説明

光造形による造形方法

【課題】造形物の底部のベースプレートからの剥離を防止し、かつ造形物表面の巣を減少させ、造形物表面の品質を向上させ、さらに各領域間の繋がりが強化する。
【解決手段】光造形による造形方法において、ベースプレート2上に造形される造形物3の表面となるスキン10は最も低速でレーザ照射を行い、その内部を内側から外側に向かってコア9a、コア9b、コア9cの複数領域に分割し、これらに対するレーザ照射速度をスキン10へのレーザ照射速度より速い速度でかつコア9c、コア9b、コア9aの順に段階的に速くなる速度とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末体にレーザを照射してこれを焼結して造形物を製造する光造形装置で造形物を製造する造形物の造形方法に関するものである。
【0002】
本発明は、粉末体にレーザを照射してこれを焼結して造形物を製造する光造形装置で造形物を製造する際に必要な三次元モデルを用いる造形物の造形方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
金型等を製作する技術として、金属粉末にレーザを照射することでこれを焼結して造形物を製作する造形装置を用いる技術がある。
【0004】
図9は造形装置の一例を示す説明図である。
この造形装置では、造形するモデルの三次元データを基に積層厚毎の断面のスライスデータを作成し、まず、昇降可能な造形側のプラットホーム1にスチールプレートを金属粉末で被覆したベースプレート2を乗せて、これを造形物3の土台とし、このベースプレート2上に一層分の厚みで金属粉末4を供給側のプラットホーム5上からリコータ6により供給し、前記作成したスライスデータでレーザ7を金属粉末4に照射することで金属粉末4を焼結させ、第1層の金属粉末層をスライスデータで特定される形状に硬化させるとともに、第1層とベースプレート2を結合する。次に、プラットホーム1を降下させ、1層分の厚みで新たに金属粉末4を供給し、前記作成したスライスデータでレーザ7を金属粉末層に照射することで金属粉末を焼結し、第2の層の金属粉末層をスライスデータで特定される形状に硬化させるとともに、第1層と第2層を結合する。この処理を繰り返して造形物3を製作する。
【0005】
この装置では、レーザの照射速度を低くすると、金属粉末が強く焼結することで造形物の密度が高くなり、レーザの照射速度を上げると、金属粉末の焼結が弱くなり、造形物の密度が低くなるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、レーザによる金属粉末の焼結で成形金型の入れ駒を作成する場合、造形時のレーザ照射により造形物表面で発生した熱が冷えることで生じる収縮による内部応力で、第1層以降の層にベースプレートに対して剥離方向の力が発生し、造形物のコーナ部分がベースプレートと剥離し、反りが発生してしまうことがあった。
図10は剥離発生の原理を示す説明図で、まず、造形時のレーザ照射で造形物3表面には熱が発生する。そして、この熱が冷えることで生じる収縮により、造形物全体を曲げようとする力が発生する、これにより、ベースプレート2に対して剥離方向の力が発生し、造形物3のコーナ部分がベースプレート2と剥離してしまうものである。
【0007】
この傾向は、金型形状のように造形物の厚さが厚くなるほど剥離荷重が大きくなるため、顕著である。造形物を金型として使う場合、ベースプレートは入れ駒の一部として利用するため、剥離が発生すると、必要な強度が得られず、ベースプレートとの密着性も悪くなり、最終的に全面が剥がれてしまう可能性があるということ、さらに、反りによる変形で寸法精度が悪くなることから、剥離が発生した場合、再造形が必要であった。
【0008】
また、金型は、表面に巣があると、その巣が成形品の表面に転写され、成形品の表面品質が悪くなるとともに、金型表面の強度も落ちる。このため、金型の表面は密度が高くなるようにしなければならない。そこで、金型を造形する際、表面を造形する際には、レーザの照射速度を低く、内部を造形する際にはレーザの照射速度を高くして、表面は密度が高く、内部は密度の粗い金型を作成することとして、造形時間が長くならないようにしている。
【0009】
しかしながら、このような2重構造となるように造形すると、表面と内部で密度差が大きくなり、造形途中で応力による割れが発生することがある。また、内部の造形時は、造形時間を短縮するため、2層に1回ずつ照射するという技術も考えられているが、2層に1回ずつの照射では上下の繋がりが弱くなり、表面に割れが発生した場合、焼結金属は収縮する特性があるので繋がりが弱い部分で剥がれて引き裂かれることもある。
【0010】
また、金型を2重構造とした場合、密度の高い底面側では強い収縮が発生するため、やはりコーナ部分がベースプレートから剥離しやすいものであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、請求項1の発明は、ベースプレート上に粉末体を供給し、この粉末体にレーザを照射して該粉末体を焼結してベースプレートと結合し、以降、順次粉末体の供給と焼結を行って造形物を製作する造形装置を用いた光造形による造形方法において、造形物の表面から内側の所定領域は最も低速でレーザ照射を行い、その内部を内側から外側に向かって複数領域に分割し、その各領域に対してレーザ照射速度を外側から内側に向けて段階的に速くすることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、上面から見ると格子状で、かつ、前記ベースプレートと前記所定領域に囲まれた内部領域を貫通する柱を、前記表面領域と同じ速度のレーザ照射で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述した請求項1の本発明は、造形物の底部を造形物の表面から内側の所定領域の次に遅い速度でレーザ照射を行って造形するようにしているため、強度は保ちつつ収縮を抑えることができ、底部が収縮する際の造形物のコーナ部をひっぱり上げる力が緩和されるので、ベースプレートからの剥離を防止できるという効果が得られる。
