説明

光線路測定装置及び光線路測定方法

【課題】非常に小さな半径で曲げても曲げ損失が出ないHAF等の新種類の光ファイバに対しても曲げ部を遠隔から検出することが可能な光線路測定装置及び光線路測定方法を提供する。
【解決手段】レーザ光源からの出力光の偏波状態を偏波制御機能装置13により変化させ、変化後の出力信号を被測定光線路20へ出力する。光線路測定装置10は、被測定光線路20からの後方散乱光を受け取り、光周波数リフレクトメトリ測定方法(OFDR)を使用してSOP分布情報を測定する。そして、このSOP分布情報に基づいて被測定光線路20における複屈折率分布を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線路における光ファイバの曲げ部を遠隔で検出する光線路測定装置及び光線路測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは小さな半径で曲げられた場合に折損する恐れがあり、また長期的に曲げられた状態で放置されると最終的に折損してしまい、光信号を伝送できなくなる。そこで、光線路の信頼性を確保するために、光ファイバが曲げられた状態の箇所(以下、曲げ部と称する)を検出する技術が必要となる。従来の方法として、光時間領域リフレクトメトリ測定方法(OTDR)が知られている(例えば、非特許文献1)。このOTDRによれば、光線路の後方散乱光強度の長手方向分布を測定することが可能である。このため、OTDRを採用した光線路測定装置によれば、光ファイバの曲げにより生じる曲げ損失に基づいて散乱光の強度が落ちる特性を利用して、光ファイバの曲げ部を検知することが可能である。
【0003】
しかしながら、近年実用化された、ホールアシストファイバ(HAF)(例えば、非特許文献2参照)等は、非常に小さい半径で曲げても曲げ損失が発生しない。そのため、このような新種類の光ファイバに対しては、OTDRを採用した光線路測定装置では光ファイバの曲げ部を検出することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. K. Barnoski, M. D. Rourke, S. M. Jensen, and R. T. Melville, "Optical time domain reflectometer," Applied Optics, 16, 2375-2379 (1977)
【非特許文献2】K. Nakajima, K. Hogari, Jian Zhou, K. Tajima, and L. Sankawa, "Hole-assisted fiber design for small bending and splice losses," IEEE Photonics Technology Letters, 15, 1737-1739 (2003)
【非特許文献3】R. M. Jopson, L. E. Nelson, and H. Kogelnik, "Measurement of second-order polarization-mode dispersion vectors in optical fibers," IEEE Photonics Technology Letters, 11, 1153-1155 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の光線路測定装置では、HAF等に対しては曲げ部を検出することができないという問題がある。
【0006】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、非常に小さな半径で曲げても曲げ損失が生じないHAF等の新種類の光ファイバに対しても曲げ部を遠隔から検出することが可能な光線路測定装置及び光線路測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る光線路測定装置は、光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置において、周波数を線形的に掃引したレーザ光を前記光線路へ出力するレーザ光源と、前記レーザ光が前記光線路で散乱されて返ってきた後方散乱光におけるp波を検出するp波検出部と、前記後方散乱光におけるs波を検出するs波検出部と、前記p波と前記s波とに基づいて、前記光線路の曲げにより生じた複屈折率分布を測定することで、前記光線路の曲げ部を検出する信号処理部とを具備する。
【0008】
上記構成の光線路測定装置は、光線路からの後方散乱光におけるp波とs波とから、複屈折率分布を測定するようにしている。光線路を小さい半径で曲げた場合、光線路に対して複屈折率が付与される。そして、光線路を通過する光の偏波状態は複屈折率に影響される。このため、後方散乱光のp波とs波とから測定された光線路の複屈折率分布から、光線路における曲げ部の位置を検出することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る光線路測定装置は、光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置において、周波数を線形的に掃引したレーザ光を出力するレーザ光源と、前記レーザ光を第1の偏波状態の第1の出力光、又は、第2の偏波状態の第2の出力光に変換し、前記光線路へ出力する偏波制御装置と、前記第1の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第1の後方散乱光における第1のp波、又は、前記第2の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第2の後方散乱光における第2のp波を検出するp波検出部と、前記第1の後方散乱光における第1のs波、又は、前記第2の後方散乱光における第2のs波を検出するs波検出部と、前記第1のp波と前記第1のs波とにより取得される第1の偏波状態分布情報と、前記第2のp波と前記第2のs波とにより取得される第2の偏波状態分布情報とから第1の複屈折率ベクトルを算出し、この第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第1の複屈折率分布を計算することで、前記光線路の曲げ部を検出する信号処理部とを具備する。
【0010】
