説明

光触媒塗膜の形成方法および光触媒塗膜

【課題】 光触媒塗料を上塗り容易とし、光触媒作用によっても劣化せず、紫外線によっても劣化しない光触媒塗膜の形成方法を提供し、基材および下塗り層が劣化せず長寿命となる光触媒塗膜を提供することである。
【解決手段】 光触媒作用によって劣化せず、紫外線によっても劣化しない耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層に、光触媒層を塗布する光触媒塗膜の形成方法とし、該光触媒塗膜の形成方法によって得られる光触媒塗膜とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗膜の形成方法および光触媒塗膜に関し、特に、光触媒塗料を上塗り容易とすると共に光触媒作用によっても、紫外線によっても劣化しない光触媒塗膜の形成方法および光触媒塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐汚染性や抗菌性に優れた光触媒機能を有する金属酸化物を配合した光触媒塗料が知られている。
【0003】
また、光触媒機能は、激烈な酸化還元反応を励起して有機物を分解する機能を有するために、塗料中の樹脂成分自体が光触媒作用によって劣化しないものが好ましい。さらに塗料として塗布する際には、塗膜の表面や裏面で有機物が分解される虞が生じる。そのために、光触媒塗料を塗装する基材表面に、予め保護層となる下塗りやコーティングを塗布して、基材の分解反応を防止することが行われている。
【0004】
しかし、下塗り塗膜が光触媒作用を受けない樹脂成分であっても、太陽光線中の紫外線により劣化することがある。一般に光触媒塗膜はその塗膜厚みが薄いので太陽光の紫外線がそのまま透過して下塗り塗膜や基材表面に到達する。この紫外線によって下塗り塗膜が劣化すると、劣化した下塗り塗膜と共に光触媒層が剥落することになって、塗膜の寿命が短くなってしまう。さらに、基材自体が紫外線によって劣化することでも、光触媒塗膜の寿命が悪化する場合もある。
【0005】
従来技術として、光触媒作用により劣化されず耐久性を有し、耐汚染性および外観が良好な塗膜とするために、光触媒機能を有する金属酸化物と体質顔料とを所定の割合で配合した塗料組成物が既に出願されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
さらに、光触媒機能を有する酸化チタンの表面をリン酸カルシウムで被覆して有機塗料成分を分解し難くして塗膜を安定させるとした光触媒を含む塗料組成物が既に出願されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−315727号公報
【特許文献2】特開2000−1631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基材表面に下塗り層を形成した後、下塗り塗膜面に光触媒塗料を塗布する際には、その上塗り塗装が容易であることが望ましい。また、下塗り層や基材表面が光触媒作用により劣化しないことが望ましい。
【0008】
さらには、下塗り塗膜、および上塗り塗膜共に、バインダとなる樹脂自体が光触媒作用によって劣化せず耐久性を備えていることが望ましい。
【0009】
しかし、光触媒作用によって劣化しないだけでは不十分であることが、だんだん明らかとなってきており、上塗り層を透過してくる紫外線によって下塗り層や基材表面が劣化してしまい、上塗り層が剥落してしまっていた。そのために、下塗り層は、紫外線により劣化せず、安定した塗膜を維持可能であることが望ましい。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、光触媒塗料を上塗り容易とし、光触媒作用によっても劣化せず、紫外線によっても劣化しない光触媒塗膜の形成方法を提供し、基材および下塗り層が劣化せず長寿命となる光触媒塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために請求項1に係る発明は、光触媒作用によって劣化せず、紫外線によっても劣化しない耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層に、光触媒層を塗布する光触媒塗膜の形成方法としたことを特徴としている。
【0012】
上記の構成を有する請求項1に係る発明によれば、下塗り層が光触媒作用によって劣化しないだけでなく、紫外線に対する耐性を有しているので、長寿命の光触媒塗膜を形成することができる。さらに、水に対する表面接触角が70°以上であるので光触媒塗料の塗布が容易であり、光触媒塗膜を容易に形成することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記下塗り層が、フッ素含有量が10%以上のフッ素樹脂を配合したフッ素樹脂水性塗料もしくはフッ素樹脂オルガノゾルからなることを特徴としている。
【0014】
上記の構成を有する請求項2に係る発明によれば、水に対する表面接触角が70°以上となり、さらにサンシャインウエザオメーター3000時間終了時の光沢保持率が70%以上となる耐候性を有する下塗り塗膜を造膜することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、前記塗料用樹脂が、シロキサンの脱水縮合で硬化反応が進行する架橋型アクリル樹脂であることを特徴としている。
【0016】
上記の構成を有する請求項3に係る発明によれば、もともと耐候性を有するアクリル樹脂のさらに架橋型とすることで、紫外線に対する耐性を発揮する下塗り層を得ることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記塗料用樹脂の成分中に紫外線吸収剤および/あるいは顔料を配合し、波長350nmの紫外線の90%以上を遮蔽する下塗り層としたことを特徴としている。
