説明

光起電力素子、及び当該光起電力素子の製造方法

【課題】高いエネルギー変換効率を有する光起電力素子及び当該光起電力素子の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板、裏面電極層、カルコパイライト構造を有する化合物からなるp型半導体光吸収層、前記p型半導体光吸収層とpn接合を形成可能な透明n型バッファ層、及びIn及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む酸化物薄膜であって、特定の原子比を満たす酸化物膜である透明電極層をこの順に備え、前記p型半導体光吸収層及び透明n型バッファ層を貫通し、前記裏面電極層の一部を露出させる溝を有し、前記透明電極層が前記溝を充填して裏面電極層と接する光起電力素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電力素子、及び当該光起電力素子の製造方法に関する。さらに詳しくは、カルコパイライト構造の化合物半導体にて薄膜形成されたp型光吸収層を有する光起電力素子、及び当該光起電力素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、無尽蔵の太陽光をエネルギー源とするクリーンな発電素子であることから、種々の用途に広く利用されている。太陽電池は、太陽光等の光が入射したときにシリコン、化合物半導体等の光電変換材料に生じる光起電力を利用できる素子を備える。
太陽電池は、幾つかに分類することができるが、単結晶シリコン太陽電池及び多結晶シリコン太陽電池では、一般に、高価な高純度かつ厚い結晶シリコン基板を使用する。このことから、材料費の大幅な低減が期待される薄膜構造を有する太陽電池の研究が盛んになされている。
【0003】
薄膜構造を有する太陽電池としては、光電変換材料として非シリコン系の半導体材料である、カルコパイライト型の結晶構造を有する化合物、なかでも、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)、硫黄(S)からなるCIGS系化合物を用いたCIGS系太陽電池が注目されている。
【0004】
CIGS系太陽電池の構成としては、例えば、ガラス基板上に形成された下部電極薄膜と、銅・インジウム・ガリウム・セレンを含むCIGS系化合物からなる光吸収層薄膜と、光吸収層薄膜の上にInS、ZnS、CdS、ZnO等で形成されるバッファ層薄膜と、ZnO:Al等で形成される上部電極薄膜とから構成されている(例えば特許文献1)。
特許文献1が開示するCIGS系太陽電池は、CIGS系半導体材料の光吸収率が高いこと、発電層を蒸着やスパッタリング等の方法で形成可能であることから、その厚さを数μmと薄くできる。そのため、小型化や材料コストを低く抑えることができ、太陽電池製造時の省エネルギー化も図ることができる。しかしながら、特許文献1のCIGS系太陽電池は、十分なエネルギー変換効率を有する太陽電池ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−317885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高いエネルギー変換効率を有する光起電力素子及び当該光起電力素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の光起電力素子等が提供される。
1.ガラス基板、
裏面電極層、
カルコパイライト構造を有する化合物からなるp型半導体光吸収層、
前記p型半導体光吸収層とpn接合を形成可能な透明n型バッファ層、及び
In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む酸化物薄膜であって、下記原子比(1)及び(2)を満たす酸化物薄膜である透明電極層をこの順に備え、
前記p型半導体光吸収層及び透明n型バッファ層を貫通し、前記裏面電極層の一部を露出させる溝を有し、前記透明電極層が前記溝を充填して裏面電極層と接する光起電力素子。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
2.前記透明n型バッファ層及び前記透明電極層の間に、前記p型半導体光吸収層に対してn型であり、前記透明n型バッファ層より高い抵抗を有する透明高抵抗バッファ層を備える1に記載の光起電力素子。
3.前記透明電極層上に、前記透明電極層よりも屈折率の小さい透明表面反射防止層を備える1又は2に記載の光起電力素子。
