説明

光硬化性防湿コート剤組成物

【課題】優れた防湿性を有し、難接着材質への密着性、接着性に優れた光硬化しうる光硬化性防湿コート剤組成物に関する。
【解決手段】
(a)無水マレイン酸変性のSEBS共重合体、(b)熱可塑性エラストマー、(c)炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレート、(d)光開始剤、(e)充填材からなることを特徴とする光硬化性防湿コート剤組成物。(a)成分と(b)成分の配合比は(a):(b)=1:3〜3:1が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性の防湿コート剤組成物に関するものであり、特にコーティングされる被着体が難接着材質であっても密着性、接着性がよく湿分を透過させず、かつ、難接着材質だけでなく金属等にも密着性、接着性が良い防湿コート剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子や、電池など内部に湿分(水分)が透過するとその性能が低下するものが数多く存在する。それらは湿分を透過させないように有機樹脂などでコートティングすることが提案されている。そのコート剤として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が使用されている。その中でも(メタ)アクリレートを主成分とした光硬化性(メタ)アクリレート樹脂は施工が容易であり有用である。
【0003】
光硬化性を有する(メタ)アクリレート樹脂は、その多種の構造より柔軟な硬化物から高硬度を有する硬化物を有するものまで、さまざまな性能を有し、現在産業的利用価値の非常に高い物質であり、様々な組成物が提案され、商品としても多種販売されている。しかしながら、(メタ)アクリレート樹脂は難接着物といわれるシリコーンゴムやポリオレフィン系の難接着材質に対して密着性、接着性が悪い。
【0004】
従来、(メタ)アクリレート樹脂を難接着材質に密着、接着する際は、予め、被着体である難接着材質の被着面にコロナ放電やプラズマなどの熱的、電気的処理を施して祖面化し接触表面積を増加させたり、投錨効果を付与させる方法や、難接着材質の被着面に強酸などの化学的処理で被着体表面に極性基を付与させるという方法が提案されている。また、難接着材質の表面を物理的、化学的に改質するのではなく、特許文献1〜2に開示されているようにプライマーをあらかじめ塗布することにより難接着材質への密着性、接着性を向上させる方法も開示されている。
【特許文献1】特開平6−136163号公報
【特許文献2】特開平7−62128号公報
【0005】
しかしながら、上述の方法は接着工程に先立って予め表面処理工程やプライマー塗布工程が必要であり作業が繁雑である。さらに、電気的処理を施すにあたっては、大型で高価な設備が必要であり、コストが大きくかかるという問題があった。また化学処理により極性基を付与するにあたっては処理時間が長くなる、安全性が低い、廃液の処理などの問題があった。
【0006】
(メタ)アクリレート樹脂以外にも防湿コート剤としてエポキシ樹脂やシリコーン樹脂が使用されているが、どれも、難接着物質への密着性、接着性が悪いものであった。密着性、接着性が悪いと接着界面からの湿気を遮断することができずに防湿性に対する信頼性が低い。よって、難接着材質への防湿性能は不十分なものであった。また、密着性、接着性の不足だけでなく、樹脂そのものの透湿性により、被コーティング物質に湿分が透過してしまうという問題もある。従来の組成物では湿分の透過性が高く、防湿コート剤として用いることは不十分なものであった。
【0007】
一方、光硬化性樹脂組成物で熱可塑性エラストマーを含有するものはすでに公知である。たとえば、特許文献3、4には(メタ)アクリレートに熱可塑性エラストマーと光開始剤を添加する接着剤または充填用組成物が開示されている。特許文献3は可撓性を持たせることを主の目的としており、難接着物質へ密着性を向上させるという課題は述べられていない。また、特許文献4はICカードなどの貼合せおよびICチップの充填に適した組成物であり、ICカードの基材の材質としてポリエステル系樹脂が例示されている。しかし、シリコーン樹脂やポリエチレン樹脂などの難接着材質に対して、密着性、接着性は満足できるものではなかった。
【特許文献3】特開平7−90228号公報
【特許文献4】特開2002−60407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために鋭意検討したものであり、被コーティング部材を表面処理などの煩雑な工程を必要とせず優れた密着性、接着性を示し、優れた防湿性能を示すコート剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は(a)無水マレイン酸変性のSEBS共重合体、(b)熱可塑性エラストマー、(c)炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレート、(d)光開始剤、(e)充填材からなることを特徴とする光硬化性防湿コート剤組成物である。
【0010】
以下、本発明を具体的に詳述する。本発明に用いられる(a)成分は無水マレイン酸変性のSEBS共重合体である。(a)成分はスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体の構造において、中間ブロックのEBを無水マレイン酸で変性したトリブロックコポリマーである。このような成分はクレイトンFG 1901X、クレイトンFG1924X(シェル化学社製)として市販されている。
【0011】
本発明の(b)成分は熱可塑性エラストマーである。本成分は以下のものが例示される。スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SB)、スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンーエチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、エチレン−酢酸ビニルブロック共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレートブロック共重合体(EEA)等があげられる。この中で特に好ましい例としては、SEBS、SIBSがあげられる。これらの熱可塑性エラストマーは単独で使用することはもちろん、複合して使用することもできる。無水マレイン酸変性スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)も分類的には(b)成分に分類されるが、(b)成分からは除外される。すなわち、(a)成分の無水マレイン酸変性SEBS共重合体と(a)成分でない熱可塑性エラストマーが共存しなければならない。
【0012】
(b)成分の添加量は(a)成分との成分比で(a):(b)=1:3〜3:1程度である。
【0013】