また、造形物の一番内側から前記所定の領域に向かって段階的にレーザの照射速度を遅くし、密度を上げていくため、各領域間で密度差が極端に大きくなることがなく、応力の影響による造形物の割れを防止できる。これにより造形物の表面から内側の所定領域の密度をより高くすることが可能となり、表面の巣を減少させ、成形品表面の品質を向上させることが可能になるという効果が得られる。
【0014】
さらに、各領域にレーザを照射することで各領域間の繋がりが強化される。
また、請求項2の発明によれば、密度の高い格子状の柱を造形することから、上下方向の繋がりはより強化されて、内部での剥離がなくなるとともに、上下方向の圧力に対する強度も増加するという効果が得られる。
【発明の実施の形態】
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態を示す三次元モデル構造の一例を示す斜視図、図2は本実施の形態の光造形の流れを示すフローチャート、図3は第1の実施の形態における造形物の一例を示す説明図であり、図2のフローの流れに従い、図1に示す三次元モデル、図3に示す造形物の説明を行う。
まず、造形物の三次元モデルを作成する(SA1)。次に、この三次元モデルに、ベースプレートとの剥離防止サポート形状を追加する(SA2)。第1の実施の形態において、造形物は、図3に示すように、ベースプレート2と造形物3の境界に、テーパ状の剥離防止サポート形状8が設けられるものであり、造形時に、ベースプレート2と造形物3の境界に、この剥離防止サポート形状8が造形されるように、図1に示すように、造形物3の三次元モデル3aに剥離防止サポート形状8を追加する。この剥離防止サポート形状8は、最外形部から徐々に厚みが厚くなる形状が望ましく、また、造形物3の形状が長方形の場合、各コーナに剥離防止サポート形状8が形成されるようにする。なお、造形物3自体の設計段階では、剥離防止サポート形状を考慮することはなく、三次元モデル3a作成時に、造形物3の形状、サイズに応じて剥離防止サポート形状8を付加するものである。
【0016】
次に、剥離防止サポート形状8を追加した三次元モデル3aから、スライスデータを作成する(SA3)。
スライスデータを作成すると、レーザの照射速度等、造形条件を設定する(SA4)。そして、上記作成したデータを用いて、造形装置で造形を行う(SA5)。
これにより、図3に示すような剥離防止サポート形状8が設けられた造形物3が製作される。
【0017】
図4は剥離荷重の分布を示す説明図で、図4(a)は剥離防止サポート形状がある場合の剥離荷重の分布を示し、図4(b)は比較のため剥離防止サポート形状のない従来の場合の剥離荷重の分布を示す。
剥離防止サポート形状8を設ける場合、図4(a)に示すように、造形開始時は、剥離防止サポート形状8の最外形部は十分に薄いため、剥離荷重は小さくベースプレート2と十分に固着している。積層が進むと、剥離荷重は剥離防止サポート形状8の厚みの増加に従って徐々に大きくなって行くが、剥離防止サポート形状8の最外形部が十分に固着しているため、剥離することはない。積層がさらに進み剥離防止サポート形状8のない部分となると、造形物3は剥離防止サポート形状8と一体で造形しているため、充分ベースプレート2に固着している剥離防止サポート形状8に支えられて、剥離荷重は弱められる。
【0018】
剥離防止サポート形状8がない場合、図4(b)に示すように、積層が進むと、造形物3の表面に行くに従い剥離荷重が大きくなり、造形物3がベースプレート2から剥離しやすくなる。特に、コーナ部は剥離荷重がより大きくなるので、より剥離しやすくなる。そこで、図3に示すように、各コーナに剥離防止サポート形状8が形成されるようにすれば、剥離を防止することが可能となる。
【0019】
図5は本発明の第2の実施の形態における造形物の一例を示す説明図で、図5(a)は平面断面図、図5(b)は側断面図である。図6は造形物の外観斜視図で、第2の実施の形態の造形物3の外観は、その一例として、表面に直方体の窪みがあり、さらにこの窪みから2本の穴3bが設けられているもので、図5(a)は図6の造形物3をA線で切断した平面断面図、図5(b)は図6の造形物3をB線で切断した平面断面図である。この第2の実施の形態では、図2に示すフローSA4の造形条件の設定において、レーザの照射速度を内側から外側に向かって段階的に遅くする設定と、造形物内部に格子状の柱を同時に造形する設定とを付加する。なお。第2の実施の形態では、剥離防止サポート形状は付加しなくてもよい。
【0020】
第2の実施の形態では、造形物3の内部を、内側から外側に向かってコア9a、コア9b、コア9cと複数領域に分割し、コア9cの外側に造形物3の表面となるスキン10を造形するものである。さらに、柱11を、上面から見ると格子状に、かつ、ベースプレート2からスキン10の間を貫通して入れるものである。