4.In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含み、下記原子比(1)及び(2)を満たす焼結体からなるスパッタリングターゲットを用い、
酸素分圧が3×10−2Pa以下であるアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガス中、並びに/又は基板温度を200℃以下として酸化物薄膜を成膜する1〜3のいずれかに記載の光起電力素子の製造方法。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
5.4に記載の光起電力素子の製造方法により得られる光起電力素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いエネルギー変換効率を有する光起電力素子及び当該光起電力素子の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の光起電力素子の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の光起電力素子の他の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の光起電力素子の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光起電力素子]
図1は、本発明の光起電力素子の一実施形態を示す図である。
光起電力素子100は、ガラス基板110、裏面電極層120、カルコパイライト構造を有する化合物からなるp型半導体光吸収層130、p型半導体光吸収層とpn接合を形成可能な透明n型バッファ層140、及びIn及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む酸化物薄膜である透明電極層160をこの順に備える。
光起電力素子100は、p型半導体光吸収層130及び透明n型バッファ層140を貫通し、裏面電極層120の一部を露出させる第1の加工溝131を有し、透明電極層160がこの加工溝131を充填して裏面電極層120と裏面電極層120の露出部分で接している。
また、裏面電極層120は、ガラス基板110の一部を露出させる分割溝121を有し、p型半導体光吸収層130が、当該分割溝121を充填してガラス基板110と接しており、透明電極層160は、n型バッファ層140の一部を露出させる第2の加工溝171を有する。
【0011】
光起電力素子は、光の入射により起電力を発生する素子であり、例えば直列状に複数接続され、電気エネルギーとして取り出し可能な太陽電池を構成することができる。
以下、本発明の光起電力素子を構成する各部材について説明する。
【0012】
[透明電極層]
透明電極層は、In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む酸化物薄膜である。
酸化物薄膜が含むAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物としては、Al、Ga、B、ZrO、HfO、TiOが挙げられ、好ましくはAl、Gaである。
【0013】
光起電力素子は、例えばスパッタリング等により形成できるが、当該形成時に導入される酸素は、素子の光吸収層及びバッファ層にダメージを与えるおそれがある。透明電極層が含むAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiは、酸素を透明電極層中に取り込む効果を有する元素であり、当該酸素取り込み効果により、素子の内部量子効率を向上させ且つ並列抵抗を高めることができ、変換効率の低下を防止することができる。また、酸素が透明電極層中に取り込まれることにより、透明電極中で低級酸化物及びメタルが生成することを抑制することができ、これらに起因する太陽光スペクトルの最も強い波長域である600nm付近の透明電極層の光学的吸収を低減することができる。
【0014】
透明電極層が含むAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiは、高い導電性を維持したまま、キャリア密度を低減させ、移動度を向上させることができる。
当該効果により、透明電極層の赤外域(800〜1300nm)における透過率が向上し、より多くの光子を取込まれることによって変換効率を向上させることができる。
【0015】
