説明

光輝性顔料水性媒体分散液および光輝性塗料

【課題】 粒子感が全くなく、かつ非常に優れたシルキー感を呈する光輝性顔料及びそれを用いた光輝性塗料を得る。
【解決手段】 光輝性顔料の水性媒体分散液であって、光輝性顔料が、層状チタン酸塩を酸で処理し、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離した薄片状チタン酸であり、かつその薄片状チタン酸の平均長径が5〜30μmであり、平均厚さが0.5〜300nmであることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝性顔料水性媒体分散液およびそれを用いた光輝性塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然マイカ、合成マイカ、鱗片状アルミナ等の鱗片状材料の表面に、酸化チタン層を設けた光輝性顔料が多くの分野で使用されている。これらの従来の光輝性顔料は光輝感が強く、かつ粒子感(キラキラとした光沢感)を有するものであり、パール光沢を付与する顔料として用いられている。
【0003】
しかしながら、さらに高級感を有する意匠として、シルクのような深みのある落ち着いた緻密な輝きを示す意匠が求められている。このようなシルキー感を付与することができる光輝性顔料として、特許文献1においては、所定形状の合成フッ素金雲母粒子の上に二酸化チタンなどの金属酸化物を被覆したシルキー光沢顔料が提案されている。
【0004】
特許文献2〜4は、後述するように、層状チタン酸塩の製造方法を開示している。また、特許文献5及び6は、後述するように、薄片状チタン酸懸濁液の製造方法を開示している。
【特許文献1】特開2000−281932号
【特許文献2】特許第2979132号公報
【特許文献3】国際公開公報WO99/11574号公報
【特許文献4】特許第3062497号公報
【特許文献5】特許第2671949号公報
【特許文献6】国際公開公報WO03/037797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に提案されたシルキー光沢顔料は、マイカを基材として用い、その表面に酸化チタン層を設けたものであるため、粒子感が強く、高級感がある意匠として従来より求められている良好なシルキー感を呈するものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、粒子感が全くなく、かつ非常に優れたシルキー感を呈する光輝性顔料および光輝性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光輝性顔料水性媒体分散液は、光輝性顔料の水性媒体分散液であり、光輝性顔料が、層状チタン酸塩を酸で処理し、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した薄片状チタン酸であり、かつその薄片状チタン酸の平均長径が5〜30μmであり、平均厚さが0.5〜300nmであることを特徴としている。
【0008】
本発明における光輝性顔料は、層状チタン酸塩を酸で処理し、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した薄片状チタン酸であり、このような光輝性顔料を用いることにより、従来のマイカや鱗片状アルミナ等の光輝性顔料では得ることができないシルキー感を呈する塗膜意匠を形成することができる。
【0009】
シルキー感を呈する塗膜意匠を発現させるためには、薄片状チタン酸が樹脂塗膜中で均一にかつ平行に分散して配向している必要があるが、本発明の光輝性顔料は水系分散液中に分散させたものであるので、従来の粉体顔料に比べ、平均厚みが非常に薄いにもかかわらず、凝集や分散不良等が生じることなく樹脂塗膜中に均一にかつ平行に分散させることができる。また、顔料表面が極めて平滑であるため、顔料表面での光の散乱も非常に少ない。
【0010】
本発明における薄片状チタン酸の平均長径は、5〜30μmの範囲内である。平均長径は、薄片の厚さに垂直な面方向における粒径を意味している。平均長径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)などによる観察によって測定することこができる。塗膜中に薄片状チタン酸を配合し、塗膜断面をTEM観察することにより測定することもできる。通常は、100個程度を測定し、平均値として算出する。平均長径が5μm以下ではシルキー感が損なわれ、30μm以上では塗膜中で均一にかつ平行に分散させることが困難となる。
【0011】
また、本発明における薄片状チタン酸の平均厚さは、0.5〜300nmであり、好ましくは、0.5〜100nmである。平均厚さがこれらの範囲よりも薄いものは一般に製造することが困難であり、平均厚さがこられの範囲よりも大きいものを用いると、粒子感が目立ちシルキー感が損なわれる。
【0012】
薄片状チタン酸の平均厚さも、上記の平均長径と同様に、電子顕微鏡観察などにより測定することができる。
【0013】
