説明

光硬化性組成物及びその硬化物

【課題】硬化物の導電性、耐溶剤性及び柔軟性が高い光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】3官能以上の多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と導電剤とを組み合わせて、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で−50℃から250℃まで測定した動的粘弾性試験において、硬化物のゴム状領域における貯蔵弾性率E′が200〜2000MPaである光硬化性組成物を調製する。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、鎖状脂肪族骨格を有する鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。前記鎖状脂肪族骨格は、ラクトン由来の単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含んでいてもよい。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、さらに脂環族及び/又は芳香族骨格を有する環含有2官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、熱伝導性、耐溶剤性、柔軟性を要求される用途に利用される光硬化性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハーの保存容器、ガソリンタンク、電子・電気機器や半導体製造工場における床材や壁材などの材料には、帯電防止などの点から要求される導電性や熱伝導性に加えて、使用時に有機溶媒と接触するため、耐溶剤性も要求される。従来から、これらの用途に利用される材料としては、導電剤とバインダー樹脂との組み合わせが広く利用されているが、耐溶剤性を向上させる点から、バインダー樹脂として硬化樹脂が使用されている。
【0003】
特開昭60−60166号公報(特許文献1)には、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルオリゴマーの1種以上を主成分とする塗料バインダー、及び酸化スズを主成分とする粒径0.2μm以下の導電性粉末を含有する導電性塗料組成物が開示されている。この文献には、(メタ)アクリレートオリゴマーがウレタン結合を有することにより塗膜の硬度及び耐擦過傷性を向上できると記載されている。また、前記組成物を光硬化もしくは放射線硬化により架橋することにより塗膜の耐擦過傷性及び硬度を向上できると記載され、具体的には、イソシアネート化合物及び光増感剤を含む組成物を紫外線照射して硬化物を形成している。さらに、導電性粉末は塗料バインダー100重量部に対して50〜400重量部配合されている。
【0004】
しかし、この組成物では、耐溶剤性があっても硬くて脆く、一方、柔軟性があっても耐溶剤性は低い。また、酸化スズを用いるため、光の散乱を抑制するために、粒径を制御する必要がある上に、重量の大きい酸化スズが多量に配合されており、シートにした際などにおける取り扱い性や機械的特性も低い。さらに、光増感剤などの重合触媒や開始剤が必要となる。
【0005】
特開昭63−33470号公報(特許文献2)には、ポリフェニレンオキシド並びに架橋性ポリマー及び/又は架橋性モノマーを含み、導電性フィラーが分散されている導電性樹脂組成物が開示されている。この文献では、放射線架橋についても記載されているが、具体的には、イソシアネート化合物及び開始剤を含む組成物を加熱硬化している。
【0006】
しかし、この組成物では、熱可塑性樹脂を含むため、耐溶剤性が低い。さらに、硬化において開始剤が必要である。
【0007】
一方、開始剤を用いることなく、硬化可能な組成物として、電子線硬化性組成物も提案されており、例えば、特開2000−86728号公報(特許文献3)には、3〜12個の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物に、1級又は2級アミンを付加させたアミン変性(メタ)アクリレート化合物(A)と、エチレンオキシドなどの水素を引き抜き易い骨格を有する重合性不飽和化合物(B)を含む電子線硬化性組成物が開示されている。この文献では、アミン変性させた(メタ)アクリレート化合物を用いて、電子線硬化における酸素阻害を防止している。
【0008】
しかし、この文献には、フィラーに関しては、硬化物性、粘度調節、コストダウンのために添加する任意の添加剤の一例として記載されているにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−60166号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開昭63−33470号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2000−86728号公報(特許請求の範囲、段落[0020][0021][0041]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、硬化物の導電性、耐溶剤性及び柔軟性が高い光硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、導電剤の種類を限定することなく、硬化物の耐溶剤性、導電性及び柔軟性を向上できる光硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、硬化物を極性の有機溶媒と長期間に亘り接触しても、膨潤などが抑制され、高い導電性を保持できる光硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、硬化物の柔軟性及び取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール方式を利用して容易に製造できる光硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電剤とを組み合わせて、硬化物の粘弾性が特定の範囲に調整されているため、光硬化すると、硬化物の導電性、耐溶剤性及び柔軟性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の光硬化性組成物は、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電剤とを含む光硬化性組成物であって、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で−50℃から250℃まで測定した動的粘弾性試験において、硬化物のゴム状領域における貯蔵弾性率E′が200〜2000MPaである。