上記構成の光線路測定装置は、2種類の異なった偏波状態を持つ光を光線路へ出力し、光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(OFDR)を用いて、それぞれの偏波状態における後方散乱光の偏波状態分布情報を取得する。そして、これらの偏波状態分布情報から複屈折率ベクトルを算出し、この複屈折率ベクトルに基づいて複屈折率分布を計算するようにしている。これにより、光線路における曲げ部の位置を、ミリオーダーの分解能で検出することが可能となる。
【0011】
また、前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、前記信号処理部は、前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、前記第1の複屈折率ベクトルと、前記第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする。
【0012】
これにより、第1の複屈折率ベクトル及び第2の複屈折率ベクトルに含まれるゴーストピークが除去されるため、より高精度に曲げ部を検出することが可能となる。
【0013】
また、前記信号処理部は、前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、この移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルに基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする。
【0014】
これにより、空間分解能は落ちることになるが、雑音フロアが低減されるため、センチオーダーの曲げ半径の曲げ部を検出することが可能となる。
【0015】
また、前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、前記信号処理部は、前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記第2の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルと、前記移動平均を取った第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする。
【0016】
これにより、第1の複屈折率ベクトル及び第2の複屈折率ベクトルに含まれるゴーストピークが除去され、かつ、雑音フロアが低減されるため、センチオーダーの曲げ半径の曲げ部を精度良く検出することが可能となる。
【0017】
また、前記信号処理部は、前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、この移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第2の複屈折率分布を計算し、前記第1の複屈折率分布と第2の複屈折率分布とから前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする。
【0018】
これにより、ミリオーダーの曲げ部の検出と、センチオーダーの曲げ部の検出とを行うことが可能となるため、検出可能な曲げ半径の範囲が広がることとなる。
【0019】
また、前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、前記信号処理部は、前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、前記第1の複屈折率ベクトルと、前記第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算し、前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記第2の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルと、前記移動平均を取った第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて、前記光線路における第2の複屈折率分布を計算し、前記第1の複屈折率分布と第2の複屈折率分布とから前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする。
【0020】
これにより、ミリオーダーの曲げ部の検出と、センチオーダーの曲げ部の検出とを行うことが可能となるため、検出可能な曲げ半径の範囲が広がることとなる。また、ゴーストピークが除去されるため、より精度の高い検出が可能となる。
【0021】
また、本発明に係る光線路測定方法は、光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置で用いられる光線路測定方法において、周波数を線形的に掃引したレーザ光を第1の偏波状態の第1の出力光、又は、第2の偏波状態の第2の出力光に変換し、前記第1の出力光又は前記第2の出力光を前記光線路へ出力し、前記第1の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第1の後方散乱光における第1のp波、又は、前記第2の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第2の後方散乱光における第2のp波を検出し、前記第1の後方散乱光における第1のs波、又は、前記第2の後方散乱光における第2のs波を検出し、前記第1のp波と前記第1のs波とにより取得される第1の偏波状態分布情報と、前記第2のp波と前記第2のs波とにより取得される第2の偏波状態分布情報とから第1の複屈折率ベクトルを算出し、前記第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第1の複屈折率分布を計算することで、前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする。
【0022】