本発明における薄片状チタン酸は、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換して得られる薄片状チタン酸であってもよい。有機塩基性化合物は一般的に耐光性が不十分なために塗膜の着色につながることが懸念されるが、このようにセシウムイオンで置換した薄片状チタン酸を用いることにより、その問題が回避される。有機塩基性化合物をセシウムイオンに置換するには、薄片状チタン酸の水系分散液に水溶性のセシウム塩を添加し、1時間程度攪拌すれば良い。水溶性のセシウム塩としては、例えば、炭酸セシウム、塩化セシウム、硝酸セシウム、酢酸セシウム、硫酸セシウム、フッ化セシウム、水酸化セシウムなどを用いることができ、最も好ましいのは炭酸セシウムである。セシウム塩の添加量は、後述する層状チタン酸塩のイオン交換容量の0.1〜1.0当量が好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.5当量とするのがよい。0.1当量未満では有機塩基性化合物のセシウムイオンへの置換量が不十分となり、1.0当量を超えると更なる効果が見られず不経済となる場合がある。また、過剰のセシウム塩および脱離した有機塩基性化合物は、処理後に遠心洗浄等により除去することが望ましい。
【0014】
また、本発明における薄片状チタン酸は、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で金属アルコキシドにより処理したものであってもよい。処理の対象となる薄片状チタン酸は、セシウムイオン置換後の薄片状チタン酸であってもよい。金属アルコキシドで処理することにより、金属アルコキシドの加水分解および重縮合反応によって生成する金属酸化物あるいは金属水酸化物が薄片状チタン酸の表面を取り囲み、塗膜樹脂の劣化を抑制すると考えられる。金属アルコキシド処理に用いることができる金属アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等のテトラアルコキシジルコニウム類、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のトリアルコキシアルミニウム類などが挙げられる。金属アルコキシドの処理方法としては、薄片状チタン酸の水系分散液に金属アルコキシドを添加し、1〜24時間、好ましくは6〜12時間攪拌すればよい。処理効率を上げるために40〜80℃、好ましくは50〜60℃に加温してもよい。金属アルコキシドの添加量は、薄片状チタン酸の10〜200重量%が好ましく、さらに好ましくは50〜100重量%とするのがよい。10重量%未満では効果が不十分となり、200重量%を超えると更なる効果が見られず不経済となる場合がある。また、過剰の金属アルコキシドは、処理後に遠心洗浄等により除去することが望ましい。
【0015】
また、本発明の薄片状チタン酸は、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で平均粒径1〜100nmのコロイダルシリカにより処理したものであっでもよい。処理の対象となる薄片状チタン酸は、セシウムイオン置換後の薄片状チタン酸であってもよい。コロイダルシリカにより処理することにより、コロイダルシリカが薄片状チタン酸の表面を取り囲み、塗膜樹脂の劣化を抑制すると考えられる。コロイダルシリカ処理に用いるコロイダルシリカとしては、無定型粒子状シリカを水中に固形分として約10〜50%分散させたものであり、平均粒径1〜100nmの範囲であることが好ましい。平均粒径1nm未満のものは一般に製造するのが困難であり、100nmを超えると塗膜意匠の低下を招く恐れがある。このようなコロイダルシリカとしては市販のものを使用することができ、例えば、日産化学工業社製のスノーテックスS、スノーテックス20、スノーテックスN、スノーテックス50等が挙げられる。コロイダルシリカの処理方法としては、薄片状チタン酸の水系分散液にコロイダルシリカを添加し、1〜12時間、好ましくは3〜6時間攪拌すればよい。処理効率を上げるために40〜80℃、好ましくは50〜60℃に加温してもよい。コロイダルシリカの添加量は、薄片状チタン酸の10〜200重量%が好ましく、さらに好ましくは50〜100重量%とするのがよい。10重量%未満では効果が不十分となり、200重量%を超えると更なる効果が見られず不経済となる。また、過剰のコロイダルシリカは、処理後に遠心洗浄等により除去することが望ましい。
【0016】