【0016】
前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、鎖状脂肪族骨格(特に、ラクトン由来の単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含む鎖状脂肪族骨格)を有する鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、さらに脂環族及び/又は芳香族骨格を有する環含有2官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。前記環含有2官能(メタ)アクリレートは、多環式脂環族及び/又はビスフェノール骨格を有する2官能(メタ)アクリレート(特に、2〜4環C8−12橋架け環式脂環族骨格を有する2官能(メタ)アクリレート)であってもよい。前記環含有2官能(メタ)アクリレートの割合は、前記鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレート100重量部に対して10〜100重量部程度であってもよい。
【0017】
本発明の光硬化性組成物は、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートと環含有2官能(メタ)アクリレートとの組み合わせであり、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合が、多官能ビニル系化合物100重量部に対して100〜200重量部程度であってもよい。
【0018】
前記多官能ビニル系化合物は、3〜6官能(メタ)アクリレートであってもよい。前記多官能ビニル系化合物は、アミンで変性されていない多官能ビニル系化合物(未変性化合物)であってもよい。
【0019】
前記導電剤は、導電性カーボンブラックであってもよい。前記導電剤の割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して10〜40重量部程度であってもよい。
【0020】
本発明の光硬化性組成物は、紫外線又は電子線硬化性組成物であってもよい。本発明の光硬化性組成物は、電子線硬化性組成物であり、かつ重合開始剤を実質的に含有しない組成物であってもよい。また、本発明の光硬化性組成物は、ポリフェニレンオキシド系樹脂を実質的に含有しない組成物であってもよい。本発明の光硬化性組成物は、溶媒と接触して使用される硬化物を形成するための用途に適している。
【0021】
本発明には、前記光硬化性組成物を光照射して硬化物を製造する方法も含まれる。さらに、本発明には、この方法で得られた硬化物も含まれる。本発明の硬化物は、シート状成形体であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電剤とを組み合わせて、硬化物の粘弾性が特定の範囲に調整されているため、光硬化させることにより、硬化物の導電性及び耐溶剤性を向上できる。また、導電剤の種類を限定することなく、硬化物の耐溶剤性、導電性及び柔軟性を向上できる。また、硬化物を極性の有機溶媒と長期間に亘り接触しても、膨潤などが抑制され、高い導電性を保持できる。さらに、硬化物の柔軟性及び取り扱い性に優れるため、ロール・ツー・ロール方式を利用して容易に製造できるため、成形体の生産性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、比較例2で得られた硬化物における−50℃〜250℃の貯蔵弾性率E′を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[光硬化性組成物]
本発明の光硬化性組成物は、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電剤とを含み、かつ硬化物のゴム状領域における貯蔵弾性率E′が200〜2000MPaである。特に、耐溶剤性と柔軟性との関係、さらに導電剤の配合による導電性の向上効果と前記特性の向上効果との関係はいずれもトレードオフの関係にあり、これらの特性をバランス良く充足するのは困難であるが、本発明の光硬化性組成物は、樹脂成分の種類や比率、官能基数、分子量(粘度)、導電剤の種類及び配合量などを調整して、光硬化物の粘弾性を前記範囲に制御することにより、両特性を併せ持つことを特徴とする。
【0025】
(多官能ビニル系化合物)
多官能ビニル系化合物としては、分子内に3以上(例えば、3〜8程度)の重合性基を有していればよく、具体的には、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートが汎用される。
【0026】
多官能(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、これらの多官能(メタ)アクリレートにおいて、多価アルコールは、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)の付加体であってもよい。アルキレンオキシドの平均付加モル数は、例えば、0〜30モル(特に1〜10モル)程度の範囲から選択できる。これらの多官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
これらの多官能ビニル系化合物のうち、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの3〜6官能(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3〜4官能(メタ)アクリレートが汎用される。さらに、多官能ビニル系化合物は、アミンで変性されていない多官能ビニル化合物(マイケル付加などによりアミン類が付加していない未変性多官能ビニル化合物)が好ましい。
【0028】
(単官能及び/又は2官能ビニル系化合物)
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物としては、分子内に1又は2つの重合性基を有していればよく、具体的には、1又は2つの(メタ)アクリロイル基を有する単官能又は2官能(メタ)アクリレート、スチレンやジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物などが汎用される。
【0029】