上記構成の光線路測定方法は、2種類の異なった偏波状態を持つ光を光線路へ出力し、光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(OFDR)を用いて、それぞれの偏波状態における後方散乱光の偏波状態分布情報を取得する。そして、これらの偏波状態分布情報から複屈折率ベクトルを算出し、この複屈折率ベクトルに基づいて複屈折率分布を計算するようにしている。これにより、光線路における曲げ部の位置を、ミリオーダーの分解能で検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、非常に小さな半径で曲げても曲げ損失が出ないHAF等の新種類の光ファイバに対しても曲げ部を遠隔から検出することが可能な光線路測定装置及び光線路測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光線路測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の信号処理部により、第1のSOP分布情報と第2のSOP分布情報とに基づいて算出された複屈折率ベクトルの絶対値の一例を示す図である。
【図3】図1の信号処理部により、第3のSOP分布情報と第4のSOP分布情報とに基づいて算出された複屈折率ベクトルの絶対値の一例を示す図である。
【図4】図1の信号処理部により、第5のSOP分布情報と第6のSOP分布情報とに基づいて算出された複屈折率ベクトルの絶対値の一例を示す図である。
【図5】図2〜図4の複屈折率ベクトルの絶対値に基づいてゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルの絶対値の例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係わる光線路測定装置の構成を示すブロック図である。
【図7】図2の結果に移動平均を施した際の複屈折率ベクトルの絶対値を示す図である。
【図8】図3の結果に移動平均を施した際の複屈折率ベクトルの絶対値を示す図である。
【図9】図4の結果に移動平均を施した際の複屈折率ベクトルの絶対値を示す図である。
【図10】図7〜図9の複屈折率ベクトルの絶対値に基づいてゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルの絶対値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明に係る光線路測定装置及び光線路測定方法を詳細に説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光線路測定装置10の構成を示すブロック図である。図1における光線路測定装置10は、光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(OFDR)を使用する。光線路測定装置10は、レーザ光源11、カプラ12、偏波制御機能装置13、サーキュレータ14、偏波コントローラ15、偏波ダイバーシティ構成16、バランスフォトディテクタ17,18、アナログ−デジタル(AD)変換器19,110及び信号処理部111を具備する。
【0027】
レーザ光源11は、光周波数を線形的に掃引したレーザ光をカプラ12へ出力する。カプラ12は、レーザ光源11からのレーザ光を2つに分岐し、一方を偏波制御機能装置13へ出力し、他方を偏波コントローラ15へ出力する。
【0028】
偏波制御機能装置13は、例えば、偏波コントローラ及び偏光子等から成り、カプラ12からの出力光を所定の偏波状態(SOP:State Of Polarization)に変換する。偏波制御機能装置13は、SOP変換後の出力光をサーキュレータ14を介して光ファイバ等の被測定光線路20へ出力する。偏波制御機能装置13からの出力光は、被測定光線路20内で散乱され、後方散乱光として出力される。この後方散乱光は、サーキュレータ14を介して偏波ダイバーシティ構成16へ出力される。
【0029】
偏波コントローラ15は、カプラ12からの出力光をローカル光に変換する。ここで、ローカル光とは、例えば、p方向の偏波(以下、p波と称する)とs方向の偏波(以下、s波と称する)との振幅比が1:1となるSOPを満たす光のことである。偏波コントローラ15は、このローカル光を偏波ダイバーシティ構成16へ出力する。
【0030】
偏波ダイバーシティ構成16は、サーキュレータ14からの後方散乱光と、偏波コントローラ15からのローカル光とを受信する。偏波ダイバーシティ構成16は、偏光ビームスプリッタを備えており、これらの光をp波とs波とに分離する。偏波ダイバーシティ構成16は、後方散乱光に基づくp波と、ローカル光に基づくp波とを干渉させ、干渉後の二つのp波をバランスフォトディテクタ17へ出力する。また、偏波ダイバーシティ構成16は、後方散乱光に基づくs波と、ローカル光に基づくs波とを干渉させ、干渉後の二つのs波をバランスフォトディテクタ18へ出力する。
【0031】
バランスフォトディテクタ17は、偏波ダイバーシティ構成16から二つのp波を受信し、干渉成分の大きさに相当する電気信号に変換してAD変換器19へ出力する。また、バランスフォトディテクタ18は、偏波ダイバーシティ構成16から二つのs波を受信し、干渉成分の大きさに相当する電気信号に変換してAD変換器110へ出力する。
【0032】
AD変換器19は、バランスフォトディテクタ17からの電気信号をデジタル信号に変換し、このデジタル信号を信号処理部111へ出力する。また、AD変換器110は、バランスフォトディテクタ18からの電気信号をデジタル信号に変換し、このデジタル信号を信号処理部111へ出力する。
【0033】
信号処理部111は、例えばPC(Personal Computer)から成り、AD変換器19,110からのデジタル信号に基づいて、SOP分布を測定する。信号処理部111は、このSOP分布に基づいて複屈折率ベクトルを算出する。そして、信号処理部111は、この複屈折率ベクトルを利用して複屈折率を計算し、この複屈折率の分布から被測定光線路20の曲げ部を検出する。
【0034】
次に、以上のように構成された光線路測定装置10における信号処理部111による曲げ部検出処理を詳細に説明する。
【0035】
まず、偏波制御機能装置13により、SOPベクトルI11(0)の出力光がサーキュレータ14を介して被測定光線路20へ出力される。信号処理部111は、このときのAD変換器19,110からのデジタル信号から、p波の振幅Ap(z)及びs波の振幅As(z)を分布的に測定すると共に、p波とs波との間の位相差Δφ(z)を分布的に測定する。なお、ここでzは、被測定光線路20の長手方向の座標を示す。
【0036】
信号処理部111は、振幅Ap(z)、振幅As(z)及び位相差Δφ(z)から式(1)を用いてSOP分布情報S11(z)を計算する。
【数1】

