量で発することができる。そこで、キセノンフラッシュランプを光源とし、この光源から瞬間的に放射される紫外光を腫瘍細胞に局所的に照射して腫瘍細胞のみを死滅させる方法および装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の発明の要旨は、ヒトやヒト以外の動物の生体に生成される腫瘍細胞等の患部に、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光を照射するステップを含んでいることを特徴としている。そして、光照射装置の実施例として、キセノンフラッシュランプなどの光源から放射される紫外線パルスフラッシュ光を石英レンズで集光して、その焦点面に石英光ファイバーの採光口を設置し、上記フラッシュ光を光ファイバーの先端まで導き、光ファイバーの先端に埋め込んだサファイヤ製のボールレンズで照射角度を広げ、患部に75度程度の角度で照射するようにしたものが記載されている。
【0004】
特許文献1記載の発明によれば、紫外光を患部に局部的に照射して患部の腫瘍細胞のみを死滅させ、健常な細胞は傷つけることなく生かすことができる。ただし、腫瘍の外表面側から紫外光を照射するようになっていて、腫瘍の内部に紫外光を照射するという発想はない。
【0005】
本発明に関連のある別の従来例として、留置針の円筒状の外管の中に針を装着した状態で患部に突き刺し、次に上記針を引き抜いて針導入口を完全にシールし、次に薬液注入口から薬液を圧送して患部に注入し、次に上記針を引き抜いて生じた空洞内に光ファイバーを誘導し、光源から光ファイバーを経て誘導された光で患部を照射するようにした治療装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2記載の発明によれば、光ファイバーの先端が患部の内部に侵入した状態で光を照射し、患部の局所で、注入した薬液を活性化することができる、とされている。しかし、特許文献2記載の発明も、腫瘍の内部に紫外光を照射するという発想はない。また、留置針の外管に針を装着して患部に突き刺し、次に針を完全に引き抜いて薬液を注入し、さらに光ファイバーを挿入して光を照射する、という面倒な操作を行わなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−78750号公報
【特許文献2】特開平10−71212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特許文献1に記載されている紫外線の局部的な照射技術をさらに改良し、操作が簡単であるにもかかわらず、患部の内部で局所的に紫外光を照射して治療効果を高めることができる光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光照射装置は、
紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光を放射する紫外パルス光源と、
上記紫外パルス光源からのパルス光を一端の入射面から導入し他端の出射面から出射させるライトガイドと、
上記ライトガイドの出射面側に配置されている球状レンズと、
上記ライトガイドの出射面側において上記ライトガイドの外周面に沿って摺動可能に配置され上記ライトガイドの出射面側を上記球状レンズとともに覆う態様と上記球状レンズを露出させる態様をとらせることができる管状の針と、
上記ライトガイドの外周面に沿う上記管状の針の摺動を案内する案内パイプと、を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
管状の針がライトガイドの出射面側を球状レンズとともに覆う態様で管状の針を患部に突き刺すことにより、ライトガイドの出射面側を球状レンズとともに患部内に侵入させることができる。ライトガイドの出射面側を球状レンズとともに患部内に侵入させた状態を保つ一方、管状の針を後退させて管状の針から球状レンズを露出させる態様をとらせ、この態様で紫外パルス光源からパルス光を放射すると、ライトガイドで導かれたパルス光がライトガイドの出射面から出射され、球状レンズで出射角度が拡大されて患部内に照射される。このように、患部の内部で局所的に紫外光を照射して治療効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る光照射装置の実施例を示す一部断面側面図である。
【図2】上記実施例におけるライトガイドの出射面側の構造を示す縦断面図である。
【図3】上記実施例の出射面側の外観を示す側面図である。
【図4】上記実施例の出射面側の構造を示す縦断面図である。
【図5】上記実施例の出射面側の構造を別の作動態様で示す縦断面図である。
【図6】上記実施例中の案内パイプを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る光照射装置の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0013】
