説明

光硬化性組成物

【課題】 耐溶剤性や透湿バリア性を高めるとともに、ヒートサイクルによる被着材の膨張、収縮に追従可能なシール材を提供すること。
【解決手段】
(A)末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添されたポリブタジエンである重合体と、(B)飽和脂肪族エラストマーと、(C)光重合開始剤の(A)〜(C)を主成分とする光硬化性組成物とした。あるいは、前記(A)〜(C)の組成物に(D)炭素数5以上の鎖状脂肪族または脂環式単官能(メタ)アクリレートを、さらに添加した(A)〜(D)を主成分とする光硬化性組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線や可視光等の活性エネルギー線の照射により速やかに重合し、その硬化物が柔軟でありながら耐溶剤性、透湿バリア性に優れる光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐溶剤性および/または透湿バリア性に優れた技術として、多官能(メタ)アクリル酸エステル、橋かけ環構造を有する2官能(メタ)アクリル酸エステルおよび光重合開始剤からなる光硬化性組成物(特許第2953598号公報)、分子中に(メタ)アクリル基と加水分解性基を有するポリイソブチレン、光重合開始剤および湿気硬化触媒からなる光および湿気硬化性組成物(特開2000−178535号公報)、エポキシ樹脂、ゴム状ポリマー微粒子、無機充填剤、熱潜在性エポキシ硬化剤および高軟化点ポリマー微粒子からなる熱硬化性組成物(特開2000−347203号公報)、特定の化学構造を有するエポキシ化合物を含有するカチオン重合性化合物、ラジカル重合性化合物、光カチオン重合開始剤および光ラジカル重合開始剤からなる光硬化性組成物(特開2002−256062号公報)、ポリオレフィンとポリビニルアルコール、相溶化剤、可塑剤、加工助剤および酸化防止剤からなるフィルム、シート、成形体加工用組成物(特表2002−537408号公報)等が開示されている。
【0003】
一方、反応性樹脂中にエラストマーを分散させる技術や反応性樹脂骨格中にエラストマー成分を導入する技術に関しても報告例があり、エポキシ樹脂由来の化学構造とポリシロキサン構造を有し、かつ官能基としてエポキシ基を有する共重合体(特公昭61−48544号公報、特開昭63−301220号公報、特開平2−208314号公報、特開平6−16773号公報、特許第2703045号公報、特許第3178066号公報および特開2002−249584号公報)、分子中にポリブタジエン骨格を有する(メタ)アクリレート系樹脂を用いた低透湿度ホットメルト接着剤(特開平3−278333号公報、特開平4−258825号公報、特開平5−012714号公報)、5℃以下のガラス店転移点を有するポリマーとエチレン系不飽和化合物がマトリックス相をなす感光性樹脂(特開平10−78657号公報、特開平10−123710号公報)、アクリル酸エステルモノマーと20℃以下のガラス転移点を有するゴム弾性体から成る樹脂充填材(特開平10−316826号公報)等に開示されている。
【特許文献1】特許第2953598号公報
【特許文献2】特開2000−178535号公報
【特許文献3】特開2000−347203号公報
【特許文献4】特開2002−256062号公報
【特許文献5】特表2002−537408号公報
【特許文献6】特公昭61−48544号公報
【特許文献7】特開昭63−301220号公報
【特許文献8】特開平2−208314号公報
【特許文献9】特開平6−16773号公報
【特許文献10】特許第2703045号公報
【特許文献11】特許第3178066号公報
【特許文献12】特開2002−249584号公報
【特許文献13】特開平3−278333号公報
【特許文献14】特開平4−258825号公報
【特許文献15】特開平5−012714号公報
【特許文献16】特開平10−78657号公報
【特許文献17】特開平10−123710号公報
【特許文献18】特開平10−316826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に耐溶剤性や透湿バリア性を高めるためには硬化物の架橋密度を高くする必要があり、その結果として硬化物が硬くなる傾向にある。このような材料をシール材として用いた場合、ヒートサイクルによる被着材の膨張、収縮に追従できず、シール材が破損して内部流体の漏れの原因となる。本発明は上記の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を目的を達成するため鋭意研究した結果、(A)末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添されたポリブタジエンである重合体と、(B)飽和脂肪族エラストマーと、(C)光重合開始剤の(A)〜(C)を主成分とする光硬化性組成物により、あるいは、前記(A)〜(C)の組成物に、(D)炭素数5以上の鎖状脂肪族または脂環式単官能(メタ)アクリレートをさらに添加した(A)〜(D)を主成分とする光硬化性組成物により課題を解決した。
【0006】
本発明における末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添(水素化)されたポリブタジエン骨格を持つ重合体(A)は下記式で表される。
【化1】


