説明

光触媒被膜形成体およびその製造方法

【課題】光触媒被膜上に光触媒被膜とは別の被膜を積層し、光触媒被膜の保護や耐久性向上、光触媒活性向上を実現可能とした光触媒被膜形成体とその製造方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に形成され酸化チタンを主成分とする酸化チタン被膜と、該酸化チタン被膜に積層して形成され炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜とを有するとともに、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有していることを特徴とする光触媒被膜形成体、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を有する酸化チタンを主成分とする被膜を、基材の表面にコーティング等により形成した光触媒被膜形成体の表面保護、触媒活性を向上させる技術に関し、特に、酸化チタン被膜に炭素系被膜を積層させた光触媒被膜形成体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンの結晶粒子は、バンドギャップ以上のエネルギーの光で励起することにより、電子―正孔対を生じ、活性酸素を発生させる光触媒活性を有している。この酸化チタンが有する光触媒作用を工業的に利用する研究が盛んに行われており、例えば、汚れにくいガラス、タイル、便器等が実用化されている。
【0003】
酸化チタンを主成分とする被膜を基材に被覆させるためには、酸化チタンを400〜500℃以上で耐熱性基材の表面に焼き付けるか、酸化チタンによって劣化しにくいバインダー中に酸化チタン粒子を分散させて塗膜を形成する方法が知られている。後者の方法による従来の酸化チタンを主成分とする光触媒被膜形成方法では、触媒作用を受けるべき物質が通過でき、かつ、触媒作用によって劣化しない無機バインダーが利用されてきたが、この被膜は、脆く、耐久性に乏しいという問題があった。また、有機基材(例えば、プラスチック基材)の表面に被膜を形成すると、有機基材が劣化したり、基材と被膜の密着性が悪くなったりする問題があった。このため、有機―無機ハイブリッドの傾斜材料を使用する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、酸化チタンは励起光として波長が400nm以下の領域の紫外線が必要であることが、実用面での問題となっているが、より波長の長い可視光を励起波長として使用することを可能にするために、酸化チタン粒子の表面に炭素系析出物を形成させる方法(特許文献2)、酸化チタンと有機炭素化合物を混合して熱処理した炭素含有光触媒が提案されている(特許文献3)。
【0005】
一方、炭素と水素から構成された非晶質炭素膜であるDLC(ダイアモンド状炭素:Diamond Like Carbon )薄膜のコーティング技術は、DLC被膜によってガスバリア性、表面保護特性を改善できる技術として知られている(特許文献4)。
【0006】
このDLC薄膜のコーティングは、一般に、真空(数Paから数10Pa)中での低温プラズマによるCVDコーティング、イオン化蒸着、アークイオンプレーティング、スパッタリング等が行われている。真空中で行う理由は、高い電子温度であっても電子密度を下げることによってプラズマの温度を高温にならないようにして基材の温度劣化を防ぐためであり、特に、基材としてプラスチックを用いる場合、一般的な大気圧付近での熱プラズマでは基材が分解、変形してしまう。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)では、その熱変形温度は、80℃程度である。
【0007】
しかし、上記のような真空を含むプロセスは、真空設備、電力、真空にするために要する時間、チャンバー内での限られた空間での処理(スペースが限られる。)等の理由で、経済性の面からその利用は限られている。
【0008】
これに対し、近年、大気圧下にてプラスチックにもコーティング可能な低温プラズマを発生するための、大気圧下で非平衡プラズマ(電子温度は高いが、イオンは低温に保たれている)を形成するための各種技術が提案されている(特許文献5〜8)。しかし、これらの提案技術は、実質的に基材としてのプラスチック製品等の表面上に直接、DLCやDLCに類似した被膜を形成させるようにしたものであり、現状提案されている展開可能な技術分野は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−336281号公報
【特許文献2】特開平11−333304号公報
【特許文献3】特表2007−532287号公報