本発明における薄片状チタン酸は、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中でシランカップリング剤により処理したものであってもよい。処理対象は、上記のセシウムイオン置換後の薄片状チタン酸であってもよい。シランカップリング剤により処理することにより、塗膜密着性が改善する。シランカップリング剤としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリエトキシフルオロシラン、3−(トリエトキシシリル)−2−メチルプロピルコハク酸無水物、2−(4−クロロスルフォニルフェニル)エチルトリエトキシシラン等を使用することができる。シランカップリング剤処理は、薄片状チタン酸の水系分散液にシランカップリング剤をノニオン系界面活性剤に分散させた液を添加し、10分〜5時間、好ましくは1〜2時間攪拌すればよい。処理効率を上げるために40〜80℃、好ましくは40〜60℃に加温してもよい。シランカップリング剤の添加量は、薄片状チタン酸の10〜200重量%が好ましく、さらに好ましくは50〜100重量%とするのがよい。10重量%未満では効果が不十分となり、200重量%を超えると更なる効果が見られず不経済となる。シランカップリング剤を分散させるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミド等が挙げられる。
【0017】
本発明の光輝性塗料は、上記本発明の光輝性顔料水性媒体分散液と、樹脂エマルション液とを混合することにより得られるものである。本発明の光輝性塗料を用いることにより、粒子感が全くなく、かつ非常に優れたシルキー感を呈する塗膜を形成することができる。光輝性顔料水性媒体分散液と、樹脂エマルション液との混合比は、薄片状チタン酸のPWC換算で5〜50%が好ましく、さらに好ましくは10〜30%である。この範囲をはずれると、目的とする塗膜意匠が発現しない場合がある。
【0018】
本発明の光輝性塗料には、意匠を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、表面調製剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤等と添加剤を適宜含有することができる。
【0019】
本発明の光輝性顔料水性媒体分散液は、薄片状チタン酸を水性媒体に分散させた分散液である。このような薄片状チタン酸分散液について、以下さらに詳細に説明する。
【0020】
<薄片状チタン酸分散液>
本発明において用いる薄片状チタン酸分散液は、例えば、層状チタン酸塩を酸または温水で処理して層状チタン酸を得た後、層間膨潤作用を有する有機塩基性化合物を作用させて、層間を膨潤または剥離することにより得ることができる。このような方法は、例えば、特許文献5に記載されている。
【0021】
<層状チタン酸塩>
原料となる層状チタン酸塩は、例えば、特許文献2に開示の方法に従い、炭酸セシウムと二酸化チタンをモル比1:5.3で混合し、800℃で焼成することによりCs0.7Ti1.834が得られる。また、特許文献3に開示の方法に従い、炭酸カリウムと炭酸リチウムと二酸化チタンをK/Li/Ti=3/1/6.5(モル比)で混合して摩砕し、800℃で焼成することによりK0.80.27Ti1.734が得られる。更に、特許文献4に開示の方法に従い、アルカリ金属またはアルカリ金属のハロゲン化物もしくは硫酸塩をフラックスとし、フラックス/原料の重量比が0.1〜2.0となるように混合した混合物を700〜1200℃で焼成することにより、一般式AXYZTi2-(Y+Z)4[式中、A及びMは互いに異なる1〜3価の金属を示し、□はTiの欠陥部位を示す。Xは0<X<1.0を満たす正の実数であり、Y及びZは0<Y+Z<1を満たす0または正の実数である]で表される層状チタン酸塩を得ることもできる。上記一般式におけるAは、価数1〜3価の金属であり、好ましくは、K、Rb、及びCsから選ばれる少なくとも一種であり、Mは、金属Aとは異なる価数1〜3価の金属であり、好ましくは、Li、Mg、Zn、Cu、Fe、Al、Ga、Mn、及びNiから選ばれる少なくとも一種である。具体的な例としては、K0.800.27Ti1.734、Rb0.75Ti1.75Li0.254、Cs0.70Li0.23Ti1.774、Ce0.700.18Ti1.834、Ce0.70Mg0.35Ti1.654、K0.8Mg0.4Ti1.64、K0.8Ni0.4Ti1.64、K0.8Zn0.4Ti1.64、K0.8Cu0.4Ti1.64、K0.8Fe0.8Ti1.24、K0.8Mn0.8Ti1.24、K0.76Li0.22Mg0.05Ti1.734、K0.67Li0.2l0.07Ti1.734等が挙げられる。また、特許文献6に開示の方法に従い、K0.80.27Ti1.734を酸洗後、焼成して得られるK0.50.70.27Ti1.733.853.95も利用することができる。
【0022】
<層状チタン酸>
層状チタン酸は、例えば、上記層状チタン酸塩を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより得られる。酸処理に使用する酸は、特に限定されるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの鉱酸、あるいは有機酸でも良い。層状チタン酸の種類、酸の種類及び濃度、層状チタン酸のスラリー濃度は、金属カチオンの交換率に影響する。一般に、酸濃度が低く、スラリー濃度が大きいほど、層間金属カチオンの残存量が多くなり、層間剥離しにくくなるため、剥離後の薄片状チタン酸の厚みが大きくなる。
【0023】
金属カチオンが除きにくい場合は、必要に応じて酸処理を繰り返し行ってもよい。
【0024】