酸化物薄膜は、例えば酸化インジウム(In)及び酸化亜鉛(ZnO)を主成分として含み、Al、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を微量に含む非晶質膜であり、下記原子比(1)及び(2)を満たす。酸化インジウム及び酸化亜鉛を主要成分とした非晶質膜である酸化物薄膜は、耐熱性及び耐光性に優れ、光学特性変化を生じない安定した特性に形成でき、長期間安定したエネルギー変換効率が得られる。また、接続する層間界面の表面積が増大して界面接続信頼性を高めることができる。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、Xは酸化物薄膜中のAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計原子数である。)
上記式(2)については、より好ましくはX/(In+Zn+X)=0.0025〜0.015であり、さらに好ましくはX/(In+Zn+X)=0.004〜0.006である。
【0016】
原子比(1)のIn/(In+Zn)が0.5未満の場合、酸化物薄膜中に酸化亜鉛の微結晶を生じ、高抵抗化するおそれがある。また、In/(In+Zn)が0.9超の場合、酸化物薄膜中に酸化インジウムの微結晶を生じ、高抵抗化するおそれがある。
原子比(2)のX/(In+Zn+X)が0.0015未満の場合、透明電極層の成膜時に用いられる導入ガス中の酸素分圧を低減する効果が得られなくなり、バッファ層や光吸収層にダメージを与えるおそれがある。一方、X/(In+Zn+X)が0.03超の場合、透明電極層が高抵抗化し、光起電力素子の直列抵抗が増大することで、光電変換効率を低下するおそれがある。
【0017】
酸化物薄膜中の酸化インジウム(In)及び酸化亜鉛(ZnO)は、In/(In+Zn)の原子比が50原子%以上90原子%以下である。
In/(In+Zn)の原子比が0.50未満の場合、透明電極層中に酸化亜鉛微結晶を生じ、高抵抗化するおそれがある。また、0.90超の場合、透明電極層中に酸化インジウムの微結晶を生じ、高抵抗化するおそれがある。
【0018】
透明電極層は、その抵抗値が例えば5Ω/□以上30Ω/□以下である。抵抗値がこの範囲にある場合、光吸収層で生成した電子及び正孔の移動のための十分な十分な閾値電圧が印加でき、素子のエネルギー変換効率を向上させることができる。
透明電極層の抵抗値が5Ω/□未満の場合、膜厚が厚くなって、透過率が低下するおそれがある。一方、透明電極層の抵抗値が30Ω/□超の場合、光吸収層等で生成した電子及び正孔の移動のための十分な閾値電圧が印加されず、エネルギー変換効率の低下するおそれがある。
尚、透明電極層の仕事関数は、p型半導体光吸収層の設定されるエネルギーバンドに応じて適宜設定するとよい。
【0019】
透明電極層の厚さは、例えば0.01μm以上1μm以下であり、好ましくは0.1μm以上1μm以下である。透明電極層の厚みが0.01μm未満の場合、透明電極層が所定の低抵抗を得られないおそれがある。一方、透明電極層の厚みが1μm超の場合、透過率が低下して、p型半導体光吸収層の光吸収効率が低減するおそれがある。
【0020】
[ガラス基板]
ガラス基板は、例えばソーダライムガラス等のアルカリガラス等が使用できるが、これらに限定されない。
【0021】
[裏面電極層]
裏面電極層は、導電性材料からなる層であって、例えばガラス基板の一面に薄膜形成されており、平面領域が所定の広さとなる状態で、絶縁距離を介して並列状に複数設けられている。
裏面電極層の導電性材料としては、例えば金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、コバルト、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等の金属又は合金が挙げられ、特に反射率が高く且つ消衰係数の小さい金属が好ましい。
例えばp型半導体光吸収層がCIGS系層である場合、裏面電極層は好ましくはモリブデンからなる層である。
【0022】
裏面電極層の厚さは、例えば0.01μm以上1μm以下であり、好ましくは0.1μm以上1μm以下である。裏面電極層の厚さが0.01μm未満である場合、光起電力素子の抵抗値が上昇するおそれがある。一方、裏面電極層の厚さが1μm超の場合、剥離が生じるおそれがある。
【0023】
裏面電極層は、その表面は平坦に限定されず、光を乱反射させる凹凸形状を有していてもよい。凹凸形状を有する裏面電極層は、p型半導体光吸収層で吸収しきれなかった長波長光を散乱させ、p型半導体光吸収層内での光路長を延ばすことができる。これにより、光起電力素子の長波長感度が向上して短絡電流が増大し、光電変換効率を向上できる。
【0024】