(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、RおよびRはそれぞれ独立して単なる連結基、酸素原子または炭素数1〜16の置換、非置換の二価の有機基を表す。x:y=0〜100:100〜0、nは15〜150である。)
【0007】
本発明における飽和脂肪族エラストマー(B)は、本発明組成物の柔軟性・透湿度性・耐溶剤性の向上を目的として用いられるものである。この成分(B)としては、成分(A)に相溶し、組成物の硬化性、硬化物の物性等に問題を生じないもので、常温にてゴム弾性を示すものが好ましく、ポリブタジエンやポリイソブチレン等が挙げられる。また添加量は成分(A)に対して20〜80重量部の割合で添加することが好ましい。20重量部未満では十分な耐溶剤性を得ることが困難であり、また80重量部を超えると硬化後に成分(A)と成分(B)が分離や、著しい透湿性の低下となる。
【0008】
本発明で用いられる光重合開始剤(C)は、化学構造(分子結合エネルギー)の差により、分子内開裂型(P1型)と水素引き抜き型(P2型)に分類される。P1型の具体例としては、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン類、アシルフォシフィンオキサイド類、チタノセン化合物等が挙げられる。また、P2型の具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイルベンゾイックアシッド、ベンゾイルベンゾイックアシッドメチルエーテル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−メチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は1種または2種以上を用いることができ、P1型同士、P2型同士あるいはP1型とP2型を併用しても良い。また、本発明の光硬化性組成物は、0.5〜5重量%の割合で含有していることが好ましい。
【0009】
本発明における鎖状脂肪族および脂環式単官能(メタ)アクリレートモノマー(D)は、脂肪族鎖部分の直鎖の炭素数が5〜20のものが好ましく、8〜16のものがより好ましい。また本発明に用いる単官能(メタ)アクリレートには水酸基やアミノ基などの極性を持った構造は適さない。極性基を持った(メタ)アクリレートを添加すると本発明成分(B)との相溶性が著しく低下するだけでなく、相溶性が得られたとしても耐溶剤性が低下する。鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、具体的には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート等が例示される。また本発明で使用する脂環式(メタ)アクリレート成分の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明において(D)成分は必須成分ではないが、添加することによって表面硬化性が向上したり、耐溶剤性や湿度バリア性をさらに向上する効果がある。その場合その添加量は成分(A)に対して80重量部以下の割合で添加することが好ましい(より好ましくは20〜60重量部である)。80重量部を超えると硬化物の柔軟性は著しく損ねてしまう。
【0010】
本発明の光硬化性組成物には、本発明樹脂組成物の特性を損なわない範囲において他の添加剤を適量配合しても良い。他の添加剤としては、増感剤、顔料、染料などの着色剤、重合禁止剤、顔剤、消泡剤、カップリング剤、有機や無機充填剤等が例示される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシール剤組成物は、耐溶剤性、透湿バリア性、柔軟性、耐衝撃性を兼ね備えた硬化物を与えるもので、請求項1に記載される発明においては張り合わせ用途におけるシール剤へ用いた場合、ヒートサイクルによる被着材の膨張、収縮に追従でき、接着界面に生じる応力を吸収、緩和することができる。また請求項6に記載される発明においては、上述の請求項1記載の発明と類似用途への応用が可能であり、さらには硬化時における表面タック性の低減性から、CIPGや封止剤表面がオープンとなる部位への使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。
【実施例】
【0013】
末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添されたポリブタジエン骨格を持つ重合体(A)としてTEAI1000(日本曹達社製)、SPBDA(大坂有機社製)、また、成分(A)の比較として、末端に(メタ)アクリル基を有するポリブタジエン骨格を持つ重合体(成分(A)の未水添物、以下TEA1000:日本曹達社製)、UE8200(大日本インキ社製エポキシアクリレート)、UF8001(共栄社化学社製ウレタンアクリレート)、飽和脂肪族エラストマー(B)として水添ポリブタジエン(BI2000:日本曹達社製)、ポリイソブチレン(以下G1000、G3000:BASFジャパン社製、EP600A:鐘淵化学社製)、成分(C)の比較として未水添ポリブタジエン(以下BI2000:日本曹達社製)、ポリイソプレン(以下LIR−30:クラレ社製)、光重合開始剤(C)としてイルガキュア184(以下、#184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)炭素数が5以上の鎖状脂肪族および脂環式単官能(メタ)アクリレート成分(D)としてイソボロニルアクリレート(以下IBXA)、イソノニルアクリレート(以下INA)、ラウリルアクリレート(以下LA)、成分(B)の比較としてn−ブチルアクリレート(以下n−BA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下HEMA)、N、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下DMMA)を、それぞれ表1〜3(表中に記載の配合量は重量部を意味する。)に示す通りに配合し、ミキサーを用いて50℃で1時間攪拌して各組成物を得た。得られた各組成物を次に示す各試験方法に従い評価し、その結果を表1〜3に併せて記載した。
【0014】
[相溶性試験]
相溶性の確認は実施例および比較例に基づいた各組成物を50mLガラス瓶に約20g入れ、25℃にて24時間放置後の分離状態を目視にて確認し、分離なしを○、分離ありを×として判定した。
【0015】
[硬さ試験]
樹脂硬さは実施例および比較例に基づいた各組成物約2gを25φのポリキャップに入れ、紫外線を3000mJ/cm照射して硬化させ、硬度計(デュロメーター タイプA)にて任意5点測定しその値の平均とした。目標値は50以下とした。
【0016】
[耐溶剤性試験]
実施例および比較例に基づいた各組成物約2gを25φのポリキャップに入れ、紫外線を3000mJ/cm照射して硬化させ、アセトニトリルに先の硬化物を重量測定後に浸漬させた(条件:60℃×96時間)。その後、硬化物を取り出し、表面を軽くワイプして重量を測定し、浸漬前との重量変化率を求めた。目標値は重量分率で±15%以下とした。
【0017】
[透湿度試験]
JIS Z 0208に基づき測定を行った(測定条件:60℃×95%RH)。測定膜の作成は、ポリフッ化エチレン製板上に樹脂をコーティングし(膜厚約100ミクロン)、紫外線を3000mJ/cm照射して硬化させたものを指定容器形状にカットし、塩化カルシウムを約1g容器に入れて養生させた。測定は24時間後の重量を基準値とし、その後経時で重量変化が飽和した時点を終点とした。目標値は80g/cm2・24hとした。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
[実施例1〜10、比較例1〜4]
表1、2によれば、末端に(メタ)アクリル基を有する重合体の主鎖が未水添ポリブタジエンの場合には、本発明の特徴である耐溶剤性と透湿度が水添ポリブタジエンと比較していずれも十分な結果は得られない。一方、重合体主鎖がウレタンアクリレートやエポキシアクリレートの場合は成分(B)との相溶性が悪くなる。飽和脂肪族エラストマー成分が少ないと耐溶剤性が低下し、また多すぎると透湿性が低下する。また、飽和脂肪族エラストマーの主鎖が、炭素数5の繰り返し単位から構成されるポリイソプレンでは相溶性が悪くなる。
【0021】
【表3】