【特許文献4】特許第3176558号公報
【特許文献5】特開2000−26632号公報
【特許文献6】特開平11−12735号公報
【特許文献7】特開2007−327089号公報
【特許文献8】特開2003−3266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の如く、従来技術として、光触媒被膜自体の特性を改良するための技術や、基材の表面にDLC被膜を代表とする固い被膜を形成する技術は、それぞれ個別に、各種提案されているが、これらを組み合わせて光触媒被膜上に、光触媒被膜の保護や耐久性向上、光触媒活性向上を目的とした、光触媒被膜とは別の被膜を積層するようにした技術は、基本的には見当たらない。
【0011】
光触媒被膜とは別の被膜の積層により光触媒被膜の耐久性を向上させるためには、物理的に硬く、かつ、光触媒作用を受けるべき被処理物質が透過しやすい被膜を積層する必要がある。ところが、従来の技術では、酸化チタン粒子に炭素化合物をつけるようにした技術等は提案されているものの、この技術には複雑なプロセスを必要とし、広い面積の光触媒被膜を簡便に処理することは困難である。また、光触媒被膜とは別の被膜を積層して光触媒被膜の光触媒活性を向上させるようにした提案は見当たらず、かつそのような発想も見当たらない。
【0012】
そこで本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、光触媒被膜上に光触媒被膜とは別の被膜を積層して、面積の広い光触媒被膜であっても簡便に処理可能であり、それによって光触媒被膜の保護や耐久性向上、光触媒活性向上を実現可能とした光触媒被膜形成体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る光触媒被膜形成体は、基材の表面に形成され酸化チタンを主成分とする酸化チタン被膜(つまり、光触媒として機能する被膜)と、該酸化チタン被膜に積層して形成され炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜とを有するとともに、前記酸化チタン被膜と前記炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有していることを特徴とするものからなる。上記の炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜として、代表的にはDLC被膜が挙げられる。また、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位とは、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界面と該境界面の近傍部分を含む概念を意味する。
【0014】
このような炭素系被膜は、後述の製造方法に示すように、炭素及び水素を主成分とするプラズマ化された所定の反応ガスによって酸化チタン被膜上に積層でき、広い面積の光触媒被膜に対しても、簡便にかつ容易に形成することができるものである。後述の常圧低温プラズマ(大気圧プラズマ)CVD法によって形成されたDLC被膜を代表とするこの炭素系被膜は、光触媒被膜よりもはるかに固く、耐久性に優れたものであるため、この炭素系被膜に覆われていることによって、光触媒被膜は外部に対して適切に保護され、その耐久性が向上される。すなわち、従来、強固な光触媒被膜は、数百度の焼成を必要としていたが、例えば酸化チタン粒子を適切なバインダーによって塗布して光触媒被膜を形成し、その後、低コストで処理が容易な大気圧プラズマを利用したDLC被膜を形成することによって光触媒被膜を適切に保護することが可能になる。また、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に含有される炭化チタンも、酸化チタン被膜内の酸化チタンに比べ固くかつ耐久性に優れたものであることから、この炭化チタンの層の介在により、光触媒被膜はより適切に保護され、かつ、より一層耐久性が向上されることになる。また、この炭素系被膜は微多孔質に形成されているので、酸化チタン被膜が炭素系被膜で覆われていたとしても、その微多孔質構造を利用して光触媒作用を受けるべき被処理物質が炭素系被膜を通過可能となり、該被処理物質が確実に酸化チタン被膜の表面に到達して所望の光触媒作用を受けることができるようになり、酸化チタン被膜による光触媒機能を実質的に損なうことなく、光触媒被膜の適切な保護、耐久性向上が可能となる。