本発明に係る光照射装置の実施例は、図1に示すように、紫外パルス光源1、ライトガイド2、球状レンズ3、案内パイプ5を備えている。紫外パルス光源1は、紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光を放射する光源で、この実施例では写真撮影用ストロボ発光器の光源として用いられているキセノンフラッシュランプを用いている。紫外パルス光源1は、例えば230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光を照射することができる。紫外パルス光源1は光源箱7内に取り付けられ、紫外パルス光源1から放射される紫外パルス光は、凹面をなす反射鏡および集光レンズ6によってライトガイド2の一端面である入射面21に向けて集光されるようになっている。集光レンズ6は、例えば石英ガラスで製作するとよい。
【0014】
光源箱7には紫外パルス光源1の正面と対向する位置に鏡筒8が固定され、鏡筒8によって集光レンズ6が保持されている。鏡筒8の中心軸線方向外側の端部には端板81が固定され、端板81に形成されている中心孔にライトガイド2の入射面側の端部が嵌め込まれ、端板81を介してライトガイド2が鏡筒8に固定されている。ライトガイド2の入射面21は集光レンズ6の出射側の面と対向している。鏡筒8には、必要に応じて任意の特性を有する光学フィルタを装着することができる。
【0015】
ライトガイド2は、図2に示すように、微小な直径の光ファイバーを多数束ねることにより可撓性を有していて、各光ファイバーの長さ方向両端面がそれぞれ同一面上にあって、一端面が入射面21、他端面が出射面22となっている。ライトガイド2には、出射側の端部において、図2に示すように管状のカバー25が被せられ、カバー25によって球状レンズ3がライトガイド2の出射面21に接した状態で保持されている。球状レンズ3は、球面の一部がカバー25の端面から突出している。
【0016】
図4、図5に示すように、ライトガイド2は手指で保持するのに適した大きさの案内パイプ5をその長さ方向に貫通している。案内パイプ5の両端にはそれぞれ端板55、56が嵌められて固定され、案内パイプ5の後端側すなわちライトガイド2の出射面22から遠い側の端板55に、その中心孔を貫通したライトガイド2が固定されている。したがって、ライトガイド2は案内パイプ5と実質的に一体となっている。案内パイプ5の前端側すなわちライトガイド2の出射面21に近い方の上記端板56にはスリーブ51が固定され、スリーブ51は案内パイプ5の前端側に突出している。
【0017】
スリーブ51の内周側には管状の針4が嵌められている。管状の針4はスリーブ51およびこのスリーブ51と一体の案内パイプ5に対して長さ方向に摺動可能であり、スリーブ51は管状の針4の摺動を案内する。管状の針4の先端部は斜めに削ぎ落されて生体の患部などに容易に突き刺すことができるように鋭利な先端形状になっている。管状の針4の内周側には、前述のようにカバー25が被せられたライトガイド2の出射面22側の端部が嵌められている。したがって、管状の針4は、スリーブ51の内周面に沿いかつカバー25の外周面に沿って摺動するようになっている。
【0018】
案内パイプ5内には円柱状の摺動体9が嵌められ、摺動体9は案内パイプ5の内周面に沿って長さ方向に摺動可能となっている。摺動体9の前端側に上記管状の針4の後端部が結合され、摺動体9と管状の針4が一体となって案内パイプ5およびスリーブ51に案内されて中心軸線方向に摺動可能となっている。摺動体9の長さ寸法は、案内パイプ5の両端板55、56の間隔よりも短く、この寸法差の範囲内で摺動体9が摺動することができるようになっている。摺動体9にはその長さ方向に中心孔が形成されていて、この中心孔をライトガイド2が貫通し、摺動体9はライトガイド2に対して相対移動可能となっている。
【0019】
図6に示すように、案内パイプ5はこの案内パイプ5の中心軸線方向に形成された案内溝52を有している。摺動体9にはピン55(図1参照)が植え立てられていて、摺動体9から突出したピン55が上記案内溝52を貫くことにより、摺動体9が管状の針4とともに案内パイプ5に対して摺動可能となっている。案内溝52は、その前端側が、案内パイプ5の周方向すなわち中心軸線に対し直交する方向のロック溝53につながっている。上記ピン55は、図1、図4、図5に示すように操作つまみ54の軸となっている。操作つまみ54をつまんでピン55を案内溝52に沿って移動させることにより、管状の針4を摺動体9とともに案内パイプ5に対して相対移動させることができる。また、ピン55を案内溝52で許容される限界位置まで前方に摺動させた状態で、ピン55がロック溝53に嵌るように操作つまみ54を操作すると、管状の針4が案内パイプ5から最大限に突出した状態を維持することができる。
【0020】
図4は、上記のようにして管状の針4が案内パイプ5から最大限に突出した態様を示している。この態様では管状の針4がライトガイド2の出射面側を球状レンズ3とともに覆っていて、ライトガイド2の出射面側と球状レンズ3は管状の針4の先端近くに位置している。図5は、管状の針4とともに摺動体9が案内パイプ5内に最大限後退した態様を示している。この態様では管状の針4はスリーブ51内に退避し、球状レンズ3とライトガイド2の先端部のカバー25が露出している。
【0021】
以上のように構成されている光照射装置の実施例の使用方法ないしは動作を説明する。