【0037】
SOP分布情報S11(z)のz依存性は、複屈折率ベクトルβ(z)により決定され、式(2)により示される。
【数2】

【0038】
ただし、複屈折率ベクトルβ(z)を求めるに当たって、SOP分布情報S11(z)だけでは、複屈折率ベクトルβ(z)の唯一な解を導出できない。そこで、偏波制御機能装置13を操作することにより、被測定光線路20への出力光のSOPベクトルをI11(0)と異なるI12(0)に調整する。そして、信号処理部111は、このときのAD変換器19,110からのデジタル信号から、SOP分布情報S12(z)を算出する。SOP分布情報S12(z)のz依存性も複屈折率ベクトルβ(z)により決定され、式(3)により示される。
【数3】

【0039】
式(2)と式(3)との両式により複屈折率ベクトルβ(z)の唯一の解が算出できる。複屈折率ベクトルβ(z)は、例えば、非特許文献3に記載の計算方法により算出する。
【0040】
まず、数学的に、ベクトルt(z),t(z),t’(z),t(z)を用意し、式(4)のように値を与える。
【数4】

【0041】
式(4)で、|t(z)|=1となるようにk(z)を選択する。そして、3×3の回転マトリックスR(z)を用意し、式(5)のように値を与える。
【数5】

【0042】
そして、マトリックスRΔ(z)を用意し、式(6)のように値を与える。
【数6】

【0043】
ここで、Δzは分解能であり、Tは転置行列を示す。また、φ、r、r、rを用意し、式(7)のように値を与える。
【数7】

【0044】
ここで、Trは、マトリクスのトレースを取る演算子である。複屈折率ベクトルβ(z)は、式(7)を用いて、式(8)のように示される。
【数8】

【0045】
図2は、SOP分布情報S11(z)とSOP分布情報S12(z)とに基づいて算出された複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値|β(z)|の一例を示す。図2において、横軸は被測定光線路20の距離である。ピークが現れた距離の位置には大きな複屈折率が存在するはずであるが、SOP分布情報S11(z),S12(z)の測定での雑音が大きい場合、大きな複屈折率が存在していなくてもピーク(以下、ゴーストピークと称する)が発生する可能性がある。
【0046】
光線路測定装置10は、このゴーストピークを以下の方法により除去する。
【0047】
まず、偏波制御機能装置13により、被測定光線路20への出力光のSOPベクトルをI11(0),I12(0)と異なったSOPベクトルI21(0),I22(0)に変更する。そして、信号処理部111により、SOPベクトルI21(0)の出力光によるSOP分布情報S21(z)と、SOPベクトルI22(0)の出力光によるSOP分布情報S22(z)とを測定する。信号処理部111は、このSOP分布情報S21(z),S22(z)に基づいて複屈折率ベクトルβ(z)を求める。
【0048】
信号処理部111は、このような測定をN回行うことにより、N個の複屈折率ベクトルβ(z),β(z),…,β(z)を求める。図3は複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値の例を示し、図4は複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値の例を示す。
【0049】
ところで、図2〜図4においては、図2〜図4において丸印を付した部分のように常時発生するピークもあるが、測定毎に発生したり発生しなかったりするピーク(ゴーストピーク)もある。これは、常時発生するピークは曲げによる複屈折率の変化によるものであるため、実際に存在しているのに対し、ゴーストピークは雑音による結果であるため、ランダム性を有することによる。この特性から、N個の複屈折率ベクトルβ(z),β(z),…,β(z)に式(9)を使用することで、ゴーストピークを除去する。