【0022】
[実施例3、12〜17、比較例5〜8]
表3によれば、炭素数が5以上の鎖状脂肪族または脂環式単官能(メタ)アクリレート成分を成分(A)に対して80重量部以上添加すると、耐溶剤性および透湿性は優れているが柔軟性が得られない。また、炭素数が5未満の(メタ)アクリレート成分を添加すると、樹脂の相溶性は悪くなり、透湿性も低下する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のシール剤組成物は、耐溶剤性、透湿バリア性、柔軟性、耐衝撃性を兼ね備えた硬化物を与えるもので、特に、耐溶剤性、透湿バリア性が要求される液晶表示素子、有機EL素子、色素増感型太陽電池、電子ペーパー、リチウムイオン電池、ポリアセン電池、オキシライド電池、キャパシタ、燃料電池などのシール材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添されたポリブタジエンである重合体
(B)飽和脂肪族エラストマー
(C)光重合開始剤
上記(A)〜(C)を主成分とする光硬化性組成物。
【請求項2】
(A)成分100重量部に対し、(B)成分20〜80重量部、(C)成分0.5〜5重量部である請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
(A)成分の重合体が下記式で示される請求項1に記載の光硬化性組成物。
【化1】


(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、RおよびRはそれぞれ独立して単なる連結基、酸素原子または炭素数1〜16の置換、非置換の二価の有機基を表す。x:y=0〜100:100〜0、nは15〜150である。)
【請求項4】
(B)成分の飽和脂肪族エラストマーが、炭素数4からなる繰り返し単位を主鎖に持つ重合体である請求項1、2および3に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
(B)成分の飽和脂肪族エラストマーが、ポリブタジエンおよび/またはポリイソブチレンである請求項1、2、3および4に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
(A)末端に(メタ)アクリル基を有し主骨格を水添されたポリブタジエンである重合体
(B)飽和脂肪族エラストマー
(C)光重合開始剤
(D)炭素数が5以上の鎖状脂肪族または脂環式単官能(メタ)アクリレート
上記(A)〜(D)を主成分とする光硬化性組成物。
【請求項7】
(A)成分100重量部に対し、(B)成分20〜80重量部、(C)成分0.5〜5重量部、(D)成分80重量部以下である請求項6に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
(A)成分の重合体が下記式で示される請求項6に記載の光硬化性組成物。
【化1】


(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、RおよびRはそれぞれ独立して単なる連結基、酸素原子または炭素数1〜16の置換、非置換の二価の有機基を表す。x:y=0〜100:100〜0、nは15〜150である。)
【請求項9】
(B)成分の飽和脂肪族エラストマーが、炭素数4からなる繰り返し単位を主鎖に持つ重合体である請求項6、7および8に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
(B)成分の飽和脂肪族エラストマーが、ポリブタジエンおよび/またはポリイソブチレンから選ばれる重合体である請求項6、7、8および9に記載の光硬化性組成物。

【公開番号】特開2006−8819(P2006−8819A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187360(P2004−187360)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】