単官能ビニル系化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのC1−24アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2−10アルキル(メタ)アクリレート又はC2−10アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートなどのフルオロC1−10アルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート;フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアリールオキシ(ポリ)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールモノ(メタ)アクリレート;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基又は置換アミノ基を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0030】
2官能ビニル系化合物としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどのビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールSなど)のC2−4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレート;脂肪酸変性ペンタエリスリトールなどの酸変性アルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの橋架け環式ジ(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0031】
さらに、2官能ビニル系化合物としては、例えば、エポキシジ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシジ(メタ)アクリレートなど)、ポリエステルジ(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレートなど)、(ポリ)ウレタンジ(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタンジ(メタ)アクリレートなど)、シリコーン(メタ)アクリレートなどのオリゴマー又は樹脂も例示できる。
【0032】
これらのビニル系化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのビニル系化合物のうち、反応性や耐溶剤性などの点から、2官能(メタ)アクリレートが好ましく、硬化物の柔軟性を向上できる点から、鎖状脂肪族骨格を有する鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含む2官能(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0033】
(1)鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレート
鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートとしては、アルキル基を含む鎖状脂肪族骨格を有していればよく、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのC2−12アルカンジオールジ(メタ)アクリレート;脂肪酸変性アルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート;脂肪族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレート;脂肪族ポリエステル型ウレタンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する(メタ)アクリレートに鎖状脂肪族骨格が導入されていてもよい。さらに、鎖状脂肪族骨格を構成するアルキル基の炭素数は、例えば、3〜20程度の範囲から選択できるが、柔軟性と耐溶剤性とのバランスの点から、例えば、4〜12、好ましくは4〜10、さらに好ましくは4〜8(特に5〜8)程度が好ましい。これらの鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
さらに、鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートは、ラクトン由来の単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含むのが特に好ましい。
【0035】
ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、エナントラクトン(7−ヒドロキシヘプタン酸ラクトン)などのC3−10ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトンのうち、バレロラクトンやカプロラクトンなどのC4−8ラクトン(特にC5−8ラクトン)が好ましい。
【0036】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸又はその無水物(コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC4−20アルカンジカルボン酸)と、脂肪族ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレンエーテルグリコールなどのC2−10アルカンジオールなど)との反応生成物、開始剤に対して前記ラクトンを開環付加重合させた反応生成物などが挙げられる。ポリエステル単位の重合度は、例えば、2〜100程度の範囲から適宜選択でき、例えば、3〜90、好ましくは5〜80、さらに好ましくは10〜70程度であってもよい。
【0037】
ラクトン由来の単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含む鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、カプロラクトンなどのC5−8ラクトンが開環重合したポリエステル単位を有する脂肪族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレート、前記ポリエステル単位を有するウレタンジ(メタ)アクリレート、前記ポリエステル単位を有するエポキシジ(メタ)アクリレートなどが利用できる。
【0038】
さらに、ポリエステル型ウレタンジ(メタ)アクリレートのポリイソシアネート単位としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートのいずれでもよく、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートなどが汎用される。前記ポリエステル単位を有するエポキシジ(メタ)アクリレートは、ビスフェノールAなどのビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレートであってもよい。