【数9】

【0050】
ここで、Minimal[]は最小の値を示す演算子であり、zは距離座標であり、Mは長手方向の総点数(測定距離を分解能で割った値)である。図5は、ゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値の例を示す。複屈折率B(z)は、ゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値を使用して、式(10)により算出される。
【数10】

【0051】
ここで、ωは測定光の角周波数である。式(10)により、複屈折率B(z)の大きい部位では、曲げ部が存在すると判断できる。
【0052】
以上のように、上記第1の実施形態に係る光線路測定装置10では、OFDRを使用してSOP分布情報を測定し、このSOP分布情報に基づいて被測定光線路20における複屈折率分布を算出するようにしている。これにより、光ファイバに曲げ損失が生じない場合であっても、曲げ部の有無を判断することが可能となる。また、OFDRは、1mm程度の高い空間分解能を有する。これにより、光線路測定装置10は、分解能1mmで曲げ部を検出することが可能となる。
【0053】
また、上記第1の実施形態では、偏波制御機能装置13により出力光のSOPを調整することで、複数の複屈折率ベクトルを算出する。そして、これらの複屈折率ベクトルに対して式(9)を用いることで、ゴーストピークを除去するようにしている。これにより、曲げ部の位置を正確に検出することが可能となる。
【0054】
したがって、本発明に係る光線路測定装置10は、非常に小さな半径で曲げても曲げ損失が出ないHAF等の新種類の光ファイバに対しても曲げ部を遠隔から検出することができる。
【0055】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係わる光線路測定装置30の構成を示すブロック図である。図6において図1と共通する部分には同じ符号を付して示す。図6における光線路測定装置30は、光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(OFDR)を使用し、曲げ半径が数cmの曲げ部を検出することを想定したものである。これは、第1の実施形態に記載の光線路測定装置10では、図2〜図5に示される雑音フロアの影響で、曲げ半径が2〜3cm以上である曲げ部を正確に検出できないためである。
【0056】
第1の実施形態で算出された複屈折率ベクトルβ(z)(n=1〜N)は、光ファイバの曲げ部の円周長にわたり方向性が殆ど変わらないが、それ以外の箇所では大きさ及び方向性がランダムに変化するという特性がある。信号処理部31は、複屈折率ベクトルβ(z)のこのような特性に基づいて、第1の実施形態と同様の手法で算出した複屈折率ベクトルβ(z)に対して移動平均法を使用することで、信号の大きさを保持したまま雑音フロアを低減する。
【0057】
以下では、光線路測定装置30における信号処理部31による曲げ部検出処理を詳細に説明する。
【0058】
ここで、移動平均の回数は、分解能と光ファイバの曲げ部の曲げ半径との関係から制限される。これは、移動平均法を使用することにより、OFDRの空間分解能を落とすことになるためである。つまり、分解能が光ファイバの曲げ部の円周長よりも小さい場合は測定に影響はないが、分解能が曲げ部の円周長よりも大きくなると測定誤差が大きくなるためである。移動平均の回数Lは、曲げ部の曲げ半径がRである場合、式(11)に制限される。
【数11】