また、炭素系被膜、とくにDLC被膜には、紫外線に加え、可視光を透過させる特性を持たせることが可能であるので(特に、後述の常圧低温プラズマ(大気圧プラズマ)CVD法によって形成されたDLC被膜にはこの特性を持たせることができるので)、光触媒活性発現に必要な光を、可視光まで含めた容易に活用可能な望ましい波長の光として、炭素系被膜を通して光触媒被膜へと容易に到達させることが可能となる。さらに、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に含有される炭化チタンは、電気伝導性を有することから、その電気伝導性を利用して酸化チタンの触媒活性を向上することが可能であり、光触媒被膜の光触媒活性の向上をはかることができる。さらにまた、DLCも電気伝導性を有するので、DLCが粒子状に光触媒被膜内において酸化チタンと混在する形態に構成すれば、光触媒被膜の光触媒活性の一層の向上をはかることができる。
【0015】
このような本発明に係る光触媒被膜形成体においては、上記酸化チタン被膜の表面に上記炭化チタンのセグメント構造が形成され、上記炭素系被膜がそのセグメント構造の炭化チタン部分にのみ積層して形成されている形態とすることができる。このような形態は、炭素系被膜形成時の条件設定、例えば、後述の常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)の条件設定によって実現できる。炭化チタン部分とその上に積層された炭素系被膜(例えば、DLC被膜)がセグメント構造に形成されることで、被処理物質はセグメント間を通過してより容易に光触媒被膜に到達できるようになるとともに、光触媒活性発現のための光もより容易に光触媒被膜に到達できるようになり、光触媒活性の向上が可能となる。
【0016】
また、上記酸化チタン被膜と上記炭素系被膜の境界部位に、さらに窒素ドープ酸化チタンを含有している形態とすることができる。このような形態は、後述の製造方法における反応ガスのキャリアガスとして用いる不活性ガスに窒素ガスを使用することにより、実現できる。この形態においては、酸化チタン被膜内における酸化チタン(TiO)のOの一部がNに置換されてTiOxNyの形態となった窒素ドープ酸化チタンが存在するので、この構造によるバンドギャップの低下が期待でき、Oの一部がNに置換されることによって可視光での応答性が向上する可能性が高まり、光触媒活性発現のための光の波長領域の拡大、とくに可視光利用の可能性を高めることが可能になる。
【0017】
また、上記炭素系被膜は、酸素原子を、炭素原子に対して5〜20%の比率で含有していることが好ましい。このような形態では、炭素系被膜は、酸素原子を所定量含むため、炭素系被膜が積層されている光触媒被膜の酸化チタンが活性酸素をより発生しやすくなり、その分、光触媒活性が向上する。このような形態は、特に、後述の常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)によって炭素系被膜を形成する場合、大気中の酸素を取り込むことができるので、容易に実現可能である。
【0018】
また、本発明に係る光触媒被膜形成体における基材の材質としては、金属材又は無機材、あるいは有機材のいずれも使用できる。有機材、例えばプラスチック基材の場合には、前述したようにプラズマ処理における温度に制限があるので、炭素系被膜の形成には、特に後述の常圧低温プラズマCVD法が有効である。
【0019】
また、上記基材が有機材からなる場合には、該基材と上記酸化チタン被膜の間に、非晶質炭化水素を主成分とする第2の炭素系被膜を有する形態を採用することができる。この第2の炭素系被膜も、代表的にはDLC被膜からなる。基材と酸化チタン被膜の間に上記のような第2の炭素系被膜が介在することになるので、基板に対する酸化チタン被膜の密着性の向上が可能となる。また、酸化チタン被膜の光触媒作用(酸化作用)によって、基材を構成する有機材が分解、劣化してしまうことを防ぐことができ、酸化チタンと基材との密着性を長期的に維持できる。さらに、酸化チタン被膜が両側から固い炭素系被膜で覆われる形態となるので、酸化チタン被膜の保護、耐久性が一層向上される。
【0020】
また、本発明に係る光触媒被膜形成体における基材の形態は、とくに限定されるものではなく、表面あるいは表層部位に光触媒機能を持たせることが要求される各種成形品の形態を採用できる。例えば、基材の形態として、フィルム、シート、板状体のいずれの形態も採ることができる。
【0021】