【0039】
(2)環含有2官能(メタ)アクリレート
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、耐溶剤性を向上させる点から、前記鎖状脂肪族骨格を有するビニル系化合物に加えて、さらに脂環族及び/又は芳香族骨格を有する環含有(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。
【0040】
環含有2官能(メタ)アクリレートとしては、分子内に脂環族及び/又は芳香族骨格を有していればよく、例えば、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの2〜4環C6−20(特にC8−12)橋架け環式ジ(メタ)アクリレート;2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどのビスフェノール類(ビスフェノールA、Sなど)−C2−4アルキレンオキシド付加体[アルキレンオキシドの平均付加モル数0〜30モル(特に1〜10モル)程度]のジ(メタ)アクリレート;オリゴマー[ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなどの芳香族エポキシ(メタ)アクリレートなど]などが挙げられる。これらの2官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
これらの環含有2官能(メタ)アクリレートのうち、硬化物の耐溶剤性及び強度が高い点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの多環式脂環族骨格を有するジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートなどのビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなどの2〜4環C8−12橋架け環式脂環族骨格を有するジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0042】
環含有2官能(メタ)アクリレートの割合は、目的の粘弾性に応じて、鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレート100重量部に対して0〜500重量部程度の範囲から適宜選択でき、例えば、5〜200重量部、好ましくは10〜100重量部(例えば、20〜80重量部)、さらに好ましくは30〜60重量部(特に40〜50重量部)程度である。本発明では、このような割合で鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートと環含有2官能(メタ)アクリレートとを組み合わせることにより、耐溶剤性を維持しながら、柔軟性を向上できる。
【0043】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合は、前記多官能ビニル系化合物100重量部に対して1〜1000重量部程度の範囲から選択でき、例えば、5〜500重量部、好ましくは10〜300重量部程度である。
【0044】
本発明では、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の種類に応じて、前記範囲から選択でき、例えば、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートと環含有2官能(メタ)アクリレートとの組み合わせである場合、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合は、多官能ビニル系化合物100重量部に対して、例えば、30〜500重量部、好ましくは50〜300重量部、さらに好ましくは100〜200重量部(特に120〜150重量部)程度である。
【0045】
また、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートである場合、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合は、多官能ビニル系化合物100重量部に対して、例えば、1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部(特に20〜30重量部)程度である。
【0046】
(導電剤)
導電剤としては、例えば、炭素材(例えば、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、コークス、導電性カーボンブラックなど)、金属単体又は合金(例えば、鉄、銅、マグネシウム、アルミニウム、金、白金、亜鉛、マンガン、ステンレスなど)、セラミックス類(例えば、フェライト、トルマリン、珪藻土など)、導電性ポリマー(例えば、ポリアセチレンなどのポリアセチレン系重合体、ポリチオフェンなどのポリチオフェン系重合体、ポリパラフェニレンなどのポリフェニレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、アクリル系重合体で変性されたポリエステル系重合体など)などが挙げられる。これらの導電剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
導電剤の形状は、例えば、粒子状(粉末状)、板状(又は鱗片状)、繊維状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、略球状や多角体状などの粒子状が汎用される。
【0048】
導電剤の平均粒径は、10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択できるが、硬化物の機械的特性や導電性などの点から、例えば、10〜500nm、好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは30〜100nm(特に40〜80nm)程度である。
【0049】
本発明では、これらの導電剤のうち、軽量性の点から、炭素材や導電性ポリマーが好ましく、前記平均粒径を有し、かつ導電性に優れる粒子状導電剤として、導電性カーボンブラックを特に好ましく使用できる。
【0050】
導電性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、アークブラック、ケッチェンブラックなどが例示できる。これらの導電性カーボンブラックのうち、導電性などの点から、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが好ましい。さらに、これらの導電性カーボンブラックを組合せた導電性複合カーボンブラックでもよい。