【0059】
複屈折率ベクトルβ(z)は、移動平均の回数Lを用いて式(12)で与えられる。
【数12】

【0060】
図7〜図9は、図2〜図4の結果にそれぞれ移動平均を施した際の複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値を示す。ここで、図2〜図4における例では、被測定光線路20の4m付近に存在する曲げ部の曲げ半径よりも、5m付近に存在する曲げ部の曲げ半径の方が大きく設定されている。このため、4m付近での曲げ部に対しては、式(11)に示す条件が満たされていない。これにより、図7〜図9では、雑音フロアが低減すると共に、4m付近のピーク値が、図2〜図4における4m付近のピーク値よりも小さくなっている。一方、5m付近での曲げ部に対しては、式(11)に示す条件が満たされているため、図7〜図9における5m付近のピーク値と、図2〜図4における5m付近のピーク値とは、殆ど同一となる。
【0061】
次に、ゴーストピークを除去するために、式(13)を用いる。
【数13】

【0062】
図10は、ゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値の例を示す。雑音フロアが低減されたため、距離6.2m付近に存在しているピーク信号が検出可能となる。複屈折率B(z)は、ゴーストピークを除去した複屈折率ベクトルβ(z)の絶対値を使用して、式(14)により算出される。
【数14】

【0063】
ここで、(L・Δz)は分解能であり、ωは測定光の角周波数である。式(14)により、複屈折率の大きい部位では、曲げ部が存在すると判断できる。
【0064】
以上のように、上記第2の実施形態に係る光線路測定装置30では、算出した複屈折率ベクトルβ(z)に対して移動平均法を使用することにより、信号の大きさを維持したまま雑音フロアを低減させるようにしている。これにより、光線路測定装置30は、空間分解能は低下するが、第1の実施形態における光線路測定装置10と比較して、大きな曲げ半径の曲げ部を検出することが可能となる。例えば、移動平均の回数LがL=10である場合には、空間分解能は約1cmとなるが、図10によれば、雑音フロアが低減することにより、曲げ半径約10cmまでの曲げ部を検出することが可能となる。
【0065】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、第1の実施形態では、約1mm〜2,3cmの曲げ半径の曲げ部を検出可能な光線路測定装置10について説明されており、第2の実施形態では、約1cm〜10cmの曲げ半径の曲げ部を検出可能である光線路測定装置30について説明されている。しかしながら、これらの処理は、必ずしも独立して行なわれる必要はない。つまり、例えば、第1の実施形態における処理の後に、第2の実施形態における処理を行い、検出結果を合成するようにしても良い。これより、検出可能な曲げ半径が広がり、1mm〜10cmの曲げ半径の曲げ部を測定することが可能となる。
【0066】
さらに、この発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10,30…光線路測定装置
11…レーザ光源
12…カプラ
13…偏波制御機能装置
14…サーキュレータ
15…偏波コントローラ
16…偏波ダイバーシティ構成
17,18…バランスフォトディテクタ
19,110…AD変換器
111,31…信号処理部
20…被測定光線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置において、
周波数を線形的に掃引したレーザ光を前記光線路へ出力するレーザ光源と、
前記レーザ光が前記光線路で散乱されて返ってきた後方散乱光におけるp波を検出するp波検出部と、
前記後方散乱光におけるs波を検出するs波検出部と、
前記p波と前記s波とに基づいて、前記光線路の曲げにより生じた複屈折率分布を測定することで、前記光線路の曲げ部を検出する信号処理部と
を具備することを特徴とする光線路測定装置。
【請求項2】
光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置において、
周波数を線形的に掃引したレーザ光を出力するレーザ光源と、
前記レーザ光を第1の偏波状態の第1の出力光、又は、第2の偏波状態の第2の出力光に変換し、前記光線路へ出力する偏波制御装置と、
前記第1の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第1の後方散乱光における第1のp波、又は、前記第2の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第2の後方散乱光における第2のp波を検出するp波検出部と、
前記第1の後方散乱光における第1のs波、又は、前記第2の後方散乱光における第2のs波を検出するs波検出部と、
前記第1のp波と前記第1のs波とにより取得される第1の偏波状態分布情報と、前記第2のp波と前記第2のs波とにより取得される第2の偏波状態分布情報とから第1の複屈折率ベクトルを算出し、この第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第1の複屈折率分布を計算することで、前記光線路の曲げ部を検出する信号処理部と
を具備することを特徴とする光線路測定装置。
【請求項3】
前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、
前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、
前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、