<層間膨潤作用のある有機塩基性化合物>
薄片状チタン酸分散液は、上記層状チタン酸に層間膨潤作用のある有機塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離することにより得られる。層間膨潤作用のある有機塩基性化合物としては、例えば、1級〜3級アミン及びそれらの塩、アルカノールアミン及びそれらの塩、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アミノ酸及びそれらの塩等が挙げられる。1級アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等及びこれらの塩が挙げられる。2級アミン類としては、例えば、ジエチルアミン、ジペンチルアミン、ジオクチルアミン、ジベンジルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジ(3−エトキシプロピル)アミン等及びこれらの塩が挙げられる。3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリオクチルアミン、トリ(2−エチルヘキシル)アミン、トリ(3−エトキシプロピル)アミン、ジポリオキシエチレンドデシルアミン等及びこれらの塩が挙げられる。アルカノールアミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等及びこれらの塩が挙げられる。水酸化4級アンモニウム塩類としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。4級アンモニウム塩類としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、トリメチルフェニルアンモニウム塩、ジメチルジステアリルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム塩、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ドデシルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0025】
ホスホニウム塩類としては、例えば、テトラブチルホスホニウム塩、ヘキサデシルトリブチルホスホニウム塩、ドデシルトリブチルホスホニウム塩、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩等の有機ホスホニウム塩等が挙げられる。また、12−アミノドデカン酸、アミノカプロン酸等のアミノ酸類及びこれらの塩や、ポリエチレンイミン等のイミン類及びこれらの塩も使用可能である。
【0026】
そしてこれらの有機塩基性化合物は、目的に応じて、1種類あるいは数種類を混合して用いても良い。特に、疎水性の高い有機塩基性化合物単独では剥離が十分に進まないため、親水性の高い有機塩基性化合物と併用することが好ましい。
【0027】
層間膨潤作用のある有機塩基性化合物を作用させるためには、酸処理または温水処理後の層状チタン酸を水系媒体に分散させた分散液に、撹拌下、有機塩基性化合物または有機塩基性化合物を水系媒体で希釈したものを加えれば良い。あるいは有機塩基性化合物の水系溶液に、撹拌下、該層状チタン酸、またはその分散液を加えても良い。
【0028】
水系媒体または水系溶液とは、水、水に可溶な溶媒、または水と水に可溶な溶媒との混合溶媒、あるいはその溶液を意味する。
【0029】
水に可溶な溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸エチル、プロピレンカーボネート等のエステル類を挙げることができる。
【0030】
有機塩基性化合物の添加量は、層状チタン酸塩のイオン交換容量の0.3〜10当量、好ましくは0.5〜2当量とするのがよい。ここで、イオン交換容量とは、交換可能な金属カチオン量であり、例えば層状チタン酸塩が一般式AXYZTi2-(Y+Z)4で表される場合、Aの価数をm、Mの価数をnとするときのmx+nyで表される値をいう。
【0031】
薄片状チタン酸の平均長径は5〜30μmが好ましく、平均厚みは0.5〜300nmが好ましい。
【0032】
薄片状チタン酸の平均長径は、有機塩基性化合物を作用させて層間剥離を行う行程で強い剪断力での攪拌を行わない限り、原料である層状チタン酸塩の平均長径をほぼ保つ。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、粒子感が全くなく、かつ非常に優れたシルキー感を呈する光輝性顔料及びそれを用いた光輝性塗料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間攪拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.733.9であり、平均長径15μmであった。