【0051】
導電性カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量(A法)は、用途に応じて、10〜1000cm/100g(例えば、30〜500cm/100g)程度の範囲から選択でき、窒素吸着BET比表面積は5〜1000m/g(例えば、10〜300m/g)程度の範囲から選択できる。
【0052】
導電剤の割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して1〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、3〜80重量部、好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部(特に15〜35重量部)程度であり、特に、硬化物の柔軟性を確保する点から、45重量部以下(特に5〜40重量部程度)であってもよい。
【0053】
(他の添加剤)
本発明の光硬化性組成物は有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶媒のうち、メチルエチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素などが汎用される。なお、塗布性などの特性を改良する目的を兼ねて、スチレンなどの単官能ビニル系化合物や、(メタ)アクリル酸などの前記他のビニル系化合物を反応性希釈剤として使用してもよい。
【0054】
溶媒の割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して10〜1000重量部程度の範囲から選択でき、例えば、50〜500重量部、好ましくは80〜300重量部、さらに好ましくは100〜200重量部(特に120〜180重量部)程度である。
【0055】
本発明の光硬化性組成物は、さらに慣用の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、補強剤、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0056】
但し、本発明の光硬化性組成物は、電子線で硬化する場合、重合開始剤(例えば、光重合開始剤、光増感剤、熱重合開始剤など)を実質的に含有していなくてもよい。さらに、本発明の光硬化性組成物は、耐溶剤性の点から、樹脂成分として、熱可塑性樹脂(特に、ポリフェニレンオキシド系樹脂)を実質的に含有しないのが好ましい。
【0057】
[光硬化物及びその製造方法]
本発明の光硬化物は、前記光硬化性組成物を光照射して得られる。詳しくは、基材の上に液状の光硬化性組成物を塗布する塗布工程、塗布された前記硬化性組成物を光照射して硬化する硬化工程を経て製造される。
【0058】
硬化性組成物の塗布方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、バーコーター法やグラビアコーター法などが汎用される。なお、必要であれば、塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。
【0059】
硬化性組成物が有機溶媒を含有する場合など、塗布後は、必要に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥は、例えば、30〜150℃、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは50〜70℃程度の温度で行ってもよい。
【0060】
硬化工程において、硬化性組成物を光照射する方法としては、放射線(ガンマー線、X線など)、紫外線、可視光線、電子線(EB)などの光エネルギー線を照射する方法を利用できる。これらの方法のうち、紫外線、電子線を照射する方法が好ましい。
【0061】
紫外線を照射する方法において、光源としては、例えば、紫外線の場合は、Deep UV ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源(ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザーなどの光源)などを用いることができる。照射光量(照射エネルギー)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、50〜10000mJ/cm、好ましくは70〜7000mJ/cm、さらに好ましくは100〜5000mJ/cm程度であってもよい。
【0062】
電子線を照射する方法としては、電子線照射装置などの露光源によって電子線を照射する方法などが利用できる。照射量(線量)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、1〜200kGy(グレイ)、好ましくは10〜180kGy、さらに好ましくは30〜150kGy(特に50〜120kGy)程度である。加速電圧は、例えば、10〜1000kV、好ましくは50〜500kV、さらに好ましくは100〜300kV程度である。
【0063】
なお、電子線の照射は、必要であれば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行ってもよい。
【0064】
本発明では、重合開始剤を使用せずに重合ができ、高い耐候性を有する硬化物を製造できる点から、電子線で照射する方法が特に好ましい。
【0065】
本発明の光硬化物は、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で−50℃から250℃まで測定した動的粘弾性試験において、ゴム状領域における貯蔵弾性率E′が200〜2000MPaであり、好ましくは300〜1500MPa、さらに好ましくは350〜1200MPa(特に400〜1000MPa)程度である。なお、ゴム状領域とは、貯蔵弾性率−温度曲線が、1010Pa程度のガラス状領域から、温度の上昇と共に大きく低下する転移領域を経た後で、10〜10Pa付近でほぼ平坦になる領域を意味する。
【0066】
本発明の光硬化物は、このような貯蔵弾性率E′を有するため、適度な架橋密度を有し、耐溶剤性に優れ、かつ導電剤を含有して導電性にも優れているにも拘わらず、適度な柔軟性を有している。具体的には、本発明の光硬化物は、シート化してロール・ツー・ロール方式での製造が可能であるため、生産性が高く、工業的な価値が高い。
【0067】
本発明の光硬化物は、導電性に優れ、体積抵抗率が10Ω・cm以下であってもよく、例えば、10Ω・cm以下、好ましくは10Ω・cm以下、さらに好ましくは10Ω・cm以下(特に10Ω・cm以下)であってもよい。
【0068】