前記信号処理部は、
前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、
前記第1の複屈折率ベクトルと、前記第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする請求項2記載の光線路測定装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、この移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルに基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする請求項2記載の光線路測定装置。
【請求項5】
前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、
前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、
前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、
前記信号処理部は、
前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、
前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記第2の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、
前記移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルと、前記移動平均を取った第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算することを特徴とする請求項2記載の光線路測定装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、
前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、この移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第2の複屈折率分布を計算し、
前記第1の複屈折率分布と第2の複屈折率分布とから前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする請求項2記載の光線路測定装置。
【請求項7】
前記偏波制御装置は、前記レーザ光を前記第1及び第2の偏波状態とは異なる、第3の偏波状態の第3の出力光、又は、第4の偏波状態の第4の出力光に変換して前記光線路へ出力し、
前記p波検出部は、前記第3の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第3の後方散乱光における第3のp波、又は、前記第4の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第4の後方散乱光における第4のp波を検出し、
前記s波検出部は、前記第3の後方散乱光における第3のs波、又は、前記第4の後方散乱光における第4のs波を検出し、
前記信号処理部は、
前記第3のp波と前記第3のs波とにより取得される第3の偏波状態分布情報と、前記第4のp波と前記第4のs波とにより取得される第4の偏波状態分布情報とから第2の複屈折率ベクトルを算出し、
前記第1の複屈折率ベクトルと、前記第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて前記第1の複屈折率分布を計算し、
前記第1の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、前記第2の複屈折率ベクトルの移動平均を取り、
前記移動平均を取った第1の複屈折率ベクトルと、前記移動平均を取った第2の複屈折率ベクトルとにおける最小値に基づいて、前記光線路における第2の複屈折率分布を計算し、
前記第1の複屈折率分布と第2の複屈折率分布とから前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする請求項2記載の光線路測定装置。
【請求項8】
光線路の曲げ部を検出する光線路測定装置で用いられる光線路測定方法において、
周波数を線形的に掃引したレーザ光を第1の偏波状態の第1の出力光、又は、第2の偏波状態の第2の出力光に変換し、
前記第1の出力光又は前記第2の出力光を前記光線路へ出力し、
前記第1の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第1の後方散乱光における第1のp波、又は、前記第2の出力光が前記光線路で散乱されて返ってきた第2の後方散乱光における第2のp波を検出し、
前記第1の後方散乱光における第1のs波、又は、前記第2の後方散乱光における第2のs波を検出し、
前記第1のp波と前記第1のs波とにより取得される第1の偏波状態分布情報と、前記第2のp波と前記第2のs波とにより取得される第2の偏波状態分布情報とから第1の複屈折率ベクトルを算出し、
前記第1の複屈折率ベクトルに基づいて、前記光線路における第1の複屈折率分布を計算することで、前記光線路の曲げ部を検出することを特徴とする光線路測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−158330(P2011−158330A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19315(P2010−19315)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】