上記のような本発明に係る光触媒被膜形成体は、次のような方法によって製造できる。すなわち、本発明に係る光触媒被膜形成体の製造方法は、不活性ガスをキャリアガスとして炭素及び水素を主成分とする反応ガスをプラズマ化(ここで、プラズマ化とは、ガスが励起した状態をいい、電子が解離、イオン化された状態の分子、若しくは、電子が高エネルギー状態に遷移してラジカル化された分子を含むガスの状態をいう。)して基材の表面に形成された酸化チタンを主成分とする酸化チタン被膜の表面に導入することにより、該酸化チタン被膜に積層して炭素原子および水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜を形成し、かつ、前記酸化チタン被膜と前記炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有する炭化チタン層を形成することを特徴とする方法からなる。
【0022】
すなわち、キャリアガスによって運ばれるプラズマ化された炭素及び水素を主成分とする反応ガスを酸化チタン被膜の表面に接触させて該表面に導入し、微多孔質の炭素系被膜(代表的には前述のDLC被膜)を形成するとともに、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有する炭化チタン層を形成して介在させるのである。この場合、キャリアガスとなる不活性ガスもプラズマ化される形態とすることもできる。また、ここでキャリアガスとしては、プラズマ化された反応ガスを所定の経路に沿って運ぶガスは勿論のこと、反応ガスを希釈する希釈ガスの概念を含み、後者の場合には、反応ガスを所定の経路に沿って運ぶと言うよりはむしろ、酸化チタン被膜の表面に接触可能な混合ガスを形成する役目を担うガスと言うことができる。したがって、プラズマ発生・処理機構としても、所定の電極間でキャリアガスとなる不活性ガスをプラズマ化し、そのキャリアガスに合流された反応ガスをプラズマ化して所定の経路、所定の噴射口から基材上の酸化チタン被膜の表面に向けて吹きつける、いわゆるリモート式のプラズマ処理装置により処理する方法と、所定の電極間に上記希釈ガスで所定の濃度に希釈された反応ガスを介在させてプラズマ化する、対向電極間プラズマ処理装置により処理する方法の、いずれの方法も採り得る。これらの処理に際しては、噴射口あるいは電極を被処理物に対して相対的に移動させてもよい。
【0023】
この本発明に係る光触媒被膜形成体の製造方法においては、常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)によって、上記炭素系被膜および炭化チタン層を形成することが好ましい。大気圧プラズマにより、容易に所望の微多孔質の炭素系被膜を形成でき、かつ、適切な条件設定により、容易に所望の炭化チタン層を形成することができる。
【0024】
本発明におけるプラズマ処理においては、上記キャリアガスとして使用する不活性ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。窒素ガスを用いることにより、前述の窒素ドープ酸化チタンを、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に容易に含有させることができ、それによって、可視光での応答性を向上させ、光触媒活性発現のための光の波長領域を拡大して、とくに可視光利用の可能性を高めることができる。
【0025】
また、本発明におけるプラズマ処理においては、上記反応ガスとしてはCガスを用いることができる。Cガスは入手が容易で安価であり、このCガスを反応ガスとして使用することにより、容易に所望の炭素系被膜および炭化チタン層を形成することが可能になる。また、キャリアガスとして窒素ガスを使用し、反応ガスとしてCガスを使用することにより、容易に、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に、所望の炭化チタン(TiC)および窒素ドープ酸化チタン(TiOxNy)を生成できるようになる。
【0026】
また、本発明に係る光触媒被膜形成体の製造方法においては、上記炭素系被膜の形成前に、上記不活性ガスからなるプラズマガスによって酸化チタン被膜の表面を前処理することもできる。つまり、反応ガスを用いて炭素系被膜を形成する前に、不活性ガスのプラズマガスが有する相手部材表面の活性化機能、清浄化機能等を利用して、酸化チタン被膜の表面を前処理しておき、所望の炭素系被膜をより形成しやすくしておくのである。これによって、より効率よく、かつ容易に、所望の炭素系被膜が形成される。
【0027】