【0036】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散攪拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0037】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6Kgに分散して攪拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間攪拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形物は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0038】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、攪拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間攪拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みと共に除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形物は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0039】
(合成例3)
合成例2の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1%に調製し、50℃に加温して攪拌しながらコロイダルシリカ液(日産化学工業(株)製、スノーテックスN、20重量%、平均粒径10〜20nm)10gを脱イオン水で250gに希釈した液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃で5時間攪拌し、10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取することにより、過剰のコロイダルシリカを除去した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形物は、蛍光X線分析によりSiO2の含有量が2.1重量%であった。
【0040】
(合成例4)
合成例2の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1重量%に調製し、攪拌しながら10重量%のテトラエトシキシシラン/エタノール溶液150gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で8時間攪拌し、10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取することにより、過剰のテトラエトシキシシランを除去した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形物は、蛍光X線分析によりSiO2の含有量が4.8重量%であった。
【0041】
(合成例5)
合成例2の薄片状チタン酸分散液200gに、攪拌しながら3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2gをポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル2gに分散させた溶液を添加し、40℃で2時間攪拌した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られなかった。
【0042】
(合成例6)
合成例3の薄片状チタン酸分散液200gに、攪拌しながら3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2gをポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル2gに分散させた溶液を添加し、40℃で2時間攪拌した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られなかった。
【0043】
<光輝性塗料液および光輝性塗膜の調製>
(実施例1)
合成例1で得られた薄片状チタン酸分散液をPWC20%になるように、アクリル/メラミン架橋系エマルジョン塗料と混合し、光輝性塗料液を調製した。白色塗板上に前記光輝性塗料液を乾燥膜厚10μmになるようにフィルムアプリケーターで塗布し、80℃で10分間プレヒートした。その上に、トップコートとして酸アクリル/エポキシ架橋系クリア塗料を乾燥膜厚35μmになるように塗布し、140℃で25分間焼き付けを行い、光輝性塗膜を調製した。塗膜断面のTEM観察により、平均厚み50nmかつ平均長径15μmの薄片状チタン酸が、非常に密な状態で樹脂塗膜中に均一かつ平行に分散配向していることが確認された。
【0044】
(実施例2〜6)
合成例2〜6の薄片状チタン酸分散液を用いて、実施例1と同様の方法で光輝性塗膜を調製した。いずれの塗膜断面のTEM観察においても、実施例1と同様の状態で薄片状チタン酸が分散配向していることが確認された。
【0045】
(比較例1)