図7および図8はレーザ速度別照射領域を示す説明図で、以下に第2の実施の形態における造形条件設定の詳細を説明する。なお、図7は図5に示す造形物の各領域の平面断面図、図8は図5に示す造形物の各領域の側断面図である。
【0021】
まず、図7(a)、図8(a)に示すスキン10の領域を指定し、底部の領域指定を削除したスキン10用造形データを作成する。次に、スキン10より内側部分に図7(b)、図8(b)に示すコア9cの領域指定と、毎層レーザを照射する指定を行い、底部の領域をスキン10から削除した分下方へ延長したコア9c用造形データを作成する。次に、コア9cより内側部分に図7(c)、図8(c)に示すコア9bの領域指定と、毎層レーザを照射する指定を行い、コア9b用造形データを作成する。次に、コア9bより内側部分に図7(d)、図8(d)に示すコア9aの領域指定と、毎層レーザを照射する指定を行い、コア4a用造形データを作成する。
【0022】
そして、スキン10用造形データに最も遅いレーザ照射速度を設定し、コア9c、9b、9aの順にスキン10よりも速いレーザ照射速度を設定する。
なお、図7、図8では図示していないが、図5に示す格子状の柱11の部分も、スキン10と同じ最も遅いレーザ照射速度で造形する設定を行う。この設定で造形物を製作すると、図5に示す造形物が得られる。
【0023】
図5に示す造形物では、コア9aからスキン10に向かって段階的にレーザの照射速度を遅くし、密度を上げていくため、各領域間で密度差が極端に大きくなることがなく、応力の影響による造形物の割れを防止できる。これにより、スキン10の密度をより高くすることが可能となり、表面の巣を減少させ、成形品表面の品質を向上させることが可能となる。
【0024】
また、造形物3の底部をコア9cの条件で造形することで、強度は保ちつつ収縮を抑え、底部が収縮する際の造形物3のコーナ部をひっぱり上げる力が緩和され、ベースプレート2からの剥離を防止できる。
さらに、コア9a〜9cは毎層レーザを照射することで上下の層間での繋がりが強化され、さらに、密度の高い格子状の柱11を上下に入れることから、上下方向の繋がりはより強化されて、内部での剥離がなくなるとともに、上下方向の圧力に対する強度も増加する。
【0025】
なお、第2の実施の形態では、造形物3は4重構造としたが、これに限るものではなく、造形物の大きさ等を考慮して変更されるものである。上述した本発明は、金属粉末を焼結して造形物を製造するものとして説明したが、他の樹脂を硬化させて造形する光造形技術にも応用可能である。
以上説明したように、本発明は、光造形による造形物構造で、造形物とベースプレートの境界にテーパ状の剥離防止サポート形状を一体に造形することとしたので、境界面における剥離荷重の発生を抑え、ベースプレートとの剥離や造形物の反りを抑えることができる。
【0026】
また、本発明は、造形物を内側から外側に向かって複数領域に分割し、内側から外側に向かって段階的に密度が高くなるように一体に造形するとともに、最下層から表面まで密度の高い格子状の柱を一体に造形することとしたので、内部応力の発生を抑えつつ表面の高密度化が図れるとともに、成形圧力による変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す三次元モデル構造の一例を示す斜視図
【図2】本実施の形態の光造形の流れを示すフローチャート
【図3】第1の実施の形態における造形物の一例を示す説明図
【図4】剥離荷重の分布を示す説明図
【図5】本発明の第2の実施の形態における造形物の一例を示す説明図
【図6】造形物の外観斜視図
【図7】レーザ速度別照射領域を示す説明図
【図8】レーザ速度別照射領域を示す説明図
【図9】造形装置の一例を示す説明図
【図10】剥離発生の原理を示す説明図
【符号の説明】
【0028】
2 ベースプレート
3 造形物
3a 造形物の三次元モデル
8 剥離防止サポート形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレート上に粉末体を供給し、この粉末体にレーザを照射して該粉末体を焼結してベースプレートと結合し、以降、順次粉末体の供給と焼結を行って造形物を製作する造形装置を用いた光造形による造形方法において、
造形物の表面から内側の所定領域は最も低速でレーザ照射を行い、その内部を内側から外側に向かって複数領域に分割し、その各領域に対してレーザ照射速度を外側から内側に向けて段階的に速くすることを特徴とする光造形による造形方法
【請求項2】
請求項1記載の光造形による造形方法において、
上面から見ると格子状で、かつ、前記ベースプレートと前記所定領域に囲まれた内部領域を貫通する柱を、前記表面領域と同じ速度のレーザ照射で形成することを特徴とする光造形による造形方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−1916(P2009−1916A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260109(P2008−260109)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【分割の表示】特願2000−67991(P2000−67991)の分割
【原出願日】平成12年3月13日(2000.3.13)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】