裏面電極層の光を散乱させるための凹凸形状は、凹凸の山と谷の高低差をRmaxとした場合に、Rmaxを0.2μm以上2.0μm以下とすることが望ましい。Rmaxが2.0μmより大きくなると、カバレッジ性が低下し、膜厚斑ができ、抵抗値に斑を生じるおそれがある。
上記凹凸形状は、ドライエッチング、ウェットエッチング、サンドブラスト、加熱等の各種方法を適用して加工することができる。
【0025】
[p型半導体光吸収層]
p型半導体光吸収層は、p型の導電性を有するカルコパイライト構造の化合物であるカルコパイライト化合物からなる層であり、裏面電極層の一部を露出するようにして薄膜形成されている。
【0026】
p型半導体光吸収層には、CIGS系の他、CIS(Cu、In、S、Se)、CZTS(Cu、Zn、Sn、S、Se)等のカルコパイライト化合物を用いることができる。
p型半導体光吸収層のカルコパイライト化合物の具体例としては、ZnSe、CdS、ZnO等のII−VI族半導体;GaAs、InP、GaN等のIII−V族半導体;SiC、SiGe等のIV族化合物半導体;Cu(In,Ga)Se、Cu(In,Ga)(Se,S)、CuInS等のカルコパイライト系半導体(I−III−VI族半導体)が挙げられる。
【0027】
p型半導体光吸収層の厚さは、例えば0.1μm以上10μm以下、好ましくは0.5μm以上5μm以下である。
p型半導体光吸収層の厚さが0.1μm未満の場合、外光からの光の吸収量が低減するおそれがある。一方、p型半導体光吸収層の厚さが10μm超の場合、生産性が低下したり、膜応力により剥離しやすくなったり、直接抵抗の増大により変換効率が低下するおそれがある。このことにより、
【0028】
[透明n型バッファ層]
透明n型バッファ層は、p型半導体光吸収層上面に薄膜状に積層形成され、p型半導体光吸収層とpn接合する比較的低抵抗のn型の半導体層であり、p型半導体光吸収層と同様に裏面電極層の一部が露出するように形成されている。加えて、n型バッファ層は、p型半導体光吸収層の表面に残存している、シャントパスとして機能するCuSeのような半金属抵抗層に対して障壁としても機能できる。
【0029】
透明n型バッファ層は、p型半導体光吸収層と良好にpn接合できる材料からなる層であれば特に限定されず、例えばCdS又はInSからなる層が挙げられる。
好ましいp型半導体光吸収層とn型バッファ層の組み合わせとしては、p型半導体光吸収層がCIGS系光吸収層であって、n型バッファ層がCdS及び/又はInSからなる層である。
【0030】
n型バッファ層の厚みは、例えば0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。n型バッファ層の厚みが0.01μm未満の場合、pn接合斑が生じるおそれがある。一方、n型バッファ層の厚みが0.5μm超の場合、外光からの光が阻害され、p型半導体光吸収層の光吸収が低下するおそれがある。
【0031】
[高抵抗バッファ層]
図2は、本発明の光起電力素子の他の実施形態示す図である。
図2の光起電力素子100は、透明n型バッファ層140及び透明電極層160の間に、さらに高抵抗バッファ層150を備える他は図1と同様である。透明高抵抗バッファ層150は、透明n型バッファ層140及びp型半導体光吸収層130と同様に、裏面電極層120の一部が露出するように形成されている。
【0032】
高抵抗バッファ層は、任意に積層される層であり、p型半導体光吸収層に対してn型であり、n型バッファ層より高い抵抗を有する結晶質層である。
光起電力素子が、上記高抵抗バッファ層を備えることで、正孔キャリアとして機能するp型半導体光吸収層に対して、電子キャリアとして機能できる。また、高抵抗バッファ層は、開放端電圧の低下も防止することができる。
【0033】
高抵抗バッファ層は、例えば酸化亜鉛(ZnO)からなる結晶質層であり、その抵抗値は、通常10kΩ/□以上1000kΩ/□以下である。高抵抗バッファ層を設けることにより開放端電圧の低下を防止することができる。
高抵抗バッファ層の抵抗値が100kΩ/□未満の場合、光吸収層で形成された電子が容易に陽極側に移動し、開放端電圧が低下し、光電変換効率の低下を招くおそれがある。一方、高抵抗バッファ層の抵抗値が1000kΩ/□超の場合、開放端電圧は向上するが、光電変換素子の駆動電圧の上昇を招くおそれがある。
【0034】
高抵抗バッファ層の形成にZnOを主成分とする材料を用いることで、ZnOは透明電極層の材料でもあることから、透明電極層と例えば同一装置を用いて成膜することができ、大気開放のない連続成膜が実施可能となるので、生産性の向上及び製造コストの低減が可能のとなる。また、連続成膜は、表面汚染による接合界面の性能低下を防止できる。