【0018】
上記の構成を有する請求項4に係る発明によれば、下塗り塗膜層の紫外線に対する耐性がさらに向上し、基材表面を紫外線から保護するので、基材表面の劣化をも防止することができ、屋外で使用しても、紫外線によって劣化せずに寿命の長い光触媒塗膜を形成することができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記下塗り層の膜厚を10μm〜60μmとしたことを特徴としている。
【0020】
上記の構成を有する請求項5に係る発明によれば、紫外線を遮蔽する十分な膜厚であると共に上塗り層の光触媒作用が基材に悪影響を及ぼさず、長期的に安定した塗膜層を得ることができる。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の光触媒塗膜の形成方法により形成される光触媒塗膜であって、光触媒作用によって劣化せず、紫外線によっても劣化しない耐性を有する塗料用樹脂を含有する下塗り層と、光触媒金属酸化物を含有する上塗り層を有することを特徴としている。
【0022】
上記の構成を有する請求項6に係る発明によれば、下塗り層が光触媒作用によっても紫外線によっても劣化しないので、長期間に亘って光触媒機能を発揮する光触媒塗膜を得ることができる。
【0023】
請求項7に係る発明は、前記下塗り層の膜厚が10μm〜60μmであり、前記上塗り層の膜厚が0.01μm〜3.0μmであることを特徴としている。
【0024】
上記の構成を有する請求項7に係る発明によれば、上塗り層の光触媒作用が基材に悪影響を及ぼさず、塗膜層が長期的に安定して保持される膜厚の下塗り層と、所定の光触媒機能を発揮する上塗り層を備える光触媒塗膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、紫外線に影響を受けずに耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層に、光触媒層を塗布した光触媒塗膜としたので、光触媒層の上塗りが容易となり、紫外線によっても劣化しない耐候性をも有する長寿命の光触媒塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る光触媒塗膜の形成方法および光触媒塗膜の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係る光触媒塗膜の形成方法は、光触媒層である上塗り層と基材との間に下塗り層を設けている。また、この下塗り層は、光触媒作用によって劣化しないだけでなく、紫外線によっても劣化しない樹脂成分が配合された塗料を塗布したものである。
【0028】
また、この下塗り層の上に光触媒層を上塗りするので、光触媒塗料の塗布が容易となる塗膜であることが望ましい。そのために、紫外線に影響を受けずに耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に、上塗り塗布時に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層としている。
【0029】
これは、水に対する表面接触角が70°以上であれば、光触媒塗料を塗布しても、塗料が流れ落ち難く、塗膜の形成が容易となるためである。
【0030】
そのために、前記下塗り層としては、例えば、フッ素含有量が10%以上のフッ素樹脂を配合したフッ素樹脂水性塗料もしくはフッ素樹脂オルガノゾルからなる塗料を用いることができる。この構成の下塗り層であれば、紫外線に影響を受けずに耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に、上塗り塗布時に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層を形成することができ、光触媒層との密着性を向上させることができ好適となる。
【0031】
フッ素樹脂は、フッ素原子が炭素原子としっかり結合した構造であるために、非常に安定した特長を有し、高い耐薬品性や耐候性を示し、光触媒作用を受け難く、紫外線によっても劣化しない優れた特徴を示す。
【0032】
また、高い耐薬品性や耐候性を発揮する塗膜を形成するには所定以上のフッ素含有量が好ましく、促進耐候性試験によれば、サンシャインウエザオメーター3000時間終了時の光沢保持率が70%以上となる塗膜を造膜するには、樹脂固形分中10%以上のフッ素含有量が好ましいことが明らかとなった。また、フッ素含有量が多すぎると造膜不良を引き起こす虞が生じるために、造膜不良とならない程度(例えば20%以下)であることが好ましい。
【0033】
そのために、フッ素含有量が10%以上のフッ素樹脂を配合したフッ素樹脂水性塗料もしくはフッ素樹脂オルガノゾルからなる下塗り層の上に、所定の光触媒金属酸化物を含有した光触媒塗料を上塗りすることにした。
【0034】
フッ素含有量が10%以上のフッ素樹脂を配合したフッ素樹脂水性塗料であれば、水に対する表面接触角が70°以上となり、さらにサンシャインウエザオメーター3000時間終了時の光沢保持率が70%以上となる塗膜を造膜することができる。
【0035】
また、溶剤に溶解せず懸濁状態となるフッ素樹脂オルガノゾルを用いた下塗り層であっても、水に対する表面接触角が70°以上となり、さらにサンシャインウエザオメーター3000時間終了時の光沢保持率が70%以上となる塗膜を造膜することができる。
【0036】
フッ素以外の樹脂成分として例えばアクリル樹脂が配合されている。さらに、所望される所定の色調を呈する着色顔料(特に、耐候性の良好な金属酸化物系の無機顔料が好ましい)や硬化剤を添加してもよい。
【0037】