本発明の光硬化物の形状は、例えば、シート状又はフィルム状、繊維状などであってもよく、三次元状成形体であってもよい。これらの形状のうち、シート状又はフィルム状が汎用され、三次元状成形体も本発明の硬化物で形成されたシートを二次成形することにより成形してもよい。シート状又はフィルム状成形体の厚みは、用途に応じて1μm〜10mm程度の範囲から選択でき、例えば、1〜1000μm、好ましくは3〜500μm、さらに好ましくは10〜100μm程度である。本発明の光硬化物で形成されたシート又はフィルムは、柔軟性に優れるため、このような厚みを有していても、ロール・ツー・ロール方式での製造が可能である。
【0069】
本発明の光硬化物は、基材シートとの積層体であってもよく、例えば、基材シートの一方の面に本発明の光硬化物で構成された層が形成された積層体、基材フィルムの両面に本発明の光硬化物で構成された層が形成された積層体などであってもよい。前記基材シートは、ガラス、セラミック、金属、プラスチックなどで構成されていてもよいが、硬化物との密着性などの点から、プラスチックが好ましい。プラスチックとしては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、非晶質ポリオレフィンなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体など)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12など)、塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフイド系樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらのうち、耐熱性などに優れる点から、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが好ましい。さらに、プラスチックは、前記導電剤を含有していてもよい。
【0070】
積層体において、本発明の光硬化物で構成された層(硬化物層)の厚みは、用途に応じて選択できるが、例えば、1〜100μm、好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは3〜30μm程度である。基材シートの厚みは、例えば、1〜300μm、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは20〜150μm程度である。両者の比率は、例えば、基材シート/硬化物層=10/1〜1/1、好ましくは8/1〜1/1、さらに好ましくは5/1〜1/1程度である。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び参考例で用いた配合成分、実施例及び参考例で得られた硬化物の耐溶剤性及び導電性の評価は、以下の方法で測定した。
【0072】
[耐溶剤性:溶媒浸漬試験]
シャーレに溶媒10mlを入れ、硬化塗膜が積層されたガラス板をメチルエチルケトン(MEK)又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に浸漬し、25℃で24時間静置後、下記式により溶媒浸漬前後の重量変化率を求めた。なお、この試験において、重量変化量(%)が1.5%以下であれば耐溶剤性に優れることを示す。
【0073】
重量変化率(%)={[(溶媒浸漬後の塗膜重量)−(溶媒浸漬前の塗膜重量)]/(溶媒浸漬前の塗膜重量)}×100
[溶媒透過性]
厚さ90μmのポリアミド12フィルム上に、厚さ10μmの硬化塗膜を作製した。10cm×10cmのサイズに2枚切り出し、硬化塗膜を外側にして3方向をそれぞれ幅1cm分溶着した。未溶着部分から、プロピレンカーボネート2gを添加し、幅1cm分溶着して密閉した。さらに、溶着部分をアルミテープでシールし、試験体とした。試験体をデシケーター中に入れ、23℃、50Rh%で静置し、重量の経時変化を、下記式に基づいて算出し、評価した。なお、この試験において、14日経過後の重量変化量(%)が0.5%以下であれば溶媒透過性に優れることを示す。
【0074】
重量変化率(%)={[(溶媒封入直後の試験体重量)−(14日経過後の試験体重量)]/(封入した溶媒重量)}×100
[導電性]
厚さ100μのPETフィルム上に、厚さ10μmの硬化塗膜を作製した。JIS K7194に従い、抵抗率測定装置(三菱化学(株)製「Loresta−GP」)を用いて表面抵抗率を測定し、体積抵抗率を求めた。
【0075】
[屈曲性]
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、厚さ10μmの硬化塗膜を作製した。得られた試験体を2cm×15cmの短冊にカットし、JIS K5600に従って屈曲性試験を行い、塗膜の割れが起こったマンドレルの直径を求めた。
【0076】
[貯蔵弾性率E′]
得られた試験片について、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製、RSA−III)を用い、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で、−50℃〜250℃の貯蔵弾性率(E′)を求めた。
【0077】
[配合成分]
3官能アクリレート:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「PETIA」
環含有2官能アクリレート:トリシクロデカンジアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製)「IRR214K」
2官能ウレタンアクリレート:高耐候性ウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL8402」
2官能エポキシアクリレート:変性エポキシアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL3708」
光重合開始剤:ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASFジャパン(株)製「Irgacure184」
カーボンブラック:導電性カーボンブラック、平均粒経50nm、表面積33m/g、東海カーボン(株)製「#4300」。
【0078】
(比較例1〜2及び実施例1〜6)
本発明の光硬化性組成物について、紫外線照射による硬化物を作製し、評価した。すなわち、50mlの茶色スクリュー管に、表1の割合で、アクリレート、光重合開始剤を秤量し、メチルエチルケトン(MEK)に溶解した。得られた組成物を、離型紙上にバーコーターにより約50μmの厚みに塗工し、60℃で乾燥した。乾燥後の組成物に、メタルハライドランプからの紫外線を照射光量650mJ/cmで15秒間照射し、硬化塗膜を作製した。得られた硬化塗膜の評価結果を表1に示す。比較例2で得られた硬化塗膜における−50℃〜250℃の貯蔵弾性率E′のグラフを図1に示す。図1では、ゴム状領域は約200〜250℃の領域である。