まず、図4に示すように、摺動体9とともに管状の針4を案内パイプ5に対して相対移動させ、管状の針4を案内パイプ5から最大限に突出させ、この態様を、ピン55をロック溝53に嵌めることにより維持する。この態様で次に管状の針4の先端を腫瘍細胞などの患部に突き刺す。この操作は案内パイプ5を手指で保持した状態で行うことができ、案内パイプ5はグリップの役目をする。管状の針4の先端を患部に突き刺すことによって患部に生じた空洞内に、球状レンズ3、さらにはライトガイド2の出射面22(図2参照)も侵入している。
【0022】
次に、案内パイプ5の位置を動かすことなく、操作つまみ54を操作して管状の針4を摺動体9とともに後退させ、図5に示すように、球状レンズ3およびライトガイド2の先端部を管状の針4から露出させる。球状レンズ3およびライトガイド2の先端部は、管状の針4の先端を患部に突き刺すことによって患部に生じた空洞内に残り、球状レンズ3は患部の腫瘍細胞などで覆われる。この態様で紫外パルス光源1を駆動し、少なくとも230〜270nmにわたる紫外線領域の連続的な発光スペクトルを有するパルス光を放射させる。
【0023】
上記パルス光は図1に示す反射鏡や集光レンズ6でライトガイド2の入射面21に集光され、ライトガイド2に導かれてライトガイド2の出射面22から出射する。この出射面22から出射する光の広がり角度は25度程度であるが、球状レンズ3を透過することによって75度程度の広がり角度に拡大され、患部の内部において広い角度範囲に紫外線のパルス光が照射される。
【0024】
患部に、紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光が照射されることによって殺菌効果があり、ガン細胞などを死滅させることができる。
動物を対象にして、紫外パルス光源を1秒間に数十回パルス発光させ、数十秒間動作させて実験した結果によれば、想定した以上にガン細胞の死滅が認められた。この実験結果は、患部に紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光が繰り返し照射されることによってオゾンが発生し、オゾンによって殺菌効果がさらに増大するものと推定される。また、患部の内部に紫外線領域のパルス光を照射するため、発生したオゾンの殺菌効果を高めることができる。さらに、患部にピンポイントでパルス光を照射することができるから、健常な細胞に傷つけることなく、ガン細胞だけを死滅させることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 紫外パルス光源
2 ライトガイド
3 球状レンズ
4 管状の針
5 案内パイプ
6 集光レンズ
8 鏡筒
9 摺動体
21 入射面
22 出射面
25 カバー
51 スリーブ
52 案内溝
54 操作つまみ
55 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線領域の発光スペクトルを有するパルス光を放射する紫外パルス光源と、
上記紫外パルス光源からのパルス光を一端の入射面から導入し他端の出射面から出射させるライトガイドと、
上記ライトガイドの出射面側に配置されている球状レンズと、
上記ライトガイドの出射面側において上記ライトガイドの外周面に沿って摺動可能に配置され上記ライトガイドの出射面側を上記球状レンズとともに覆う態様と上記球状レンズを露出させる態様をとらせることができる管状の針と、
上記ライトガイドの外周面に沿う上記管状の針の摺動を案内する案内パイプと、を有してなる光照射装置。
【請求項2】
ライトガイドの出射面側には管状のカバーが被せられていて、上記カバーによって球状レンズが保持されている請求項1記載の光照射装置。
【請求項3】
管状の針は、案内パイプ内に摺動可能に嵌められている摺動体に結合され、上記摺動体をライトガイドが相対移動可能に貫通している請求項1または2記載の光照射装置。
【請求項4】
案内パイプは両端に端板を有し、片方の端板にはライトガイドが結合されている請求項1、2または3記載の光照射装置。
【請求項5】
案内パイプは両端に端板を有し、ライトガイドの出射面に近い方の上記端板には管状の針の摺動を案内するスリーブが固定されている請求項1ないし4のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項6】
案内パイプはこの案内パイプの中心軸線方向の案内溝を有し、摺動体から突出したピンが上記案内溝を貫くことにより、上記摺動体が管状の針とともに上記案内パイプの中心軸線方向に摺動可能となっていて、上記ピンは操作つまみの軸となっている請求項3ないし5のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項7】
紫外パルス光源はキセノンフラッシュランプである請求項1ないし6のいずれかに記載の光照射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245296(P2012−245296A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121282(P2011−121282)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(594183141)株式会社杉浦研究所 (4)
【Fターム(参考)】