また、紫外線に耐性のある塗料用樹脂として、架橋型アクリル樹脂を用いることができる。もともと耐候性に優れ作業性もよいアクリル樹脂を、さらにシロキサン結合で架橋型としているために、さらに優れた耐候性を発揮すると共にこの耐候性を長期間維持することができる。また、この架橋型アクリル樹脂の中でも、シロキサンの脱水縮合で硬化反応が進行するアクリルシリコン樹脂が好適である。
【0038】
さらに、耐候性を備える塗料用樹脂の成分中に紫外線吸収剤を配合することで、波長350nmの紫外線の90%以上を遮蔽する下塗り層を造膜することも可能となる。
【0039】
前記紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能の低下が起こりにくく長期の紫外線吸収効果を発揮する高分子紫外線吸収剤が好ましい。
【0040】
また、上塗り層に紫外線散乱剤を添加して、下塗り層への紫外線到達量を減少させることも効果的である。
【0041】
さらに、上塗り層、下塗り層の樹脂成分中に紫外線散乱効果を発揮する顔料を配合することも効果的である。
【0042】
前記下塗り層の膜厚は、10μm〜60μm程度が適当である。これは上塗り層の光触媒作用が基材に悪影響を及ぼさないようにするには、少なくとも10μm以上の膜厚が必要であり、60μmもあれば塗膜層が長期的に安定して保持されるからである。また、これよりも厚くなると、クラックや剥離等が発生し易くなって好ましくない。
【0043】
上塗りとなる光触媒塗膜厚みとして、本実施の形態では、0.01〜3.0μm程度の塗膜厚みとしている。光触媒としては、例えば酸化チタンが好適に適用可能であり、酸化チタンを含有した塗料を塗布すれば、その表面が光触媒機能を発揮するだけでなく、水との接触角が20°以下の親水性をも発揮する。親水性を発揮する表面は、曇りを防止するだけではなく、汚れを付きにくくする働きもある。特に、光触媒作用による親水性では、水との接触角が5°以下の超親水性となり、汚染防止効果は甚大である。
【0044】
上記したように、本発明に係る光触媒塗膜は、10μm〜60μm程度の膜厚で紫外線に耐性を有する下塗り層に0.01〜3.0μm程度の塗膜厚みの光触媒層を塗布した構成であるので、紫外線によって劣化しない下地を備える光触媒塗膜を得ることができる。
【0045】
そのために、長期間に亘って光触媒機能を発揮する光触媒塗膜となる。
【0046】
さらに、10μm〜60μm程度の膜厚の下塗り層に紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を配合することで、下地となる基材への紫外線到達量を減少させることができ、基材を紫外線から保護することができる。
【0047】
つまり、基材と下塗り層とが紫外線によって劣化しない塗膜を形成するので、光触媒塗膜が剥離することもなく安定し、塗膜寿命を長くすることができる。
【0048】
また、上塗り層が光触媒塗膜層であるので、防汚機能と抗菌機能とを発揮することは明らかである。
【0049】
上記した特長を備えているので、本発明に係る光触媒塗膜は、建物外壁や屋外で使用する道路標識や看板などの、太陽光に曝される塗膜層として好適に適用可能となり、本発明に係る光触媒塗膜の形成方法によれば、長寿命の光触媒塗膜を容易に形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用によって劣化せず、紫外線によっても劣化しない耐性を有する塗料用樹脂を含有すると共に水に対する表面接触角が70°以上の下塗り層に、光触媒層を塗布することを特徴とする光触媒塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記下塗り層が、フッ素含有量が10%以上のフッ素樹脂を配合したフッ素樹脂水性塗料もしくはフッ素樹脂オルガノゾルからなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記塗料用樹脂が、シロキサンの脱水縮合で硬化反応が進行する架橋型アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記塗料用樹脂の成分中に紫外線吸収剤および/あるいは顔料を配合し、波長350nmの紫外線の90%以上を遮蔽する下塗り層としたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光触媒塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記下塗り層の膜厚を10μm〜60μmとしたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光触媒塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光触媒塗膜の形成方法により形成される光触媒塗膜であって、光触媒作用によって劣化せず、紫外線によっても劣化しない耐性を有する塗料用樹脂を含有する下塗り層と、光触媒金属酸化物を含有する上塗り層を有することを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項7】
前記下塗り層の膜厚が10μm〜60μmであり、前記上塗り層の膜厚が0.01μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項6に記載の光触媒塗膜。

【公開番号】特開2008−212821(P2008−212821A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53639(P2007−53639)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(591164794)株式会社ピアレックス・テクノロジーズ (25)
【Fターム(参考)】