【0035】
高抵抗バッファ層の厚みは、例えば0.01μm以上1μm以下であり、好ましくは0.1μm以上1μm以下である。高抵抗バッファ層の厚みが0.01μm未満の場合、p型半導体光吸収層で発生した正孔のブロッキング効果が低下するおそれがある。一方、高抵抗バッファ層の厚みが1μm超の場合、高抵抗バッファ層の透過率が低下し、p型半導体光吸収層における外光の吸収が阻害されるおそれがある。
【0036】
[表面反射防止層]
図3は、本発明の光起電力素子の他の実施形態示す図である。
図3の光起電力素子100は、透明電極層160上にさらに透明表面反射防止層170を備える他は図2と同様である。表面反射防止層170は、透明電極層160と同様に、高抵抗バッファ層の一部が露出するように形成されている。
【0037】
表面反射防止層は、透明電極層よりも屈折率が小さい層であって、任意に積層される層である。透明電極層よりも屈折率を小さくすることで、効率的な光の入射が得られ且つ層内で閉じ込めるように光を反射させることができ、素子が効率的に光エネルギーを電気エネルギーに変換できる。
尚、表面反射防止層の屈折率は、高抵抗バッファ層及び透明電極層の屈折率により適宜設定できる。
【0038】
表面反射防止層は、例えばMgFからなる層である。
表面反射防止層の厚みは、例えば0.01μm以上1μm以下であり、好ましくは0.1μm以上1μm以下である。表面反射防止層の厚みが0.01μm未満の場合、表面反射防止層の反射防止効果が低減し、光吸収層への外光からの光が阻害され、光吸収層の光吸収が低下するおそれがある。一方、表面反射防止層1μmより厚くなると、透過率が低下し、光吸収層130への外光からの光が阻害され、光吸収層130の光吸収が低下するおそれがある。このことにより、表面透明電極層170の厚さ寸法は、0.01μm以上1μm以下、好ましくは0.1μm以上1μm以下に設定される。
【0039】
[光起電力素子の製造方法]
本発明の光起電力素子は、下記の方法により製造することができる。
例えば図3の構成を有する本発明の光起電力素子は、ガラス基板上に裏面電極層を形成する工程、裏面電極層上に光吸収層を形成する工程、光吸収層上にn型バッファ層を形成する工程、n型バッファ層上に高抵抗バッファ層を形成する工程、第1のスクライビング工程、高抵抗バッファ層上に裏面電極層と接する透明電極層を形成する工程、透明電極層上に表面反射防止層を形成する工程、及び第2のスクライビング工程と、を順次実施することにより製造することができる。
【0040】
本発明の光起電力素子の製造方法では、透明電極層である酸化物薄膜を、In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含み、下記原子比(1)及び(2)を満たす焼結体からなるスパッタリングターゲットを用い、酸素分圧が3×10−2Pa以下であるアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガス中、並びに/又は基板温度を200℃以下として成膜する。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
カルコパイライト構造を有する化合物からなるp型半導体光吸収層、InS、ZnS、CdS、ZnO等で形成されるn型バッファ層、及び透明電極層をこの順に有する光起電力素子において、透明電極層をスパッタリング法により形成する際に、成膜ガスとして酸素を導入すると、光吸収層にダメージを与え、素子の発電効率に悪影響を与えるおそれがある。これは、酸素ガスの導入とスパッタ中のプラズマによる基板加熱硬化で、酸素中でアニールしたことと同様の状況となり、酸素がバッファ層の粒界や欠陥等を通じて光吸収層まで拡散し、S及び/又はSeを置換するためである。
本発明の製造方法では、酸素分圧及び/又は基板温度を特定の範囲とすることで、素子の性能劣化を防止することができる。
【0041】
裏面電極層は、例えばMo(モリブデン)等の電極材料を、蒸着法、CVD法、スプレー法、スピンオン法、ディップ法、DCスパッタ等の各種成膜方法により、ガラス基板上に成膜する。成膜後、裏面電極層の平面領域が所定の広さとなるように、レーザー光照射、メカニカルスクライビング、エッチング処理等により絶縁距離の幅を有する分割溝を形成して並列状に裏面電極層を分割する。
【0042】