さらに、上記基材の表面に常圧低温プラズマCVD法によって非晶質炭化水素を主成分とする第2の炭素系被膜を形成した後、該第2の炭素系被膜上に上記酸化チタン被膜を形成し、該酸化チタン被膜の表面に対し上記炭素系被膜および炭化チタン層を形成することもできる。このようなステップ順を採用すれば、前述の如く、基材と酸化チタン被膜の間に第2の炭素系被膜を介在させることができ、この第2の炭素系被膜を介して基板に対する酸化チタン被膜の密着性を向上させることができる。また、酸化チタン被膜が両側から固い炭素系被膜で挟む形態とすることができるので、酸化チタン被膜の保護性能、耐久性を一層向上できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法によれば、酸化チタン被膜上にDLC被膜を代表とする酸化チタン被膜とは別の固い炭素系被膜を形成するとともに、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有させるので、光触媒被膜を適切に保護し、耐久性を向上できる。また、炭素系被膜の微多孔質構造により、光触媒作用を受けるべき被処理物質の酸化チタン被膜への到達、光触媒活性発現のための光の透過を可能ならしめ、所望の光触媒機能を確保できる。また、常圧低温プラズマ(大気圧プラズマ)CVD法により、上記炭素系被膜および炭化チタンの層を、広い面積の酸化チタン被膜に対しても、簡便に所望の形態に形成可能であり、目標とする保護性能、耐久性に優れた酸化チタン被膜を有する光触媒被膜形成体を容易に得ることができる。また、微多孔質の炭素系被膜の良好な光透過特性を利用して光触媒被膜に確実に光を到達させることができるとともに、とくにDLC被膜による広い波長域の光透過特性を利用して、光触媒活性発現に必要な光の範囲を、可視光まで含めた波長域まで拡大可能となる。さらに、酸化チタン被膜と炭素系被膜の境界部位に含有される炭化チタンの電気伝導性を利用して、光触媒被膜の光触媒活性の向上をはかることができる。
【0029】
また、炭化チタンおよびその上に積層された炭素系被膜をセグメント構造に形成すれば、被処理物質の透過性、光の透過性をより向上でき、光触媒被膜の光触媒活性の一層の向上をはかることができる。また、境界部位に窒素ドープ酸化チタンを生成すれば、さらに光触媒活性の向上をはかることができる。また、常圧低温プラズマ(大気圧プラズマ)CVD法により炭素系被膜を形成し、該層に所定範囲の比率で酸素原子を含有させれば、活性酸素を発生しやすくしてさらに光触媒活性の向上をはかることができる。さらに、基材と酸化チタン被膜の間に第2の炭素系被膜を介在させれば、光触媒被膜の保護性能を一層強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示す光触媒被膜形成体表層部位の概略構成図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示す光触媒被膜形成体表層部位の概略構成図である。
【図3】本発明のさらに別の実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示す光触媒被膜形成体表層部位の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示している。図1において、1は、フィルムやシート、板状体等からなる基材の表層部位を示しており、該基材1の表面に、酸化チタン(TiO)を主成分とする酸化チタン被膜2がコーティング等によって形成されている。この酸化チタン被膜2に対し、炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜3が形成されている。本実施態様では、炭素系被膜3は、不活性ガスをキャリアガスとして炭素及び水素を主成分とする反応ガスをプラズマ化し、その反応ガスプラズマイオン(正)(反応ガスプラズマ中のラジカルも含む、以下同じ。)4を酸化チタン被膜2の表面に導入することにより形成されている。また、本実施態様では、プラズマ処理として常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)が採用されており、DLC5による炭素系被膜3が広い面積の酸化チタン被膜2に対しても容易に形成されるようになっている。そして、この大気圧プラズマ処理により、上記DLC5とともに、酸化チタン被膜2と炭素系被膜3の境界部位に炭化チタン(TiC)6を含有する炭化チタン層7が形成されている。酸化チタン被膜2の表面に向けて衝突したイオン若しくはラジカルは、エネルギー的に安定な場所に移動する。また、図示例では、DLC5が一部酸化チタン被膜2内に混入し、酸化チタン被膜2の光触媒活性を高める構成となっている。
【0032】
このような構成においては、酸化チタン被膜2がDLC5の固い炭素系被膜3および炭化チタン6を含有した炭化チタン層7によって適切に保護され、耐久性が向上される。また、炭素系被膜3の微多孔質構造により、光触媒作用を発現させるための被処理物質の通過、光の透過性能が確保されている。また、DLC被膜による広い波長域の光透過特性を利用して、光触媒活性発現に必要な光の範囲が、可視光まで含めた波長域まで拡大可能となっている。さらに、酸化チタン被膜2と炭素系被膜3の境界部位に含有される炭化チタン6の電気伝導性が利用され、光触媒被膜3の光触媒活性が向上されている。