光輝性顔料として、従来のパール顔料であるチタニア被覆マイカ(商品名「イリオジン120」、メルク社製)をPWC10%として用い、実施例1と同様の方法で光輝性塗膜を調製した。
【0046】
(比較例2)
光輝性顔料として、従来のパール顔料であるチタニア被覆アルミナ(商品名「シラリック」、メルク社製)をPWC10%として用い、実施例1と同様の方法で光輝性塗膜を調製した。
【0047】
(比較例3)
焼成温度を1020℃から820℃に変更する以外は、合成例1と同様の方法で濃度5.0%の薄片状チタン酸分散液を合成した。この際、得られた層状チタン酸塩の平均長径は3μmであった。更に同方法で続けて実施例1と同様の方法で、光輝性塗膜を調製した。塗膜断面のTEM観察により、平均厚み50nmかつ平均長径3μmの薄片状チタン酸が、非常に密な状態で樹脂塗膜中に均一かつ平行に分散配向していることが確認された。
【0048】
(比較例4)
ジメチルエタノールアミン量を10.4gに変更する以外は、合成例1と同様の方法で濃度5.0%の薄片状チタン酸分散液を合成した。この際、得られた薄片状チタン酸分散液は1日静置後に固形分の沈降が見られた。続けて実施例1と同様の方法で、光輝性塗膜を調製した。塗膜断面のTEM観察により、平均厚み600nmかつ平均長径15μmの薄片状チタン酸が、非常に密な状態で樹脂塗膜中に均一かつ平行に分散配向していることが確認された。
【0049】
<塗膜の評価>
実施例1〜6、および比較例1、2の光輝性塗膜について、意匠性(粒子感およびシルキー感)、付着性および耐候性を下記試験方法で評価した。
【0050】
[粒子感]
光輝感測定(15°)における白黒3500階調で評価した。
【0051】
[シルキー感]
塗膜のシルキー感を以下の評価基準により評価した。
【0052】
〇:シルキー感良好
△:シルキー劣る(現行マイカ塗装並み)
×:シルキー無し
[付着性]
塗膜塗板のクロスカット(2mm角、100マス目)によるテープ剥離試験を行い、付着性を評価した。
【0053】
[耐候性]
塗膜塗板をデューサイクルサンシャインウェザーメーターWEL−SUN−DC(スガ試験機株式会社製、ブラックパネル温度60℃、120分毎に18分間降雨)で1000時間の促進耐候性試験を行い、初期からの色差変化量(△E)および60°グロス変化量(△G)にて耐候性を評価した。
【0054】
<塗膜の評価結果>
【0055】
【表1】

【0056】
塗膜評価結果から分かるように、実施例1〜6は比較例に比べ、粒子感が全く無く、シルキー感にも勝っており、非常に意匠性に優れている。また密着性や耐候性も実施例5および6では改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝性顔料の水性媒体分散液であって、光輝性顔料が、層状チタン酸塩を酸で処理し、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した薄片状チタン酸であり、かつその薄片状チタン酸の平均長径が5〜30μmであり、平均厚さが0.5〜300nmであることを特徴とする光輝性顔料水性媒体分散液。
【請求項2】
薄片状チタン酸が、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換して得られる薄片状チタン酸であることを特徴とする請求項1に記載の光輝性顔料水性媒体分散液。
【請求項3】
薄片状チタン酸が、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で金属アルコキシドにより処理して得られる薄片状チタン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の光輝性顔料水性媒体分散液。
【請求項4】
薄片状チタン酸が、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中で平均粒径1〜100nmのコロイダルシリカにより処理して得られる薄片状チタン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光輝性顔料水性媒体分散液。
【請求項5】
薄片状チタン酸が、有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した後、水性媒体中でシランカップリング剤により処理して得られる薄片状チタン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光輝性顔料水性媒体分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光輝性顔料水性媒体分散液と樹脂エマルション液とを混合することにより得られることを特徴とする光輝性塗料。


【公開番号】特開2006−257179(P2006−257179A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74314(P2005−74314)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】