p型半導体光吸収層は、例えばカルコパイライト構造の組成となるようにCu、In、Ga及びSe(CIGS系)をスパッタリング、分子線エピタキシー装置を用いた多元蒸着法を含む蒸着等により成膜する。また、光吸収層はCu−In−Gaをアニーリングにてセレン化する等によっても成膜できる。
尚、p型半導体光吸収層は、後述するメカニカルスクライビング等により、裏面電極層が露出するように分割される。
【0043】
n型バッファ層は、例えばCdS又はInSをCBD(Chemical Bath Deposition)等により溶液成長させることで成膜できる。
尚、n型半導体バッファ層は、後述するメカニカルスクライビング等により、裏面電極層が露出するように分割される。
【0044】
高抵抗バッファ層は、好ましくは酸化亜鉛(ZnO)等の材料を、アルゴン(Ar)と酸素(O)を含む混合ガスを用いたスパッタ製膜(特に直流スパッタリング)において、酸素分圧pOを1×10−2Pa以上0.2Pa以下とする、及び/又は基板温度を100℃以上200℃以下として、DCスパッタや蒸着等により成膜して、結晶質膜とする。
酸素分圧pOが1×10−2Pa未満の場合、低抵抗膜が形成されるおそれがある。一方、酸素分圧pOが0.2Pa超の場合、直流スパッタリング成膜法においてプラズマの放電が不安定になり、安定した成膜ができなくなるおそれがある。
基板温度が100℃未満の場合、n型半導体バッファ層の成分(硫黄(S)等)と高抵抗バッファ層との界面反応が進行せず、高抵抗バッファ層が高抵抗化しなくなるおそれがある。一方、基板温度が200℃超の場合、n型のバッファ層の成分(Cd等)が光吸収層中に深く浸透して、光吸収層が劣化するおそれがある。
【0045】
高抵抗バッファ層は、後述するメカニカルスクライビング等により、裏面電極層が露出するように分割される。
高抵抗バッファ層は任意の層であって、当該層の積層を省略してもよい。
【0046】
第1のスクライビング工程により、p型半導体光吸収層、n型バッファ層及び高抵抗バッファ層からなる積層体を貫通する第1の加工溝を設け、裏面電極層の一部を露出させる。
第1の加工溝は、裏面電極層とp型半導体光吸収層が対向する有効面積で起電力を発生させるためのもので、当該第1の加工溝は、例えばメカニカルスクライビング処理により形成できる。当該メカニカルスクライビング処理としては、248nmのエキシマレーザーを用いたレーザー照射方法が挙げられる。
【0047】
透明電極層は、第1の加工溝を充填して裏面電極層と接しているように形成され、In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む焼結体からなるスパッタリングターゲットを用い、酸素分圧が3×10−2Pa以下であるアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガス中、並びに/又は基板温度を200℃以下としてDCスパッタ、蒸着等により成膜する。
上記方法により、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)の表面観察による粒径が0.001μm以下の非晶質層として透明電極層が形成できる。このような透明電極層は、裏面電極層及び高抵抗バッファ層との接合性が良好で、エネルギー障壁を低減できるとともに、素子の耐久性を向上できる。
酸素分圧pOが3×10−2Pa超の場合、透明電極層の抵抗が増加するおそれがある他、酸素による素子へのダメージで光吸収層の性能が低下するおそれがある。また、基板温度が200℃超の場合、n型バッファ層の成分(Cd等)が光吸収層中に深く浸透して、光吸収層が劣化するおそれがあるほか、クラックが生じるおそれがある。
【0048】
酸素分圧が3×10−2Pa以下であるアルゴン(Ar)と酸素(O)からなる混合ガス中、及び/又は基板温度を200℃以下として得られる非晶質膜である投影電極層は、メカニカルスクライビング処理であっても亀裂や欠落等の不都合を生じずに精度良く加工できる。
メカニカルスクライビングのような簡単な加工が実施できることで、生産性が向上するほか、歩留まりを向上でき、製造コストも低減できる。
【0049】
透明電極層の形成に用いる上記ターゲットは、下記原子比(1)及び(2)を満たすターゲットである。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
【0050】
透明電極層は、後述する表面反射防止層が成膜された後に、例えばメカニカルスクライビング等によって、光起電力素子が直列接続できる高抵抗バッファ層の一部が露出するように分割される。
【0051】
表面反射防止層は、例えばスパッタリング法や蒸着法等により成膜できる。