本発明の(c)成分は炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレートである。(c)成分は、炭素数が18〜25の鎖状脂肪族にアクリロイル基またはメタクリロイル基を1つ含有するものであり、炭素数はあまり大きいと組成物の粘度が高くなり、反応性が低下するので、炭素数は25までが使用できる。炭素数が17以下だと難接着材質に対する接着性が低くなり、防湿コート剤としての信頼性が低下する。また、鎖状脂肪族部分はすべて直鎖でなくても側鎖を有する構造でもよい。このような成分としてn−ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデカシル(メタ)アクリレート、イソノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ペンタコシル(メタ)アクリレート、3−オクチルデシル−1−(メタ)アクリレート等が例示される。
【0014】
本発明における(c)成分の添加量は(a)成分と(b)成分の合計量で、(c)成分:(a)+(b)成分=40:60〜95:5の範囲が好ましい。
【0015】
さらに、本発明の希釈剤として本発明の目的を損なわない範囲で(メタ)アクリルモノマーを用いることもできる。具体的な例として2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フノキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等があげられる。
【0016】
本発明の(d)成分の光開始剤は、特に限定されず、公知のものでよい。例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、塩素化アセトフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンジル、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾイン類、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロパン、ヒドラゾン等のアゾ化合物、 ベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド等の有機パーオキサイド類、ジフェニルジサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジベンゾイルジサルファイド等のジフェニルジサルファイド類等が挙げられる。また、イルガキュアー184(チバガイギー製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)等の市販の光開始剤も使用できる。またこれらの光開始剤は単独で使用することはもちろん、複合して使用することもできる。(d)成分の添加量は(a)(b)(c)成分の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲であり、さらには0.1〜5重量部であることが好ましい。
【0017】
本発明(e)成分は充填剤であり、以下にあげられる成分である。ポリスチレン粉,シリカ粉、アルミナ粉、ガラス粉、タルク粉、炭酸カルシウム粉、クレー、マイカがあげられるが、これらの充填剤は単独で使用することはもちろん、複合して使用することもできる。この中で特に好ましい例としては、シリカ粉、ガラス粉があげられる。(e)成分の添加量は(a)(b)(c)成分の合計量100重量部に対して0.1〜70重量部であり、好ましくは5〜50重量部である。
【0018】
また、本発明の組成物に、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を添加しても良い。例えばフェノール系やリン系,チオール系等の酸化防止剤,さらに、本発明の組成物には防黴剤、難燃剤、可塑剤、チクソ性付与剤、接着付与剤、硬化促進剤、顔料などを添加することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光硬化性の防湿コート剤組成物は難接着材質に対して優れた密着性、接着性を示し、さらに防湿性に優れるものである。特にシリコーンゴム、EPDMゴム、軟質塩化ビニル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンサルファイト(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)などの難接着材質に対して優れた密着性、接着性が発現する。また、難接着物質だけでなく、金属に対しても優れた密着性、接着性を発現する。よって、EL素子や電池のパッキンなどの防湿を必要とする箇所の防湿コート剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれら実施例によって権利範囲が制限されるものではない。
【0021】
表1の記載の通りコート剤組成物を配合した。ただし、表中、光開始剤は2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンを使用した。
【0022】
これら各組成物を用いて難接着性材料と金属の接着強度を測定した。試験は次のようにして行った。縦15cm、横2.5cm、厚み2.0mmのポリエチレン(PE)試験片と縦15cm、横2.5cm、厚み1.6mmのSUS403を使用し、この試験片に接着剤を塗布し、接着層が縦1.0cm,横2.5cmになるように試験片を貼り合わせ、PE側から照射量3000mJ/cm2の紫外線を照射して組成物を硬化させ、試験片を接着した。接着された試験片を引っ張り試験機(ORIENTEC)を用いて引張せん断接着強さ試験を行い、PEとSUS430に対する接着性の結果を表1に示した。
【0023】
また、JIS−Z−0208に従い、カップ法を用いて40℃95%の環境下で各組成物の透湿性試験を行いた。その結果を表1に示した。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の光硬化性防湿コート剤組成物は湿気を遮断すべき物質、すなわち、EL素子、電池、電子部品などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)無水マレイン酸変性のSEBS共重合体、(b)熱可塑性エラストマー、(c)炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレート、(d)光開始剤、(e)充填材からなることを特徴とする光硬化性防湿コート剤組成物。

【公開番号】特開2007−56087(P2007−56087A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240759(P2005−240759)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】