【0033】
図2は、本発明の別の実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示している。図2において、21は、フィルムやシート、板状体等からなる基材の表層部位を示しており、本実施態様では、基材21は無機材からなる無機基材が用いられている。この基材21の表面に、酸化チタン(TiO)を主成分とする酸化チタン被膜12がコーティング等によって形成されている。この酸化チタン被膜12に対し、炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜13が形成されている。本実施態様では、炭素系被膜13は、窒素ガス(N)をキャリアガスとし,炭素及び水素を主成分とする反応ガスとしてCを用い、Cをプラズマ化して、その反応ガスプラズマイオン(正)14を酸化チタン被膜12の表面に導入することにより形成されている。また、本実施態様では、プラズマ処理として常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)が採用されており、DLC15による炭素系被膜13が広い面積の酸化チタン被膜12に対しても容易に形成されるようになっている。そして、この大気圧プラズマ処理により、上記DLC15とともに、酸化チタン被膜12と炭素系被膜13の境界部位に炭化チタン(TiC)16を含有する炭化チタン層17が形成されているとともに、図1に示した形態に比べ、キャリアガスとして使用したNのN原子がTiOのO原子の一部と置換され、窒素ドープ酸化チタンTiOxNy18が、酸化チタン被膜12と炭素系被膜13の境界部位に含有されている。なお、反応ガスに対するキャリアガスとして使用するNの比率を高くしたり、反応ガスを含むプラズマ処理をする前に、窒素ガスプラズマのみで前処理を行ったりすることによって、窒素ドープ酸化チタン18をより多く形成することができる。
【0034】
このような構成においては、図1に示した形態に比べ、さらに、TiOxNyの形態となった窒素ドープ酸化チタンの存在により、バンドギャップの低下、可視光での応答性の向上が期待でき、光触媒活性発現のための光の波長領域の拡大、とくに可視光利用の可能性を高めることが可能になる。
【0035】
図3は、本発明のさらに別の実施形態に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法の一例を示している。図3において、21は、フィルムやシート、板状体等からなる基材の表層部位を示しており、本実施態様では、基材21は有機材からなる有機基材(例えば、プラスチック基材)が用いられている。この基材21の表面に、酸化チタン(TiO)を主成分とする酸化チタン被膜22がコーティング等によって形成されている。この酸化チタン被膜22に対し、炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜23が形成されている。本実施態様では、炭素系被膜23は、不活性ガスをキャリアガスとして炭素及び水素を主成分とする反応ガスをプラズマ化し、その反応ガスプラズマイオン(正)24を酸化チタン被膜22の表面に導入することにより形成されている。また、本実施態様では、プラズマ処理として常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)が採用されており、DLC25による炭素系被膜23が広い面積の酸化チタン被膜22に対しても容易に形成されるようになっている。この大気圧プラズマ処理により、上記DLC25とともに、酸化チタン被膜22と炭素系被膜23の境界部位に炭化チタン(TiC)26を含有する炭化チタン層27が形成されている。そして、本実施態様では、酸化チタン被膜22の形成前に、基材21の表面上に(基材21と酸化チタン被膜22の間に)、常圧低温プラズマCVD法(大気圧プラズマCVD法)によりDLC25による第2の炭素系被膜28が形成され、その上に酸化チタン被膜22が形成されている。
【0036】
このような構成においては、図1に示した形態に比べ、さらに、第2の炭素系被膜28の介在により、基材21と酸化チタン被膜22の密着性が向上される。また、酸化チタン被膜22は両側から固い炭素系被膜23、28によって覆われる(挟まれる)ことになるので、酸化チタン被膜22の保護性能が強化され、耐久性が一層向上される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る光触媒被膜形成体およびその製造方法は、酸化チタン被膜による光触媒活性の発現が要求され、低コストでその光触媒層の耐久性向上、光触媒活性向上が求められるあらゆる用途、例えばあらゆる外装材、内装材に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1、11、21 基材