表面防止層の成膜時は、好ましくは基板温度を200℃以下とする。基板温度が200℃超の場合、n型バッファ層の成分(Cd等)が、光吸収層中に深く浸透して、光吸収層が劣化するおそれがある。
【0052】
表面反射防止層は、後述するメカニカルスクライビング等により、高抵抗バッファ層が露出するように分割される。
表面反射防止層は任意の層であって、当該層の積層を省略してもよい。
【0053】
第2のスクライビング工程により、透明電極層及び表面反射防止層からなる積層体を貫通する第2の加工溝を設け、高抵抗バッファ層の一部を露出させる。
第2のスクライビング工程は、直列接続する素子構成とするためのメカニカルスクライビング処理であり、当該スクライビング処理としては、金属針を用いたメカニカルスクライビングが挙げられる。
【0054】
上述の光起電力素子の製造方法では、スクライビング処理等により分割溝と加工溝を形成しているが、例えば印刷、マスク等により予め分割溝及び加工溝が形成されるように各層を積層してもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0056】
実施例1
図3に示す構成を有する光起電力素子を以下の手順で製造した。
[最適酸素量の選定]
縦寸法10cm及び横寸法10cmのソーダライムガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタ装置、びIn:ZnO=70[質量%]:30[質量%]であるスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ圧力0.3Pa、アルゴン(Ar)と酸素(O)との混合ガスを酸素分圧が0.001Pa、0.002Pa、0.003Pa、0.005Paとなるようにそれぞれ調整し、室温で0.1μm膜厚の透明電極薄膜をそれぞれ形成した。
酸素分圧が0.001Pa、0.002Pa、0.003Pa及び0.005Paでそれぞれ成膜した透明電極薄膜の抵抗値を、三菱油化製のロレスタEPを用いて四端針法によって測定した。その結果、抵抗が最も低くなった酸素分圧は0.001Paであった。そこで0.001Paを透明電極層形成の最適酸素分圧と決定した。
【0057】
[素子基板の作製]
縦寸法10cm及び横寸法10cmのソーダライムガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、Mo(モリブデン)を主成分とする裏面電極層を室温で0.1μm膜厚で形成した。裏面電極層上に、CuS、InS、GaS及びSeSを蒸着源に用いて、分子線エピタキシー装置を用いた共蒸着法で350℃でCIGSを主成分とする光吸収層を1μm膜厚で形成した。光吸収層上に、CBD法によりInSを主成分とするバッファ層を100℃で0.1μm膜厚で形成し、素子基板を製造した。
尚、基板上の各層の膜厚は、成膜工程毎に、素子基板と共に膜厚測定用マスクを形成したソーダライムガラスを設置し、各層の製膜後に測定用マスクを除去することで裏面電極層を貫通し、ガラス基板の一部を露出させる分割溝、並びに光吸収層及びバッファ層を貫通し、裏面電極層の一部を露出させる第1の加工溝を形成し、当該溝の深さを触針法(使用機器:Sloan社製DEKTAK3030)により測定することで評価した。
【0058】
[光起電力素子の製造]
得られた素子基板上に、DCマグネトロンスパッタ装置とZnOターゲット(ZnO=100[質量%])を用い、スパッタ圧力を0.5Paとし、酸素分圧が0.2Paになるように調整したアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガスを供給して、室温で高抵抗バッファ層を0.1μm膜厚で形成した。高抵抗バッファ層上に、AlドープドIZOターゲット(主成分がIn2O3:ZnO=70[原子%]:30[原子%]であり、Alを1500原子ppm添加)を用い、スパッタ圧力を0.3Paとし、酸素分圧が0.001Paになるように調整したアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガスを供給して、室温で透明電極層を0.3μmの膜厚で形成した。透明電極層のシート抵抗は14.7Ω/□であった。形成した透明電極層上にMgFを用いてRFマグネトロンスパッタリングにより表面反射防止層を100nmの膜厚で形成した。第1の加工溝と同様にして高抵抗バッファ層の一部を露出させる第2の加工溝を形成し光起電力素子を製造した。
尚、透明電極層のシート抵抗は、透明電極層製膜工程において、素子基板と共に膜厚測定用のソーダライムガラス基板を設置し、透明電極層製膜工程後に、四端針法(使用機器:三菱油化製のロレスタEP)によって測定した。