【0079】
【表1】

【0080】
*1:割れやすく測定不可能
*2:2mmのマンドレルでも割れ生じず
表1の結果から、実施例の硬化物は曲げ性と耐溶剤性の両者を併せ持つ。
【0081】
(実施例7〜8)
150mlの蓋付容器に、表2の割合で、アクリレートを秤量し、メチルエチルケトン(MEK)及びトルエン(TOL)の混合溶媒[MEK/TOL=50/50(重量比)]に溶解した。この溶液にカーボンブラックを添加し、自公転式混合脱泡機((株)シンキー製「ARE−250」)で分散組成物を作製した。得られた組成物を、離型紙上にバーコーターにより約50μmの厚みに塗工し、60℃で乾燥した。乾燥後の組成物に、窒素雰囲気中で、加速電圧150kV、線量100kGyの電子線を照射し、硬化塗膜を作製した。硬化塗膜の評価結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の光硬化性組成物は、導電性及び耐溶剤性を要求される各種の分野に利用され、溶媒と接触する用途、例えば、半導体ウエハーの保存容器、ガソリンタンク、電子・電気機器や半導体製造工場における床材や壁材、各種の電池用部材などの材料として利用できる。さらに、導電性及び耐溶剤性に優れている上に、柔軟性にも優れるため、ロール・ツー・ロール方式を利用して容易に製造でき、取り扱い性にも優れるため、利用範囲も広い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3官能以上の多官能ビニル系化合物と、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電剤とを含む光硬化性組成物であって、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で−50℃から250℃まで測定した動的粘弾性試験において、硬化物のゴム状領域における貯蔵弾性率E′が200〜2000MPaである光硬化性組成物。
【請求項2】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、鎖状脂肪族骨格を有する鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含む請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
鎖状脂肪族骨格が、ラクトン由来の単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含む請求項1又は2記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、さらに脂環族及び/又は芳香族骨格を有する環含有2官能(メタ)アクリレートを含む請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
環含有2官能(メタ)アクリレートが、多環式脂環族及び/又はビスフェノール骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
環含有2官能(メタ)アクリレートが、2〜4環C8−12橋架け環式脂環族骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである請求項4又は5記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
環含有2官能(メタ)アクリレートの割合が、鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレート100重量部に対して10〜100重量部である請求項4〜6のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、鎖状脂肪族2官能(メタ)アクリレートと環含有2官能(メタ)アクリレートとの組み合わせであり、単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合が、多官能ビニル系化合物100重量部に対して100〜200重量部である請求項4〜7のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
多官能ビニル系化合物が、3〜6官能(メタ)アクリレートである請求項1〜8のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
多官能ビニル系化合物が、アミンで変性されていない請求項1〜9のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
導電剤が、導電性カーボンブラックである請求項1〜10のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項12】
導電剤の割合が、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して10〜40重量部である請求項1〜11のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項13】
紫外線又は電子線硬化性組成物である請求項1〜12のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項14】
電子線硬化性組成物であり、かつ重合開始剤を実質的に含有しない請求項1〜13のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項15】
ポリフェニレンオキシド系樹脂を実質的に含有しない請求項1〜14のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項16】
溶媒と接触して使用される硬化物を形成するための請求項1〜15のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の光硬化性組成物を光照射して硬化物を製造する方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法で得られた硬化物。
【請求項19】
シート状成形体である請求項18記載の硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−177023(P2012−177023A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40103(P2011−40103)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】