2、12、22 酸化チタン被膜
3、13、23 炭素系被膜
4、14、24 反応ガスプラズマイオン
5、15、25 DLC
6、16、26 炭化チタン
7、17、27 炭化チタン層
18 窒素ドープ酸化チタン
28 第2の炭素系被膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成され酸化チタンを主成分とする酸化チタン被膜と、該酸化チタン被膜に積層して形成され炭素原子及び水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜とを有するとともに、前記酸化チタン被膜と前記炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有していることを特徴とする光触媒被膜形成体。
【請求項2】
前記酸化チタン被膜の表面に前記炭化チタンのセグメント構造が形成され、前記炭素系被膜が前記セグメント構造の炭化チタン部分にのみ積層して形成されている、請求項1に記載の光触媒被膜形成体。
【請求項3】
前記酸化チタン被膜と前記炭素系被膜の境界部位に、さらに窒素ドープ酸化チタンを含有している、請求項1または2に記載の光触媒被膜形成体。
【請求項4】
前記炭素系被膜は、酸素原子を、炭素原子に対して5〜20%の比率で含有している、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒被膜形成体。
【請求項5】
前記基材が金属材又は無機材からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒被膜形成体。
【請求項6】
前記基材が有機材からなり、該基材と前記酸化チタン被膜の間に、非晶質炭化水素を主成分とする第2の炭素系被膜を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒被膜形成体。
【請求項7】
前記基材が、フィルム、シート、板状体のいずれかからなる、請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒被膜形成体。
【請求項8】
不活性ガスをキャリアガスとして炭素及び水素を主成分とする反応ガスをプラズマ化して基材の表面に形成された酸化チタンを主成分とする酸化チタン被膜の表面に導入することにより、該酸化チタン被膜に積層して炭素原子および水素原子を主構成原子として含む微多孔質の炭素系被膜を形成し、かつ、前記酸化チタン被膜と前記炭素系被膜の境界部位に炭化チタンを含有する炭化チタン層を形成することを特徴とする、光触媒被膜形成体の製造方法。
【請求項9】
常圧低温プラズマCVD法によって、前記炭素系被膜および炭化チタン層を形成する、請求項8に記載の光触媒被膜形成体の製造方法。
【請求項10】
前記不活性ガスとして窒素ガスを用いる、請求項8または9に記載の光触媒被膜形成体の製造方法。
【請求項11】
前記反応ガスとしてCガスを用いる、請求項8〜10のいずれかに記載の光触媒被膜形成体の製造方法。
【請求項12】
前記炭素系被膜の形成前に、前記不活性ガスからなるプラズマガスによって前記酸化チタン被膜の表面を前処理する、請求項8〜11のいずれかに記載の光触媒被膜形成体の製造方法。
【請求項13】
前記基材の表面に常圧低温プラズマCVD法によって非晶質炭化水素を主成分とする第2の炭素系被膜を形成した後、該第2の炭素系被膜上に前記酸化チタン被膜を形成し、該酸化チタン被膜の表面に対し前記炭素系被膜および炭化チタン層を形成する、請求項8〜12のいずれかに記載の光触媒被膜形成体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201327(P2010−201327A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48968(P2009−48968)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省『地域科学技術振興事業委託事業「<環境調和型機能性表面>の製造技術開発と<公共試作開発ラボ>による地域展開」』に係る委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】