【0059】
製造した光起電力素子について、以下の方法で光電変換効率を評価した。評価結果を表1に示す。
製造した光起電力素子の透明電極層を正極とし、裏面電極層を負極として、Agペーストを用いたスクリーン印刷法により、透明電極層及び裏面電極層上に30μm□で膜厚0.5μmである取出し電極をそれぞれ形成し、当該素子に光を照射して、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Isc)、曲線因子(FF)/標準入射パワー(Pin)をそれぞれ評価することで光電変換効率を算出した。また、製造した光起電力素子をソーラーシュミレーターを用いて1SUNの条件で2000時間暴露し、暴露後の光起電力素子について上記と同様にして光電変換効率を算出した。
尚、光源にはキセノンランプからの光を特定の光学フィルターで調整した光(ソーラーシミュレーション)を使用した。
【0060】
実施例2〜35及び比較例1〜20
透明電極層のドーパント、高抵抗バッファ層及び透明電極層の成膜に用いたターゲット、高抵抗バッファ層及び透明電極層の成膜条件、並びに透明電極層成膜時の酸素量を表1の条件とした他は、実施例1と同様にして光起電力素子を製造して評価した。
実施例2〜35及び比較例1〜20の結果を、それぞれ表1〜3に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の光起電力素子は、光電変換機能、光整流機能等を利用した種々の光電変換デバイスへの応用が可能であり、例えば太陽電池等の光電池;光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタ等の電子素子;及び光メモリ等光記録材に有用である。
【符号の説明】
【0065】
100 光起電力素子
110 ガラス基板
120 裏面電極層
121 分割溝
130 p型半導体光吸収層
131 第1の加工溝
140 n型バッファ層
150 高抵抗バッファ層
160 透明電極層
170 表面反射防止層
171 第2の加工溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板、
裏面電極層、
カルコパイライト構造を有する化合物からなるp型半導体光吸収層、
前記p型半導体光吸収層とpn接合を形成可能な透明n型バッファ層、及び
In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む酸化物薄膜であって、下記原子比(1)及び(2)を満たす酸化物薄膜である透明電極層をこの順に備え、
前記p型半導体光吸収層及び透明n型バッファ層を貫通し、前記裏面電極層の一部を露出させる溝を有し、前記透明電極層が前記溝を充填して裏面電極層と接する光起電力素子。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
【請求項2】
前記透明n型バッファ層及び前記透明電極層の間に、前記p型半導体光吸収層に対してn型であり、前記透明n型バッファ層より高い抵抗を有する透明高抵抗バッファ層を備える請求項1に記載の光起電力素子。
【請求項3】
前記透明電極層上に、前記透明電極層よりも屈折率の小さい透明表面反射防止層を備える請求項1又は2に記載の光起電力素子。
【請求項4】
In及びZnO、並びにAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含み、下記原子比(1)及び(2)を満たす焼結体からなるスパッタリングターゲットを用い、
酸素分圧が3×10−2Pa以下であるアルゴン(Ar)及び酸素(O)からなる混合ガス中、並びに/又は基板温度を200℃以下として酸化物薄膜を成膜する請求項1〜3のいずれかに記載の光起電力素子の製造方法。
In/(In+Zn)=0.5〜0.9 (1)
X/(In+Zn+X)=0.0015〜0.03 (2)
(式中、XはAl、Ga、B、Zr、Hf及びTiの合計の原子数である。)
【請求項5】
請求項4に記載の光起電力素子の製造方法により得られる光起電力素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−204617(P2012−204617A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67958(P2011−67958)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】